No.112627

とある母子のとあるティータイム

華詩さん

テストも終え、楽しい年末の行事を控えた今日この頃で、いかがおすごしでしょうか。学校や学年によってその方法は違うみたいですけど、この時期は保護者会なるイベントが行われますが、皆様はどのように乗り越えたでしょうか。そして彼女はどうだったのでしょう。

2009-12-16 21:25:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:863   閲覧ユーザー数:843

 お母さんが怒っている気がする。いや、怒ってるのともちょっと違う。私、何かしたのかな。せっかく運ばれて来たケーキセットもあんまり美味しそうじゃない。一緒に出されたカフェモカは冷めちゃいそうだ。

 

 学校の帰りに寄ったケーキ屋でのティータイムはなんだか重々しい空気に包まれていた。

 

「お母さん。私何かしたかな。」

 

 お互いに黙っていても何も変わらないので頑張って話しかけてみる。でもお母さんは何かを考えているみたいで無言だった。本当に私何もしてないよね。そう思いつつ今日あった事を思い返していた。

 

 廊下に用意された椅子に座りお母さんが来るのを待っている。腕時計に目をやると自分の番まであと10分位だ。椅子においてあったブランケットを膝の上に乗せる。夏の保護者会の時は風通りがよくて気持ちよかったけど、冬は少し寒い。

 

 そんな事を思い、お母さんがくるであろう廊下の先を見ているとスーツ姿が見えた。

 

「お待たせ。時間大丈夫だったかな。」

「うん、大丈夫だよ。」

 

 私の隣に座り、保護者会が終わった後にケーキ屋さんに寄る話しをしていると、前の子が終わったらしく教室から出て来た。しばらくして先生に私達が呼ばれる。

 

「えっと成績はうん、問題ありません。」

「そうですか。学校生活はどうですか。」

「そちらも、問題ないです。友達も多いみたいですし。楽しくやってますよ。ねぇ榊さん。」

「あっ、はい。」

 

 先生とお母さんの二人で話しが進んでいく。私は時々、こうやって相づちを打つくらいだ。これなら別に三者じゃなくても良いんじゃないかと思って聞いていると先生が私を見てこう切り出した。

 

「志望校ですけど。この学校はどうですか。提出してもらった志望校のリストには入ってないんですけど、十分狙える力はあります。それに学ぶ環境としてもここの方が提出してもらった学校よりいいです。」

 

 先生はそういってお母さんと私を交互に見た。先生には何度もその学校を受験校に加えないかと言われていたが、第一希望にかかげた学校にどうして行きたいからと言っておいた。

 

「先生、前も話した通り行きたいのは第一希望の学校だから。」

「でも最初に進路室に資料を貰いに来たのはここだったでしょう。」

「えっ、そうなの。」

 

 先生はそう言って私からお母さんへと視線を写す。その話しを聞き、お母さんは驚きを隠せないでいた。お母さんに話をした時には、すでに私の中で候補から外れていた。なのでお母さんにはここもあるけど、力が足りないからといって説明はしなかった。

 

「ただリストの中にある学校よりも遠方にある学校なので、もしそう言った事情があるのでしたらあれですけど、ないなら考えてもらえませんか。」

「わかりました、考えてみます。わざわざすみません。」

 

 お母さんがそう言うと先生はホッとしたような顔をしていた。それからなぜか学校での彼とはどうかと言う話になり、お母さんと先生で盛り上がっていた。

 

「さてと、話しはこれ位です。本日はお忙しい中ありがとうございました。」

「いえ、こちらこそありがとうございました。」

 

 お母さんが怒るような事はなかった気がする。成績の事、学校生活の事、進路の事は、前話した時に自分の行きたい所を選びなさいって言ってくれてたからたぶん違う。見当がつかずどうした物かと思っているとお母さんが口を開いた。

 

「ねぇ、亜由美。本当の気持ちを話して」

 

 えっとどういう事だろう。本当の気持ちってなんだろう。

 

「よくわかんないよ。どういうこと。」

「志望校の事。本当に今第一希望にしている学校に行きたいの?さっき先生が言った学校じゃなくて。」

「えっとそれは……。」

 

 私が口ごもっているとお母さんはカフェモカにスプーンをいれてかき回して、一口飲み、真っすぐと私を見つめ話しを続ける。

 

「それに、聞いていた話しと少し違った。あの大学は難関だから無理って言ったよね。でも先生は十分狙えるって。ねぇ、どうしてそんな事言ったの。」

 

 本当は受ける学部を決めた時一番最初に行ってみたいなと思ったのは、先生が言った学校だ。一応私の成績でなんとかなる範囲の学校だったが、家から通える所じゃないとダメだってことに気づいて諦めた。。

 

「そこだと、たとえ合格出来ても家から通えないし、だから止めたの……。」

 

 仮に私が家を出て一人暮らしをしたら、弟妹の二人はお母さんの仕事が終わるまで寂しい思いをする。私が小さい時に感じた寂しさを二人にはして欲しくない。私の時は、誰もいなくてしかたがない事だったけど、あの子達は違う。私がいる。

 

「なら、一人暮らしをすればいいでしょう。もし、お金の事とか、心配してるなら亜由美が一人暮らしするくらいは大丈夫だから。」

「だってそんな事したら、二人が可哀想だよ。遅くまで待ってないといけなくなる。」

 

 私がそう言うと、お母さんはすごく悲しそうな顔をしていた。言ってから私はしまったと思ったがもう遅い。お母さんは私が二人を向かえに行っているのをすごく気にしている。

 

「亜由美がそう考えてくれるのはすごく嬉しいよ。でも前にも言ったけど自分の事を一番に考えて。」

 

 お母さんは申し訳なさそうに私にそう言った。お母さんがそんな風に思わなくても良いのに、私は好きであの子達を向かえにいって、家で一緒にいる。だって私は寂しがりやだから。

 

「あのね、お母さん。私ね一人ってダメなんだ。小さい時ずっと一人だったから、あの子達が生まれて、一人じゃなくなくなった。二人が生まれたからお母さんが家にいてくれた。だから次は私の番なんだよ。」

 

 弟妹が生まれて、お母さんが産休と育児休暇をとり、私が学校から帰ってくると、お母さんがいるようになった。それが私にとってはすごく嬉しかった。

 だから、私が中学三年生の時に、お母さんが再び働きにいく事になり、弟妹を遅くまであずける話しをお母さんとお父さんがしているのを聞いて、自分がむかえにいくと言ったのだ。

 

「ねぇ亜由美、あの子達の事なしで亜由美の気持ちを教えて。行きたいんだよね、あの学校。」

「もし行けるならいってみたい。でも……。」

「でもじゃないの。あのとき一人暮らしする覚悟した人が、一人がダメ何て言わないの。あと、二人を理由に自分の気持ちを誤魔化して逃げちゃダメよ。絶対に後で後悔するから。」

 

 お母さんの言葉が私の胸に突き刺さった。そんなつもりはなかったけど、そう言われるとそうなのかもしれない。何だか恥ずかしくなり下を向いてカップをスプーンでかき混ぜる。

 

「それに、二人だって成長してるんだから。家の事は心配しないで、自分の行きたい所を目指して見なさい。ほら顔あげなさい。」

 

 顔をあげて前を見ると、お母さんの表情はすごく優しい顔をしていた。その顔は頑張って見なさいと言っているみたいだった。だから私は目指してみる事を決めた。

 

「うん、そうする。ありがとう。」

 

 さて、そうすると今日から新しく計画を組み直さないと。あの学校の出題の傾向を詳しく調べないとな。それと一般推薦試験の内容も確認しよう。今やっている対策がそのまま使えると嬉しいけど。ちょっぴり冷めたカフェモカを飲みながらそん風に今後の事を考えた。

 

fin


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択