No.1091889

主従が別れて降りるとき ~戦国恋姫 成長物語~

第2章 章人(1)

改稿とか、ほぼ何もかも手つかずなのですが、やはり書かないことには……ということで、ひとまず戦国恋姫から投稿させて頂きます。

2022-05-16 22:50:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:554   閲覧ユーザー数:552

18話 章人(15)

 

 

 

木下秀吉と蜂須賀正勝に、勝利記念のわらび餅をふるまった、その翌々日のこと。章人と信長は、いつも通り早朝、章人の知る時間だと午前5時頃に目を覚まし、顔を洗い、さて鍛錬を……というところで、美濃からの早馬が来たことを知る。

 

「やれやれ……。ひとまず、壬月と麦穂がいればよかろう。城へ行くとしよう」

 

「仕方あるまい……」

 

信長にとってはとても残念なことであったが、やむを得なかった。

 

「私は一応、ひよところを連れてから行く。先に話を聞いておいてくれ」

 

「うむ!」

 

そうして、章人は長屋に住むひよところに声をかけに行くのだった。

 

「早坂殿! おはようございます!」

 

「おはよう。今日は2人とも早いね」

 

「今日“は”は酷いです……。早馬の音で起こされたんです」

 

「なるほど。まあいい、起こす手間が省けたよ。馬の前と後ろに乗ってくれ。城へ向かおう」

 

城へ行くと、柴田勝家、丹羽長秀、佐々成政、滝川一益ら、前田利家を除く大半の家臣は揃っていた。

 

「とりあえず末席に座っておいてくれ」

 

「はい!」

 

そう二人へ告げると、信長の隣に座った章人であった。

 

「して、久遠様。美濃からの早馬はどのような内容だったのでしょうか?」

 

「それが、よくわからんのだ。正確に言うと、そんなことができるのかがわからない内容なのだ」

 

「ほう」

 

丹羽長秀が信長へ問うと、信長も困惑した様子でそう答えた。それに対し、面白がるかのように相槌をうった章人であった。

 

「美濃に潜ませていた草からの連絡なのだが、十六人ほどの勢力に、稲葉山城が占領された……と」

 

「はい?」

 

「な……」

 

信長も、草からもたらされた情報があまりに突拍子なく、ありえないとは思いつつも、重要な情報なので、そのまま伝えたのだった。それを聞いた柴田勝家らも、唖然とした表情を浮かべていた。たった一人、章人を除いては。

 

「ふむ……。私が見に行ってくるとしようか。ただ……。そうだな、そいつらに使いを出してくれんか? “稲葉山城を売れ”と」

 

「早坂殿! いくらなんでもそれは!」

 

あまりに美濃勢を舐めきった内容だったため、珍しく章人に反論する丹羽長秀であった。

 

「無血開城が一番望ましいのは言うまでもなかろう? 問題は“どうやって”ではなく“誰が”・“何のために”なのだよ」

 

その言葉の真意は、丹羽長秀はおろか、信長ですら完全に理解はできていなかった

 

「馬は使えんし、日数は少し長めに見積もっておいてくれ。ひよ、ころ、行こうか。ではな」

 

「頼む……」

 

衣服の準備などもしてから、信長や柴田勝家らに見送られつつ、一路美濃へ行く章人たちであった。

 

「早坂殿、どうして……?」

 

「ひよ?」

 

「それは、“どうしてこんな任務を受けたのか”の“どうして”かな?」

 

「は、はい!」

 

別に草の真似ごとなどしなくとも、金にも任務にも困らない。木下秀吉には、わざわざ危険な場所に行く理由がわからなかった。

 

「鋭くなっているな。良いことだ。現実には“ヒマ潰し”の側面があるけども」

 

「早坂殿!!」

 

冗談にしては笑えないものだったが、章人にとっては真面目なところもあった。

 

「少し刺激が欲しい、ってのもあるけど、首謀者に思いあたる奴がいるからね。正しいかどうか、役に立ちそうか、自分の目で見極めたかったんだよ」

 

「思いあたる奴……?」

 

「考えてもごらん。昔の美濃はそこそこだったみたいだけど、今の美濃は織田と変わらん平凡な連中らしい。ただ一人を除いては……ね」

 

「竹中半兵衛!」

 

他に稲葉山城を内側から落とせそうな知者がいなさそうだ、という情報もあり、章人は、竹中半兵衛が何らかの形で関わっているだろうという予測をつけていた。

 

「当たり。とはいえ、どうなっているか予断抜きで見に行きたい。こういう時は下手に推測して動くと、外れたときに痛い目をみるから気をつけなくてはいけない

 

あれが今日の宿か。美濃に織田贔屓の宿があるとはね。空いてるといいが。」

 

宿には無事空室があり、そこで何日か泊まる許可を得たのだった。

 

「明日からの行動の割り振りはどうしますか?」

 

「3人一緒」

 

「え……。でも……」

 

「2組に分けたほうが効率はいいだろうけど、2人とも弱すぎるからね。私の目の届くところにいれば、命の危険はない。雛か麦穂でもいたら別なんだけど、いないので仕方ない」

 

「あうう……。それに関してはその通りです……」

 

蜂須賀正勝の質問にはそう答えた章人だった。そして翌日。

 

「とりあえず、城を見に行こうか」

 

章人はそう告げた。この日は白刀のみを、巧妙に服で隠し持っていた。

 

「門番さま、一人しかいませんね……」

 

人の気配もほぼなく、明らかに何かあったことを臭わせる、清洲城とは全然違う雰囲気を漂わせている稲葉山城だった。

 

「ひよ、ころ。あの旗見といて」

 

二人にそう耳打ちした章人だった。本丸に一つ、二の丸に三つの旗が翻っているのを見つけていた。「さて、ちょっと遠くへいこうか」そう言って他人から聞かれる心配のない河原へ移動するのだった。

 

「で、あの4つの旗、誰のだかわかる?」

 

「はい。本丸にあった九枚笹の紋が、竹中半兵衛どの。

 

二の丸にあった三つの旗が、上がり藤の紋、安藤守就どの、折敷に三文字の紋、稲葉良通どの、地抜き巴の紋、氏家直元どの。二の丸の三人は“西美濃三人衆”と呼ばれている方々です」

 

「ふむ……。やはり噛んでいたか。あとは商人の様子でも見て帰ろうか」

 

そう告げて市を見に行く章人たちであった。

 

「座が復活してるんだっけ? ここ」

 

「は、はい。先々代、利政どのの時代は、楽市楽座を取り入れていたんですが、先代の義龍どのが旧来の制度に戻してしまったんです。それと同時期に、久遠さまが楽市楽座を基本方針にしたので、美濃の商人が尾張に流れてきました。そのあたりはご存じでしたか?」

 

「いや、利政がどう、義龍がどうってまでは知らんけどね。織田で読んだ資料に、今の美濃には座があるって書いてあったんだよね。座だの楽市楽座だのは、かなり出るからねえ……。覚えとかんと」

 

「出る……って?」

 

「入試。ああ、知らんでいいことさ」

 

章人が受けるような大学の入試や模試には、中世の経済に関する設問が出ることもあり、それもあって座や楽市楽座政策に関する知識はそれなりにあるのだった。

 

「さまをつけてください。“さま”を」

 

「それもそうだな。さて、一番聞けそうなのは、あそこかな」

 

「どうして……?」

 

「一応、商人のはしくれですから」

 

“財閥”という座を切り盛りしてきたようなものですが、と心の中で呟く章人だった。章人が当たりをつけた店は、大して大きくもない、見たところ煎餅や駄菓子を売っているらしき店であった。木下秀吉と蜂須賀正勝は、本当にこんなところで話が聞けるのか、疑問に思っていた。

 

「こんにちは~」

 

「おや、お客さんかい。見たところ行商人みたいだねえ。こんな駄菓子屋に何の用ですかい?」

 

「この子らにあげる菓子が欲しくてねぇ……。何か甘いのがあればいいんだが」

 

「水あめから、あめ玉でも作ってあげようか。少し時間もかかるし、折角のお客さんだ。上がって行きなさいな」

 

「ありがたい……。お茶でも頂くとしましょうか。2人ともおいで」

 

「は、はい」

 

今に始まったことではないが、凄すぎる、と思う二人であった。あっさり店主に、店の中に入ることを承諾させる話し方は圧倒的なものがあった。そうして、お茶を飲みながら世間話をする章人たちであった。

 

「どうやったかまでは知らないけど、竹中半兵衛さまに、西美濃三人衆の方々が協力してやったみたいだよ。織田の奴らをいつも打ち破ってる竹中さまだ。私らのことも、今より良くしてくれると思うんだけどねえ。でも、龍興さまもこのまま終わることはないだろうし、私らはお先真っ暗だよ。利政さまの時はここも賑わっていたんだけどねえ……。今じゃ織田に取られて閑古鳥さ。

 

さて、あめができたよ。折角だ。お兄さんも食べたらいい」

 

「ええ。そうさせていただきます。とても美味しそうなあめだ。」

 

そう言ってあめをなめる三人であった。最後にお茶のおかわりをいただき、店を出た。

 

「ごちそうさまでした。大変美味しかったです。また寄らせてもらいます」

 

「ああ、楽しみにしてるよ」

 

最後にそう話し、駄菓子屋をあとにする章人たちであった。駄菓子屋を出たあと、章人は、何者かにあとをつけられているということに気づいた。そこで、人通りがまばらで、相手からは隠れるところが多いところで、一芝居打つことにした。

 

「さて、周りがこう、色々と自分を城主にしようとしていたり、足下を埋めようとして、竹中半兵衛さまを城主にしようと動いている。そんな時に、本人はどうするのか。やる気かどうか、だよね」

 

「その気はないでしょうね、きっと」

 

「!?」

 

「ええっ!?」

 

まるで、今気づいたかのようにふるまう章人と、本当に何も気づいていなかった二人の反応を見て、安心したのは、突如現れてそう告げた少女だった。


 
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