No.1063510

紫閃の軌跡

kelvinさん

外伝~建前と本音の乖離~

2021-06-04 15:05:00 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1591   閲覧ユーザー数:1368

~エレボニア帝国 クロスベル州 聖ウルスラ病院~

 

「準備が整い次第、警戒網を一掃する。向こうは『痩せ狼』とかもいるだろうが、その辺は大丈夫か?」

『それなんだがな、クルルの奴がグーパン一発で空高く吹き飛ばしやがって……生存については不明だ』

 

 仮に生きていたら、それはそれで女神の加護があったということにしようと思いつつ話を進める。ルドガーの情報によれば、周辺地域から増援という形で結社の兵士や『赤い星座』、『北の猟兵』などといった猟兵らが紛れ込んでいるらしい。なので、アリオス・マクレインやリーシャ・マオらはそちらの対応に割く必要がある。

 

「まあ、周囲から引き込むことは予想の範疇だ。それで、動けるとしたら俺とシルフィア、レイアにルドガー、エステルにヨシュア、ロイドにエリィ、ダブルレンにスコールとクルル、それとあの二人ぐらいか」

『あの二人? こっちに誰か来るのか?』

「ルドガーには言ってなかったが、『戦力としては申し分ないが、敵味方双方を混乱させかねない』のが二人いる」

『あー……そういうことね』

 

 エステルやロイドは首を傾げているが、アスベルの言葉で凡その事情を察したルドガーは溜息をひとつ吐いた。マリクもその辺を察しつつアスベル問いかけた。

 

『アスベル。俺らでも殲滅は可能だが、どこまでやるつもりだ?』

「衛士隊として機能不全に陥らすのは治安面からして拙いですから、一時的な麻痺の範疇でいいでしょう。無駄に抵抗した場合はこちらの生存を最優先で」

 

 現時点で変に警戒を厳しくさせるように仕向けるのは宜しくない。それに、いくら衛士隊とはいえ現在のクロスベルの治安を担っているのは事実。なので、必要以上の抵抗をしなければ降参させるのが望ましいだろう。とはいえ“黄昏”のこともあるので、最悪は命を奪うことも選択肢の一つとして残すつもりだ。

 いくら遊撃士や警察官とはいえ、自分の命ぐらい守れないようでは何も守れないことぐらい理解していると思うので、必要以上に言うつもりもないが。

 

「正直過剰戦力なのは否めないが……この分だと、アイツも飛ばされている可能性が極めて高いんだろうな」

『だろうな……お前のほうで“調べ”られないのか?』

「無茶言うな……」

 

 アスベルとルドガーはお互いの力について把握している。アスベルの特典―――“零の至宝”はキーアとの接触でようやく本覚醒を果たしたわけだが、因果律を“視る”というのも剣術を使う以上に精神力を使う。霊脈の流れを見た上で相手の動きを見切る術も会得しているが、余程の状況に陥らない限りは使用しないと決めている。

 理由はそれに依存してしまう癖を持ちたくないから、というある意味子供じみた理由だが。

 

「ともあれ、ミシュラムに行ったユウナ達から連絡を受け取り次第、こちらも動くことになる。例の二人にはこちらから連絡しておくから」

 

 連絡を終えてARCUSⅡを仕舞い、シルフィア達に一連の流れを一通り説明する。流石に第Ⅱ分校の面々に衛士隊を相手にしろ、などと頼むつもりはないが。

 

「流石に湿地帯へ一極集中、というわけじゃないんでしょ?」

「敵を派手に引き付ける陽動は考えてある。というか、ルドガーがその辺の段取り位既に組んでいるだろうからな。残るは殲滅部隊の対処ぐらいか」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ユウナ達は無事に目的を達することが出来たようで、ミシュラム方面から湿地帯に突入したとの連絡を受けた。ヴァレリーとスタークはルイセやフレディと合流した上で行動すると一度別行動をとる形となった。

 三人で多数の相手を引き受けるのは別にこれが初めてではないが、法術で認識阻害をしつつ威力偵察も兼ねた行動をとる形とした。すると、さっそく出くわしたのは見慣れないフォルムの機甲兵。流線形を意識したフォルムもさることながら、気に掛かるのはその機甲兵から発せられる“黄昏”の波動。

 

「もしかして……“黄昏”のエネルギーを使って稼働させてるの?」

「恐らくはな。“黄昏”も“鋼”の一部だから、負の感情さえあればほぼ無尽蔵に動かせてしまうことにもなるだろう」

 

 とりわけ戦争は何かを“奪う”。確実に人を殺める状況へと発展した場合、負の連鎖は否応なく発生してしまう。その積み重ねが極まれば、“黄昏”は最早制御できない代物へと変貌してしまうのは想像に難くない。

 

「至宝ですら人の手に余るものだというのに……正気の沙汰ではありませんね」

「こんな状況を平気で生み出せる連中に、正気だとか常識の余地なんてないとは思うがな」

 

 そう呟きつつ、アスベルは大剣を抜くと近くにいた新型―――魔煌機兵の駆動部を一撃で破壊し、戦闘不能に陥らせる。兵士たちはいきなり現れたように見えたアスベルの姿に動揺を隠せない。

 

「な、何者だがあっ!?」

「お前らに名乗る名前は持ち合わせちゃいない―――沈め」

 

 近くにいた兵士らを大剣の一撃で容赦なく斬っていく。これにはシルフィアのみならずレイアも苦笑を浮かばせていた。使っている武器の違いもあるのだが、図らずも並行世界の未来に飛ばされて要らぬ気遣いをする羽目になったことへの腹いせもあるのだろう…と二人は思ったのだった。

 

「アスベル……里に帰ったら、好きなもの作ってあげるから」

「じゃあ私は背中を流すぴょん!?」

「大事な局面でふざけてる場合じゃないから」

 

 勝手に人をストレス持ちにされたため、つい反射的にレイアにチョップを食らわしたアスベル。それが今回は結果的に良かったようだ。何せ、騒ぎを聞きつけて次々と兵士や魔煌機兵が近寄ってきている。その数は数百を下らないようだ。

 

「帝国の技術力は知っちゃいたが……さて、第Ⅱ分校の連中のこともあるし、なぎ倒すか」

「連絡で言ってたこととやってることが乖離してるよ……」

「レイア。貴方がそれを言っても説得力ないから」

 

 そんな他愛のない会話をしながらも止まらない動きで帝国軍の兵士と兵器を薙ぎ払っていく。それを敵方から見れば、自分たちの自信を完膚なきまでに破壊されていく様相。これには“黄昏”の影響すらも飛んで行って逃げ出す兵士も出始めていた。

 そんな光景を合流組であるロイドとエリィ、エステルとヨシュアは冷や汗を流しつつ見る羽目になった。

 

(ヨシュア。ここに来る途中で大型の魔獣をエステルとエリィの二人が薙ぎ倒したことはどう説明したらいいんだ?)

(……ゴメン、ロイド。僕にも上手く説明できる自信がないよ)

 

 そもそもの話、つい先日まで複数人で対処していた魔獣を単独で対処できるようになった時点でかなりの成長と言ってもいい。この時点で個人のレベルアップはしているわけなのだが、以前の感覚がどうしても捨てきれない以上は致し方のないことなのかもしれない。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 気が付けば警戒網の大半を薙ぎ倒していて、予定の時間を過ぎていたようだが……目的は達したと判断して目的地である湿地帯の最奥に向かうと、そこにはユウナ達の機甲兵を圧倒する7体目の騎神―――<黄金>のエル=プラドーが出現していた。他にいると思しき敵の姿だが、カンパネルラとレクター・アランドール、そしてシャロン・クルーガーが膝をついているような状況だった。

 

「……無事に人外への道を歩んでいて、どう反応したものか悩むな。とはいえ、騎神相手は少々厳しいか」

『アスベルさん!』

『ほう……君が殿下や猟兵王の言っていた見慣れぬ騎神の起動者か』

 

 エル=プラドーから聞こえてくる声は、紛れもなくルーファス・アルバレアその人。試しの場所へと接続するための結節点としてこの場所が適しており、加えて“黄昏”の影響で異常なほどに霊力が収束している。

 この状況だけ見れば、彼がクロスベル総督になったのは彼自身の願いを達するための第一歩ということなのだろう。その彼はというと、騎神の剣の切っ先をアスベルに向けていた。

 

『まだ余興には時間もある。出したまえ、君の騎神を』

「……言い出したのはそちら側だ。今更前言撤回はさせない―――来い、アクエリオス!」

 

 アスベルの言葉と共に姿を見せるアクエリオスに乗り込み、太刀を構える。

 

 そうして始まる騎神同士の戦闘なのだが、ここで冷静になって考えてほしい。ルーファス自身は帝国でも指折りの剣士だが、アスベルは元々のゼムリア世界でユン・カーファイより八葉一刀流の継承を認められた存在。しかも、アスベルの乗るアクエリオスの動力源は至宝丸々一つが乗っているようなもの。起動者の実力差と騎神の出力差をエル=プラドーの特殊能力でカバーしたとしても、達人(マスター)クラスのアスベルが空間移動の揺らぎに気が付かないはずなどない。

 結果を述べるとするならば、アクエリオスがエル=プラドーの攻撃を簡単にいなし、一方的な展開でエル=プラドーを圧倒せしめたのだった。

 

「……味方で本当に良かったと思う」

「ああ。こればかりはユウナと同じ意見だ」

「この調子だと、鉄血の野郎が哀れに思えてくるな」

「寧ろ、彼に逆らう方が消し飛びそうな気がします」

「誇張表現、といえないあたりが妙に納得できてしまいますね」

 

 新Ⅶ組の面々から辛辣な意見が飛び交っているが、旧Ⅶ組込みとはいえカンパネルラとレクター、シャロンと言った実力者に膝をつかせた当事者が言っていい言葉ではないと思う。その辺のことは後で問い詰めると決めた上で太刀の切っ先をエル=プラドーに向けた。

 

「それで、まだ戦う気なのなら相手になるが……どうする?」

『……君は本当に人間なのかね?』

「さあ? 少なくとも“不死者(ノスフェラトゥ)”ではないし、人間としての理性はあるつもりだ、とだけ答えておく」

 

 この時点でルーファスは気付いていないが、警戒網として配置した衛士隊はほぼ戦闘不能状態に陥っている(「試練」の中にいたら流石に気付くのは難しいだろうが)。そのことを態々言ってやる必要もない。ルーファスらは1時間後に殲滅部隊を差し向けると言い残し、大人しく撤退していったようだが……その部隊が丸ごと壊滅していると知ったら、どんな反応を示すのかほんの少し興味がある。

 そんなことを思いながらアクエリオスから降りると、機甲兵から降りたユウナ達が苦笑を滲ませていた。どうせ失礼なことを考えていたのは明白なので、こう告げた。

 

「―――里に帰ったらサングラール迷宮の最奥でみっちりしごいてやるから、覚悟しておくように」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 エリンに戻ったら特訓することが決まったことはさておき、エステルやロイドたち、一応助太刀に来たブルブラン(本人曰く『好敵手に対してのものも含んでいる』らしい)らとは距離を置いたところでルドガーやマリク、それに加えてスコールとクルルにアスベルらの世界にいるはずのレンまでいた。

 

「直接顔を合わせるのは久しぶりだが……面倒事に巻き込んでくれた当事者をぶん殴りたいところだ」

「それは同感だが、現状だとそのトリガーが読めないからな。せめて何かしらの兆候とかがあれば分かりやすいんだが」

 

 何せ、目が覚めたら既に転移していたようなもの。自身ですら転移の兆候を全く感じ取れなかった。間違いなく神レベルの奇跡だということは言うまでもない事実だ。誰の仕業か突き止めたいところではあるが、この世界での“時間”は正直分からない。だが、少なくとも一つだけ分かっていることがある。

 

「この“黄昏”を消滅させることが出来れば、恐らく元の世界へ帰れる……そんな気がするんだ」

「ま、アスベルが言うからには説得力がありそうだが……だが、どうやって“黄昏”を消滅させるんだ?」

 

 現状では霊脈を通して帝国中に拡散してしまっている“黄昏”。その根源は間違いなく帝国だが、リィンによって大地の神獣という核を喪ってしまっている。ならば、その核を何らかの形で作ることが出来れば……それも、強大な力を持ちうる“鋼”の性質を持つものでなければならない。

 

「手掛かりはあるが……この状況を使って<七の相剋>を行い、七つに分割した“鋼”を元に戻す。これこそ敵の狙いなんだろうが、その状況に持ち込むにはリィン・シュバルツァーの奪還は必須だろう」

「ふむ、俺らの騎神では<相剋>を起こせないのか?」

「少なくとも助力ぐらいはできるだろうが、動力源の性質が全くの別物だからな」

 

 この辺は猟兵王やセドリック、ルーファスの騎神と戦った感触から得られたものだ。そもそも、“黄昏”が“鋼”から分離したものである以上、同じ性質を持つ動力を有する騎神同士でなければならない。だが、幸か不幸か自分らの<七の騎神(デウス・エクセリオン)>はその縛りに含まれない。動力源が異なるのだから当然の流れとも言えようが。

 

「つまるところ、他の騎神を“取り込む”ってことか……リィンにそれが耐えられるのか?」

「難しいだろうな」

 

 取り込む以外の選択肢が現状あるかどうかも不明だし、そもそも心優しいリィン・シュバルツァーにそれが耐えられるかどうかも分からない。だが、彼を奪還しないことにはこの先の道も見えないのは確かだろう。

 ひとまずアクエリオスの『精霊の道』で帰ることは決まったが、ルドガーやスコール、マリクとクルルは山猫号Ⅱで帝国方面に向かうということで別れることになった。ロイドやエステルらからキーアとこの世界のレン、そしてアスベルらの世界のレンが加わる形となった。

 結局、クロスベル方面に向かっていたと思しき二人とは会えなかったが問題はないだろう……そう思っていた自分を殴りたくなったのは、里の転位陣に到着した直後だった。

 

「戻ってきたか。妙なお客さんもいるようだが」

「え……レ、レーヴェ!? って、レインは動揺してないようだけれど」

「あー、貴方達も“飛ばされた”って聞いてたけど……こんな再会は私もちょっと驚いたわ」

 

 既に事情を聞いているアスベルらの世界のレン―――以後は“レイン”と呼称する彼女は驚くどころか納得している様子とは対照的に、この世界のレンは驚きを隠せなかった。その一方、レーヴェと呼ばれた青年は一息吐いた上で述べた。

 

「そうだな。言っておくがこの世界の<剣帝>ではないことは断言しておく。それはそこにいる彼女と―――アスベルらが証明してくれる」

「ええ。それは間違いないと断言できるかと」

 

 この世界のレーヴェはアスベルの騎神であるアクエリオスの思考フレーム―――その核となっている。そのことを新Ⅶ組も知っているため、特に騒ぎとなることはなかった。

 

「まあ、しばらくは里の外に出ることもないが……他の面々も来たようだ」

 

 レーヴェがそう言うと、帝都に向かっていたメンバーがユウナ達を出迎え、更にはローゼリアも姿を見せた。彼女のアトリエにある星見盤には打ち込まれた七つの特異点が表示されており、これの解析には数日かかると言ったローゼリアだが……それを見たレンがキーアに問いかけた。

 

「成程、大規模の霊脈シミュレートモデル……キーア、行けそう?」

「うん。キーアだけでも行けなくはないけど……アスベルに手伝ってほしいかな」

 

 その言葉にアスベルへ視線が向けられる。恐らくキーアがアスベルの中にある“零”に気付いたからかもしれない……元々そういう力を持っていたからこその洞察力には、アスベルからため息が漏れた。

 手伝うこと自体問題はないが、ここでのことは一切口外しないことを約束させた。いくら並行世界とはいえ、キーアに“零の御子”としての力を取り戻させようとする輩はいるはずだ。何せ、この世界の使徒第三柱―――『白面』の後任者はあのマリアベル・クロイスなのだから。

 

 アスベルの助けとキーアの視る力、レンの持ってきた簡素版エイオンシステム搭載端末、そして各々のARCUSⅡで解析は結果として半日で済む形となったのだった。

 

 

大分久々の投稿です。

湿地帯での戦闘がまるっきり抜け落ちていたことに気付いて、掘り起こしてきたものです。なので、順番が前後してしまうのはご了承ください。

 


 
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