No.128242

剣帝✝夢想 第十四話

お久しぶりです、へたれ雷電です。

春休みのはずなのになぜか忙しい毎日です。

なぜだろう?

2010-03-05 19:07:33 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5642   閲覧ユーザー数:4891

益州と荊州の国境沿いにある城の一つに入城したレーヴェたちを待っていたのは、その城の長老だった。彼の要求…というよりお願いはただ一つ、レーヴェたちに新たな太守となり、この益州を纏めてほしいということだった。

 

長老の話を聞いてみれば、劉璋の一族の身勝手な振る舞いのひどさがよくわかってくる。愛紗や鈴々たちは憤慨し、朱里や雛里は顔を曇らせていた。もっとも、劉璋の無能さというのは、こちらの並べ立てた嘘がほとんどの正当性を信じて、まんまとこの城を開け渡したということからも窺えるのだが。

 

言い方は悪いが、元々益州を横からかっさらおうとしていたレーヴェたちにとっては、大義名分というものができたことになった。レーヴェは、桃香のように苦しんでいる民を助けたいという思いだけではなく、いくつかの打算や思惑を抱きながら、それを承諾した。そしてレーヴェたちは目指す。益州の平定を、益州の州都である成都を。

 

 

 

 

「さて、ここから成都を目指すためには…二十ほどの城を落とさねばならない。朱里、この先にある城を守る将について分かっていることは?」

 

まだ傷も癒えず、本調子ではないレーヴェが朱里へと声をかける。レーヴェの周りには赤い鎧を着た兵士が待機しており、なにかあったときにはすぐに対処できるように警戒を行っている。

 

「はい。今から向かうお城の城主は、黄忠さんといって。将として有能、かつ仁慈に満ち、徳望熱い方だと聞いています」

 

「黄忠、たしか弓の名手だという報告があったな」

 

「ご主人様の耳にまで届いているということは…有能な将であるということは間違いないみたいですね」

 

レーヴェの言葉に愛紗はぽつりと呟く。いくら劉璋が無能だといっても、益州を守る兵の数は多い。それだけでも今のレーヴェたちにとっては厄介である。レーヴェが本調子であるのならば、そこまで状況は悪くないのだが、レーヴェは現在負傷中で、剣は振ることはできるが、つけられた傷はレーヴェの動きを制限する。普通なら起こり得ない、万が一が起こりうるかもしれない。その上、その兵を有能な人物が率いているのであれば、厄介なことこの上ない。

「城に着くまではあと一日ほど、黄忠が袁術のように斥候を放っていないなんてことはあるはずもなく、間違いなくこちらの動きをとらえているだろう」

 

「…夜襲を警戒せねばならんな」

 

華苑の言葉にレーヴェは、その通りだ、と頷き、口を開く。

 

「しばらく進んだ場所で見通しのいい場所で野営の準備をすることにしよう」

 

レーヴェの言葉に皆が頷き、野営の準備を進めるために駆けていった。」

 

 

 

結局、夜襲を受ける事はなく、夜が明けた。早々に出発したレーヴェたちは、ほどなく黄忠の治める城へと到着した。黄忠の軍が出てくる様子はなく、黄忠は籠城を選んだようだった。また、レーヴェの噂を聞いているのか、城門も補強されているようだった。

 

「流石に、今の体調では崩せないか」

 

レーヴェは補強されている城門を見て唸る。

 

「こちらの兵力は五万、向こうは六万、普通なら厳しい戦いになるでしょうが…」

 

「益州の主要都市に情報収集と同時に、流言を流すように指示しています。各地で桃香様とご主人様の入城を待つ民の声も集まっていますし、お二人の入城を煽る工作も影さんに手伝って貰って行っています。それは黄忠さんの城も例外ではありません」

 

「うわ、いやらしいことするなぁ。黄忠も気が気じゃないだろ」

 

朱里の言葉に続けた雛里の言葉に白蓮が嫌そうに顔をしかめた。自分が同じことをされたら、ということを想像したのだろう。レーヴェはよくやった、と二人の頭を撫でてやる。二人は嬉しそうに笑ってそれを受け入れ、レーヴェは少しの間撫でたあと、手を離して口を開いた。

 

「では、これより軍を展開し、攻め立てつつ、我らの到着を民に知らせるために矢文を放つ」

 

「御意、先鋒は翠、華苑、鈴々が。左右を私と星が受け持ちましょう」

 

「私はどうすればいい?」

 

「白珪殿は本陣で待機しておいてもらおう。攻城戦に騎馬隊は必要ない」

 

「それもそうだな。袁紹たちは…」

 

「ふむ、薬で眠っていてもらうか、縄で縛っておこうか」

 

レーヴェは真顔で言いきった。冗談のかけらもない真顔で。

 

「そ、それはひどいんじゃないかな」

 

「いい手ですね~」

 

桃香と朱里の言葉が重なる。一同はしばらく沈黙した後、ゆっくりと、朱里の方へと視線を向けた。視線を向けられた朱里は縮こまって口を開く。

 

「じ、冗談ですよ」

 

絶対に冗談じゃなかったな、こいつ、と皆は思いながら乾いた笑いを浮かべた。

 

「ともかく、袁紹のことは白蓮と恋に任せよう。言葉で聞かないのならば、恋が力づくで止めてくれ」

 

「…ん」

 

恋はこくりと頷いた。

 

「ご主人様は桃香様とともに後方で待機していて下さい。まだ傷は治っておられないのですから」

 

愛紗の心配そうな顔にレーヴェは黙って頷く。下手に戦場に出れば、レーヴェはともかく、愛紗はこちらのことが気がかりで集中を途切れさせてしまうかもしれない。そう判断して、レーヴェは傷が癒えるまでは大人しくしていようと決めた。

そして、そうこうするうちに攻城戦が始まったのだが、そう大した時間も経たないうちに、城門が開かれ、一人の女性が白旗を持って出てきていた。恐らくあの女性が黄忠なのだろうが、その表情を見る限りは、ただ降伏の申し入れに来たわけではなさそうだとレーヴェは判断した。そして、愛紗と星、桃香を連れて彼女のところまで進んでいった。

 

「オレはレオンハルト。そしてこちらが劉備、関羽、趙雲だ。用件を聞こうか。ただ単に降伏しに来たのではないのだろう?」

 

「…尋ねたいことは二つ。劉備さん、レオンハルトさんは益州を平定し、一体何を目指そうと言うのか。そして、管輅により、この戦乱を収めるために舞い降りたというあなたがどうして益州に攻め入り、戦乱を巻き起こすようなまねをするのか。返答次第では…この身が滅ぶまであなたたちに抵抗するでしょう」

 

「…なぜ、益州に攻め込むか、戦いを始めるのか、か。今のところそれしか方法がないからだ。黄巾党から始まった乱世。それを収めるために必要なものは一つ。力だ。力がなければ桃香の自分たちの力を力無き者たちの幸せのために使いたいという理想も実現できない。力を持たぬものがそんなことを言って、誰がそれを認める?耳を傾ける?オレははっきり言えばこれといった理想はない。力無きものを守りたいという心は確かにあるが、桃香の理想に思うところがあるから彼女たちの主をやっている。だからこそ、彼女たちの理想を実現に近づけるためにこの剣を振るっている。今までも、そしてこれから先もずっと。この身が、もう一度滅びるまで」

 

黄忠はレーヴェの瞳を見据えて、無言でその言葉を聞いている。もう一度、と思わず言ってしまった言葉に誰も反応は示さない。気づいていない、そして言ったレーヴェ自身も気づいていない。

 

「ならば、なぜ益州を攻めるのです」

 

「人々に求められたから、というのが理由です。重税がかけられ、その税は内乱を続けるために使われている。そんなの、おかしいと思うんです。私は、私たちは内輪もめに熱中して、民のことを考えない人たちをやっつけたい。確かに、私たちが来なければ、戦いに巻き込まれなかった。それは事実です。でも、このままじゃ、更に大きい戦火に巻き込まれて悲しい思いをする人が大勢出てしまう。だからこそ私たちはここに来たんです」

 

「……お話は分かりました。あなた方が何を思い、何を志しているのかということも。しかし、私たちには城を守り、民たちを守るという責務がある」

 

黄忠は鋭いまなざしでレーヴェを射抜く。彼女も劉璋ではもう駄目だということは分かっているのだろう。そしてだからこそ、自分が民を守らなければいけないと。

 

「だからこそ戦ったというわけだな。その心意気には心からの尊敬を覚える」

 

「うむ、将として城主としてあなたの行動は正しく、誇り高いものだ」

 

「だからこそ、私たちに降ってほしいのです。決して悪いようにはしませんから」

 

だが、黄忠は黙っている。確かに、民のことを考えればそう簡単に頷くわけにもいかないだろう。そのとき、城壁のほうから様々な声が聞こえてきた。

「劉備様、レオンハルト様~!よくお越し下さいました~!」

 

「劉備様~!」

 

「レオンハルト様~!」

 

「黄忠様!もういいんです!黄忠様のお心は十分伝わっていますから、もう戦わないでください!」

 

「そうだぜ!レオンハルトさん、劉備さん!黄忠様を助けてあげておくんなせぃ!」

 

そこには、城中の民が城壁の上に押し寄せていた。そして口々にレーヴェたちを歓迎する言葉と黄忠の助命を嘆願する声が聞こえてくる。それを見て、レーヴェは珍しく声を漏らして笑っていた。

 

「ははっ、民は正直なようだな。あれだけの数の人間があなたの助命を嘆願するとはな。どれだけあなたが民に心を砕いてきたかがよくわかる」

 

「ええ、素直に嬉しく思います」

 

「そんなあなただからこそ、オレはあなたが、黄忠という人間が欲しい。ああまで民に慕われる人間というのはそうはいない」

 

「承知いたしました。この身、あなた方にお預けしましょう。民が望み、そして私もあなた方を信用できると判断しましたから。理想だけを騙る愚か者なら、剣帝とよばれるあなたに敵わぬとしっていてなお、この身にかけて討ち取ろうと思っていましたけど」

 

そういって黄忠は懐から短剣を取り出して投げ捨てた。それに他の者は驚いていたようだが、レーヴェは特に驚かなかった。当然だろうとすら思っていた。一体どこに白旗を掲げているためとはいえ、完全に丸腰で話し合いに来る人間が…いた。そういえば、桃香なら平然とそういうことをしそうだった。

 

「オレの名はレオンハルト、親しいものからはレーヴェと呼ばれている」

 

「私の真名は桃香!黄忠さん、これからは仲間としてよろしくお願いします!」

 

「ええ、我が名は黄忠。字は漢升。真名は紫苑。我が主となりし人よ、この名、お預けします」

 

優雅な仕草で黄忠…紫苑は一礼する。ここに、この戦いは終結を迎えた。

 

紫苑の居城に入城したレーヴェたちは、状況の整理を行っていた。兵士たちの状態、これからをどうするか、ということを。そして雛里の進言により、一日の休息を取ることが決定した。そして、これからの進軍先を巴郡、巴東、江陽のいずれにするか、というところで、紫苑が口を開いた。

 

「与し易さでいえば、巴東や江陽の二つです。しかし、私は巴郡に進軍していただき、巴郡城主厳顔と、その部下魏延の二人に会っていただきたいのです。元々懇意にしていた間柄ですから、説得の仕方によっては分かってくれるかと思うのです」

 

説得の仕方、という言葉にレーヴェは間違いなく言葉だけで言うことを聞くような人間ではないのだろうと推測した。

 

「城を落とす速さでいえば先の二つの方が早いでしょう。しかし、厳顔と魏延の二人を説得できたならば、成都へ向かう道々にあるお城は、ことごとくご主人様と桃香様の物になるでしょう」

 

「それほど人望厚きものなのか」

 

星が感心したような顔で口を開く。紫苑はそれに頷き、少し言いにくそうに口を開いた。

 

「実力、人望申し分のない二人ですが…その、そんなだからこそ頑固なところもありまして。素直に説得に応じるかどうかが分からないのです。恐らく、一戦して力を示せ、ということになるでしょう」

 

「ならば、力を示し、その上で説得すればいい」

 

「ご主人様の言うとおりだな!」

 

「うむ!やはりそうでなければ!」

 

レーヴェの言葉に翠と華苑は賛同した。その横では蒲公英が、うわ~、また体育会系が~、などと呟いていた。

 

「では、進軍先は巴郡に決定する。説得工作は…紫苑に任せる」

 

「御意」

 

「他は明後日の進軍に向けて部隊の編成を、朱里、雛里は城内の物資の確認を。影は情報収集の方をよろしく頼む」

 

「「「御意(はい)!!」」」

 

「それじゃ、みんな。明後日の出陣に向けて英気を養おう!ご主人様は怪我人なんだからちゃんと休んでね」

 

桃香の言葉を皮切りに、レーヴェたちはそれぞれのやるべきことを為すためにその場を去っていった。

 


 
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