No.129495

~真・恋姫✝無双 孫呉の外史2-0

kanadeさん

今回は早めにアップできました。第二章としていますが、この話こそが私の描く〝孫呉の外史〟の本当の意味での始まりなのかもしれません。
そしてシャオ登場。彼女の意外(?)な現状が明らかに・・・
この話からしばらく間が空いてしまうかもしれませんがご了承くださいませ。
勝手を言う作者ですいません。
それではどうぞ

2010-03-11 23:11:40 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:13025   閲覧ユーザー数:9878

孫呉の外史2‐0

 

 

 

 人気のない森の中に、光が溢れる。その光はやがて治まり、そこには一人の男が立っていた。

 「――ああ、この〝外史〟も・・・違う」

 男は黒い外套で全身を覆っていて、おまけに仮面を身につけているためにその素顔は全く分からない。ただ、男から放たれる禍々しい〝氣〟に寝静まっている森がざわめいていた。

それから暫くして、男の周囲からはあらゆる種を問わずに生き物の気配が去っていた。

 「なら――ここにも〝天の御使い〟がいる筈・・・」

 放たれる殺気はより一層濃くなっていく。

 その殺気に、森の空気がいつ破裂してもおかしくないくらいに緊張していった。

 「ハハっ・・・〝御使い〟か。そんなものはただの言葉遊びだ。役目さえ果たされれば・・・そこまで・・・ただの消耗品だというのに、お前はその役目に全霊で挑むんだろうな・・・世話になった責任だの、あの人たちの笑顔を守りたいだの・・・背筋が凍りそうになる絵空事を原動力にさ・・・どうせ、その頑張りの全ては無駄に終わるというのに、な」

 男は滑稽だと仮面の下で笑う。この世界にいる〝天の御使い〟を侮蔑するように。

 「ああ・・・そんな終わりは可哀そうだ。だから俺がお前の役目が終わる前に終わらせてやる。喜べ・・・〝北郷一刀〟。俺が、お前を〝運命〟から解放してやる」

 男は身を翻し、音もなくその場を去っていく。

 森は、男が去ってようやくいつも通りの静けさを取り戻すのだった。

 

 「――これは・・・何者かがこの〝外史〟に強制介入を・・・」

 女性は先程まで男がいた場所にいた。おぞましい〝氣〟を感じて彼女はここまで足を運んだのだ。

「一体何者が――・・・気付かれないからといって、自分から存在をアピールするのは止めなさい貂蝉」

「だって、管輅ちゃんったらわざと無視するんだもの・・・私だって自己主張くらいするわよう」

やたらと低い声の主を視界に納めた途端、管路の表情が心底うんざりだという表情に変わる。

声の主は無駄に逞しい肉体だった。声だけならば、その肉体にも充分に見合うのだが、全てを台無しにしているものがそいつにはあった。

「無視されたくないのだったら、その気色の悪い格好をなんとかしてくれるとありがたいのですけど・・・正直、目が腐りそうです」

「あら、こんなに美しい〝レディ〟に向かって何て言い草かしらん」

全てにおいて〝逞しい〟の一言でしか現わせない肉体が、クネクネと動いているのはハッキリ言って気色悪いどころの話ではない。

「これ以上、貴方の姿を視界に納めたくないので用件に入っていただけないですか?」

「しょうがないわねん。管輅ちゃん・・・ご主人様にはもう会ったのかしら?」

「〝彼〟ですか?いいえ・・・直接は会っていません」

「だったら、お願いがあるのだけど・・いいかしら」

気色悪いのは変わらないままだが、その表情と声音が一気に真剣なモノになる。

管路も、ようやくかと溜息を一度吐き、貂蝉の話に耳を傾けるのだった。

 

――それから暫くして。

「貴方の言い分は理解しました・・・ですが、私は基本〝傍観者〟。余程の事がない限りは一切手だしはしません。それでいいのなら引き受けましょう」

「仕方がないわね。それでもいいからお願いできないかしら?」

「いいでしょう。・・・ですが、貂蝉」

管路は何処かへと去ろうとする貂蝉を呼びとめる。

「やはり無用な心配だと思いますよ?」

そうね。と相槌を打って貂蝉は音もなくその場を去っていった。

やがて管路もそのまま帰路に就くのだった。

 

 

夜が明け、日が昇り。真上にまで上った頃、荊州にある街の一角に彼女はいた。

 「・・・・・・ふぅ」

 額の汗を手で拭う。

 そうしてまた槌を振り下ろす。香蓮はずっとこの作業を繰り返している。

 場所は鍛冶場。しかし、香蓮が打っていたのは〝剣〟ではなく〝刀〟だった。

 明命の〝魂切〟を鍛えあげた鍛冶氏のもとを訪れ、香蓮は同じ形状の武器を持つもう一人のために新たな一振りを鍛えあげていたのだ。

 (〝徒桜〟があるあいつに・・・今すぐに必要というわけではないだろうがな)

 別に、〝徒桜〟を捨てろとか、自分が贈るこの刀に乗り換えろなどとは、言うつもりは全くない。

 香蓮は、ただこの一振りを、腰に下げるだけでいいから持っていて欲しいと、ただそれだけを願っていた。

 「まぁ・・・使ってくれたらそれが一番嬉しいがな」

ハッと一笑して作業を続ける。既に作業工程の六割が終わっている状態だが、ここで気を抜けば全てが水の泡。香蓮は一刀と相対した時の様に集中して残りの作業を続けた。

 (しかし、〝赤帝〟を打ったときもそうだが・・・刀剣作りは・・・神経を使う)

 王の証である〝南海覇王〟を雪蓮に託す数年前に、香蓮は自身が持つ新たな剣を鍛えていた。それが〝赤帝〟である。

 〝南海覇王〟とは違い大剣である〝赤帝〟は慣れる事に些か苦労をしたものの、慣れてしまえば何という事もなく、むしろ〝南海覇王〟の時には持て余していた力を存分に発揮できる分、ずっと相性が良かったのだ。

 (・・・)

 自分はそうだったが、一刀にとっては果たしてどうであろうか。

 使いこなせない武器など腰に下げる意味すらない。ただの荷物にしかならないのだが、それでも香蓮は刀を贈りたかった。

 

 そうして、一振りの刀がこの世界に生まれた。

 香蓮の手で直接一刀に渡されるこの刀は、後に彼の愛刀として乱世を駆け巡る事になる。

 それは、もうすぐ訪れる事になるのだが、そんな事を知る者は誰一人としていなかった。

 

 

 「・・・」

 木の上でぼけーっとする少女が一人。

 燕だ。非番の日、用事の一つもなければこうして木に登って呆けているのが好きだった。

 「・・・」

 料理や裁縫が趣味である彼女なのだが、最近は全くやっていない。

 「恥ずかしい・・・」

 氷花と出会った頃は全く気にしていなかったのに、最近は気になってしょうがないのだ。

 どちらかに手をつけようと思うと一瞬頭をよぎる顔がその手を止めてしまう。

 

 ――北郷一刀。

 

 燕や氷花の上司にして、燕が尊敬する数少ない人物の一人で。

 今は、気になっている異性だった。

 考えただけで顔が熱くなってゆく。

 燕には初めての経験だった。そもそも、彼女は異性というものに興味を持った事がなかったのだ。それが、呉で一刀と出会い彼の下で働くようになってから一変した。

 燕は基本的に自分が変わっているという事を自覚している。

 そのせいで周りが距離をとっているという事も。

 だが、氷花に出逢い。雪蓮に出逢い。香蓮に出逢い。祭に出逢い。冥琳に出逢い。穏に出逢い。

 ――そして、一刀に出逢った。

 彼に出逢った後に出逢う事になった蓮華、思春、明命も。彼女と分け隔てなく接してきた。

 燕からすれば、それら全てが新鮮で、驚きで、困惑だったのだが、その中でも一刀は群を抜いていた。

 進んで自分の手を掴んでくれた。

 あの時の手のぬくもりと思い出は今でもはっきりと覚えている。

 「・・・かずと」

 すっと腰に下げた自分の愛剣の柄に手を添える。

 そして、いつもののんびりした声も、のほほんとした顔も一気に形を潜めた。

 

 ――「〝焔澪〟・・・燕は一刀を守るよ。それで、みんなが燕の事を怖がることになっても・・・ね」

 

 剣に語りかけた所で、返ってくる声などある筈はない。それでも、今この胸にある想いを声にする事こそが彼女にとって重要だった。

 「・・・ん♪今度、かずとに何か作ってあげようかな」

 いきなり、雰囲気が緩む。いつの間にか〝焔澪〟の柄から手を放しており、それまでの真剣な表情も声も失せ、いつもの燕に戻っている。

 燕は、空を見上げる。

 「がんばろ」

 

 ――ただ一言、そう言うのだった。

 

 

 「シャオ?どこにおるのじゃ?・・・妾は見つけるのが下手なのじゃからもう少し手を抜いて欲しいのじゃあ」

 金髪の少女が半泣きになってあちこちを歩き回っている。

 「もう、美羽ってばすぐ泣くんだから・・・ほぉら、シャオはここにいるよ」

 香蓮、雪蓮、蓮華、そのいずれにも少女は似通っていた。

 そう、この少女こそが孫尚香だった。

 「えぐっ、見つけたのじゃ」

 後ろから抱き締められ、頭を撫でられて半泣きになっていた少女――袁術は笑顔になる。

 年の差はあまり感じられない二人だったが、尚香のほうがよほどお姉さんだった。

 「シャオ・・・妾は・・・シャオの友達・・・かの?」

 「うん・・・っ!誰!?」

 続きを言おうとして、気配に気づき、袁術を抱き寄せその背後に怒声を掛ける。すると柱の陰から黒い外套を見に纏った仮面の男が姿を見せた。

 「まさか気付かれるとは思わなかったな・・・末とはいえ、流石は孫呉の姫君。だけど、安心していいよ。個人的にいろいろ情報集めをしてるだけなんでね。危害は加えない」

 「・・・・」

 怯えた様子の袁術を安心させるように抱きしめながら、尚香はなお男を睨みつける。

 小柄な外見こそしているが、彼女もまた孫家の人間なのだ。簡単に警戒を緩めたりはしない。

 「やれやれ・・・わかった。俺は去るとしよう」

 そして男はそのまま霞のように消え去った。

 残された二人は、後から来た張勲から何かあったのかと尋ねられても、答える事も出来ずに訳も分からないまま立ち尽くすばかりだった。

 

 

~あとがき~

 

 

 新章突入・・・になってませんね。

 董卓連合前のプロローグ感覚で読んでください。ちゃんと董卓連合の話のどこかで繋がります。 シャオはこのタイミングで一度出そうと思っていたので出した次第です。彼女の出番はまだまだ先・・・もうしばらくお待ちください。

 新キャラの黒い外套の仮面の男に関してもその正体は今のところ内緒。

 貂蝉が出てきましたが、あの漢女も正体については知りません。

 なのでこれからのこのお話を楽しみにしてください。

 

 ――次回からちゃんと始まる董卓連合編、書くキャラが凄まじく増える・・・考えただけで軽く頭痛が・・・。

 汜水関編 虎牢関・・・そして洛陽と三部に分けるつもりです。

 

 それではまた――

 Kanadeでした。

 


 
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