No.112879

恋姫無双~天の御使いの守護者~ 第2話

鴉丸さん

第2話です


今回は、狂骨が若干ヘタレます

2009-12-18 16:06:44 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2562   閲覧ユーザー数:2297

 

 

Side 雛里

 

 

その人を見たとき何故か涙が出てしまった 隣にいる一刀様や朱里ちゃんが心配そうに聞いてくる 近くに居る桃香様や蒲公英ちゃんたちも近寄ってくる

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

一刀様は私の傍で朱里ちゃんと一緒に私の心配をしている でも、悲しいわけじゃない 寧ろ、嬉しいと言う感情がある それは―――

 

 

「狂骨、合わせろ!」

 

 

「承知! ハアァァァァ!」

 

 

大量の野党を圧倒している二人の内、一刀様が持っているような剣を振るっている黒色の外套を着ている人 狂骨と呼ばれた人 ずっと思っていた 何か足りないって

 

 

『雛里ちゃんは何で、ご主人様を一刀様って呼んでいるの?』

 

 

朱里ちゃんにそう言われた事があった その時はなんでかは分からなかった でも今分かった きっと『ご主人様』って呼び方はあの人のための呼び方 そう思うと違和感が無い

 

 

「ご主人様……」

 

 

「え?」

 

 

呟いた言葉に一刀様が驚いたけど、私の中には確信があった あの人は、私のご主人様

 

 

 

 

 

Side 狂骨

 

 

「……はぁ」

 

 

野党をほぼ二人で撃退した後、狂骨は一人で街の近くにある森の中の川のほとりに居た

 

 

「なぜ……逃げた?」

 

 

~~~~~~~少し前~~~~~~~~~

 

 

「終わったか」

 

 

「狂骨 体はどうだ? 外から見た限りは、問題なさそうだが」

 

 

「いや、大丈夫だ ただ、火薬を作るときに反応が遅れるな」

 

 

野党を討伐し終わり(街の方から、桔梗などが部隊を率いてきたが到着する前に二人で殲滅してしまった)体の調子を話し合っていると聖が近寄ってきた

 

 

「あの……旦那様、狂骨殿」

 

 

少し困った感じの聖に二人が街のほうを見ると、一刀たちがこちらをジーっと見ていた まあ、二人で野党の大群を殲滅すれば見られもする というか、一部が人外を見る目だ

 

 

「……それはまあ、人間ではないからな それはいいとして……なにかな? 少年少女?」

 

狂っていたときはともかく、元々は温厚で父性溢れる男だった刑天 自分たちを見てくる一刀たちに向き直り、問いかける

 

 

「刑天って……反董卓連合で」

 

 

一刀はその名前を聞き、体を強張らせた 反董卓連合のときに連合軍を圧倒する覇気を出していた男が目の前にいるのだ あの時とは違い包帯を巻いておらず、顔も優しげな雰囲気を出しているとしても

 

 

「ふむ……まあ、あのときの男だ だが、今は別にお前らをどうするとかは無い」

 

 

「……信じろと?」

 

 

愛紗が得物を構えて警戒する しかし、聖が刑天の前に立ち三尖刀を構える

 

 

「……何をする?」

 

 

「軍神などと呼ばれているようですが……実はたいしたことがないようですね」

 

 

突然出てきた聖の挑発に思わず乗りかけるが、一刀や桃香により止められる

 

 

「旦那様がその気なら、もう既に貴方たちは死んでいるんですよ? それは反董卓連合のときに分かっていると思っていましたが」

 

 

その言葉に反董卓連合の時、刑天と対峙した面子は顔を歪める 確かに、あの時は圧倒的だった 

 

 

「……ん? なあ、刑天とかいったよな」

 

 

一刀が引っかかりを感じた それは『あの時、誰が刑天を撃退したのか』と言う事

 

 

「フッ……さてな? 確かに知ってはいるが……お前らに教える義理は無いからな あるとすれば―――」

 

 

そう言って、刑天は雛里の方を向いた 視線を向けられた雛里は体を震わせるが、いつもの感じではない 目には何かの決意が見えていた

 

 

 

 

「……一つ聞きたいことがあるんですが」

 

 

「ほう?」

 

 

雛里は周りが止めようとしているが、それを無視して刑天ではなく狂骨の方に歩いていった

 

 

「貴方が……私のご主人様ですか?」

 

 

「っ!」

 

 

その言葉に刑天と聖を除く全員が驚愕した 刑天は口元を歪め、聖はニコニコしていた

狂骨は、目を見開き体を震わせていた まるで怯えるように

 

 

「あの……あ」

 

 

雛里が何かを言おうとしたら突然狂骨が走り去っていってしまった

 

 

「ふむ……おそらく混乱しているんだろうな まあ、真相が知りたいと言うなら教えてやってもいいが……その場合は、後ろに居る仲間と別れる覚悟はしておけ? 行くぞ、聖」

 

 

「はい 鳳統さん……貴女がどう行動するかは分かりませんが、せめて後悔はしないようにしてくださいね?」

 

 

そういい残し、二人は狂骨が去っていった方へと歩いていった

 

 

~~~~~~現在~~~~~~~

 

 

「何で俺は逃げたんだ?」

 

 

もうすっかり暗くなった川のほとりでひたすら自問する狂骨 何故逃げたのか分からない 雛里がおぼろげだが、憶えていてくれて嬉しかったはずなのに

 

 

「まあ、混乱していたということで納得しておけ」

 

 

「刑天……」

 

 

魚を魚篭に入れて近づいてきた刑天 聖は、テントのようなものを立てている そして、狂骨に火をつけるように指示する 示された方を見ると枝などが集められていた 

 

 

「……俺は……」

 

 

火をつけ、聖が魚に串を刺して焼いているのを見ながら狂骨は先ほどからの自問を繰り返した

 

 

「だから、あまり考え込むな 太公望の趣味かお前の本心かは知らないが、『狂骨』と言う名前は発狂しやすいぞ」

 

 

『狂骨』 狂う骨と書くこの名前 狂は言わずもがなだが、骨にはいろいろ意味がある その一つに『人』と言う意味がある つまりは、狂人という名前でもある

 

 

「まあ、太公望が気に入っているヤツをどうこうするつもりは無いだろうから……お前の本心と言うべきか? まあ、普通は自分の意思でこちら側には来ないから狂ってはいるか」

 

 

魚をほお張りながら、狂骨を見据える刑天 対する狂骨の顔は暗い 皮肉を言ったつもりだが、それを皮肉とは受け取らなかったようだ 頭を掻きながらため息を漏らす

 

 

 

 

「あのなぁ……いつまで下を向いている? 覚悟を持ったからこちら側に来たんだろ?」

 

 

聖は、何も言わずに少し離れたところに移動した これは、自分が居てはいけない話

 

 

「ああ……」

 

 

「なら何故、お前はそうしている? 別に鳳統から逃げたのはいいとしよう 覚悟を決めていても、不意の事態には動揺する事もあるからな だが、今のお前はなんだ?」

 

 

「……」

 

 

狂骨は答えることが出来なかった

 

 

「もう寝ろ じっくりと考えろよ? 手が足りないなら手伝ってはやる……だが、お前が動かなければ意味が無い」

 

 

そう言い残し、刑天はテントの中に入って行った その場に残っているのは狂骨と聖のみ

 

 

「狂骨殿……私には何を悩まれているのかはよく分かりません」

 

 

「……」

 

 

「もし、貴方が鳳統さんと会うのが……いえ、もう一度出会ってまた別れるのが辛いと思っているのなら、貴方はとんでもないバカです」

 

 

「……」

 

 

狂骨の逃げた理由はそこだと聖は考えた 雛里が自分をおぼろげだが覚えていたのは嬉しかったのだろう でも、自分と雛里は違う存在 いずれ、別れなければならない間柄 狂骨は今の存在になる時に雛里と別れている その時は苦痛だった その時の苦痛を味わいたくないと思っていた だから逃げた

 

 

「狂骨殿……何か勘違いしているようですが、私は旦那様と生きていくと決めています 太公望と言う人に会いましたが、あの人は自分の気に入った者には協力を惜しまないと言っていました だから、あの人に頼んででも旦那様と生きていくつもりです」

 

 

それは一つの覚悟 

 

 

「それに、鳳統さん……ただの関係なら思い出さないと旦那様が言っていました でも、思い出しかけています……狂骨殿? 男性よりも女性がいつの時代も強いんですよ?」

 

 

そう言って、聖はテントに入って行った 狂骨は、空に浮かぶ月を見つめていた

 

 

「雛里……俺は……」

 

 

その呟きはすぐに夜風に溶けた 

 

 

 

 

Side 雛里

 

 

「やっぱり……間違いなかった」

 

 

それは一つの奇跡 雛里は昼間に会った狂骨と呼ばれた男が自分の『ご主人様』であることを確信した あの後、一刀たちに問い詰められたが自分も「鳳雛」と呼ばれた軍師 そう簡単には論破されない 朱里が参加してきたときは少し焦ったけど、何とか煙に巻く事ができた

 

 

「あの人が……私のご主人様……私の一番大好きな人」

 

 

軍師には冷静な感情が必要・感情のままに思考するのは三流 水鏡の元にいた頃教えられた事 でも、今はそんなもの関係ない 自分の体が、頭が、存在が歓喜している 『やっと会えた・やっと思い出せた』と 自分が何故、狂骨の事を忘れてしまっていたたのかは分からない でも―――

 

 

「こうやって思い出しました……ご主人様 だから……待っていてください」

 

 

それは一つの決意

 

 

「もう……悲しい思いはさせません」

 

 

そして、奇跡は起こり―――

 

 

『いいか? 明日、北郷たちを殺すんだ! 皆、俺に……張翼に続け!』

 

 

道は再び交わる

 


 
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