No.1104270

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第045話

どうも皆さまこんにち"は"。
最近風邪でぶっ倒れていたザイガスです。

どうも私は扁桃腺が弱いみたいで、今回は喉痛くないから大丈夫と思っていればまさかの風邪。
扁桃腺も若干腫れてグロッキーでした。

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2022-10-10 20:59:43 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:708   閲覧ユーザー数:653

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第045話「教育者」

 呂北邸にて袁紹一行を接待歓迎していたが、文醜の一言により場が凍り付いてしまった。

一刀の握力により割れた徳利で彼の手の平から血が滴り、その尋常ならぬ様子を見つめる袁紹に、空気の凍り付きを察した顔良。袁紹は動けずに、顔良は何かを察したのか、腰にさしている短刀をいつでも抜き取れるように臨戦態勢に入る。

その予感は確かな物であり、一刀は怒りにて既に沸点の限界まで来ており、いつ抜刀してもおかしくない状態であった。

部屋に飾ってある武器にて何時でも文醜の首を落としかねない。一刀のことを知っている夢音(むおん)は、自身に浴びせられた言葉より、何時一刀の怒りが爆発するかと考えているかの方に戦々恐々していた。

そんなことも分からずにいた文醜は暢気に酒に酔って笑っており、部下を侮辱されたと思った一刀が動こうとしたその時――

「いやぁ姉ちゃん、あたいは嬉しいんだ。あたいも同じ”穢れた血”ってやつだから」

その一言で一刀の僅かに動いた動作が止まり、文醜は続けて言葉を紡ぐ。

「父ちゃんか母ちゃんのどっちかが、元々何処かの遊牧民だったらしくてな。少なくても漢民族ではないらしいんだ。だから出自も分からないし、小さい頃の記憶もいつの間にか斗詩の母ちゃんに預けられて、斗詩と一緒に馬の世話をする日々だったな。

馬を乗りこなして賊を追い返している時に姫に目をかけられてな。

当時袁家の兵にもよく陰口を叩かれたものだぜ。でもその度に姫があたい達を守ってくれてな」

酌である盃をまわしながら顔を赤らめて語る文醜は、何処か昔を懐かしむ様にかつてのことを思い出していた。

そうして文醜は夢音に肩を組んで彼女に絡んでくる。

「だから姉ちゃんの様な奴はなんか他人の様に思えなくてな。でもあたいは体に流れているものを”穢れている”なんて思ったことは無いぜ。そりゃムカついたことも色々あったし、今でも自分のことしか考えない貴族には反吐が出るけど、一生の友達(だち)兼嫁や、姫の様な心が”本物の”貴族にも会えたしな」

文醜の言葉に顔良は照れ、袁紹は当たり前とばかりに胸を張る。場の空気が施されたのを察したのか、拳が緩んだことを察した音々音が一刀の手にそっと手ぬぐいで止血をする。

誰もが夢音と文醜に注目している時に音々音が見た一刀の顔は、彼女がたまに見ることが出来る彼の顔だった。

刀兄(とうけい)ぃぃいいぃぃぃっ‼」

(やかま)しい程の走り音が廊下に響き渡り、横引きの紙戸が両開きにて勢いよく開かれると、文醜達と似た黄服で腰元を止める布は橙色(だいだいろ)であり、緑縁眼鏡をかけ、頭は前頭部中心にネックレスの様な髪留め。白く長い美しい髪を二つのお団子でまとめその上より黒のカバーと赤いリボン。

下は下着の上から黒タイツを履いておりそれだけ。

体躯が一般女性より少し小さいが、女性を証明する乳房は一般より少し大きめ。

上の服が少し大きめなのか、股下まではギリギリ見えなくもないが、もう少し身長があれば黒タイツが完全に見える姿になるが、本人は気にしてい無さそうだ。

「あら真直(まぁち)さん、いらっしゃいましたのね」

勢い入ってきた人物は、袁紹軍軍師である田豊であった。彼女の師・沮授と一刀の師・楊奉との縁であり、先輩である一刀がよく彼女を論争にてコテンパンに看破しており、田豊自身は彼女なりに、敬意を持って「刀兄」と呼んでいた。

しかし互いの師の下で学んだとはいえ、一刀は他国の領主であることに変わりは無く、田豊も一刀のことは警戒していた。

「一体麗羽様を連れて何をしようというのですか!?」

田豊は一刀の下に構いなく歩んでいく。自身の主が最も警戒すべき者にやられていないか心配でならなかった。

ようやく軍の駐屯場所の確保が出来たと思いきや、総大将である袁紹は何処かに行ってしまったと聞きつけ、それがよりにもよって呂北であったのだ。

彼女自身彼の恐さも知っているので、眼球を血走らせながら呂北の肩を掴んで振り返らせると、その姿は何を考えているか分からない謀将の姿ではなく、学び舎の中で自身を導いてくれた兄弟子の姿であった。

そんな一刀の姿に唖然として――。

「よし皆さん、役者は揃いました。袁紹殿も今宵は飲んで騒いで日頃の鬱憤を発散して下され~♪」

田豊......真直を羽交い絞めにしながら盃を高らかに掲げる一刀は、再び宴会の音頭を撮り直し、今までの畏まった将の雰囲気から、砕けた一人の男性に変貌した一刀に袁紹は戸惑ったものの、宴席で騒がないのは問屋が卸さないとのことで、彼女や顔良もその雰囲気を楽しむことにした。

 

 やがて皆が宴席で酔い潰れて、袁紹らは愛華(メイファ)らに背負わされてそのまま客室用の寝室に連行されていく。

部屋には一刀と田豊こと真直が対面(サシ)で飲み合い、音々音は一刀の傍に付きながら二人の酒を注いでいるところだ。

「いや…ふひひ…真直、おまえまた胸がでかく――」

「なに普通に触ろうとしているんだ。この変態‼」

近づいてきて彼女の胸を鷲掴もうとするが、華麗にかわされて頬に一発喰らわされる。

背に転がる様に倒れ込む一刀を、音々音がすかさず支える。

「おいおい何を恥ずかしがっている?一緒に同じ枕で寝た仲じゃないか?俺の下で初めてを散らしてくれたあの鮮血、今でも鮮明に覚えている。その後のお前の恥ずかしそうな表情と来たら――」

「このクソ兄弟子は一体何を言っている‼?あれはあんたが楊奉爺様に吹っ飛ばされて色々な場所を切っただけだろう‼そしてそれを私が治療した。私は看病で疲れて寝落ちした。それだろうが⁉」

「本当にそれだけか?俺と過ごした夜の数々は本当にそれだけか?」

何か含むような言い方で、下卑た様に笑う一刀に対し、顔を赤くした真直が勢いよく立ち上がり彼に殴り掛かろうとしてそれを音々音が止めに入る。

「おぉ?兄弟子よ?遺言の言葉はそれでいいのか?とりあえずその顔面に一発拳を入れさせろ」

「ちょ、おやめください田豊様。一刀様、一刀様も笑っておらずに煽る行為をおやめ下さい」

初対面である筈の二人が一刀の流れで振り回され、彼は彼女らに対し笑っているだけであった。

 

 「さて、存分に笑わせて貰ったから、後は普通に語り合うか」

「わ!?、ちょっ......ちぃ」

真直は不機嫌そうに再び席について、注がれた酒を一気に煽る。

「......良い主君を見つけたな」

一刀は空になる真直の盃に自ら酒を注いで、彼女も顔を膨れさせながらもその酒を受け取る。

「何処がですか?勝手に貯蓄した予算を使うし。戦では私のたてた策を無視して突撃するし。建前ばかり気にして派手なことしか目は向かないし――」

徐々に下を向いて小言が増えていく真直だが、そんな彼女を一刀は満足そうに一つ笑い言葉を続ける。

「そうか。楽しそうで何よりだ」

「刀兄、私の話聞いていましたか?」

「仕え概があって毎日楽しいって言う話だろう?」

「それは......まぁ、否定はしませんが――」

また真直は頬を赤らめて酒を煽る。

「そういえば真直、土産ありがとうな。なかなか美味かったぞ」

「……?なんの話です?」

「お前俺の周辺に草を放っただろう?中々美味かったぞ」

彼は隠し事するわけでもなく真直にありのままの事を伝える。

以前田豊は呂北の周辺を探る為に草を放った。

とても優秀な草で、彼女が選別に選別を重ねて放った優秀な草であり、扶風の機密文書から呂北の裏の秘密まで。あらゆることを探らせることを想定した隠密である。

彼が「上手かった」と発言するからには、呂北の近くまで潜入できても既に始末されたのかと思わせるような発言に、田豊は酒の酔いも忘れるが――。

「あの締まった肉体と、張った乳房。しかも処女(おぼこ)としての恥じらい。全てが完璧で今でも思い出す」

「あぁそうだよ。あんたはそういう人だよ‼」

お膳に料理があることも忘れて彼女は両手を膳の空間に叩きつける。

二人の話す草とは、以前歩闇暗(ふぁんあん)の統括する隠密部隊『闇蜘蛛』に密偵が紛れ込んでいたのだが、歩闇暗こと曹性に他国からの密偵であることがバレて結局呂北の手によって『生娘(はつもの)喰い』が実行されて、一刀により体の隅から隅まで喰われたのだ。

「未だに劉何(りゅうか)からの報告がないからまさかと思ったが――」

「安心しろ。夕夢香(ゆめか)は今でもうちで健康的に過ごしているさ」

「しかも真名まで許しちゃってるし......」

膝から崩れ落ちそうになっている真直とまたそれを笑い飛ばす一刀。黙って見ていた音々音であったが、彼らが何故この様に笑いあっているかが不思議でならなかった。

まず田豊は主である呂北より情報を盗み取ろうと画策した。それ以上に隠密を侵入させるという、一つ間違えば主の命も危険に侵されかねないその様な行為をされて、笑っている主。そんな田豊を呂北は攻めるより逆に詰めが甘かったことを指摘してもいる。

かつて共に学んだ中だとはいえ、本来であれば互いに警戒すべき相手の筈。経験の浅い陳宮でも判るぐらい、彼らは互いに腹の探り合いなどしている様にも見えない。

目の前の二人の奇妙な関係に関して、陳宮は心の中で首を傾げていた。

「それより刀兄、この子は?」

「あぁ、ウチの愛する女房の弟子であり、愛き妹の軍師・陳宮だ。汚い大人達の謀略と、腹の探り合いの経験を積ませる為に連れて来た」

「陳公台です。よろしくお願いします」

音々音の紹介の際、白華(パイファ)の話題が一瞬出た瞬間、真直は少し面白くなさそうな顔をするが、気を取り直し音々音の方を見る。

「ふーん。刀兄の側近にしては随分まともそうじゃない」

「なんだ?妬いているのか?結婚した俺に妬いているのか?今夜抱いてやろうか?」

「煩い。いちいち絡んでくるな。胸を(まさぐ)って来るな‼」

今度は本当に胸を掴んだ一刀に対して、彼の顎に自信の拳を喰らわせてノックアウトさせる。

「もういい。寝る」

そう言って席を立ちあがり、彼女はそのまま宴席を出ようとする。

「そういえば真直、沮授の爺様は今どうしている?」

体を大の字にして寝転がる一刀は、おもむろにそう質問を投げかけていた。

「......亡くなったよ。つい先日――」

「......そうか――」

一刀は大の字で寝転がり何かに耽りながら天井を見つめ、音々音はただ静かに控えていた。

 

 「......失敗だな」

僅かな時間であったが無表情で天井を見上げていた一刀は、おもむろに言葉を呟きだす。

「何が失敗したのです?」

音々音が大の字で寝転がる一刀を上から覗き込むように顔を差し込む。

そんな音々音に対し、一刀は頭を撫でながら語り掛ける。

「袁紹の力量を()け違えた。アレはただの名門を鼻にかけた凡貴族で終わる器ではない」

音々音の頭部から手を放し、一刀は起き上がり彼女に向き直る。

「あの者は馬鹿ではあるが、愚か者ではない。馬鹿という物はただ知恵と経験が足りていないだけで、その二つを補うことが出来れば直すことは出来る。しかし愚か者は性根が腐った物だ。腐った部分を切り落とさない限りドンドン体は腐り果てる。実際に彼女をこの目で見て分かったが、あの者も変化する大器を備えている。

水を注いでいき、割れて洩れようが、周りが粘土で固める。要は周りの支えがあれば何処までも大きくなる器を持っている」

「未だ若輩の身で良くはわかりませんが、その様な優れた大器を持った人物と巡り合えたことの何処が失敗なのでしょうか?孫子でも『彼を知り己を知れば百戦殆からず』と言うように、袁紹殿を知れたことは失敗なのですか?」

「彼女を知る事に関して失敗ではない。問題は知った順番だ」

一刀の言葉に疑問を持ちつつ、音々音は「知る順番?」っとオウム返しする。

「......今から話すことは策を間違えた俺に対する罰だ。これは絶対に誰にも言うなよ」

顔を寸前まで近づけた一刀の威圧にて、音々音は一つ唾を飲み込む。

「ウチの軍の将兵はな、才能塊の様な人材が豊富なんだ」

何を言われるかと思いきや、一刀は素直に自らの部下を褒めだした。

「客観的に見ても、未だ人材不足は否めないが俺の部下達は状況判断も適格で、武も優れ、知を貪欲に取り込み、また足りないものがあれば、互いに補おうとする心がけも出来ている。無論俺もそう出来るように人員を割り振っているし、役割をこなすことの出来る人物を雇用している。しかし俺にも間違いはある。配置を間違えることもあれば、優秀な人材の放出。っと、失敗をあげてもキリ無いが、それでも近従であるお前たちに関しては、実に大きな成果を出し続けてくれている。重ねて言うが、客観的に見ても、お前たちは何処の勢力の人材よりも優れていると思っている。あの三羽烏にしても、今の力量であれば都尉の任ぐらいは十分こなすことが出来るだろうな」

本心なのか策なのかは分からない一刀の称賛であったが、音々音はそれを聞き素直に嬉しく思った。

普段は白華の下で学んでおり、それ以外の時は恋に付きっ切りで一刀とはそれ程接点はなく、一刀に関しても人を褒めることといった話を聞いたことも無い。

従軍経験が恋と共に向かった賊の盗伐しかない音々音は、随行させてもらったことも光栄であった。

接点が無いからこそ一刀からその様な評価を貰っていたことは嬉しかった。

「まわりの優秀さを見ているからこそ、音々音、お前には世の中には多くの愚か者がいることを知って欲しかった。知恵者の考えを先回りするだけでは駄目だ。愚者の考えも理解できないことには、あらゆる分野に対応が出来なくなるぞ」

「………」

音々音は一刀の言う意味の全てを理解できなかった。

知恵者の思考を理解することは十分納得できる。戦場の駒の動きを相手より一手一足多く読み、その対策を行なえばこそ失敗はなくなる。

だが愚者の思考とは。

そもそも愚者は思考を巡らせることを行なうのか。何故そんな愚者の思考を理解せねばならぬのか。彼女には未だ理解が出来ずにいた。

「......わからないか?いいさ。だが一歩ずつでいい。あらゆることを学んで盗んで、そして恋の為にその命を使ってくれ。これは主君としてではなく、俺個人としての願いだ」

音々音は自らを拾ってくれた恋の事を家族以上に敬愛しており、紆余曲折はあったものの、恋が敬愛している一刀のことも恋と同じように敬愛している。

彼のその瞳の優しさは、存在はしなかったものの、あたかも兄の様な暖かさを感じていた。

 


 
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