No.1101011

新・恋姫無双 ~呉戦乱記~ 第24話

4BA-ZN6 kaiさん

ゲームまでに間に合いましたか?(小声)

さぁいよいよフィナーレに差し掛かります。
次回でこの外史を完結させていけたらいいなと思っています。

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2022-08-26 17:48:23 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:1310   閲覧ユーザー数:1151

 

孫昭はというと雪蓮が寿春に来る少し前に、北面方面軍第二突撃隊に赴任し、部隊司令である呂布とその側近である陳宮と初対面の挨拶を済ませる。

 

孫昭は恋と陳宮に対し背筋を伸ばすと敬礼をし、ハキハキとした声で赴任を報告する。

 

「お前が新しく赴任するという孫昭なのですね」

 

「は!本日よりこの舞台に配属が決まった孫昭であります!!」

 

「ん・・・・よろしく・・・・」

 

恋が眠そうな表情で目をこすりながら孫昭に挨拶をすると、握手を交わす。

 

「ぐっ?!よ、よろしくお願いします・・・」

 

恋に掴まれた指が僅かにメキッっと悲鳴を上げ、孫昭の顔がわずかに歪む。

 

(なんて力だ・・・・。まるで女性とは思えんぞ・・・・)

 

「音々音は陳宮です。これからはお前の上官としてコキ使ってやるのです。覚悟するのです!」

 

やけに尊大な態度でふんぞり返る陳宮に、恋は後ろからビシッとチョップを加えるとぎゃうっと変な声を上げる陳宮。

 

「音々音・・・・お行儀・・・・悪い」

 

「恋殿ぉ・・・・・・」

 

よほど痛かったのか半泣きで恋に抗議の表情を浮かべるも、恋の隣にいた大型犬がワン!と鳴くと孫昭へと擦り寄る。

 

「呂布殿・・・・・この・・・・・・」

 

「この犬はセキト・・・・・。恋の家族」

 

「はぁ・・・・・」

 

「む?セキトが気を許すとは・・・・ぐぬぬ・・・どうやら態度を改めなければならないようです・・・・」

 

これが彼と飛将軍呂布との最初の出会いであった。上級尉官の孫昭は連隊長として部下たちと訓練に明け暮れるなか、恋は犬やほかの動物の飼育に専ら忙しく部隊の運営はほぼ陳宮が行っていた。

 

陳宮も月日を重ね、今では見習い軍師ではなく第二突撃隊を運営する優秀な軍師へと成長をしており、彼女は北面方面軍で一目置かれるような存在でもあった。

 

「む!孫昭!!!」

 

「陳宮 佐官、なんでしょうか?」

 

「書簡が多すぎて運べないのです!お前も手伝うのです」

 

「は、はぁ・・・・」

 

陳宮は孫昭を度々呼んではまるで使い魔のようにこき使うが、孫昭としては何故か彼女の尊大な態度が癪にさわるという事はなく、それはほかの連隊長も同じようであった。

 

まぁ不快な絡みというのはなく、ただ単にそう言った性格だからというだけであり、理不尽なシゴキや懲罰などはなかったし、彼としても陳宮の助手として仕えていることは実は結構嬉しかったりしたというのもあった。

 

恋は犬の訓練にもっぱら時間を割いており、演習に顔を出すということは滅多になかったが、月に一度は陳宮と二人で査察を行っているようでもあった。

 

だが査察であっても陳宮が熱心にメモをとり戦略などを練り直している傍ら、眠そうにぼーっとしていることが多い。

 

(つかみどころのない方だなぁ・・・・・。本当に飛将軍と呼ばれる人なのか?)

 

疑問に思いほかの連隊長とも話をふってみると、

 

「ああ、戦闘がないときはああやってボーっとしてるんだがな・・・・。いざ戦闘となればまさに鬼神だぞ」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「うん、先の荊州攻略戦でもたった一人で魏の軍団を吹き飛ばし、孫策佐官とふたりで基地を壊滅させたということは枚挙にいとまもないからな」

 

「それはすごいですね・・・・」

 

「つくづつ敵でなくてよかったと俺たちは思っているよ。それに・・・・・」

 

「それに・・・・・?」

 

「あのボーッとしている姿がほのぼのとしていてなぁ・・・・。飯食ってる時なんてそりゃもう・・・・」

 

連隊長の男が言うと、ほかの隊長達もほんわかとした表情でうんうんと唸る。

 

「そ、そうですか・・・・」

 

連隊長たちの180度態度の変貌っぷりにずっこけた孫昭は苦笑する。

 

だがそうして連隊長として、部隊の運営に力を入れていた彼であったが、そんな彼の耳にある情報が届く。

 

「孫策佐官が北面方面軍に赴任?」

 

「そうらしいな。どうやら北方に干渉するための軍派遣をするべく、演習を重ねたいそうだ。その演習時の講師として孫策佐官に白羽の矢が立った・・・・らしい」

 

同僚の連隊長から噂を聞き、彼も思わず胸が跳ねる。

 

当分会えないなと思っていた中で、こうして早い再開ができるのだ。彼としても個人的にそれは吉報でもあった。

 

 

それから二週間ほどが経ち、噂のとおり北面方面軍に雪蓮の姿が頻繁に見られるようになったという知らせを聞き、陳宮からも呼び出しを受けた。

 

「北方での軍事演習と干渉を実施するにあたり、軍事講師が来たのです」

 

「私が15部隊司令の孫策よ。貴殿の件は陳宮から聞いているわ。よろしくね」

 

陳宮にさぁと促され、雪蓮は感情の伴わない表情と無機質な声色で自己紹介を済ます。

 

孫昭も彼女の立場が理解できるからこそ、公私混同をしない彼女に特に思うことはなく、いち上官として彼も深く頭を下げる。

 

「孫昭であります。ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」

 

「雪蓮には、この部隊の指導を当分行ってくれるのです。お前もこれを機に技能向上に努めるのです」

 

「分かりました」

 

「下がって良いのです」

 

陳宮が下がるように言うと孫昭は敬礼を返し、回れ右をして部屋をあとにした。

 

孫昭は彼女から講師をしてもらえる事に内心嬉しさと、期待に胸を膨らませる中、雪蓮は厳しい表情のまま陳宮と話をする。

 

「で?本当の目的はなんなのです?」

 

「あら?もしかしてバレてる?」

 

「お前が来るということは、軍令部から密命を帯びているという事はバカでも分かることなのです」

 

「流石ね。でも・・・・詳細は今は言えないわ」

 

「私でもっても知る資格のない機密、ということなのですか?」

 

「ええ。・・・すまないわね」

 

「別に気にしてはいないのです。ただ表向きで来ている目的のほうも無事に遂行するのです」

 

「分かってるわ。ビシビシやっていくつもりよ」

 

笑顔で私はそう答えると、ならいいのです。と音々音は頷き仕事に戻った。

 

私は取り敢えずは北面方面軍の軍事講師として、当面の任務を果たす事に努めた。

 

亞莎も協力をしてくれようで、各部隊での練度向上を行うべく、日程ごとに調整を行い私の監督のもと訓練が行われた。

 

昼は訓練に勤しむなか、亞莎は私を呼び出し北方の軍事干渉の話を進めるべきだろうと声をかけた。

 

「私もそれには賛成ね」

 

「ありがとうございます。攻撃場所は豫州と司隷とします。雪蓮様は明命さんと連携を取り、豫州と司隷に潜伏する工作員を使い、黄巾党の残党がいるという嘘を広めていただきたいのです」

 

「分かったわ。北方の派遣戦力はどうするのかしら?」

 

「実戦経験のない予備兵力を5割用いる予定です。新兵の実戦投入も考えていきたいので・・・・」

 

「・・・・・・そう」

 

「雪蓮様はどうします?」

 

「私も干渉軍の司令として指揮を取りたいと思うわ。装備は・・・・・黄巾党のフリを?」

 

「はい。まず手始めに国境付近の前線基地を強襲し、噂を広め、曹操に操られた張角を救う、とデマを流してみようと思います」

 

「デマが広がれば、張本人が表に出て来るってことね。広がり続ければ、連中は懐柔策を用いることはできなくなるでしょうしね」

 

「ええ、成功するかは分かりませんが、やってみる価値はあるかと。断続的に攻撃を加え、その度にデマを流してみるつもりです。そうすれば魏の国内の世論も変わってくると思われます」

 

「連中が尻尾を出してきたときは?」

 

「連中を発見できたら、取り敢えずは軍令部の指示を仰いでみようかと」

 

現時点では張角の根城と噂の真偽性を確かめる事が当面の目標だ。

 

私としてもここは暗殺でもと思ったが、今下手に殺して英雄・神格化されることはそれこそ奴らの思う壺であろう。

 

敵の根城をまず押さえて、泳がせておけば、連中の勧誘行動を妨害することが出来るし、そうなれば国内不安も著しいものとなるかもしれない。

 

嘘もつき続ければ真実になる、という事ではないが張角たちの勧誘・慰安活動に支障が出ることは避けられないであろうし、そうなれば有事の際の徴兵にも反発が生まれてくるであろうからだ。

 

亞莎の考えを聞き、彼女も恐らく私と同じ考えであろうと私は察するとニコリと笑顔を投げかけ肯定をする。

 

「そのほうがいいわ。今は情報を収集して連合国軍で共有ができるようにすべきね。そうなれば妨害行動は活発になるし、敵の士気を大きく落とすことになるからね」

 

「おっしゃる通りです。北方干渉も程度を計らい、機を見たら撤退をする考えです。深入りはしないようお願いします」

 

「承知したわ」

 

亞莎との話し合いを済ませたあと直ぐ様、北方干渉の命令が下される。

 

装備は山賊討伐から徴収した装備一式と、黄巾党の象徴である黄色の布。

 

さらに呉軍では使われなくなった我們旗もわざわざ作り、黄巾党の残党であることをこれでもかと見せつける狙いもあった。

 

数は500人。半数が部隊配属がされてまだ間もない新兵が大半であり、その動きを雪蓮が統率することとなる。

 

そのなかに孫昭も入ってはいたが、私は派兵名簿に彼の名前が入っていることを一瞥はしたが、感情を無視し部隊を配属させていく。

 

そうして決起当日、私は連隊長たちを前に激励の言葉をかけて欲しいと亞莎に言われ、北方干渉本部に集まる連隊長たちの前に立つ。

 

「孫策隊長に敬礼!!」

 

私が天幕に入るとざっと音を立て、皆が一斉にこちらを向き、敬礼をする。その中に孫昭の姿も見られた。

 

彼を見て胸騒ぎを抑えながらも、無言で私は皆を見て敬礼をすると、休めと声をかける。

 

「今回の作戦はあくまでの敵基地の強襲と錯乱が目的である。お前たちに黄巾党の格好をさせているのは我々の仕業だと特定されないためである。あくまで敵基地の襲撃に限定をし、街への侵略行為は禁止とする。諸君たちの奮闘に期待する」

 

手短に私は言うと、連隊長たちは顔をわずかに紅葉させ静かに敬礼を再度行った。

 

彼らの表情を見れば士気は旺盛であり、私もそれがわかると満足そうに頷くのであった。

 

 

・・・・夢を見ていた。

 

ひとりの男が二人の女性と楽しそうに過ごしている・・・・。酒を飲み交わし、未来を語り・・・・・。

 

俺は男の視点の中にいるようであり、不思議な夢を見るもんだと思いながらも男を観察する。

 

その男は強靭な強い意思を感じられ、特に今目の前にいる二人の女性に対し、思うところがあるようである。

 

だがその女たちは・・・・肝心な顔の部分に遮光がかけられどんな顔をしているのかが伺えない。

 

だがどこかで聞いたことのある声だ・・・。どこかで・・・・・。

 

『おまえはだれだ?』

 

俺はその男に声をかけると、声が聞こえてきた。

 

『君の体を借りている者だ。今見ている夢も・・・俺が生きていた時に過ごした過去・・・・』

 

時が止まったかのように灰色になり、顔の見えない男がこちらを向く。

 

『あんた・・・・・死んだのか?』

 

『残念ながら・・・・ね』

 

『もしかして・・・・お前が北郷なのか?』

 

『・・・・・・・・・・・』

 

男の表情は見えなかったが、幾分かの逡巡が見えた事からも、俺は彼が北郷本人であることを悟った。

 

『否定はしないんだな。コソコソとしてないで、雪蓮や冥琳の前にどうして出てこないんだ!どれだけあの二人が・・・・』

 

俺は怒りをぶつける形で、男に強い口調で糾弾するも、男は肩をすくませて、沈んだ口調で説明をする。

 

その声色は忸怩たる思いが滲んでおり、彼も今の状況が本望でないことが伺えた。

 

『・・・身体を失っては、どうしようもないさ。だからこそ君の力を借りたいんだ』

 

『・・・・・ふん。それであの二人が救われるんだな?』

 

『ああ、約束する。そのために今もこうしてこの外史に留まっているのだからね』

 

外史?聞いたこともない言葉が出てきたが、きっとこの男は真相を話すことはないだろうな。と諦めるとため息をはくと彼の提案を受諾する。

 

『・・・・・・・分かった。協力する』

 

『感謝するよ。だが少々荒っぽくなるかもしれないが、怒らないでくれよ?』

 

『安心しな。お前よりは頑丈にできているよ』

 

『強烈な皮肉だな・・・・。まぁいいさ、とにかく時が来たらまた呼ぶ。その時はよろしくな』

 

男が苦笑しているのであろう事は口調で分かる。

 

自分があっさりと死んだことを、俺に指摘され、冷や汗をかいているのだろう。

 

『・・・・・ふん』

 

俺は差し出された彼の手をガッシリと掴むと、強烈な光が俺を包み込み、意識を手放してしまった。

 

「・・・・・ちょ・・・・たい・・・・・!」

 

どこかで声が聞こえる。

 

その声に意識が引っ張られるかのように現実に引き戻される。目の前に部下が覗き込むようにこちらを伺っている。

 

「隊長!おはようございます」

 

「ああ・・・・・。時間か」

 

「はい。一同は既に集まっています」

 

「そうか。すまないな」

 

遅刻したな、と俺はバツが悪そうに苦笑すると部下の男は大丈夫ですよと声をかける。

 

「陣地確保に隊長が動いてくれたおかげで、我々も十分に休みをとることができました」

 

「そう思ってくれたのなら俺としても救われたな」

 

俺は魁として、偵察を兼ねて陣地確保に力を入れていた。徹夜で陣営を整え、ようやく束の間の休息をとっていた。

 

といっても1刻もない僅かな時間であったが・・・・。

 

今現在、豫州での攻撃部隊隊長として、この地にいる。

 

目標はここから2~3里ほどある敵基地の攻撃、及び一時占拠である。

 

同僚たちが数多くいる中、友軍が側面から奇襲をかけるあいだ俺たちが正面から攻撃を加える。

 

奇襲部隊は200名、俺たちの部隊は300名である。

 

俺を含め初陣だと話す連中が多くいる中、この攻撃がうまくいくのか?という疑問は俺の頭にはなかった。

 

与えられた任務を遂行する。それが孫呉の兵士たる所以であると叩き込まれている俺たちからしたら孫策の命令に何の疑問も感じることはなかった。

 

「孫昭隊長、見えました」

 

「うん、総員!戦闘準備!!」

 

俺が声を上げると、武器を構える音が一斉に響くと同時に、進撃の号令を上げるのであった。

 

 

それからというものの、豫州と司隷をほぼ同時期に攻撃を開始する。

 

黄巾党の我們旗をもった男たちが、

 

「我々の指導者たる張角様らは曹操に操られており、傀儡と化している!」

 

と声を上げ挙兵しているようであり、早速民衆に動揺が広がっていることが明命たちの報告で上がってきた。

 

敵基地を攻撃し、敵の討伐部隊が出てくる前に直ぐ様撤退をおこなう。という事を繰り返す。

 

その間、予定通り街中を明命たちの隊員が駆け回りホラ吹きを始める。

 

『黄巾党の首領を匿っているから、ここを責められるのだ』

 

と噂を広げる。どうやらその効果は出てきているようであり、街中でも動揺は広がる一方でもある。

 

私は戦果の報告を聞く一方、被害状況を報告させる。

 

「我々の被害状況は?」

 

「はい、現在軽傷者は約50名を超え、重傷者も出てきております」

 

「なるほどね・・・。ここで一度干渉軍を後退させましょう。これ以上の損害を出すことは危険だわ」

 

500名のうち1割が軽傷ではあるがケガを負っている。

 

これ以上部隊を動かせば、厳しい結果になるだけだし、討伐軍も本格的に動いてくる。

 

今回の作戦は引き際が肝心であるし、魏世論に動揺が広がっている。干渉の目的は果たせた。

 

「よろしいのですか?まだ戦死者は出ていませんが」

 

「敵の基地を奪っても、たかだが500名程度の戦力ではで魏本国の大軍を相手にできるはずもないでしょう。数の暴力でせいぜい奪還されるのがオチだわ。今回はあくまで干渉と実戦訓練という意味合いがある以上、貴様たちを死なすと私の査定にも響く。戦果は十分よ、撤退命令を出しなさい」

 

「了解しました。直ぐ様撤退の命令を出します」

 

若い軍師に命令を下すと、軍師たちは撤退命令を出すべくそそくさと準備を始めた。

 

そしてそれから1ヶ月ほどで干渉軍が帰還を果たし、帰還報告を受ける。

 

「ご苦労さま。敵は今厳重警戒をしいているはずよ。今は様子を見て、また再度出兵を行う。それまでにさらに技量向上に励みなさい。お前たち、よくやったわ」

 

私としても今回の作戦は十分な成果を出せたと思う。

 

明命主導で一揆を誘発させ、治安悪化の原因が黄巾党が原因であるという話に世論が敏感になりつつあるようだ。

 

しかし今のところ張角たちはまだ姿を現さない。

 

恐らく出てくるのを止められている事は容易に想像がつくが、黄巾党関係の話がある以上、敵は尻尾を出すのは近いと思われる。

 

また今回の干渉で我々の損失も出すことはなかった。

 

どうしてなかなか北面方面軍の練度はかなりあるようで、私の予想をいい意味で裏切ったことも、私が今上機嫌であることに拍車をかけていた。

 

あとは・・・・孫昭の初陣はたいした負傷もなく、無事に任務を遂行できたことによる安堵ももちろんあったが、それは部下の前には出すことはない。

 

魏国干渉軍の連隊長たちは私の賛辞に素直に喜び、顔を合わせ合い健闘を讃え合うのであった。

 

 

そのあと豫州や司隷だけではなく、馬騰がかつて収めていた西涼など、曹操の求心力が乏しく落ちる地域、接収地を中心に兵士を派遣し、徹底して攻撃を加えていく。

 

豫州と司隷だけでは敵は私たちの仕業であると悟られてしまうためである。そのため法則性を無くし、突発的な暴動であると思わせるために一石を投じる形をとった。

 

しかし黄巾党の残党を名乗る割には、街での略奪や乱暴は一切なく、そのくせやけに統率が取れており、また陣形を用い、戦略的な地形を活かした攻撃と防御を行う『自称 黄巾党』は魏軍相手に遅れをとることはない。

 

彼らは一体何者なのか?魏を誑かす酔狂者の集まりなのか?それともなにか別の勢力の仕業なのか・・・・?

 

魏国内でも噂は広がり、曹操が収める許昌でもその噂が広がっていた。

 

もちろん黄巾党の件と張三姉妹の話も然りである。

 

曹操は側近の荀彧を呼び出し、意見を交換する。

 

議題はもちろん黄巾党の残党についてである。

 

「華琳様、黄巾党の残党の件ですが・・・・」

 

荀彧が議題を読み上げると、分かっているわとウンザリした口調で呟く。

 

「黄巾党の残党と呼ばれる謎の勢力ね。まぁ貴女のことだから大方予想はついているでしょう?」

 

「はい、呉軍の工作の可能性が高いかと」

 

「だが呉軍の痕跡は一切残してはいない。休戦条約を反故にしているという証拠は集められていない・・・という事かしら」

 

「はい。また我々の支配から外れる地域を重点的に攻撃してきており、魏軍としての兵の連度の低い地域ばかりを攻撃してくるあたり確信犯でしょう」

 

「でしょうね。で、民の動きはどうなっているの?」

 

「今現在、許昌や洛陽では箝口令を敷き、弾圧をしてはいます。が、火のないところに煙は出ないと言いましょうか。やはり何処かから噂話として情報が漏れ出ているようです」

 

「・・・・・・・・」

 

曹操は情報を漏らしているのは呉の連中の仕業であるに違いない確信する。

 

と同時に呉に南征に失敗してからというものの、彼女は失地を回復できず華夷連合と呼ばれる野蛮な連中たちを相手に、主導権を握ることができていない状況に内心苛立ちを覚える。

 

(北郷が死んでから・・・・か。歯車が狂ってしまったのは・・・・・)

 

北郷を暗殺したあの馬鹿どもを末代まで呪ってやりたい気分にさせられたが、曹操も手を打たなければならない。

 

「ここらが潮時・・・・でしょうね」

 

「・・・・・・といいますと?」

 

「あの娘たちには随分と助けられたけれど、所詮は臭いものに蓋をしていたに過ぎない。結局は腐った果実は取り除かなければ、待っているのは死あるのみよ」

 

曹操はそう冷淡に言い放つと、荀彧の表情に影が生じ、歪んだ笑みを向ける。

 

「御意。すぐに対処いたします」

 

「よろしく頼むわ」

 

荀彧が頭を下げて、曹操の部屋から出ていく。張三姉妹、彼女たちの命運はここまでということだ。

 

「・・・・・南征の計画を早めなければいけないわね。私たち残された時間は、思った以上に少ないのかもしれないわね」

 

曹操の覇道はあと少しでなし得るはずであるのにも関わらず、こうして足止めをくらっている。そうなったのは・・・・。

 

「北郷・・・・お前のおかげ・・・ということね」

 

曹操は北郷がどういった男であるのかは知らない。

 

だが周瑜や孫策が公私ともに大いに信頼を寄せていたのは、彼女たちの素振りからも察することができた。

 

大都督と小覇王を支える北郷、彼らを屈服させ、そして自分の家臣として思う存分に使役をしてみたいという欲望があったことも否定はできない。

 

だからこそ北郷の死は曹操からしてみても大きな衝撃を受けた。

 

自分の覇業を汚されたと、彼らを倒すのは自分、曹孟徳以外にいないと覇王として、また戦士として胸が踊っていた。

 

そんな中での巫山戯た行いを、曹操としても断じて許すことはできなかった。

 

処刑も曹操自らが立会い、処刑自体も彼女が行った。

 

怯える馬鹿どもをなぶり殺しにしたのは事実ではあったが、彼女の八つ当たりに近い行為でもあり、曹操の胸に生じた損失感を埋める事は叶わなかった。

 

(・・・・・孫策、お前と私、一体どちらが覇王として相応しいのか・・・・・。決着をつけたいのよ)

 

握りこぶしを強く作ると、王座から立ち上がる。全ては我が覇道のために、と決意を強く持つと同時に、南征の成功を収めるのにはどうすれば良いのか頭をひねらせるのであった。

 

 

そうして干渉を行ってはいるが、張姉妹たちが表に出ることはない状況が続く。

 

明命と私、そして亞莎と3人で会合を行い、今後の進捗をどうする意見を交換する。

 

「しかし変ね・・・。これだけやっても連中が何も仕掛けてこないなんて・・・・」

 

私が首をかしげると、亞莎も頷く。

 

「ええ。黄巾党となにかしら関係のある者たちが数多くいる以上、何か行動を起こすはずなのですが・・・」

 

「明命、城下町はどう?」

 

「現在は混乱が生じ、錯乱は成功していると報告が来ています。洛陽や許昌は流石に厳しいですが、末端では戒厳令の効果も薄れているようで・・・・」

 

明命も腑に落ちないのか、首をかしげ唸る。そんななか執務室の外で私の副官が部屋に入って来る。

 

「何事だ」

 

「会議中申し訳ありません。こちらを・・・・」

 

彼から差し出された紙を見て一同は驚愕の表情を浮かべる。

 

「先ほど入ってきた情報です」

 

「・・・これは・・・?!どう思う?亞莎、明命?」

 

「曹操らしいといえば、そうですね・・・・。となれば・・・・もう・・・・・」

 

「そうですね。私もそう思います」

 

紙には張姉妹が処刑されたという情報であり、魏国内としては逃亡していた黄巾党の党首をついに捕まえ、恒久平和に貢献したと声を上げているようである。

 

明命と亞莎は曹操のそういった冷酷な性格を知っている分、彼女ならやりかねないと納得をしてはいるが、私としてはどうも納得がいかない。

 

(魏の損害は未だ癒えてはいないはいない。末端の求心力も低い今の状況で、奴は切り札を手放すかしら・・・?)

 

多少の投資で、世論を軟化出来うる武器を彼女はそう易々と手放さないはず。

 

まして南征のための兵力増強が至上命題な魏は少しでも兵士を掻き集められるような状況を作っておきたいと考えるのが常だろう。

 

「雪蓮佐官、何かお考えが?」

 

副官が私の表情を見て、なにか思うところがあったのかと思ったのか話をふってくる。

 

「いや・・・ただの思い違いじゃなければいいんだけど・・・・。曹操が芝居をしている可能性もあるのかなって・・・」

 

「しかし我々の工作で動揺が広がる中、求心力を回復させる利用価値が張姉妹らにはあります。利用してもよし、切り捨てて、それこそ悪人を成敗したと言いふらしてもよし・・・である以上、利用して使い捨てる事もできます。連中がここで損切りを計っても疑問はないと私は思います」

 

「う~ん私もそう思いますね・・・・」

 

釈然としない表情で亞莎と明命は口元に手をやり、撫でる。

 

(まぁそう考えるのが普通よね・・・)

 

雪蓮も後頭部をポリポリとかくと、ため息をつく。

 

「一度参謀本部に通達しましょう。冥琳の指示を仰ぎましょうか」

 

「そうですね・・・・。少し期間をおいて情報を整理したほうがいいかもしれません。明命さんも間諜の情報の精査に時間をかけないといけないでしょうし・・・・」

 

「はい・・・・。雪蓮様の意見も私としても考慮すべきものであると思いますので、偽装の線も十分考慮して、さらに情報を集めてみるようにしてみます」

 

明命が張り切り気味に胸を張ると、雪蓮も笑みを浮かべるのみであった。その笑みは冥琳が判断を誤るはずがない、という絶対的な自信であり、周りの2人も同じような表情であった。

 

だがその自信がすぐさま崩れ去ることになる。

 

 

亞莎は私の言うとおりに軍令部に手紙を送った。

 

黄巾党の件と工作、そして張姉妹の消息の件など全て隠さず、報告をした。

 

私と明命たちは、情報をさらに集めるべく拠点を許昌に移し、現地で情報収集を強化することにし、とにかく許昌へと向かうことにしたのであった。

 

それから2ヶ月が過ぎた頃、亞莎の報告が参謀本部に渡り、直ぐ様検討会議が開かれた。

 

祭や思春、それに蓮華などが出席し、広域的な方向性を検討すべく喧々諤々と議論が続く。

 

冥琳は背もたれにもたれると、軽く息を吐いた。

 

参謀本部内でも亞莎の意見書の書かれていた偽装の可能性がある、という考えを考慮しており、冥琳もその可能性が高いと思っていた。

 

曹操は利口であり、自分の立ち位置や性格などを利用し相手の思考を麻痺させ、相手の思考を硬直、限定させるような錯乱を用いることは先の袁紹での戦闘などでも策として用いられていたからだ。

 

「周瑜長官はどうお考えか?」

 

議長に促されると、冥琳は足を組み直し顔を上げた。

 

「張姉妹の処刑を行ったとあるが、処刑を見たというものはいないのだな?」

 

「はい。孫策上級佐官が現在調査をしているようですが、許昌や洛陽でそのような痕跡は見当たらないと・・・・」

 

参謀の男がそう言うと、冥琳は再び目をつぶり思案した。

 

(ハッタリである可能性も捨てきれない・・・・か。だが曹操は利口かつ強かな奴だ。私たちを誘い出そうとする魂胆か・・・・あるいは・・・・・)

 

「長官、ここは兵を下げて様子を見てみましょう。なにやらきな臭いです・・・・。我々を陥れるための策略の可能性もあります」

 

軍参謀の男が立ち上がり声を上げると、男に同調するような雰囲気をその場を満たす。

 

「連合で外交卿を用いての交渉は引き続き行われているけど・・・・。奴らは一切妥協がないわ。私と桃香の身柄の引き渡し、そして冥琳の大陸の平和を乱した罪として政治犯として処理する、とね」

 

「やはり交渉の余地はない・・・・のかのう。互いに認め合えれば、同盟とまではいかんでも、この大陸に平和をもたらすこともできるものを・・・・」

 

連合の厳虎を筆頭に今も懸命に交渉をし続けてはいるものの、結果は芳しくはなく、冥琳がおおよそ予想している結果となりつつある。

 

「厳虎殿には引き際が肝心だと進言しなければなりませんね」

 

「ええそうね・・・・。残念だけど、このままでは開戦を覚悟して、予定通り北方に戦力を集中させる必要があるわ」

 

蓮華が疲れきった表情でため息をはく。

 

その表情から見る限り、連合での評議会と呉での議会での突き上げをくらっているのだろう。

 

タカ派から批判が多い厳虎の批判を躱すべく、日々蓮華は奔走しているという噂は冥琳もよく耳にしている。

 

「冥琳長官、祭長官よろしいでしょうか?」

 

「かまわん、思春」

 

「なにか考えがあるようじゃの」

 

思春が手を上げ進言すると、冥琳と祭は頷き、発言を認めると思春はスッと立ち上がり参謀たちを見渡しながら声を上げた。

 

「ここは孫策佐官、明命を引き続き潜入させ、張姉妹を捜索し、発見次第暗殺する・・・というのはどうでしょうか?」

 

「しかし、その肝心の張姉妹の消息がつかめてはおらんぞ。曹操は利口な女よ、儂らを誘い込んで、牙を向いて来ることもあるやもしれん」

 

「ですがこのままでは明命が掴んだ情報が徒労となってしまいます。奴らも阿呆ではない。二枚舌で民を騙し、嘘の情報を流して我々の追求を躱そうとしているのかと」

 

「・・・・・ううむ・・・・。判断が難しいが・・・・儂も思春の意見は一理あると感じていることも事実じゃ。冥琳よ、もう少し潜伏させてみても良いのではないかの?」

 

祭が思春の意見に同調すると参謀たちも、頷くもの、懸念を浮かべる者と半々であり難しい判断であることは冥琳としても理解できる。

 

(・・・・・・・・・ここは・・・・・時が来た。ということなのかもな)

 

冥琳は決心をすると閉じていた目を見開き、深呼吸をする。

 

「私は反対だ!このまま明命たちが危険にさらされる可能性があることも否定はできない。そうである以上は撤収し、再度情報収集に務める方が――――」

 

「何を仰るのです!!冥琳様!それでは敵の思う壺ではないですか!!」

 

思春は冥琳の発言を遮り、受け入れることのできない意見であると声を荒らげる。

 

祭は冥琳を一瞥すると、祭は少し訝しげな表情を浮かべるものの、彼女が滅多に吐くことがない深い溜息をつくと、声を静かに出した。

 

二人の視線でのコミュニケーションを蓮華が悟ると、蓮華の大きな瞳がギロリと光る。

 

「陸軍と水軍とで意見が分かれたな。権殿よ、どうなさるかの?」

 

「・・・・・・私は冥琳の意見を採用したいと思うわ」

 

「・・・・・・・・・・バカな」

 

思春が一瞬失望の色を浮かべると、水軍参謀の一同は腰を落とし、冥琳を睨むなか、当の彼女は涼しい顔をして刺すような視線を受け流すばかりであった。

 

その後会議が終わると、水軍の参謀たちが集まり密室で声を荒らげた。

 

「周瑜長官の弱腰の姿勢にはうんざりするものがある!!」

 

「全くだ!!敵はウラをつくと同時に、張姉妹たちの存在に旨みを感じていることは一目瞭然!そうである以上、連中は処刑などするはずがない!!」

 

積極的な動きを期待していたであろう水軍の上層部たちの不満は高まるなか、その集まりに参加していた思春は皆を制すると声を出す。

 

「お前たちの考えていること、感じていることは私としても理解できる。周瑜長官の慎重な姿勢には私としても失望を隠せない以上、ここは黄蓋長官を通じて進言を続けていこうではないか」

 

甘寧が声を上げると、そうだ!そうだ!!と同調する声が高まり、拍手が生まれる。

 

水軍は基本は陽の当たる立ち位置にはいず、陸軍に後塵を喫している以上なんとしてでも主導権を握りたいという野心が見え隠れしていた。

 

思春としてもそう言った野心や、水軍の地位の向上には一定以上の理解があることこからも、彼らの行動に反対をしようとは思わなかったし、彼女としても冥琳の消極的な姿勢に納得がいかないというのもまた事実であった。

 

周瑜派の多い陸軍と積極展開を望む祭率いる水軍の対立が表面化がされた結果、水軍と陸軍の上層部の軋轢が生じることとなり、軍上層内で不穏な空気が生まれつつあるのであった。

 

 

私は明命から命令書を見せてもらうと、思わず怒りあまり宿場の机を強く叩くと、声を荒らげた。

 

「撤収だと?!何を馬鹿なことを!!」

 

「周瑜長官の署名も付いている以上、命令が正式に通達されたものである・・・・ということです。残念ですが・・・・」

 

忸怩たる思いであるのだろう、命令書を渡した副官の表情も冴えず、影があるように見える。

 

「はぁ・・・・・冥琳は何を考えているのかしら・・・・」

 

「あの周瑜長官のことですから・・・・何か考えがあるのでは?」

 

「・・・・・そうだと信じたいわね」

 

「佐官、どうしますか?」

 

「命令である以上は従うしかないわ。撤収よ」

 

私たちは渋々北面方面軍の中央基地に帰還すると、早速亞莎と私とで話し合いが行われた。

 

「亞莎、貴女はどう思う?」

 

「正直驚きです。冥琳様がこうも簡単に・・・・・。それに悪い報せがあります」

 

「・・・・・・今更驚きはしないわ。どうかしたの?」

 

「それが・・・・雪蓮様たちが帰還したと同時に、張姉妹たちが姿を現したようで・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「我々は完全にウラをかかれたということです。さらにこの失態を受けて、冥琳様の立ち位置も危うくなっています。水軍の祭様を筆頭に、撤退反対を掲げていた者たちを筆頭に冥琳様の更迭を求める声も出てきています」

 

「祭が・・・・?その話本当なの?!」

 

「祭様と思春様とが中心となり、水軍の参謀たちを先導しているようなのです。残念ですが我が軍も一筋縄ではない・・・・ということです」

 

何を馬鹿なことを・・・・と私はかつての家臣たちに対し毒づく。

 

今はそんな権力闘争をしているような時ではないはずであろうに。

 

なるほど曹操たちはおそらく私たちの動きを掴んでいたのだろう。

 

それゆえに内部から揺さぶりをかけて、連合を瓦解させようと企んでいる。

 

奴らの誘いにまんまと乗られており、冥琳たち参謀たちの動きに迷いが見られているのが今日の状況から見て察せられる。

 

「このままでは拙いわね・・・・・」

 

「はい、建業では早速議会が臨時開催され、厳しい追求を冥琳様は受けています。最悪・・・・・」

 

「蓮華も冥琳を守ろうとするけれども・・・・、予算先議権を握られている議会を相手にしては、分が悪いわね」

 

呉の議会は国内の予算執行に関する議決権も持っている。

 

このままでは軍予算の承認が下りず、連合国軍構想に大きな停滞が生じかねない。

 

それを予想されたゆえに、蓮華としても議会が政権構成員である冥琳に対しへそを曲げてしまえば、蓮華の政権運営に支障が出かねない事態へと発展してしまうだろう。

 

「はい・・・・・。ですが我々としても冥琳様の更迭はなんとしてでも避けなければならない、と考えています!」

 

亞莎は声を上げるものの、私としては彼女に対し弱弱しく頷くことしかできない。

 

所詮は北面方面軍司令である役人である彼女が声を上げたとしても、議会は耳を貸さないだろう。

 

ましてや最悪亞莎の立場も危ぶまれる可能性もある。

 

冥琳の手によって完全に文民統制が図られた現在の呉は、議会の承認が形式上ではあるが長官を指名する以上必要となる。

 

そうである以上、議会は冥琳に対し不信任を突きつけ、承認の遡及的な取り消しをけしかけてくる可能性もあった。

 

それから3ヶ月と少し。

 

風の噂では議会において冥琳の更迭法案が創案されつつあるようであり、蓮華が掲げる連合国軍備増強の予算案を否決し続けているようだった。

 

政権を担っている蓮華の支持母体でもある保守党も、今回の冥琳の姿勢に弱腰であるとの批判も出てきており、雲行きが怪しくなりつつあるようでもあった。

 

こうなった以上蓮華も、もはや冥琳を庇う事が出来なくなりつつあり、予算承認の条件として冥琳の長官任期の短縮を条件とする保守党の妥協案を呑まざるを得ない状況となっているようだ。

 

また軍内部でも不穏な空気が流れ始めており、陸軍の水軍支援要請を水軍が拒否、命令無視するということが相次いでおり、現場内でも陸・水軍の軋轢・溝が深まっていることを私は痛感した。

 

特に最前線になる北面方面軍の軍事干渉は水軍の支援なしには成し得ない。

 

「なぜ我々陸軍に力を貸していただけないのですか?」

 

「・・・それは今現在、我々も別の作戦に従事しており、人員をそちらに回せる余裕がないのですよ」

 

「どうだか。どうせ陸軍は周瑜長官が牛耳ってるから手を貸したくはないだけでしょ?」

 

ギョッとした表情で水軍の上級佐官がこちらを睨むと同時に、亞莎の眼鏡が焦りのあまりズレ落ちそうになる。

 

「孫策佐官!聞き捨てならないことを申されるな」

 

「なら作戦内容を教えてくれる?言っとくけど私は周瑜と繋がりはあるけど、貴方たちの上司でもある黄蓋とも繋がりはあるのよ。嘘をついても無駄だわ」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「反論できないの?まぁいいわ。・・・・まったく、お前みたいな甘ちゃんじゃ話が合わない。さっさと話せる人間をよこしなさいな」

 

亞莎と私は再三水軍の連中と会談を行うも、適当に躱されてしまう事に苛立ちを覚え、同階級もあってか私は乱暴な口調で挑発する。

 

男は顔を真っ赤にはするものの、言い返すことはせず、かといって席を立つということはせずに搾り出すように小さな声でつぶやく。

 

「・・・・威張りくさって。青二才が・・・・・」

 

「・・・・・・・・はぁ。ひとつ忠告しておくけど―――――」

 

さすがの私も横柄な態度のこの男に思うところもあるので、腰に携える南海覇王を抜き去ると座っていた座席から立ち上がり、彼の胸ぐらを掴む。

 

「雪蓮様?!」

 

「私はね、お前みたいな口だけ達者な愚図が大嫌いなの。まぁ・・・口には気をつけなさい?そうでないと・・・うっかり手を滑らせて、お前の首を切り落としてしまうかもしれないわよ・・・・・?」

 

「ぐ・・・・・?!」

 

「孫策佐官!やめてください!!す、すみませんでした!無礼をお許し下さい」

 

結局亞莎に抑えられ抱えるように私を連れて去ってしまう。

 

「雪蓮様!!どういうおつもりですか?!」

 

「ごめん、ごめん。久々に頭にきちゃってねぇ・・・・。許して?」

 

「はぁ・・・・。向こうはこちらに対して挑発をしているようですし・・・・・。まるでほんとに味方同士なのか見識を疑いますね」

 

「いままで現場ではこのような摩擦はなかったはず。上層部でのイザコザがここまで表面化されるとはね」

 

「冥琳様に文で聞いても、音沙汰がない状態ですし・・・・。いったいどうすれば・・・・」

 

「冥琳から返答がいないってこと?」

 

「はい・・・・」

 

「ふぅん・・・・・・ねぇ?亞莎」

 

「なんでしょうか?」

 

「貴女が祭と冥琳の二人に出会ってからを思い出してほしいのだけれど・・・冥琳と祭がここまで墓穴を掘るってこと今まであったかしら?」

 

「それは・・・・・・。雪蓮様、なぜそのようなことを思うのですか?」

 

「私や少数の古い人間しか知らないだろうけど・・・・。祭も冥琳も呉を建国する前からでも軍議で言い争うような場面もあって、他人からしたら二人は仲違いしているように思うかもしれない・・・・。でもね、冥琳は祭を人生の師と仰ぐほど尊敬しているのよ」

 

「驚きましたね・・・。初耳です・・・」

 

「本人は決して言わないでしょうけどね・・・。だからこそ腑に落ちないものがあるのよ。蓮華も恐らく冥琳と祭の強い絆を感じているからこそ、両軍の長官に任命させてるはず」

 

「ふむ・・・・・。そう言うと確かに雪蓮様の言うとおりですね。でもそこまでの背景があるのにも関わらず・・・・・。まさか・・・・!!」

 

「私の勘なのだけれど・・・。冥琳はワザと自分を貶めてる気がする。他人から見たら、些細な過ちを犯したように見えるけれど、私から見たら余りにも出来すぎているように感じる。水軍と陸軍の組織的な対立と議会の反発。それの発端は全てが冥琳から来ているとしたら・・・?」

 

「なるほど・・・・・雪蓮様、ありがとうございます。私もそのような考えに触れることができ、嬉しいです。部下たちに同様の内容で説明を行い、北方監視と戦力の増強に力を入れようと思います」

 

「亞莎、ありがとう。・・・お願い、冥琳を信じてやってほしいの。私から言えるのはそれだけ・・・・」

 

「もちろんです。私は冥琳様の弟子であり、師を疑うことなどあってはなりません。最後まで我が師を見届けていくつもりです」

 

亞莎は強く頷くと、断固とした口調で肯定をしてくれた。

 

だがこのような混乱に乗じて、曹操は攻撃をしてくる可能性も捨てきれないのも私の脳裏に不安がよぎるが、冥琳はワザと曹操を誘き寄せようと餌を撒いているのだとしたら・・・・?

 

「蜀、山越の軍に通達をしておいたほうがいいわ。近いうちに必ず魏軍が攻めてくる、とね」

 

「はい、呉軍参謀本部が麻痺していますし、冥琳様とも連絡が取れません。そうである以上北面方面軍は独自に動きます。連合国軍の組織が速やかにできるようにしておきます」

 

(冥琳は確信犯で連絡を立っているのね・・・・。亞莎を動きやすくするために・・・・。)

 

その後亞莎は北面方面軍の司令として蜀と山越の北方軍司令と独自に会談を重ね、共同出兵の手はずと、友軍支援の組織結成を速やかに行えるように呼びかけを行っていく。

 

山越も、蜀も冥琳と祭の政争に対し、深い懸念を示してはいたが、亞莎からの説明などにより説得を粘り強く行った。

 

特に山越頭目の厳虎はわざわざ北方まで出向き、亞莎と会談を行ったこともあり、冥琳の考えていることに関する懸念の解消に対し理解を示してくれて理解を示してくれていたのは救いか。

 

「分かった・・・・。呂蒙殿が酔狂でそのようなことをほざく虚け者というわけでもないだろう。どのみち呉と連合を組むと決めている以上、我々も曹操と徹底抗戦することを覚悟している。連合でも俺が働きをかけようと思う」

 

「ありがとうございます!厳虎様」

 

厳虎と亞莎は連合軍結成に問題がないことを確認できると、双方歩み寄り握手を交わした。

 

別にいち軍司令同士の話し合いであるのにも関わらず、遠方からこうしてわざわざ出向き、意見を交わしに来る行動力と思慮の深さは流石一国の長ということころか。

 

亞莎は山越の頭目である厳虎の器の大きさを改めて認識すると同時に、長年の宿敵でもあった呉とこうして雪解けができているのは、改めてこの辣腕を振るう男の存在が大きのであると痛感した。

 

 

だが亞莎のそうした働きかけで、戦力を集中させようと試みるのであったが、その前に私の悪い予感が的中してしまう。

 

「敵襲?!」

 

亞莎が部下たちの報告を受け、目を細めると、部下たちは頷く。

 

「はい、曹操が挙兵を行ったようです」

 

「我々の動揺を誘って・・・・・さらに機を逃さず、ということですか。数は?」

 

「それが・・・・・数はおよそ100万に近い・・・・と」

 

「・・・なんですって?本当ですか?」

 

「・・・・・・・・残念ながら」

 

「・・・・連合国軍参謀と建業軍令部に通達です。それと同時に各町村に避難勧告を通達。避難活動を支援するように」

 

「我々はどうしますか?・・・・・迎え撃ちますか?」

 

当たり前だろ!と内心のいら立ちを隠せず声を荒らげて部下たちに指示を出す。

 

「なにを・・・・当然でしょう!!!全軍に通達!!!戦闘配置です!!急ぎなさい!!!」

 

「「はっ!!」」

 

敬礼をすると部屋を一斉に出ていく。

 

「・・・残念ですがここを死に場所と覚悟しなければなりませんね。私に何かあれば・・・冥琳様、どうかあとを頼みます」

 

一人静かにそう言うと冥琳宛に文を書き始め、終えるとすぐさま伝書鳩の足に手紙をくくると外に飛ばすのであった。

 

孫昭は武具の整備中に、敵襲の鐘が鳴るのを聞くと、頭の中から声が聞こえた。

 

『曹操だ。いよいよ来たか・・・・』

 

聞き知った声に、若干ウンザリしながらも孫昭も答えた。

 

『そうだろうさ。・・・・・北郷、お前に・・・・託す時が来たようだ』

 

『・・・・ありがとう。少々荒っぽくなるが許してくれよ』

 

『ふん。雪蓮と冥琳を泣かしたら許さないからな・・・・!』

 

『ああ、約束する』

 

孫昭は目を閉じ、深呼吸をし、目を覚ます。

 

見開いた目から光が失われ、彼は赤子のように足首手首を動かし、感触を確かめるかのような不審な動きを見せていた。

 

「孫昭!!早くするのです!戦闘配置なのです!!」

 

上司の音々音に怒られると、孫昭はこの場に似合わない嬉しそうな笑みを浮かべると頷いた。

 

「敵襲か!!?曹操ね?!」

 

「そのようです。数 100万!!こちらに向かい進軍中であります」

 

「流石に・・・・やってくれるわね。あのお嬢ちゃんも!!」

 

狼煙があげられ戦闘配置の鐘が鳴り響くなか北面方面軍の戦力が集結する。

 

私を含めた部隊長たちは亞莎のもとに集まり、作戦会議を行う。

 

「敵の数は膨大です。ココは防戦線を20里ごとに展開させ防衛網を構築、敵の足止めを行い、連合軍の集結の時間を稼ぎます」

 

「現在、水軍にも増援要請を行い。海岸線からの進軍も鈍化させるべく手を打っているはずです」

 

「こちらの戦力は北面方面軍 10万ほど。敵は私たちの10倍の戦力を駆使してくる・・・・か」

 

「我々が考えた侵攻路としてはまず敵は揚洲北部のここと、荊州に同時展開をしてくる可能性が高いということです。進軍される地域は5つ。そのうち2つは渓谷と河川がある事から我々は早急に橋を確保し、橋を破壊。敵の進軍を遅らせます」

 

「・・・・・・・・・・残る3つの地域に我々の戦力を分散させますか・・・・。しかし司令、それでは我々に不利が生じてしまいます」

 

「ええ、戦力が少ない中分散させることは得策ではない。よって防衛線を構築する際に、防衛に特化した簡易な要塞を作ります。騎馬隊の進軍を鈍化させる石塁建造と高地確保による地形を利用します。とにかく防衛を行い、連合国軍の準備が整ったら後退、敵の戦端を引き伸ばします」

 

悪くはない策だと私も思う。

 

実際、曹操たちは自然要塞化が出来うる3つの行路ではなく渓谷と河川から迂回する形で進軍すると考えられるからだ。

 

破壊工作と待ち伏せによる奇襲は私たちの十八番。そうといなれば・・・・・。

 

「そうとなれば私の出番、ということですね?」

 

「はい、まず手始めに橋を行路の障害となる破壊。そのあと渓谷の防衛戦を構築していただきます」

 

「私の隊だけでは数が足りません。兵を少しばかり貰いたいのです」

 

「どれほどですか?」

 

「およそ三千ほどでしょうか。いま15部隊総出でこちらに向かっているところです。あと一週間もすれば作戦が実行できるでしょう」

 

「分かりました。・・・その間、敵の動きを止めるべく我々で大規模攻撃を仕掛け、時間を稼ぎます。15部隊の工作が本命であることを悟らせないように出来るだけ派手に頼みます」

 

「「了解です」」

 

「連合国軍結成に要する期間は私の予想では早くても3ヶ月。それを耐え切れれば、勝機は出てくると思われます。皆さん、ここを死地と覚悟してください」

 

と亞莎は搾り出すように言うと、部下たちは敬礼で返す。ついに最後の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

 

私の隊と援軍として恋の第二突撃隊から兵を借りることになった。

 

そのなかに孫昭も含まれており、私の願いはもろくも崩れ去った。

 

「隊長に敬礼!!!」

 

友軍が集まり結成された兵たちが外で集まるなか副官が声を上げると、兵士たちは敬礼を一斉に行った。

 

その中に孫昭がいることを私はすぐさま見つけるも、彼の雰囲気がいつもと違う事に内心訝しがる。

 

目の光りがなくなっており、だが死んだ目と対照的にその表情は心なしか嬉しさに満ちており、そしてはばかることなく私を見て涙を流していた。

 

男泣きをする孫昭に副官やほかの同僚たちもザワザワと騒ぎ始める。

 

「何をしておるか!!これから戦地に向かうなか怖気づいたのではあるまいな!!!」

 

と副官がこめかみに青筋を浮かべ、怒号を上げる。

 

「すみませんでした。少し気が高ぶってしまい・・・・」

 

孫昭は涙を拭うと副官に対して僅かに笑みを浮かべると、親指をピッと立てる。

 

「ッ?!・・・・・どうして?!」

 

副官の表情が一気に青ざめるが、すぐさま素の表情に戻り激励の声を上げ始める。

 

そして締めの言葉として私にお願いします!と頭を下げた。

 

「敵は迫ってきている!!皆、想像をして欲しい!!!我々が敗北をし、曹操が統治を行う大陸を、そして江東を!!」

 

「・・・・・・・・」

 

「自由を享受し、明日を語り、笑顔で暮らすこの国を蹂躙されるのだ!!それを避けるために、そして真の自由を得るために私たちは戦うのだ!!そのために剣を取り、槍を持ち、一人でも多くの魏兵をなぎ倒す!!それができなければお前たちの親や、恋人や、そして妻や子どもが、奴らの抑圧の対象となりうる。待っているのは暗黒の未来だ」

 

「「!!」」

 

「私は最後の一人になっても奴らを、そして曹操の首を取るまで戦い続ける所存である!!お前たちにはこの聖なる戦いに身を投じる覚悟があるのか!!!!」

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお」」

 

私の号令に友軍たちの士気は最高潮になるなか、孫昭を見やる。彼は私をジッと見つめ、死んだ目でこちらをただジッと見つめるばかりであった。

 

「おい!孫昭尉官!!」

 

私の号令のあと解散となったが、副官が走り出し、孫昭の襟首をつかみあげる。

 

「貴様、なにをやっている!!」

 

流石に彼の態度に咎めようと私が声を上げるが、皆が振り向くのをお構いなしに、副官は苛立ちを隠さずに私に震える声で、

 

「・・・・孫策佐官。ちょうどいい、付いてきてください」

 

副官がそう言うと、孫昭ともに歩き出した。

 

「なんだってんのよもう!」

 

急な言動に私は少し苛立ちながらも、ついていくと彼は人目のつかない個室に私と孫昭を入れる。

 

「さぁ?招集がかかっているなか、連れ出した理由を聞こうかしら?場合に寄ったら減給だけじゃ済まないわよ」

 

「・・・・・ありえない」

 

「え?」

 

「彼ですよ!あの仕草を私に見せていた!北郷隊長の仕草だった!!!」

 

親指を立てて見せる副官。その表情は冴えなく、若干青ざめて見える。

 

「貴様、何者だ?!間者だというのなら容赦は―――――」

 

副官が剣を抜き、対峙しようとすると、孫昭は彼の腕を凄まじい速さで掴みあげ、捻り上げた反動で彼を投げ飛ばしてしまう。

 

「?!」

 

副官も孫昭の急な反撃に目が点になるなか、私は胸がドクンと高鳴っていく。

 

あの投げ飛ばし方、敵の懐に入り込む速さと呼吸の仕方。その仕草、私は忘れるはずもない。

 

彼は

 

『江東の赤鬼』

 

と恐れられた北郷一刀に違いないと、そう私の直感が告げていた。

 

「一刀・・・・・・?一刀なのね?!」

 

「え?!北郷・・・・隊長?バカな?!」

 

『・・・・・・・・すまない』

 

「ありえない・・・・いくら他人の空似といえど・・・・・」

 

『外史の管理者には無理を言ったからな。この外史が終わるまで、孫昭の身体を借りている。彼も、孫昭もこのことを承諾してくれている・・・・っと?!』

 

北郷と名乗る男を目にし、私は感情を放棄し、ただただ強く彼の体を抱きしめた。

 

『雪蓮・・・・。ただいま』

 

「・・・・・・・待っていたわ。時が来たら会える、って貴方はそう言ったわね?」

 

『ああ・・・・・。今がその時だ。今度こそ君を、そして冥琳を死なせはしない』

 

「隊長・・・・やはり貴方なのですね」

 

『ああ、お前も・・・随分見ないあいだに男前になったな』

 

「・・・・・・貴殿と共にまた戦地を駆ける事ができる事嬉しく思います」

 

私がしがみつくなか空いている手で、握手をかっちりと交わす。副官の目には一筋の光りが流れる中、声は小さく震えていた。

 

「さて・・・・これから出陣だけど・・・・一刀いけるわね?」

 

「私も再び貴殿と戦えることを嬉しく思えます。隊長!」

 

『もちろんだ。・・・・この借りは返させてもらうさ』

 

3人で頷き合うと、再び集合地点へと走り出すのであった。

 

 

 

 
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