No.1057900

ある魔法少女の物語 22「フォルテュナ」

Nobuさん

ラスボスとの最終決戦です。
現実改変能力は万能ですが、だからこそ、倒さなければいけないのです。
世界の全てを手に入れる事と同じなのだから……。

2021-03-29 08:00:01 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:458   閲覧ユーザー数:458

 地球を滅ぼそうとするフォルテュナとの最後の戦いが今、始まった。

 

「せいっ!」

 カタリナは空を飛ぶフォルテュナに矢を射る。

 空中にいる敵に、矢などの対空武器は効果的だ。

「せぇいっ!」

 フォルテュナが高度を少し下げたのを見計らい、まり恵は勢いよくハンマーを振り下ろす。

「炎よ!」

「フレイム・ソード!」

 フォルテュナが再び空中に浮き上がった時、三加は呪文を唱えて炎を生み出す。

 恭一は高く飛び上がり、剣に炎を纏わせた後、勢いよくフォルテュナを斬りつけた。

「ふふふ……キミ達はボクには勝てないのさ」

 そう言うと、恭一とまり恵の目の前に巨大な斧が出現した。

 フォルテュナの現実改変により生まれたものだ。

「ぐあぁぁっ!」

「きゃぁぁっ!」

 斧が振り下ろされ、恭一とまり恵は斬られ、思いきり地面に叩きつけられる。

 血が出る事はなかったが、二人は多大なダメージを負ってしまう。

「ぐっ……これが、ジュウげむ、いや、フォルテュナの真の力なのか?」

 恭一は腕を押さえながら、フォルテュナを睨みつけてそう言った。

 

「人はどんな災いもねじ伏せる力を持つべきだ。そうでなければ、世界は滅ぶべきだ」

「あなたは力で災いに立ち向かおうというのですね? ……では、こんなお話をご存じですか?

 発明家のダイダロスと子のイカロスは、ミノタウロス退治を手伝ったためにミノス王の怒りを買い、迷宮の塔に幽閉された。

 イカロスは蝋の翼を身に着けて脱出したが、ダイダロスの忠告を破ってイカロスは飛び続け、

 太陽に近づきすぎた蝋の翼は溶け、イカロスは海に墜落した。

 強大な力に溺れると、人は破滅する。だから、災いは力で対抗するのではなく、知恵で乗り越えるものなのです」

「人は強くなければならないと言ったのは誰だい?」

「力だけが人の強さではありません。心が強ければ、人は強いのです」

 カタリナはフォルテュナにそう説得した。

 強大な力で災いを退けたとしても、いずれは自分の身を滅ぼしてしまう。

 魔女になった事がきっかけで、カタリナの心は一層強くなったのだ。

「……長い間、魔法少女をしてきた身ですが、こんなに話したのは初めてですね」

「そんな戯言でボクを説得できるとでも?」

「ああ、やはり、説得は無駄でしたか」

 だが、フォルテュナはぶれる事がない。

 フォルテュナの願いはただ一つ、自分を認めない地球を滅ぼす事だ。

 

「平和のためには災いを消さなければならないのさ」

「そのために今も未来も捨てろというのか?」

 恭一はそう言って、剣を構え、周囲に光を放った。

 すると、恭一とまり恵の傷が癒された。

「人はこれからも、未来に向かって歩いていくんだ! たとえ良いものでも、悪いものでも!」

 恭一はそう言って、光の剣で斬りかかる。

 剣は鏡のように周囲の光景を反射し、フォルテュナにかわす隙を与えなかった。

「クリムゾン・ナパーム!」

 さらに、剣に炎を纏わせて空を駆け、その炎をフォルテュナに思い切り叩きつけた。

「ゴールデンハンマー!」

 まり恵は黄金に輝くハンマーで、フォルテュナををぶん殴る。

 黄金とはすなわち太陽の力であり、今の状況にぴったりであった。

「影縫い!」

 空を飛んでいるフォルテュナに対し、カタリナは影の矢を放ち地面に叩きつける。

「計算完了、ここです!」

 三加はフォルテュナがいる位置に狙いを定め、本を開いて炎を発生させた。

 だが、何故かフォルテュナは燃えなかった。

「な、何故燃えない!?」

「現実改変能力を使って、燃えたという現実を取り消したのさ」

「そ、そんな……!」

「いくら頭の良いキミでも、現実改変には敵わないようだね」

「……」

 フォルテュナの現実改変能力にかかれば、あらゆる攻撃が取り消される。

 なら、最初から攻撃は届かないはずだが……。

「さあ、今度はこっちからいくよ!」

 フォルテュナが手をかざすと、船の形をした霧が飛んでいく。

 霧でありながら実体を持つのは、フォルテュナの現実改変能力からだろう。

 避けられなければ、大ダメージを受ける。

「私についてきてください!」

 三加が安全地帯を見極め、恭一とまり恵とそこに誘導する。

「逃がさないよ」

「☆○▽★!」

「はっ!」

 霧が二人を追いかけて攻撃しようとしたが、カタリナとルーナが光線を放って阻止する。

 その結果、船の形をした霧は消えた。

「私は諦めない。あなたから自由を取り戻すまで、絶対に、諦めるわけにはいかない!」

「奈穂子も返してもらうぜ!」

 四人の目的は、奈穂子を助け、フォルテュナを倒して世界を解放する事。

 そのためにも、諦めるわけにはいかなかった。

 だが、時間は徐々に過ぎていき、奈穂子の目から光が消え、地球と太陽の距離が縮まっていく。

 地球はまさに、太陽に飲み込まれようとしていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「熱い……なんて熱さなの?」

 地球が太陽に近づくにつれて、四人はたくさんの汗をかいた。

 熱さのせいで四人の手元が狂いつつあるが、ここで諦めたら地球が消滅してしまう。

 恭一達はフォルテュナに立ち向かっていった。

「ライオンハート!」

「シューティングスター!」

「ゴールデンハンマー!」

「マナフレイム!」

 恭一、カタリナ、まり恵、三加の攻撃が、攻撃しようとするフォルテュナに命中し、フォルテュナに反撃の隙を与えない。

 フォルテュナも現実改変能力を行使したが、熱さのせいか四人の覇気は鋭くなっていた。

「……キミ達は災いなんて無い方がいいと思う? 災いは無かった事にした方がいいと思う?」

「災いを無かった事にしたら、また人は同じ事を繰り返すだろ!

 それで、お前はまた災いを無かった事にする……。そんな繰り返しなんて、もうたくさんだ!」

「そうならないから世界は不幸になるのに……」

「……」

 奈穂子は、なおも虚ろな目をしていた。

「ボクは人類の味方だよ? それに歯向かう者は皆、人類の敵なのさ」

「お前の幸せを黙って受け入れる奴だっているし、それを認めたくない奴だっている。その時点で、全ての人を幸せにするのはお前にだって不可能だ!」

「そんなのは所詮、奇麗事に過ぎないよ。もし言いたいなら、ボクに攻撃を届けてみな!」

 フォルテュナがそう言うと、その身体を光が覆い、防御力を絶望的なまでに引き上げる。

「なんだ、この光は?」

「凍りつけ!」

 フォルテュナは現実改変能力を使い、無数の氷の刃で恭一達を切り刻もうとする。

「三加!」

「はい! 炎の壁!」

 三加は周囲に炎の壁を発生させる。

 氷の刃は、炎の壁に取り込まれて蒸発する。

「未来が見えず、災いばかりが起きる世界は、もうこの手で終わらせよう」

「世界はまだ終わりません、終わらせるわけにはいきません! 火の鳥よ、彼の者を焼き払え!」

 三加が開いた本から飛び出す炎の鳥が、フォルテュナを焼き払う。

「ソードスラスト!」

「シューティングスター!」

「……!」

 恭一は真っ直ぐ狙いを定めてフォルテュナを突き、カタリナとルーナがそこ目掛けて光の矢を放つ。

「でぇいやぁぁっ!」

 そして、まり恵がハンマーによる渾身の一撃をフォルテュナにぶつけた。

「ボクに攻撃は効かないよ」

 だが、フォルテュナはけろっとしていた。

「何!?」

「言ったはずだよ、ボクは現実改変能力を持つって。だから、キミ達の攻撃も、ボクには届かない。そして、ボクの攻撃は、キミ達に絶対に届く」

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」

「「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」」

「ああぁぁぁぁぁぁっ!」

 現実改変能力の前では、あらゆる攻撃が通じない。

 彼らはなすすべなく、フォルテュナの攻撃を受け続ける。

 最早フォルテュナは神ではなく、世界そのものとなっていった。

 恭一達は、このまま世界と共に滅んでしまうのだろうか……。

 

 その時だった。

 

「お、願、い……みん、なを、助け、て……」

 囚われている奈穂子が、か細い声で祈りを捧げた。

 奈穂子は仲間の危機を感じ取り、僅かではあるが意識を取り戻したのだ。

 すると、祈る彼女に反応するように、魔法少女の身体が光り出した。

「奈穂子!?」

 もしかしたら、奈穂子がこの窮地を救ってくれるのかもしれない。

「お願い、奈穂子! どうしたらフォルテュナを倒せるか教えて!」

「みん……な、で、恭一君、に、力を、与えて……」

「……最後は俺に希望を託すというわけだな」

 やっぱり、奈穂子は俺が大事なんだな。

 そう思った恭一は、口角を上げて剣を構え直した。

 彼の後ろにいる三人は、頷く。

「恭一、あたしが力を送ってあげるわ」

「一人一人の力では、現実を操る者には敵いません」

「ですが、みんながいれば、絶対に勝てます!」

「★○▽■◇!!」

 まり恵、三加、カタリナが手を合わせて、前にいる恭一に力を送った。

 ルーナも、珍しく恭一を応援した。

「みんな……」

 恭一ならば、歪んだ現実を元に戻してくれる。

 そんな仲間達の思いが、恭一を奮い立たせた。

「よしっ、この一撃で終わらせるぞ!」

 恭一は三人の力を自らの剣に纏わせ、その剣が力によって巨大化する。

「これ以上、世界の命運も、人々の生きる道も、お前に決められてたまるかぁぁぁぁ!!!」

 奈穂子を救い、世界も救うために、彼は希望の光を纏う剣を持ち、立ち向かう。

 剣の軌跡が空気摩擦を引き起こし、紅蓮の竜に変わり、フォルテュナを飲み込もうとする。

 

「そ、そんな……このボクが、負けるなんて……」

 恭一の超神速の奥義が、フォルテュナに直撃する。

 そして、洞窟の中で大爆発が起こった――

「なーんて、ね☆」

 大爆発が治まった時、そこにいたのは、なんと、無傷のフォルテュナだった。

 フォルテュナは倒された事すらも、現実改変能力で無かった事にしたのだ。

「嘘だろ……ここまで頑張ったのに、こんな事って、あるのか……?」

「あいつの真の狙いは、これだったのですね」

 これまでの努力を全て無に帰す結果となり、四人、特に恭一は落胆していた。

「やっぱり、あたし達には、奴を倒す事は不可能だったのね……」

 地球と太陽の距離は、人間でいうと目と鼻の先になった。

 最早地球の滅亡は、避けられなくなってしまった。

 

「恭一君……何、これ」

 すると、虚ろだった奈穂子の瞳に光が戻る。

「決まってるだろ、奈穂子! 今、世界が滅ぼうとしているんだ!

 俺達はフォルテュナを倒したはずだけど、現実改変能力のせいで無駄になっちまったんだ!」

「世界が……滅ぶ……?」

「何とかならないのかよ、奈穂子!!」

 四人の攻撃は現実改変能力により無駄に終わり、動けるのは奈穂子のみとなっていた。

 気温も徐々に上昇し、大地は太陽に飲み込まれる。

 そんな危機的状況を見た奈穂子は、意を決したように表情を変え、こう言った。

 

「……恭一君、ごめんね。私、魔法少女になる」

「奈穂子、何をするつもりだ!」

 あれほどなりたくなかった魔法少女に、奈穂子がなると言い出したのだ。

 恭一は彼女を止めようとするが、奈穂子は彼の顔を見て、首を横に振った。

「私、ね。やっと分かったんだ。ずっと、恭一君に守られてたから今の私ができた。

 そんな私が、やっと見つけた答えなの。絶対に、みんなを助けたいから。

 みんなの思いを無駄にしたくない。だから、私は、フォルテュナと契約する」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」

 恭一の叫びも空しく、奈穂子は呪縛から脱出し、フォルテュナに契約しに行った。

 

「私は……あなたが歪めた世界を、元に戻したい」

「……! 本当にそれでいいのかい? 世界はまた、災いだらけになっちゃうよ?」

 フォルテュナは世界に災いをもたらすのか、と奈穂子に問いかけるが、彼女は首を横に振った。

「幸せしかなかったら、人はいずれ堕落する。人が成長するためには、災いという試練も必要。

 ウイルスだってただそこにあるだけだし、自然災害だって単なる自然現象。そこに人が入り込んだから、災いが起こる。

 私達が欲しいのは過去じゃない。これから先にある、未来なんだ。これが、私の願い。さあ、叶えてよ!!」

 柿原奈穂子の全身が光に包まれ、衣装が派手できらびやかなものに変わり、手にはステッキが現れる。

 それが、柿原奈穂子の、最初で最後の、魔法少女の姿だった。

「はは、それがキミの願いか。せっかくボクが綺麗にした世界に、また災いをばら撒いちゃうのか。

 でも、ボクはそんな願いなんか……無かった事にしちゃうもんね」

 フォルテュナは現実改変能力を使おうとしたが、何故か何も起こらなかった。

「どうして? 力が使えない……?」

 狼狽えるフォルテュナに、魔法少女になった奈穂子はこう言った。

「あなたは、願いを何でも叶えてくれるんだよね。それを否定するのは、自分を否定するのと同じ。だから、無かった事にはできないんだ。

 ……もう、私達人間を含めた全ての存在は、フォルテュナの思い通りにはならない!!」

 そして、奈穂子はステッキを振り、極太レーザーをフォルテュナに向かって放った。

 フォルテュナにそれが着弾すると大爆発し、洞窟が光の中に包まれた。


 
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