No.131863

突発性妹祭―バイタルリミット― no.2

伝縁さん

(´・ω・){引き続き、妹に寛容な精神が求められます。

2010-03-23 16:29:03 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:966   閲覧ユーザー数:930

 

 

 戦場よりも凄惨で、

 超常現象より意味不明。

 密室殺人よりロジカルで、

 アイスクリームよりも、甘い。 

 妹。

 

 微睡を泳いでいる際、その妹が自爆スウィッチなるものを圧しそうになっていた。

 笑い事じゃない一点があるとすれば、おそらくそれが自分の体内に埋まっているということ。

 以上、前回までの粗筋。

 

 さて、眠り姫の真似は止めようか。

 

「ちなみにソレさぁ、圧したら実は可愛い御前の方が爆発してくれるってそういう粋な装置?」

 黒い冗談を、否、半分近く希望的発言をかましながら、ウィウォーンと身体を起こす。首を振って頭を起動させ、瞼をガシャゴショ擦って視界を良好にした。

 良好にした視界で前を観る。

 飛び込んできたのは、六畳の簡素な部屋。本棚。タペストリー(何のかは個人的な理由で伏せておく)机。電源入れっぱだったPCと周辺機器。水色のカーテン。五時過ぎを指し示すデジタル時計。後、俺の通っていた中学の制服に身を包む、一人の直立した少女。

 

 中肉中背というよりはやや痩せ気味。胸囲もそれに比例している。今後の成長に期待といった所。身長は低め。但し四肢は長い。つまり胴が短いわけで、ちゃんと内臓在るのかが多少心配。黒髪長髪、前髪は眉の辺りで切り揃えられている。肌の色はまるで月明かりを掬ってきたかのように真白。夜空のような黒く大きな瞳に小さじ一杯程度の小さな鼻。憎たらしい口元がやや減点対象ではあるけれど、それでもその美しさは数多の人が認めるところだろう。物語なんかじゃよく居る、若干拍子抜け気味の、極々テンプレートな、肩に珍妙な機械を載せた、有体に言ってソイツは紛れもなく、混じり気の無い美少女だった。

 話の流れから言って脈略の無い第三の登場人物でない限りコイツは俺の妹で、その実やはり妹で。……頭が、痛くなるほど妹で。

 その妹はかく語った。

「みゅみ?否、否違うよー。爆発するのはお兄たそだよー」

 ですよねー。

 けど何ていうかな、人の身体に勝手に爆発物埋め込んじゃいけないって学校で習わなかったのかなー、このゆとりッ。

「はむはむっ、世代が違っても、っていうか世紀が代わってすら多分習わないと思うよ?」

 ですよねー。

 教えるまでもないしねっ。後、オマエしねっ。

 小学生並の悪態を脳内で繰り出しつつ、怒りの濃度を高めながら問題を先延ばし。

 語り部というのはニアリーイコールでもってツッコミ役でもある。

 ツッコミ役に求められるのはスマートさで、

 つまり現状は最悪だった。

 多過ぎる指摘点。莫大な糸口。

 ……名探偵には通用しないチャチな策謀。凡人な俺には効果的過ぎてカナリ絶望。そんな状況。

 ともかく整理だ。

 ・時計、そのまま。

 ・肩、同じく。

 ・喋ってない、同上。

 ・異音、多少オブラートに。

 ・誤植、キャラ設定に関わるのである意味最重要だけど、巧く説明出来る自信がないので後回し。

 ・爆弾、最後にもってきたらオチになるので、ラス前辺り。

 うむ、まぁこんな所か。いつまでも迂回してると話が進まないので(進めない方が懸命な気はするけれど)先ずはジャブを撃ってみることにした。時計ネタ。

「今、朝5時だろ可愛い戯け」

「うきゅんっ、そだよー」

「何故に起こした?」

「えとえと、今からじゃないと多分間に合わないからだよー」

「……何にさ?」

「えとえと、世界制服ー」

 とってもいい笑顔で妹は語る。ぴぴぴちゅんちゅんと小鳥は囀る。あはははっ。ジャブを放ったら起き上がれないレヴェルのカウンターを食らったよ?

「そっか。おやすみー」

 なので起きないことにした。夢の世界へ連れてって枕。ぐっすりの彼方へ。

 カチッという音が聴こえた。

「御前ソレは俺に取り付けた自爆装置の起動スウィッチやろうがっ!!」

 掛け布団をフッ飛ばし、思わず声を荒げた。何サラリと圧してんだよっ。堪え性無さ過ぎだろっ。エクスクラメーションマーク二つも付けちまったじゃねぇかよっ。縦書きの仕様になったらどうしてくれるっ。

「うみゅ?あはは違うよー。ボタン二つ在るでしょ?今のは安全装置を外しただけだよ」

 とってもいい笑顔で妹は語る。音で表すならぷにぱぷにぱとかそんな感じの笑顔。

「そっかー。けどアレだぞ?安全装置は安全の為に存在する装置であって、安全を望むならやはりかけておいた方がいいと思うぞー」諭すように俺は続ける「可愛い御前だってほら、安全な世の中の方がいいだろ?だからほら、安全装置は基に戻して、ついでに世界制服もやめておこうじゃないかっ」

 完璧な俺の弁に納得したのか、ぷにぱ顔の妹はスウィッチに指を置く。アレアレ?けれどそっちは逆じゃないかな?それを圧したら爆発しちゃうんじゃないかな?

 美しく透明な音が天上から響いた。実際は眼の前から届いた。

「【お兄たその生殺与奪権はアタシに在るんだよ?】」

 とってもいい笑顔で妹は語る。音で表すならぷにぱぷにぱ。つられて俺も笑ってしまった。音で表すなら濁音で形成されていたことだろう。要は引き攣ってた。あはははおんもすれー。早朝の空気がシアン化合物みてぇ。記憶違いでなければもっと清清しいもんだった筈なんだがなぁ。

 俺の混乱を他所に、妹はテキパキと否応無しに状況を進めようとしてきた。

「ふにゅふふぅ。じゃ、他に訊くことが無いなら、ちょっぱやでやっちゃおうか世界制服」

 まぁ待てよ、訊きたいことも言いたいこともまだまだ在るさと俺は続ける。

 

 つかの間、具体的にしなければいけないことから空へ跳び、

 俺は無駄で無為で、無価値な事を思い描く。

 

 本当に訊いてみたかった。

 何で端麗な容姿と明晰な頭脳なんて二物を与えながら破綻した性格を付随されたのですか?とか。

 ていうか折角黒髪美人なんだから大人しく大人しい子にした方が良かったのでは?とか。

 奇抜な発想がそんなにいいですか?スタンダードってのは需要があるってことなんじゃないですかね?みたいなことを。

 天とかに。

 

 本当に言ってみたかった。

 俺は弟が欲しかったよ、と。

 両親及び、

 悪魔に。

 

 
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