No.1105506

堅城攻略戦 第二章 仙人峠 7

野良さん

「堅城攻略戦」でタグを付けていきますので、今後シリーズの過去作に関してはタグにて辿って下さい。

なんで前哨戦でこんなにページ使ってるんですかね……

2022-10-28 00:26:44 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:213   閲覧ユーザー数:203

「あの連中では、この程度の数集めたとて、式姫には遠く及びもつかぬ……か」

 男の低い呟きが闇を揺らしたのか、眼前の炎が僅かに揺れる。

 知識としては式姫の力はある程度把握していたつもりだったが、これ程とは。

 ここまでは上手く不意を打った上で、大集団で一気に押し込むという有利極まる状況下での交戦であり、正面切って戦う事は無かった為に、実際のそれとしては今日初めてその暴威を知る事となった訳だが。

「噂に違わぬ……いや、それ以上か」

 こちらの手駒が、戦闘にはあまり向かぬ三つ足烏とはいえ、百に届きそうな数をあの高峰に控えさせていた、それが赤子の手をひねるように蹂躙されるとは、流石に想定外。

 その恐るべき彼女らと正面からやり合わねばならぬ時は、何れ必ず来る。 そして、その時はやはりあの堅城を共同で防備に当たっている化け物共の力がどうしても必要となる。

 その意味では、先だって連中が血気に逸り敢行した無用の追撃戦の最中、式姫からの逆撃を受けて、その貴重な戦力を喪った行動は拙い処の話ではない。 全く、あの気位ばかり高い無能……。

 ……いや、いかん。

 軍師の仕事は賢しらに過去を愚痴り、自陣の将帥を謗る事では無い、今を見極め、自軍の有利を引き寄せる事こそが役目。

 現実の戦場を見よ。

 意識を凝らし、偵察隊たる三つ足烏達に植え付けた呪の力に自分の感覚を繋ぐ。

 だが、見えるのは高い空の鮮烈な青さと、妙に平らな面を見せる、鋭く荒涼とした山肌のみ。

 風を切っていく、その速度もまた尋常な物では無い、その場に居ない自分だが、風圧で耳や頬が切れそうな程に体を流れ去っていく風の力を感じる。

 背後に迫る圧倒的な力持つ大天狗……死そのもののような存在から逃れようと、その漆黒の翼を必死に羽ばたかせ、彼の与えた命のままに、黒き一団が山頂を目指す。

 こうして感覚を共有したり、平時に行動を命じるのは可能だが、このような状況下では命令の変更は難しい。

 あの特殊な傀儡の術は、本能的な所に植え付けた命令を変更するには儀式に時間を要す……今回のように命令が解除された時に戻るべき「巣」の指定は、そうそう変えられない。

 そして、その「巣」を守るべくそこに詰めていた筈の、式姫とすら五分以上にやり合える筈の妖は、こやつらを逃がそうとしたのか、それとも功を焦ったか、持ち場を離れて、中腹で式姫の襲撃に掛かってしまった。

 三つ足烏も骸骨兵も、兵力として重要ではあれど、ある程度の補充の利く雑兵に過ぎない。

 その雑兵を使い、式姫を山頂に誘い、更に狭くなった戦場で各個撃破するという、彼の計画は無駄になった。

 こやつら偵察部隊とて、無限に湧いて出る訳では無い。 確かに無駄に消耗して良い存在ではないが、式姫の排除に比べればそれは優先順位が低いと伝えておいた筈、なのにその挙に出たのは、果たしてあの山を預かる者としての矜持だったのか、それとも。

「ふん、儂の……人如きの立てた軍略には従いたくないという事か」

 もしくは、預かっている偵察隊を殲滅されては、他の妖共に侮られるとでも思ったか。

 それは自尊心か、それとも誇りという奴なのか。

「……どやつも、こやつも愚かな」

 何が誇りだ、お気持ちで計画を適当に弄ばれては、軍師の仕事などどうにもならぬ。

 冷徹に、感情など捨てて計画通りに戦ってこそ最終的な勝利に至る……儂が組織した、感情有さぬ骸の兵団が式姫を退けた事実が、それを証明している。

 末端の妖がそこまで考えられないのは仕方ないにしても、この城の防備に関して彼と交わした取り決めを理解し、配下にそれを指示、何なら強制するのが統率者としての仕事であろうに。

 個の力を以て世界に立つ連中は、本当にこういう時は使いづらい。

 個の力……か。

 では、式姫は……奴らの主は、その辺り、どうなのじゃ。

 式姫という力ある存在は、果たして兵として使える程、従順な存在なのであろうか。

 一度敗北した今、奴らの指導者に対する信頼は揺らいでいないか。

 この無茶な再侵攻は、その指導力の低下を怖れた指揮官の無茶な策なのではないか。

 ふと浮かんだ、そんな想念を頭を振って打ち消す。

 一考に値する考えではあるが、今はこの状況を何とかせねばならない。

 さてどうした物か、時間の無い中、思案を始めようとした男の感覚に、何やら我が身を押し包もうとするような力が背後から迫ってきた。

「式姫か!?」

 あの速度で飛翔しながら、更に何やら術を使う余裕まであるというのか。

 ここで、彼の使い魔を焼き払われては、次の手が打てぬ。

 奴さえ山頂に留まってくれておれば、最悪三つ足烏の偵察部隊は全滅してもどうにかなったというに……つくづく余計な事を。

「ええい、させぬ!」

 何とか一羽だけでも良い、山頂に至らねば。

「無明を彷徨う衆生を縛し、光明に導く!」

 おつのの手から五色の光が無数に伸び、彼女の前を行く三つ足烏達に絡み付く。

 その光が絡み付く端から糸となり、漆黒の羽翼を縛る。

 失速し、哀れっぽい鳴き声と共に烏達が落ちていくが、その身が途中で何かに支えられたかのように、宙に留まる。

「殺しはしないから、大人しくしていてよ」

 羂索。

 不動明王の威を示す三種の力、魔を降す剣、一切煩悩を焼き払う三昧の炎、そして、手にした綱、羂索(けんさく)は、仏法を見失い彷徨う衆生を捕縛し、強引にでも正道へと引っ張っていく力と慈悲の顕現。

 明王の力を借り、修験道の開祖が振るう力は、この程度の小妖が抵抗できる代物では無い。

 そして仏の慈悲の表れでもあるこの力は、相手を傷つけるような類の物でも無い、優しく、しかし抵抗できぬように厳重に縛められた烏の群れが、焼き鳥屋の店先よろしく、おつのの手から無数にぶら下がる。

 だが。

「まさか、この術から逃れられるなんてね……」

 おつのが睨む先を、彼女の力から逃れた数羽が、更に速度を上げて山頂に向かう。

 先頭に居た三つ足烏から放たれた術による守りの力が、その付近に居た烏達を守り、彼女の力を一瞬だが阻み、羂索による捕縛を妨げた。

 だが、三つ足烏が我が身を守らんとして何らかの術を使ったのではない事は、術の達者たるおつのには判る。 気の高まりも何も無い所から、いきなり降って湧いたようにあの力は彼女を阻んだのだ。

 やはり、この集団の裏には誰かが居る……この程度の連中とは桁が違う力を振るい、恐らくあの堅城の奥に潜む誰かが。

 おつのの美しく明朗な顔には似つかわしくない皺が眉間に刻まれる。

「なるほど、鞍馬ちゃんの言ってた通りみたいだねー」

(敵が、妖として私たちが知っている行動から外れた動きを見せたら、罠の存在を疑ってくれ)

 そう静かに口にしていた軍師の言葉を思い出す。

「鞍馬ちゃんはああ言ってたけど……罠が有るとしても、目的地の山頂までは行かないとね」

 敵の偵察拠点……そして、この霊峰の力の極まる場所へ。

 おつのは、自らの手から伸びる羂索に軽く念を込めてから手を開いた。

 彼女の白く形良いすんなりした手指から、ふつふつと無数の五色の糸が離れ、宙を漂い出す、だが、それは落下する事も無く、さながら彩雲の如く中空に留まっていた。

「後で君らの事を鞍馬ちゃんにも見て貰いたいから、ちょっとここに大人しくして居てね、逃げようったって無駄だから暴れるとお腹減るだけだよ」

 軽くそう言い置いてから、おつのは若干距離を離されてしまった三つ足烏の一団を追うべく、再び山頂目指しその優美な桜色の翼を羽ばたかせた。

「流石だな、色々と面白い物を見せてくれる」

 そして、彼女らが面白い物を見せてくれたという事は、自分はそれに相応しい答えを見出さねばならぬという事でもある、鞍馬は頭を冷やすかのように、大きく息をついた。

 おつのの力は相変わらず……どころか、元々の優れた力量に加え、ここ最近実戦を重ねて来たせいか、鞍馬の把握していた頃のそれより、動きや判断が研ぎ澄まされている感がある。

 今の三つ足烏への対処もそう、倒す程の相手でも無い事を見切り、かつ、あれらが恐らくは鞍馬が気にしていた「妖らしからぬ動きをする一団」であると判断し、それを生け捕りにする為に羂索による捕縛に切り替えた。

 そして、彼女が生け捕りにした三つ足烏の一団の動き。

 あの、何ら自身の生存に益の無い逃走の仕方や方向こそが、彼らが操られた存在である事の何よりの証明だろう。

 その先に敵の罠が待つのか、それとも単に帰還の命令として指定された場所なのかは置いて、あの程度の小妖は自分の意識を有したまま囮として動く事は無い、おつのの圧倒的な力に晒された時点で、狂乱して逃げ散って居る筈。

「おつの君には、敵が妙な方向への逃走を始めた場合は、罠の存在も考慮するようには伝えてあるが……さて」

 おつの君は山頂を目指した、さて、主君と紅葉御前は。

 そう思いながら鞍馬が巡らした視線の先。

「こちらの決着もそろそろ付きそうか」

 岩壁に張り付く美女から、鋭く舌が伸びる。

 しなやかで強靭な鞭であり、叩き付けて来る力は棍棒のそれ、そして妖力によって強化された先端は、時に鋭い穂先となって敵を貫く槍ともなる、彼女の意のままに自在に動く恐るべき筋肉の塊。

 自身の心臓に向かって放たれたそれを、紅葉御前は手甲が鎧う左腕で払いのけようとする。

 だが、払おうとしたその腕に舌が本来の柔軟さを示し、絡み付く。

「あたしをハエか何かみたいに捕えて呑み込もうってのかい、ガマガエル!」

 あたしと力比べとは……舐めてくれるね。

 一方の蝦蟇は、流石に舌を伸ばしていては軽口も叩けない、だが、紅葉御前のその言葉をあざ笑うように頬を歪めて、その舌を引き戻し始めた。

 筋肉の束を綱にしたような代物に引かれ、紅葉御前は手足に力を込めて踏みとどまる。

 本来の彼我の力であれば、純粋なそれは紅葉御前の方にやはり分が有る、だが、彼女の力を十全に込めるだけの足場がそこには無い、狭く劣悪な足場に、さしも剛力を誇る彼女が踏ん張りきれずその身をガマの方に僅かに引かれる。

 さらに、彼女の左腕もまた、凄まじい力に締めあげられ、手甲が軋み、ひしゃげ始めたそれが腕に食い込もうとするのを、鍛えられた筋肉で防ぐ。

 紅葉の右腕は斧を握ったまま、これも添えて引けば奴との力比べには勝てるかもしれないが、その隙に敵の援軍でも来られた日には反撃もままならなくなる……奴の狙いがそこにある可能性も考えると、それは避けたい。

 力が均衡する……だが、お互いこれでは打つ手なし。

 その様を上から見おろしていた目が、その必死な様を愉しむように、にちゃりとつり上がったと見るや、その着物のあちこちがグネグネと蠢き始めた。

 何だ、と紅葉御前がいぶかしく思うより先に、その答えが彼女の着物の中からべたべたと這い出して来た。

「……蛙?」

 その正体を見定めた紅葉の眉が怪訝そうにしかめられる。

 山中の気を喰らって巨大化し、果てに妖となりし蝦蟇は、時に無数の小ガマを従え山に君臨する王となるとは聞いた事はあったが……こいつがそれか。

 だが、先程の三つ足烏にも及ばぬ程度の小妖では、簡単な使い走りなら兎も角、身動きの制限があるとはいえ、紅葉御前に対しては牽制にもならぬ……その程度は理解できる相手だろうに。

 彼女の服の中から這い出した小ガマの群れが、岩壁にへばりつき、ペタペタと動き始める。

「おいおい、こんな小物であたしが倒せるとでも思ってんのかい?子分か倅か知らねぇけど、無駄に潰れ蛙増やすだけだぜ」

 紅葉には取り合う気も無いのか、蝦蟇の目が冷やりとした色を湛えた次の瞬間、小ガマは一斉に岩壁を跳ね、紅葉に襲い掛かった。

「あたしの斧は小物相手にゃ向いてねぇんだけどねっ!」

 先だって三つ足烏の一群を一撃で打ち拉いだ剛撃が巻き起こした一撃、そしてそれが巻き起こす風にあおられ、小ガマ達は、ある者は岩壁に叩き付けられ、ある者はその体が引き裂かれ、砕け散る。

「ほれ見ろ、無駄だつったろうが!」

 だが、その紅葉の言葉を聞いた美しい顔がにたりと笑い、舌に更なる力を籠めた。

「ち、そんなにあたしと綱引きがしてぇのかよ」

 それに対抗しようと紅葉が足を踏みしめる……その足が大地を捉えきれず、滑った。

「油っ?!」

 蝦蟇の油……普通の蛙ならば、そもそもそんな油などありもしないが、人の恐怖や伝承の記憶を食らい妖となりしそれは、人口に膾炙した治癒効果と、刃をぬめり逸らす程の、妖気に満ちた油を身に纏う。

 その群れの大半を囮としつつ、彼女の立つ場所に辿りついた小ガマ数匹が、その身から湧出させ、大地を濡らした液体が紅葉の足の裏にも沁み込んでいた。

 それが、常の油ではあり得ぬ程の力で紅葉の足裏を浸し、大地を踏みしめる力を奪った。

 足が浮く、もう足裏で踏ん張る事は出来ない、咄嗟にそう判断し、紅葉はその場に膝を付いた。

 剥き出しの膝が岩場に擦れ、血が流れる、だが紅葉は足全体を使い、何とかその場に踏みとどまり、更に左手に力を込めて蝦蟇の舌を強く握った。

(えェ、しぶとイワェ)

 このまま、崖下にでも放り出してやろうと思うたに。

 だが、状況は明らかにこちらに有利となった、流れた血を見れば、膝に負わせた怪我は擦り傷では済むまい、ただでさえ悪い足場で、あの足では、彼女の攻撃をいなすなどもはや不可能。

 そう思い、紅葉御前の左腕に巻き付けていた舌を引き戻そうとした蝦蟇に向けて、何かが唸りを上げて飛来した。

「?!」

 だが、それは彼女が躱そうとするより先に、少し手前の岩壁に轟音を上げて衝突し、辺りに砂礫を撒き散らした。

 それが何かを見定めた蝦蟇の背に、久しく感じなかった寒気が走る。

 紅葉御前が右手にしていた大戦斧、その刃の大半が岩壁にめり込んだ姿がそこに有った。

(最後の抵抗にト、得物を投げつけよったカァ)

 だが、それも無駄に終わった、下方から上方を狙うのは極めて難しい、故に敵の反撃の精度と威力を削ぐ上方を得るのは、武技の基本中の基本。

 必勝の位置取りをした上で勝負を仕掛けた、自分の判断の勝利。

 式姫に勝った、その思いに美しいと言っていい相貌が、にちゃりと下卑た喜悦に歪む。

 座り込んだまま、上半身だけの力で投げつけたとは思えぬ剛撃は誉めてやろうが、所詮は敗者の悪あがきに過ぎない。

 後は、彼女の舌で殴り殺されるか刺し殺されるか、全て彼女の思いのまま。

 紅葉御前が蝦蟇の舌を握った手を離さないのは、恐らくそれを察しているからだろうが、たとえこのまま力比べをしようとも、相手は脚の踏ん張りが利かない以上、最後には自分が勝つ。

(さて、どう料理してやろうかネェ)

■紅葉御前

今回絶体絶命の紅葉の姐御、原作屈指のパワー系キャラなので、戦闘シーンは豪快に行きたい所なのですが、イマイチ筆力が追いつきません。


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