No.106073

真・恋姫†無双:Re ~hollow ataraxia~ 第一章 1-2

rikutoさん

※注

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駄文

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2009-11-09 00:39:32 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:6911   閲覧ユーザー数:5817

―――夢―――

 

 

とおい、夢をみた

 

月と星が輝く夜に、互いに酌み交わしたのは酒か心か

 

「ふむ……主もなかなか佳き男になられた」

 

星は空を仰ぎ、白銀の輝きは天を蓋う

 

「ふふ。そう願いたいものです」

 

背中合わせに寄り添う、二人のためだけの月世界

 

「私の心も、私の命も、戻るべき場所は主の傍をおいてありませぬ。それをお忘れ無きよう」

 

とおい、誰かのみた夢

 

「……一人で居なくなる事だけは、絶対にしないでくださいませ」

 

きっとそれは、消えることなく続く夢

 

「私は惚れた男をみすみす手放すほど、甘い女ではありませんよ?もし私や彼女らを置いていくようなことがあれば……皆を率い、いかなる手段を使ってでも天界に討ち入りますので。お覚悟を」

 

終わることなく語り継がれる物語

 

「自惚れるな!北郷一刀!」

 

ならば、それをみる『俺』は誰なのだろう

 

「私と交わした杯も、重ねた体も……私や皆のこの想いも……主の知る歴史の通りだと?誰かの書いた歴史の通りに進んでいると、そうおっしゃるか!」

 

夢の中の『俺』を、眺めている『俺』は、誰なのだろう

 

「ふっ。主のご命令とあらば、冥府の番人すら打ち倒してご覧に入れましょうぞ」

 

夢が消えていく

 

「ふふっ、それでこそ、私の認めた主です」

 

もっとみていたいのに

 

夢は終わり、意識も薄れていく

 

それに、胸が熱くなる

 

力の限り叫びたくなる

 

いつだって無力で

 

いつだってどうしようもない何かに翻弄されて

 

いたずらに奪われて、気まぐれで与えられて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、そうか

 

きっとそれこそが俺が戦うべき―――

 

 

目が覚めると、寝台の上に居た。

 

何か、大切な夢を見ていた気がするけれど、思い出すことが出来ない。

 

けれど、どこか心地よくて切ない熱だけが、胸の奥に残っていた。

 

不意に頬を伝う涙に気がついて、腕で拭う。

 

「痛っ………」

 

起き上がろうとすると、全身に鈍い痛みがはしった。

 

そして、何があったのか思い出す。

 

(そっか、俺は趙雲に……あれ?趙雲に、勝たなかったか?なんでこんなところで寝てるんだ?)

 

趙雲が冷静になり、ようやく話が出来ると思ったところで記憶が途切れている。

 

(まぁ、無事みたいだしいいか)

 

思い出せないものは仕方がないと、今の状況を把握することに考えを切り替えた。

 

 

『とき―かすませて――さだめ』

 

 

と、不意にどこからか詩が聞こえてくることに気がついた。

 

『ひとり ぬれたひとみふせ』

 

それはどこか悲しい詩。

 

『はなれていく きずなが』

 

気がつけば、俺は吸い寄せられるように歩き出していた。

 

『くるおしいほど いたみふかくまで わたしをこわす』

 

建物の扉を開けて外に出る。

 

『はるか かなたにひろがる そらをみあげて』

 

外はもう夕焼けに染まっていた。

 

『ちよをかけよとうたう あいをつらぬくうた』

 

詩は、頭上から聞こえてきていた。仰いでみれば、建物の屋根の上に、ヒナがいた。

 

 

―――その姿に、俺はおもわず見惚れた。

 

 

夕陽を背景に、鳥たちに囲まれて、唄う少女。

 

それがなぜか。

 

―――必死に何かに耐えている様にみえて。

 

―――何かに一生懸命な様にみえて。

 

その姿は、とても神秘的で。俺は魅入られたように、ただ眺めることしかできなかった。

 

 

―――

 

 

――――――

 

 

―――――――――

 

 

詩が終わると、鳥たちが一斉に飛び立っていった。

 

ヒナは俺を一瞥すると、なんでもないように屋根から飛び降りて、こちらに近づいてきた。

 

 

………屋根から地面まで結構な高さがあるんですけど?

 

 

「………」

 

すぐ隣まできて立ち止まったヒナは、何もいわずに俺の顔を見つめていた。

 

少し焦った。

 

先程のヒナはとても綺麗で。みてはいけないものをみてしまったような、そんな後ろめたい気分になったから。

 

唄っている時に何度か目が合ったから、気付いていなかったわけではないはずだ。

 

だから、別に悪いことなんて何もないはずなのだけど。

 

「え、と。おはよう」

 

沈黙に耐えられず、俺は話しかけた。

 

「………一刀、涙」

 

「………えっ?うわっ、ほんとだ!?」

 

俺はヒナにいわれて、自分が涙を流していることに気がついた。あわてて拭う。

 

「あ、あはは。ヒナの詩があまりにもすごかったから、感動しちゃったみたいだ」

 

「………そう」

 

ただそれだけを口にして、再び沈黙。

 

どうしたものかと思案に暮れていると、

 

「よぅ、ずいぶんと遅いお目覚めだな」

 

不意に背後から声をかけられた。

 

振り向けばそこには、見たことのない男性と、なぜか不機嫌そうな趙雲が立っていた。

 

 

「さて、バカ弟子から昨日の事はある程度聞いたが正直さっぱりだ。そっちのお嬢ちゃんがいうにはお前が目を覚ませば話してくれるってことだったからな。とりあえず話を聞かせてもらおうか」

 

案内されて、小屋の中に入ると、紫虚と名乗る人物がそういってきた。

 

昨日の夜、あの後(俺は趙雲に殴り飛ばされて気絶したそうだ)紫虚さんが趙雲のもとに現れると、趙雲もすぐに意識を失って倒れたそうだ。

 

それで、残ったヒナが事情を説明して(どんな説明をしたのか不安で仕方がないのはなぜだろう)一晩泊めてもらったそうだ。

 

ちなみに、趙雲があまりに不機嫌そうな顔をしているので聞いてみると、趙雲が、朝、目を覚ますと目の前に上半身裸(濡れていたので服は脱がされた)の俺がいたそうだ。

 

それでどうなったのかは聞くまでもない。

 

一言でいうならフルボッコ。体中が痛いのはそういうことらしい………。

 

危うく二度と目覚める事が出来ないようになりそうだったところを、みていたヒナが止めてくれたらしい。

 

 

ありがとうヒナ。でも見てたのならもう少し早く止めてくれ。

 

 

それで俺が目覚めそうにもなかった(なくなった)ため、一度解散して俺が起きるのを待っていたそうだ。

 

「話といわれてもなにから話したらいいのか………」

 

「おいおい。まず自分の名前くらい名乗ったらどうだ?」

 

そういえば名乗っていなかった。

 

「すみません、忘れてました。俺は北郷一刀っていいます」

 

「姓が北で名が郷、字が一刀か?珍しい名前だな」

 

このやりとり、もう何度目だろう。

 

「いえ、姓が北郷、名が一刀。字と真名は「………一刀の真名はポリ――」ありません」

 

ヒナが余計な口を挟もうとしたのですかさず口を塞いだ。今、なんていおうとしたんだヒナ?

 

「「字と真名がない?」」

 

突っ込まれた。予想通りというか、いつも通りというか………。

 

とりあえず、こことは別の場所、遠い場所からやってきた。俺のいたところにはそういう風習はないのだ、と説明して納得してもらおうとしたが、

 

「遠いところから旅をしてきたというが、おぬしはまだ子供ではないか。妖でないというのなら、その話はいささかおかしいと思うが?」

 

と趙雲に突っ込まれた。

 

そうなのだ。俺こと北郷一刀は子供になっていた。趙雲と同じか、少し幼いくらいだと思われるが、これについては俺にもわけがわからない。

 

 

”本当は大人なのですが、怪しい男に武者修行してこいっていわれて、気がついたら子供になっていました。”

 

 

………うん、意味がわからない。そんな説明、されたほうもしたほうも困る。

 

どう説明すればいいのかわからず、ヒナに目線で助けを求める。

 

すると俺のSOSが伝わったのか、黙ってみていたヒナが口を開いた。

 

「………一刀は甘えん坊。自分でやらなきゃ、ダメ」

 

助けてくれるどころかダメ出しされた。泣いていいですか?

 

………もしかして口を塞いだことを怒っているのだろうか?

 

進退窮まるとはこのことか。

 

しかしこの場に助けてくれる味方は居ない。

 

自分を信じろ北郷一刀。今の俺は、突然この大陸に放り出されたあの頃の無力な学生じゃない。

 

頼もしい仲間たちに支えられて、幾度となく大陸を平定して、英雄とまで呼ばれた男だ!

 

この程度の逆境、この身一つで切り抜けられずして何が英雄か!

 

そんな風に自分を鼓舞する。そうしないと心が折れそうなんです………。

 

 

 

そして、閃いた。かくなる上は"アレ"で行くしかない、と。

 

俺は覚悟を決めて口を開いた。

 

 

「実は………」

 

「実は?」

 

「俺はこの大陸を救うために遣わされた、天の御遣いなんです」

 

「「「………」」」

 

 

やめて!そんな哀れみに満ちた目で俺を見ないで!!

 

 

というか、いつの間にかヒナまで紫虚さんたちの方にまわってるし!お前はこっち側だろ!?

 

しかし、天の御使いを自称してしまった………。自分で言い出しておいてなんだが、ここでひくわけには行かない。

 

まだだ!まだおわらんよ!!

 

「いや、信じられないと思います。でも本当のことなんです。現在はまだそれほどでもないのかもしれませんが、将来、この大陸は動乱の時代に突入します。そして幾度となく大きな争いが起きる。その乱世を収めるために、俺はこの世界に来たんです」

 

未来の予言までしてしまった。いっそ占い師を名乗ったほうが良かったかもしれない。

 

紫虚さんも趙雲も黙り込んでしまった。

 

………

 

………………

 

………………………

 

 

沈黙が痛い。

 

俺はやってしまったことを悟った。

 

いったいどこで間違ったんだろう。

 

いったい俺は何をしているんだろう。

 

そんな考えが頭の中に溢れかえって、無性におかしくなる。

 

ハハハ、モウナニモカモドウデモイイ。

 

 

「………一刀はがんばった。自分を責めちゃ、ダメ」

 

 

半ば自暴自棄になっていた俺の傍にヒナがやってきて、頭を撫でる。

 

これが飴と鞭というやつなのだろうか。何か釈然としないが、そんなことどうでもよくなるくらいに、ヒナのやさしさが心にしみた。

 

あ、やば。泣きそう。

 

 

「何か、それを証明できるものはあるか?確かにお前の着てる服は光っててみたこともないが、それだけじゃこっちとしても判断しかねる」

 

すると、不意に紫虚さんが口を開き、聞いてきた。

 

「師匠!?」

 

それを聞いて趙雲が驚きの声を上げた。

 

「………え?し、信じてくれるんですか?!」

 

 

「それを判断するために話を聞いてるんだろうが。さすがに、天の御遣いだとか言い出したときはてめえの正気を疑ったが、俺たちは流星が落ちてきたのを見てるからな」

 

「むぅ………」

 

紫虚さんの言葉に、実際に流星の墜落現場にいた趙雲は黙る。

 

「で、どうなんだ?」

 

そう問いかけてくる紫虚の態度に、一筋の光明が見えた気がした。

 

「っ、ちょっと待ってください」

 

ここで何とか信じてもらおうと、俺はなにかないかと、懐を探る。

 

そして、携帯電話を見つけた。

 

これなら十分、話の足がかりになると思って嬉々として取り出す。

 

………が、携帯電話は壊れていた。

 

それはそうだ。耐水性なんて洒落た機能もついていないのに、あれだけ何度も川の中に水没すれば、無事なはずがない。

 

俺の携帯………。(泣

 

他に何かないかと懐を漁るが、何も出てこなかった。

 

壊れた携帯をみせ、天界の話などをいくつかしてみたが、実物がないので、いまひとつ説得力がない。

 

万策、尽きた………。

 

俺が諦めかけたそのとき、ヒナが動いた。

 

俺は黙って成り行きを見守る。

 

「………これを見て、ください」

 

「ん?これは…剣か?それにしては随分と細いな。これがどうかしたのか?」

 

ヒナは、昨夜俺に投げてよこした刀を手にしていた。

 

一度、紫虚たちに手渡し、再び受け取る。

 

「………これは、杏仁豆腐でできて、います」

 

「「……はぁ?」」

 

 

 

………………………え?

 

 

 

「ただの剣に見えるが………これが杏仁豆腐だと?」

 

「………"Άκυρο"」

 

ヒナがなにかを呟くと、刀は淡く光を放ち、そして何事もなかったかのように光が消える。

 

「………どうぞ」

 

どうぞといわれても………

 

ヒナは、どこから出したのか、小皿のようなものを皆の前におき、刀を四等分にして取り分ける。

 

………四等分にして取り分ける?

 

「………武器にも、食事にも使える、千変万化、変幻自在の万能道具。それが杏仁豆腐、です」

 

目の前には『元・刀だったもの』がおかれている。

 

誰もが呆然としている中、ヒナがそれを口にした。

 

 

モキュ、モキュ、モキュ

 

 

それをみて、意を決したように紫虚も口にする。

 

「……杏仁豆腐だ」

 

そして、簡単とも驚愕ともとれる呟きをこぼした。

 

それを聞いて趙雲も謎の物体を口に運ぶ。

 

「……確かに、杏仁豆腐……しかも美味…………」

 

「………これぞ、天の技術の結晶、です」

 

杏仁豆腐を頬張りながら、そういう二人。

 

ヒナは『えっへん』といわんばかりに自慢げだ。

 

ちがう。そんな杏仁豆腐、俺の知ってる杏仁豆腐じゃない。

 

一刀は内心で突っ込みながら、恐る恐る物体Xを口にする。

 

それは確かに杏仁豆腐だった。しかもおいしいくて何故かイラッときた。

 

「確かに、こんな杏仁豆腐は見たことないな。さっきの話とあわせて、こことは違う場所から来たというのは信じてもいいだろう」

 

天の国にもこんな杏仁豆腐はないです。

 

 

「仮にお前が天の御遣いとやらだったとして、なんでこんな田舎の山奥にやってきた?大陸に平和をもたらすためというのなら、もっと別の場所があるだろう?」

 

「それは………」

 

どう答えたらいいのか迷っていると、

 

「………修行するため」

 

ヒナがそういった。

 

そうだった。強くなれ、といってリクは俺を送り出した。

 

そしてここにきて、あの趙雲の師匠に出会ったのなら、それはそういうことなのだろう。

 

 

「紫虚さん、あなたが一角の武人であることを見込んで、頼みがあります。俺を、弟子にしてください!」

 

「………(コクコク)」

 

「なっ!?」

 

「あぁん?本気か?」

 

俺の突然の申し出に、三者三様の反応を見せる。

 

ヒナはうなずき、

 

趙雲は驚き、

 

紫虚は俺の真意をはかろうとじっと睨みつけてくる。

 

その目を真っ直ぐに見返す。

 

「………ふむ」

 

そして、それをどう思ったのだろう。紫虚は何かを考え込み始めた。

 

「なっ、なりませぬぞ師匠!?このような怪しげな輩を―――」

 

趙雲は、そんな師匠の挙動を見て、慌てる。

 

いろいろいっているが、当の紫虚本人はまるで聞いていない様子だった。

 

 

あ、趙雲が実力行使にでた。

 

 

話を聞き流している紫虚に掴みかかった。

 

 

おぉ!?

 

 

何が起こったのかよくわからなかったが、一瞬で趙雲が組み伏せられた。趙雲は背中を踏まれて、亀のようにじたばたしている。

 

趙雲がこうも手玉に取られている姿はなんだかとても新鮮だった。

 

「んー………よし、北郷!」

 

「はい!?」

 

と、考えがまとまったのか紫虚が口を開いた。

 

 

「てめぇちょっとこいつと、しろ」

 

 

「「………は?」」

 

 

趙雲と俺の声がハモった。紫虚のいった言葉の意味が理解できず呆然とする。

 

俺はすぐに正気に戻り、質問する。趙雲はまだ呆気にとられている。口が半開きだ。

 

「アノ、紫虚サン?シロッテナニヲデスカ」

 

俺の口からでた言葉は片言になっていた。

 

「ああ?だからてめぇを弟子にするかどうか考えてやるから、ちょっとこのバカと手合わせしろっていってんだよ」

 

そういうことですか。言葉が抜けすぎです。もしかして、紫虚さんは春蘭の同類?

 

………怖すぎる。そんな人に弟子入りなんてしたら一日で死ねる自信がある。

 

だから、きっと、今回はたまたま、ちょっとだけ言葉が抜けただけなのだと思うことにした。

 

 

そうして、俺たちは小屋の外に出た。

 

 

趙雲は呆気にとられたまま反応がなくなっていたので、紫虚さんに引きずられて、外まで運ばれた。

 

外に放り出されてようやく正気に戻った。

 

 

外にでて、手合わせすることになったのはいいが、俺は徒手空拳だった。

 

すると、やはりどこからともなくヒナが武器をとりだした。

 

どうなっているのかと聞くと、趙雲の龍牙を模して、杏仁豆腐で創り上げたらしい。

 

曰く、"杏仁豆腐でなら、あらゆる聖剣・魔剣といった伝説の武具すらも模倣してみせる"とのこと。職人としての誇りがあるそうだ。もはや、突っ込む気も起きない。

 

そんな経緯で、趙雲は愛用の紅い龍牙を、そして俺は蒼い龍牙(杏仁)をもっている。

 

そして今、趙雲と対峙しているわけなのだが………趙雲から尋常じゃない殺気を感じる。

 

この若さにしてこの威圧感。さすが趙子龍。末恐ろしい………。

 

しかし、殺されては敵わないので、釘をさしておこう。

 

「えっと、趙雲さん?」

 

「っ!?貴様、なぜ私の名を知っている!!」

 

「え?いや、昨日名乗ってたよね?」

 

「私は趙子龍と名乗っただけだ。なぜ雲という我が名を知っている!?」

 

しまった。真名を呼ばないように気をつけてたら、そっちの方にまで考えが回らなかった。

 

なんとかごまかさないと。

 

「細けぇことはいいんだよ。さっさと始めろバカ弟子」

 

しかし、俺が何かいう前に、紫虚さんが口を挟んだ。

 

「師匠!!」

 

「この坊主は天の遣いなんだろ?なら別に名前くらい知ってたところでそんな驚くことじゃないだろ。それならさっきの暗忍刀斧や天界の話のほうがよっぽど奇想天外だったじゃねぇか。さっさと始めろ」

 

「そ、それはそうかもしれませぬが……しかし!!」

 

「い・い・か・ら・や・れ」

 

「うぐぅ………」

 

有無をいわせぬ紫虚さんに、趙雲はあっさりそれ以上の異論を封じられた。

 

 

そのやりとりに、本当に趙雲の師匠なんだなぁ、と感心してしまった。

 

趙雲もなんだかんだいって、紫虚さんの言葉には素直に従っている。

 

そこには、俺には立ち入れない深い信頼関係があるように感じて、少し嫉妬してしまった。

 

「………かくなる上は、我が槍をもってしてこやつの息の根を止めるしかないな」

 

 

とても物騒な呟きが聞こえた。

 

 

見ている場合じゃなかった。これじゃ結局、あくまで手合わせであることに釘をさすどころか趙雲の不信感を煽っただけじゃないか!?

 

「ちょっとまっ―――」

 

「趙子龍!いざ参る!!!」

 

俺が制止の声を掛け終わる前に、趙雲は動いた。

 

「はいはいはいはいーーーっ!」

 

「くっ―――」

 

止めるまもなく、一息で距離をつめてきた趙雲の槍を、かろうじて防ぐ。

 

打ち付けられた刃が火花を散らす。

 

やばい。趙雲は殺る気まんまんだ。

 

「っ、あぶっ!?うわ!?」

 

必死に趙雲の槍を弾き、かわし、受け流す。

 

しかし、対処しきれなかった刃が頬を掠める。

 

趙雲の槍さばきは、昨夜とは比べ物にならないくらいに速い。

 

何とか捌けてはいるものの、とても反撃など出来なかった。

 

 

何合ほど打ち合っただろう。防戦一方で粘ってはいたものの、すでに俺は息が上がっていた。

 

このままでは体力切れで俺の負けだろう。

 

そう思い、なんとか一矢報いたいところではあったが………

 

ブゥン!

 

「っ、!?」

 

趙雲の横薙ぎに払われた一撃を、槍を立てて受け止めたが、受け止めきれずに槍ごとはじき飛ばされた。

 

それで終わり。

 

昨夜とは逆に、地面に倒れた俺に趙雲が槍を突きつけていた。

 

「そこまでだ!」

 

紫虚さんが終了を告げる。

 

結局反撃の糸口を掴むことが出来ずに、俺は負けた。

 

「………」

 

趙雲は何もいわずに槍をひき、離れていく。

 

俺はしばらく地面に寝転がったまま起き上がることが出来なかった。

 

 

「合格だ。これから俺の事は師匠と呼べ」

 

「え?」

 

しばらくして起き上がり、趙雲たちのもとに近寄った俺に、紫虚さんがかけた第一声はそれだった。

 

「明日から、そこのバカ弟子と一緒に稽古をつけてやるから、今日はもう寝ろ」

 

そういい残して、紫虚…師匠は小屋の中に消える。

 

てっきりダメだといわれると思っていた俺はわけがわからず、残っていた趙雲にたずねる。

 

「えーと………どういうこと?」

 

「さてな。とはいえ、お主の願いは叶ったのだ。素直に喜んでおけばいいのではないか?」

 

と、そっけなくいわれる。

 

よくわからなかったが、弟子入りの話は認めてもらえたようだった。

 

趙雲のいう通り、素直に喜んでおくことにする。

 

「そっか。それじゃ趙雲、これからよろしくね」

 

そういって笑顔で手をさしだす。

 

趙雲はしばらく無言でその姿を見つめていたが、やがて諦めた様に一つ、溜息をついて言った。

 

「我が名は趙雲。字は子龍。これからよろしく頼む、北郷殿」

 

そういって手を握り返してくれた。

 

その手の温もりに、心の中の何かが溢れる。

 

「北郷殿?!」

 

「え?」

 

趙雲が驚いたような顔をしている。どうしたんだろう?

 

「………一刀、涙」

 

「えっ?あれ?うわっ、ほんとだ!?」

 

俺はヒナにいわれて、自分が涙を流していることに気がついた。

 

今日はなんだかよく泣いている気がする。情緒不安定なんだろうか、俺………。

 

「あ、あはは。なんか趙雲によろしくっていわれたのが予想以上にうれしかったみたいだ」

 

「そ、そうか………」

 

涙をぬぐい、照れ隠しに笑みをうかべてそういうと、趙雲はなぜかあわてて目を逸らした。

 

「では北「一刀でいいよ」……一刀、私は先に戻る」

 

そういって、趙雲も小屋の中に去っていった。

 

真名は許してもらえなかったが、一応認めてもらったと思っていいのだろうか?

 

「………一刀」

 

「ヒナ………」

 

最後に残ったヒナが声をかけてきた。

 

「………明日から、がんばれ」

 

「―――ああ!」

 

 

 

この世界に来ていきなり大変な目にあったが、あの趙雲の師匠、紫虚上人に弟子入りすることになった。

 

燦爛と輝く星空の下、来るべき戦いの日々を思い、俺は強くなることを心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

True End

 

 

おまけ1

 

ヒナの紹介がなかったので、ヒナに自己紹介してもらうことになった。

 

ヒナに注目が集まる。

 

「………ヒナって、いいます。ただいま一刀に誘拐され中、です」

 

「………は?」

 

「「………(チャキ!)」」

 

趙雲と紫虚が槍に手をかける。

 

「ちょっ、ちょっとまった。違う!なんていうかすごく致命的な雰囲気だけど俺は知らない!?何もやってない!!?ヒナ!?」

 

「………冗談、です」

 

わからない。俺にはヒナが何を考えてるのかわからないよ………。

 

「………本当は、生涯を添い遂げる約束をした仲、です」

 

「………もう、好きにしてくれ」

 

「な、なんとっ」

 

「ほぉ~。最近のガキは随分と進んでるんだな」

 

趙雲は驚き、少し頬を紅くしている。興味津々のようだ。

 

紫虚さんはなんか感心している。

 

趙雲と紫虚さんの視線が痛い。ヒナってこんな子だったのか?

 

結局、ヒナのことはよくわからずじまいだった。

 

 

おまけ2

 

―――某所、某時刻

 

「で?何で俺は子供になってるの?」

 

「………私と、同じ」

 

「同じ?」

 

「………一刀は、私と同調してる、から」

 

「………それで、ちっちゃくなった、と」

 

「………(コクッ)」

 

「………そっか」

 

もう、なんでもありですね。

 

いや、最初からわかってたことではあるんだけどね。ちょっと無駄だとわかっていても、自分の中の常識に縋りたくなる時って、あるよね。

 

「………大丈夫。一刀はすぐに、大きくなる。それに、子供のほうが吸収が、はやい」

 

「まぁ、確かに子供のほうが物覚えがいいよな」

 

「………(コクッ)、それに」

 

「それに?」

 

「………幼馴染はガチ」

 

「あのさ………」

 

「………???」

 

「はぁ………」

 

 

こうして夜は更けていく―――

 

 


 
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