No.108807

アリセミ 第四話

 主人公・武田正軒(たけだ せいけん)の正体は、戦国時代より受け継がれし古流剣術の伝承者だった!
 そんなことには まったく気付かなかった山県有栖(やまがた ありす)は、だまされたという気分が講じて、正軒に激しく追及する。
 そうして彼の語る、古流剣術を学び、そして決別した顛末。

2009-11-25 01:29:39 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1247   閲覧ユーザー数:1159

 

 

 

 第四話 天才だから見えてるモノ

 

 

 古流剣術。

 

 

 戦国・室町・鎌倉時代に起源をもつ古い剣術。

 現代の剣道が戦後に生まれ、占領統治をとったアメリカに対し『これは人殺しのワザじゃありませんよ、スポーツですよ』という方便の下 生き残ってきたのに対し、血で血を洗う戦国乱世の気風を色濃く継承してきた戦場格闘術。

 どうすれば硬い甲冑に覆われた鎧武者を一刀に殺すことができるか?

 どうすれば後ろから襲われたとき、寝込みを襲われたとき、不利な状態から勝つことができるか?

 どうすれば多人数を 効率よく殺すことができるか?

 どうすれば戦場で生き延びられるのか?

 現代の剣道が競技・自己修養を目的としているのに対し、古代の剣術が求めるものは あくまで実用的で殺伐としている。

 同じ武具を用いながら、こうも様相を異にする現代剣道と古流剣術。

 その古流剣術の流れを受け継いだ末が、有栖の目の前にいる、

 

 武田正軒だった。

 

 

            *

 

 

 さて、

 あの暴露魔な おじいさんが去って行った後、とある雑居ビルの一角にある剣道教室には、再び有栖と正軒の二人きりとなった。

 

有栖「……………」

 

正軒「……………」

 

 じっとりとした彼女の視線に、正軒は大変 居心地が悪い。

 

有栖「……どうして黙っていた?」

 

 有栖が いかにも非難がましく呟く。

 

有栖「それは強いわけだな、古流剣術といえば宮本武蔵や新撰組が使うようなアレだろ。純粋に人を殺すための技術だ。剣道を知らないクセに強いのも当たり前だな。実戦剣術なら防具なしで稽古するから着け方も知らないし、使う得物は木刀か真剣だから竹刀を握ったことがないのも当然だ」

 

正軒「………うぇー」

 

 なんと言ってフォローすればよいのやら。

 

有栖「何故黙っていた?そりゃあキサマにとっては学生剣道など お遊びだ、真面目に付き合ってやる必要もないとでも思ったか?」

 

正軒「いや、先輩?」

 

有栖「キサマの正体も知らずに玄人ぶる私を見下して、楽しかったのか?」

 

正軒「そんなこと言うなよ、いくら俺でも そこまで性格 捻じ曲がってないぞ」

 

有栖「じゃあ何故、自分が古流剣術の経験者だと黙っていたッ?しかも達人級であることをだッ?アレだけ私を叩きのめしておいて初心者などとは言わせんぞッ!」

 

 正軒は答えに窮し、

 

正軒「…そんなことより先輩、練習再開しなくていいの?時間ないんだろ?」

 

有栖「疲れたから休憩する」

 

正軒「イヤ、あなた……」

 

有栖「うるさいッ!キサマが ご自慢の古流剣術で私をコテンパンにしてくれたから体中が痛いんだ!だから休憩する!足もパンパンだ、揉め!」

 

 にゃーにゃーと鳴いてばかりいる有栖ちゃんに正軒は、犬のおまわりさんのごとく困ってしまってワンワワン。

 仕方なく命令どおり足を揉みます。クッソ、間違えて おっぱい揉んだろか。

 

有栖「手持ち無沙汰だから、キサマの話をしろ」

 

正軒「……………」

 

 やっぱり そうなるのか。

 正軒は長い沈黙の後、とうとう諦めたのか、深い深いため息をついた。

 

正軒「……………………………………………………………………辞めたんだよ、剣は」

 

有栖「辞めた?」

 

正軒「もう何年も前に。先輩のおじいさんが言ったとおり、ウチは何代も前から古流を受け継いできた家系でさ。俺の親父は現当主で、なんか弟子を集めて講座を開いたり、剣道雑誌でコラムを書いたり、結構ハバを利かせてる」

 

 現代剣道にも大きな影響力をもっているということか。

 

正軒「そんな家に生まれたから、俺も物心つく頃から木刀握ってたな。修行はキツくもなけりゃ楽しくもなかったが、親父や周りの大人は『天才だッ』って騒いでた。俺自身には よくわかんなかったけど…」

 

有栖「天才……」

 

正軒「『免許皆伝』とか『目録』とかいうのがあるだろ?詳しい説明はしないけど、ウチの流派にも『目録』の段階があって、それは普通入門三年ぐらいで与えられるもんなんだ。俺がソレを受けたのは小学四年生、正式に入門して一ヶ月後だった」

 

 自慢話と捉えてもいい話の内容だったが、正軒の声音からは一切感情が伺えなかった。本当に、自身の過去について何も思うところがないかのような。

 

正軒「ま、それでスパッと辞めちまいましたとさ、おしまい」

 

有栖「ちょっと待てい!」

 

 途中の展開ハショりすぎ。

 

有栖「辞めたって、そこが一番重要なのではないかッ?なんで、そんなに才能に恵まれていて辞めてしまったんだ?」

 

正軒「えぇ~?いいじゃん。それよりも、デンプンの水溶液に浮かべたアメンボの行動について…」

 

有栖「それこそ どうでもいい話だよ!」

 

 正軒は酸っぱい顔つきになった。どうも触れられたくない話題らしい。

 

正軒「俺が中二か中三の頃かな……」

 

有栖「うん」

 

正軒「親父が、女の子を一人連れてきたんだよ。なんでも親父が懇意にしてるトコの娘さんで『お前の許婚だー』とか言い出して…」

 

有栖「いいなずけ…」

 

 その言葉に、何故か胸がチクリとする有栖。

 

正軒「俺と同じぐらいの年頃だったな。…で、その子も剣術を習っているから仕合ってみろって言われて、仕合ってみた」

 

有栖「で?」

 

正軒「コテンパンに負けた」

 

 正軒が言うには、十本ぐらい勝負をして一本も取れなかったという。同世代の、しかも女の子から、打った手をすべて読まれ、向こうからの技は防ぐこともできず、面白いように打たれたのだそうな。

 

正軒「まさにサンドバックの心地だったよ。もー俺が完全にボロ負け」

 

有栖「うそ…」

 

 有栖はにわかに信じることができなかった。

 正軒のアホのような強さは たった今体験済みだ。その正軒が手も足も出ないなど、どれほど強いというのか。そんな超人のような女の子が本当にいるのか?

 

正軒「いるんだよ、本当の天才てのは ああいうのを言うんだろね。親父もソレを見込んで俺の許婚にしたらしいけど…」

 

有栖「それで、どうしたんだ?」

 

正軒「辞めた、剣を」

 

 流れる沈黙。

 

有栖「……女に負けて剣を投げ出したということか?情けないヤツだな」

 

正軒「うるさいなあ!そう言われると思ったから話したくなかったんだ!」

 

 正軒はバツが悪そうに頬を掻いた。

 

正軒「言い訳と思っても いいけどな。別に、それが原因てわけじゃないんだよ。その頃から段々と思うようになってたんだ、ガキの時から ずっと剣を学んできたけど、それに意味があるのか?剣術は俺自身にとって何かプラスになるのか?ってね」

 

有栖「それは…?」

 

正軒「平たく言うと剣に意義が見出せなくなったのさ」

 

 剣の修行は、学ぶ者の人格を養う、ヒトを敬う心を育てる。

 そういった美辞麗句は、当時の正軒にとって聞くほどに詭弁としか思えなくなった。

 

 剣術は、人殺しの技術以外の何者でもない。

 

 ヒトを害することにおいて究極ともいえる技を学んでおいて、他人を敬うもクソもあるものか。

 ならば、開き直って 人を殺す剣術を極めよう、と励んでも、それを実行すれば今の時代では犯罪者だ。

 

 

 結局俺は、何のために剣術を学ぶんだ?

 

 

正軒「学べば学ぶほど、剣ってものがウソ臭く見えちまってな。…で、そんな折に初めて会った女の子に負けた。それが いい潮だと思って辞めることにしたのさ。……そしたら、親父のヤツがスゲエ怒ってな」

 

 古流剣術当主の父、元々 彼としては、天才的に技量を高める息子が、その才能に驕ることを恐れて、より才能に恵まれた相手をぶつけてきたのだろう。世の中には お前より もっと強い者がいる、だから慢心せずに己を鍛えよ、と。

 その配慮がまったく裏目に出たことになる。

 

正軒「けっこう大喧嘩になってな、軟弱者だの井の中の蛙だの色々言われたけど、剣に情熱を見出せなくなったのには変わらない。…結局勘当ってことで話がついた」

 

有栖「勘当っ?」

 

正軒「剣をやらない俺に存在価値はないってさ」

 

 正軒はおちゃらけて言うものの、聞く方の有栖は絶句せざるを得ない。勘当って、親子の縁を切ることだろう?

 

正軒「俺が修養館に入ったのは、親戚が そこの理事長をやってるから。その人を後見人にして高校を出るまでは金を出してやるってことで親父とは話がついた。大学は知らん、金を出してほしいなら再び剣を始めるのが条件だ、ってね」

 

 そうして正軒は、高校の付近に格安のアパートを借りて一人暮らし中。最小限の生活費に自身のアルバイト代を加え、つつましいながらも独立した生活を営んでいる。

 

正軒「こうして修養館の、自堕落でお気楽な高校生が一人出来上がりましたとさ、というお話」

 

有栖「……………」

 

正軒「大した話じゃないでしょ?」

 

 なんと言っていいのかわからない有栖。

 道場に、しばし沈黙が流れた。

 

有栖「……すまん」

 

正軒「なぜ あやまるっ?」

 

有栖「私は、キサマの事情も知らずに、ずっと侮っていて、キサマを貶めてしまった……」

 

 正軒は、形はどうあれ自分の生きる道を模索し、親と衝突してまで自分の道を歩こうとしている。対して自分は両親の下でのうのうと暮らし、祖父からこんな練習スペースまで与えられ、部活のことぐらいでガタガタ騒いで……。

 

正軒「そういうの、ホントやめてくれよ先輩」

 

 正軒が常にない真面目な口調で言う。

 

正軒「俺は、世間一般より大変な思いをしているつもりはないし、不幸でもないし、がんばってもいない。ただ自分の好きなように生きてるだけさ、それは他の人も大体同じだろ?」

 

有栖「だが…」

 

正軒「俺は、好きに生きるために親父と争わなくちゃいけなかった、ただそれだけさ」

 

有栖「キサマ、大人だな……」

 

正軒「だから やめてくれって。……はいッ!この話もう止めッ!練習 続けようぜ、もう先輩の足 揉み飽きた!」

 

 正軒は話中ずっと有栖の足を揉んでいたのだった。

 

正軒「もー完全に揉み解したぜ。……まだ休憩するって言うなら、今度は先輩の胸をもませてもらうかな…」

 

 フッフッフ、と邪悪な笑みを浮かべる正軒。

 

有栖「いいぞ」

 

正軒「えっ?」

 

 なんか望外のお答え。

正軒「なに?今なんつった、なんつった?」

 

有栖「胸を、揉ませてやらないことも、ないぞ」

 

 ええぇぇぇーーーーーーーーーッ?

正軒「なんだ この超展開ッ?先輩ご乱心?淫魔にでも取り憑かれたッ?」

 

有栖「淫魔 言うなッ!……まあ、その、なんだ、私も思い返せば色々と、キサマのことを悪く言ってしまったからな、事情も知らずに。…それを反省するという意味もこめて、詫びのしるしにだな」

 

 触ってもいいと?

 ちょっと世間の感覚とズレてないか先輩?

 

有栖「男というのは、そういうのが好きなのだろう?私はよく知らんが、触るぐらいなら別にかまわん。

 

 どうやら有栖さんは、共学の中で陸の孤島みたいになっている女子剣道部に浸ってきた結果、こうした男女の機微に大変疎くなってしまっているようだ。

 有栖さん そんなに自分を安く扱っちゃダメ!と思うんだけども、目の前には校内トップ10入りとウワサされる剣道部部長の巨乳、達観していながらも健全な男子である正軒君にとって、この提案は悪魔のように魅力的なわけで…。

 

有栖「女子更衣室に忍び込むほど女好きのキサマなら、必ず喜ぶと思ったが」

 

正軒「なんか聞き逃しがたい誤解を受けてるけど!もう誤解を誤解のままに してもいいぐらい魅力的な提案!いいのっ?触っちゃうよ、マジですかッ?なんと言いますかッ!」

 

 落ち着け男子。

 

有栖「うむ、これで、これまでのことは水に流してほしい」

 

正軒「あー、もー、やったらーッ!!」

 

 正軒君のタガが外れました。

 理性崩壊、もう彼の本能を阻むものは何もないと、オオカミの牙のごとき両手は、たっぷりと果汁を含んで滴り落ちそうな柔らか果実へと迫る。

 だってムネだ!全億千万の男たちが大好きなムネだぞ!

 アダムさんが禁断の実を齧ってから こっち、何万世代にもわたって男たちを翻弄してきたムネッ!

 柔らかい!あたたかい!

 億千万の胸騒ぎ!

 それを揉まずして何が男か!

 武田正軒よ!お前は何のために生まれてきたんだ!

 そう、今この有栖先輩の胸を揉むために生まれてきたといっていい!

 揉むことさえできれば我が人生一片の悔いなし!

 とにかく揉め!先輩の胸を揉め!この推定Dカップは固い この巨乳を!

 何でアナタはこんなに大っきいんですか先輩ッ!

 

 などという葛藤が、正軒の中で繰り広げられている その時も、彼の手は少しずつ、しかし確実に、目標へと迫りつつある。

 20cm、

 10cm、

 5cm、

 ビビッて寸刻みにしか進めない手であった。

 正軒の頭は益々のぼせ上がる、というか既に煮立っている。

 そして、ついに彼の指が、有栖の柔らかくも張りのある二つの山の、その表面に到達した。

 ポヨム。

 という感触が、したかな?との実感が、現実のものであるか幻覚であるか、判断が下されるその一瞬前、

 

 

祖父「有栖に正軒さんや、晩御飯が出来上がりましたぞーッ」

 

 

 再び舞い戻ってきた有栖のおじいさん。

 

正軒「ぎゃあーーーーーーーーーーーーッッ!」

 

 有栖の聖域に触れる寸前だった正軒は、磁場が反転したかのごとく爆発的勢いで飛び去り、道場の隅まで転げていった。

 その様を見て、おじいさんは何事が起きたのか?と眉根を寄せたが、やがて一人納得して、言う。

 

祖父「おや、有栖は正軒さんから柔術の手ほどきまで受けておるのか、上手く投げおったのう」

 

 天然ボケのおじいさんだった。

 どうやら今のを柔道か何かの稽古と勘違いしたらしい。

 

正軒「………予想してた、予想してたよ」

 

 ハイ、お約束です。

 

有栖「私、考えてみたらなんと大胆な」

 

 冷静になってみたら、なんてスゴイことをしていたんだろうと顔から火が出る有栖であった。

 

                to be continued


 
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