No.115023

恋姫†無双 真・北郷√15

flowenさん

恋姫†無双は、BaseSonの作品です。
自己解釈、崩壊作品です。
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2009-12-28 21:50:21 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:46543   閲覧ユーザー数:28374

恋姫†無双 真・北郷√15

 

 

 

大器安成

 

 

 

 皆を笑顔にする為に道無き道……天の『道』を切り拓き、北郷一刀の目指した理想郷が漸く『形』を見せる。平和を祝う声は全てが聞き取れぬほどの大きな歓喜の『聲』となり、『大器』たる国……『安』の国を『成』す。この『大国』は大陸全てを明るい笑顔で覆い尽くし、『隅』……暗がりなどありはしない。

 

元ネタ 大器晩成を自己解釈(09話 風01稟01拠点『風稟歌讃』参照)

 

(書き下し)

大方は隅(ぐう)無し。大器は晩成(ばんせい)す。大音は聲(こえ)希(まれ)なり。大象(たいしょう)は形無し。道は隠れて名無し。

 

(現代語訳)

大きな四角形は角が見えず、大きな器(うつわ)は出来上がっていないように見える。大きな音はその響きが聞き取れず、大きな形は形としては見えない。そして万物の摂理たる「道」というものも、人間の認識を越えたものなのだ。

 

 

 

……

 

/語り視点

 

白帝城外れ

 

 

 

 一刀達が東雲の空を見上げている頃、旅立とうとする者達がいた。

 

「貂蝉よ、北郷一刀に会ってはいかぬのか?」

 

「ご主人様は、もうこの外史で生きるって決めているわん。それに、この外史を出たって皆が一緒とは限らないし……あの呂布ちゃんも、ここにしか居ないんだから」

 

 卑弥呼が朝日を浴びながら腕を組んで弟子に問い掛ける。答える弟子はほんの少し寂しそうに一刀達を眺めながら目を細める。

 

「うむ、この外史は皆の、やり直せたら。と言う想いが集まり形となった特殊な外史だからな」

 

「ええ……。卑弥呼、ありがとう」

 

 師匠が静かに目を閉じ言葉を続けると、貂蝉が左腕を突き出し親指を上に向けて拳を握る。白い歯をキラリと光らせて。

 

「何、だぁりんの願い、平和な世界を叶える為だ。うぬの為では無い」

 

「どぅふふ、つ・ん・で・れ♪ って奴かしらん」

 

「がはははは!」

 

 二人は大きな声で笑う。自分達の役目……外史を見届ける事を果たし、満足そうに……。

 

「そろそろ行こうか。俺達の戦いは漸く始まったばかり!」

 

 華佗が荷物を背負い歩き出す。平和になっても病気と怪我との戦いは終わらないと、瞳の中の闘志を熱く燃やして。

 

「そう、この果てしなく遠い医療坂をな!」

 

「私達の熱い戦いは、これからも続いていくのねぇん!」

 

 漢女達も歩き出す。三人は見届けた。どんなに険しく遠い道程でも、諦めなかった男が築いた優しい理想郷を。自分達も負けずに進もうと天つ空に誓いながら――――。

 

 

 

 未完!?

 

 

鄴城 調練場

 

 時が流れ、桃の花が美しく咲く頃、優しい国の優しい君主に第一子が生まれる……。その知らせを持って早馬で駆けて来たのは、

 

「一刀様! 愛紗殿が先程、元気な女の子をお生みになられましたぞ!」

 

「本当かっ! ねね!」

「……(焔耶さん? それ、俺の台詞じゃ……)」

 

 音々音。間髪入れずに返事をしたのは興奮気味の焔耶。一刀は無言で固まっている。

 

「何故、お前が答えるのです! ねねは一刀様に申し上げているのですぞ!」

 

「良いではないか♪ 一刀様、おめでとう御座います! ささっ、行きますよ!」

「お、おい、焔耶」

 

 音々音が両手を振り上げて怒るが、焔耶は気にせず一刀を抱き上げる……突然の出来事に一刀は焦るが、

 

「この方が、早く着けます! 舌を噛みますので、お気をつけ下さい♪」

「そうじゃなくて」

「あ! 力には自信があります! ご心配には及びません!」

 

 焔耶は気にせず有頂天で走り出す。もう何も聞こえないようだ。

 

ドドドドドドド

「いやっほーーっ!」

「だから、恥かし」ガッ「(痛っ!? ……舌噛んだ)」

 

「ねねは他の皆に知らせてくるのです!」

 

 父親である一刀よりも浮かれて、城に向かい全力疾走する焔耶。それは何故かと言うと……。

 

「遂に私がお守りすべき御方……姫が生まれたのですね! 早くお会いしたい!」

 

 第一子……第一王位継承者の世話役は、焔耶と音々音だと決まっていたからである。一刀はあまりの恥かしさと、口を開ければ舌を噛むほどの揺れで、何も言えずに運ばれて行くのだった……。

 

……

 

 大陸統一後、国号は『安』と定められた。尊い礎達が安らかに眠る事が出来るように。民達が心から安らげる平和な国でありますように。と、祈りを込めて北郷一刀が提案し、全員一致で決められた。

 

「(女の子にお姫様抱っこで運ばれている俺って、一体……)」

 

 君主は北郷一刀。ただ、彼は大陸をひとつにした平和の象徴、民に慕われる天の御遣いとして在位しているだけ。

 

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備考 中国語の辞書では『安』という文字は、安らかだ。安らげる。という意味。日本語の安いと言う意味は無く、『便宜(ピェンイー)』と言う中国語が、値段が安い。値下げしてくれ。の意味に当たる。

 

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鄴城 愛紗私室

 

 一刀と焔耶が愛紗の部屋に入ると、紫苑と璃々が部屋の中で待っていた。

 

「ごしゅじんさまー、璃々も愛紗お姉ちゃんみたいに、かわいい赤ちゃん欲しいのー♪」

 

「うん、大きくなったらね」

 

 上目遣いで無邪気なおねだりをする璃々に、ほんの少し戸惑いながらも優しい笑顔で答える一刀。

 

「璃々、一刀様にお任せしておけば大丈夫よ。愛紗ちゃんみたいに可愛い赤ちゃんをすぐに生めるわ。婚約もしたのだし大人しく待ちなさい♪」

 

 紫苑もそれを笑顔で見守りながら娘に言い聞かせる。

 

「うん! 璃々も早くお母さん達みたいに、ごしゅじんさまのお嫁さんになりたい!」

 

「わ、私も一刀様にお任せすれば大丈夫だと思う! 最初はとても優しく……」

「焔耶ちゃん、その先は駄目よ♪」

 

「あ、はい!(ガクガク)」

 

 璃々の元気な返事に真っ赤な顔の焔耶が自分の体験を語ろうとするが、凄まじい笑顔の紫苑が幼い娘の前ではそこまで! と止めに入る。紫苑は笑顔なのに焔耶は顔を青くして震えている。

 

「むー? お母さん達ずるい! 璃々もごしゅじんさまの事、もっと知りたいのにー」

 

 璃々が口を尖らせて拗ねるが、彼の主な仕事は家族サービス……一人の婚約者と四十九人の妻の相手を平等にする事……。ある意味、途轍もなく忙しい仕事である。ちなみに結婚した者は北郷一刀の事を『一刀』と呼ぶ決まりがある。

 

「あはは……」

 

「一刀様……」

 

 一刀がぎこちなく笑うと愛紗が優しい声音で彼を呼ぶ。

 

「あうー、うー」

 

 寝台で寝ている愛紗の横で、生まれたばかりなのに泣く事もなく、目が見えるわけでも無いのに、一刀に向かい手を伸ばそうとする赤ん坊がいる。

 

「……まさか」

 

 一刀は愛紗の目を見る。愛紗は頷き、嬉し泣きの表情で赤子を愛しげに見詰める。

 

 『心』に『伝』わる何かが彼を突き動かす……そっと、優しく指を差し出すと、小さな赤ん坊はその指をしっかりと掴む。小さな手で指を絡ませようとするように……。

 

「……あぅー」「……っ」

 

 一刀の頬を涙が伝う。別れの時に笑顔だった彼は、ずっと涙を溜めていたように次々と雫を溢れさせる。

 

「か、一刀様!? ……この子は!?」

 

「ええ、焔耶ちゃん。あなたの思った通りよ」

 

 様子を見ていた焔耶が驚き、紫苑が優しく微笑む中、一刀は嬉し涙を流しながら……言祝ぐ。

 

 

 

 

 

「またあえてよかった」

 

 彼女が好きだった笑顔で、夢に描いていた言葉で迎える。その子の名は――――。

 

 

 それから五年。他の者達は……。

 

 

 

「華琳さぁん、朱里ちゃん、この孟徳新書についてぇ~、是非! お聞きしたい事がぁ~。うふふ~」

 

「はわわっ! 穏さんが本を!」

 

「え、詠、穏を何とかしなさい!」

 

「はー、全く。てりゃぁーーっ!」

バキッ

「はぅっ! ……あやっ! 今ぁ、誰か穏の事を蹴りませんでしたかぁ~」

 

「気のせいよ♪ さっさと続きをしましょう……明日に間に合わないわ」

 

 安の国の実質的な政務は華琳が中心となって朱里、詠、穏等が執り仕切り、

 

……

 

「……流石、元主君。仕事は完璧のようね。でも、いつ眠っているのかしら……心配だわ……。はっ! ほんの少し! 髪の毛一本程なんだからっ!」

 

「母様……ぐす、お仕事はまだ終わらないのですか」

 

「桂(けい)! こんな所にまで来て……心配しなくても大丈夫よ。さあ、一緒に寝てあげるから部屋に戻りましょう(私も人の事は言えない様ね……)」

 

 桂花が情報網を使って各方面の監査(と言う名の粗探し)をしている。

 

……

 

「すまない、二人とも。世話をかける」

 

「気にするな、愛紗よ。大切な子供の為ではないか」

 

「そうそう♪ お互い様なのだ! ちなみに五年も経てば鈴々もバインバインなのだ!」

 

「「……鈴々? 誰に向かって言っている?」」

 

 軍部は愛紗を柱に星と鈴々が支えているし、

 

……

 

「この商人……なんとなく怪しいのよねー」

 

「雪蓮、裏が取れた。証拠を押さえに行くぞ」

 

「思いっきり暴れても良い?」

 

「許す。今日中に終わらせないとな」

 

「はーい♪(冥琳たら、張り切っちゃって♪)」

 

 治安を守る為の警邏隊とは別に、探偵(何でも屋)のような組織を編成……天才的な勘で事件を解決する雪蓮とサボらないように冥琳が補佐、雪蓮は堅苦しい事が嫌いなので気楽に頑張っている。

 

 

「白蓮さん、明日は毎年恒例の集まりですわ」

 

「わかってるって、楽しみにしてたんだからな♪ 白馬義従! 出発の用」

「機関車で行きますのよ? 白馬義従は必要ありませんわ」

 

「う、そうだな……百蓮(びゃくれん)達に知らせてこよう」

 

 麗羽は元の領地ではあるが、広すぎる為に河北一帯を白蓮と一緒に治め、

 

……

 

「七乃や、先生は今度、いつ来るのじゃ? 今度は褒めてもらえそうでの♪」

 

「ええっと~、華琳さんは……確か書簡に……あ、いっけなーい。美羽様、毎年恒例のアレが明日ですぅ」

 

「何ぃ! 七乃、すぐに出発の準備じゃ!」

 

「はいは~い♪ 美玖(みく)様と七奈(ななな)ちゃんにも知らせてきますね♪」

 

 美羽は華琳に色々と教わりながら、補佐の七乃と共に河南一帯を治め、

 

……

 

「一刀ったら、わざわざ全員に招待状を書くなんて、相変わらず律儀ね」

 

「お母様、いよいよ明日ですね!」

 

「ええ、出発しましょう」

 

 蓮華は元孫呉の民が多い江東を、天の御遣いと孫呉の王の名の下に治め、

 

……

 

ガタンガタン

「桜香ちゃん、久しぶりにみんなが揃うね。楽しみだな~♪」

 

「ふふっ、桃香さんたら……機関車が蜀にも引かれてから、ちょくちょく会っているじゃないですか」

 

「えー! みんなが揃うのは久しぶりだよ! 早く着かないかな~♪」

 

「しー、二人が起きてしまいます」

 

「「すやすや」」

 

「桃(もも)ちゃんも桜(さくら)ちゃんも、よく寝てるね♪」

 

 桃香は桜香と一緒に暮らしながら彼女達を慕う者が集っている益州一帯を治め、

 

……

 

カタンカタン

「機関車が出来てから旅が楽になったなー。大人数で移動しなくても済むし」

 

「一刀様は平和になってからが役に立つと、作っていたようですよ」

 

「へー、流石、ご主人……じゃなかった、か、一刀様だなっ!」

 

「月光(ひかり)~。母さまったら、まだ、父さまの事、ごしゅじんさまって言ってるぜ」

 

「翡翠(ひすい)ちゃん、そこは荷物を置く所です。危ないですよ」

「あんなに高い所を身軽に……流石は馬超様の娘だな。私も見習わなくては」

 

「へぅ、牡丹ちゃん、見習っちゃだめだよぉ~」

 

 涼州連合の盟主であるものの危なっかしい翠と、しっかり者の月で西涼一帯を、それぞれが太守として管轄している。

 

 

「稟ちゃん、遂にこの日が来たのです!」

「……ぐぅ、宝譿が邪魔なのですー」

 

「落ち着きなさい、風。全ての準備は万全です。それに頭の上の嵐(らん)が起きてしまいますよ」

 

「おお! 娘がいる事を忘れていました。失敗失敗♪」

 

「ふふふ「歌も踊りも完璧です」!? 稟音(りんね)……いつの間に」

 

 風と稟は歌姫計画・改を推進中。

 

……

 

「亞莎ちゃん、私達もそろそろ準備しましょう」

 

「はい! 皆さんが集まる、年の一度の家族の集いですからね」

 

「楽しみだね♪ 亞儒(あーじゅ)ちゃんも雛子(ひなこ)も楽しみに待ってますよ」

 

 雛里と亞莎が受け持った鉄道事業も順調に進んでいて、橋やトンネルを作って徐々に各地を結んでいる。

 

……

 

「斗詩ぃ、準備できたか~」

 

「あの時、文ちゃんが邪魔しなければ……今頃メイドで、ずっと一刀様と一緒だったのになぁ」

 

「……もしかして、五年前の事、まだ恨んでる……とか?」

 

「うん♪」

「(ガクガクブルブル)」

 

 猪々子と斗詩は麗羽を手伝い、河北で警邏隊を率いて治安を守っている。斗詩はメイドに未練があったようだが、猪々子に引き摺られていった。

 

……

 

「明日は家族集合の日だな。うちの美凪(みなぎ)が楽しみにしてる」

 

「この前は季衣ちゃんと流琉ちゃんの娘さんが増えてたねー」

 

「ウチも楽しみやわ。葉桜(はおう)も、はしゃいどるし♪」

 

「沙羅(さら)ちゃんもぉ、一杯お洒落するのーっ! て張り切ってるの♪」

 

 三羽烏……凪は警邏と掛け持ちで、付き人兼営業担当の沙和と、引き続き歌姫計画に参加。真桜は飛行機の再現に没頭中だが、その合間に色々な絡繰を作り出している。

 

……

 

「明日は私の可愛い天呼(てんこ)ちゃん達の初舞台だねー♪」

 

「地呼(ちぃこ)が一番可愛いわね! ちぃに似て♪」

 

「姉さん達……親馬鹿(人呼(れんこ)が一番に決まってる)」

 

 天地人☆姉妹は伝説の歌姫として巡業を繰り返し、各地で飛び入り参加する美羽や夏侯姉妹等と共に、その人気を不動のものとした。

 

 

「しゅうらーん~、早く鄴に行かねば、出遅れてしまうぞ~」

 

「姉者……これを終わらせなければ参加できないのだ。もう少し我慢」

「何だとっ! それを早く言わぬかっ!」ドカッ

「うわ!? いきなり壁が!? あなた様は夏侯惇将軍! ひぃぃーーっ!」

 

「……まあ、結果は同じ事か。流石は私の姉者だ。ふふっ」

 

 春蘭と秋蘭は夏侯姉妹として様々な催しに参加しながら、各地の実力者を調査している。(主に秋蘭が調査、春蘭が破壊活動……ではなく実力行使)

 

……

 

「しょーとけーきは今年もあるのかなー♪」

 

「季衣ったら……もうお母さんなんだから、しっかりしなさい」

 

「うぅ、はーい。でも季悸(きき)と流衣(るい)は、まだ少ししか食べられないから……」

 

「はいはい、季衣が残った分を食べて良いから」

 

 季衣は首都である鄴で緊急救命隊長として、火事の時には延焼を食い止める為に力を発揮し、流琉がしっかりと面倒見ながら(主に食事)協力して働いている。

 

……

 

「クロ様! 明日は申し訳ありませんが、よろしくなのですっ!」

「よろしくなのですっ!」

 

「にゃっ!」

 

 明命はちび連者と共に隠密活動を続けている。以前より動きが良いとは冥琳の評。

 

……

 

「む? あれは孫策様と公謹殿のご息女……一体何を? 娘の想春(そうしゅん)も一緒か……無茶をしなければ良いが」

 

 思春は北郷一刀の側で影から護衛しながら、その日常を蓮華に報告している。二喬とは協力関係らしい。

 

……

 

「かっかっかっ! 堂々と酒が呑める日が漸く来たのう、桔梗よ」

 

「うむ。いくら呑んでも怒られず、愛しき仲間達と最高の美酒が飲める、真(まっこと)良き日よのぅ」

 

「星ちゃんや霞ちゃんも同じ事を言っていたわね」

 

「璃々達はけーきが楽しみだなー♪」

「りりおねーちゃん、はやくいこー♪」「「まいろうぞ♪」」

 

 祭、桔梗、紫苑は大陸を巡り、後進の育成に尽力している。

 

……

 

プシュー ガコン

「美以子(みーこ)行くじょ! やっと着いたのにゃ!」

 

「にゃーにゃー♪」

 

 美以は南蛮に戻ったものの、ちょくちょく機関車を使って遊びに来ている。

 

 

ギュイーン ギャギャギャ

「どかんかーいっ! 酒や酒や! 最高の酒が待っとるんやーーっ!」

 

「おかん、急ぎすぎやで。事故起こしたら、どないするつもりや」

 

「露霞(ろしあ)は冷めとるなぁ……ホンマにウチの子かいな?」

 

「何言うてんねん、お腹を痛めて生んだ娘に向こうて、反面教師やわ」

 

 霞は最新型蒸気自動車で編成された高速機動隊で線路の警備の為に各地を駆け回っている。

 

……

 

「一刀様に久しぶりにお会いできるな……む? 牡丹は何処に……」

「華雄さんも、お茶をどうぞ♪」

 

「と、董卓様! そんな恐れ多い!」

 

「へぅ、私達は家族じゃないですか。こんな時くらい、気にしないで下さい。あと、牡丹ちゃんは翡翠ちゃん達と遊んでいますよ」

 

「華雄は堅いぜ。一刀様も気楽にって言ってただろ?」

 

「はい……ありがとうございます、月様、翠殿」

 

「はい♪」「へへっ♪」

 

 華雄は月の下で武勇を磨き、涼州に猛将華雄あり! と五胡に睨みを利かせている。

 

……

 

「一足先に来ちゃった♪ そうそう、シャオもお姉様の胸! お姉ちゃんのお尻! を兼ね備えたんだからね!」

 

「お母様、誰に向かって言ってるの?」

 

 小蓮は姉である蓮華の手伝いをしているが、度々変装している姿を鄴で思春に確認されている。

 

……

 

「小喬ちゃん~、雪蘭(しぇらん)様と冥韻(めいいん)様が、またいなくなっちゃったよ~」

 

「お姉ちゃんっ、何してるのよ! あれほど、あの小悪魔達から目を放したら駄目って言ったじゃない! 今頃どんな悪巧みをしてるのか……」

 

 大喬は雪蓮と冥琳と小喬と自分の子供の世話、小喬は北郷一刀の身の回りの世話をするメイドとなり、近況を逐一冥琳に報告している。思春とは協力関係らしい。

 

……

 

「桂花さんの罠って発想は良いけど、仕掛ける場所がいまいちだよね~、たんぽぽは仕掛けるのは得意だけど、ここまで凄いのは思いつかないなー……つ・ま・り! 二人が組めば完璧だね♪」

 

「うんうん♪」

 

 蒲公英は桂花の情報の提供と協力に後押しされ、五胡に対する罠の開発に余念が無い。

 

……

 

「……んっ」

 

「お待ち下さい、姫様! 焔耶、早く姫様を捉まえるのです!」

 

「わかっている! だが、犬がっ! うわぁ! やめてくれ~!」

「わんわん! わんわん!」

 

 音々音と焔耶は、今日も元気な姫に振り回されている。

 

 北郷一刀は四十九人の妻と子を生し、子供達はそれぞれ分別が付くまで北郷の姓と真名で名前を成す事となっている。子供達が家を継ぐか、北郷の姓を名乗るかは成人まで保留できる仕組みである。

 

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作者設定 北郷の子供達

 

 真・北郷√の申し子。名前は全員、姓が北郷、名は真名。天の御遣いの直系として区別する為に華琳が法を作ったという設定です。この設定は璃々の事を作中、誰も姓名で呼んでいない事から、幼い子供は姓名だと馴染みにくい。また、それぞれの母親の字か韻を使う事で読者に判り易く。という理由で設定しました。ご了承下さい。ちなみに全員娘。母親をちびっ子にした感じです。息子が生まれてもねぇ……?

 

例 桂花の娘 北郷 桂

 

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翌日 鄴城 城下町

 

「姫様~、そのように走られては危ないのですっ!」

「わんわん」

 

 音々音と、その娘の幼い実々実が飼い犬の張々に跨って、今日も城を抜け出す小さな女の子と小さな犬を追いかける。前を行く二つの影が街角を曲がると、(実々実の台詞、わんわんとは犬の意味)

 

「姫様、こちらです」

 

「……想春、ありがとう」「わう」

 

 思春を小さくしたような少女が木の上から縄梯子を降ろす。子犬を抱えた女の子はあっという間に駆け昇り、縄梯子も引き上げられる。

 

……

 

「この先は行き止まりなのです。昨日はうまく逃げられましたが、今日こそは!」

 

「応っ! 私は姫を! ねね達は犬を頼む!」

 

「任されたのです!」「のでしゅっ!」

 

 音々音と焔耶は角をそっと窺うが、そこには……。

 

「誰も居ない……?」

 

「待つのです! 不用意に出ると!」

「のわぁ~っ!」

 

 音々音が止めるより早く、前に進んだ焔耶が網に包まれて木に吊るされる。完全に罠だった。

 

「学習能力の無い奴なのです……毎度毎度、子供の罠にかかるとは。今、助けてやるのです……っと、ふふふ、この陳宮に同じ罠は二度と効きませんぞ」

 

 前回、焔耶を助けようとして罠に嵌められた音々音が、縄の結い目の前の地面に大きめの石を投げると、

 

ボスッ ガス

「思った通りなのです♪(変な音が?)」

 

 地面が抜けて落とし穴が現われる。得意気な顔で胸を反らす音々音だが……。

 

ブーン ブンブンブン

 

「これは……虫の羽音? 蜂ですとーーーっ!?」

 

 穴の中から蜂の大群が現われる。

 

「はっ! ねねの服は黒……まさか!」

 

 音々音が周囲を見渡すと、ニヤリと笑うちびっこ達……。

 

「ふふん♪ ボク達の罠にかかったわね! そう来ると思って蜂の巣を用意しておいたわ」

 

「穏々は止めたんですよ~♪」

 

「罠とは虚と実の使い分け……諸葛亮(おかあさん)の名にかけて♪」

 

 詠、穏、朱里の娘。詠唱(うた)、穏々(のんのん)、朱子(あかね)が自分達の策が上手くいった事を喜んでいた。ちなみに穏の娘は、後で叱られないように予防線を張っているだけで、その満面の笑みから共犯なのは明白である。

 

「母どの~こちらなのでしゅ」

 

「実々実! 幼いながらも機転の利く、ねね自慢の娘なのです♪」

 

 音々音は近くの民家の扉から手招きする娘の誘導に従い、蜂から逃げようと走り出すが、

 

ズボッ ボチャーン ブーン

「な!? み、水!? 蜂がーーっ!」

 

 数歩先に待っていたのは落とし穴。中には綺麗な水が張ってあり、怪我は無かったものの外には蜂がいる為、出るに出られない。

 

「ごめんなちゃい! これも姫しゃまのためなのでしゅ!」

 

 その様子を見て実々実が謝った後、わーっと騒ぎながら逃げていくちびっ子達。

 

「あ!(母ちゃんの事忘れてたっ!)」

 

「どうしたの? 焔(ほむら)ちゃん」

 

「……ま、いいかっ!(母ちゃんなら少しくらい刺されても平気だろ♪)」

 

 力仕事担当の焔耶の娘が、蜂が飛び回る中で木に吊るされたままの母親を一瞬だけ気にするが、朱子が声をかけると何も無かったように走り去る。だが……焔耶の服も黒ずくめ、蜂が集中攻撃する色だった……合掌。

 

 

鄴城近くの桃園

 

「御神輿、わっしょい! 御神輿、わっしょい!」

「モウヤケダ! ワショーイ!」「わっしょい……うう、恥かしいよぅ」

 

 美羽より小さなお嬢様が何処かで見た事があるお祭り騒ぎをしている。彼女は麗羽の娘、麗(うらら)。やる気がなさそうだが声が大きいのが猪々子の娘、瓜子(うりしぇ)、涙を流しているのが斗詩の娘、北斗(ほくと)。毎年恒例である。

 

「春花(しゅんか)、秋花(しゅうか)。声で麗(うらら)達に負けているわよ」

 

「華(はな)さま、わっしょい! 華さま、わっしょい!」

「華様、わっしょい!(北斗も大変だな……)」

 

 そして腕を組んで麗に張り合っている少女は、どう見てもちび華琳。元気に声を張り上げているのは春蘭の娘と秋蘭の娘。やはり毎年繰り返されている。

 

「娘達は仲が良いわね、麗羽」

 

「ええ、昔の私達のようですわ♪」

 

 微笑ましい娘達を見て優雅にお茶を楽しむ麗羽と華琳。

 

「おい、斗詩。麗羽様達、目がおかしいんじゃないか?」

 

「ん~、流石に麗羽様の小さい頃までは知らないからねぇ」

 

 それを聞いた猪々子は首を傾げて両掌を開くと、斗詩は苦笑いしながら答えるが、

 

「いや、あれは仲が良いのだ。仲が良いほど喧嘩すると言うではないか」

 

「「…………」」

 

 春蘭が至極まともな事を言った瞬間、猪々子と斗詩は目を丸くして驚き、

 

「なるほど……姉者は、よく一刀様を追いかけていたな」

 

「へー♪」「くすっ♪」

「しゅ、しゅうら~ん」

 

「ふふっ、姉者は可愛いな」

 

 しばしの沈黙の後、秋蘭が理由を付けて納得すると、姉は顔を真っ赤にして半泣きになる。

 

「それにしても麗羽、何故、髪型を元に戻したのかしら?」

 

「あら、この髪型は華琳さんとお揃いではありませんか。それに……」

 

 麗羽の髪型がストレートではなくクルクルに戻っていた事を疑問に思った華琳が聞くと、麗羽は笑顔で華琳を指差した後、自分を指差して止まり、

 

「すとれいとは一刀さんの為だけに、とっておく事にしましたの!」

 

「そ、そう……じゃあ私が真っ直ぐにしようかしら(五年も経って、今更?)」

 

 誇らしげに宣言するが、華琳は呆れながら目を逸らす。お揃いという言葉に皮肉を添えながら。

 

「あら♪ 前から、華琳さんのクルクルを伸ばしてみたかったんですの♪ 是非、私にやらせて頂け……」

「冗談よ♪(麗羽の奴、あれは本気の目ね)」

 

「……残念ですわ」

 

 しかし目の色を変えて食い付いた麗羽に身の危険を感じた華琳が悪戯っぽく笑うと、頬杖をついて心底がっかりしたように眉を寄せる。二人は今日も仲良しのようである。

 

 

 こちらでは小さな特設舞台で子供達のお遊戯会を開催している。可愛い衣装を着て歌を披露しているのは天地人☆姉妹の娘達に、稟の娘と美羽の娘が加わった五人組のアイドルユニット。一般公開は数年先の幼い歌姫達。

 

……

 

「天地人☆轟々(てんちじん・ごーごー)、可愛かったなー」

 

「とても上手でしたね♪」

 

 五人が歌い終わって手を振ると親達が拍手喝采を送る。翠と月も楽しそうに話をしていると小さな人影が現われる。

 

「お母様ぁ、どこ~っ?」

 

ジャーンジャーンジャーンっ!

「ここに居るぞ~っ♪」

 

 少女が母親を呼ぶと、元気な名乗りと共に蒲公英が右手を上げる。何故か効果音付である。

 

「たんぽぽ? お前、まだそれやってるのか……」

 

「へぅ、私は可愛いと思います」

 

「やほ~♪ お姉様と月様♪」

 

 翠が呆れて従姉妹を見ると、本人は上機嫌で手を振っている。

 

「お母様~っ、一緒に歌おうよ~っ! こっちこっち」

 

「へっ! たんぽぽが!? ちょっと待って~っ!!」

 

 蒲公英の左手を掴んでおねだりをしているのは、娘の蒲々丹(ぽぽたん)。初期設定で『たん』が付く小悪魔系幼女である。

 

「たんぽぽ~、まさか逃げないよな?」

 

「お母様ってば照れちゃって可愛い~♪ 遠慮なんかしないで、歌いたいんならちゃんと言ってくれればいいのに、ね~、翠おばさま」

 

 肩をガシッと翠に掴まれた蒲公英は舞台の上にと連行される。最早逃げる事は出来無い。

 

「♪~~~~っ」「♪~~~~っ」

 

 だが、蒲公英は歌い始めればノリは良く、親子の息の合った歌声に会場も盛り上がっていく。

 

「っん……ごっく……ぷはぁ~っ……実に酒が美味いのう、毎年、この日が楽しみで仕方がないぞ」

 

「うむ、佳き花、佳き歌、佳き家族、そして我等が愛する佳き男……ごっく……ふぅ、全てが揃うておる」

 

「ふふ、それに美味しい料理もね」

 

 その歌と咲き誇る桃の花を肴に酒を呑んでいる祭が息をつき、桔梗はしみじみと周りを見回して杯を空ける。料理を持ってきた紫苑が皿を並べていくと、

 

「星、このメンマ、めっちゃ美味いなぁ。酒に合いすぎやわ♪」

 

「当然だ。この日の為に私が用意した、大陸一のメンマなのだからな……んっ……はぁ」

 

 満面の笑みを浮かべた霞が星のメンマを褒め、当然だと言わんばかりの星が酒を口に含む。

 

「けぃきも美味しいよ♪ はい、然(そ)ちゃん、雛桔梗(ひなききょう)ちゃん、瑠璃(るり)」

 

 紫苑と一緒に料理を取りに行っていた璃々が小さな子供達の前にケーキを置いていく。既に彼女も立派なお姉さん。祭、桔梗の娘と、自分の妹の面倒をしっかりと見ている。

 

「母殿達は酒臭いのぅ♪」

「うむ♪ 酔うておる♪」

「お母さんも酔ってるー?」

 

 ケーキを頬張りながら然と雛桔梗が頷き合い、瑠璃が紫苑も酔っているかと聞くが、

 

「お母さんは全然酔ってなんていないわよ♪」

 

「……(酔ってる人って、皆そう言うんだよ、お母さん……)」

 

 どう見ても酔っている母親を見て、口には出さずに内心で突っ込む、成長した璃々であった。

 

 

「来た来た! 雛里、朱里、こっちよ!」

 

「師匠、どうしたんですか?」

「桂花さん?」

 

 雛里と朱里が料理を持って会場に着くと、桂花が笑顔で二人を呼ぶ。

 

「特製じゅーすをご馳走しようかと思って♪(キュピーン♪)」

 

「じゅーす? ですか?」

 

「(キュピーン♪)あの希少な! じゅーすをですか!?」

 

 興味深そうにジュースの壷を見詰める朱里を見た雛里は、桂花の思惑をアイコンタクトで理解して話を合わせる。多少大袈裟に。

 

「どうしたのです、雛里。大きな声をを出して……」

「おやおや、軍師が首を揃えてどうしたのですー」

「あやや~、なにか楽しそうですね~」

「皆さん、どうして集まっているんですか?」

 

 雛里の声に驚いた稟、風、穏、亞莎が砂糖に群がる蟻のように集まって来る。皆、軍師。知的好奇心が旺盛の様子である。桂花は更に素晴らしい笑顔になって、

 

「(くっくっくっ)一刀様が自ら御作りになった天の甘露水、じゅーすをご馳走しようかと思ってね」

 

「(流石、師匠。自然な笑顔です!)私も飲んだ事がありますけど、とっても美味しかったです♪」

 

 込み上げる笑いを堪えながら、極めて自然にジュースの説明をする。雛里も感心しながら表情を少しも崩さず補足する。政略の達人の弟子は確かに成長していた……。

 

「じゅるり。桂花ちゃん、穏にも少し~……」

 

「穏様、お行儀が悪いですよ。でも、気になりますね……」

 

 穏が涎を垂らしながらにじり寄ると亞莎が注意するが、彼女も興味津々のようで本気で引き止めてはいない。

 

「少しと言わず、一杯ずつあげるわよ」

 

「……ぐぅ」

「どうしたのですか、桂花殿? 熱は……ないようですが」

 

 桂花の気前の良い返事に、風は眠り、稟は桂花の額に掌を当てて心配そうに顔を覗きこむ。

 

「あ・ん・た・たち~! 私の事を何だと思ってるの!?」

 

「おお! すみません。(あまりのありえなさに)つい、気が遠くなってしまいましたー」

「おか(しくなって)……コホン、おか、らだの調子が優れないのかと心配を」

 

 桂花は演技を忘れて激昂するが、二人は悪びれもしない。

 

「全く……とりあえず、飲みなさい♪」

 

「美味しいですよっ♪」

 

 再びニッコリと微笑む師匠と弟子。

 

……

 

「この黄色い果実の輪切りは?」

 

「こうやって頬張るのよ♪ もぐもぐ」

 

「朱里ちゃん、こうだよ。ぱくり♪ もぐもぐ」

 

 皆が飲み終わり稟が質問すると、桂花と雛里は美味しそうに檸檬を頬張り噛んだフリをする。朱里達も二人を見て同じ様に口の中に入れ噛む……。

 

「「「「~~~~っ!!」」」」

 

 そして繰り返される悲劇? 後に続くのは六人の笑い声。軍師達は今日も平和です。

 

 

 自分の娘を探していた雪蓮が見知った顔を見つけて声をかける。

 

「あら♪ 蘭華(らんふぁ)も小蘭(しゃおらん)も大きくなったわねー」

 

「お久しぶりです、雪蓮伯母様」「おばさまー♪」

 

「ぐっ! その通りなんだけど、何か心に突き刺さるわ……」

 

 にこやかだった顔が途端に引き攣り、時の流れを痛感して涙する雪蓮。

 

「お姉様、おひさー♪」

「姉様、お元気そうで何よりです」

 

「久しぶりねー♪ 二人とも元気そうじゃない」

 

 すると今度は妹達が声をかけてくる。雪蓮は基本的に各地を飛び回っているので、三人が顔を合わせる機会はなかなか少ない。

 

「雪蘭と、いつも一緒の冥韻はどうしたのですか?」

 

「勿論、元気よ♪」

 

「元気すぎて、何処にいるかわからないのです、蓮華様」

 

「冥琳、久しぶりね(相変わらず苦労しているのね)」

「冥琳、やほー♪」

 

 蓮華がお転婆の二人組みが見当たらない事を聞くが、空気を読まない雪蓮の答えは微妙に食い違っている。そこに額を押さえた冥琳が現われて蓮華の求めていた事を答える。

 

「なによー! 子供は元気が一番。一刀だって、そう言っていたじゃない」

 

「あれは一刀がお前達を気遣って言った言葉だ。鵜呑みにするな」

 

 放任主義の雪蓮は元気であれば良いと主張するが、冥琳は子供達の教育に熱心で、丁度父親役と母親役に分かれている。一刀はお祖父ちゃん役だろうか……。

 

「どうしたの、冥琳?」

 

「あの二人は悪戯……人を驚かせる事が好きで困り果てているんです」

 

 二人の剣幕に少したじろぎながらも蓮華が問うと、冥琳はがっくりと肩を落とす。

 

「昔の姉様達にそっくりね」

 

「はぅ!」「うっ」

 

 更に笑顔で追い討ちをかける蓮華に雪蓮と冥琳は何も言い返せなかった……。

 

……

 

その頃 子供達

 

「はぅぁぅ~、大変ですっ!」

 

「明令(みんれい)どうしたの?」

 

 明命の娘が母親達と少し離れてお菓子を食べていた蘭華と小蘭の許に走ってくる。

 

「あちらで、昔のお話を聞かせて頂けるそうですっ!」

 

「昔の!? お父様のお話かしら……早く行きましょう!」

「わーい、お話お話ー♪」

 

「こちらですっ!」

 

 明令の情報に二人は興奮して走り出す。蘭華も小蘭も父親が活躍する昔の話には目がなかった。

 

……

 

「あれ? お姉ちゃん、小蘭達がいないよ~?」

 

「また桃香と桜香の所ね。二人は子供達に人気があるから」

 

 

 桃香と桜香の周りに子供達が集まって話を待っている。

 

「ある大陸に天の国から一人の少年が降り立ちました」

 

「この大陸じゃないんですか?」

「しっ、静かに!」

 

 桜香が語りだすと、大喬の娘、大鏡(かがみ)が首を傾げるが、小喬の娘の小鏡(きょう)が大鏡の口を塞ぐ。桜香は子供達の期待の眼差しの中で話を続ける。

 

「そこで平和を願う少女と出会い、共に歩む事を誓います。少年は白く輝く服を纏っていた為、民達から天の御遣いと呼ばれ、一騎当千の武将や神算鬼謀の軍師が彼に従いました」

 

「(母さん達の事かな、桃?)」

 

「(私も聞くのは初めてだよ、百蓮(びゃくれん)ちゃん)」

 

 白蓮の娘が話の全容を知りたがるが、桃香の娘も小声で知らないと首を振る。

 

「少年は自分より力も知恵もある人達がどうして付いてきてくれるかが分かりません。何故なら本当の彼は何の取り柄も無い普通の少年でした」

 

「そんな事無い! お父ちゃんは凄いのだ!」

「鈴(すず)、落ち着いて最後まで聞くのだ」

「だって、昴(すばる)……」

 

 ちび鈴々が飛び上がって怒ると、ちび星が肩を掴んで宥める。周りを見渡すと他の子供達も何か言いたそうだった。

 

「鈴ちゃんも皆も最後まで聞こうね。このままお話が終わっちゃったら嫌でしょ?」

 

 桃香が優しくそう言い聞かせると子供達は素直に頷く。桜香は物語を進めていく。

 

「でも彼が降り立った世界は乱世、戦に巻き込まれ沢山の人が斃れて逝きました。それを見た少年は敵であった者達の死でさえ悲しんだのです」

 

「ぐすっ」

「……っ」

 

 その言葉を聞いただけで平和な世界で生まれた子供達の顔に悲しみが浮かぶ。皆、優しい一刀の血を色濃く受け継いでいるようだ。

 

「やさしさ、それが周りの者達が彼に惹かれた理由。少年は自分が特別である事に気付かず全てを救いたいと願います」

 

「少年はきっとお父様です」

 

「そう思うか?」「はいっ!」

 

 その輪の中に愛紗もいる。彼女の膝の上に座っているのは愛紗にそっくりな黒髪の女の子。名前は愛(あい)。一刀と愛紗の娘である。

 

「しかし、まだ小さな勢力で無力だった少年は、お世話になった友を救えず、失ってしまいました」

 

「そんな……」

 

 桜香の娘、桜が涙を流す。感受性が豊かな彼女は人一倍涙もろかった。

 

 

「彼は後悔し、その後、敵であるはずの覇王が危機に陥ったときには戸惑いもせず助けました。しかし時を同じくして心を通わせた仲間の、大切な友であり師である人と戦わなくてはならなくなりました」

 

「どうして……」

「ど、どうなるのでしょうっ」

 

 雛里の娘と亞莎の娘が手に汗を握る。

 

「救いたいと思った少年でしたが、気が付いた時には彼女はすでに炎の中……何も出来ず、ただ見送る事しか出来ませんでした」

 

「助けられないなんて……」

 

 蓮華の娘が涙を流す。あの時の母親と同じ気持ちで。

 

「その後、少年が大陸を統一すると、今度は世界が全て消えてしまうと聞かされます」

 

 想像を絶する物語の転機に子供達から笑顔が消える。

 

「彼は世界を守るために戦います。しかし勝利の果てに訪れたのは世界の消滅……」

 

 子供達の中でも幼い者が泣き始める。

 

「皆、物語はここからだよ! 頑張って最後まで聞こう!」

 

 桃香がいつも通りの笑顔で励ますと泣き声が止んでいく。桜香も一回子供達の表情を確認して物語を再開する。この外史の物語を……。

 

「深い絶望の中、少年にもう一度、世界を救う幸運が舞い降ります。この大陸に降り立った彼は民を思いながらも、己自身の無能さに苦悩する大きな力を持った女性に出会います。

 

「(わたくしのお母様の事ですわ♪)」

「(ふん、羨ましくなんかないんだからっ)」

 

 麗が嬉しそうに自分を指差し、華が口を尖らせてそっぽを向く。

 

「少年は決意しました。彼女の覚悟になろうと、例え自分がどうなっても構わない……今度こそ愛するものを救ってみせる……と」

 

「(オヤジ、カッコイイな~)」

「(父上こそ、正に大陸の王だ!)」

 

 瓜子と春花が自分の父親の物語に感動する。

 

「彼は己の知識と手に入れた大きな力を出来得る限り全て使いました。仲間達の能力を最大限に使い、富の力で民の生活を潤す為の仕事を用意し、大掛かりな策で世の中に誤解された心優しい太守の無実を証明し、天の知識で赤い炎から大勢の人の命を救いました」

 

 自分達が知っている事が出始めた為、嬉しくなって来た子供達から歓声が上がる。

 

「やがて少年は大陸を統一しますが、平和の代償に大切な少女を失ってしまいました」

 

 ――――!?

 

 大陸を統一……で飛び上がって喜ぼうとしていた子供が動きを止める。最後に待っていたのは悲しい結末だった。

 

 

 辺りが息を呑んで見守る中、桜香は言葉を続ける。

 

「でも、少年は決して諦めず大切な人を待ち続けました」

 

「ぐすっ その子はどうなったの?」

「うあーん、かわいそうなのじゃ」

「美玖様……こんなの悲しすぎますぅ」

 

 猫耳頭巾を被った桂が涙ぐみ、七奈が美玖を慰めながら自分も泣いている。

 

「少女は……」

 

「みんなー、お待たせ!」

 

 そこに娘達が大好きな北郷一刀が現われる。さっきまで泣いていた子も父親の近くへと走っていく。

 

「今日は皆のお姉さんから、贈り物があるってさ!」

 

 一刀が指差す方向を見ると、桃まんじゅうと書かれた旗を掲げる屋台が近付いてくる。

 

「姫様に私が頼まれまして……」

 

「沙和が一番美味しい屋台を見つけたのー♪」

 

 凪が説明すると、沙和が自慢を始め、

 

「で、俺が店の人と交渉して手伝う事を条件に作り方を教えてもらって」

 

「ウチの工房使うて内緒で進めたんや」

 

 一刀が屋台を設置し、真桜もテキパキと組み立てを開始する。

 

「朱里様と詠様と私で饅頭の味付けを確認しています」

 

「私と明命は調べているうちに手伝う事に……」

 

「とっても感動しましたっ!」

 

 流琉が饅頭の味に太鼓判を押し、思春と明命も用意をする。

 

「私達も手伝ったんだよ♪」

 

「姉上の思いやりに感服した」

 

「姫しゃまは、とってもおやさしいのでしゅ!」

 

「うんうん♪」

 

「あー! 雪蘭! 冥韻! こんな所に!」

 

 ひょっこり現われたちびっ子達に雪蓮が大声を出す。星達と酒を呑んで今まで忘れていたようだが……。

 

「遂に見つけたのです! 実々実、姫様はどこなのです!」

 

「酷い目にあった……焔~、覚悟は出来てるんだろうな!」

 

 そこにずぶ濡れの音々音と蜂に刺された焔耶が飛び込んでくる。

 

「すまん、なるべく内緒にしようって言ったのは俺なんだ。怒るなら俺に怒ってくれ」

 

「「一刀様?」」

 

 頭を下げる一刀に驚いた二人が彼の視線の先を追うと、屋台の近くで……小さな犬が嬉しそうに吠えている。

 

「わんわん!」

 

 

「セキト、静かにする」

 

 子犬がじゃれついていたのは、三角頭巾をした赤い髪と赤い瞳の女の子。蒸かしたての桃まんをせっせと皿に並べている。二つの触角をぴょこぴょこと揺らしながら……。

 

「姫様!」「姫!」

 

「この前、みんなに自分で作った桃まんをご馳走したいって言いだしてさ。ずっと前から用意してたんだ。城を抜け出したのもお店を手伝う為と練習の為ってわけ」

 

……

 

一月前 鄴城 玉座の間

 

「料理を作ってみたい?」

 

「(コク)」

 

 娘が最近城を抜け出して何かしていると、音々音に報告を受けた一刀が本人に事情を聞く。

 

「そっか、じゃあ華琳にでも……(愛紗の影響かな?)」

 

「(フルフル)」

 

 一刀は協力しよう料理が上手い者を挙げるが、娘は首を横に振る。

 

「え! もう凪に頼んだ? 凪なら安心だな……んー何を作るんだ?」

 

「……桃まんを作る」

 

「! それじゃ、こうしたらどうかな?」

 

 凪なら信頼できると安心した一刀は、娘が何を作るのかを聞いてみる。返って来た答えに何かを思いついた一刀は、娘の耳に口を寄せ考えを伝える。

 

「(コク)良い考え。やっぱり、ご主人様は凄い」

 

「ご主人様じゃなくて、お父さんだろ?」

 

「ご主人様はご主人様。お父さんだけど、ご主人様」

 

 それを聞いた娘は名案だと喜び、父親をご主人様と呼ぶ。一刀は直そうとするが、生まれてから初めて口に出した言葉がご主人様という娘は考えを曲げない。

 

「秘密」

 

「うん、みんな驚くぞ」

 

「とても凄く楽しみ」

 

 短く確認をして無邪気な笑顔の娘が元気に駆けて行く。一刀は幸せそうに見送った。

 

 

時は戻り

 

「それならそうと言って頂ければ、ねねも協力したのです……」

 

 一刀が理由を話すと二人から怒りは消えるものの、

 

「なるほどっ! ねねじゃ、やり過ぎてしまいますからね! ですが、私にだけは」

「待つのです! 焔耶こそやり過ぎてしまうのです!」

「なにぃ~っ!」

 

 姫の事になるとムキになる二人は顔を突き合わせて喧嘩を始める。

 

「まあまあ、二人の分もあるから機嫌を直して」

「なんですと!」「本当ですかっ!」

 

「駄目だ。こりゃ……」

 

 暴走気味の世話役に一刀も苦笑い。二人も可愛くて仕方がないのだろう。

 

「心を込めて作った。一緒に食べる」

 

「姉上、ありがとうございます♪」

 

 ほかほかの桃まんを受け取った愛を始めとする妹達が目を輝かせて姉を尊敬する。雪蘭達もみんなを驚かせて満足そうだった。

 

「大人の方はこちらも♪」

 

 その間に大人達にも杯と一緒に配られる。

 

「みんなも知っている通り、桃の実は邪気を祓い不老長寿を与える物として親しまれている。でも今は春、桃の実は手に入らない、そこで桃まんで家族の誓いをしようと思ってね」

 

「……ご主人様も」

 

 みんなに配り終わった頃、一刀の手にも娘から桃まんが手渡される。

 

「ありがとう」

 

「んっ」

 

 一刀が礼を言うと、娘は嬉しそうに肩の上に昇る。彼女の定位置だからだ。

 

「我等家族っ!」

 

 華琳が息を吸った後、声を上げる。

 

「「天の御遣いの許に集いしからは!」」

 

 麗羽と美羽が言葉を繋ぐ。

 

「心を同じくして助け合い、平和な国を守るのだ!」

 

 愛紗が声を張り上げる。

 

「同年、同月、同日に死する事を得ずとも!

 

 雪蓮が杯を見詰め、

 

「願わくば、最後の一人までこの誓いを守らん事を!」

 

 蓮華が目を閉じて幸せを願う。

 

「一人は皆の為に、皆は一人の為に!」

 

 桃香が笑顔で誓いを謳う。

 

「「我等の心はひとつ!」」

 

 月と翠が声を揃えて天を仰ぐ。

 

「乾杯!」

 

 一刀の合図で全員が杯を高く揚げる。

 

「「「「「乾杯!」」」」」

 

 桃の花びらが舞う中、家族は桃園で血盟する。千代に八千代に……子孫達に託す平和が久遠に続く事を願って……。

 

 

 物語は終わろうとしている……。

 

「話の続きはどうなったのじゃ?」

「桜香様、お願いしますぅ」

 

「はい♪」

 

 諦めなかった男が掴みとった理想郷に光が溢れていく。

 

「少女は生まれ変わって国で一番優しい父親と国で一番大勢の母親の愛に育まれて、沢山の妹の一番上の姉として、今日も元気に暮らしています。寂しさなんか感じる暇も無いほどに――――」

 

 誰も欠ける事なく、少年が最後に待っていた少女が微笑む。

 

「みんなで食べると美味しい」

 

 彼女が好きだった笑顔で、夢に描いていた言葉で迎える。その子の名は――。

 

「美味しいね――」

 

 その子の名は――――。

 

「――恋」

 

 

 

 これもまた……望まれた外史のひとつ。

 

 終わり

 


 
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