No.1057243

ある魔法少女の物語 18「カタリナの異変」

Nobuさん

ある災害で傷を受けた魔法少女は、ついに……。

2021-03-21 08:00:02 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:446   閲覧ユーザー数:446

 真字駆夏祭りは、魔女の襲撃で急遽中断された。

 さらに、カタリナが突然倒れてしまった。

 恭一達にとって最高の夏休みになるはずだったが、こんな事になるなんて、誰も思わなかった。

 

「カタリナ……」

 恭一達は、ベッドで寝ているカタリナと、彼女に付き従うルーナを心配している。

 救急車は呼ぶに呼べなかったので、四人で協力して彼女を運んだのだ。

 今、カタリナは寝息を立てていて安らかな表情だ。

 だが、その安らぎがいつまで続くのか、恭一達には分からなかった。

「カタリナさん、一体どうしたんだろう……」

「俺達には、何も分からないな……」

「でも、もしかしたら……カタリナは、あたしと同じようになったのかも……」

 まり恵は自身が倒れて痛覚を失った事を思い出す。

 魔法少女に異変が起きる時、必ず倒れるのだ。

 もしかしたら、カタリナも、魔法少女として活動するうちに、代償を払ってしまったかもしれない。

 カタリナ自身は、知る由もなかったが……。

 

「……ん……」

 カタリナは、ある夢を見ていた。

 ある午後の日、大地が大きく揺れ、物凄い津波が町を襲った。

 まだ幼いカタリナには、この光景がただの夢ではないかと思っていた。

 

 だが、紛れもなく、それは覆らない現実だった。

 

 2011年3月11日14時46分に日本を襲った史上最悪の天災――東日本大震災。

 この災害による死者や行方不明者は数万人とされ、福島第一原子力発電所も、津波により大打撃を受けた。

 カタリナとその両親は津波が起きた場所から遠い場所に住んでいたため、家は僅かな浸水のみで済んだが、

 その後の民衆の対応は、彼らにとって辛いものだった。

 

「どうして、お前らだけが生き残ったんだ!」

「俺の家も家族も、みんな津波で流された! それなのに、何故、お前らは……!!」

 民衆は、被害が小さかったカタリナの家族……片桐家を一心不乱に責めていた。

 大切なものを失った哀しみは大きかったが、自然災害にそれをぶつける事はできない。

 だから、片桐家という「人間」に、やり場のない怒りをぶつけたのだろう。

「理奈、ごめんね。あなたは悪くないわ」

 カタリナの母親が幼い娘を抱きしめる。

 娘を民衆の誹謗中傷から守りたいという、彼女の愛情だ。

 

 三年後、各地で犠牲者への黙祷が行われる中、カタリナ……片桐理奈は彷徨っていた。

「私が震災の教訓を生かそうではないか」

 そう言った父親が対策を考えたものの、理奈は「そんな事で天災には敵わない」と言い、父親と不仲になった。

 災害で生き残ったというだけで誹謗中傷を受け、片桐家は深い傷を負った。

 その傷を癒す事は、とても難しかった。

「どうしたんだい? そんな悲しい顔をして」

「……東日本大震災のせいで、私と父さんの仲は悪くなったの」

 そんな時、理奈の前にジュウげむが現れた。

 ジュウげむが何者なのか、理奈には分からず、理奈はジュウげむに対し思いを打ち明けた。

 すると、ジュウげむは頷いてこう言った。

「なるほど、キミはあの災害のせいでお父さんと不仲になったんだね。

 あの自然災害は、本当に最悪だったよ。多くの人間の意識をいっぺんに変えたからね。

 でも、大丈夫。ボクと契約して魔法少女になれば、キミの願いは叶うし、災害も最初から起きなかった事になるよ」

「……ええ……。お願い、私の願いを叶えて……!」

 カタリナは、ジュウげむの手を取った。

 父親との不仲を解消し、悲劇を取り消すために。

 

「契約は成立した。キミは今日から、魔法少女だ!」

 

 魔法少女になった理奈は「カタリナ」を名乗り、災いを司る魔女と戦い、災いを取り消した。

 だが、震災が起きたという事実は変わらない。

 いくら悔やんでも、多くが失われた現実は、一切、変わらないのだ。

 

 こんな事になるのなら、震災なんて無かった事になればいいのではないか。

 自分が魔女になって災いを引き受ければ、悲劇なんてなくなるのではないか。

 

 だが、魔女になるという事は、魔法少女の敵になるという事だ。

 カタリナはそれを望んでいなかった。

 

 ……しかし、魔女の誘惑は、カタリナの心に強く響き……ついに、彼女は魔女の手を取った。

 

「……しん、さい……とり、けしたい……」

「カタリナ?」

 突然、ベッドで寝ていたカタリナが、ぶつぶつと何かを呟きながらゆっくりと起き上がった。

 ルーナは彼女にしがみつくが、カタリナは全く反応しなかった。

 彼女の瞳は虚ろで、表情から感情が消えている。

「おい、カタリナ! どうしたんだ!」

「カタリナさん、どうしたの? 聞こえる!?」

「私の声が聞こえますか!? カタリナさん!!」

 カタリナは誰の話も聞かず、病院を去っていった。

 

 白い服を着たカタリナが、どこかを歩いている。

 町の人は彼女を見て気味悪がるが、カタリナは無論、何も反応しない。

 しばらくすると、彼女の前にジュウげむが現れた。

「どうやら、キミは早く辿り着いたようだ。災いを身に宿す器としてね。あの子には及ばないけれど、キミならあの災いを取り消せる」

「……」

「さあ、引き受けるんだ。その災いは……!!」

 カタリナは何も言わず、ジュウげむの提案を受け入れた。

 瞬間、カタリナの足元から、別の存在の影が現れ、カタリナの身体を包む。

 現れたのは、スライムのように柔らかく、岩のように固い、たくさんの腕だった。

 

「これで、新たな魔女が生まれた。大地と水の災いを司る、地脈の魔女……!!」

 新たな魔女の誕生を、ジュウげむは祝福していた。


 
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