~エレボニア帝国上空 ファルブラント級巡洋戦艦『アルセイユ』 会議室~
この世界で得られた情報―――ギリアス・オズボーンが頑なに世界大戦への舵を切るその理由。それを知ったアスベルたち。そのうえでシュトレオンは疑念を口にする。
「オズボーン周りは手を打つとして、だ。もし騎神によって死んだ人間を起動者(ライザー)として生き永らえさせているとするなら、俺らの世界で葬る人間の対処も考えないといけないな」
確かに、騎神の起動者を殺して墓の所在を一切不明にする方法はいくらでもあるだろう。だが、それに対して言葉を続けたのはルドガーだった。
「それなんだが、ある程度は開示した状態にしておくことはできるか?」
「……<イシュメルガ>の存在を考えれば、隠してもあまり意味はないか。なら、あえて泳がせることで情報を抜き取るのが賢明だな」
これから相手にするのは至宝を内包した騎神―――<神>レベルの存在。だとするならば、人間の範疇を超えてくることは容易に想像がつく。なれば、元の世界で殺すことになってしまう人物の所在を把握することで炙り出すのが利巧と考え、シュトレオンはルドガーの提案に頷く。
「そんで、俺の<イクスヴェリア>やアスベルの<アクエリオス>、シルフィアの<シルヴァーレ>にレイアの<ヴェスペリオン>があの場に遭遇したとして、実際に<七の相克>と干渉するかどうかも見極める必要がある。場合によっては、騎神なしで事を片付ける必要があるからな」
「マリクとルドガーは持ってないのか? なら、ついでに探すのはアリだと思うぞ?」
「……そうだな。なら、猟兵王には俺が出向こう。どうせ一筋縄とか行かねえだろうがよ」
「私もついていく。相手が『西風』なら変なことはしないと思うけれど、念のため」
リィンたちが出向こうとしているパルム方面にはマリクが出向くことが決定した。クルルも同行する旨を示したが、特に異論は出なかった。そして、猟兵ということで元『赤い星座』のレイアも同行を申し出た。
「うーん、なら私も行っていいかな?」
「別段問題はないが、理由を聞いてもいいか?」
「<ヴェスペリオン>の核(ケルン)を考えると、会わせないっていうのは心情的にどうなのかなって。どんな結果になっても人任せは嫌だろうし、ね?」
レイアの刻の騎神<ヴェスペリオン>。その核を形成しているのはこの世界の<闘神>ことバルデル・オルランド。彼がルトガー・クラウゼルと死闘を繰り広げた事実を踏まえれば、同行させない理由はないと判断して、アスベルはレイアの提案を受け入れた。
「……ま、そうだな。最悪オルキスタワーを爆破すれば済むかもしれんからな」
「お前とルドガーの場合、爆破どころか灰燼に帰しそうだから止めてくれ」
アスベルの冗談とは言えない発言に対してシュトレオンが呆れ気味に釘を刺し、周囲の人間が冷や汗を流したのは言うまでもない。
「<黄昏>という未確定要素のせいで何が起きるか分からん。それこそ霊場そのものが別の場所へ引っこ抜かれるような事態が起きるということだって有りうる。特殊な力場を持つフィールドが元の場所から移動した前例は既に存在する以上はな」
その前例はヘイムダル大聖堂地下の『始まりの地』。人智すら超える超常的な力の影響でフィールドそのものが消失した形となった。その行き先の予測はつくものの、いまだに空論の域を出ていない。だが、アスベルが持つ『転生特典』―――至宝によって引き起こした事象を鑑みれば、十分可能性はあるということにもつながる。
ここまでの前置きを述べた上でアスベルは告げる。
「なので、ルドガーはクロスベルに先入りしてくれ。俺はパルム方面のほうに行く。どうせリィンと<ヴァリマール>がいないことには何も進まんだろうからな」
「ま、そうなっちまうか。シオンもクロスベルで構わないか?」
「ああ、構わない。オルキスタワーの攻略は先んじてもいいって解釈で進めるつもりだが」
「……俺らに残されたリミットが分からん以上、前倒しできるところは進めてもいいと思う」
アスベル、レイア、マリク、クルルの四人がパルム方面に進み、シルフィア、ルドガー、スコール、シュトレオンらがクロスベル方面へ向かうこととなり、前者側の四人は『カレイジャスⅡ』に乗り込むこととなった。
「アスベルたちが乗り込んでくれるのはありがたいが、いいのか?」
「ああ。俺の操縦する<アクエリオス>が<七の相克>そのものにどのような影響を与えるかも見なきゃいけないからな。幸か不幸か、紫がいるところはハーメルの特異点にも近いわけだし」
「ふむ、僕は話を聞いただけに過ぎないが、彼―――<剣帝>レオンハルトの剣を依り代にして顕現したそうだね。新たな騎神の出現だけでもお腹いっぱいだと思えてならないよ」
オリヴァルト皇子らしからぬ台詞とは思いつつ、アスベルは話を続ける。
「目的が<鋼>の再錬成に止まるならば、範囲は対象外に成り得る。だが、この世界で生まれ出た以上は対象外と言い切れない。何分、あれの動力源自体が厄介な代物だからな」
「……君のその台詞だけでも嫌な予感しかしないね。これ以上は踏み込まないこととしよう」
「そうしてくれると助かる。これに関してはランディ―――ロイドたちが関わった部分にも踏み込むからな」
「ってことは、キー坊のアレってことかよ……」
<アクエリオス>の動力源―――アスベルから写し取った<零の至宝>。そもそも、そんなものを特典として渡した側も問題なのだろうが、そこまでしなければ救えない対象がこの先に控えているという証左なのかもしれない。
リィンたちが先んじて龍霊窟に向かったのだが、しばらくして別の場所から光が立ち上るだけでなく、戦艦から光が発せられて結界のようなものが展開された。そして、戻ってきたリィンらによって霊場がハーメルに移動しただけでなく、それを阻害するためのダメ押しをルトガーやイリーナ、シュミット、そしてゲオルグから聞いたことを伝えるのだった。
「障壁発生器か……戦艦ごといくのはダメか?」
「アスベル……」
『この中でもアンタしか出来なさそうなことはやめて頂戴……』
「そうか? レイアやクルル、マリクも行けると思うぞ?」
「……君らの世界の僕らが生きていけるか不安に思えてきたぞ」
「俺もそう思えてならん」
どうせ戦争で派手にやりあうのだから、ここで戦艦の一隻でも落とせば多少のアドバンテージに成りうる。そこまでやった際のデメリットも考慮した結果、アスベルの案は却下されてしまった。
「ま、俺の本命は<相克>だから、リィンたちでどうにか出来るなら対処は任せる。何か役目があれば手伝うことはできるが」
「なら、<アクエリオス>で敵艦隊を引き付けてほしい」
「慣らしも必要だと思っていたし、別にいいよ」
「そこはあっさり従うのな。断るかと思ったぜ」
体力の温存を考えるのならば、クロウの言葉も一理ある。だが、作戦の成功率を上げる意味でもできることはする。それに、一番大変なのは他ならぬリィン。戦艦を攻略して障壁発生器を停止、そのあとに陣を張っている『西風』を攻略する。
当然、アスベルらも攻略に協力するわけだが、<七の相克>による世界の命運を背負うのはリィン以外に出来ない役割。周囲の人間に出来るのは、彼を支えるだけでなく彼と共に並び立つ意志を持つこと。
尤も、リィンが誰かを頼るということに対して優柔不断なのは周知の事実。
「この状況で大変なのは一緒だからな。戦争へのタイムリミットに俺らがこの世界に止まれるリミット。どっちにしたって、先んじて苦労している分にはズルをしている気分だが」
「アスベル……」
「だから、手伝えるところは手伝う。霊場では目一杯暴れさせてもらうつもりなので、よろしく」
「せめて、霊場から抜け出せなくなることだけは回避して欲しい」
「フィーちゃん、冗談に聞こえませんよ……」
アスベルの規格外さは霊獣の一角たるローゼリアを圧倒しているだけでも十二分であり、その彼が暴れるというだけでも大事になってしまう。フィーの言葉に対して投げかけられたエマのつぶやきを聞き、ブリッジにいた面々が冷や汗を流したのは言うまでもない。
無論、それを言われた側が釈然としない表情を浮かべたのは……言うまでもないことである。
魔導障壁発生器を止めるべく、戦艦への突入を敢行したリィンたち。陽動として『カレイジャスⅡ』に加え、<オルディーネ>と<アクエリオス>が飛び交う。
「……やはり、彼らに残ってもらうことはできないものかな?」
「仮にそうなると、各国の取り合い合戦になることは容易に想像がつきますよ……」
「教会としても、彼らはぜひとも引き込みたいと躍起になるかもしれません」
『むしろ、火種が増えそうね……』
『気持ちはわかるが止めといたほうがいいぞ、絶対に』
彼らがそうつぶやくのも無理はなく、エレボニア帝国軍の哨戒艇をエンジンだけ破壊するだけでなく、戦艦の対空砲だけ綺麗に破壊した。それに飽き足らず、アスベルが甲板に降り立って軍人たちを戦闘不能にしていく。
同じく陽動を担当しているクロウですら引き気味になるほどの実力となれば、最早制御などできないと結論付けるほかなかった―――というのが、オリヴァルト皇子のアスベルたちに対する評価だった。
結果として戦艦内部でのいざこざはあったものの、シャロン・クルーガーがイリーナに『契約の不履行』という理由で再びラインフォルト家のメイドとして『カレイジャスⅡ』に乗り込むこととなった。
当初の予定と異なるイレギュラーはあったものの、ハーメルに移動した龍の霊場に突入するリィンたち。だが、一部の者―――アスベル、レイア、マリク、クルルが飛ばされたのは、霊場の最奥。
アスベルたちが突然姿を見せたことにルトガーは目を丸くしたが、彼らの中でマリクを見た瞬間にルトガーの表情は喜びに満ちていた。まるで、自分が待ち焦がれていた好敵手に会えたかのような印象。
「―――ハハッ、女神様も粋なことをしやがるものだな。そういえば名を聞いていなかったが……アンタ、名前は?」
「マリク・スヴェンド。アンタなら察しはつくだろうが、俺も猟兵の端くれなもんでな」
「そうか……なら、一対一(サシ)で勝負しようか。今のアイツらにシュバルツァーたちはどうせ止められんからな。それまで『場を温める』ぐらいはできるだろう?」
「……いいだろう。だが、加減はしないぞ」
「そうしてもらわねえと、猟兵王の立つ瀬がねえからよ。さあ、戦いあおうじゃねえか!!」
そうして始まるルトガーとマリクの戦い。互いにアーツは使わず、己の戦技だけで戦いあう二人。猟兵としてトップクラスの二人ともなれば、最早死闘ともいうべきもの。
「そおらっ!」
「せいやっ!」
だが、マリクには<転生者>としての力を有しているが故、次第に均衡が崩れていく。ルトガーもそれを理解しているからこそ、マリクとの距離を取る。
「やはり、バルデルよりも遥かに強いか……次で決めさせてもらうぜ! ギルガメスブレイカー!!」
「……真っ向勝負は望むところだ、猟兵王! エターナル・セレナーデ!!」
互いの持てる力を解き放ったSクラフトがぶつかり合い、激しい衝撃波が巻き起こる。ほんの数秒程度の嵐が収まった先には、得物を真っ二つに折られて片膝をつくルトガーと、傷一つない得物を構えるマリクの姿があった。
すると、ちょうどそこにリィンたちが合流する運びとなり、そのタイミングで霊場に光が満ちる。それを見たルトガーはゆっくりと立ち上がり、<ゼクトール>へ光となって乗り込む。
『丁度場も温まり、シュバルツァーも来た。さあ、始めようかシュバルツァー!』
「……フィー」
「大丈夫。もう覚悟はできてる」
「わかった。来い、ヴァリマール!」
事ここに至って言葉は不要。その意思を感じ取ったリィンは<ヴァリマール>を召喚する。本来なら<オルディーネ>を呼ぶべきところだろうが、ここでストップを掛けたのはアスベルだった。
「クロウ、悪いがここは俺にやらせてほしい」
「それは構わねえけど、いいのか?」
「<アクエリオス>が<相克>に引っ掛かるか否か―――この状況を置いて他にないからな」
「……分かった。ま、アンタなら心配はしてねえが」
「ありがとな。来い―――アクエリオス!」
そうして<ゼクトール>と<ヴァリマール>、そして<アクエリオス>の三機の騎神による第二相克が開始される。
「クク、この地でその機体と再び戦えるとはな。相手にとって不足はねえ! 来な!」
「行くぞ、猟兵王!」
「フィーの分まで、いざ参る!」
数的に言えば不利とも言える<ゼクトール>。だが、その不利を感じさせない戦い方に周囲の面々は息をのむ。さすがにハーメル村跡地での初見殺しこそなかったものの、アスベルの中に秘める力を写した<アクエリオス>のパワーは<ゼクトール>を圧倒していく。
「相手に決めさせる前に、一気に片を付ける。リィン、合わせろ!」
「ああ!」
世界こそ違えど、八葉一刀流を学ぶ者同士の連携。<ヴァリマール>の剣と<アクエリオス>の太刀が鮮やかな斬撃の軌跡を描き出す。八葉の最後の弟子と八葉の筆頭継承者が騎神によって繰り出した技は的確に<ゼクトール>を追い詰める。
『相ノ太刀―――蒼炎十文字!!』
『があっ!? ……クク、不意打ちこそなかったものの、やはり強かったか』
決着がついたことで、<相克>によって<ゼクトール>の力が<ヴァリマール>に流れ込んでいく。だが、<アクエリオス>は特に影響を受けていない。そうなると、相克のキーポイントは騎神に内蔵された<鋼>に他ならない。
リィンはクロウの時と同じように力の吸収を抑え込もうとしたが、ルトガーはそれを拒否した。一度死んだ身だからこそ、猟兵として引き際を誤るつもりはないと。だが、それを見たアスベルはマリクに視線を送るとその意図を察したのか、彼は折れてしまったルトガーの武器を掴む。
次の瞬間、霊場が眩い光に包まれる。その場にはアスベル、マリク、そしてルトガーが立っていた。
「おいおい、一体どうなってるんだ?」
「まあ、早い話がお前の魂を核として新たな騎神を形成する。材料に関しては俺が用意するので気にしないでくれ」
「ちなみにだが、バルデル・オルランドも騎神の核になってるから、話そうと思えば話せるぞ」
「……ククク。天国でも煉獄でもねえ場所でこき使われるってことか。ま、いいさ。お前らといれば退屈はしなさそうだ。バルデルもそう思ったからこそ受け入れたんだろうしな。さあ、マリク・スヴェンド。アンタの騎神の名を聞かせてくれ」
「―――ああ。我が剣となれ、<ハウゼンリッター>!」
そうして光が収まって霊場に戻ると、<ゼクトール>の力を吸収した<ヴァリマール>と変化のない<アクエリオス>、そして<ゼクトール>の趣を受け継いだ<ハウゼンリッター>が出現し、これにはリィンたちが驚愕していた。
「ま、また騎神が増えた……」
「ああ、増えたな……で、今度は誰が核に入ってるんだ?」
『ハハ、てっきり消えちまうかと思ったが……もう少しだけお前らと一緒にいれそうだ』
「団長!?」
「……もう驚くのも疲れてくるよ、アスベル」
「俺に言うな」
まさかのルトガーが騎神になってしまうというハプニングを抱えたまま、リィンたちは龍の霊場を後にしたのだった。
モチベーションが少し回復したので、更新しました。
不定期更新は変わりませんのでご了承ください。
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外伝~二度あることは三度ある~