No.111288

恋姫と無双 ~恋する少女と天の楯~ 其の五

柳眉さん

この作品は真・恋姫†無双の二次創作です。
そして、真恋姫:恋姫無印:妄想=3:1:6の、真恋姫の魏を基に自分設定を加えたものになります。

ご都合主義や非現実的な部分、原作との違いなど、我慢できない部分は「やんわりと」ご指摘ください。

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2009-12-09 10:53:51 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:8489   閲覧ユーザー数:6400

 

お読みいただく際の諸注意

 

この作品での主人公、北郷一刀は原作と同名のオリキャラです。

したがって、知識や武力などの能力については変更し、性格も変えています。

また、他のキャラにしても登場の仕方や主人公の能力により、主人公に対する好感度や対応を原作とは変えていますし、原作のキャラのイメージを壊すこともあります。

 

各勢力の人事異動もあり。これじゃバランスが…と思っても暖かい目で、もしくは冷たい目で見てください。

 

それと、あからさまにするつもりはないですが、ルートによる柳眉の好感度は魏>呉>蜀となっています。そのため、表現に柳眉の個人的見解がはいるかもしれません。そのときはご容赦ください。

 

原作にて『女性らしいやわらかな~』などの表現があるので、本作では武官でありながらも、女性らしい柔らかさがあることの辻褄合わせとして『氣』と言う表現を持ち出します。氣=強さの一つの基準。武将や武の才がある者(原作のキャラ)はみな氣を遣える設定です。

 

今回、戦闘の描写があります。免疫の無い方とっては、残酷であったり、グロテスクであったり、気分が悪くなってしまうかもしれません。お読み頂く際は各々が自己責任で閲覧してください。

 

恋姫と無双 ~恋する少女と天の楯~ 其の五

 『嵐のち晴』

 

 

 

<side一刀 始>

 

前線で戦う者に作戦を伝えて、どのように動くか説明を終えた。

あとは戦場にて合図を鳴らして、指示の通りに動いてもらうだけだ。

今はそれぞれが戦までの短い一時、思い思いの時間を過ごしている。

 

「軍師かぁ……」

 

そんな中、俺は文若から策を聞いた時のことを思い出していた。

 

……

…………

 

相手の賊は300人ほど。それに対し、邑側は直接戦える者は121人、直接戦闘に参加できないが補助等で戦闘に参加する者は80人くらい。

文若の策は直接戦いに参加できる者を100人と21人に分け、21人に補助80人をまとめてもらいながら籠城を装い、伏兵にした100人と挟撃する。邑と邑の外の境はしっかりとした木の柵で囲まれており、入り口は1つ。それを活かすことを要としている。

……というのだが、俺にはそれが良い策かわからない。自分達がどう動くかはわかった、自分達がどれくらいの力があるかってのもなんとなく分かる。けど、相手がどう動くかなんてさっぱり分からないし、相手の力量とかもまったく分からない。

 

たぶん、文若にはどのように戦が始まり、どのように動き、どのような戦禍、どんな結果になるかが分かるのだろうと思う。特に注意するところ、絶対してはいけないことなど、予想される動きを交えながら事細かに指示を受けたから間違いないと思う。

 

指示を聞き、感心して漏らした言葉に文若が応える。

 

「ホントすごいな、ここまで相手のことを予測できるなんて……流石は軍師ってことなのかな?」

「当然じゃない。相手の心理と思考を読み、戦術と戦略で翻弄するのが軍師なんだから」

 

文若はさも当然であると、特に気にせず話を続けるので、聞き逃すことのないように必死で文若の言葉を聴き、理解することに務めていた。

 

…………

……

 

「文若って、実はスゴイ奴…なのか?」

 

特に、話しかける相手がいない俺は、邑人達が思い思いに話しているのを少し離れたところで眺めていると、昨日話した女の子が近づいてきた。

 

「兄ちゃんどうしたの?」

「ん?あぁ、一緒にここまで来た奴が賊に対しての策を講じたんだけど、すごいなぁって」

「兄ちゃん分かるの?」

「いんや、さっぱりわからん。自分たちの動き方とかは分かるんだけど、どう相手が動くとか想像つかなくてな。なんか話聞いてたら本当に言われたとおりになりそうでさ、ホントすごいなと」

「ふ~ん」

「君は分かった?」

「ううん、さっぱり!」

「そっか」

「あんまり難しい話はわかんないし、それに兄ちゃんがいるからわかんなくなったら、兄ちゃんに聞く!」

「俺か?いいけど、途中ではぐれるかもしれないよ?」

「大丈夫だよ、兄ちゃん頼りないからボクが付いててあげるし」

「嬉しいけど、兄ちゃんも結構強いぞ…たぶん」

「そうかな~?ボクの方が強いよ、だって邑で一番強いんだよ?」

 

そういって、女の子は腕を曲げて力こぶを見せるが、どう見てもそんな力がある様には思えない。

でも、この娘が嘘をつくようには見えないから本当のことなんだろうと思う。

 

「そうなの?」

「うん!この前だって邑の近くに来た熊を一人で倒したし。力だって一番だよ?」

 

く、熊とな!?

 

「す、すごいな、それは……んじゃあ、お願いしてもいいかな?」

「任せてよ!」

 

ドンと胸を張って応える女の子。その姿が微笑ましくて、ついつい笑ってしまう。

 

「頼りにしてるよ。じゃあ俺は君が大変にならないようにしてるね」

 

と応えたら、女の子が不機嫌です!と、頬をふくらませていた。

 

「…ど、どうしたの?」

「……兄ちゃんさ~、さっきからボクのことキミキミってさ、季衣って呼んでよ」

「え~っと、それって字?」

「違うよ、真名だよ、真・名!」

「真名って……俺は君の名前も知らないのに教えてもいいの?」

「あれ~?名前言ってなかったけ?」

 

女の子はキョトンとした顔で聞いてくるから、俺はそうだと、首肯した。

 

 

 

――真名――名が命と同じかそれ以上の意味を持つこの国の人にとって最も大事にしている名。たとえその人の真名を知っていても、認められていない者が真名を呼べば、その人を貶めたとして殺されたとしても何も言うことができない位の重さがある。

つまり、真名を許されるという事は、最上の信頼の証である……らしい。

 

 

 

 

女の子は、にはっと照れ笑いして

 

「ボクは許褚。字が仲康。真名が季衣だよ」

 

これでいいの?と首をかしげる姿は愛らしいのだが、

この娘に何か信頼を得るようなことをしたのだろうか?

 

「ありがとう。……だけどいいの?」

「うん!なんか兄ちゃんならいいかな?って」

 

えっと、真名ってこんなに簡単に預けてしまっていいのか?

……でも、断ったりしたら侮辱ってことになるんだろ?

 

それで殺されるのは嫌だし、なによりこの娘の不機嫌な顔は見たくないな…

 

よしっ!

 

信頼に応えるようにすればいいんだ。ありがたく受け取らせてもらおう。

 

 

 

「…わかった。季衣、でいいのか?」

「うんっ!」

「でも、俺の国には真名の習慣がないんだ。だから真名にあたる一刀と呼んでね?」

「一刀……う~ん、なんか違うかな?前のままの兄ちゃんじゃダメ?」

 

と、上目遣いで俺を見る季衣。

身長からすれば上目遣いになるのは分かるけど……これは流石に

 

 

「うっ……わ、わかった」

「やったーっ!」

 

なんというか一人っ子だったからか、兄ちゃんはちょっと照れるんだけど…

でも、呼び方一つでここまで喜ぶ季衣を見ていると、まぁいいかなと思ってしまう。

 

「よろしくな」

 

ほとんど無意識に季衣の頭を撫でていた。

 

これまであまり女の子と関わる機会がなかったから、距離感を測りかねていたのに

このときは自然と手が伸びていた。

 

猫とか犬が近くに来ると思わず撫でたくなる感覚に近いかな?……あまり良い例えじゃないけど

 

「……うんっ!やっぱり兄ちゃんがいいな」

 

手が頭にのったとき、季衣は一瞬驚いていたけど、すぐに笑顔になった。

 

……よかった、喜んでくれたみたいで。

 

 

季衣の笑顔につられて俺も笑っていた。

 

<side一刀 終>

 

一刀と季衣。真名を預け信頼の証を立てた2人。

 

2人はゆっくりとした時間の中にいた。

 

しかし、今は戦前の一時。

 

そんな弛緩した空気は、瞬く間に消えてしまうこととなる。

 

賊の襲来を知らせる煙によって――――

 

 

<side桂花 始>

 

私は邑の長と話を終えて、あの莫迦の所へ向かった。

どうせ、戦前になってビクビクしているか、能天気にボケッとしているかのどっちかだろうと思って、今朝の仕返しにと笑ってやるつもりだった。

 

 

前線で戦える者が集まっている場所までもうすぐ。

すこし早歩きになっている私がいる。

あいつに何を言ってやろうか、そう考えるとなんだか笑ってしまう。

どうせあいつは、少し慌てた後で頬を掻きながら困った顔をして笑うのだろう。

その姿が簡単に想像出来てしまうのが、なんだかおかしい。

知らず知らずのうちに、頬が緩む。

抑えようとするけど口の端が上がってしまう。

 

 

 

「なんで笑ってるのよ、私……表情を抑えることなんて訳無いのに」

 

 

 

 

 

どうにか引き締めて、あいつがいる集まりまで来た。そしたら……

 

来てみれば、あいつは私より小さい位の桃色髪の少女と能天気にへらへらと笑っていた。

それを見て、言いようのない苛立ちを覚える。

今までになかった苛立ちに戸惑いを感じつつも、紛らわせるつもりで、

へらへらしている能天気なあいつに一言言ってやろうと歩を進めた。

 

 

すると数歩ほど歩いたところで、あいつは苦笑しながらその女の頭を撫で始めた。

そして、それをされて笑顔の少女。

 

 

 

「――――っ!!なん……で」

 

ガツンと何かに頭を殴られた気がした。

 

一瞬の空白が頭を占める。

見ているのに、聞こえているのに、感じているのに、ここではないどこかにいる錯覚に陥る。

それまで感じていた苛立ちは鳴りをひそめ、今は漠然とした寂しさが湧き出てきて

 

 

 

 

――――なぜかわからないけど、泣きそうになった。

 

 

 

涙が流れ出ないように上を向くと

 

「―――っ、あれは!?」

 

立ち上っていく煙を見た。

――それは賊の襲来を告げる報せ。

 

………

 

今回の策で重要なのは賊がいつ来るかこちらが把握出来ること。

そのため最初は何人かを見張りにつけることにしたが、伝達が遅いと失敗してしまう恐れがあるため伝達方法をどうしようかと考えていたところ、あいつが『のろし』という方法を提案した。

『のろし』というのは煙を使った伝達方法で、あいつの国の昔の人物達が使っていたという。

 

今回に限って言えばこの『のろし』を使った伝達は都合がいい。

相手が賊であることと伝達の速度を考えれば恐らく最善でしょう。

 

相手が賊だから煙のあるところ、つまり人がいるところに行く。――これでおおよその時間が推測できる。

伝達は煙を使ったものだから見える範囲であればほしい情報が手に入る。――今回は『賊がどの辺りにいるか』という情報がほしいため煙が出ればいい。

 

あいつの話だと、のろしは色や場所から何通りかの意味を持たせていたと言っていた。

離れたところにいる者に情報を伝えるに確かに便利ではある。

のろしの件でもそうだが、話の節々にこの国とは違う環境で生きてきたことを窺うことが出来るし、あいつ自身けして学がないわけではない。それを言ったらあいつは苦笑して

 

「俺がいたところでは、一定の年齢になると全ての人が学校にいき知識を学ぶんだ。だからこれくらいのことならみんな知ってるよ」

 

なんて、なんともないように言っていた。それがこの国においても私が知る国においても異質であるというのに……

 

 

もしかしたら、あいつが言っていたように未来から来たという荒唐無稽な話は本当のことかもしれない。……あまりにも考えの根本が違いすぎるから

 

………

 

あいつが言ってたこと、これからの戦のこと、私の仕官のこと……

 

考えてしまうことは山ほどあるのに、考えがまとまらない。

 

 

こんなこと、今までなかったのに。

 

 

 

 

……って違う、こんなこと考えている時じゃないっ!!

 

―――今は……とにかく今は目の前のことを何とかしないと!!

 

頭を振って雑念を払い、あいつに声をかけた。

 

 

 

 

 

……ちょっと、語調が強くなっちゃったけど、変じゃなかったわよ、ね?

 

<side桂花 終>

桂花に言われて、煙を見た一刀。

 

その後、速やかにそれぞれの持ち場につく邑人。

 

2人は「寝覚めが悪いから死ぬんじゃないわよ」「ああ、死なないよ、約束したしな。お前を支えるって」

 

と言葉を交わた後、「莫迦」と言う桂花とそれを聞いて苦笑する一刀はそれぞれの持ち場に別れた。

 

初陣を迎えるというのに、2人の顔は見慣れてしまった、しかめ面と困ったように笑う顔で…

 

 

 

―――銀月に誓った『誓い』を守るために

 

 

 

――――生きるために

 

 

 

……それぞれの戦場に向かう。

 

<side桂花 始>

 

――――賊が来た。

 

足音が、

息遣いが、

金属の音が、

飛んでくる矢が、

緊迫感と圧迫感が、

今ここは、この場は、この邑は戦場であると告げる。

 

幸い未だ死者はなく、程度の差はあるけど怪我で済んでいることは嬉しい誤算だ。

 

 

―――――嬉しい誤算、か……

現実の中にいる自分と軍師として戦場を見ている自分がいる。

邑の人が傷ついているのを見て心配する自分と戦況に影響があるかを考える自分。

今までの自分から変わることが必要で今は軍師の自分に徹しないといけない。

 

それなのに自分の中で線引きが出来ない。

頭では分かっているのに……今一歩踏み込めない。

 

ここは戦場で、私は軍師なのに……

 

 

眼前の世界は軍師になるために書物で想定した、策謀を会得する為の綺麗な駒と盤上(戦場)ではない。

 

 

――――息苦しい…

 

 

自分の目が、耳が、鼻が、肌が、頭が生と死を分かつ血生臭い場であると、折れることのない確固とした意志で泥塗れになろうとも、血塗れになろうとも生きるために手を尽くすべき戦場であると認識させる。

 

 

 

 

 

 

 

現在、邑の柵が機能していて籠城の形がとれている。仮に賊が梯子を使って柵を越えようとも砦ではない為降りる手段がない。こちらはただ矢の数に注意して射る事をしていればいい。

賊は、門と柵に張り付き攻撃を加えているが、木の柵――実際の規模からすれば柵と言うよりは壁――は堅固であり揺るぎがない。

柵には土地の動物避けのまじないが施されており、木に土を塗り雨風に晒したものが使われている。それは火を防ぎ、柵の強度を高める役目をしていた。それに比べると門の方に使われている木は柵に使われている木と比べると若干太いけど、その分土がついていないため強度は劣り火に弱い。

 

……まぁ、賊の目が門の方に集まるのも時間の問題でしょう。

 

 

 

 

 

柵の強固さに痺れを切らした賊は門の方に意識を向け、大半の人数を割いた。

 

ここまでは想定通り。当面は柵の上からの矢に注意してさえいれば

 

――――策は成る。

 

 

 

 

 

 

この私、軍師荀文若の策っ!!

 

 

 

 

―――好機と思いながら死地に進みなさい。

 

<side桂花 終>

 

 

<side一刀 始>

 

視線の先には戦場という異世界が広がっている。

さっきまでいた邑の門は固く閉ざされ、壁ともいえる柵が賊の侵入を防いでいるのが見える。

 

 

俺達、伏兵を任された者はのろしを見たときから邑の外に出て身を隠している。

……まぁ、隠すといっても大掛かりなものではなく、のろしと邑の間を避け、森とも呼べないような木が集まっているくらいの規模のところにいるのだが。

 

文若は、賊の今まで成功しているという慢心と、この地を治めている州牧は逃げ出しているという事実から邑が見えたら警戒することなく襲撃してくると言っていた。だから、そこにいることが分からない場所に伏せ、賊の目が邑にだけ向けられるのを待ち、邑からの合図をもって攻撃を仕掛けるのが俺達の役割だ。

 

言葉の通り、賊は一目散に邑に向かい柵を、門を攻めている。これで策の第一段階は成功した。

あとは、合図を待って攻撃をするだけだ。

 

 

……そう、合図を待って殺し合いを始めるだけなのだ。

 

これからのことを考えると怖い……でも、そんなことは言ってられない。

 

 

 

恐怖を振り払うように周りを見る。

合図があったら直ぐにでも出撃できるよう構えている邑人達。

その中に己が獲物を持つ季衣の姿を見た。

先ほどまでの明るい顔は今はなく、武将の証があるその目には確かな怒りを宿して賊を睨みつけていた。

武将の才を持つものは者は季衣だけだったが、そんなものに関わらずここに居るほとんどの者が季衣と同じ顔をしている。

当たり前だ、彼ら彼女らにしてみれば当事者で自分の邑なのだから。

賊に自分の邑が襲われているこの状況に、自分に戦う力がある分だけ我慢ならないんだろう。

ありありと戦意が、士気が高まっていくのを感じる。……それに比べて俺は

 

一緒に戦うと言ったくせに手も足も震えている……自分が情けない。

 

周りと自分との差に、やらなくちゃやらなくちゃと考えだけが巡り巡ってドツボに嵌まる。

だからだろか、近づいてくる人に気付かなかったのは

 

「おいおい、戦う前からそんなに思い詰めってっとおっ死んじまうぞ」

「へ?……えっと」

「あんただよ。え~っと、北だっけ?」

「北郷です」

「あ~そうそう。その北郷さんだよ」

「……」

「その服だけど、どっかの貴族の人なんかね?一緒の女の子も良い服着てたし……」

「あの俺は、ちょっと遠いところから来たので珍しいだけで普通の服ですよ?文若は分かりませんけど」

「そっか……その娘とはいい仲なのかい?」

「そういう訳じゃないですけど」

「そうなの?俺はてっきり……」

「なんですか?」

「まぁ、いいや。話は戻すけど何をそんなに思いつめちゃってるのよ?おじさんに言ってみなさい」

「……」

「ん?」

 

いきなり現れたその人は、今この時が戦場で、突撃の合図を待っていることを忘れさせるような気軽さで話しかけてきた。戦場にあってそれを感じさせない異質。だけどこの人の人となりというか、親しみやすさが、ちょっと恥ずかしいけど口に出してみる気にさせた。

 

「……今回が初陣なんです」

「ん?」

「今回が初陣なんです」

「なに?」

「だからっ!今回が!初陣なんです!!」

「はっはっはっは」

 

一大決心して言った言葉は、聞き返させられ、少し大きく言った言葉は、耳に手を当てられて聞き返された。それならばと、力の限りだした言葉は同じ大きさの笑い声で返ってきた。

 

「もういいです」

「なに、そんなに拗ねるな、若人よ」

「拗ねてません」

「あっはっはっは」

「……怒りますよ?」

「いや~ごめんごめん。北郷が可愛くってな」

「な!?」

「…ちょ、そんなに離れるなよ?別に男好きって訳じゃねぇぞ。安心しろって俺嫁さんいるしさ」

「じゃあ、なんですか」

「からかい甲斐があるなっと」

 

こいつは何しに来たんだ?あまりこっちは余裕が……あれっ?

 

「……」

「ん?どうした、怒らないのか?」

「……ありがとうございます。周りから見ると俺はそこまで余裕がなかったんですね…なんか釈然としませんけど」

「ん?なんだ礼を言われることなんてしてないぞ」

「気にしないでください。気持ちですから」

「……くっく、あっはっはっは。いっや~ホントに北郷はおもしろいな」

「……」

 

じっと言葉を聴いていたら、その人は頭を掻いて表情を改め、真剣な目で俺を見る。

 

「まぁ、なんだ……あんま気張りすぎると良くないって言いたかったんだよ、俺はさ。どうせ今考えていることなんざ、いざとなったら役にたたねぇし、前だけしか見なかったら後ろからばっさりだ。それに俺たちは殺すために戦うんじゃねぇ、邑を護る為に戦うんだ。だからあんなに殺気立ってたらどっちが賊かわかりゃしねぇよ。」

「……怖くないんですか?」

「怖えに決まってる。子だっているし嫁さんだっている……あいつら置いて死ねねぇよ」

「死ぬかもしれないし……人を殺すんですよ?」

「……そっか、北郷は殺したことがないのか?」

「無いですよ」

「俺も無い。けど動物や虫を殺したことはある。おまえだって肉食ったことあるだろ?それは生きるために動物を殺した結果だ。今回だって生きるために賊を殺す……同じだろ?何も変わらない」

「そうかもしれません……でも」

「まぁ、悩め若人よ。結局答えなんて無ねぇから、自分で納得するしかないんだよ」

「そう……ですね」

「大丈夫だって、季衣もあんた護るって言ってるしさ」

「季衣……彼女は俺より小さいんですよ?それなのに……」

「あいつの場合は訳ありだしな……」

「―――だから俺はあいつに何もいってやれない」

 

その人は小さく呟いた。聞き取ることは出来なかったが、一瞬見せた悲痛な面持ちで簡単に踏み込むべき話ではないとだけ分かる。

 

「……」

「だから俺が出来ることなんてな、人の親として若人達が無理して死なねぇように御守してやる事ぐらいしかない訳だ……まぁ、俺は弱いから戦場に行ったら護ってもらうことになるかもしれんがな」

 

と、その人はおどけて笑った。

そのとき、俺は眩しいくらい人の強さというのを見た。

 

「北郷がみんなで生きようって言ったこと、俺も皆も嬉しかったんだ……だから死ぬんじゃねぇぞ」

 

そしてその人は、握った拳で俺の左胸をノックするように軽く叩いて季衣のところに行った。

 

軽く叩かれたのに、思いっきり叩かれたような重さが胸に残る。

 

「かっこよすぎだよ、あの人」

 

人の想いという確かな熱が胸にあった。

 

 

 

 

 

 

鐘が鳴る――――

 

戦へ導く音が響いて

 

狂った時間が始まる

 

<side一刀 終>

 

カンカンカン―――――

 

鐘の音に賊は襲撃が成功したことを悟る。

この鐘は邑人が門が開いてしまったことを邑中に報せる鐘だと……

 

賊の多くはこう思っただろう―――

 

――他の邑になかった柵の堅固さに攻めあぐねていたが、門に集中して正解だった。

 

――邑からの矢で何人かは傷を負い、死んでしまったがまだ大したことはない。

 

――これからのことを考えれば安いもんだ。あんな矢で死ぬ奴は運が悪かった、ただそれだけだ。

 

――悪く思うなよっと。これも全て世の中がいけねぇのさ。ふはは、はっはっはっは

 

――――と。

 

 

 

門をくぐった賊が見たものは、邑を囲む柵と比べれば頼りない柵で門からの道が1つだけできている。

不審に思うも後から押され済し崩しに前へ進むしかない。

 

「っ!――ぐっ」

 

すると、賊の一人がいきなり視界から消えた。

後を追うように一人また一人と……

 

「あっ!――ぐあっ」

「げうぇ!」

 

異変を感じた人物が声を上げる。

 

「おめぇら、止まれっ!止まれーーっ!!」

 

おそらく頭目であろう。声に従って止まろうとするも動いている集団は急には止まらない。その間にもまた一人二人と消えていった。

 

「なにがあった!?」

「落とし穴です、頭」

「っそ!落ちた奴はどうなった!?」

「串刺しでさぁ」

「なんて様だ、糞ったれ!!慎重に行くぞ、下を見ながら行けば問題ねぇだろ」

「へぇ!!」

 

落とし穴があると分かり注意が下を向いた。門をくぐった時の違和感は落とし穴という直面の危機に薄れていった。そんな時だった

 

「ぐうぇ!!」

「ああああぁぁぁぁぁあぁああ」

 

一斉に降り注ぐ矢雨。点の攻撃手段の矢がその数の多さから面の攻撃手段と化している。

思考の隅に追いやっていた矢が降り注ぐ現実……賊の頭の中にはただ混乱しかない。

 

 

門に攻撃が集中していたとき、それまであった矢が降らなくなった。

邑の攻撃手段が矢しかなかった事もあって賊は矢が尽きてしまったとあたりをつけた。

妥当な判断だと思う、それまであったものがなくなったのだから。

ただそれが桂花の策の内だった、桂花の手の上だっただけなのだ―――

 

「なんだよっ!畜生!!もう矢がないんじゃねぇのかよっ!!」

「もうだめだっ!一度引くぞっ!!」

「頭っ!かしらーっ!」

「ちっ!今度は何だ!?」

「後から!後が攻められてます!!」

「なんだよ…なんだよこれはよっ!!畜生、舐められっ放しじゃあ我慢ならねぇ!!俺らの恐ろしさを奴らに教えてやる、てめぇらついて来い!!」

「へ、へぇ!!」

 

流石は頭目と言ったところか、部下の混乱を収めて士気を高める統率力は集団をまとめる力の高さを物語る。頭目が下した決断は、邑に立ち入ることよりも後から攻めてくる者を叩きのめすことを優先し後退という進撃を始めることだった。

 

このときの賊と邑の彼我の戦力差は、賊200程に対して邑は100。賊の半分は満身創痍であり、邑は伏兵のみの士気戦意の充実している者達。数では賊が、質では邑が勝敗という天秤を傾ける。あとは意志という錘の重いほうが秤の皿に残り、軽いほうが皿から零れるだけ……

 

 

 

 

――――死は蔓延り、戦渦は広がる。

 

正気と狂気の混沌の中で、等しい価値の命を悪戯に散しながら――――

 

 

<side一刀 始>

 

「なんだよ……これ」

 

戦場は命のやり取りの場なんて解ってる。物語みたいに華やかな活躍の場じゃないことも。……だけど、いくらなんでもここまで酷いものなのかよっ!

 

 

 

 

――大地が血に染まり、人の一部や人だったものが無造作に散らかっている異常。

――矢の刺さった賊が転がってる。それを見て賊も邑人も気にしないという異常。

――腕を斬られ血を噴出しているのに、剣を持って力尽きるまで戦うという異常。

――敵が既に息絶えているのに、何度も何度も刺突を繰り返しているという異常。

――敵の逃げ出した者を背中から切りつけ、殺すまで追いかけているという異常。

――痛みを訴える声を、奮い立たせるための雄叫びが覆い隠しているという異常。

 

 

そして鼻にこびり付く錆びた鉄のような血の匂いと、吐き気を催す排泄物と吐瀉物の臭い。

 

 

 

現実を認めたくなくて

 

現実を認めないといけなくて

 

 

――――どっちつかずの狭間いる頭が、処理しきれない情報の量にガンガンする痛みを訴える。

 

だからだろうか……

 

「うらあぁぁあぁああぁぁ!!」

「っ!!」

「ぐはっ―――」

 

自らの意志ではなく、反射によって攻撃をかわし咄嗟に出た一撃が相手を絶命させたのは――

 

右手に持つ白刃の刀――陽光壁――に滴る血糊。

手には鈍い肉を切った感触が残ってる。

僅かに動き、そして動かなくなった賊。

 

状況が一つの事実を突きつける。

 

 

――――北郷一刀が人を殺した。

 

 

―――何の覚悟も無く、

 

―――何の意志も無く、

 

咄嗟の一撃で俺は人を殺した。

こんなにも簡単に、躊躇することなく人を殺した。

相手が切りかかってきたから、戦場だから、自分を護るため、

――なんて言い訳はいくらでも出来るけど、殺した事実は消えない。

 

 

今まで積み重ね、築いてきた『北郷一刀』はこの時死んだのだ。

 

自分を護った白刃の刀でこれまでの価値観を殺して

 

手から零れる砂のように自分の一部をなくしたのだ。

 

 

 

呆然としている俺を取り残して戦況は駆け足で進んでいく。

弱者は淘汰され、強者はより強い強者と弱者の群れに殺される。

 

 

 

自分の手しか見ていなかった俺に、戦いが始める前に声を掛けた邑人が声を張り上げる。

 

「莫迦野郎がっ!ボケッとしてんなっ!!北郷。聞こえてんのかっ!?―――おい!!」

 

聞こえているけど動けない。命の重さが自分の考えていたものよりずっと軽くて、自分より生きてきたであろう人の積み重ねた人生を終わらせたことが、命の価値を解らなくさせる。

 

俺は生き残るべき人間なのか?ここで死んでしまった方がいいのではないか?

 

今考えることではない思考が頭を占める。戦うという行動が取れない。

 

初めての殺人に混乱していた――言葉にするならただこれだけのこと。

 

だから……だから戦う前に文若が言っていた「戦う意志のないものは戦線を同じくする者にとって邪魔でしかない」それが現実のものになる。

 

俺が殺した賊の仇をとろうと何人かの賊が押し寄せる。呆けたままの俺は視界の移りゆく様をただ眺めているだけだった。幾つもの剣が体に迫ろうとも、憎悪に染まった眼が向けられようとも……

 

ドン、と横から吹き飛ばされて気が付く。呆然としていた状態から正気に戻る。

 

直前に剣が迫っていた事は視界に捉えていたから、誰かが突き飛ばして助けてくれたのだと分かった。

 

一刀「ありが―――――っ!!」

 

振り返って見たものは、右手を突き出して体から剣を生やしているあの邑人の姿だった。

 

「っ――あぁ、無…事だった…か。言った…ろ……御守…り…して……やる…って…しな……せ――」

 

口から血を流し、眼から涙が流れている。それなのにその人は笑って…

 

 

「あ、あぁ―――あああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

 

俺が殺した。俺が何もしなかったからこの人が死んだ。

 

俺の覚悟がなかったから

俺が迷って戦わなかったから

俺が戸惑って動かなかったから

 

俺が殺した 俺が殺した! 

 

 

 

 

 

――――――俺が殺したんだっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に死が広がる。

敵も味方も平等に死が溢れている。

 

 

阿鼻叫喚の狂気の沙汰が、

死と最も近いこの場所が、

凶刃で殺し合うことが、

自分が死んでしまうことが、

自分が狂気に取り憑かれてしまうことが

 

こわくて怖くて

 

恐くてコワクテ

 

 

 

―――――嗤ってしまいそうだ。

 

 

 

 

 

それでも、口にした言葉は守りたい。

 

 

逃げ出したくなる足を留めて、この場を離れたくて仕方ない気持ちを押し殺して、目を瞑ってしまいたくなる光景から目を逸らさずに、震える手で人殺しの道具を握り、吐きたくなるニオイを我慢して、劈くような悲鳴と叱咤する雄叫びに耳を塞がず、死と隣り合わせであることを肌で感じ、獣の様に吼えながら、人殺しが嫌だという自分を殺して、自分が言った言葉の責任をとる。

 

 

左手に持つべき黒刃――陰影牙――に誓って。

 

 

<side一刀 終>

 

生と死が入り乱れた混沌は一人の男によって静まりを見せる。

明確な殺気が漠然とした殺意を塗り潰して。

 

一刀は右に白刃を、左に黒刃を持っていた。

 

白刃は白く輝き、その圧倒的な存在感がどこにいても嫌でも目に付く亀裂模様の剣。

 

黒刃は黒く霞み、その希薄な存在感はどんなに近くにいても見落としてしまう水波模様の剣。

 

一刀は力を抜いてだらんと刀の先を下ろしている。

隙だらけにも見えるその姿は、猛獣が狩りの前に気配を殺している様子に近い。

気配を押し殺し存在感を薄め、獲物を求めて野を歩く獅子。

 

其の在り方は、全力で走り、全力の斬撃、全力の刺突、全力で声を上げる、己が力の全てを以って生を拾う戦場において異質。

異質な存在はその中で目立つ。赤の中に一つ禍々しい黒がある。その黒が賊の目には映えて見えた。

 

弱弱しく映る一刀を視界に捕らえた賊は、侮り蔑みながら目に付く一刀を殺してやろうと近づく。その凍える様な眼の冷たさに気付かずに……

賊は隙だらけに見える一刀の姿に侮蔑の言葉を投げ、嘲笑いながら力いっぱい剣を振り下ろす。

殺しを確信した笑みは、思い描いた軌跡を辿らなかった剣と頭をなぞる風に凍る。

ずれた視界、その網膜に映った最期の光景は、自分と同じ服を着た者が口から上を斬り飛ばされ血を噴出してるアカイ世界だった。

 

 

切りかかった仲間が殺された。賊の頭にはそれしかない。相手との実力差よりも感情がその全てだった。

 

「オオオォォォオオォォオオオオ!!」

 

仲間の仇を討たんと、賊の一人が雄叫びを上げながら一刀に斬りかかる。

激情を顕わにしたその顔は、無表情に近い一刀の顔に比べて人間らしさが際立って見えた。

上から振り下ろした剣筋。その一撃は白刃に止められ、その刹那、賊の体半分が宙に舞った。

自分達を虎と思っている賊は、仲間を屠った一刀を窮鼠であると疑わない。

後からなら反撃はないと賊の一人が斬りかかる。一刀は振り返ることなく、その刃を見ることもせず刀を振るう。それは一つの動作の中で回避と攻撃が同時に行われ、予め斬撃の軌跡を知っていたかのような動きだった。

 

賊の、人を切るために思いっきり振り切った斬撃は、当たるべきものが無くて空を切る。

体が流れるのを必死で支えようとも止まらない。そのまま体の軸がズレて腰を残してずり落ちた。まだ意識のある頭は自分の下半身がないのを見て絶叫する。

 

「お、俺の!俺のっ!俺の足がぁぁぁぁあああ!!」

 

離れた足を戻そうと、剣を持ってない手を伸ばすが届く前に事切れた。

 

 

それから一刀は賊が集まっているところに向かって、静かに歩を進める。

目に付いた賊や邑人を襲う賊を一太刀で屠りながら。

 

 

そして賊の中心にきた一刀は、押し殺した殺気を解き放つ。

 

 

これまでほとんど、均衡を保っていた戦はこの瞬間に終わりを迎える。

 

 

 

一方的な虐殺によって

 

 

 

一対一だろうが一対多であろうが北郷一刀の戦いは変わらない。

 

一連の動きの中に守勢と攻勢があり、白刃で守り黒刃で攻める。

 

 

 

各々の名が役割を、能力を付加する楔――

 

白刃の刀―陽光壁―は壁。堅固なる壁。攻撃を通さず主を守護する楯。

光が当てられそのまま表される音の呪いは絶対の効果と存在感を宿す。

コウ(亢)――攻撃的守勢という矛盾は四方を護る青龍の逆鱗の象徴。

ヘキ(壁)――亀の甲羅を思わせる亀裂模様は四方を護る玄武の象徴。

 

黒刃の刀―陰影牙―は牙。鋭利な牙。主の困難や危険を切り開く剣。

光が当てられなかった意味の呪いは絶対の能力を秘めその存在を隠す。

影――決意と覚悟を誓う、太陽の対をなす太陰―月―。それを宿したるボウ(昂)は四方を護る白虎を成すもの。

牙――障害を切り裂く、光り輝く牙をもつ天狼。それを宿したるセイ(井)は四方を護る朱雀を成すもの。

 

 

 

――故にその二振りの刀は、折れることは無く切れ味が落ちることも無い。

 

 

 

 

場を支配している殺気に中てられた賊は逃げ出そうとした。だが、戦場は一刀だけが戦っているわけではない。賊が殺された仲間の仇をとろうと一刀に向かって行ったのと同じように、邑人もまた賊に殺された仲間の仇をとる為に疲れた体に鞭打ちながら殺戮を始める。

 

 

追い詰められた賊の何人かは、逃げることが出来ないと判断し一矢報いる為に邑の中に攻め込んだ。

 

 

それに気付いた一刀は周囲を見渡したが、他の邑人は怨嗟で周りが見えておらず、立ち尽くしているか、賊を逃がさないよう戦っている者しかいない。

 

「くっ―――!!」

 

言い表せない不安に駆られた一刀は一人で邑に向かった。

 

 

<side桂花 始>

 

「―――――うそ、つき」

 

血走った賊の目が、邑人に指示を出す私を捉える―――――気持ち悪い

 

賊は、憎悪を込め声にもならない低く汚い叫びを上げながら迫って来る―――気持ち悪い

 

邑人の何人かが賊と対峙しているけど、武のない私から見ても賊のほうに分があるとわかる。

 

「……うそつき」

 

賊は邑人を振り払い、そのまま他の者には眼もくれず走ってくる――――気持ち悪い

 

「お前のせいでっ!!お前のぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

怨嗟に満ちたケモノの声―――――気持ち悪い

 

傷つきながらも、一子報いる為にここまで来る執念―――――気持ち悪い

 

汚れている顔、穢れている手が近づく――――気持ち悪い

 

目の前の存在、目の前まで来てしまったモノ―――――気持ち悪い

 

振り上げた鈍い光、それを持つ賊の下卑た嗤いの貼りついた顔――――気持ち悪い

 

 

振り下ろされたとき――――私は殺される

 

 

 

あいつは……

 

――私を支えると言った、

 

 

あいつは…

 

――お互い生き抜くと言った。

 

 

あいつは

 

――私に誓うって言った!

 

 

あいつはっ!

 

――約束したって言った!!

 

 

 

……それなのに

 

 

 

今―――

 

 

 

―――――私は独りだ

 

 

 

 

 

「なによ……口ばっかりじゃない」

 

 

 

そして鈍い光を放つ凶刃は振り下ろされた―――

 

 

 

「うらんで、やるんだから―――――」

 

 

そういって最期の呪を残して私は目を閉じた。

 

 

 

 

「ぐうぇ」

 

ゴっと鈍い音がして、何かが潰れる様な声がした。

 

誰かが走ってくる足音と乱れた呼吸。

それは、

目を開けて見たそれは、

 

最後に想い描いた

 

――――北郷一刀だった。

 

「はぁ、っっはぁ、はぁ……っはぁ~。無事か?」

「無事か……じゃ、ないっ!!なんなのよっ、あんた!?約束っていったじゃない!誓うって…いったじゃない!!それなのに、それ……な…のにっ」

 

ダメだ……私が私じゃないみたい。言葉が、涙が勝手に出てくる――

 

「ごめ―――」

「ごめん…じゃ…な、い!……本当に、もう……だめ、って」

 

もう支離滅裂よ……自分がわからない。

 

「うん……」

「う、ん……じゃ―――」

「ありがと、な。信じてくれて」

「……」

 

礼を言うな、どうしたらいいかわからなくなるじゃない。

 

 

たぶん今の私は、人に見せられないひどい顔をしている。

急に恥ずかしくなって、つま先をみた。

 

「…文若?」

「―――うるさい」

「ん?」

「うるさい」

「ごめん、聞こえない」

 

そういってあいつは、距離を詰めた。

あと一歩くらいの所まできて私の言葉を待ってる。

 

 

ふと、こいつが戦前に桃色髪の女の子の頭を撫でていたことが頭を過ぎる。

そうしたらまた、鳴りをひそめた苛立ちが湧き上がってきた。

なんだかむしゃくしゃしてきて、こいつに頭をぶつけた。

 

 

――その胸には、急いで来た事が窺い知ることが出来る鼓動の音。

 

私との約束を、誓いを守るために走ってきたことが分かって、自然と頬が上がる。

 

 

 

「えっ!ちょっ、文若さん!?」

 

いきなり慌てだしたこいつの様子がおかしい。

 

「あ~~、うぅぅぅ」

 

手をバタバタして、変な呻き声をだして……

 

「うぅぅ……」

 

結局、手を下ろした――――

 

 

―――って、ちょっと!どういうこと!?なんで私の頭は撫でないのよっ!!

 

 

拒絶されるのが怖くてつま先を見たままだけど……

 

私は、撫でられなかったことが許せなくって、

 

「撫でなさいよ」

 

両手でこいつの手を頭に載せる。

 

後になって絶対後悔するって分かってるのに、私はそんなことを言っていた。

 

 

そしたらあいつは、――見えないけど、きっと――苦笑して

 

「ありがとな」

 

といって、撫で始めた。

 

 

 

勝ち鬨があがる。

 

 

邑人の戦勝を喜ぶ声がする。

 

 

――――――邑は勝ち賊は負けた。

 

 

 

 

でも、今の私にはそんなことどうでもよくって

 

 

想像していた以上にこいつの手が大きくって……

 

硬いてのひらで優しく撫でられて……

 

思った以上にこいつの手があったかくて……

 

 

 

この時、私はこいつの胸の中で笑っていた。

 

 

それは、誰にも言わない、誰にも見せない、私だけの秘密。

 

 

 

あとがき

 

はじめましての方も、5度目の方も、

 

おはようございます。こんにちは。こんばんは。柳眉です。

 

 

どうでしたか、5話目の妄想は……

 

初めての戦場描写なのですが、いかがでしたか?

 

柳眉の妄想を頼りに書いているので、ありえないばっかりです……たぶん。

 

あと、戦いの場面を書いていて思ったのですが、斬撃の擬音はすべきですかね?

 

ズシャーとか、ザシュとか……エトセトラエトセトラ。

 

今回、肉斬った音なんて解らなかったので、料理に使う豚とか牛とか(加工済み)を

 

切ったときに音でないという理由で擬音を無しにしました。

 

 

今回、一刀の得物―陽光壁と陰影牙―を書きました。

 

柳眉の創作です。元ネタは干将・莫耶で、陽と陰を表すとの記述から、光と影を当て

 

守りと攻めを意味する壁と牙という字を入れました。初期は光壁と影牙でした。

 

後付で同音異義の言葉(光―コウ―硬)を見ていたら、亢という字を見つけまして

 

そこから二十八宿に辿り着きました。亢と壁はそれぞれ東方青龍と北方玄武を形作る

 

二十八宿の一つとあったのでそのまま使い、西方白虎と南方朱雀は影―陰―月の連想で昂を

 

牙―狼―天狼の連想で井を当て、それらは白虎と朱雀を形作る二十八宿の一つとあったので

 

使いました……正直、語感で決めたので本来の意味や意図などを完全に無視しています。

 

(某フリー百科事典参照)

 

 

0の日まで投稿は守っていきます。

 

 

 

もし、お読みいただいた方の中で評価していただけるのなら・・・

 

アドバイスをいただけるのなら、嬉しいです

 

 

 

最後になりましたが、ここまで目を通して頂きありがとうございました。

次にまみえるご縁があることを……


 
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