No.117397

真・恋姫†無双 ~祭の日々~6

rocketさん

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今回は風拠点って感じですかね。
これから呉が主流になっていくので、やっぱり直前になにか入れておきたいなと思って入れてみました。
…やばい、祭さんが少ししか出ていない(汗

2010-01-09 00:06:38 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:9197   閲覧ユーザー数:7166

 

街を出て数日が経った。

祭さんと風、それに俺…この三人での旅は案外に楽しい。

まさかこんなことになろうとは、天だって予想がつかなかったろう。

 

夜、寝る前。

野宿をすると決め、火を焚いた場所から少し離れた所で、俺は祭さんから稽古を受ける。

「突っ込めばよいというものではない。かといって腰がひけるのは尚悪い。」

剣ではないとはいえ、あたれば痛いじゃ済まないだろう木の棒を全力で振るっている俺に、祭さんは余裕の素振りで教えを口にしていく。棒を振るうのにかまけて、その言葉を聞き漏らすわけにはいかない。祭さんの言葉ひとつひとつが、俺が強くなるための大切なヒントなのだから。

「機を見ることを学べ。脇が甘い、足場が悪い、体勢が悪い、剣筋が見えていない――そのすべてが命取りであることを知れ。」

「……くっ!」

祭さんは一度も俺に撃ってこない。彼女はただ俺の攻撃をさばくだけだ。

頭を狙う一振りが、脇を打たんとする薙ぎが、腹を衝こうとする突きが、流れるような手捌きで弾かれていく。

「相手が撃ってこないからと油断するのも良くない。」

今まで捌いているだけだった木刀が、くるりと回って俺の手首を打つ。

「っつ!?」

からん、と俺の手から木刀が落ちる。痺れる手首はじんじんとうなり、俺は苦痛に顔を歪める。

「今日はここまでじゃ」

祭さんはそういって風が待つ場所へ戻っていく。

見れば、風は今まで無言で観察していたくせに――俺を見て静かに微笑んでいた。

「……見てて楽しい?」

恥ずかしいところを見られた。そんな思いが頭を一瞬よぎるが、すぐに打ち消した。

今に始まったことじゃない…というか、祭さんに手も足も出ないのは当然のことで、これから強くなるのだから恥じるべきではない。

恥じている暇があるのなら次を考えるべきなのだ。

「はいー、お兄さんが必死なのを見ていると、風は楽しいのですよ」

「…風は意地悪だな」

困ったような笑いが漏れて、風はそれに柔らかな笑みで返事する。

「おぬしは将になる者ではないでな…まあ気長にやるしかなかろうよ」

そういう祭さんの手には、街で買ったお酒がしっかりとつかまれている。それをぐいっとあおると、祭さんは豪快に笑う。

「くう~…うまい!運動のあとの酒は格別じゃな!」

彼女たちのいる場所へと近寄っていく。

「さて。建業までは後どのくらいなんだ?」

地理を把握していない俺は、風にそう尋ねる。

「そうですね~…このまま行けば、あと二日くらいで着くんじゃないでしょうか」

「うーん、もう目と鼻の先だね」

歩いて二日かかる場所を、目と鼻の先、と言ってしまえるのは…それだけの旅路を歩んできたということだ。

「ん、じゃあ儂はちょっと出てくるでな」

「え?」

さっと立ち上がる祭さんに驚きの目を向ける。もう夜も深いというのに、どこへ行くというのだろう?

「さっき向こうで川を見つけたんじゃ…薬も塗らなければならんし、ちょっと行ってくる。」

「ああ、わかった。…気をつけてね?」

「儂を誰だと思っておるんじゃ…。まあいい、行ってくるな」

余裕だったとはいえ稽古をしたのだし、多少は汗もかいていることだろう。

「風はいいの?」

「ええ、風はお兄さんと少し話したいことがありましてー」

「ん?」

すすす、と寄ってくる風。

「了承をとっておきたいことがあるのですよ」

「?」

「お兄さんは、魏へ帰ると言ってくれましたよね?」

「ああ、もちろんだ。」

けして違わないと誓った、大切な約束。

「その前に――華琳さまに連絡を入れようと思うのですが、よろしいでしょうか?」

「……それは」

即答できない。

俺は華琳を愛していて――自惚れでなく彼女も俺を愛してくれていたように思う。

別れるとき、行かないでくれと告げる彼女を置いて俺は去った。

気まずいという気持ちが心にひっかかっているのだ。…いや、しかし。

「…お願いするよ。連絡しておいてくれるかい?」

「はい、ありがとうございます」

少しでも安心させられるのなら。

…いや、ひょっとしたらふざけるなと怒られるかもしれないけれど。

 

 

「で、ですね」

「ん?」

ただでさえ近かった距離を、さらに狭めてくる風。

…ていうか、ひざに乗ってきた。

「どうしたんだ?」

「いえいえー、季衣ちゃんがよく乗っているのを見て、風もしてみたいなとずっと思っていたのですよ」

しっかりと腰を落とし、俺のひざで落ち着いている。

「いつから風はそんな甘えんぼさんになったんだ?」

からかうようにいってやると、

「………ぐう」

「寝るのかよ!」

「おおっ!?…あまりの恥ずかしさに狸寝入りしてしまいましたー」

「狸寝入りって認めてるし」

「…お兄さん」

「なんだ?本当に眠くなっちゃったか?」

「……………風は、ほんとうに怖かったのです。」

それは、ともすれば聞き漏らしてしまいそうなほど小さな声。

「すべてを祝うはずのあの宴会の夜…お兄さんがいないことに気づきました。

最初は、誰かとよろしくやっているのだろうと思って、多少おもしろくないと感じながらも特になにも気にしてはいませんでした。

……………華琳さまと一緒にいなくなったのだと気づくまでは。」

風の目は、遠くを見ている。

三国が平和を誓ったあの日のことを思い出しているのだろう。

「稟ちゃんが華琳さまがいないと言いにきて、はっとしました。

お兄さんの体調が、最近ずっと芳しくないことを知っていたからです。

お兄さんの態度が、みなと接するときの表情が…つらそうなときがあるのを、知っていたからです。」

「…俺、そんなにわかりやすかった?」

「いえいえー、お兄さんは必死で隠していましたよ。現にほとんどの人は気づいていなかったでしょう。

だけど風は軍師ですよ?軍師の仕事は、物事を見定めることから始まるのですから」

「……まいったな」

あのころ、俺はおそらくこの世界から弾かれてしまうだろうと薄々感づいていた。

だからこそ、みんなと過ごせる残りの時間を精一杯過ごそうと…思っていたはずだったが。

「風はわかってしまいました。…お兄さんと華琳さまが、どのような会話をしているのかが。

そして…悲しかったです。お兄さんは風たちに、なにも言ってくれないのだと」

「風、それは…」

「いいんです。お兄さんは最後の別れを告げる相手を、華琳さまと決めました。

なら…風たちが邪魔してはいけないと、稟ちゃんと話し合って決めたのです」

なかなか大変だったのですよ、と風は笑った。

「桂花ちゃんや春蘭さまは、華琳さまの不在にすぐ気がついてしまうでしょう?だから早めにお酒で潰したり」

「おいおい…」

「凪ちゃんたちや霞さんは、お兄さんと飲みたかったみたいで…ずっと探していましたので、もう潰れてしまったと嘘をついたり」

俺に向き直り、ひざに乗ったまま風は俺に強くしがみついた。

「それでも…それでも、翌日の朝、華琳さまにお兄さんはもういないのだと告げられたときは、心臓がとまりそうでした」

俺も風も抱きしめ返す。その震える肩が、少しでも治まってくれるように。

「もういないって、わかっているのに…城内でお兄さんの姿を捜してしまいます。

それがいやで、他国の調査を引き受けました。…お兄さんのいないあの城にいるのは、耐えられませんでした」

「ごめん、風…」

「もう…どこにも、行かないで…ください……」

強く抱きしめる。それでも風の震えはとまらない。

「お兄さん、お兄さん…!」

潤む瞳で、こぼれる涙を無視して、風は俺の唇を奪う。

「んっ…」

抵抗するつもりもなかった。

風を受け入れ、そして俺も彼女を求めた。

 

何度も何度も求め合い、ようやく落ち着いたのか、風は俺のひざに座りなおした。

「…落ち着いたかい?」

「はいー…やっぱり、お兄さんの唇は魔性なのですよ。風はもう離れられないのです」

「おうおう、さすが種馬だねえ」

それはきっと、風なりの照れ隠しだった。

 

夜は深く、月は照り。

再会した少女が愛しくて、俺は感情を口に出さずにはいられない。

 

「愛しているよ、風」

「はい……風も、お兄さんが大好きなのですよ」

 

――そんな光景を、しっかり見ている人がいたりして。

 

「…むう」

なんだかよくわからない感情を持て余していたりもする。

 

さまざまな想いが交錯する。

――夜はまだ、始まったばかりだった。

 


 
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