No.123591

江東の覇人 6話

アクシスさん

どーもー、お久しぶりです。

久々の更新。

ちゃんと続いているのでご心配なく。

2010-02-10 23:47:37 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:4074   閲覧ユーザー数:3332

 

蓮聖達が近づくと、義勇軍を襲っていた黄巾党は飄々と砦内へと逃げていった。

 

その機に、深手を負った義勇軍は去り、黄巾党討伐の前線は蓮聖達に任される。

 

黄巾党に動きはなし。

 

策を練る為、蓮聖達が陣地を張ってから数刻後。

 

陣地内で一刀が黙々とご飯を食べている。

 

その隣には孫権がいた。

 

沈黙。

 

遠すぎず近すぎずの距離を保っている。

 

「あのさ・・・」

 

その空気にたまらず、一刀が話しかけようと孫権の方を向くと、睨みで返された。

 

軽蔑やら警戒やら、色々と含んだ視線である。

 

「お前・・・何を企んでいる?」

 

睨んだままの静寂の後、思わず一刀が視線を外そうとした時に孫権が呟いた。

 

「え・・・?」

 

「天の御遣いというのも胡散臭い・・・姉様を誑かそうとしているなら・・・・・・」

 

誑かす。

 

その言葉を聞いた瞬間、一刀の心が一瞬、怒りで染まった。

 

「君は・・・雪蓮を信じてないの?」

 

「なっ・・・」

 

いけないいけない・・・と、激情を抑えながら言葉を選ぶ。

 

「俺の事はまだ信じなくていいよ。自分でも胡散臭いってのはわかってるし。無理矢理納得させようって気もない。ただ・・・俺を拾ってくれた蓮聖、己の利の為とはいえ、匿ってくれた雪蓮や冥琳・・・そういう人達は信じてあげて。俺の存在で、その人達を信じなくなるの止めてほしいんだ」

 

「・・・・・・」

 

「これからの戦・・・ちゃんと見ていてほしい。俺は俺に出来うる限りの事をする。だから、それを踏まえて、俺の事を見てほしいんだ。さっき、雪蓮から真名を授けろって言われたんでしょ?」

 

「・・・・・・ええ」

 

「さっき思春が来て、渋々ながらも教えてくれたよ・・・でも、納得しないんなら教えなくてもいい。それは、俺がだらしないだけだし・・・孫権の所為じゃない」

 

孫権は軽く目を見開いたまま、一刀を見つめた。

 

「俺の事、聞いた?」

 

「・・・別の世界から来たと・・・・・・さらに胡散臭い」

 

「ははっ、そうだよね。俺もそう思う。でも、そうやって胡散臭い俺を蓮聖は拾ってくれた。だから、彼らの役に立ちたい。そして、俺がここに来た理由が、俺にしか出来ない事があるなら・・・天の御遣い・・・こなしてみようと思うんだ」

 

しばらく一刀の覚悟で染まっている瞳を見つめると、孫権は立ち上がった。

 

そして、背を向けながら呟く。

 

「証明してみろ・・・この戦で。私も証明してやる・・・この戦で、姉様達に・・・私の覚悟を見せるんだ・・・・・・」

 

握った拳は、微かに震えている。

 

「そうか・・・そう言えば、これが初戦なんだよね」

 

「わ、悪いか!」

 

「いや・・・悪くなんかない。俺だって、実際参加するのは初めてだからね・・・頑張ろう。お互い、やる事がある。だから、さ?」

 

「・・・ああ・・・・・・」

 

「お互い、死なないように・・・全力を尽くそう」

 

「死なないように・・・か・・・・・・」

 

見れば、肩が軽く震えている。

 

怖いのだ。

 

孫権も・・・一刀と同じように、恐れている。

 

その姿を見て、一刀は笑みを深くした。

 

「・・・俺が守るよ、孫権を」

 

「な・・・バカな事を言うな!」

 

そう言い、孫権は背中を向く。

 

恐らく、緊張と不安で一杯の背中を見ながら、一刀は思う。

 

俺も怖い。

 

でも・・・・・・この子は・・・俺が守ろう。

 

不思議と・・・そう思ったのだった。

 

 

「う――――――!!!」

 

黄巾党陣内にて、1人の少女が呻き声にも似た声を上げている。

 

「姉さん、少し黙って・・・余計お腹すくわ」

 

「だってだってだってぇ!!」

 

張三姉妹。

 

黄巾党の首謀者であり、調子に乗っている内にこんな大事まで発展した哀れな少女達。

 

「もー、何で私達がこんな目に遭わなきゃいけない訳ぇ!?食糧は曹操って奴に焼かれちゃうし、色んな所で負けた人達がここに集まるし!!」

 

そのお陰で食糧が足らず、今もお腹が鳴っている。

 

「しょうがないでしょう?・・・そもそも、大陸を獲りたいって言ったのは何処の誰?」

 

「それは歌でって意味!!」

 

「彼らがそう理解してなきゃ意味がないわよ」

 

いつもは次女の張宝と共にギャーギャー騒いでいる、長女の張角までもが元気を無くして俯いている。

 

「ふう・・・・・・義勇軍は追い返したけど、この地には諸侯達が集まってる。ここも時間の問題ね」

 

「で、でも、数ならこっちが圧倒的に・・・」

 

「実際戦えるのは2割にも満たないわ・・・あの人のお陰で何とかなってるけど、さっきやってきた孫策の軍や曹操の軍には敵わない」

 

ついこの間黄巾党に加わった元武将の男がいなければ、とっくの昔に黄巾党は破滅していた。

 

ここまで持っているのは、その男のお陰と言っても過言ではない。

 

「もうどーでもいいよぉ・・・私達は、一緒に歌を歌えれば幸せでしょう?この人達と一緒にいて死ぬなら、3人で逃げちゃおうよぉ~」

 

「・・・そう・・・するしかなさそうね」

 

諦めのような溜息をつき、張梁が立ち上がる。

 

「逃げましょう・・・そして、3人でまた最初からやりなおしましょう?」

 

頷く3人。

 

気付かれない内に、荷物をまとめあげる。

 

問題は・・・どうやってこの陣地を黄巾党にも諸侯達にもバレないで脱出するか・・・だが。

 

その時、1人の男がやってくる。

 

黄巾党の窮地を救った元武将の男、高覧。

 

「張角様・・・?」

 

「あ、こ、高覧さん・・・これは・・・その」

 

「・・・・・・張角様、孫の部隊に動きあり。そろそろ攻撃が始まるかと」

 

「ええ!?ど、どうしよー!?」

 

「落ち着いて・・・まだ、攻撃が始まった訳じゃない・・・・・・門に人を集めて!籠城戦になる前に外にでましょう!!」

 

「・・・・・・」

 

沈黙・・・動こうとしない高覧。

 

その瞳は、荷造りの途中だった3人をただ見つめていた。

 

「どうしたの?早く・・・!」

 

不味い・・・疑り始めている・・・そう感じ取る張梁は、一刻も早く高覧を遠ざけようとする。

 

が、開いた高覧の口から出たのは勘ぐりなどではなかった。

 

「張角様・・・張宝様・・・張梁様・・・・・・お逃げ下さい」

 

「え・・・?」

 

「知っての通り、私は昔、とある主の下で将をしておりました。ある程度の戦は経験しています。ここは・・・もう終わり。諸侯達に囲まれ、逃げ場はありません。ですが、裏の絶壁の方に隠れ道があります。そこからお逃げ下さい」

 

「どうして・・・?あなたは・・・」

 

わからない。

 

ここで助ける理由など・・・

 

高覧には利益などない筈なのに。

 

張梁の言葉に苦笑しながら、高覧は語り出す。

 

「私は・・・主君に愛想をつかされ、盗賊に身を堕としました・・・自棄になり、人々から物を奪い、殺し・・・非道の数々をしてきた外道です・・・そんな時、あなた方の歌を聞いて・・・私は兵士になりたての頃を思い出しました・・・」

 

そういえば・・・と、3人は思いだす。

 

この人だけは・・・高覧だけは、何の欲望もなしに自分達について来てくれた。

 

大して褒美も求めず、危険な時にも守ってくれた。

 

それを・・・自分達は利用した・・・・・・いい世話係が出来たなどと、喜んでいた。

 

「あなた方のお陰で、私は獣の思考から逃れる事が出来ました。私達、兵の願いは、主に生涯仕え、あらゆる困難から守り抜く事!!せめて最後に・・・我が武人としての最後に、役目をお与えください!!」

 

頭を下げる高覧。

 

こんなにも誠実な男を・・・自分達は利用していた。

 

罪悪感。

 

そもそも、自分達の歌が好きで集まってくれた人達も黄巾党の中にはいる。

 

そんな人達も、自分達の為に命を張っているのだ。

 

逃げて・・・いいのだろうか。

 

自分達だけ、辛いからと言って・・・逃げてしまっていいのだろうか。

 

 

「よいのですよ」

 

 

「・・・!!」

 

3姉妹の心を悟ったかのように、高覧は優しく笑う。

 

「人間、辛い事からは逃げたくなるのは当たり前です・・・逃げてはいけない理由なんて、存在しません・・・・・・逃げたかったら、逃げてよいのですよ?」

 

「ど、どうするの・・・人和?」

 

よいのですよ・・・と言われた。

 

その言葉1つで、心の重荷が一気に失われた。

 

何と温かな言葉だろうか。

 

でも・・・でも・・・・・・

 

「お逃げなさい・・・・・・我らが武将の務めが主を守る事ならば、主は何が何でも生き残る事が務め・・・さあ、早く」

 

務め。

 

生き残る。

 

それが・・・高覧、しいては、皆の・・・為?

 

顔を見合せる3人。

 

 

覚悟は・・・決まった。

 

 

「ありがとう・・・あなたに役目を・・・・・・ここから、私達を逃がしてください・・・」

 

「はっ!!」

 

高覧が案内したのは、高覧が密かに作り続けていた抜け道だった。

 

高覧も感じていたのだ、黄巾党が長くは続かぬ事を。

 

「なのに・・・どうして?」

 

その話を聞き、張梁が尋ねる。

 

何故、逃げなかったのか。

 

何故、残ったのか。

 

「理由などありません・・・私はあなた方の部下。ただ、それだけです」

 

それは・・・黄巾党が滅ぼうとも、優しき心を持つ張角達を逃がそうとしたという事。

 

「あ、あの・・・」

 

張角が今までの話を聞き、戸惑いながらも声をかける。

 

「だったら、私達と一緒に行きませんか?」

 

「姉さん?」

 

珍しい・・・と、張梁が目を剥く。

 

いつもなら反論する張宝でさえ、口を挟まない。

 

「あ、あなたなら、私は構いません・・・だから・・・ね?」

 

高覧は放心したように驚き、やがて微笑んだ。

 

「そういう訳にはいきません・・・私は既に、獣に堕ちたのです。あなた方の傍にいれば、必ず獣の匂いを辿り、危機がやってくる・・・・・・私は・・・あなた方が歌い続けてくれれば、何もいらぬのです。あなた方が、また私のような哀れな獣を救ってくださるのなら、何もいらぬのです」

 

その微笑みは何処までも優しい。

 

「さあ、お早く。息災を、冥界より祈っております」

 

そう言って、3人を押し出した。

 

「あ、ありがとうございました!」

 

3人は一斉に頭を下げる。

 

男は兄のように、または父のように優しい微笑みを残し、立ち去った。

 

「姉さん。行くわよ・・・高覧さんの為にも・・・」

 

「うん・・・」

 

 

「っし・・・行くぜええぇええぇえええぇえ!!!」

 

蓮聖が雄叫びをあげながら、部隊の先頭に立ち、黄巾党本陣の門まで駆ける。

 

少し時間を稼げば、黄巾党を殲滅する作戦が始まる。

 

時間稼ぎたぁ、性に合わねぇんだが・・・と、内心溜息をつくが、義弟の作戦とあれば文句はない。

 

 

その時、目の前にある門がいきなり開いた。

 

 

「っ・・・止まれ!!!」

 

一声で、部隊が停止する。何かの罠だと思ったのだろう・・・だが違った。

 

そこには1人の男が立っている。

 

手には、身丈程はあろうかという大剣。

 

男が門を潜ると、再び門は閉まった。

 

 

「・・・・・・ずあああぁぁああっぁあああぁあああぁああ!!!!」

 

 

突っ込んでくる男。

 

無謀にも見えるが、違う。

 

蓮聖がはっと上を向けば、城壁から矢の雨が降り注いでいた。

 

「ちぃっ!!」

 

己の剣を振り回し、矢を防ぐ。

 

矢が降り注ぐと同時、男が蓮聖を避けて部隊の右翼に突撃している。

 

「はあぁあああぁぁああああ!!!!」

 

獣の如く叫び、武器を振り回す男。

 

一振りで数人を吹き飛ばし、部隊を確実に殲滅していった。

 

その武は、一般兵士では敵う事がないもの。

 

間違いなく、武将と言える力。

 

しかも上手く立ち回り、蓮聖を近づかせないようにしている。

 

それは、蓮聖の実力に気付いているという事でもある。

 

暴れる男の・・・その瞳に映る物。

 

それを見抜いた蓮聖が、部隊を引かせ、男を中心に円を作った。

 

「・・・っ・・・・・・ち・・・・・・」

 

あれだけ動きまわったのに息1つ乱れていない。

 

既に部隊の半数はこの男1人にやられた。

 

素晴らしい業績。

 

一歩間違えれば己も矢の餌食となるのに、1人で向かってくる度胸。

 

そして、何より・・・・・・蓮聖達の策に気付いている。

 

この部隊が囮で、本当は脇からの奇襲を仕掛けるという事を。

 

己は前に出、他の者は中で奇襲に備えているのだろう。

 

盗賊如きが出来る事ではない。

 

この男が、黄巾党に加わった指導者だろう。

 

恐らくは、何処かの将だった者。

 

男の前に立ち、蓮聖が叫ぶ。

 

「我が名は江東の虎、孫堅が長子、孫子威だ!!名を名乗れ!!」

 

それは敬意。

 

盗賊相手では容赦無用の蓮聖の敬意だった。

 

男もそれを感じ取ったのか、名乗りを上げる。

 

「・・・我が名は高覧!!袁本初に仕えていた武将である!!」

 

「あのバカ一族か・・・・・・貴君の度胸、そして力に賛辞を送ろう・・・そして、叶うならば、一騎打ちを申し込む」

 

「・・・ふ・・・この獣に、正々堂々と闘えと?」

 

「正にその通り・・・貴君はただの獣ではあるまい?・・・・・・その眼・・・俺をも食らいつくそうとする獅子の眼をしている」

 

「・・・よかろう・・・・・・いざ、勝負!」

 

突進してくる男。

 

蓮聖はこの男に感嘆していた。

 

賛辞というのも嘘ではない。

 

この男は1度、闇に堕ちた。

 

瞳の濁りを見ればわかる。

 

だが、それでも・・・濁り切らなかった1点を輝かせて、舞い戻ってきた。

 

闇から這いだしてきたのだ。並大抵の努力で出来る事ではない。

 

だから・・・せめて。

 

せめて・・・武人として・・・逝かせてやろう。

 

腰から剣を抜き・・・それを捨てる。

 

「何・・・貴様!!」

 

高覧が止まり、罵倒した。

 

武器を捨てる行為など、相手への侮辱としかとれない。

 

「違う・・・この剣は、俺にとっては只の雑剣・・・・・・俺の武器は・・・」

 

と、己の服を脱ぎ、背中に隠してあった剣を抜く。

 

仰々しい鞘から出した剣。

 

それは、剣としては珍しい・・黒剣だった。

 

「貴君は・・・これで闘うに値する・・・・・・」

 

「・・・・・・確かに・・・では・・・・・・参る」

 

先程とは違う、武士と認めてしてくれた事に対する歓喜を感じる瞳。

 

それを輝かせながら、一歩で大剣の攻撃範囲に入る。

 

「ぜやああぁああぁぁあああぁあああああぁあぁ!!!!」

 

頭上からの一閃・・・あらゆる物を叩き割り、殲滅する力が蓮聖を襲う。

 

しかし、蓮聖は慌てない。

 

冷静に対処する。

 

ゆっくりと、黒剣を大剣の切っ先の水平に置いた。

 

 

ただそれだけ。

 

 

水平にされた黒剣に、許卓の剣が吸い込まれるかのように振り下ろされる。

 

瞬間響く、鉄が折れる音。

 

全力で振りかぶり、全体重をかけた剣と、ただそれに合わせるかのように置かれた剣。

 

折れるのはどちらか。

 

後者に決まっている。

 

 

決まっている・・・のに。

 

 

「なっ・・・」

 

折れたのは高覧のもの。

 

黒剣は欠ける事なく、その存在を示している。

 

「しまっ・・・」

 

相手の体に斬りかかったという事は、当然、己も相手の剣の攻撃範囲にあるという事だ。

 

蓮聖は息を静かに吐き、黒剣を振りかぶる。

 

「いい一撃だったぜ・・・あばよ」

 

一閃・・・吸い込まれるように、黒剣は高覧を引き裂いた。

 

鮮血が迸り、大地と蓮聖を赤く染める。

 

 

しかし・・・倒れない。

 

 

明らかに致命傷なのに・・・高覧は倒れなかった。

 

驚く蓮聖に、高覧は懐から何かを取り出す。

 

「と、し・・・・・・いい・・・しぇ・・・・・・頼む・・・」

 

蓮聖の胸元にそれを押し付け、高覧は倒れこむ。

 

そしてそのまま・・・静かに息を引き取った。

 

『とし』と『いいしぇ』・・・恐らく真名であろう。

 

誰かはわからない。

 

だが、最後に花を咲かせた武人の遺言・・・聞かぬ訳にはいかない。

 

「この者を手厚く葬れ」

 

それを懐に押し込み、部下にそう命じた。

 

そして・・・閉ざされた門を睨む。

 

「こいつが部隊で来れば、もう少し被害を出せたものを・・・こいつの所為じゃねぇ・・・・・・臆しやがったか・・・」

 

それが許せない。

 

高覧は部隊、もしくは少数精鋭でのこれを提案したのだろう。

 

だが、所詮は盗賊。

 

死ぬのに臆し、誰もついてはいかなかった。

 

「後は俺がやる・・・お前らはここを守っていろ・・・それと、雪蓮達に伝達。策を実行するかどうかは任せる・・・てな」

 

「孫覇様は・・・?」

 

「決まっている・・・」

 

閉ざされた門に近づき、黒剣を掲げた。

 

そして、無造作に振り下ろす。

 

轟音と共に、一薙ぎで門が破壊され、陣地内が露わになる。

 

その中で、恐怖に怯える黄巾党達。

 

「こいつらに・・・死を届けてやるのさ」

 

 

「孫策様!孫覇様より伝言!策を実行するかどうかは任せるとの事です!!」

 

「任せる?・・・まあ、いいか・・・孫呉の兵達よ!!我が兄、孫覇が道を切り開いた!!この機を逃すな!!江東に住む虎の血を、獣共に見せつけよ!!血を啜り、肉を斬り、魂を燃やせ!!!長かった戦に、終止符を!!全軍・・・突撃!!!」

 

雄叫びと共に、両脇から雪蓮達の軍が突撃をかけ、黄巾党を殲滅しにかかる・・・が。

 

「ちょ・・・これは・・・・・・」

 

勢い立った雪蓮達の軍は突破力を無くし、陣地内で止まった。

 

「どういう・・・事?・・・・・・皆死んでるじゃない・・・」

 

そこにあるのは、死屍累々。

 

あるいは胴を切断され、あるいは首を切断され、あるいは縦に両断され・・・見るも無残な黄巾兵達だった。

 

雪蓮は1度だけ・・・この光景を見た事があった。

 

そう・・・それは・・・・・・

 

 

「おおあぁああぁぁあああぁぁああぁっぁああぁああああ!!!!!!」

 

 

「!?・・・兄さん!!」

 

獣の咆哮のような雄叫びが響き、雪蓮達が急いで向かう。

 

悲鳴でないのは確かだ。

 

そもそも、あの覇人が悲鳴など上げる筈がない。

 

では、あの雄叫びは何か。

 

雪蓮の頭に過ったのは・・・暴走。

 

雪蓮も稀にある・・・血が沸き立ち、どうにも止められない程体が熱くなる。

 

殺しても・・・殺してもまだ足りない。

 

そんな感情・・・・・・もし、それが蓮聖にもあったら・・・

 

兵士達が追い付けない程の神速になり、雪蓮が戦場を駆け抜ける。

 

正門から少し左翼に入った所に、蓮聖の姿があった。

 

その姿を視界に入れた時、雪蓮の足は強制的に止まってしまった。

 

 

・・・古き蓮聖を知っている者なら誰もが理解している。

 

 

あるいは紅蓮の瞳を煌めかせ、大地を真紅に染め上げし鬼神。

 

 

あるいは戦場に出る度に恐れられ、その名だけで数万の軍を退かせたという軍神。

 

 

あるいは数千の敵に相対しようとも揺るぐ事無く、敵を皆殺しにしてきた覇神。

 

 

 

語り継がれているのは伝説ではなく事実。

 

虚実ではなく真実。

 

その事実の片鱗が、今、黄巾党達を襲い、雪蓮の前に広がっていた。

 

予想はついていた。

 

現在、黄巾党内で戦力になるのは少なく、殆どが役に立たぬ雑兵だと。

 

それでも・・・

 

 

こんな事がありえるのだろうか・・・・・・

 

 

一振り。

 

敵が吹き飛び、無残にも破壊される。

 

一振り。

 

敵が切り裂かれ、その血が大地を覆う。

 

一振り。

 

神速の振りによる衝撃波が、敵を薙ぎ倒す。

 

殲滅、あるいは殺戮。

 

常軌を逸した行為の数々が、目の前で繰り広げられる。

 

 

蓮聖が、英雄たる所以。

 

 

あるいは人望。

 

あるいは性格。

 

あるいは覇道。

 

しかし、その根本的なるもの。

 

 

武。

 

 

圧倒的なまでの武。

 

その武こそが蓮聖を蓮聖になしえる。

 

そして、その武の要が武器。

 

 

孫家が秘宝・・・黒剣『覇国』

 

 

その刀身は漆黒に染まり、全てを殲滅する。

 

その唯一の特徴。

 

それが、圧倒的なる『重量』

 

200kgにもなる、武器の中でも最重量のもの。

 

左程大きくない刀身に込められた重量は、並大抵の事では動かせぬ。

 

しかし、蓮聖はそれを振り回す。

 

己の一部であるが如く、縦横無尽に振り回す。

 

門を斬り、大地を斬り、鉄を斬り、人体をも斬ったにも関わらず、その刀身は刃こぼれすらしない。

 

通常、重い剣とはそれに比例し斬れ味がなくなるもの。

 

そもそも、剣とは叩き斬る為のものであり、斬れ味はそれ程重視しない。

 

それは、対象が鎧の場合、十分な威力を発揮できず、鈍器としての直接的な打撃の方が効果的という理由がある。

 

しかし、この『覇国』は違う。

 

圧倒的重量でありながら斬れ味を最大まで高め、切断する事も殴打する事も可能な宝剣。

 

孫家に伝わる南海覇王と対になる最強の剣。

 

それを振り回す蓮聖・・・・・・無茶だ。

 

覇国は確かに強い・・・しかし、あれは諸刃の剣。

 

使用する度に破壊されていく体。

 

昔の蓮聖もそれによく悩まされ、ついには封印にまで至った剣である。

 

確かに、いつのまにか覇国がなくなっているのには気付いていた。

 

何故、黄巾党程度で使うのか疑問だったが、今はそんな事どうでもいい。

 

暴走状態で覇国を振り回したら、それこそこの戦の後に大変な事になる。

 

あんなの、興奮で痛覚が麻痺してるに過ぎない。

 

止めなければ・・・救わなければ・・・・・・

 

己の腰から南海覇王を抜き放ち、尚暴れる蓮聖へ突進する。

 

多少の傷など気にしない。

 

蓮聖さえ・・・蓮聖さえ無事でいてくれれば・・・・・・

 

 

「お、雪蓮。やっと来たか」

 

 

ずっささざさあぁああぁああああぁあぁ!!!!

 

思いっきり滑り転んだ雪蓮。

 

膝をすり、大地に広がる血で服が汚れる。

 

だが、そんな事気にしないとでも言わんばかりに、雪蓮が詰め寄った。

 

「に、兄さん?暴走してないの!?」

 

「は?・・・あのなぁ・・・経験が違うっつうの。抑制ぐらい出来ねぇでどうする?」

 

「じゃあ・・・何で覇国を・・・・・・」

 

「俺が・・・この数年間何もしないで来たと思ってんのか?」

 

にやり・・・と笑い、もう一振り。

 

しかも、片手で。

 

「長らく使ってなかったが・・・今は俺自身みたいに扱える・・・・・・正真正銘・・・俺の武器になったっつう事だ・・・・・・と」

 

決死の覚悟で突っ込んできた黄巾兵。

 

避けて、その首元に覇国を宛がい、斬り裂く。

 

「ふう・・・結構暴れたつもりだが・・・こんなにも多いとはなぁ・・・」

 

恐怖で怯えているとはいえ、武器を持った敵兵は未だに多い。

 

流石の蓮聖も溜息をついた。

 

「すぐに私の部隊と、思春、明命の部隊が来るわ。それまで持ちこたえましょう」

 

本当に無事だと悟ったのか、雪蓮は蓮聖の隣に立つ。

 

「りょーかい」

 

屈託のない笑みを浮かべ、覇国を構える。

 

「雪蓮、無理はするな・・・お前がいなくなったら」

 

寂しい笑みを残しながら、雪蓮も南海覇王を握る。

 

「大丈夫よ・・・蓮華がいるもの。そして一刀も。最初は胡散臭いと思ってたけど、中々いい男じゃない。蓮華達の夫に相応しいわ。だから、別に私が死んでも・・・」

 

「ば~か・・・・・・俺が困るんだよ・・・お前がいなくなったら、俺が悲しむ。だから死ぬな」

 

何と言う自分勝手。

 

自分勝手・・・だけども。

 

「ありがと・・・」

 

嬉しい。

 

冷たい心が温まる。

 

「おう、笑っとけ。お前の笑顔がある限り、俺も死なねぇよ」

 

相変わらず・・・この兄は私達姉妹の心を動かす。

 

昔から・・・そうだった。

 

先程まで、死さえ怖くなかったのに・・・今は、驚く程生き残りたい。

 

生き残り、兄と共に人生を歩みたい。

 

「孫策様に加勢しろぉおおぉおぉお!!!」

 

「雪蓮様!孫覇様!!」

 

その時、雪蓮の部隊と、思春、明命の部隊が合流する。

 

惨状を見るが、そんな事は関係ない。

 

主が襲撃を受けている。

 

ならば助けるのが部下の役目。

 

「よぉーし・・・てめえら!1人たりとも逃がすんじゃねぇぞ!!こいつらは、武人の魂など持ち合わせねぇ、獣だ!!同情の価値などなし!!殺し、殺し、殺しつくせぇ!!我らは虎!!獣を食い殺す猛虎なり!!数を恐れるなぁ!!力を恐れるなぁ!!我らが勝利は、目と鼻の先だぁぁああぁぁぁあ!!!」

 

『うおぉおぉおおぉぉおおぉおおぉおぉおおおぉおおぉおお!!!!!!!』

 

空気が震える。

 

大地が震える。

 

懐かしき戦場の感触。

 

「蹂躙せよ!!ここは、我らの狩り場!!!全軍、我に続けぇええぇぇええぇぇ!!!」

 

覇国を掲げ、蓮聖が突撃する。

 

それに伴い、孫呉の勇者達が次々に突撃していった。

 

猛虎による狩り。

 

黄巾党の士気は、先程の蓮聖で既になくなってる。

 

正に蹂躙。

 

全てを踏みにじり、狩りとるのみ。

 

この場に、正義も悪もない。

 

先程の蓮聖と同じ、殺戮しかないのだ。

 

 

大義があるだけで・・・戦争の意味は変わる。

 

 

正義があるだけで・・・戦争の意味は変わる。

 

 

理由があるだけで・・・戦争の意味は変わってしまう。

 

 

そういう事を考えながら、砦の外で一刀は弓隊を率い、その時を待っている。

 

今回の作戦は、一刀が提案したもの。

 

見破られたとはいえ、その場としては中々の策だった。

 

だからこそ、蓮聖は一刀に部隊を任せた。

 

己で提案した策ならば、己がケジメをつけろ。

 

その策によって死ぬ人間もいる・・・一刀は自ら望み、この役を買って出た。

 

砦から逃げ出そうとする黄巾兵達の討滅。

 

即ち・・・己が考えた事で人が死ぬならば、己も人を殺せと・・・人を殺さぬ覚悟などを持つ輩が考えた策で死んでいった者達は・・・哀れでしょうがない・・・・・・と、そういう意味だった。

 

「北郷殿!敵、逃走を始めました!!」

 

弓の攻撃範囲に、逃げ惑う黄巾兵の姿を視認する。

 

「・・・・・・貴方は・・・どのくらい、人を殺した事がある?」

 

一刀は呟くように、この部隊の本当の隊長に話しかけた。

 

その表情を見、男は軽く顔を俯かせて口を開いた。

 

「・・・・・・数え切れぬ程です・・・しかし、後悔はありませぬ。死んでいった者達は、我らの礎になります・・・我らが生きる為の礎に・・・・・・あなたは、殺した事は・・・?」

 

「・・・これが・・・初めてだ・・・・・・」

 

手が震える。足も震える。

 

怖い。

 

己の掛け声1つで、命が失われる。

 

「私も・・・最初はそうでしたよ。必死に闘って、隙を見つけたら、何も考えずに殺してました。後々になって、手足が震えて、死んでいった敵兵の顔が焼き付いて・・・しばらく何も出来ませんでしたよ・・・・・・ですが、それは、相手にも大義があり、正義があったから・・・正規軍との闘いだったから・・・というのもあります」

 

「・・・?」

 

「奴らは・・・罪もない人々を殺しすぎました。殺害、奪略・・・人ならざる行為を行ってきたのです・・・奴らは獣。同情の価値はありません・・・北郷殿・・・お願いします」

 

一刀は眼を閉じる。

 

わかっていた事だ。

 

直接的ではないとはいえ、自分が原因で人を殺す事が近い内にあると。

 

既に・・・覚悟は決めた。

 

「構え!!!」

 

眼を閉じたまま、大声を張る。

 

弓を引く音がし、部隊が逃走する獣に狙いをつける。

 

奴らは獣。

 

人ならざる行為を繰り返した獣。

 

あの獣のせいで、数々の笑顔が奪われた。

 

そして・・・守ると誓った。

 

孫権を。

 

死に怯えていた1人の少女を。

 

ここで情けをかけ、その者が孫権を傷つけるような事があれば・・・・・・

 

一刀は己を・・・一生許さない。

 

きっ・・・と、眼が開き、逃走する獣を睨む。

 

手を翳し、魂の限り叫んだ。

 

「放てぇええぇぇぇええ!!!」

 

叫んだ瞬間、矢が風を斬る音が響き、数秒の後、叫び声が響く。

 

「・・・・・・」

 

翳した手が・・・無造作に震える。

 

ぽっかりと・・・心に穴が空いたように、隙間風が体を突き抜ける。

 

「北郷殿・・・」

 

男は・・・一刀の震えた手を掴み、下に降ろした。

 

見れば、一刀は泣いている。

 

何と優しい人だろう・・・例え獣の命だろうと、命。

 

それを奪った事を・・・悲しんでいる・・・

 

思えば、まだ幼さが残っているではないか。

 

何故、こうまで・・・戦争は人々を傷つけるのだろうか。

 

男は・・・初めて人を殺した時の葛藤を・・・・・・再び繰り返していた。

 

 

結果、黄巾党は壊滅。

 

首謀者は逃げたものの、散り散りになった黄巾党の追撃も終え、蓮聖達はちょっとした宴をしていた。

 

「なにぃ?泣いていただと?」

 

「ええ・・・別に、心を打ち砕かれた訳じゃなさそうだけど・・・少し心配ね」

 

宴会の席、雪蓮が蓮聖に酒を注ぎながらそう呟く。

 

「んん・・・・・・いくらなんでも、優しすぎるなぁ・・・まあ、しゃあねぇか。雪蓮、俺は一刀のとこ行ってくっから、後始末頼む」

 

「わかったわ」

 

ぐび・・・と、一気に飲み干し歩き出す。

 

いくらなんでも急すぎただろうか。

 

一刀の話を聞けば、天の国・・・即ち、一刀の故郷でも戦争はあったらしいが、一刀自身は戦争を経験した事がないらしい。

 

「ん~・・・でもなぁ、あいつの覚悟は本物だったしなぁ・・・・・・」

 

強き瞳。

 

真の覚悟を持った瞳だったからこそ、蓮聖は一刀にあの役を任せた。

 

「さてさて・・・吉と出るか凶と出るか・・・・・・」

 

と、一刀のいる天幕の中を、気配を消して静かに覗き込んだ。

 

 

「・・・・・・」

 

天幕の中で1人、一刀は己の手を見つめていた。

 

この手が、彼らの命を奪った。

 

号令をかけただけだが、命を奪った事に変わりない。

 

もし、己の手で殺す事になれば・・・自分は、自分でいられるだろうか。

 

「入るぞ」

 

声がし、誰かが天幕に入ってくる。

 

「・・・孫権か」

 

「わ、私じゃ悪いのか」

 

「いや、そういう訳じゃないよ。蓮聖かなぁ・・・って」

 

「・・・そうか・・・・・・」

 

しばらくの沈黙の後、孫権が口を開いた。

 

「・・・・・・何故、泣いている?」

 

止めなく流れる涙は、未だに一刀の頬を濡らし続けていた。

 

「・・・俺さ、命を奪ったんだ・・・・・・孫権達にとっては当たり前かもしれないけど・・・俺にとっては・・・辛い事なんだ・・・・・・」

 

「・・・・・・それが、獣に身を堕とした命でも?」

 

「命は命さ・・・そこら辺にいる虫や、動物を殺すのとは訳が違う」

 

「・・・・・・男のくせに・・・軟弱なんだな」

 

「人を殺して、こんな風になって軟弱って言われるんなら・・・別に構わないよ」

 

しばし、沈黙が包む。

 

「・・・・・・・・・・・・私も・・・今日、初めて人を殺した」

 

ふっ・・・と、孫権が短く息を漏らす。

 

「我ながら・・・情けない・・・・・・ずっと前から覚悟していたのに・・・いざ、向かい合えば・・・この有様だ」

 

見れば、孫権の両手は、微かに震えていた。

 

「お互い・・・弱いな・・・・・・」

 

自嘲するように、孫権が俯く。

 

「それは・・・弱さなのかな」

 

「え?」

 

「蓮聖が言ってたんだよ・・・人を殺す事に慣れるんじゃない。戦を起こす事に慣れるんじゃない。慣れてしまったら、そいつはただの狂人だって」

 

「兄様が・・・」

 

「だから・・・それは弱さじゃないと思うんだ・・・・・・それは、孫権の優しさだよ」

 

「私の・・・・・・優しさ・・・?」

 

「うん・・・そして、それを恥じる必要もない。だって、それは人として、当たり前の事なんだから・・・・・・」

 

「だが・・・私は何れ王となる・・・王が・・・優しさなど・・・・・・」

 

「じゃあ、雪蓮には優しさがないのか?」

 

「そ、そういう訳じゃ・・・」

 

「・・・その後、蓮聖が言ったんだ・・・お前はお前でいろ。俺達に合わせる必要なんてない・・・って。だから、俺は悔やまないよ。バカにされようが、軟弱だろうが・・・この涙は俺自身の感情だ・・・・・・孫権だって、その震えは己の感情じゃないのか?偽りなのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「俺は、自分に嘘はつきたくない。だから、この涙は俺にとって誇らしい涙なんだ」

 

涙を流しながら、一刀は微笑む。

 

その涙を隠す事なく、むしろ、これこそが自分自身だと言わんばかりに。

 

「・・・・・・ぷ・・・ふふ・・・・・・あははっ!」

 

突如、孫権が笑いだした。

 

別に、発言が笑われている訳じゃないと感じた一刀は?を掲げる。

 

「これじゃあ・・・今まで張り詰めていた私の方がバカみたい」

 

一頻り笑うと、孫権が涙を拭きながら素の笑みを浮かべた。

 

「ごめんなさい、あなたの事、誤解してたみたい」

 

疑惑の目が完全に剥がれ、少女の顔となる。

 

それを嬉しく思い、一刀もまた笑みを深めた。

 

なんだ・・・こんな可愛い笑みを浮かべられるんじゃないか。

 

「誤解というか何というか、俺程胡散臭いのもないからね。俺が孫権の立場でも同じ事になってると思う」

 

「ふふ・・・本当におかしい・・・じゃあ改めて、性は孫、名は権、字は仲謀。真名は蓮華よ。よろしく」

 

「こちらこそ、北郷一刀だ」

 

2人は微笑みを浮かべながら、握手を交わした。

 

 

「ほぉ・・・中々やるなぁ・・・一刀も」

 

自分の言葉をああ受け取ってくれる事は素直に嬉しい。

 

しかし、今はそれよりも。

 

「雪蓮から聞いたが・・・やっぱり、蓮華にはまだ、王は早いなぁ」

 

しみじみと呟く。

 

王として、蓮華は一刀と同じように優しすぎる。

 

無論、優しさは必要だ。

 

特に、乱世の後の世界には。

 

しかし、優しすぎれば、それは弱点となる。

 

優しさをつけこまれれば、元も子もない。

 

王としての気質はある。

 

努力も認めよう。

 

後は・・・・・・覚悟・・・か。

 

「まあ、何れ・・・己で気付くだろう・・・今はゆっくり、休まねぇとな」

 

 

こうして、黄巾党の乱は終わった。

 

主犯格と思われていた張3姉妹は既に逃げたが、曹操に討たれたらしい。

 

乱世は渦巻き、新たな局面を紡ぎ出す。

 

群雄割拠する・・・真の乱世が始まろうとしていた。

 

 


 
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