No.123804

真・恋姫無双 ~美麗縦横、新説演義~ 蒼華繚乱の章 第四話

茶々さん

茶々です。
何か色々募集をしている茶々です。

遂に四話……いや、まだ四話か?どっちにしても四話です。
汜水関の戦闘ほぼはしょっての虎牢関前哨です。

続きを表示

2010-02-11 22:21:13 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2775   閲覧ユーザー数:2450

新・恋姫無双 ~美麗縦横、新説演義~ 蒼華綾乱の章

 

*この物語は、黄巾の乱終決後から始まります。それまでの話は原作通りです。

*口調や言い回しなどが若干変です(茶々がヘボなのが原因です)。

 

*今回の話は、微妙にグロい表現があります。直接的な描写は出来る限り避けましたが、とりあえず注意だけでも。

 

 

 

第四話 雨中 ―流々、大地を濡らす赤―

 

 

 

汜水関から虎牢関へと繋がる大路――董卓の勢力によって軍用路として活用され、恐るべき速度で整備された道――を疾走する騎馬軍団。

 

ある程度の規律こそあれど、その様は正しく逃げる者たち。

糧食も装備もそこそこに駆け抜けるその一団が向かうのは、自分たちの最後の砦。

 

「くそっ、くそっ!おのれェ…だからあの猪は!!」

 

忌々しげに吐き捨てるのは、先頭を駆ける李儒。その後方から更に速度を上げて、一人の女性が馬上から声をかけた。

 

胸にサラシを巻き、着物を肩にひっかけた女性――神速と謳われる張遼、字を文遠である。

 

「しゃあないやろ!?あいつは…所詮一個の武を抜けられんかった。それだけなんやから!」

「武人の性(さが)など知るか!あやつがあの安い挑発に乗らなければよかったものを……ええい忌々しい!!」

 

歯軋りして李儒は怒鳴った。

 

 

 

事の起こりは、数刻前。

 

関へと寄せてきた連合の兵は―――僅か数騎。

呆気に取られていた李儒を余所に、つかつかと関の近くまで一騎が寄ってきた。

 

それが、艶やかな黒髪を棚引かせた女傑・関雲長だと知っていれば、恐らく李儒は間髪いれずに矢を射かけさせただろう。

だがこの時李儒は「たかが一騎で何が出来る」と、相手を見下して嘲笑を浮かべていた。

 

その慢心こそが、命取りだった。

 

「華雄!猛将を名乗る猪よ!貴様はその武を誇りながら、討って出ることすら出来ぬ臆病者か?くやしければその姿を現してみてはどうだ!?」

 

馬上での、大声での罵倒。

李儒がマズイと思った時、それはすでに遅かった。

 

「どうした華雄!それすらも出来ぬか?愚鈍な亀が!猛将とは所詮噂の独り歩きだったと見える!大方その武を吹聴して回っていたのであろう!?どうした!こうも言われて出てこぬのは私の言った通りだからであろう!?図星を突かれ慌てふためく様がこの目に浮かぶわ!」

「…あいつらぁぁぁ!!」

 

案の定、自らの武に絶対の自信を持つ華雄は激昂。直ぐにでも関を飛び出してあの女の首を取りに行かんといきり立っていた。

 

「なりませんぞ将軍!あれは敵の策…」

「黙れ!!李儒!!」

 

一喝。

李儒が捉えた最後の光景は、自らの顔面に迫る裏拳だった。

 

 

 

(くそっ!だからあの様な猪武者を前衛に置く事は反したというに!!)

 

この戦いが始まる前の軍議で、李儒は華雄を汜水関に置く事に反対した。

というのも、恐らく相手は――先刻行われた罵倒も含めて――何かしらの計略を仕掛けてくる、と踏んでいたからである。

 

だから汜水関には自らを総指揮に張遼を始めとした忍耐の効く諸将を置き、連合を足止めする。

自分にはそれだけの才があると思っていたし、仮に抜かれるとしてもかなりの時間を稼ぐ事が出来る、と李儒は考えていた。

 

そうすれば軍内での自身の評判もあがり、ゆくゆくはあの小娘――今は相国の地位に昇った主君、董卓――をも超える富貴を満たす事が出来る……戦の前に浮かべていたそんな空想は、確実に手繰り寄せられると思っていた。

 

だが戦が始まってみればどうだ。

表向きとはいえ大将であった華雄を死なせ、関を瞬く間に破られ―――今、自分達は虎牢関へと逃げている。

 

身の栄達どころか破滅を招きかねない事態に、李儒はいつになく冷静さを欠いていた。

 

        

 

(ええい!こうなれば虎牢関で巻き返すよりほかにない!!)

 

敗戦の責は全て華雄に押し付け、その保身のために知恵を巡らせる李儒。

次に構える虎牢関に控えるは、天下最強の名高い武神・呂布。

 

(やれる……我が知略を以てすれば、今度こそ!!)

 

 

 

―――と、その時だった。

李儒の脳裏に、恐ろしい策略が浮かんだのは。

 

(そういえば……この辺りの地形は確か)

 

馬の速度はそのままにしながらも、李儒は冷水を当てたかの様に冷えて落ち着いた頭で考えを巡らせた。

 

「張将軍…」

「あぁっ!?なんや今度は!」

「―――華将軍が仇、討ちたいとは思いませんか?」

 

悪謀の士、李儒は、内心に浮かんだ計に一人笑みを零した。

 

 

 

 

 

「アッハハハハハ!!」

 

汜水関を攻略した連合軍は、暫しの休息を取る為にその関に陣を構えていた。

その一角、孫呉の陣営からは、いつにない程の笑い声が響いていた。

 

「ねえ冥琳、見たでしょ?袁術ちゃんのあの悔しそうな顔!」

「ふふ…ああ、見た見た。この上無く悔しそうだったな」

「でしょ?あ~…それにしても、劉備には借り作っちゃったかな~」

 

杯を呷りながら呟く雪蓮。だがその表情は清々しい程に破顔して、再び笑みを零した。

 

今回の汜水関攻め、始めは劉備軍と孫策軍が先陣を任されていた。

如何にしてあの関を攻めるか、という軍議の中で、劉備軍の軍師――今でいうベレー帽の様な帽子をかぶり、頬に赤い痣の様なものがあった少女――が口を開いた。

 

「汜水関の守将、華雄は武に優れておりそれを誇りにしているらしいです。ですからその武を貶せば、必ずや関を開けて打って出て来る筈です。そこを孫策さん達の軍が攻め落とせば、私達も孫策さん達も被害を少なく抑えられます」

 

言外に、『両軍とも名声を得られる』という目論見を見抜いた冥琳と、勘で信頼出来ると踏んだ雪蓮は一も二もなくそれに同意。

結果、劉備軍の将関羽はその武名を轟かせ、雪蓮達もまた難所と言われていた汜水関を落とした事で声望を得る事に成功した。

 

「今度返してあげないとね~」

「おお!やっておりますな策殿、冥琳!」

 

遠くから声を大にしたのは、孫呉の宿老黄蓋、字を公覆。「程公」と呼ばれる程普と共に孫堅の代から孫呉に仕えてきた忠臣である。

 

「あっ!祭、一緒に飲みましょうよ!」

「うむ!無論、ご一緒させていただきますぞ!」

 

言って、胡坐をかいて近くに座る祭――黄蓋の真名――に雪蓮は杯と酒を手渡した。

それを受け取った祭は、杯に並々と酒を注いで一気に飲み干す。

 

その豪快な飲みっぷりに拍手を送る二人。

普段は物静かな冥琳でさえその様なのだから、既に十二分に出来上がっていた。

 

 

 

「ぷはっ……ねぇめーりん」

「ん?どうした雪蓮」

 

しなを作ってもたれかかる雪蓮に、酔って頬を赤らめたまま問う冥琳。傍らでは既に徳利数個を転がせた祭が寝息を立てていた。

 

「ん~…ちょっとね、あの痣の子の事なんだけど」

「―――諸葛亮、だったか?」

 

途端、目を僅かに鋭くして問う冥琳。

見れば雪蓮も口調こそ間が抜けているが、その瞳は獰猛な獣が獲物を狙うかの様に鋭かった。

 

「うん。冥琳からみて、あの子はどう見えた?」

「そう……だな」

 

形のいい顎に手をあてて、思考に耽る冥琳。

 

「―――私は、恐ろしいと思ったよ」

「へぇ……?」

 

    

 

その答えが面白かったのか、自身と同じだったからか、いずれにしろ雪蓮はその口を曲げて微笑んだ。

 

「…楽しそうだな」

「ん~?久々に冥琳の真面目な顔が見れたから、かなっ♪」

 

言いながら、しなやかな動きであっという間に冥琳の後ろを取り、その豊満な胸を鷲掴みにする雪蓮。

途端、ビクリと冥琳が身体を震わせた。

 

「ちょ、雪蓮…!」

「いーじゃない。久々にめーりんの可愛い声聞きたいんだもーん♪」

 

胸を好き勝手に形をグニグニ変えて、首筋に舌を這わせて囁く雪蓮。

さっきとは違う意味で顔を真っ赤にした冥琳は、しかし酔っているからか気持ちいいからか力が入らず、雪蓮の為すがままに遊ばれていた。

 

「子義は劉備さんの所にお礼言いに行っちゃったし、今日は二人で楽しみましょうよォめーりん♪」

「……雪蓮、ひょっとして怒ってないか?」

 

何か言い知れぬ寒気を覚えた冥琳が問うと、雪蓮は相変わらずの笑みのまま――但し、有無を言わせぬ覇気を纏いながら――答えた。

 

「べ・つ・にぃ~?最近子義とご無沙汰だな~…とか、この間冥琳が助けてくれなくて結局徳謀に無茶苦茶怒られた~…とか?全ッ然、関係ないけど~?」

(……頼む子義、早く帰ってきてくれぇ!!)

 

一縷の望みをかけてそう祈る冥琳。

が、眼前の美女は更に(冥琳にとっては)残酷な真実を告げた。

 

「あ、そうそう。子義ったらお礼言いにいくついでにあの関羽って女の子と手合わせしてみたいんだって」

(子義ぃぃぃ!!あの戦馬鹿がぁぁぁ!!!)

 

いつにない静かな怒りの元凶を知った冥琳は、しかし完全に抑え込まれた四股では今更どうにも出来ず……先日の雪蓮と凌統の気持ちが何となく分かった冥琳だった。

 

余談だが、冥琳が謝るという選択肢をあらかじめ排除していたのは、太史慈がいればまず自分にその矛先が向く事がないと知っていたからである。

 

 

 

翌日の明け方、陣中の見回りに出た甘寧は陣の小脇の方で剛毅な寝息を立てる祭と、小悪魔の様な笑みを浮かべながら眠る雪蓮と、何故か物凄くぐったりしていた冥琳を発見したとかそうでないとか。

 

 

 

 

 

連合軍が行軍を再開したのは、それから二日後。

何故それ程時間がかかったかと言えば、実は汜水関から虎牢関に至るまでには三つの道があったからである。

 

中央の軍用路は最も広く整備されており行軍は楽だが、反面敵に発見されやすく、また騎馬隊が中心である董卓軍の精強な騎馬兵と真正面からぶつかるという難点があった。

左右の小道は整備もされておらず大軍を一気に通すのは不可能で、生い茂る木々に敵が隠れているという可能性も否めない。しかしこれらの道では騎馬が利用できない為、敵の主力に出くわすという事はまずない。

 

議論の結果、功を焦る袁両家が中央の道を。左を曹操軍、右を劉備軍がそれぞれ先頭を務める事になった。

右の道の後方には公孫瓉、孫策の軍が続き、数の少ない劉備軍を援護する形を取っている。

 

 

 

その左軍、華琳の陣営の先頭を行くは春蘭の部隊。続いて秋蘭、華琳の本隊が続き(俺はこの本隊にいる)、最後尾は司馬懿が守る形で進行していた。

 

後ろから詰めてくる他の連中を牽制し、且つ開き過ぎない様に……という事で慎重な指揮を必要とされた後方を任されたのが司馬懿と聞いて桂花が「ムキーッ!」となっていたのは余談だ。

まあその後で華琳に「本隊を任せられるのは貴女だけよ?桂花」とか諭されて「ああ……華琳様ァ」なんて呟きながら何かアブナイ笑みを浮かべていたのは更に余談だが。

 

それにしても……

 

「雨、かぁ……」

 

進軍を始めて間もなく振りだした雨は徐々に強まり、今では結構な勢いで降り注いでいた。

華琳は一応、前方を行く春蘭に「敵の伏兵に注意して進め」という厳命を出しており、それを聞いた春蘭が十歩進めば百歩先、百歩進めば千歩先まで斥候を出しているらしいから、それ程心配はないが……。

 

「傘もないんじゃ、仕方ないけどさ……」

 

この頃にまだ現在の傘の様なものはなく、打ち付ける雨は直に身体に降り注ぐ。

それだけでも結構軍の指揮・速度は落ちるもので、華琳の話では中央の袁両家、右軍の劉備さん達もかなり足止めをくっているらしい。

 

前に「傘作ってみないか?」って意見してみたら「戦の前に片手を塞いでどうするの?」と桂花に軽くあしらわれ、「まぁ……でも平時には役に立つかしら」という華琳の一声により、現在は陳留を中心にして徐々にではあるが普及し始めている。

 

       

 

「報告!報告!!」

 

虎牢関へと後少しという所になって、先行していた春蘭の部隊から伝令が到着した。

華琳は一瞬険しい表情になり、報告を聞いて安堵した様な笑みを浮かべた。

 

そのまま伝令を下がらせると、華琳は一度全部隊に停止を命じた。

 

「どうしたんですか?華琳様」

 

季衣が歩み寄って尋ねる。

俺も気になったので寄ると、前の方から二人の兵に連れられ、後ろ手に縛られた青年が現れた。

 

「この男は徐栄。春蘭がいいつけを守ったお陰で、伏兵ごと捕えられたわ」

 

徐栄……というと、史実では確か華琳を破った武将だよな?

 

「華琳様、この人どうするんですか?」

「そうねぇ……」

 

チラリ、と華琳は俺の方をみた…気がした。

そうして笑みを浮かべた華琳は、いつもの調子で告げる。

 

「本来であれば首を刎ねるのが順当だけど……行軍に首一つ抱えていくのも荷物ね。かといってこのまま放つ訳にもいかないわ」

 

言って、華琳は兵に命じて何かを取りに行かせ――俺の方を向かずに、しかし俺に向けて――口を開いた。

 

「一刀、貴方は下がっていなさい」

「華琳…」

「大丈夫。言ったでしょ?殺しはしないわ」

 

そういう問題でもないんだが……まあ、仕方ない。こんな所で何時までも足を止めている訳にもいかないし、ここは華琳の言う通り大人しく引いておこう。

 

 

 

時を同じくして、右の道を進んだ劉備軍。

華琳達と同じ様に敵の伏兵部隊に遭遇し、しかもその部隊長が神速の異名を持つ張遼だと知れ渡った瞬間止まった劉備軍を見逃す程、張遼は甘くはない。

 

「覚悟せぇや……仇討ちなんて大層なもんやないけど、ここで会うたが運のつきや!」

 

瞬く間に先陣を駆け抜ける張遼に蹴散らされる劉備軍。

しかし汜水関で猛将華雄を破ってからその士気は充分、また迅速に先頭に現れた関羽の活躍により、迎撃もそこそこに撤退を始めた。

 

そこを好機と見た朱里――諸葛亮の真名――は、すぐさま足の速い星――超雲の真名――を筆頭とした部隊に追撃を要請した。

 

そうして、敵部隊の尻に齧りついた、その瞬間だった。

 

「―――ッ!?」

 

言い知れぬ恐怖を感じた星は、すぐさまその場を飛びのく。

瞬間、文字通り大地を切り裂く様な一撃と共に、漆黒の閃光によって部隊を真っ二つに切り裂かれた。

 

回避もそこそこに顔を上げる星。

ついで、目に飛び込んできた光景に我が目を疑った。

 

「なっ……!?」

 

僅かに前を行っていた者達が、一瞬にして肉塊に成り果てたのである。

大地を染め上げる鮮血と、空から降りしきる雨の中に、『それ』はいた。

 

上から下まで真っ黒な鎧に身を包み、西洋調の鉄仮面と日本式の兜を掛け合わせた様なモノを被った頭部は覆われ、その下の表情を読み取る事は出来ない。

最も星は鉄仮面だの日本式の兜だのを知る由もない。

 

だが溢れ出る紛れもない『殺意』は、それまで感じたどれよりも強力にして無比。そして純粋な、単純に他者を殺すためだけのものだった。

 

「…………」

 

言葉を発する事もなく、『それ』は一対の剣を構える。

剣、というには語弊があるかもしれないそれはやや反身で刀身が短い。無駄な装飾など一切ないそれは、純粋に『殺す』事にのみ特化したであろう事が簡単に見て取れた。

 

「…何者だ」

「……」

 

返答の変わりに飛んできたのは、白刃の閃きと数瞬で膨れ上がる殺意。

爆ぜたそれは、一瞬にして場を真っ赤に染め上げた。

 

      

 

左右両軍が伏兵と出くわした事を知る由もない袁両家を先頭とした中央軍は、その道路のお陰もあっていの一番に虎牢関に到着した。

 

「さぁっ!袁家の将兵として、華麗に!優雅に!勇ましく!!あの関を打ち破り、私に勝利を捧げて見せなさい!!」

 

元々袁紹にとって大事だったのは『自身の声望を高める』事。

それに端を発したこの連合は、いざ始まってみれば自分の思惑を大きくそれる事になった。

 

盟主の座についた、そこまではよかった。

だが方々の軍勢は自分勝手に動き、堅牢とされていた汜水関も一日をかけずに――他の勢力が――陥落させてしまった。

 

このままでは自分が目立つ前に終わってしまう。

そう危惧した袁紹は、軍師として数々の功績を上げてきた沮授の献言を全て黙殺。彼を強制的に本国に帰らせて自身が全ての指揮権を握った。

 

「暴政を行い民を虐げ、あまつさえ帝を蔑ろにする田舎太守、董卓軍のみなさん?今おとなしく我が名門・袁家に降るというのならば、寛大な処置をもってあなた方の命だけは助けてあげますわ!さぁ!この数の前に無駄な抵抗はやめて、おとなしく降伏なさい!」

 

数こそ全てと信じてやまない袁紹はその兵力を全面に押し出して口上で勧告を行う。

最早勝利を疑わないその姿はいっそ哀れにも思えるが、そんな事を考慮する様な甘さはこの乱世において誰も持ち合わせ等しないだろう。

 

だからこそ、虎牢関の門が開き、数百の騎馬隊が押し出ても袁紹は声も高らかに笑うだけだった。

その旗印が、深紅の『呂』旗である事すら見逃して―――

 

 

 

 

 

袁紹に遅れる事一刻半。

左軍を先行する春蘭の部隊が到着、次いで秋蘭、華琳の本隊、後衛の司馬懿の部隊が続々と到着する。

更に半刻後、右軍先頭の劉備軍も到着し、連合の陣営は整った。

 

が、その誰もが目の前に広がる光景に思わず目を覆った。

 

「何だよ……これ?」

 

小さく一刀が洩らしたそれは、しかし連合の誰もが抱いた思いだろう。

 

見渡す限りの赤、赤、赤。

あちらこちらに転がる死体の山から溢れて止まぬ血は、雨によって大河の様に流れる。

 

この世の地獄とも呼べる光景が、そこにはあった。

 

「ウッ……!」

 

雨が降り、臭気を消していた事はまだ幸いか。

それにしても、一刀の胃を逆流させるには余りある凄惨な光景だった。

 

 

 

中央を進んだ軍の中で最も被害が酷かったのは、やはりというか何と言うか、まぁ兎に角袁両家の軍だった。

 

あの後開かれた緊急の軍議にも袁両家とその側近は姿を見せず、恐らくは二度と戦闘に参加する事はないだろうという事で――というかあれだけの被害があったら参加したくても出来ないというのが実情だが――両家とその軍は一番後方に下げられた。

 

「呂布、奉先か……」

 

呂布。字を奉先。

史実においても三国無双を誇り、文字通り一騎当千のその武勇は誰をおいても決して遅れをとる事はない飛将軍。

 

「始めは何の冗談かと思っていたけど、まさかこれ程とはね……」

 

首座に腰かけ、呆れとも諦めとも取れぬため息を洩らす華琳。

 

「ともかく、麗羽が動かない以上は独力であれを突破しなければならないという事ね」

「出来る、かな……?」

「出来る出来ないではなく、やるのよ」

 

俺の呟きに眉を顰めて、華琳が言った。

 

「兎に角、暫くは兵を休めるわ。戦いは、それからよ」

「―――申し上げます!!」

 

華琳の言葉が終わるか否かというタイミングで、伝令が天幕に駆けこむ。

 

「何事?」

「はっ!敵部隊が関より打って出た模様!旗印は『呂』と『張』!」

 

―――飛将軍呂布、襲来。

 

遥か遠くで、雷鳴が轟いた。

 

 

後記

怒涛の勢いで虎牢関へと……行ってしまった茶々です華雄の扱いひどすぎる茶々ですハイ。

表現がアレ過ぎてもうなんだか…orz。中間の話ってペースが落ち気味になるのは茶々だけでしょうか?(自分の稚拙さを棚に上げた発言)。

 

小話になりますが、あの三つの道については某三国志本にもあったので採用してみました。

曹操VS徐栄は史実から、劉備VS張遼は実は関羽VS張遼の前ふりにしておきたかったから、袁紹VS呂布はとりあえず袁家を排除してしまおうかという考えが浮かんでしまったから、それぞれ書いたという裏話があります。

 

 

 

あと例の黒装束の人ですが、先に言っておきます。彼は茶々の分類上はオリキャラではありません。

追々正体を明かすのでここでは何とも言えませんが、多分察しのいい方はもうお気づきかもしれません……が、バラすのだけは止めてくださいお願いします。

 

ひとつ言えるとすれば……彼もまた『外史の運命に翻弄される者』でしょうか?

 

それでは。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
18
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択