No.121570

真・恋姫†無双~天空より降臨せし白雷の守護者~9話

赤眼黒龍さん

 皆様お久しぶりです。赤眼黒龍です。

 現在、国家試験に向けて猛勉強中です!(そんなときに更新してていいのかと思った方。これが作者の息抜きです!)

 従って更新が遅れることになると思いますが、作者の将来のためと思って暖かく見守っていただきたいと思います。

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2010-01-31 11:22:28 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:5759   閲覧ユーザー数:4284

 華琳たちは街の外に陣を張り軍議を開いていた。今後どう動くかを決めるためだ。

 

真「というのが現状だな。説明はこの程度でいいか、華琳?」

 

華琳「十分よ」

 

秋蘭「首領の張角も、面こそ割れてはいるがそれ以外は旅芸人だということしかわかっていない」

 

真桜「分からんことだらけやな~」

 

 真桜の言う通り、現状は芳しくない。不透明な事柄が多すぎて迂闊に動けずにいた。

 

明雪「せめて目的ぐらいわかれば、手の打ちようもあるのだけど」

 

凪「目的とは違うかもしれませんが・・・・我らの村では地元の盗賊団と手を組み暴れていました。陳留では違うのですか?」

 

華琳「似たようなものよ。事態はより悪い段階へと進みつつあるわ。凪たちの村や、今回の襲撃がその言い例ね」

 

春蘭「悪い段階・・・・? どういう意味ですか?」

 

 全く状況が理解できていない春蘭。真はそんな姿を横目で見ながら、よく今まで将軍としてやってこれたなと思い、それと同時に秋蘭に心の中でこの姉をよくぞここまで支えてきた称賛するのだった。

 

明雪「先ほどの大部隊のようにただ集まっただけの烏合の衆から、しっかりとした指導者のもと組織だった行動をしてくるようになったということよ春蘭」

 

春蘭「・・・・・ふむ?

 

桂花「今までみたいに春蘭が馬鹿みたいに突撃しただけじゃ逃げ出さなくなるって事」

 

 まだ理解できていない様子の春蘭にいら立ちを隠せない桂花。

 

春蘭「ああ、なるほど」

 

真「理解できていないだろう、春蘭」

 

春蘭「馬鹿にするな! 季衣や秋蘭だけでは苦戦するということだろう」

 

 自信満々に言う春蘭だが、やはり全く理解できていないようだった。しかしこの程度の理解でもきっと(力づくで)何とかしてしまうのだろうと、真はある意味感心した。

 

華琳「とにかく、一筋縄ではいかなくなったということよ。ここで仲間が増えたのは幸いだったわね。・・・・これからどうするか、誰か案はある?」

 

桂花「この手の暴徒を殲滅する定石でいえば、首領格である張角を倒し、組織の自然解体を狙うところですが・・・・・」

 

明雪「肝心の張角の居場所が分からない、か」

 

桂花「そのとおりです」

 

季衣「張角ってどこにいるんですか?」

 

秋蘭「奴らはもともと旅芸人だ。現在も正確な位置は不明。元々旅をしていたせいもあって、特定の拠点を持たず各地を転々としている可能性が高い」

 

明雪「所在は不明で、なおかついきなり湧いて出る敵か・・・・・。これじゃ攻めるどころか、所在を掴むことすら難しいわね」

 

桂花「しかし、そんな敵を討ったとあれば華琳様の名が天下に知れ渡る事は間違いありません」

 

 首をひねる一同。行き詰ったこの状況を打開したのは真の一言だった。

 

真「張角本人を見つけるのは不可能だが、黄巾党に打撃を与えることなら方法はなくもない」

 

華琳「何か策でもあるの、真?」

 

真「平民にまぎれて兵士たちの姿は隠せても、糧食等の物資の流れは隠せない。だろ?」

 

華琳「!! その手があったわね」

 

季衣「・・・・にゃ?」

 

秋蘭「なるほどな」

 

明雪「いいところに目を付けたわね」

 

真桜「流石は隊長や」

 

春蘭「どういう意味だ?」

 

凪「お見事です隊長」

 

春蘭「お、おい・・・・!」

 

 若干2名理解できていないため、仕方なく明雪が説明する。

 

明雪「黄巾党の兵力は数万にもなるわ。それほどの大部隊を動かすのに必要な物資を現地調達するなど不可能に近いわ。必ずどこかに敵の物資を集積しておく場所があるはず」

 

華琳「秋蘭」

 

秋蘭「御意。すぐに各方面に偵察部隊を出し、情報を集めさせます」

 

華琳「桂花。すぐに地図から物資を集積できる場所を割り出して。偵察の経路はどこも同じ時間に戻ってこれるように計算してちょうだい。出来るわね?」

 

桂花「お任せを!」

 

 桂花は嬉しそうに返事をして走っていった。

 

華琳「真。貴方には義勇軍を率いてもらうわ。偵察が戻ってくる前に部隊を編成し直しておきなさい。それが済んだら貴方達が街に作った防壁を解体しておいて」

 

真「了解した。凪、真桜行くぞ」

 

凪「はっ」

 

真桜「はいなっ」

 

 そしてそれぞれが次の戦いに向けて行動を開始した。

 真は素早く部隊編成を済ませ、華琳の命を果たすべく凪を連れて東側の最終防壁の前までやってきていた(真桜と沙和はもう一つの防壁の解体作業に向かった)。

 

真「しっかし真桜の奴、えらく頑丈に作ったもんだ。解体するには苦労しそうだな」

 

 真桜が作り上げたこの防壁は非常に強固に作られており、元義勇軍兵士(既に魏軍編入済みなので元)が大金槌や鋸で解体を試みているが、一向にはかどらない。

 

凪「そうですね。真桜をこちらに連れてきて螺旋槍で解体させましょうか?」

 

 螺旋槍とは真桜の武器で、氣で動く巨大なドリルだ。

 

真「いや、いい。それよりもこれを使ってお前の氣弾を見るとしよう」

 

凪「え?」

 

真「凪。あの防壁に向かって氣弾を放ってみろ」

 

凪「は、はい・・・・・」

 

 わけも分からないまま言われた通りにする凪。少し前に出ると、氣を集める。

 

凪「はああああああっ」

 

 右拳に収束された氣弾は凪の声と同時に勢いよく放たれる。そして轟音を立てながら防壁に突き刺さった。しかし防壁は破壊できず3分の2ていど破壊するにとどまった。

 

真「ふむ。まあこんなもんだろう。次は俺が同じ氣の量で同じようにやってみよう」

 

 そう言って真は腰だめに拳を構え、氣を集めていく。凪が感じ取った氣の量は確かにさっき自分が放ったものとほぼ同じだった。しかし何かが違う。全て同じはずなのにどこか決定的に違う何かがあるように凪は感じていた。そしてその感は正しかった。

 

真「むんっ」

 

 放たれる氣弾。凪の氣弾が当たった場所の少し横に着弾する。そこまでは同じ。しかしそれがもたらした結果は大きく違っていた。真の氣弾は3分の2を破壊するどころか、完全に防壁を貫通しその先の地面に直径20センチほどのクレーターを作ってようやく止まった。

 驚きを隠せない凪。いったい自分とこの男にどんな違いがあったのだろうと。

 

真「何が違うか分かったか?」

 

凪「い、いえ。分かりませんでした」

 

 すると真は両手を前に出し左右に同量の氣を集める。量は同じであるが質は左右で異なっていた。左手はどこかぼんやりとした少し不安定な光を放ち、右手はしっかりとした輝きを放つ。

 

真「右手が俺。左手が凪だ」

 

凪「これはどう違うのですか?」

 

真「氣の集束の差だ」

 

凪「集束ですか?」

 

真「そうだ。氣を泥だと考えたらわかりやすい。左手はただ氣を一転に集めただけ。つまり泥をすくっただけの状態だ。このまま投げても目標に到達する前にある程度威力はそがれてしまうし、あたってもほとんど威力はない。一方右手はそれを集束して押し固めている。つまり泥を固めて一つの塊にしているんだ。こうすれば途中で威力を失うことはない。さらに固まっている分当たった時威力は増すし、攻撃の射程距離も長くなる」

 

 そう言うと真は両手に溜めた氣を同時に壁に向かって放つ。左手は防壁の半分を破壊するに留まったが、右手の方はまたもや貫通し向こう側の地面をえぐっていた。

 

真「これが俺と凪の氣弾の威力の違いの原因だ。凪の氣弾はまだまだ集束が不十分だ」

 

凪「そうだったのですか」

 

真「集束はコツを掴めばある程度はすぐにできるようになる。完璧にしようと思えば修業が必要だがな。凪ならばすぐに習得できるだろう。今からそのコツを教えてやる」

 

 凪は真に構えろと言われ氣弾を放つ態勢に入ると拳に気を集めていく。

 

真「十分に氣が集まったらそれを小さく丸く固めろ。感覚としては渦を巻きながら中心に集まっていく感じだ」

 

 真は簡単に言ってのけたがそれは凪にとって非常に難しいことだった。凪は今まで氣は溜まったらすぐ放つ、というように使ってきた。氣の流れも大まかにしか感じ取ることはできない。そんな彼女にとって真の言うような細かい氣の操作など出来るはずもなかった。

 すると真はいきなり凪の後ろにぴったりと寄り添い右手を凪の右拳に添えた。真の整った顔は凪の顔のすぐ真横にある。息遣いマジかに感じ、少し首を動かせばキスも簡単にできてしまうような超至近距離だ。

 

凪「なっ! た、隊長!」

 

真「ん? どうかしたのか?」

 

凪(どうかしたのかじゃありません!!)

 

 状況を全く理解していない真に心の中で悪態をつく凪。

 

真「今から氣の流れを補助してやる。まずはその流れを読み取ることに集中しろ」

 

 しかし凪には真の言葉は全く届いておらず頭の中の雑念を消すことに奮闘していた。

 

凪(せっかく直接ご指導していただけるのだ。いらぬ考えは消そう。集中だ、集中。でもなんと逞しい胸だろう・・・・ってそうではない。御遣い様の息遣いが耳元で・・・・ってそうじゃない!)

 

真「・ぎ、おい・ぎ。凪!」

 

凪「ひゃいっ!」

 

 間抜けな声を挙げてようやく我に帰る凪。真は少々あきれ気味だ。

 

真「集中しろと言っている。今から氣を流す。準備はいいか?」

 

凪「は、はいっ。おねがいしますっ」

 

 すると真の手を介して暖かい何かが凪の体に流れ込んできた。

 

凪(あっ)

 

真「分かるか?」

 

凪「はい」

 

 いつも感じているものとは違う真の氣が混ざることで今まで感じたことのないほどしっかりと自分の氣の流れを感じ取っていた。

 

真「次は集束していくぞ」

 

 今度は拳に集めた氣に変化が起こる。最初はゆっくりと回転し始め、徐々に速くなっていく。

 

真「これをさらに中心に押し固めていく」

 

 今度はそれがどんどん拳の中心に集まっていくのが分かった。これまた初めての感覚に凪は内心興奮気味だ。しばらくして集束が終わると凪はさらに驚く。普段彼女が放つ氣弾とは明らかに密度が違っていた。今なら真がさっき言ったことがはっきりと理解できた。これが当たり前のようにできる真と自分では威力の違いがでて当然だとも思った。

 

真「このままの状態で防壁に向かって放ってみろ」

 

 言われた通り氣弾を放つ凪。それは防壁を軽々と突き破り向こう側の地面に突き刺さった。

 

真「まずは自分の氣の流れを完全に把握することだ。最終的に意識せずにこの一連の動作ができるようになれば合格だな」

 

 凪の拳にはまださっきの氣の感覚がはっきりと残っていた。もしもあれを使いこなせたら。彼女の武人としての血が騒いだ。

 

真「あとは訓練あるのみだな。ひとまずこの防壁を解体ついでに技の練習をするといい。ただし、無理はするな。すぐに次の戦いがある。感覚を掴む程度にしておけ」

 

凪「はっ」

 

真「それと俺が許可をするまで実戦で使うな」

 

凪「何故です?」

 

真「この技は集束の度合いが上がれば上がるほど危険度は高くなる。もし戦闘中に焦って氣の集束に失敗して拳で弾けでもしたら、良くて4、5日、下手をすれば一生腕が使えなくなる。武人として生きていきたいなら必ず守れ」

 

凪「はい」

 

 真は周囲で作業をしていた兵士たちに指示を出すと真桜たちの様子を見に行くといってその場を後にした。

 凪はそんな真を見送るといわれた通り訓練に入った。

 

凪(隊長の手、温かかったな)

 

 胸元に抱きしめた手には真の手の温もりがはっきりと残っていた。

 それから数刻後、真たち山奥にある古ぼけた砦の近くまで進軍していた。防壁の撤去がちょうど終わったころ偵察に出ていた秋蘭の隊から敵の拠点を発見したとの報告が入ったからだ。

 華琳たちはすぐさま撤収の準備を始め、置いて行く残りの糧食を街の者たちに分け与えるための義勇軍兵の一部を残し半日の行程を強行軍で駆け抜け数刻でこの地点に到着していた。

 

明雪「あれがその砦ね」

 

真「らしいな。都合のいいものを見つけたものだ」

 

秋蘭「華琳様」

 

 そこに本隊が到着するまで監視を続けていた秋蘭が合流した。

 

華琳「ご苦労様。状況は?」

 

凪「はっ。敵総数は一万五千ほど。本隊は近くに現れた官軍を迎撃しに行っているらしくここにはいません」

 

 秋蘭を迎えに行っていた凪が状況を簡潔に説明する。

 

真「思ったよりは多いな」

 

凪「ですが敵は今物資の搬出に気を取られています」

 

明雪「攻めるなら今、か」

 

真桜「でもせっかくの砦やで。そないに簡単に捨ててええんかいな?」

 

沙和「もったいないの~」

 

明雪「元々放棄されていた砦を勝手に使っているだけよ。必要なくなれば簡単に捨てるでしょうね。一日この情報が遅ければその時にはもぬけの殻だったでしょうよ。」

 

華琳「厄介きわまりないわね・・・・・。それで春蘭。こちらの兵力は?」

 

春蘭「はっ。我が軍の兵と義勇兵を合わせても七千五百程かと」

 

 兵力差はほぼ倍。敵が物資の搬出に気を取られている今が絶好の好機と言えた。

 

華琳「今が絶好の機会ね。一気に攻め落としましょう」

 

 ここで桂花がある提案を華琳に持ちかける。

 

桂花「華琳様。一つ提案が」

 

華琳「何かしら?」

 

桂花「戦闘終了後、全ての隊は手持ちの軍旗を全て砦に立てさせてから帰らせてください」

 

真(?・・・・・・そうか。なるほど、考えたものだ)

 

 その真意にすぐ気がつく華琳、真、明雪、秋蘭の4人。残りの面々は何故そんな事をするのか分からない様子だ。

 

季衣「どういうことですか?」

 

桂花「この砦を落としたのが、我々である事を知らしめるためよ」

 

明雪「おそらく今黄巾の本隊と戦っている官軍も最終目的地はこの砦のはず。そこに我らの軍旗が翻っていれば我らの力を官軍に見せつけることができるわ」

 

華琳「・・・面白いわね。その案、採用しましょう。軍旗を持ち帰ったものは、厳罰よ」

 

 嬉しそうに笑いながら言う華琳。本当に気に入ったようだった。その横では桂花がそれ以上にうれしそうな顔をしている。若干怪しい雰囲気なのはこの戦いの後のご褒美を期待して想像しているからだろう。

 

真「俺からも一つ頼みがある。今回は義勇軍の連中は凪、沙和、真桜の3人を除いて予備兵力として後方に置いておきたいんだ」

 

桂花「な、何をばかなことを言っているの!? ただでさえ数でこちらが不利なのにっ」

 

華琳「待ちなさい桂花。真。理由を聞いていいかしら?」

 

真「彼らは義勇軍とはいえ正規の訓練を受けていない、いわば素人だ。他の隊との連携は難しいだろう。かといって一部隊として行動させるには数が少なすぎる。だから今回は緊急時の予備兵力として待機させておきたいんだ」

 

華琳「その分の兵力的損失はどうするの?」

 

 華琳は少し意地悪そうに尋ねる。

 

真「責任はとるさ。我が力の片鱗、とくと見るがいいさ」

 

 真は挑発的な表情でそれに応じた。

 

華琳「いいわ。許可しましょう。その代わり、言った事の責任は取ってもらうわよ」

 

真「御意」

 

華琳「明雪隊中央、春蘭隊が右翼、秋蘭隊は左翼を務めなさい。凪、真桜、沙和は真とともに中央に。本陣は私が率います」

 

一同「御意」

 

華琳「狙うのは敵の殲滅と敵の糧食をすべて焼き尽くすこと。いいわね」

 

 さらに軍旗を一番高い所に立てた者には後ほど華琳から褒美が出されることになった。

 各隊が所定の位置に布陣を終えて華琳からの指示を待っていた。じっと敵の砦をにらむ真の元に部隊の布陣を終えた凪が報告にやって来た。凪たち3人にも100人ずつの兵が預けられていた。

 

凪「隊長、楽進隊布陣完了いたしました」

 

真「ご苦労。別命あるまで待機」

 

 そう告げるとまた敵の砦をじっと睨む真。はたから見ればただ立っているだけに見えるが、そばにいる凪にはその静かな、けれどはっきりとした闘氣がひしひしと伝わって来た。

 

真「なぁ、凪」

 

凪「! は、はい。何でしょうか隊長」

 

 いきなり声を掛けられて少し言葉を詰まらせながら返事をする凪。

 

真「お前は何故武器をとり戦おうと思った?」

 

凪「? 私は私の大切な人を守りたかった。そして私にはその力があった。この力で誰かを守れるなら、それで少しでも世が平和になるのなら。そう思って私は武器をとりました」

 

 凪は自分の武器である鐵鋼、閻王を撫でながらそう答えた。真はそれに対して小さくそうかと言っただけだった。

 

凪「隊長は、何故兵士になったんですか?」

 

 凪は同じ質問を真に問い返した。自分では足元にも及ばない圧倒的な武を持つ真がどうして戦う道を選んだのかは興味があった。

 

真「・・・・・・・」

 

 真は無言のまま凪を見た後また砦の方を見たまま答えようとしなかった。凪はまずいことを聞いてしまったのではないかと感じた。

 

凪「あの隊ちょ「これしかなかったのさ」え?」

 

真「これ以外生きる術を持たなかった。これだけが俺の存在価値だった。ただ、それだけのことさ」

 

 淡々と言う真。しかしその表情は少し辛そうだった。まるで記憶の奥底にある古傷を思い出すかのように。凪はその表情に見入る。何故か惹きつけられたまま視線を外すことができない。

 

真桜「隊長、凪、なにしてんの?」

 

 凪が我に帰ると、いつの間にか隣には真桜と沙和が立っていた。

 

沙和「2人で何してたの~?」

 

真桜「あっ。わかったで。隊長が凪を口説いとったんやろ?」

 

凪「ま、真桜っ」

 

真「それはいいかもしれんな」

 

凪「隊長!?」

 

 意地悪そうに笑いながら言う真。その表情はいつものものに戻っていた。

 

真「冗談だ。凪の戦う理由を聞いていただけだ。お前は何故戦うのかと」

 

2人はなんだと言ってつまらなそうにしている。真は凪、真桜、沙和に真剣な顔でこう言った。

 

真「今日お前たちに俺の力の片鱗を見せてやる。しかと見ろ。そして知れ。この世の頂点に近い武の一端をな」

 

 そんなやり取りをする4人を華琳たちは少し後方から眺めていた。

 

華琳「何をやっているのかしらあの子たちは」

 

明雪「さあ? 士気向上のための話し合いでもしてるんじゃないの?」

 

春蘭「華琳様。各隊、戦闘準備完了しました」

 

華琳「そう。なら、行くわよ」

 

春蘭「御意!」

 

 春蘭は華琳に一礼すると大きく息を吸い込む。そして布陣する部隊七千五百人全てに届くよう声を張り上げた。

 

春蘭「銅鑼を鳴らせ! 鬨の声を挙げろ! 奪うことしかできない賊共と、威を借るしか能のない官軍共に! 我らの力を見せつけてやるのだ! 総員奮励努力せよ! 突撃ぃぃぃッ!!!」

 

 大地を震わす鬨の声でそれにこたえる兵士たち。ここに戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 戦いは魏軍が圧倒的に有利に進めていた。黄巾党は強襲によりパニック状態に陥り、さらに運び出している途中だった糧食が邪魔でまともに陣を組めない。

 戦い慣れた魏軍がそれを見逃すはずがなかった。敵を半包囲いた後猛烈に攻め立てる。右翼からは春蘭が騎馬隊による波状攻撃を加えすさまじい勢いで敵を削り取っていく。左翼からは秋蘭率いる弓隊による矢の雨が降り注ぎ、怯んだところを季衣の隊が薙ぎ払う。

 しかしそれ以上に凄かったのは中央。敵陣を猛然と突き破り前進する一人の男。真である。まるで無人の野を行くがごとく敵を薙ぎ払いながら進んでいく。切り裂き、突き崩し、薙ぎ払う。誰も止めることはできない。それを後方で見ていた華琳は思わず立ち上がりその姿に見入った。

 

華琳「真。あなたは本当に私を楽しませてくれるわ」

 

 普通に考えれば真に実力からして別におかしなことではない。むしろ当然と言えた。しかしなぜ華琳がこうまで驚くのか。それには2つの理由があった。

 1つは普段の戦いで真は本気を出さないのだ。初戦と先の戦いでこそ力の一端を垣間見れたものの普段は客将として明雪の補佐に徹している。けして自分から先陣に立つことはなく、将としては以下の兵に指示を送るだけだ。

 そして2つ目。こちらが、今回華琳が驚く理由の大部分を占めるだろう。能力を一切使っていないのだ。獅子哮波や血雨はおろか縮地すら使っていない。ただ純粋な武のみをもって敵を粉砕しているのだ。華琳は考えた。自分を含めた魏の武将にあれと同じことができるかと。答えは否だ。春蘭ですら単体で、あの速度で敵陣を破るなど不可能だ。しかしこの感情はなんだ。目を離すことができないほど魅入られているのにどこか違和感がある。無意識に右手で左の二の腕に触れると、自分が鳥肌を立てていることにようやく気付く。そして自分の中に渦巻く感情が何かがわかった。

 

華琳(そうか・・・・。私は恐れているのね。あの御堂真という男を)

 

 華琳の視線の先。真が造った道を凪、沙和、真桜が押し広げて分断したところを明雪が各個撃破していく。気がつけば黄巾党は既に敗走を開始していた。

 魏軍の猛攻の前に瞬く間に数を減らした黄巾党。既にその数は当初の半分まで減っていた。焦った指揮官はとんでもない行動に出た。無傷の兵五千を連れて砦に逃げ込み外で戦う二千五百の兵を見捨てて門を閉じたのである。その結果二千五百の兵のうち二千が戦死。五百の兵が逃亡した。

 魏軍は一度下がって陣を組み直し双方のにらみ合いが始まった。その間華琳は将を集め軍議を開いていた。

 

華琳「全く、厄介なことになったわね。桂花、残存兵力はどう?」

 

桂花「六千といったところです」

 

春蘭「そんなことは関係ない。あんな砦など力づくで攻め落としてしまえばいいではないか」

 

桂花「馬鹿なこと言わないで! 敵には物資もあって兵力も互角、その上攻城兵器もない。そんな状況でどうやって攻めろというの!?」

 

春蘭「ふんっ。あんな砦、我が武でなぎ倒してくれる!」

 

桂花「だから「俺がやろう」」

 

 2人の口論に割って入る真。そんな真に華琳は問う。

 

華琳「真。何か策でもあるの?」

 

真「要するにあの門を抉じ開ければいいのだろう? 責任はとる。あのとき俺はそう言ったはずだ。ならばやって見せよう。・・・・・それに」

 

 真は視線を丘の方に視線を向ける。

 

真「観客も来たようだ」

 

 すると2人の兵士が駆け込んでくる。

 

兵士A「報告します! 二千ほどの軍勢が接近中! 牙門旗は孫!」

 

兵士B「報告します! 未確認の軍勢を発見! 牙門旗は劉! 総数は千五百ほどです!」

 

 報告のすぐあと孫と劉の牙門旗をはためかせた軍勢が姿を現した。

 

真「おそらくは袁術のところの客将、孫策と平原で最近名を挙げている義勇軍の劉備だろう。いい機会だ。奴らにも見せつけてやろうではないか。曹魏の武と御遣いの力を」

 

華琳「いいわ。任せましょう」

 

桂花「華琳様!」

 

真「感謝する。秋蘭、明雪、凪。3人は精鋭15名を連れて一緒に来てくれ。華琳たちは攻め込む用意を。門が開くと同時に一気になだれ込んでくれ」

 

華琳「分かったわ」

 

 すぐさま配置に着く魏軍。孫、劉の軍は様子見をするようで動こうとはしなかった。準備を終えた真たちは部隊の戦闘で待機していた。真たち4人と秋蘭隊精鋭弓兵10名、明雪隊精鋭兵5名を含めた19人はいつでも出撃できる体制を整えている。

 

真「皆にしてもらいたいことは準備が終わるまで俺を護ってほしいんだ」

 

明雪「護る?」

 

秋蘭「それよりどうやってあの門を破るつもりだ? まさか素手でこじ開けるなどとは言うまいな」

 

真「こいつを使う」

 

 そう言うと真は背中に背負っていたパイルバンカーのグリップを握る。背中からおろした後、グリップの後ろに着いている突起を軍服の肘に着いている留め具に固定した。

 

凪「隊長、それは?」

 

真「これは『崩天(ほうてん)』。天の国の武器で強固な装甲をもつ物や防壁などを破壊する武器だ。先端部分に着いている杭を攻撃対象に押し当て爆発の衝撃で敵に杭を打ち込み破壊する。通常は特殊な火薬を使うが、これは特注品で氣の爆発を利用している」

 

明雪「そんなので本当にあんな大きな門を破壊できるの?」

 

真「無論だ。ただ流石にあそこまでデカイ物となると氣を練るのに少し時間がかかる。時間にして30秒ほどだが、その間無防備になるからな」

 

秋蘭「そこを護るのが我らというわけか」

 

真「そうだ」

 

 そこで凪に一つの疑問が浮かぶ。“何故自分が護衛役に選ばれたのか”。そう悩んでいると真が声をかけてきた。

 

真「何故自分がここにいるのかって顔だな」

 

凪「はい・・・」

 

真「ただの気まぐれだ。お前ならできると思った。それだけさ」

 

 凪は少しがっかりした。もしかしたら自分は真に認められて選ばれたのではないかと思っていたからだ。真はそのまま歩きだす。だが、凪の横をとうりすぎようとしたとき足を止める。

 

真「だがな・・・俺は自分ができないと思う奴に、気まぐれで命は預けはしない。落ち込む暇があるなら俺の期待に応えて見せろ」

 

 まるで凪の考えを見透かしたかのようにそう言い残すと、凪の肩を軽くたたき歩き去っていった。

 

凪「はい!」

 

 後ろから響いた元気な声に真は戟を挙げて応えた。

 数分後、魏軍は突撃態勢を整え待機していた。そして真率いる先行部隊は砦のすぐ前までやってきていた。

 

真「準備はいいか?」

 

明雪「ええ」

 

秋蘭「いつでも」

 

凪「はっ」

 

真「行動は事前の打ち合わせ通り。特に最終段階は必ず守ってくれ。さもなくば命の保証はしかねる」

 

 頷く一同。真はそれを確認すると砦の方に向き直る。

 

真「いくぞっ」

 

 その言葉と同時に一気に駆けだす真。それに遅れるまいと明雪たちも一斉に走り出す。まず仕掛けたのは秋蘭率いる弓隊だった。城門へと迫る真たちを狙う敵兵を確実に打ち抜いていく。秋蘭についている兵士たちも精鋭の名に恥じることのない見事な射撃で敵を仕留めていく。

 一方真たちは早々と門の前に到着していた。すぐさま真は門を破るべく軽く腰を落としてしっかりと踏ん張ると、崩天を門のちょうど真ん中にまっすぐ押し当てる。そして膨大な量の氣を練り始めた。

 その真を5人の兵士が囲みもっている盾で覆い隠す。明雪と凪は仕込み針と氣弾で城壁の上の兵士を牽制した。

 しかし黄巾党も黙ってはいない。真たちの目的が城門を破る事だとわかると兵を集め阻止せんと攻撃を集中する。その攻撃は苛烈を極めた。想像以上の猛攻に溜まらず明雪が声を挙げる。

 

明雪「真! まだなの!?」

 

 しかしその返事はない。1分にも10分にも思える長い30秒を必死に耐えた。真を覆う盾は突き刺さった矢でまるで剣山のようになっている。弓隊の方にもかなりの攻撃が加えられており既に2人が戦線を離脱していた。盾が砕けるかと思ったその時、ついにその時が来た。

 

真「明雪っ! 凪っ! 秋蘭っ!」

 

 その声を聞くと同時に全員が一斉に動き出す。真を覆い隠していた盾を持った兵士が一斉に下がる。10メートルほど離れたところで盾を二重にしてその場で精いっぱい踏ん張る。その後ろに明雪、秋蘭、凪、そして残りの兵たちが隠れる。その行動を不可解に思ったが好機とばかりに真に攻撃を集中する。しかしそれは既に無意味なものとなっていた。

 

真「我が崩天にできるはただ一つ。いかなる敵も、いかなる壁も、一点突破で食い破り道をつくる事のみ」

 

 真が30秒かけたのは崩天に氣を集めるためだけではない。同時に全身を金剛氣で包むためでもあった。今の真の体はダイヤモンド並みの硬度を持つ。どんな矢でも傷一つつけられるわけがなかった。

 

真「ならばただ一つ、その事のみに全身全霊をかける」

 

 真の目がカッと開かれる。四肢にめいいっぱい力を込め崩天の引き金を引いた。

 

真「どんな装甲でも、撃ち貫くのみっ!!」

 

 崩天に込められて膨大な量の氣が解き放たれる。それによりもたれされた結果は想像を絶するものだった。

 

真「崩天『破山一点崩ッ!!』」

 

 ドゴオオオオオォォォォォォンンッ!!!!

 

 衝撃で城壁は抉られ、上にいた人間が吹き飛ばされる。後ろにいた明雪たちは盾の後ろでたがいに踏ん張り合って必死に耐える。大地を震わす轟音と共に数トンはある鉄の塊がまるで木戸のように内側に弾け飛ぶ。そして何百人という兵を巻き込みながら奥にあった倉庫を直撃しそれを粉砕してようやく止まった。

 

 「・・・・・・・・・」

 

 場を静寂が包む。誰も動こうとしない。いや、動き出せない。目の前で起こった事象に対し誰もが理解が追い付いていない。この世のものとは思えない出来事が彼らから全ての思考を奪っていた。

 そこに響く一つの声。良く通るその声が全ての者の思考を呼び覚ます。

 

真「曹猛徳に仕えし勇敢なる兵士たちよ! 敵の砦を護る堅牢なる門は、今我が武の前に砕け散った! 勇敢にして精強なる我が同胞よ! 時は今! この世を乱せし賊共をその刃で切り裂け!」

 

 兵たちはその言葉の意味を理解し奮い立った。これをやったのは自国の将軍だと。これをやったものは自分たちの味方なのだと。同時に確信した。この戦いに負けはないと。

 そしてそこに彼らが敬愛しその忠義と命を捧ぐ凛々しき王の言葉が響く。

 

華琳「皆の者! 今、道は開かれた! 我らが御遣いの切り開いた道を進み、愚かなる賊共を根絶やしにせよ! 全軍、突撃!」

 

 大地を震わす鬨の声を挙げ6千の兵が砦になだれ込む。もはや黄巾党にそれに抗う力はなく砦は半刻も持たずあっけなく陥落した。黄巾党五千は全て戦死。紅蓮に燃える砦には大量の曹旗がはためいていた。

 

 そのころそれを見ていた孫策、劉備の両陣営にも動揺が走っていた。

 ~孫策陣営~

 

??「あれは・・・・本当に人間か?」

 

??「あの武、人智の域を超えておるわい」

 

??「・・・・・・・」

 

??「どうする策殿。件の御遣いとやらに会いに行ってみるか?」

 

 策殿と呼ばれた女性、孫策はその問いに対して静かに首を横に振った。

 

孫策「やめておきましょう」

 

??「孫策の言うとおりです。会いに行ったところで会わせてはもらえないでしょうし。本当にあれが件の御遣いだというのなら何としても我が陣営に引き込まねば。どちらにせよ無策で会いに行くのは無謀でしょう」

 

??「ふむ。確かにそうじゃの」

 

孫策「黄蓋。撤収の準備をして。周瑜。貴方は出来るだけあの御遣いの情報を集めて」

 

黄蓋「承知した」

 

周瑜「わかった」

 

 各々走っていく2人を見送った後、孫策は再び砦の方に視線を向けた。

 

孫策「天の御遣い、御堂。ふふ・・・一度手合わせしてみたいものね」

 

 孫策は妖艶に微笑むと人の中へと消えていった。

 ~劉備陣営~

 

??「ほぇ~」

 

??「・・・・・・・」

 

??「すごいのだー」

 

??「はわわ~」

 

??「あわわ~」

 

 こちらも目の前で起こっている出来事に動揺を隠せずにいた。

 

??「これが・・・・御遣いの武」

 

??「噂には聞いていましたが・・・・こりぇほどとは」

 

??「すごすぎましゅ~」

 

 「「あう~、噛んじゃいました」」

 

??「いかがしますか、劉備様」

 

 劉備と呼ばれた少女。その問いに応えることができない。

 

劉備「どうしようか? 諸葛亮ちゃん、龐統ちゃん。どうすればいいと思う?」

 

諸葛亮「ここはいったん引くべきだと思います」

 

??「何故だ?」

 

龐統「今会いに行ってもおそらくは会わせてもらえないと思います。曹操さんにとっても御遣い様は手放したくない人材でしょうから」

 

諸葛亮「ここは一度引き上げ、策を講じた上で会うべきかと思います」

 

劉備「うん、わかった。関羽ちゃん、張飛ちゃん。撤収準備お願いね」

 

関羽「御意」

 

張飛「了解なのだ~」

 

 走り出す2人を見送った劉備は砦を見てこうつぶやいた。

 

劉備「会える日を楽しみにしてますね、御遣い様」

 

 こうして劉備たちも帰還の途につくのだった。

 魏軍は素早く兵をまとめ、帰還の途についていた。真は華琳と並走しながら馬を歩かせていた。

 

華琳「見事だったわ真。あなたにも何か褒美をあげないとね。何か欲しいものでもある?」

 

 真は少し悩むようなそぶりを見せる。

 

真「有言実行しただけ。別に褒美などいらん・・・・・と、言いたいところだがな」

 

華琳「何かほしいものでもあるの?」

 

真「明日から2日間、休みをくれ」

 

華琳「今がどういう情勢かわかって言ってるのよね」

 

真「ああ。今の情勢だからこそ行っておきたいところがある」

 

華琳「行きたい所ってどこなの?」

 

 真は虚空を見つめこういった。

 

真「五行山だ」

 

 翌日、真は五行山へと向かった。

 いかがだったでしょうか? ご意見等あればどしどし書き込んでいただければと思います。

 

 ここで皆様にアンケートを取りたいと思います。次回は真がこの世界に来た理由を解明していきたいと思っているんですが、同時に2つか3つ個人ルートを書きたいと思います。

 

 そこで!! 先輩作者の方々と同じくここでアンケートを取りたいと思います。1人2つまで選択可能とします。皆さま気軽に投票してください。

 

 1 華琳

 

 2 春蘭&秋蘭(またはどちらか個人)

 

 3 明雪

 

 4 桂花

 

 5 季衣

 

 6 三羽烏(または各個人の誰か)

 

 7 以前真に話しかけていた謎のキャラをそろそろ出せやっ!!

 

 以上7種類でアンケートを取りたいと思います。皆様どうぞよろしくお願いします。

 それでは第10話でお会いしましょう。ではでは~


 
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