No.125080

身も心も狼に 第15話:初めまして

MiTiさん

今回は話の都合上ルビナス自身が登場することは無いですが、会話の中にはちゃんと出てきます。

では、どうぞ…

2010-02-18 01:05:05 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:3323   閲覧ユーザー数:3041

瞼の向こうから明るさを感じて、仄かに漂う匂いを感じながら目覚め、

目を開けようとすると、電光のまぶしさに慌てて目を強く瞑る。

 

今度はゆっくりと、そのまぶしさに慣らしながら目を開ける。

 

初めに見たその天井は、自分にとって見慣れないものだった。

視線を動かすと白い壁とリニア式の扉、

逆に動かすと壁から壁に続く広い窓。

 

自分の部屋ではない。しかし、どこか見覚えのあるこの場所は、

 

「…病院?」

 

何故病院に?状況を把握する為に、起き上がろうと腕に力を込め、

 

「っ!?」

 

ようとし、片腕から激痛が走った。

何事かと見てみると、片腕の肩から肘にかけて包帯が巻かれていた。

その巻き具合からかなりの怪我であることが窺える。

 

「…何があった?」

 

呟きながら思い出そうとする。

恐らく昨晩、コンビニに買い物に向かった。

公園の横を通り過ぎようとし、そこで、

 

「ルビナス…」

 

彼女に会った。

そうだ、この傷はルビナスによるもの。

大怪我をしていた彼女は、近付いてきた自分を恐れ警戒し、攻撃してきた。

が、敵で無いと分かってくれて放してくれた。

 

「そうだ、ルビナスは?」

 

と、見回してみるが、個室らしくベッドは一台しかない。

と言うより、人間用の病院に動物が、狼がいるはずはない。

 

そこまで考えたとき、扉が開いた。

 

「…おお!気がついたかい!?」

 

 

入ってきたのは一人の男性。

外見年齢は幹夫おじさんより一回り若いくらい。

眼鏡が似合っていて、なんとなく学者か何かに見える。

そして、特徴的な長い耳、魔族である証だ。

 

バーベナ学園の教員や近所にも魔族の人は何人かいるが、

目の前の男性は記憶に無い。

 

「あの…あなたは?」

 

「ああ、大怪我を負っていた君を発見したんだ」

 

「そう、ですか。ありがとうございます」

 

「いやいや、当然のことをしたまでだよ。あのままではどうなっていたことか…」

 

「…そんなに酷かったんですか?」

 

「医者の話によると、下手をすれば片腕が使えなくなっていたかもしれないといわれたよ」

 

「………」

 

その言葉に、思わず包帯に巻かれた腕に手を添える。

あの時はルビナスを助けることしか頭に無く、自身の怪我のことなど気にならなかった。

目の前にいる男性が助けてくれなかったら言葉通りになっていただろう。

そうなっては、楓が聞いたら気絶どころではなくなってしまう。

 

「そういえば…楓…えっと、家の人に連絡は?」

 

「すまない、君の荷物の中には住所が分るものが無かったから出来なかったんだ」

 

「そうですか。じゃ、今から連絡入れに行きたいんですが、俺って動いてもいいんですかね?」

 

「出血多量でふらつくかもしれないのと、治癒魔法と手術で傷は塞がっているとはいえ、

 完治はしていないということに注意すれば、問題ないと言っていたよ」

 

「そうですか、それじゃ…」

 

と、なるべく片腕を使わずに身体を起こし、足を床に着け立とうとし、

そこで立ちくらみを起してしまい倒れそうになる。

が、身体が揺れた直後に男性が動き、支えてくれたお陰で倒れずに済んだ。

 

「スイマセン…」

 

「いや、無理しない方がいいよ」

 

「はい、でも連絡を…」

 

「ふむ…それじゃ電話の所まで僕が支えていこう」

 

「ありがとうございます」

 

大丈夫と思っていながらダメだったので、男性の善意を受け、支えられながら電話の所まで行く。

 

 

プルルル、ガチャ

「もしも『稟君大丈夫ですか!!?』っ―――!?」

 

1コールで相手の受話器が取られ、僅か3文字しか口にして無いのに、

電話の相手はそれだけで声の主、稟のことを看破し、

傍らで見守っていた男性にも聞こえてしまうほどの大声が響いた。

 

「つつ…あ~、楓?一先ず落ち着『落ち着けるはずがありません!

 だって何の連絡も無いまま一晩経ってしまったんですよ!

 救急車のサイレンの音が聞こえてまさかと思い、

 考えすぎだ、きっと違うと思いつつもまさかという考えが消えず…

 そういえば稟君、今どこに?』

 

「あ、ああ。今病院に『病院!?

 も、喪、摸、桃、もしかして何か怪我を!?』

 

「あ~、腕を『腕をどうされたんですか!?

 擦ったんですか、切ったんですか、折れたんですか、

 抜けたんですか、取れたんですか、無くなってしまったんですか、

 生えてきたんですか、一体何があったんですかーーー!?』

 

「…生えてくるわけが無いだろう。ちょっと噛まれ『何にですか!?

 何が稟君の身体を食荒らしたんですか!?

 こ、こ、こ、こうなったら稟君の身体を弄んだ犯人を、

 私が直々に制裁をーーーーーーーー!?』

 

「…フゥ~~」

 

『ぅあ…り、稟君。突然耳元で息を吹きかけないでください///』

 

「いや、受話器越しで空気が送れるはず無いだろ?

 まぁ、落ち着いたな。とりあえず、もう問題ないから。

 手当ても終わってもう問題なしって言われたよ」

 

『そ、そうですか。じゃぁ直ぐに退院できるんですね?』

 

「ああ、ただ思ったより血を流しすぎたみたいで少しふらつくんだ。だかr」

『分りました!直ぐ迎えに行きます!!』

ガチャ、プーーープーーープーーー…

 

 

十数秒、相手の電話が切られたことを告げる電子音を響かせながらの沈黙が続いた。

一分にも満たない会話であったが、二人を唖然呆然驚愕させるには十分だった。

 

稟は、一応予想はしていたのだが、それを遥かに超える楓のテンパリ様に。

 

男性は0.5を聞いて10を考え出す電話の相手と、一見慣れたように会話が出来ている目の前の青年に。

 

しばらくし、稟は受話器を置き、苦笑を浮かべながら男性に向く。

 

「…あ~、騒がしくしてスイマセンでした」

 

「アハハ、良い家族だね。あれだけ心配してくれるんだから」

 

「…そう、ですね」

 

そして、男性からも苦笑が返って来た。

 

「さて、家の方が来たときの為に用意しておこうか?」

 

「はい。と言っても、財布と服くらいしかないですが」

 

「服と言えば、血を洗い流す為に洗濯中なんだけど、伝えて無かったね」

 

「ん~、その辺は楓が用意してくれると思うので大丈夫だと思います」

 

「…そうか、君の家族はすごいね」

 

「全くです」

 

 

その後、来た時と同じく稟は男性に支えられながら個室へ戻り、迎えを待つことにした。

 

 

個室で待つこと十数分、廊下を走るパタパタという音が近付いてきたかと思うと、

扉が勢いよく開かれた。

 

「稟君、大丈夫ですか!?」

 

飛び込んできたのはオレンジの髪の美少女、楓だ。

その美貌に被った、僅かな隈と涙の跡からは、どれだけ心配させてしまったかを思わせ、

稟を申し訳なくさせた。

 

「俺はもう大丈夫だよ、楓。心配かけてゴメンな」

 

「グス…いえ、稟君が無事なら私はそれで…」

 

「それでも、ゴメンな」

 

「…もう、心配かけないでくださいね?」

 

「全くだよ」

 

と、楓の言葉に続くようにして入ってきたのは一人の男性、楓の父、幹夫だ。

この日は休日ではあるが、仕事柄日曜でも家にいないことが多い彼がここにいる。

幹夫は帰ってくるときは必ず前日に連絡が来る。だが、ここ最近帰って来るという報せはなかった。

恐らく、帰宅しない稟を心配して、急遽楓が呼び、帰宅してきたのだろう。

 

「心配かけてスイマセンでした、おじさん」

 

「まぁ、急に病院に運ばれるようなことだ。 事前に報せるなんて無理だろう。

 …今までなくても問題なかったけど、やっぱり携帯は持っておくべきだね。

 今度…今日これからでも買いに行こうか」

 

「いや、そんな簡単に…いいんですか?」

 

「むしろ今まで持たせていなかった方が問題だろう。

 今回みたいなことが起こると大変だ」

 

「…わかりました。ありがとうございます」

 

「ああ、楓も買っておこうか。これでいつでも稟君と連絡が取れるしな」

 

「はい!」

 

 

携帯購入が決まったその時、扉がノックされた。

 

「はーい」

 

「失礼。お、ご家族の方の迎えが来たようだね」

 

「稟君、この方は?」

 

入ってきた、稟となにやら親しげに話す見知らぬ男性に、この人は誰かと問うて来る。

 

「ああ。俺を病院まで運んでさっきまで付き添ってくれてたんだ」

 

「そうですか。本当にありがとうございます」

 

「いえ、お気になさらず。家の近くで倒れているのを偶然発見しただけですから」

 

「ん?てことは、うちの家の近所に住んでるんですか?」

 

家の近くという言葉から、彼は芙蓉家宅の近所と言うことになるが、

これまで彼の姿を見たことは無い。

 

「…そういえば自己紹介が未だでしたね。

 初めまして。数日前魔界から越してきたハリエンです。どうぞよろしく」

 

「そうですか、こちらこそよろしく。

 私は父の芙蓉幹夫です。楓…あ、娘の生まれるより以前から住んでいるので、

 何か分らないことがあれば是非頼ってくださいね。

 近所の縁と、稟君の恩人です。仲良くしましょう」

 

「はい、その折はよろしくお願いします」

 

父の挨拶が済み、今度は自分もと楓と稟は挨拶しようとしたところで、

再び扉がノックされた。

 

 

「ハリー、入ってもいいかしら?」

 

「ああ」

 

ハリエンことハリーの返答の後に入ってきたのは一人の魔族の美…少女?

栗色のウェーブのかかった髪を肩ほどまで伸ばした女性で、外見年齢は判断しにくかった。

女子大生と言うのが一番違和感無いが、ハリーと愛称で呼ぶ当たり彼と親しい間柄と言うのは分る。

姉、妹、娘でも通じるかもしれない。ハリーもかなり若く見えるが、童顔であることからも判断しかねる。

 

「ああ、紹介します。妻のマオランです」

 

「初めまして」

 

と、微笑みを浮かべながら言われ、それを聞いた三人は心底驚愕した。

 

「ず、随分お若いのですね…失礼ですがお歳は?」

 

「よく聞かれるんですが、これでも僕は○○歳で、マオは一つ下です」

 

「わ、私より10以上、ですと!?」

 

「お、お父さんよりもそんなに年上…」

 

「マジかよ…」

 

外見と実年齢が全く合っていない夫婦を見、そういえば自分達の先輩にも、

一児の母とは信じられない、むしろ自分達と同年代か年下に見えてしまう人がいたなぁ、

と思い出し、世の広さ…或いは狭さを実感するのであった。

 

 

「ところで、向こうはもう済んだんだけど、こっちはもう終わったかしら?」

 

「ああ、後はご家族の人に書類を書いてもらえば直ぐ退院できるよ。

 それで…容態は?」

 

「フォーベシイ様が手配してくださったお陰で手当ては済んだわ。

 安静にしておけば直ぐ良くなるって」

 

「そうか…」

 

年齢に驚く三人を他所に、二人は何か話している。

幹夫と楓は何のことかさっぱりだったが、稟は容態という言葉に、彼にとって重大なことを思い出す。

 

「あの」

 

「ん、なんだい?」

 

「ルビ…えっと、俺と一緒に狼がいたはずなんですけど、彼女はどうなりました。今どうしていますか?」

 

その言葉に、稟以外の表情が驚愕に染まる。

それぞれ無いようは異なり、幹夫と楓は、

 

「り、稟君!その怪我は狼によるものなんですか!?」

 

と言う点だ。だが、これに関しては、傷はもう手当て済みだし、

稟本人がもう気にしていないと言った。

 

一方、ハリーとマオは、言いかけたルビと言う言葉に、

怪我の犯人であるはずの狼を許し、更に心配までしていることに驚いていた。

そして、楓や幹夫が彼のことを稟と呼んでいることを思い出し、ある考えにいたる。

 

目の前にいる彼が、例の稟、ルビナスが話していた土見稟であると。

 

「君は、稟君はあの狼のことを?」

 

「はい。名前はルビナス。数年前に一寸事情があって別れた俺の、大切な家族です」

 

この言葉はハリー達を更に驚かせた。

狼であるルビナスを、迷うことなく大切な家族であるといった。

驚くと同時に納得もした。ルビナスが彼を想う事に。

 

「そうか。僕達はちょっとした縁で、故郷と本当の両親を失った彼女と、

 ルビナスと知り合ったんだ」

 

「な!?失ったって…」

 

「実は…」

 

 

ハリーとマオは語る。少し昔、魔界である実験が行われており、

それが暴走し、実験と研究が行われていた施設と、施設があった森の一画が消滅したこと。

その暴走に巻き込まれて、一匹の子狼、ルビナスが人間界に飛ばされてしまったであろうこと。

 

言葉を交わせなかったために知り得なかったルビナスの過去。

これを知ることが出来たが、稟は喜べなかった。

 

「その実験でね、僕達も娘を失ってしまったんだ…」

 

「ルビナスを他人とは思えなかった私達は、彼女に私達の義娘にならないかと提案したの」

 

「そして、ルビナスは受け入れてくれたんだ」

 

「そう、ですか。ありがとうございます」

 

今この場にはいないが、ルビナスと再会できたのはこの二人のお陰である。

そう思い、稟は心の底から感謝した。

 

「でも…ルビナスは何であんな怪我を?」

 

ハリーとマオは無傷健康そうであるが、ルビナスは全身に怪我を負っていた。

越してくるのであれば、普通家族一緒であることを考えると、疑問がわいてくる。

 

「…実は、数日前魔界の門で事件が起きて、門が不安定になり暴走したんだ。

 ルビナスはその事件に巻き込まれてしまったんだ…」

 

「私達はルビナスのお陰で、門が不安定になる前に人間界に渡ることができたのだけど…

 ルビナスは、事件によって暴走した門に引き込まれてしまったの…」

 

三界を繋ぐ門の暴走。それがどれ程のものなのか。

まして、それに巻き込まれたと知るだけに、ハリーとマオがどれほど落ち込んだかは想像に難しくない。

 

「だから、稟君があの場所でルビナスと一緒にいてくれたお陰で、

 僕達は彼女と会えたわ。改めて御礼を言わせて」

 

「いえ、俺も嬉しいですから。ルビナスに会えて…

 そういえば今ルビナスは?」

 

「ああ、ルビナスは魔界の中でも珍しい、と言うか絶滅種とも言える存在でね。

 普通の獣医に診せるわけには行かないからね」

 

「それで、知り合いに偉い人がいて、その人の紹介された信用できる医者に診てもらったの。

 今は手当ても終わったから、後はルビナスが目を覚ますのを待つだけよ」

 

「そうか、良かった…あの、会いに行ってもいいですか?」

 

「もちろん、歓迎するよ」

 

「それで、ハリエンさんと「僕達のことはハリーとマオと呼んでくれていいよ」

 

「そうですか。で、ハリーさんとマオさんのご自宅は?

 うちの近所って言ってましたけど…まさか、あの豪邸のどっちかとか?」

 

「いや、違うよ」

 

「そう、ですか」

 

魔王という存在がいる魔界から引っ越してきて、偉い人と知り合いであることから、

恐る恐る聞いてみたが、あっさりと返って来た否定の言葉に何故か安心してしまった。

が…

 

「その豪邸に挟まれた所だよ」

 

「「「…って、裏ですか!?」」」

 

フェイントを喰らった感じがして、稟・幹夫・楓がそろって突っ込んだ。

 

 

その後、諸々の手続きを済ませ、稟達は幹夫が運転してきた車に乗って携帯ショップへと、

ハリーとマオは徒歩で帰路に着いた。

 

その途中、

 

「彼が、ルビナスが話していた”土見稟”君か」

 

「優しそうな子だったわね」

 

「ああ。ルビナスがおきたら教えてあげなくちゃな」

 

二人は稟に会ってきたことを教えたときのルビナスの反応を想像しながら歩く。

 

「そう言えば、ネリネちゃんにシアちゃんは」

 

「フォーベシイ様の話だと、あちらも人間界の暮らしに大分慣れてきたから、

 来週までには通い始めるって仰っていたよ」

 

「そう、残念ね…一緒に行けなくて」

 

「まぁ、仕方ないよ。でも、怪我が治って力を取り戻したら直ぐに通うことになるよ」

 

「そうね」

 

そんな会話をしながら二人は新居へと歩を進める。

 

 

 

果たして、二人は何について話しているのか…

 

 

土見稟、彼を中心に、日常が非日常に、

 

平凡な毎日が祭のような毎日に変わる日は、もう直ぐそこ…

 

 

第15話『初めまして』いかがでしたでしょうか?

 

…無理ありましたかね?ハリーとマオの年齢設定。

 

亜沙を産んだ亜麻の両親ということでこのくらいかと考えたんですが…

 

時間軸についてもなんだか曖昧ですね。

 

詳しい日にちを調べてあわせるというのが面倒だったてのが本音ですが…

 

そこは大目に見てください。

 

 

さて、魔王神王家よりも早くに引越しの挨拶を交わしたルビナス家と芙蓉家。

 

ルビナスが近所、と言うか裏に住んでいると知り喜ぶ稟。

 

なにやら暗躍?とまでは行かないですか、なにかを企てているハリーとマオ。

 

この先どうなるのでしょう?

 

次回、第16話『ルビナスのサプライズ計画』お楽しみに。


 
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