No.1092045

鬼滅の恋姫 漆話

『さようなら……、愛していたよ……』

本来の歴史をねじ曲げてまで愛する人を守った"天の御遣い"は最愛の人の前で消滅する……。

はずだった。

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2022-05-19 00:00:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:510   閲覧ユーザー数:480

 

 

 

「禰豆子、嘴平君!もうすぐ私たちの刀が届くって!今鴉から連絡が来たよ!」

 

 

禰豆子に自分の体の柔らかさを自慢していた伊之助の下に炭華がやって来た。

 

 

「「本当(か)!?お姉ちゃん(炭子)!」」

 

 

炭華の情報に二人は喜んでいた。炭華たちの刀は那田蜘蛛山での任務で折れてしまったので、鴉経由で打ち直してもらっていたのだった。

 

 

「うん!それと嘴平君、私は"炭子"じゃ無くて"炭華"だよ!」

 

 

三人は意気揚々と蝶屋敷の門へと向かう。

 

 

「こらこら、廊下は走るモンじゃ無ぇぞ」

 

 

そこに一刀が現れ、注意を促す。

 

 

「ごめんなさい。でも、折れた刀が直って、今刀を持ってこちらに来ていると鴉から言われたので、いてもたってもいられず…」

 

 

炭華が申し訳無さそうに謝罪する。

 

 

「別に怒って無いから安心しな。俺だって自分の刀が来た時は今のお前たちと同じだったからな」ナデナデ

 

 

一刀は炭華の頭を撫でながら話す。炭華は頭を撫でられて嬉しそうに笑っていた。

 

 

そして炭華たちは一刀を連れて屋敷の門まで来ると、"三つの人影"が見えた。その内の一人は、笠に等間隔で風鈴が幾つも付いていた。

 

 

「あの風鈴は鋼錢塚《はがねづか》さんだ!」

 

 

「後二人は誰だろう?」

 

 

炭華は知り合いが来たことに喜び、禰豆子は残りの二人が分からず首を傾げていた。

 

 

「あの二人は…」

 

 

一刀は蝶屋敷に来る二人に心当たりがあった。

 

 

「おい肝臓、あいつらと知り合いか?」

 

 

一刀の側にいる伊之助が一刀に質問をする。

 

 

「きっとな。それと、俺の名前は"肝臓"じゃ無くて"一刀"だ」

 

 

一刀は伊之助の頭を軽く叩きながら訂正する。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「俺は鋼錢塚蛍《ほたる》と言う者。竈門炭華と竈門禰豆子の刀を持って来た」

 

 

「北郷さん、お久しぶりです。あ、お三方は初めまして。私は鉄穴森と申します。此度、伊之助殿の刀を打たせてもらいました」

 

 

鋼錢塚と鉄穴森はそれぞれ自己紹介をする。

 

 

「まずは竈門炭華、お前からだ」

 

 

「はい!」

 

 

鋼錢塚に呼ばれた炭華は刀を受け取り、鞘から抜く。すると刀身が漆黒に染まる。

 

 

「相変わらずの漆黒だな。次に竈門禰豆子、お前だ」

 

 

「はい!」

 

 

次に禰豆子が呼ばれ、刀を抜刀する。すると刀身が朱色に染まる。

 

 

「お前さんもその色か。まぁ期待はしていなかったがな」

 

 

鋼錢塚は『予想通り』と言わんばかりの顔(お面で見えないが)をしていた。

 

 

「では最後に伊之助殿、お願いします」

 

 

最後に鉄穴森は伊之助に二振りの刀を渡す。すると刀身が藍鼠色に染まる。

 

 

「あぁ綺麗な色だ、藍鼠色が鈍く光る。渋くて刀らしい良い色だ」

 

 

「握り心地はどうでしょう?北郷殿の要望で刃は獣の犬歯と同じ構造にしてみましたが…」

 

 

実は一刀は刀を打ち直してもらう際、各々の要望を聞いていたのだ。炭華と禰豆子は要望は無かったが、伊之助は『獣の牙のような刀』と言っていたので、それを書き記したのだった。

 

 

「とても良いぜ!ありがとよおっさん!」

 

 

伊之助は鉄穴森にお礼を言った。

 

 

「さて次は、お二人の隊服をお渡しします」

 

 

今度は『ゲスメガネ』こと前田が炭華と禰豆子に隊服を渡す。炭華と禰豆子は隊服を受け取り、着替えるために一度退室する。

 

 

「おいゲスメガネ、二人の隊服は"まともなやつ"だろうな?」

 

 

一刀は二人がいなくなったのを見計らって前田に質問をする。

 

 

「大丈夫です。ちゃんとまともな服をお持ちしました」

 

 

前田は一刀の質問に答える。すると

 

 

「あの~、私たちの隊服ですが、何か"胸"の辺りが閉まらないのですが…」

 

 

炭華が襖の向こうから顔だけを出す。

 

 

「……おいゲスメガネ」

 

 

一刀は刀を抜刀しながら前田に問い掛ける。

 

 

「ちょっとお待ち下さい。お二人の服は最初の採寸の時に計ったのと"同じ"のはずですが…」

 

 

前田は寸法は前に計ったものと同じだと言う。

 

 

「……もしかして、『大きくなった』?」

 

 

一刀は服のサイズが合わない理由を述べた。

 

 

「……恐らくは」

 

 

一刀が考えた可能性に前田が同意した。

 

 

「とりあえずアオイを呼んでくる。ちょっと待っててくれ」

 

 

一刀はアオイを呼びに退室する。そしてアオイによって計ってもらうと、案の定以前より"大きくなっていた"。前田は密かに二人の採寸を聞き、後日新しい隊服を持ってくることになった。因みに先程の服は前田が回収していたが、回収したのは"上だけ"であり、下は回収しなかった。隊服の下は炭華がズボンであり、禰豆子がスカートである。

 

 

「さてそれじゃ、ここいらでお茶にするか。お二人も如何ですか?お茶請けにみたらし団子もありますが」

 

 

「頂こう」

 

 

一刀の『みたらし団子』の言葉に鋼錢塚は真っ先に即答した。

 

 

「鋼錢塚さんはみたらし団子に目が無いですからねぇ。折角なので、お呼ばれしましょう」

 

 

鉄穴森もお茶を飲むことに賛成したため、一刀はアオイを連れて台所へと向かった。

 

 

その後、一刀たちの他に蝶屋敷の女性メンバー、そして善逸と一緒にお茶を楽しんだ。何故善逸を呼んだのか、それは『呼ばれなかったことを後でネチネチ言われないため』であった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……はい、服を着ていいですよ」

 

 

炭華たちの刀が届いてから数日後、炭華はしのぶの診察を受けていた。

 

 

「体力も十分戻って、刀も打ち直してもらって、隊服も綺麗なのが届きました。いつでも任務に出れますね」

 

 

しのぶは炭華の任務復帰を言い渡す。隊服に関しては、刀を受け取った二日後にサイズがピッタリの服が届いていた。

 

 

「あの、ちょっとお尋ねしたいのですが…」

 

 

炭華はしのぶに聞きたいことがあったので口を開く。

 

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

「『ヒノカミ神楽』と言うのを聞いたことはありませんか?」

 

 

炭華は自分の家に伝わっている神楽のことについて聞いてみた。

 

 

「『ヒノカミ神楽』…ですか?ごめんなさい、聞いたことはありませんね。一体どういうものなのですか?」

 

 

しのぶは聞いたことが無いことを謝罪し、炭華に質問をする。

 

 

「実は…」

 

 

炭華は丁寧に説明をする。

 

 

原作の炭治郎は説明が爆発的に下手なのだが、炭華はその逆で、説明をするのがとても上手なのだ。

 

 

「ふむふむ…、成る程。貴女たちの家に代々伝わっていた神楽が剣技として使えた…と。申し訳ありません、やはり聞いたことはありませんね」

 

 

炭華の説明を受けてもしのぶは聞いたことが無かった。

 

 

「では、『火の呼吸』はありますか?」

 

 

「『火』では無く、『炎』の呼吸ならあります。これは炎柱の煉獄さんが使っている呼吸ですね。あの柱合会議の時の目がギョロっとした方がそうです」

 

 

炭華の質問にしのぶが丁寧に捕捉を加えて答える。

 

 

「そうでしたか…、ありがとうございました」

 

 

炭華はお礼を言って診察室から退室する。そして部屋の外で待っていた禰豆子と一緒に移動する。

 

 

すると廊下の向こう側から誰かが現れた。

 

 

「あっ!あなたは…」

 

 

現れたのはモヒカンヘアの鼻から右頬にかけて一文字に傷がある男性だった。

 

 

「ん?よぅ」

 

 

男性も炭華たちに気づいたようで、素っ気無く挨拶をする。

 

 

「玄弥《げんや》、ちょっと待てやァ。一人で先に行くなやァ」

 

 

すると玄弥と呼ばれた男性の後ろから実弥が現れた。禰豆子は柱合会議の時のことを思い出し、炭華の後ろに隠れる。

 

 

「兄貴、彼女に何かしたのか?」

 

 

「あぁ、会議の時に…、ちょっと…な」

 

 

実弥はバツが悪そうな顔をしていた。

 

 

「っと、そう言えば自己紹介がまだだったなァ。俺は風柱の不死川実弥。こいつは俺の弟で"継子"の玄弥だ」

 

 

「改めてよろしく」

 

 

実弥は自己紹介と玄弥を紹介する。

 

 

「私は竈門炭華、後ろに隠れているのは妹の禰豆子です」

 

 

禰豆子は炭華の後ろから顔を少しだけ出して頭を下げると、すぐにまた炭華の後ろに隠れた。

 

 

「完全に嫌われちゃってるね、兄貴」

 

 

玄弥が少し寂しそうに言う。

 

 

「そう言う玄弥だって、他人のこと言えないでしょ?最終選別の後、何をやったのか忘れた訳じゃ無いでしょ?」

 

 

炭華が意味深なことを言う。そしてその言葉に反応したのは、玄弥では無く、実弥だった。

 

 

「竈門姉妹は玄弥と同期なのかァ。ところで、玄弥が何をやったのか聞かせて貰えないかァ?」

 

 

実弥が炭華に玄弥が何をやったのか聞こうとする。玄弥は知られては不味いと思ったのか、炭華を止めようとする。

 

 

「玄弥は隊律の説明を無視して『早く刀を寄越せ!』と言いながら説明していた人の髪を鷲掴みにしていました」

 

 

それを聞いた瞬間、実弥は玄弥の方を向いた。

 

 

「げェ~~~ん~~~やァ~~~。後で、『お仕置き』だァ~~~(怒)」

 

 

実弥は明らかに怒った顔で玄弥を睨み付けた。

 

 

「でも風柱様も、私の髪を鷲掴みにしましたよね?」

 

 

禰豆子の言葉に実弥の怒りは鎮火し、玄弥は冷めた眼差しを実弥に向ける。

 

 

「血が繋がっているせいか、二人共似てますね!」グサッ

 

 

「「グハァッ!」」

 

 

炭華の言葉の刃に貫かれた不死川兄弟は胸を押さえてその場に踞った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

不死川兄弟をその場に『放置』した竈門姉妹は、一刀の下へ来ていた。

 

 

「一刀さん、色々とありがとうございました」

 

 

「別に気にすること無いよ。俺は俺がしたいことをしたまでさ」

 

 

一刀は縁側で日向ぼっこをしており、炭華は右側、禰豆子は左側に陣取っていた。

 

 

「それでも、お礼を言いたいんです。ありがとうございます」

 

 

「なら、素直に受け取っておこうかな」

 

 

一刀は炭華と禰豆子の頭を優しく撫でる。炭華と禰豆子は心地好いのか、目を伏せて一刀にされるがままになっていた。

 

 

「あら一刀、ここにいたの?」

 

 

そこに華琳がやって来た。

 

 

「華琳、お疲れ様」

 

 

一刀は華琳に労いの言葉をかける。

 

 

「別に疲れてはいないわ。アオイさんたちのおかげで、色々勉強させてもらっているもの」

 

 

華琳はそう言いながら一刀の背中に抱きつく。

 

 

「そう言えば、華琳は鬼殺隊に入隊しないのか?」

 

 

一刀は再会してから思っていたことを口にする。

 

 

「流石に入隊はしないわ。もう戦うのはこりごり。これからは一刀を支える立場として動くつもりよ」

 

 

華琳は一刀の質問に答える。

 

 

「そうか…」

 

 

一刀はそう言って、黙ってしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「あ、伊之助、丁度良かった」

 

 

日向ぼっこをしていて居眠りをしてしまった一刀は伊之助を探していたらしく、前方にいた伊之助を呼び止める。因みに炭華、禰豆子、華琳の三人も一刀の後に眠ってしまい、一刀を枕代わりにしていた。

 

 

「んぁ?何だよ?」

 

 

呼び止められた伊之助は後ろを振り返る。

 

 

「今後、刀を隠さなくてはいけないかも知れないからな。鬼殺隊の隊服と同じ素材で作ったこの羽織をやろう」

 

 

一刀は持っていた布を広げる。それは伊之助用にゲスメガネに『作らせた』一刀とお揃いの羽織だった。だが、この羽織は唯一違う点があった。それは、一刀の羽織には北郷家の家紋があるが、伊之助に渡す羽織には家紋が無いのだった。

 

 

「こ…、これを、くれるのか…?」プルプル

 

 

伊之助は震えながら羽織を指差す。

 

 

「あぁ。ここ最近、ずっと俺の羽織を見ていただろ?それに、炭華たちと同じ羽織だと、お前の長所である感覚が鈍ってしまうかもしれないからな」

 

 

一刀は炭華たちから伊之助が感覚が鋭いことを聞いており、伊之助の長所を遮らない羽織を考えていた所、伊之助が洗濯された自分の羽織を凝視しているのを見て、『これだ!』と閃いたのだった。

 

 

「ほら、今着せてやるからじっとしていろ」

 

 

一刀は伊之助に羽織を着せる。

 

 

「中々様になっているじゃないか。カッコいいぞ」

 

 

伊之助に羽織を着せた一刀は伊之助を褒める。褒められた伊之助は『ホワホワ』した気持ちになっていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

そして炭華、禰豆子、善逸、伊之助の四名は杏寿郎に会うためにしのぶから聞いていた『無限列車』の駅に向かった。

 

 

「……また、少しだけ静かになるな」

 

 

一刀は感傷に浸っていた。

 

 

「一刀、感傷に浸っている所申し訳無いが任務だ」

 

 

そこにイーグルが一刀の肩に降り立つ。

 

 

「『無限列車』で四十人以上の人が行方不明になっている。調査に向かった鬼殺隊員も消息を断った。これより、『炎柱・煉獄杏寿郎』と共に調査せよ」

 

 

一刀に新たな任務が下される。

 

 

「『無限列車』って炭華たちが向かった所じゃないか。しかも柱である杏寿郎さんと合同の任務って、明らかに『十二鬼月』絡みじゃねぇか」

 

 

イーグルから渡された指令に一刀は愚痴を溢す。

 

 

「俺に言われても仕方がない。早く出立の準備を整えろ」

 

 

イーグルは一刀の愚痴を交わしながら準備を急かす。

 

 

「分かった分かった、愚痴愚痴言っても仕方がねぇ。いっちょやりますか!」

 

 

一刀は頬を叩いて気合いを入れ、蝶屋敷に戻って準備を整え始めた。

 

 

 

 

 
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