No.117274

真・恋姫†無双 臥竜麟子鳳雛√ 5

未來さん

ちょっと展開を急ぎすぎたかもしれません……。
もう少しゆっくりしていっても良かったかも……。

あと、一刀を少し積極的に書きました。違和感がありましたらごめんなさい。

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2010-01-08 06:33:36 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:28155   閲覧ユーザー数:19030

最初の黄巾党撃退から早数ヶ月。黄巾党の襲撃を数度凌いできた一刀たちは、日に日に国力を増していった。

『天の御遣い』の評判は人という人を引き寄せ、今や雍州でも3本の指に入るほどの街へと成長した。

これは市政において、住宅供給と農業政策に重点を置いたためだ。

 

 

住であぶれず、食でもあぶれず。

 

 

生活する上での基礎、衣食住の内2点をきちんと抑えたことが、功を奏したと言える。

それ以外の政策は若干後回しになってしまうが、一刀たちが時折町に出向いては住民の声に真摯に耳を傾けていたため、大きな不満は出ていない。

 

 

 

 

黄巾党に関しては、日に日に勢力が弱まっている。

襲撃されることも今ではほとんどなく、本拠地近辺では掃討作戦の準備が進んでいるという。

一刀たちも黄巾党の本拠地は耳に入っていたのだが、

意外に遠方にあるため無理な参戦はしない方向で決まっている。

 

 

「そ、それではっ、これから朝議を始めたいと思いますっ」

 

 

少しおどおどしながら、でもみんなにしっかり聞こえるように、雛里が声を上げる。

 

 

朝議には主な目的として、今後の方針決定と各々のスケジュール確認がある。日ごとに状況は変わるものだし、何かあった時のためにきちんとそれぞれの所在を把握しておかなければならない。

 

 

だがそれ以上に、1日に1回は必ずみんなで顔を合わせるという目的がある。

特に一刀や軍師勢は部屋に籠もることが稀にあるため、体調確認なども兼ねている。

 

 

まぁ

『(みんなに)(一刀に)早く会いたい』

という想いの言い訳に聞こえなくもないが……。

 

 

 

 

 

「新しく入ってくる兵のみんななんだけどー、最近は元々剣とか弓とかやってた人が多いみたいなんだよねー」

 

 

季衣は新兵への教育が最近の任務だ。

季衣自身は自分が戦っている方が楽しいのだが、そこは一刀を中心に拝み倒した。

 

 

「部隊長や副官の人たちも頑張ってくれてます。

 こんなに大きな軍になったのに纏まりが取れてるのも、あの人たちのおかげです!」

 

 

流琉は季衣とは逆に、部隊長など『まとめ役』を育てることが多い。

軍が大きくなるにつれて、重要度が増すポジションだ。

 

 

「へ、兵站の方はほぼ万全でしゅ!…あぅ。

 えと、んと、町の皆さんが寄付にとても協力的なことと、ご主人様が教えてくださった食料保存方法のおかげですっ!」

 

 

雛里には主に軍略を任せている。

軍部と接する機会も多く、将軍や部隊長への陣形等の教育も主に担当するのは雛里だ。

 

 

「私の方では少し問題が……。

 ここ最近の更なる人口増加で住民の方々が不安がってます。区画整理と警邏隊の増員は喫緊の課題かと…」

 

 

内政を得意とする朱里は最近の治安について述べる。

市民生活に直結する部分であるから、町に出向くことも多い。一刀からの提案も最も多く扱うのも朱里だ。

 

 

「私の方は至って順調です。

 細作をいくつか有力な市や町へ出向かせていますが、期待通りの情報を持って帰って来てくれています」

「新しく入ってくる人たちも動きが良い人ばっかりで、期待できるのです!」

 

 

謀略という面では麒里と明命が組むことが多い。情報の精度で戦況等が大きく変わるこの時代。

そんな時隠密の教育を行える麒里と、実働部隊を動かせる明命の働きは非常に大きい。

 

 

彼女たちは一刀を上座にして、右側手前から流琉・季衣・明命の将軍勢、左側手前より朱里・雛里・麒里の軍師勢が腰を据えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

6人が報告を終えた所で、更に2人の少女が報告を行う。

 

 

「探りを入れんのもいいんだけども、入れらんねぇようにすんのも重要じゃねぇのけ?

 町の警邏もそうだけどぉ、もうちっと城内の兵士も増やしたいんだよ。なぁ、かー坊」

 

 

麒里の隣に座る法正と……

 

 

「軍の方は歩兵と弓兵はいいんだけど、騎馬兵が弱いのはマズイと思うの!

 適正のある兵と、馬の調達を急ぎたいんだけど…いいよねっ、かず君?!」

 

 

明命の隣に座る孟達である。

 

 

 

 

それは桃香たちが発った日の昼食。

 

 

「はぅあ?!」

 

 

唐突な明命の叫びから(?)始まった。

 

 

「ど、どうした、明命?」

 

 

流琉特製麻婆丼と朱里特製青椒肉糸を食べながら、一刀は問いかける。

 

 

「私一旦帰らなきゃならないのです!」

「そういえば……明命ちゃんって籠売りでここに来たんだよね?」

「そうなのです!千奈と簓と一緒に作りましたっ!」

 

 

流琉の返しにやたら元気良く答える明命。籠売りという仕事に誇りを感じているようだ。

それよりも周囲が気になったのは、2つの聞かぬ名前。

 

 

「『せんな』に『ささら』??明命ちゃん、それって真名じゃない?」

「はぅあ?!そうでした…。えっと、法正と孟達なのです!」

 

 

朱里の指摘から得られた答えに何より驚いたのは一刀だ。

 

 

「ちょ、ちょっと待って、明命!明命の出身ってどこ?」

「扶風郡の郿なのです!」

「法正と孟達も一緒?」

「はいっ!」

「もー訳分からんっ」

 

 

季衣にしろ流琉にしろ明命にしろ、これまで史実の出生とは大きく違っていたにも関わらず、なぜか法正と孟達は史実と同じ町の生まれだという。いったい史実の何を当てにしてよいのだろうか?

もはやお手上げ侍である。テレッテッテー。

 

 

「(それでも黄巾党とかは存在してるわけだから、頭には入れておかなきゃならないんだろうけど……)

 明命、その2人は俺たちの仲間になってくれそうかな?」

「あわわっ、それもご主人様の『知識』ですか?」

「知識ってほど大したものじゃないけどね。法正は軍師として、孟達は軍人として有名なんだよ。明命、どう?」

「千奈はすっごく頭がいいですし、簓もすごく強いのです!」

 

 

やはり一刀の予想通りで、法正は智、孟達は武に秀でた人物のようである。

桃香たちが去った今、少しでも多くの英傑が必要なのは事実。だからこそ一刀は自ら行動に出る。

 

 

「……2人を仲間に出来ないかな?」

「大丈夫だと思いますっ!きっと2人も喜んでくれるのですっ!」

「そう言ってもらえると嬉しいな。朱里、郿に出向く時間は作れる?」

 

 

朱里は少し考える素振りを見せた後、フフッと笑う。

 

 

「……自ら出向くというのも、一刀様らしいですね。分かりました、一刀様の政務は私と雛里ちゃんで分担しておきますから、一刀様は明命ちゃんと麒里ちゃんを連れて、2人を説得してきてくれませんか?」

「りょーかいっ。麒里、頼めるか?」

「え、え?私でいいの、朱里ちゃん?」

 

 

朱里の突然の申し出に、戸惑いを隠せない麒里。

 

 

「だって軍師も出来て、戦っても強いのなんて麒里ちゃんしかいないもん。明命ちゃんが言うから心配はないと思うけど、2人を見てきてほしいの」

「私からもお願い、麒里ちゃん。私と朱里ちゃんじゃ、法正さんのことは分かるかもしれないけど、孟達さんがどんなに凄いのかは分からないから…」

 

 

2人のお願いに思わず怯む麒里。実は出会った頃より、麒里は2人の『お願い』に弱い。遠慮しようとしても……

 

 

「…分かった。2人を説得してくる」

 

 

頼みを聞いてしまう。

 

 

「それじゃ、明日の朝出られるように……って俺は溜まってる政務片付けなきゃダメか……はぁあぁぁぁあ…」

 

 

一刀は思わず頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントは私も行きたかったけど…」

「私1人で3人分の仕事は無理だよー朱里ちゃん…。私だって……」

「いいなー明命ちゃん…」

「むー……兄ちゃんいないとつまんないなー……」

 

 

相も変わらぬ3人と、ちょっと(?)成長した1人の少女であった。

 

 

 

 

明命に引率されてやってきた北郷様ご一行。しばしば好奇の目を向けられながらやってきたのは、町のある一角。明命はせっせと畑仕事に勤しむ2人の少女の元へ走り出した。

 

 

「千奈ー!簓ー!」

 

 

大きく手を振りながら向かってくる明命に対して、2人は温かく迎える。

 

 

「お、けーってきた」

 

 

1人は明命より若干低い身長に慎ましい胸。人形か何かと見間違えそうなほどの、綺麗な茶髪のボブヘアーをしている。上品な見た目とは裏腹に、言葉遣いはずいぶん訛っている。

 

 

「明命ちゃーーん!おかえりーー!!」

 

 

もう1人は明命より若干高い身長に豊満な胸。眩い銀色の髪を1つに結い、前に流している。こちらも一見儚げな外見とは裏腹に、明るく朗らかな明命のお姉さんといったところだろうか。

 

 

「明命ちゃん、大丈夫だった?!怪我とかしてないっ?!」

「大丈夫ですっ!簓はいつも心配しすぎなのですっ」

「だってー。明命ちゃんに何かあったらって思うと……」

「その『何か』がそうそうねぇってことは、あんたが1番分かってんじゃないのけ、簓?

 それはそうと、籠の売れ行きは順調だったか、明命?」

「はいっ!あっという間に売れたのですっ!」

「うぅん。やっぱりもうちっと持たせてくべきだったがねー」

 

 

3人はあっという間に自分たちの世界を形成してしまう。

それだけ仲の良い3人なのだろうが、明命は今回の目的をきちんと覚えているのだろうか?

 

 

「……あのー明命さん?そろそろいいかなーなんて…」

 

 

一刀の言葉を聞くと、『簓』は近くに置いてあった刀を手に取り、素早く一刀の元へ……

 

 

「うぐっ!」

 

 

行けなかった。

 

 

「……ふー」

 

 

自身の刀に手を掛けていた麒里も思わずホッとする。

 

 

「な、何するの千奈ちゃん!」

 

 

首根っこを掴まれた『簓』は不満そうに声を上げた。

 

 

「そりゃあたしの台詞だ、簓。あんたこの兄さんに刀向けようとしただか?」

「だってこの人明命ちゃんの真名をっ!」

「明命がそう簡単に自分の真名を呼ばせるわけねぇだろ?ちっとは落ち着きなよ」

「うぅ…ごめんなさい…」

 

 

『簓』は思わず涙目になる。

 

 

「何も怒ってる訳じゃねぇんだから、泣きそうになんじゃねぇって。それはそうと……」

 

 

『千奈』は視線を一刀に向ける。

 

 

「……兄さん、天の御遣いだか?」

「そうだけど…良く分かったね?」

「んな変わった服、見たことねぇで」

「え、そうだったの?!ごめんなさいっ、私いきなり失礼なことっ」

「いや、知らない男に親友の真名を呼ばれたら、怒るのも無理ないよ。

 こっちこそ配慮が足りてなかった、ごめんな」

 

 

『簓』の謝罪に対して、一刀も素直に非を詫びる。

 

 

「わぁ……いい人かも……」

「簓、妄想には浸んじゃねぇぞ。それはそうと御遣いの兄さん、こんな所に何か用だか?」

「あぁ、2人を俺たちの仲間にしたくて、ここまで来た」

 

 

一刀の真摯な視線を、『千奈』も見つめ返す。

 

 

「…自己紹介もしてねぇのに、いきなりが?」

「あ、ごめん!えと、俺は北郷一刀。それでこの娘は…」

「軍師の徐庶です。……一刀様、いくらこちらが名乗っていないとはいえ、そこまで畏まらないでください。一刀様はすでに県令であられるのですから」

 

 

何気に一刀は最近出世していたりする。

 

 

「いや、でも悪いのは俺だし…」

「ですが県令としての威厳も身につけて頂かないとっ」

 

 

そんな2人のやり取りがおもしろかったのか、『千奈』はクククと笑う。

 

 

「自己紹介してねぇのはこっちも同じだのに、えらく正直な男なんだねぇ。

 あたしは法正。そんでこっちが…」

「孟達です!字は子敬!

 って千奈ちゃん、あんまり意地悪しちゃダメだよー」

「はいはい、分がったよ。明命っ、明命はもうこの兄さんのお仲間だか?」

「……私は、一刀様のお力になりたいのです!」

 

 

その言葉を聞き、法正と孟達は明命と一刀の顔を交互に見比べる。

 

 

「……明命ちゃんはこの人のこと信じてるの?」

「はいっ!町の人たちにもすっごく優しかったのです!」

 

 

さらにじっと見つめる法正と孟達。突然やってきた『天の御遣い』を見極めようと……。

 

 

「……分がった。仲間んなるよ、あんたらの」

「いいんですか?突然やってきた私たちなのに、そんなに早く答えを……」

「明命ちゃんって結構人を見る目があるのっ。

 明命ちゃんがそこまで言うなら、私たちも力になっていいかなーって!」

「ありがとう!これでっ「だげど」…だけど?」

 

 

法正の遮る声に、一刀は思わず身構える。

 

 

「あんたらが道外したら、仲間はやめるだ。最悪……あんたを殺すかもしんねぇ」

「せ、千奈っ?!」

「そんなっ!一刀様はそんな方じゃ「いいよ」一刀様っ?!」

 

 

法正の言葉に明命は動揺し、一刀の言葉に麒里は目を見開いた。

 

 

「そうなったら、殺してくれても構わない。その時は……『俺』はすでに『俺』じゃないと思うから」

 

 

来た時から変わらず、真っ直ぐ2人を見つめる一刀の目。それを見て、法正はクスリと微笑んだ。

 

 

「ふふっ。あたしの真名は千奈だ。好きなように呼んでいいぞ?」

「私は簓だよ!」

「あぁ、よろしく。千奈、簓」

「麒里です。これからよろしく、2人ともっ」

「これでまた3人一緒なのですっ!」

 

 

自己紹介をしながら、喜び合う5人。そんな中、簓と千奈がある提案をする。

 

 

「あ、そうだっ!仲間になるためにもう1つ条件つけたいんだけど?」

「そだな。こんぐらいのこど、『天の御遣い様』は許してくれんだろ?」

「な、何かな?」

 

 

何となくイヤな予感がして、一刀の声が吃る。

そんな一刀を見て、2人はニシシと笑う。

 

 

「かず君って呼んでいいっ?!」

「かー坊って呼んでいいだか?」

 

 

妙な約束と共に2人の少女が仲間になった瞬間であった。

 

 

 

 

時を戻してここは朝議の場。

北郷軍の軍師・将軍となった千奈と簓の報告を踏まえての話し合いが終了し、解散しようとした所で……

 

 

「みんなちょっといいか?」

 

 

一刀の声に、再び席に着き直す少女たち。一刀がこのように朝議後呼び止めるのは稀である。

 

 

「黄巾の乱がもうすぐ終わる……たぶんこれから、本格的な群雄割拠の時代に入ってくる」

 

 

一刀の言葉を静かに聴き入る。

『ある程度』未来が分かる我らが主。

これまで流れは大きく変わっているが、それでも重要視しなければならない貴重な情報だ。

 

 

「俺が知ってるこれからの史実を考えて、1つ提案なんだけど……董卓って人を調べてくれないかな?」

 

 

「董卓…ですか?確か涼州隴西郡を治めているという…」

 

 

周辺地域の情報を把握している麒里の答えに一刀は頷く。

 

 

「あぁ、たぶんその人だ。その董卓に関する情報を集めてきてもらえないかな?特にその人物像を」

「……今後の乱世にその董卓さんが大きく関わるんですか?」

 

 

一刀の指示が抽象的であることから、朱里が疑問を呈する。

 

 

「…俺が知ってる史実だと、劉宏が死んだ後にその子供を擁して暴政を敷いていた董卓に対して、

 大規模な連合軍が作られるんだ。

 それが事実になりそうな人物なら連合に参加したいと思う。けど……」

「暴政を行うような人じゃないのに、連合が作られたら……」

「董卓が俺の知ってる史実みたいな悪逆非道な人間じゃない可能性も、この世界だと十分にあるんだよ。

 それでもし連合軍が作られたとしたら、誰かに嵌められてるってことになる」

 

 

雛里の言葉に促され、一刀は考えてきた推測を話す。

史実を知っている現代人からしたら、あまりに突飛な予測を。

 

 

「そぉなっだ時に、助けられるようにしたいってことだか?」

「あぁ。だから事前に董卓がどんな人物かを知っておきたいんだよ。それに連合が組まれなかったとしたら、俺の知ってる歴史は全く当てにならなくなる。そうなった時の対策も早めに立てたいからね」

「……分かりました。明命ちゃん、お願いしてもいい?」

「了解なのです!あ、でもどんな所を見ればいいですか?」

 

 

麒里の頼みを快く引き受けた明命だが、具体的な指示がない。『人物像』では、あまりにも抽象的すぎる。

 

 

「明命が見たままの感想を伝えてくれればいいよ。俺は明命の感性を信じてるから」

「せ、責任重大なのです…」

「深刻に考えることないよー、明命ちゃん。明命ちゃん人を見る目はあるんだから。

 明命ちゃんは董卓さんに付けるとして、街の様子とかはの隠密部隊の人たちかな、朱里ちゃん?」

「それがいいと思います。明命ちゃんも含めて、旅商人の格好をさせるのが妥当かな-?」

 

 

朱里が提案するのは、隠密の常套手段だ。

もちろん、一刀たち自身も気を付けなければならないところではあるが……。

 

 

「分かった。それじゃ明命、3日後くらいに出られるように、準備してもらっていいかな?」

「はいっ!急いで準備するのですっ!」

「いや、そこまで急がなくてもいいってば。あ、それと明命」

「はい?」

 

 

急に呼び止められた明命はちょっと間の抜けた声で応える。

 

 

「無事に任務を果たせたら、町中の猫と一緒に遊んでていいから」

「ホントですかっ!?ふわー。どのお猫様とご一緒しましょう…。

武器屋の裏にいるお猫様もいいですけど、食堂の屋根にいるお猫様も…「だから」……はい?」

 

 

再び間の抜けた声を上げる明命。

 

 

そう、世の中そんなに甘くない。

 

 

「だから、董卓の所にいる猫には反応しないように」

「あぅあうー。そんなぁ……」

 

 

2人のやり取りが場を和ませる。今まで心なしか表情の固かった面々が、今では笑みさえ浮かべている。

この辺りが一刀の一刀たる所以である。

 

 

「ホント、明命の扱いも慣れたもんだなぁ、かー坊は」

「そうだよねー。………いずれは床の上でも……エヘヘ…かーずくんっ……エヘヘ…」

「……まーだこの娘は………」

 

 

若干1名は脳内お花畑であったが……。

 

 

 

 

そうして明命が隠密部隊と共に旅立って1週間、大きな動きがあった。

 

 

「黄巾党が壊滅しました…。これはご主人様の予測通りなのですが…」

「皇帝が死んで、董卓がもう洛陽入りしてるなんてなー」

 

 

そう。麒里がまとめる隠密部隊と、明命がまとめる隠密部隊からもたらされた情報は、

史実とは時系列が大きく異なるものだった。

これでは悠長に事を構えている場合ではなくなってしまった。

 

 

「どうしようか……」

 

 

正直一刀の頭だけでは対処できない。広く意見を聞き、対処法を考えなくては……

 

 

「どうしよーって……董卓がいい人なんだから、助ければいいんじゃないの?」

 

 

明命からはすでに董卓の人となり、統治地区の情報は入ってきている。季衣の疑問も尤もだ。

 

 

「そうゆう訳にもいかないの、季衣ちゃん。

 皇帝の崩御と董卓さんの洛陽入りが直に広がれば、周囲からの妬みが生まれる……」

 

 

季衣の疑問に答える朱里の面持ちは、明らかに暗い。

 

 

「劉弁・劉協の姉妹は生きてるってゆーしなぁ。

 そうなっと、董卓が皇族の生き残りを擁してるって見られても、おかしくねぇだ」

「そのことがどうして董卓さんを助けられないってことに繋がるんですか?」

 

 

先の展開が読めない流琉は、千奈の言葉に未だに納得いかない様子で問い掛ける。

 

 

「そんな時に決まって出回るのは流言飛語……董卓という人の善し悪しに関わらず…ね。

 私たちにはそれを止められるほどの力はない……元は地方の一太守だった董卓さんにも…」

「そして『天の御遣い』である、かず君の存在。

 弱者を救い、安寧へと導くと謂われる人の軍が、『悪』である董卓さんの味方になるわけにはいかない…」

「仮に味方をしたら、今後周囲から『天の御遣い』が疑問視されるし、町でも訝しむ人が出る可能性があるの…」

 

 

麒里・簓・雛里の言葉を聞き、流琉の顔は暗くなる。

季衣は一部しか理解できなかったが、周囲の雰囲気を感じてか顔を顰める。

 

 

「明命ちゃんからの報告には、董卓さんは至って穏やかな人物で、町でも善政を行っていたようです。

 ……どうなさいますか、ご主人様…」

「…………」

 

 

己の力不足を感じる…。

どう歩めば救えるのか。謂われなき罪を負わされるかもしれない人を…。

 

 

「……最善の策が打てねぇなら、次善の策を打つしかねぇだ」

 

 

千奈の声を発端に、再び議論は活発化していく。

改めて一刀は、頼もしい仲間たちに感謝した。

 

 

 

 

皇帝崩御から数日後。

ここは洛陽にある小さな林。董卓という名の少女は、鬱屈とした表情を変えず、小さく息を吐いた。

 

 

「どうしてこうなったのかな……」

 

 

あまりに残酷な運命に晒されている少女は、ポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな日々が急変したのは、1人の男が董卓を訪れてから。

自分も、親友も、その男の名を聞いた時嫌な予感しかしなかった。

だが朝廷から直々に来たという男の頼みを断るわけにもいかず。訪れた洛陽で、平和な日々は奪われてしまった。

 

 

自分のせいではないとはいえ、自分を責めてしまう。もっと良い選択はできなかったのだろうかと…。

 

 

「はぁ……」

 

 

この林を訪れたのも、そんな鬱屈した気分を少しでも晴らせたらと思ってのこと。

獰猛な動物も、野盗の類も現れない、穏やかな場所だから……。

 

 

「……侍女のみなさんが話してたな…もうすぐ連合が組まれるって……」

 

 

そのことを知りながら、未だに自分へ付き従っている侍女たちへの感謝の念は尽きることがない。

が、同時に申し訳なさも感じてしまい、一向に気分は晴れなかった。

 

 

「……戻ろう。詠ちゃんに何か手伝えることがないか聞いて…」

 

 

そう呟いて、戻ろうとした時……

 

 

「こんなところで何してるですか?」

 

 

突然声を掛けられた。

 

 

「えっ?えと、ちょっと息抜きに…」

「そうなんですか!ここはいい所ですねー。空気が気持ちいいのですっ!」

「う、うん。そうですね…私も好きな場所です、ここは」

 

 

目を閉じ、空気を感じる。清々しい新緑の香りが、鼻を掠める。

 

 

「お猫様がいないのは残念なのです……」

「お猫様?」

 

 

猫に様を付ける人なんて初めて聞いた……と、率直に思った。

 

 

「い、いえっ!何でもないのです!

 えっと、時間があったらお話しませんか?」

 

 

 

 

 

こうして『偶然』出会った2人は、夕陽が射す頃まで話し続けた。

本当に他愛のない話。

董卓は自身の置かれた立場を抜きに会話を楽しみ、久しぶりに笑顔を見せた。

 

 

「あっいけない!早く戻らないと……詠ちゃんが心配してるかも……」

「お友達ですか?」

「うん。すごく……すごく大事な友達…。だから、これで失礼しますね」

「分かったのです!私はいつもこの辺りにいますから、またお話しませんか?」

「はいっ。私はいつも来られるとは限りませんけど…お会いした時は是非!

……あ、まだ名乗ってませんでした…。ふふっ、ごめんなさい」

 

 

そう言って自己紹介をしようとするが、何を思ったか董卓は言葉を詰まらせる。

 

 

「私は…私は………と、『董穎』って言います」

「私は『周平』っていうのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『董穎』が帰っていくのを『周平』は手を振りながら見送る。少し悲しげに、目を伏せながら…。

 

 

「あぅあぅ。偽名を使うなんて後ろめたいですけど……麒里たちにも言われましたし…。

 『董卓』さんたちを助けるためなのですっ」

 

 

この『意図された』出会いが、董卓たちの運命を大きく変える。

 

 

 

 

時は過ぎ、ここは反董卓連合の本陣。名立たる英傑が揃うであろうその地は……

 

 

「オーッホッホッホッホッ!」

「七乃ー。蜂蜜水がなくなったのじゃー」

「………はぁ……」

「……………」

 

 

 

 

 

「……何、この雰囲気」

 

 

混沌と化していた。

 

 

 

 

反董卓連合。

皇族の生き残りである劉弁を皇帝として擁し、

暴政を敷くという董卓を討伐しようと組織された文字通りの連合であるが、諸侯の思惑は各々違う。

 

 

 

その中でも、一刀たちの思惑は他よりも明らかにズレている。

 

 

『董卓たちを助けるために、連合に参加する』

 

 

それが一刀の出した結論だ。

 

 

 

 

 

 

「にしたって、何なんだ?このまとまりのなさは……」

 

 

麒里を連れ立って本陣の手前までやって来た一刀は、思わず呟いた。

 

 

「……おそらく、責任のなすり合いだと思います…」

 

 

さすがの麒里も呆れている。

 

 

「ご名答。みんなこんな大事の責任者なんてやりたがらないんだよ。

 まぁ明らかに1人、総大将をやりたがってるヤツはいるんだけどなー」

 

 

……………

 

 

「………誰?」

「………どちら様でしょうか?」

 

 

当然の反応である。

 

 

「うっ。そ、そりゃそうだよな、いきなりすまなかった。

 わたしは公孫賛。幽州で太守をやってる、この連合の参加者だ。よろしくな」

「あぁ、よろしく。俺は北郷一刀。雍州で県令をやってる」

「私は徐庶と申します。一刀様の下で軍師と文官をしています」

 

 

公孫賛は2人の名前を聞き、少し驚きながらも感心した。

 

 

「へぇー。『天の御遣い』と、神算鬼謀を駆使する4軍師の1人……だいぶ私の想像と違うなー」

 

 

この表現に麒里が驚く。

 

 

「……話が大袈裟ではありませんか?神算鬼謀など……少なくとも私には過ぎた言葉です」

「そんなことないだろ。

 俺がどれだけ助けられてるか……本当にみんなにも、麒里にも感謝してるよ。ありがとう」

 

 

真っ直ぐ見つめられ、麒里は頬を染める。

本当にこの方は、恥ずかしげな台詞をさらりと言ってのける……と感じながら。

 

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

公孫賛はそんな2人を見て、今度はクククと笑う。

 

 

「本当に仲がいいんだなー。桃香の言った通りだ」

「桃香?桃香を知ってるのか?」

「あぁ、昔からの友達だしな。それに、今は私のところに身を置いてる」

「そっか……公孫賛のところに…」

 

 

桃香の現況を聞いて、一刀は寂しさを隠して微笑む。

 

 

「あ、勘違いするなよ。桃香たちは私に仕えてるわけじゃないから」

「? そうなんですか?」

「あぁ。旅の途中で近くまで来たから寄ったんだとさ。

 ちょうどその時に連合参加の檄文が届いたから、客将扱いで来てもらってるんだよ」

「そうゆうことか……」

「そうゆうことだ。それに、桃香たちは私の下にはつかないさ」

 

 

公孫賛はニヤリと笑う。

 

 

「えらく『天の御遣い』にご執心みたいだからな。

 やれ『素敵』だの『かっこいい』だの『あの人を想うと夜も眠「わー!わー!わー!」もがー!」

 

 

突然『何者』かに口を塞がれる公孫賛。

……何者かなど、答えは既に出ているような気がするが…。

 

 

「ナニ口から出任せ言ってるのかなー、白蓮ちゃん。私、全っ然そんなこと言ってないよねー?」

 

 

顔を真っ赤にしながら言われても、説得力は皆無であるが……。

 

 

「………」

 

 

さすがの一刀も顔が赤い。

 

 

「んんー!もがー!」

「桃香さん。さすがに公孫賛さんが苦しそうなので、その辺で離してあげてください」

 

 

やれやれ、といった調子で麒里が解放を求める。

 

 

「わっ、ごめん白蓮ちゃん!大丈夫っ?」

「はぁ…はぁ……普段のへっぴり腰が嘘のような力だったぞ、桃香」

 

 

桃香の秘められた力に、思わず感服する公孫賛であった。

 

 

「桃香、久しぶり。元気だった?」

「か、一刀さんっ!う、うんっ!バッチリだよ!夜もちゃんと眠れてたし!」

「(桃香さん、なぜ掘らなくてもいい墓穴を自ら……)」

 

 

再びやれやれ、である。

 

 

「けほっ。ところで桃香、どうしたんだ。星たちと一緒に向こうで待ってたんじゃないのか?」

「待ってたけど、白蓮ちゃんがいつまでも帰ってこないから、様子を見にきたんだよー」

「あー。一向に大将が決まらなくてな。麗羽がやりたそうにはしてるんだけど、自分では言い出さないし…」

「それじゃ私たちが推薦してあげようよ!いつまでもこんな所でグズグズしてられないっ」

「うーーん……。それもそうだな。いつまでもこうしちゃいられない。私が言ってくるよ」

 

 

そう言って袁紹の所へ向かおうとする公孫賛を

 

 

「俺たちも行くよ、公孫賛」

 

 

一刀は引き止めた。

 

 

「? 私だけで十分だろ?」

「…進言をすればそれだけで責任が生じます。

 もしかすると……何らかの『役割』を押し付けられるかもしれません」

「…麗羽の性格ならありえるかもなー。じゃーやっぱりやめた方がいいのか?」

「いえ、いつまでもここで手を拱いていては、連合の意味を疑われてしまいます。それに……」

「それに?」

 

 

麒里の口元がわずかに上がる。

 

 

「押し付けられた役割は、時として『好機』にもなります。

 ここは私たちと公孫賛さんたちで、その好機を活かしてみないかと」

「………誰かが動かなきゃ始まらないのは事実だしな…。分かった、それじゃ一緒に来てくれるか?」

 

 

こうして4人は本陣へと足を向けた。

 

 

 

 

こうして4人は本陣へ赴き、袁紹を総大将に推薦。

袁紹は上機嫌で引き受けたものの、推薦した『責任』として、汜水関での前曲を任されることとなった。

 

 

「まさか前曲を任されるとはなー。北郷の所と一緒とはいえ、荷が重いのは明らかだよなー」

「白蓮ちゃんのトコの兵士さん、あんまり多くないもんねー。一刀さんのところは?」

 

 

思わずゴチる公孫賛と、兵数の心配をする桃香。

 

 

「あまり余裕があるわけではありませんが、それなりの数は連れて来ています」

「さすがに袁紹のトコみたいな数じゃないけどな」

 

 

兵数に関してはそこまで心配はしていないようだ。

 

 

「さすがだなー。それも『天の御遣い』の為せる技か?」

「俺はただの神輿だって。優秀な将と、優秀な軍師のおかげだよ」

「あははっ。一刀さんがそーゆー人だから、みんなついていくんだと思うなー」

「ふふっ。桃香さんの言う通りですね」

 

 

2人の言葉を聞いて、一刀はなぜか若干凹んだ。

 

 

「あーやっぱり俺って頼りないよなー。女の子に守られてばっかだ…」

「そのようなことではありませんったら。一刀様がいるからこそ、私は堂々と策を講じることができるのです。

 一刀様がお持ちなのは、そのような力なんです」

 

 

麒里が嬉しそうに笑う。心から安らいでいるような、そんな微笑み。

それは学院の時には見せることがなかった、誰かに身を委ねた時の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな談笑の最中、1人の来客が……。

 

 

「徐庶」

「あなたは……曹操さん、確か典軍校尉の…」

「ええ、覚えてもらってるようで光栄だわ。少しあなたと話がしたいと思ってね」

「何用ですか?前曲を言い渡された私たちは、これから準備にかからなくてはならないのですが……」

 

 

邪険、とまではいかないが、普段から懇切丁寧な麒里とは懸け離れたやり取りだ。

麒里も先程本陣を訪れた時に、内心気付いていた。

この曹操という名の少女、そしてあの場にいた孫策という名の女性。

この2人には、一刀とはまた違う『王の器』があるのだと。

 

 

「そう、その前曲を『言い渡された』という話。

 あなた…麗羽に進言すればそうなることは分かっていたんじゃないの?」

「まさか。袁紹さんが総大将をやりたそうにしていると聞いていたので、進言したまでです。

 まさかたった2陣営に前曲を任せるなんて、思っていませんでしたが…」

 

 

麒里の言葉に曹操は目を細める。

 

 

「……この曹孟徳に白を切り通すつもりなのかしら?」

「白も何も、本当のことですよ、曹操さん。

 軍師であるにも関わらず、こんな予測を立てられなかったなんて、軍師失格ですね」

 

 

麒里は『大袈裟に』嘆息した。

公孫賛と桃香は半ば呆然と、一刀は敢えて口を挟まずに2人のやり取りを見つめる。

 

 

「フッ、思った通り。おもしろいわね、あなた。

 どう、私のモノにならない?」

「…どういう意味ですか?」

「言葉通りよ。私なら……少なくともそこの男よりも、あなたをうまく使えるわ」

 

 

曹操は一瞬一刀を見たが、すぐに麒里に視線を戻した。

 

 

「…残念ながら、私はモノではありません。私は人として、北郷一刀様にお仕えしています」

「あなたが入れ込むほどの男なのかしら、その男は?」

「はい。主として、敬愛しています」

 

 

それを聞いて、曹操はニヤリと笑う。

 

 

「…男としては、まだのようだけどね」

「はい?」

「私だったら、あなたの"女"の部分も満足させてあげられるけど?」

「ええっ?!」

 

 

曹操は2歩麒里に近づき、右手で麒里の顎を撫でる。

 

 

「臣下の者は皆"悦んで"くれるわよ?」

「……ふわわ~」

 

 

そう言い残して後ろへ倒れる麒里。

 

 

「おっと。おい、麒里。大丈夫か、おーい」

 

 

それを受け止める一刀。

 

 

「あら、耐性がないのね」

「悪ふざけはヤメてくれないか、曹操?」

「ふざけてなどいないわよ?徐庶が欲しいと思ったのは本当。軍師としても、女としてもね」

 

 

そう言い放つ曹操の目は、悪ふざけとは程遠い。本気で麒里を"欲しがっている"。

 

 

「悪いけどそれはできない」

「……それは主の特権?臣下への束縛と言ったところかしら?」

「そうじゃない」

 

 

一刀と曹操の会話は少しずつ熱を帯び始める。

その危なげな会話を打ち切らせようと、意識を戻した麒里が何とかしようと動き出す。

 

 

「で、ですから私は「俺が麒里を好きだからだ」……へ?」

 

 

…………明らかに違う熱を帯び始めた。

 

 

「仲間としても、女の子としても、俺は麒里が好きだ」

「わぁー…」

「おぃおぃ…」

「…………」

 

 

一刀の突然の告白に、三者三様の反応を見せる桃香、公孫賛、そして曹操。

 

 

当の麒里は全身真っ赤だ。

いつも落ち着いていて、朱里や雛里のお姉さん役をしている時の面影は、微塵も感じられない。

 

 

「え、あの、か、かずとっ、さま?その、あのですねっ?わ、わ、わたしっ」

 

 

そんな麒里を、今度は抱き寄せる。

 

 

「だから曹操に渡すわけにはいかない」

 

 

そして……

 

 

「……ふわわ~」

 

 

これもまた、当然の結果である。

 

 

「一刀さんだいたーん♡」

「見せつけてくれるねー」

「あーもー!外野は変にからかうなっ!こっちはマジになってんのに!」

「ふわわ~………かずとさまぁ……」

 

 

 

 

「………まぁいいわ。また会いましょう、徐庶。…聞こえてはいないだろうけどね」

 

 

こうして(一応の)嵐の元凶は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「北郷一刀………ね」

 

 

その呟きは風に舞って消えた。

 

 

 

 

「一刀様……曹操さんに言ったこと……本当ですか?」

 

 

曹操と別れ、4人で歩く中、麒里は尋ねた。

 

 

「麒里が好きってこと?」

 

 

さらりと言ってのけるこの御遣い様。

 

 

「っ!!…そ、そうです…それ、です……」

 

 

麒里の顔は、この地域では生息していない完熟トマトのようだ。

 

 

「本当だよ。嘘なんて言ってない」

「………朱里ちゃんや雛里ちゃん、みんなよりもですか?」

 

 

麒里の声が少し小さくなる。どことなく寂しげで、不安げな声。

 

 

「うぅーん……」

「いや、北郷。そこで悩むのはおかしいだろ」

 

 

一刀のあんまりな反応に、公孫賛が非難めいた声を上げる。

 

 

「いや、おかしいだろうなーとは思うんだけど……みんな好きなんだよ」

「……は?」

 

 

これには公孫賛も驚いた。

 

 

「麒里も朱里も雛里も。もちろん他のみんなも。みんな大事で、みんな好きなんだ。

 だから、誰かを選べなんて言われたら、俺にはできないなー」

「一刀さん節操なーい」

「はい……ごもっともです…。

 おかしいよなー。昔はこんな風には考えなかったのに……」

 

 

元いた世界の日本という国では、一夫一妻が普通。自分にもそんな将来が待っているのだろうと考えていた。

ところが最近はそんな考えが徐々に薄れていっている。

 

 

『本当にみんな大事にしたい。本気で愛していきたい』

 

 

数ヶ月前の考えとのあまりの変化に戸惑いながらも、心の底からそう思うのだから、受け止めなくてはならない。

間違ってはいない………と思いたい。

 

 

「ふふっ」

「? 麒里ちゃん?」

「ふふふっ」

 

 

一刀の答えに終始目を丸くしていた麒里が、突然笑い出した。

 

 

「おーい、徐庶?大丈夫か?」

「いっ、いえっ、大丈夫ですっ。私、本当に幸せだなーって思いまして」

「幸せ?」

 

 

そう語る麒里の目は、終始穏やかなもの。

 

 

「これは私の予想ですけど……みんな一刀様のこと好きですよ?もちろん、男の人として」

 

 

口では『予想』と言うが、それは決定事項だ。普段からの態度を見ていれば、分かること。

 

 

「私は……誰かが悲しむのなんて見たくありません。みんなで、幸せになりたいって思います。

 ですから……一刀様が『みんなが好き』って仰ってくださった時、本当に嬉しかったんです。

 本当に、みんなで幸せになれるんだなーって」

 

 

自然に微笑んで、一刀の左腕を抱きしめる。

 

 

「精一杯、みんなのこと愛してください、一刀様っ!」

「お、おぅ、任せろ!」

 

 

そう言って見せた麒里の笑顔は、今までのどれよりも眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さすが天の御遣い………ってところなのか、あれは」

「……一刀さん、優しいから」

「……これは、桃香にも望みがあるってことか?」

「えっ?な、なに言ってるの、白蓮ちゃんっ?!」

「良かったなー桃香っ!この幸せ者めっ」

「だっ、だからっ」

「さーて。陣に戻って愛紗たちとお祝いだなっ!」

「だからちょっと待ってってばー!!」

 

 

 

 

公孫賛と桃香に一旦別れを告げ、自分たちの本陣へ向かう一刀と麒里。

 

 

「さてと…先陣を任せられればとは思ってたけど……上出来かな?」

「はい。私たちにとって、これ以上の結果はないかと」

 

 

毅然と応える麒里。しかしその表情は未だ赤みがかっている。

 

 

「……救えるかな?」

「……油断は出来ません。しかし、事に対して常に全力で当たれば、必ず」

「あぁ。必ず救おう」

 

 

今後の展望を話していると、千奈が2人に駆け寄ってくる。

 

 

「千奈、お疲れ様。汜水関の様子はどうだった?」

「いまんとこは守りを固めてるだ。軍師からそげな指示が出てんだろーけども…。

 でも、軍師自身はいねぇがら、崩せるかどうかは守る将にも因るだ」

「控えてる将は誰、千奈ちゃん?」

「将は2人だか。1人は猛将と名高ぇ華雄。もう1人は……客将で董卓軍についてるっつー『周平』だ」

 

 

千奈は思わず口角を上げた。

 

 

「『周平』と誰が当たっかは、かー坊が教えてくれた叩いてかぶって…なんじゃらってので決めていいだか?」

「いいけど、あんまり物騒なのは無しにしてくれよ……。

 公孫賛にもこのことを伝えて、俺たちが『周平』を攻めることを伝えよう」

「華雄さんもかなりの剛の者かと思いますが……愛紗さんと鈴々ちゃんがいれば問題はないでしょう」

「なるべく一般兵に被害が出ねぇようにしねぇとなぁ。『周平』は心配ねぇけんど……。

 そこんとこも公孫賛に伝えねぇとなんねぇなー」

 

 

3人は静かに汜水関の方向を見つめる。

 

 

「行きましょう、一刀様。私たちの望む結末のために」

「こっちはしっかりやっから、かー坊はみんなの支えになんだぞ?」

「分かってるよ麒里、千奈。みんなのことも、頼りにしてる」

 

 

 

 

 

厚く黒い雲が空を覆い尽くす。目指すはその向こう、蒼き空を見るために……。

さぁ、いざ汜水関へ。

 

 

 

 

お母さん、親父、ご先祖様。

俺………俺……普通の名前で良かったぁぁあああぁぁぁあぁあぁぁ!!!!!

(DSiLLを握り締めながら)

 

 

 

 

 

後書きという名の言い訳

 

 

――――一刀について――――

 

最後の方で『アレ?一刀が鈍感じゃない!』って思われた方もいるのではないでしょうか?

個人的に"真"の一刀は好きなんです。呉√ではしっかり成長してるし、魏√では華琳に認められるほどだし。

 

 

 

 

 

でも。でもですね。18禁シーンにおいて常に受け身なのですよ!

いや、迫ってくるヒロインたちも十分可愛いのですが、無印好きだった私からすると違和感が…。

 

 

 

だって!一刀は!

愛紗を説得したと思ったら森で開放的になっちゃうような男なんですよ!

翠と風呂に入る時に媚薬入れちゃうような男なんですよ!

華琳に土下座したと思ったら形勢逆転させるような男なんですよ!

そこに痺れる!憧れ(ry

 

 

 

というわけで、第1話の前置きで『(無印版+蜀√)÷2な感じの一刀』と書きましたが、

7:3~8:2くらいの割合になりますww

 

 

武はない。智もない。でもエロイ!

敵でも味方でも本気でみんな愛しちゃう!

そして、いつも優しいけど時々鬼畜!

そんな一刀さんが大好きですwww

 

 

 

――――新キャラについて――――

 

正直あまりオリキャラを出す気はなかったんですが、

せっかく扶風郡に居を構えているのだからと、出してみました。

内心あんまり活躍できないかも…なんて思っていますが、

恋姫本編にはないタイプの□リッ娘をだしたいなーと思ったので……。

あ、真名に特別な由来はありません。思いつきです。

 

 

 

――――千奈(法孝直)について――――

 

某所ではインテリヤクザなんて呼ばれている法正ですが、馬鹿作者の魔の手にかかればこんなものですwww

 

 

千奈の特徴と言えば、思いっきり残ってるその訛り!

正直『ドコの方言だよ!』ってお叱りの声があるかとは思いますが、雰囲気だけ楽しんでくださいww

作者の地元のでもいいかなーと思ったんですが……作者の生まれがバレるのはいいとして……

地元の訛りが全然可愛くない!ガ━━(;゚Д゚)━━ン!! クソッ、田舎生まれなのに損してる!

 

 

作者を訛り萌えに堕としたのは、とある鳥取県を舞台にしたゲームです(田舎で○よう!)

正確な鳥取弁かはさておき、本当に可愛いと思ったので、こうゆうキャラがいてもいいのかなーと思いました。

 

実は最初、GAフォルテさんみたいなお姉さんキャラだったんですけどね。

でも大阪弁だけじゃ物足りない!とか考えちゃいまして…

 

 

どうですか?こんなのもアリかなって思ってもらえれば幸いです。

需要は少ないけど、作者はいつまでも訛りを支援致します!ww

 

 

 

――――簓(孟子敬)について――――

 

典型的ですね。『妄想型心配性お姉ちゃん』です。これ以上語ることはありません(ぉ

『□リはみんな幼いだけじゃないんだZE!!!』という作者の気持ちが籠っています(千奈も然り)

 

 

180弱あると思われる一刀の身長に対して、簓は……だいたいギリ150くらいですかね?

そんな娘に「かず君」とか「しっかりしなきゃダメだぞ?」的なことを言われた日には、作者は鼻血で死にますww

 

 

呼び方は作者の願望です。

みんな『一刀』とか『一刀様』とか『ご主人様』とか

 

 

 

 

『全身精液男』とか『万年発情男』とか『エロエロ魔神』とか『ち●こ太守』とか『歩くち●こ』とか『種馬』とかetc......

なんですもの。ちょっと変わった所から責めてみてもイイかなーっていうのが作者の思いです。

 

 

まぁ要するに、作者が書きたかったのは『□リ姉』ってことです。本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、先日コミケがありましたが、みなさん収穫の方はいかがでしたでしょうか?

作者は今回が2回目のコミケだったんですが、出費が

 前回(C76):3000円程度(3日目だけ)

 今回(C77):30000円程度(3日間)

と、大躍進を遂げまして、改めて作者の人生\(^o^)/オワタ って感じですww

 

 

恋姫†無双も発売1年経つにも関わらず、同人誌がそこそこありまして……これはFDへの期待の顕れですねww

新√でもドタバタでもフランチェスカ編でもいいから出してほしいですねー。

月好きな作者としては、太守姿での濃厚なエロを希望します!!w

 

 

 

 

 

……何を書いてるのか分からなくなってきましたねw

つーか言い訳長すぎたww

 

それでは皆様、今回も拙作をご覧下さってありがとうございました。

また次回、よろしくお願い致します。

 

 

 


 
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