No.130569

遊戯王デュエルモンスターズ フリーダムヒーローズ 第3話

スーサンさん

第3話です。今回はハードな戦闘でなく、あまあまなラブコメ路線です。主役は霊使いたちです。六人もいると、均等に活躍させるのが難しかった……

2010-03-17 15:59:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2411   閲覧ユーザー数:2328

「ねぇ……起きて! 起きてよ、マスター!」

 身体を何度もユサユサ揺らされ、舌足らずな少女の声が耳元から聞こえた。

「うぅ……」

 なんどか、寝返りを打つと、八神錬太郎は眠たそうにベッドから起き上がった。

「もぅ朝か……」

 ボリボリとパジャマの下の胸元を掻き、あくびをすると、錬太郎は自分を起こしてくれた少女にニコッと微笑んだ。

「いつも悪いな、毎朝、起こしてもらって……ウィン?」

「う、うん……別に、これくらい普通だよ」

 とか言いながらも、満更でない顔で照れ隠しをするウィンに錬太郎は机に並ばれた六枚のカードを見て、頭を掻いた。

「あいつら、もぅ、起きてるのか?」

 カードから発する光具合を見て、錬太郎はウィンを改めてみた。

 彼女の名前は、"風霊使いウィン"。

 この少年、八神錬太郎のカードの精霊の一人である。

 物静かで落ち着いた雰囲気がなんとも健気さを表す守ってあげたくなるような少女だ。

 パジャマ姿のまま居間に上がると、錬太郎は朝から疲れたため息を吐いた。

「おい、エリア。今、アタシの朝の漬物取っただろう!?」

「さぁ、なんのことかしら……自分で食べたのを忘れたんじゃない?」

「二人ともやめなよ、また、マスターに怒られますよ?」

「ほかっとけ……どぅせ、止めたところで態度が改まるわけじゃないし」

「そぅだそぅだ。もっと、派手にケンカしないと面白くないよ!」

「お前は黙ってろ!」

 居間の食卓でうるさくガヤガヤ騒いでいる五人を見て、ウィンまで呆れた顔をした。

「またやってる……」

 このバカうるさく騒いでいる少女たちも、錬太郎が所持するカードの精霊の一人である。

 一番最初におかずを取り返そうとしているのが、"火霊使いヒータ"。

 真っ赤に燃えるような赤髪に意志の強い瞳が特徴の活発な少女である。

 そのヒータとケンカしているのは"水霊使いエリア"。

 澄んだ水のような青い髪にちょっと悪戯っぽい口元が特徴の女狐である。

 そんな二人を仲裁しようとしているメガネをかけた少女は"地霊使いアウス"。

 知的な雰囲気とふくよかな胸が特徴の理性派ヒロインである。

 そんなアウスの努力を無駄にするように騒ぎを大きくしようとしている少女が、"光霊使いライナ"。

 明るい笑顔と白く輝く髪が特徴の元気っ娘である。

 そして、そんな四人をナチュラルに無視して、一人マイペースに味噌汁を飲むのが"闇霊使いダルク"。

 メンバー中、唯一の男の子で、一番の常識人。ケンカ不干渉主義者。悪く言えば、協調性がない男ともいえる。

 そんな三者三様ともいえる五人を見て、錬太郎はウィンからデュエルディスクを受け取り、腕につけるとカードを一枚抜いた。

「魔法カード"悪夢の鉄檻"! お互いのモンスターは二ターンの間、行動不能になる」

「え……?」

 ガシャンッと鉄檻に閉じ込められた五人は驚いた顔で錬太郎を見た。

「ちょ、マスター……なんで、私たちを閉じ込めるの!?」

 鉄格子を握り、信じられない顔で抗議するエリアに錬太郎は疲れたきった声でいった。

「朝からケンカしているからだ……俺だって閉じ込められてるんだ。しばらく反省するまで、このままでいろ!」

「そんな、酷いよ、マスター……アタシは被害者だよ!? 朝ごはん取られて……」

 ヒータの反論に錬太郎も冷たく返した。

「ケンカしていい理由にはならない!」

「あぅ……」

 言葉を詰まらせるヒータにアウスも悲観したように首をたれた。

「私はとばっちりですよ……」

「マスター、ケンカしたのは二人だけだから、ボクは解放されるべきだよ!」

 堂々とケンカを煽っていたライナにまだ、マイペースに食事を取るダルクが怒鳴った。

「お前は楽しんでただろう……」

「ダルクは細かいことにうるさいな……だから、モテないんだよ?」

「関係ないだろう? モテないなら、お前たちも一緒だろう?」

「ボ、ボク達は別にモテなくっても……いいもん」

 ライナどころか、錬太郎と同じ鉄檻に閉じ込められているウィンやケンカしていた三人まで顔を真っ赤にし、言葉を詰まらせた。

 その視線は全員、錬太郎に注がれ、手がモジモジしていた。

「ハイハイ……ごちそうさま」

 食べ終わった朝食をまとめ、テーブルに置いてあるリモコンに手をとり、テレビをつけた。

「まぁ、しばらく出れないんだ……のんびりさせてもらうさ?」

「というよりも、こぅなったのも、アタシのおかずを盗んだ、エリアが全部悪い!」

「なによ! 普段から大根の漬物残すから、親切で食べてあげたんじゃない!?」

「今日は食べたい気分だったんだよ!」

「そんなワガママ、通じると思ってるの!?」

「なんだと!?」

 ガルルと鼻息を荒くしにらみ合う二人に錬太郎は、額に青筋を作り、デッキからカードをさらに抜いた。

「罠カード"威嚇する咆哮"! このターン相手はバトルフェイズに入れない……それでは一言」

 すぅ~~と息を吸い……

「ケンカをやめんか、この大バカ娘どもが~~~~~~~~~!?」

「ッ!?」

 無視を決め込んでいたダルクまでイスから転げ落ち、身体を固めてしまった。

「それって……罠カード使わなくってもいいよね?」

 ガクッと全員、錬太郎の怒声に気を失う全員に、"悪夢の鉄檻"の効果が解けたのか、ようやく解放されたウィンはどぅするって顔で、錬太郎を見た。

「とりあえず、邪魔だから、居間から出すぞ……意外に広い部屋で助かる、こぅいう時は」

 ウィンと二人で、気絶しているエリア達を客間に上がらせると、錬太郎は困った子を持った親の顔で腰に手をやった。

「なんで、こぅもケンカしたがるんだ……こいつらは?」

「相性のせいじゃないかな……」

「ケンカするほど仲がいいってやつか……まぁ、嫌ってたら、ケンカもしないわな?」

 一人納得したように首を振る錬太郎にウィンは思い出したようにポケットから一枚の便箋を取り出した。

「そぅいえば、お手紙届いてたよ……はい、これ」

「お、サンキュー?」

 手紙を受け取り、便箋を破き、中を見ると、錬太郎の顔がパッと輝いた。

「なんだ、池波隼人からじゃないか……」

「池波?」

 不思議そうに首を傾げるウィンに錬太郎はうんっと頷いた。

「ああ、俺の中学の頃の親友でな。卒業で進学せず、デュエリストの修行に出るって言って、世界を旅して回ってるんだ。手紙も三ヶ月ぶりだな。無事そうで安心したぞ?」

 ニコニコと手紙を見る錬太郎にウィンもどこか嬉しそうに微笑み、いった。

「よかったね、マスター……友達から手紙が来て。ところで、なんて書いてあるの?」

「ああ。今読むな……なになに。どぅやら、つい先日、デュエルマフィアを壊滅して、セキュリティーから感謝状をもらったらしいぞ?」

「……マスター。私がバカだからって、からかってるでしょう?」

 ぷくぅっと可愛らしく頬を膨らませるウィンに錬太郎は苦笑した。

「まぁ、普通はありえないけど……あいつは普通じゃないからな。ありえるんだよ、本当に……あ、でも、もぅ一枚、手紙が入ってるな? 弟子を取った……写真があるから、見てくれ?」

 便箋の中に入っている写真を見て、錬太郎の身体が凍った。

「うわぁ~~……腕組んで写真撮ってる」

「エリア……いつの間に復活した?」

 呆れたように目を細める錬太郎に写真がスッと奪われた。

「な、なかなか……可愛いじゃないか?」

 少し悔しそうに顔を赤らめるヒータに同じように写真を覗き見ていたアウスが得意げに、胸を張った。

「局部的に勝ってる!」

「どぅせ、ボクはぺったんこだよ!」

 拗ねたように胸を摩るライナにダルクが呆れたように呟いた。

「これからでかくなるだろう……?」

「みんな、復活が早いね?」

 ウィンまで呆れて苦笑する。ダルクは思い出したようにつけてあったテレビを消した。

「そぅいえば、俺、今日はデュエル仲間とトレード会を開く予定だった。もぅ行くな?」

「え……ちょっと待て? 今日は、全員で家族スパに行く約束だろう?」

「邪魔者は消えたほうが睨まれずに済むんだよ」

 そぅいい、カードケースを持って出かけるダルクを見て錬太郎は慌てて叫んだ。

「マイペースもいい加減にしろ……ハァ。どぅする? 一人抜けたけど、行くか?」

「行く!」

 バンッと今度は錬太郎が吹き飛ばされそうな咆哮が返り尻餅をついて驚いた。

「お前たち、そんなに風呂が好きだったか?」

「……」

 顔を赤らめる五人に錬太郎は不思議そうな顔をした。

 

 

 家族スパ「エレメンタル・シャイン」。色々な贅沢なお風呂を安値で楽しめることで有名な、優良家族銭湯。

 さまざまなお風呂や施設に子供から大人まで楽しめることで、年々、人気を急上させている属星町の名所にである。

 錬太郎もこの銭湯に入りたいとワガママ娘五人にねだられ、半年も前に予約を入れたほど、この銭湯の人気を唸らせる。

 錬太郎と更衣室を別れると、五人は脱衣所で水着に着替えるとヒータが呆れたようにエリアを見た。

「お前、その水着派手だな……?」

「あれ、そぅかしら?」

 クルリと回転しながら小さい身体に不釣合いなほどきわどいビキニを着たエリアにアウスが一言申し出た。

「女の子はもっと、謹みやかなものを着たほうがいいと思いますよ?」

「アウスだって、胸に谷間を作れる水着を着てるじゃない!」

 顔を真っ赤にするアウスにライナは真っ白なワンピースの水着に着終わり、走って、お風呂場に行こうとした。

「じゃあ、先にマスターにあってくるね?」

「抜け駆けするな!」

「おわぁ!?」

 べちゃんっと頭から転び、足を掴んだヒータを睨んだ。

「なにするんだよ、鼻打ったじゃないか!?」

「今のはライナちゃんが悪いよ!」

 大人しくしていたウィンにまで叱責され、驚くライナにアウスもうんうんっと頷いた。

「条約を忘れたんですか……抜け駆けなしでマスターを奪い合うって?」

「忘れてないよ……チェ、みんな、変なところでマジメなんだから」

「アンタが大雑把すぎるんだよ!」

 全員、水着に着替え終わると、エリアは静かな口調で全員にいった。

「じゃあ、ルール通り、今から決められたコースを一人ずつ回って、マスターに接近。最後に誰が一番、マスターを喜ばせられたかで勝敗は決定ね?」

「うん!」

 小さく頷く五人に、頭上から声をかけられた。

「なんで、こんなところでスクラム組んでるんだ?」

「わぁ……マスター、いつの間に!?」

「ここは待合室だ。それよりも、水着に着替えたなら、さっさと、温泉に入るぞ。一人分、無駄になった分、元を取らないとな?」

 ぐるんぐるんっと腕を回す錬太郎に全員コクンッと頷き、呟いた。

「マスターは私のものだよ!」

 

 

 かくして、錬太郎の知らないところで精霊たちの熱い女のバトルが始まった。

 第一走者は、派手な水着が人の目を盗むエリアであった。舞台はバブル風呂である。

「他のメンバーはどぅしたんだ?」

「他のお風呂に入ってるよ。まぁ、気にしないでいいよ……マスター?」

 ススッと近づくエリアに錬太郎はどぅしたんだと苦笑した。

「こんな所で、甘えるなよ……変な目で見られるだろう?」

「マスターとなら、見られてもいいかな?」

「エリア……?」

 呆れた顔する錬太郎にエリアは少し色っぽい顔で手をそっとバブルで見えないお湯の中に沈めた。

「イッ!?」

 股間に当たる小さな感触に錬太郎は驚きをあらわにし、エリアを見た。

「お前、どこを触ってる!?」

「男の人はここを触られると気持ちいいんだよね……だったら、今度は私のを触っていいよ? アウスにも負けてないよ?」

「な、なにをだよ……?」

 顔を真っ赤にする錬太郎にエリアは感触ありと微笑み、さらに迫った。

「私、マスターとなら、種の壁だって、越えたっていいと思ってるよ?」

 ススッと近づくエリアに錬太郎も身の危険を感じ、後ずさると、さらに近寄った。

 壁にぶつかり、二人の距離が嫌でも、近づき、エリアは少し興奮した顔で微笑んだ。

「マスター……私と」

「魔法カード"ハンマーシュート"!」

 ドカンッ……

「あぅ……なんで、デュエルディスクをつけてるの?」

「お前たちがケンカしてもいいように常備しておいたんだ。ちなみに、ハンマーシュートは、相手フィールドの一番攻撃力の高いモンスター一体を破棄する通常魔法」

 目を回し倒れるエリアを見て、錬太郎はため息を吐いた。

「なにがしたかったんだ、こいつ……」

 

 

 一方、その頃、ダルクは……

「そのカードは……このカードでトレードできないか?」

「後、もぅ一枚加えてもらわないと、割りにあわないね?」

「うぅ~~……足もとみやがって」

 トレード会でレアカードを賭けた壮絶なバトルを繰り広げていた。

 

 

 第二陣はヒータのサウナ風呂であった。

「マスター……どっちが長く、サウナに入れるか、勝負しよう?」

「ん……別にいいけど、負けないぞ?」

「うん!」

 満面の笑顔で頷くヒータに錬太郎は気を集中させるよう黙りだした。

 ヒータも錬太郎の顔を見て、ジッとサウナの暑さに耐えた。

 この次の展開としては、先に音を上げて、倒れたふりをしてお姫様抱っこなどと、一見して、隙だらけの作戦を考えていたのだが……

「ッ!?」

 錬太郎の身体を見てヒータの顔が真っ赤になった。

 意外に筋肉質の身体に、顔も良く見れば端正でサウナの暑さで汗を掻く姿は、妙に色っぽかった。

「……」

 ぽたぽた……

「おい、ヒータ、鼻血出てるぞ!?」

「え……ええ!?」

「このバカ!? のぼせたんだよ!? すぐにサウナを出るぞ!?」

「いや、これは違う意味の鼻血なんだけど……」

 手を強引に引かれ、無理やりサウナから出されると、ヒータは少しは複雑そうな顔をした。

 だが、これでも、若干、順調に作戦が進んでいることに満足していた。

 後はお姫様抱っこはムリでも、手を引いて、待合室で二人っきり。

 条約は無視されてるが、最初のエリアの時点で条約は無視されてるのでこの際、条約はどぅでも良かった。

 肝心なのは、いかにして、自分のマスターを独り占めできるかであった。

「魔法カード"レッド・ポーション"!」

「え……?」

 ヒータの鼻から流れていた血が止まり、錬太郎はデュエルディスクにはめたカードを見せた。

「"レッド・ポーション"はプレイヤーのライフを500ポイント回復させるんだ。これで、大丈夫だろう?」

「う、うん……チェッ」

 

 

 そん頃、ダルクは……

「大人はなんでもかんでも、性表現を規制すればそれでいいと思ってやがる!」

「ああ。頭の中にウジのわいた連中が多いから、訳のわからない新しい規制作って、表現者の自由を奪おうとする!」

「どぅせ、マンガと現実、いい年こいて、理解できないかわいそうな連中の集まりだろう?」

 「青少年育成条例」の批判に花を咲かせていた。

 

 

 第三陣、アウスと砂風呂。身体を埋め尽くす砂の温かさに睡魔を感じながら、錬太郎はウトウトしていた。

「あ、マスター、寝ちゃダメですよ!?」

「あ……ああ!?」

 パッと目を覚まし、また、ウトウトし始める錬太郎にアウスは慌てて話をふった。

「そ、そぅだ……円周率数えよう!?」

「円周率?」

「そぅそぅ……じゃあ、行くよ? 円周率が3.141592635…」

「あ……もぅ、ダメ」

「ああ、マスター!? そんな~~……私の出番、これで終了ですか?」

 大抵、彼女の場合、自爆して終わることが多かったりする。

 

 

 同じ頃、ダルクは……

「デュエルもいいけど、レンストも悪くないよな?」

「ああ。このヒーロー達のビジュアル……これでしびれない奴は男じゃないぜ?」

 マイナーカードゲーム、「レンジャーズストライク」で熱いバトルを繰り広げていた。

 

 

 第四陣、ライナと錬太郎は期間限定の特別施設の"牛乳風呂"に入っていた。

「よかったな、ライナ……お前、牛乳風呂に入りたいって、前から言ってたじゃないか?」

「うん。今回は運が良かったな……?」

「牛乳風呂は贅沢中の贅沢だからな?」

 肩まで白い牛乳のお風呂につかり、目を細めると錬太郎は思い出したように呟いた。

「でも、お前たちも、結構マイペースだな? なにも、全員、違う風呂に入ることはないだろう? 全員、一緒、同じ風呂に入ったほうが楽しいのに?」

「そ、それは、まぁ……置いといて」

「置いとくのか?」

「置くの!」

 間が持たなくなり、会話の続かない二人にライナはどぅしようと焦った。

 会話の種を探そうにも、探して簡単に出てくれば、口下手な精霊は現れない。

 まぁ、ライナは口下手なほうじゃないが……

「そ、そぅだ……マスターは将来の夢ってあるの?」

「夢……目標ってことか?」

「そんな大そうなものじゃないよ。こぅだったらいいなとか、こぅなりたいとかの、夢物語」

「はは……お前らしい考えだ。でも、嫌いじゃないよ、そぅいう話?」

 ニコッと微笑まれ、ライナの顔が真っ赤になった。錬太郎も、湯気で湿った風呂場の天井を眺め、呟いた。

「そぅだな……考えてみると俺には夢がないな? 俺の親友の隼人は世界一のデュエリストを目指し、世界を旅しているが、俺には、そんな立派な夢はない……そぅいう、お前は、夢とかあるのか?」

「え……ボク!?」

 カァ~~と顔を真っ赤にするライナに錬太郎は不思議そうに首をかしげた。

「どぅした……言えないことなら、言わなくってもいいが?」

「あ、そんな事ないよ!? ボ、ボクの夢はね……ごにょごにょ」

 何度か口篭りながら、必死に言葉を出そうとするライナに錬太郎はクスクスと笑った。

 普段は、周りの騒ぎを増徴する女の子だが、実際は照れ屋で、普段の行動は照れ隠しの一種に過ぎない。錬太郎はライナの可愛さに微笑ましい気持ちになった。

「ボ、ボクの夢はね……お嫁さんかな?」

「お嫁さん?」

「うん。優しい旦那さんと二人で、毎日楽しく暮らすの……」

「ライナ」

 ポンッと頭の上に手を置くと、優しく撫でた。

「いい夢だな……叶うといいな?」

「う、うん。実は以外に簡単に叶う夢なんだ?」

「相手がもぅいるのか?」

「うん。後は気付いてもらうだけなんだけど……」

 チラチラと自分を見るライナに錬太郎は不思議そうに首をかしげた。

「どぅした。人の顔を見て?」

「うぅ~~……鈍感」

 泣き出しそうに頬を膨らませるライナに錬太郎はますます訳がわからず首をかしげた。

 

 

 その頃、相変わらずダルクは……

「やっぱり、一番最初の遊戯王は面白いな?」

「主役の遊戯の声は、この頃のほうがあってる気がするよな?」

「デュエルモンスターズになった頃は、驚いたからな……まぁ、慣れれば大丈夫だけど?」

 初期の遊戯王のアニメを見て、盛り上がっていた。

 

 

 最後はウィンとヒノキ風呂であった。

 ヒノキのなんともいえないいい匂いが二人の鼻腔をくすぐり、錬太郎は気持ちよさそうに、ため息を吐いた。

「はぁ~~……やっぱり、風呂といえば、ヒノキだよな?」

「うん。気持ちいいね?」

 大してい話をふらず、お風呂のお湯の温かさに身を震わせるウィンに錬太郎は、クスクスと笑った。

「ダルクも来ればよかったのにな?」

「うん。ちょっとだけ、悪いことしたかな?」

「なんのことだ?」

「……」

 自分たちに気を使って楽しみにしていた家族スパを棄権したダルクにウィンは、後で、なにか奢ろうかと考え、お湯を肩まで浸かった。

「でも、私たち、マスターに拾われて本当に良かったって、心から感謝してるよ?」

「なんだよ、いきなり?」

「だって……あれが無かったら、私たち消えてる運命だったから?」

「……」

 あれは、曇りがかった朝のひと時だった。

 学校に向かうため、いつもの通学路を歩いてるとき、六つの捨てられたカードを見つけたのが、キッカケだった。

 レアリティの低いカードだけに、子供が購入者のマナーを守らず、道に捨てたのだろう。

 元々、デュエリストといっても、カードコレクターだった錬太郎にとって、例え、レアリティの低いカードでも、捨てられているのはどぅしてもかわいそうでしょうがなかった。カードについた傷を自分なりの知識で修復した時、彼女たちが精霊として現れ、錬太郎のもとに住むことになった。

 だが、最初から、錬太郎と仲が良かったわけじゃなかった。

 人間に簡単に捨てられた記憶が彼女たちに人間を信用させる心を失わさせ、錬太郎にすら、距離を置いていた六人だが、錬太郎は、それでも、構わず、六人の面倒を見た。

 時には厳しく。時には優しく。本当の家族の思いで接するうちに、自然と六人の心が、錬太郎に向き始めていった。

 気付いたら六人は錬太郎に心から信頼を寄せ、今では、家族以上の繋がりを持った。

 ケンカこそはするが心の中ではいつも六人は同じ気持ちを抱いていた。

 「錬太郎が大好き」。それが、六人の共通した想いであった。

 ウィンは錬太郎と過ごした日々をヒノキ風呂の匂いに誘われ思い出し、ニコッと笑った。

「あの時、マスターに出会ってなかったら、きっと、私たち、ゴミと一緒に消えてた。マスター……本当にありがとう。それと、これからも、私たちのマスターでいてね?」

「当たり前だろう……?」

 ポンッと、頭を撫でられ、ウィンはくすぐったそうに首を振り、笑顔を向けた。

「大好きだよ……マスター。私だけじゃない。皆、一緒だよ。この気持ちは」

 

 

 それから半日、錬太郎を含め、六人は家族スパで、楽しく風呂に入り、全風呂制覇すると、家に帰るため、脱衣所で服に着替え始めていた。

「ところで、どぅ、この勝負……?」

 エリアの一言に、アウスが口惜しそうにため息を吐いた。

「全戦全敗……ドローでしょうね?」

 ヒータもガクンッと首を下げた。

「アタシが一番情けないぞ……鼻血出して倒れちまったんだから」

「私は会話が長続きしなうちに、眠られてしまいました」

「ボクなんって、いいところだったのに、気付いてもらえなかった……ウィンちゃんは?」

「私? 私は……満足かな?」

 ニコッと微笑まれ全員、複雑そうな顔をして、頷いた。

「まぁ、マスターと二人っきりでお風呂は楽しかったし、今回はこれで満足しようか?」

 エリアの一言に全員頷き、服に着替え終わった。

 

 

「ただいま……!」

 家に帰ると、ダルクの笑い声が居間から響き、錬太郎は呆れたように居間に上がった。

「お前……家族スパに参加せず、一人、家の中でノンキに笑天見て、笑ってるのかよ?」

「いいだろう……俺の楽しみなんだからな?」

 不貞腐れたように唇を尖らせると、ダルクは思い出したようにポケットからカードを取り出した。

「あ……これな?」

「え……?」

 スッと手渡されたカードを見て、錬太郎は目をキラキラと輝かせた。

「"The tyrant NEPTUNE"じゃないか!? 幻の超レアカード……ほしかったんだよ!?」

「トレードするのに苦労したぜ……マスターがほしがってるのを思い出して、俺の持ってるレアカードいくつか代価にして、よぅやく貰ったんだからな?」

「ああ。ありがとう……早速、カードフォルダーに入れないと!?」

 ルンルン気分で、自分の部屋に向かう錬太郎に五人の少女の目が点になった。

「ダルクの一人勝ち?」

「うん……どぅした、お前ら?」

 不思議そうに笑うダルクにウィン達はすごいため息を吐いた。

「闇霊使いが一番強いの当たり前か?」

 全員、口を揃えてダルクの要領のよさに感心し、一番のライバルだと再認識した。

 もっとも、こんな日常が八神家の普通なのであるが……


 
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