No.132332

真・恋姫†無双 〜白馬将軍 龐徳伝〜 プロローグ 5話

フィオロさん

白馬将軍龐徳伝のプロローグ5話目です。

何となく予想がつくかと思いますが、鷹が動きます。

彼が「この地」に生まれ落ちて間もない頃に願った夢を叶える日が近付いていた様です。

2010-03-25 23:25:54 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2752   閲覧ユーザー数:2296

 

 

北の地の大戦から早2ヶ月。戦後処理は既に完了し、涼州は元の穏やかな姿を取り戻していた。

 

ただし、匈奴の脅威が完全に無くなったので、歩兵として徴兵された者達の大半は既に農村に戻り、今では田畑を増やしつつある。

 

他にも牧畜を北方方面に拡大させる等、涼州は増産に力を注いでいた。

 

戦が終わり、忙しい戦後処理も既に片がついたのだが、それでも通常の政務があるので、涼州牧馬騰こと林檎の仕事は・・・その書簡の数はそれほど多くは無かった。

 

その理由は、林檎の執務室の隣の部屋、鷹の執務室にあった。

 

 

 

 

 

「よし、武威の北の開拓地の測量が上がったら直ちに屯田計画を立てろ。ただし初期の採算は度外視で構わん。周辺山間部の森林を伐採し過ぎない様、注意しておけよ。」

 

「北の牧草地帯に羊を、山間の森林には豚を飼わせて飼育させろ。山間部には狼や熊が居るからそうした猛獣共は狩り取っていい。必要とあらば軍を出す事も許可する。」

 

「羌族、氐族との連絡は怠らぬ様に。姉上に任せてはいるが、交易に関しては商人や西方から来る異国の商人達の情報を常に仕入れて報告する事。」

 

「前回の大戦で使用した防衛陣や連弩を扱う上でどこがより使用に適するか、条件を探りながら訓練してくれ。後、投石機の修理と補強が完了したら、飛距離と命中性を向上させる訓練もしておく様に。

それから、軍の再編と訓練の監督を翠様と蒲公英様にお願いします。再編と新しい訓練の具体的内容はこの書簡に記してありますので。」

 

「これらの書簡を林檎様の元に届けてくれ。最終確認を、とな。」

 

 

鷹の仕事風景であった。

林檎の執務室の書簡が決して少ない訳ではないのだが、現在涼州の政務を担っているのは林檎と鷹である。

 

菖蒲も出来ると言えば出来るのだが、羌族や氐族との調整、商人達の相談役を務めているため、そっちまで手が回らないのが実情だ。

 

翠は、最早言うまでもなし。蒲公英も政務を取り仕切るにはまだ未熟。

 

最も、林檎も鷹も、政務には既に慣れており、涼州の増産期とは言え安定した仕事なので、本人達からすればむしろ楽な仕事とさえ言えた。

 

 

 

 

 

夕刻前には既に書類の決済は終了し、鷹は宝刀を持って中庭に出て修練を開始する。今日の相手は、病を克服したがまだ病み上がりの林檎であった。

 

鷹の宝刀が分厚く、それで居て切れ味鋭い偃月刀ならば、林檎の武器は小さな石突きと、その反対側には分銅の突いた鉄棍であった。女性のそれとしか思えない細い腕からは、想像もつかぬ程の速度で、鉄棍が振るわれる。

 

思いっきり鉄棍で薙ぎ払うその一撃は、兵卒等纏めて肉塊にしてしまう威力があるが、それを鷹は右手に握った宝刀の柄で、しかも激突する部分のその反対側に左肘を当てて受ける。

 

ガアァン! と言う音から、林檎の一撃の鋭さと重さが解るが、鷹の体を揺るがすに至らない。

 

逆に鷹が林檎の鉄棍を押し返し、返しの宝刀の一閃を林檎は伏せて回避。そのまま宝刀の間合いから外れる鷹の懐に踏み込んだが、逆に鷹の左手が、左腰に佩いていた剣を抜き放って、林檎の首筋に当て、林檎は動きを止めた。

林檎が懐に踏み込んで攻撃するより僅かに早く、鷹が抜き放って突きつけた剣の方が、早かったのだ。

 

 

「はぁ、参った。全く、体がまだ着いて来ないねぇ。病気にかかる前ならせめて引き分けに持ち込む自身があるんだが。」

 

「いえ、素晴らしい一撃でした。未だにこの剣を併用しなければ「要らん世辞は止めな。今のお前なら一撃で終わっていただろうしな。」・・・。」

 

「気遣って少し手加減してくれるのは解る。本気のお前が相手なら、一合保つか保たないか、それ程までに差が離れている位解る。

蒲公英相手なら不覚をとる事は無いだろうが、翠が相手だと・・・20合が限界と言った所さね。

 

さ、もう一回だ。今度はお前から、手加減無しの一撃を打ち込んで来な。」

 

「了解、行きますよ。」

 

 

鷹は槍を掲げる様に大きな構え、林檎は鉄棍で自分の身を守る、完全な防御の態勢である。

 

そして、鷹の「ハァアッ!!」と言う叫びと共に放たれた凪払いの一撃が、林檎を襲う!

 

 

 

 

 

凄まじい音の後、その場所に林檎は辛うじて吹っ飛ばされずにその場に留まっていた。先程は一合も持たない、と言っていた林檎が何故、鷹の全力を受け切れたのか。

 

 

「なるほど、石突きを地面に突き刺して耐えた訳ですか。」

 

「耐えるだけならこういう手段がある。最も、この防御をすると次の攻撃には対応出来無いけどねぇ。

まあ今は、お前の一撃を耐えたと言う事だけで良しとするさ。おっと・・・」

 

「大丈夫・・・ではありませんね。」

 

「やれやれ、全身鈍りまくり・・・鷹、これはどう言う事だ?」

 

「お部屋までお運びしようかと。この方が移動もし易いでしょう。」

 

「あーはいはい解った解った、とっと運びなッ!」

 

「・・・御意。」

 

 

鷹が林檎にした事、それは林檎を部屋まで送り届けようとするために、鷹が取った手段、それに問題があった。

 

鷹は、林檎の両膝の裏に左腕を、背中を右腕で持ち上げた・・・此処まで描写すれば、お判りであろう。俗に言う「お姫様抱っこ」である。

 

鷹の無神経な言い草に、機嫌を悪くした林檎であるが、そっぽ向いたその表情は赤みが差している。

翠よりも気の強い彼女だが、それは容姿にも現れており、翠に比べてきつい女性、と言う印象を与える顔立ちをしている。

しかし、そんな彼女の印象も、既に一軍を率いる程の娘を持つ母親とは思えぬ程、幼さを感じさせる。

 

一方、林檎を抱きかかえた鷹も、少々後悔していた。考えてみれば、主君を運ぶ事はいざともかく、自分よりも年上の女性をこうして運ぶのは流石に不味いのではないか? と言う後悔であった。

 

しかし、そんな後悔も気にしなくなる役得があるのも事実である。あの鉄棍を振り回すとは思えない、細く、それで居て柔らかく暖かい女性の肉体に触れられると言うのはそれだけで十分役得である。

 

 

 

 

 

そして、城内をそんな状態で歩けば、城内に務めている侍女達に見られてしまう訳で、その一瞬驚いた表情の後、呆然としてしまう者、羨ましそうな表情をする者もあれば、微笑ましい者を見た、と言う表情の者さえ居る。

 

千差万別の反応であったが鷹はそんな反応無視である。

 

とっとと林檎の部屋に着くと寝台に下ろしたのである。その林檎の表情は少々不満の様である。

 

こうなると林檎はなかなか機嫌を直さない。女性って難しい、と考えてしまう鷹君なのであった。

 

 

 

鷹も自室に戻り、宝刀を置いて部屋着に着替えると、寝台に寝転がる。

 

ふと寝台の隣に設置された棚には、数多くの書類、竹簡が所狭しと並んでいる。。

 

自分が【この地に生まれて22年】【これまで過ごして来た52年】の間、自分はなにをして来たのか、改めて振り返ってみたのである。

 

両親、また李烈を含めた配下達に武術を仕込まれ、軍の指揮と読み書きを学び、菖蒲には良く遠乗りに連れて行かれた。振り回されたり、叩きのめされたりしたが、間違いなく充実し、満たされていた日々だった。

 

そして、あの日から日記帳は2年間記されず、再会された日記帳からは俺自身の怒りと憎しみが滲み出ていた。日記帳と共に付けられている、いくつもの地図と軍の編成についての試行錯誤の後。軍備増強のための7カ年計画と書かれた竹簡と、その補足が記された竹簡。

 

昨日記された日記・・・

 

 

 

 

・・・なーんだかなぁ・・・

 

 

あれほど激しい憎しみがあったのに、あれ以来匈奴との様々な戦で匈奴兵を薙ぎ倒しても、自分が人殺しをしていると言う事実に、俺は何も感じなくなった。

 

だが、あの涼州軍の大勝利を祝う言葉をいくら聞いても、俺は満たされない。

 

 

 

あれこそ、俺が10年間願って来た事だったのに。

 

草原に散った両親を、安らかに眠らせるために。

 

涼州の人々を笑顔にしたかった、その願いを達成したのに。

 

 

 

解らない。俺は一体、本当は何がしたかったんだ?

 

 

 

 

 

ガチャン! と言う音と共に竹簡が一つ、棚から床へ落ちてしまった。

 

どうやら今手に取っている竹簡を出した際に、ずれてしまっていたらしい。

 

拾おうとした鷹の目に飛び込んで来たものは、日記を付け始めてすぐの日のものであった。

 

其処にはこう書かれていた。

 

 

 

「俺がこの後漢王朝の末期に生まれたと言う事は、もしかしたら次の時代、三国時代の武将や文官に会えるかもしれない。」

 

 

 

俺の中で、何かが嵌った様な音がした。

 

 

 

 

 

 

白馬将軍龐徳伝プロローグ5話目を読んでいただき、ありがとうございます。

 

まだ完全に明かしてはいませんが、鷹がどう言う人物なのかが少し解ったかと思います。

 

前回も書きましたが鷹も既に自らを縛り付けるものは無くなりました。

 

後は小さな頃の願いを叶えるべく、彼は自分の夢の赴くままに動く事になります。

 

 

 

 

まあぶっちゃけると旅です旅。

 

右手に宝刀引っさげて、軽い鎧に上着をまとい、白影に乗って気の向くままに走り回ります。

 

さて最初をどこに以降かはまだ考え中ですが、明確に決めている事が一つ。

 

北郷一刀は必ず出します。

 

それではッ!

 

 

 


 
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