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真・恋姫無双~魏・外史伝54

おはようございます、アンドレカンドレです。
今日は朝早くの投稿です。昨日は大学の仲間内で鍋パーティーをしました。ここ最近に急に寒くなって、もう冬になるんだな~としみじみ思う今日この頃・・・。おまけに乾燥しだして喉が痛いです・・・。新型インフルでは無いと思いたいです。
 さて今回は第二十三章、二十二章で一刀の渾身の一撃がどうなったのか!?そこから始まります。今回は挿し絵なしでいきます。それでは、真・恋姫無双 魏・外史伝 第二十三章~今ここに存在する理由・前編~をどうぞ!!

2009-11-07 09:14:34 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3708   閲覧ユーザー数:3245

  握り潰した光の塊は一刀の左拳と一体化する様に、光は彼の拳を覆(おお)い、そして淡い紫色に輝く。

 一刀は左拳を後ろへと力一杯に引き、右手で標準を定める。一刀は先程から全身に感じていた悪意の感覚を

 辿り、城の中央から天高く伸びる霧を生み出す大樹を霧の中から探り出す・・・。一刀はその無双玉とその

 大樹から発する外史喰らいの分身・祝融の周波を無意識に同調させる事でこの深い霧の中で、その居所を

 捉える事が出来た。

  「そこだッ!!!うぉぉぉおおおおおおおおおーーーーーーーーーッ!!!」

  ブゥオオオッ!!!

  一刀はその左拳をその悪意の源に叩き込む様に、勢いよく正拳を放った。。

  

  ブゥオゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

  

  前に伸ばした左拳から紫に帯びた光が洪水の様に大量に放たれ、真っ直ぐに飛ばず、くねりながらも

 凄まじい速さで前進していく。そしてその光は街を包む霧をかき消しながら、次第にある姿を模していく

 ・・・。その姿は、まるで天に昇る龍のようだった・・・。

 

  ブゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

  

  光の流れが空気を振動させる際に生じるこの音・・・、まるで龍の雄叫びにも聞こえる。

 そして龍の姿を模した光は、霧を掻き消しながら霧を生み出す大樹へと向かっていく・・・。

 

  ドゥゥウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

 

  光の集合体が霧を生み出す大樹に激突すると、そのまま大樹の霧を生み出す触手と触手の合間から中

 へと入り込んでいく。そして、次第に大樹の至る箇所から紫色の光が漏れ出していく。それでも光は大樹

 の中へと入り込んでいく・・・。

  そして、一刀が放った光が全て大樹の中へと入った瞬間、大樹の中央部分を中心にして上下に、その大樹

 を覆い尽くす程の紫色の光の柱が発生する。光の柱はその直径を拡大させながら、天へと高く昇っていく・・・。

 

  ブゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

 

  天へと昇る光の柱は、再び龍の姿へと返り、天へと還って行くのであった・・・。

 

  ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!

 

  光の柱が生じると同時に、光の柱を中心に外へと強力な突風が発生する。街に滞在していた霧はこの突風

 と一緒に、外へと拡散していく。

 

  「きゃぁああああああっ!!!」

  「うぅうううううううっ!!!」

  「うぁあああああああっ!!!」

  街の通りを拭きにけて行く突風が一刀達を襲う。

 突風は霧を拡散させるだけでなく、外にあった木箱、桶、洗濯物なども吹き飛ばす。この事態を引き起こした

 張本人である一刀は地面にうつ伏せになって吹き飛ばされないようにしがみ付き、沙和と真桜は家の軒下で

 凪が吹き飛ばされない様に手を取り合って突風を凌ぎ、翠と蒲公英も恋が吹き飛ばされないよう押さえていた・・・。

 

  そしてこの突風は街の外にいた華琳達にも及んだ。

  「しゅ、春蘭さまああああああっ!!!」

  「季衣!私の手を離すな!」

  霧の混じった突風に吹き飛ばされそうになる季衣の手を掴む春蘭。周囲を見ると、飛ばされまいと身を

 低くして突風を耐え凌ぐ者もいれば、突風に体を吹き飛ばされ地面を転がる者と突風による被害を被っていた。

 一方、春蘭達とは違う場所にいた秋蘭達は岩陰に身を隠れていた。

  「秋蘭さまっ!一体・・・何が起きているのでしょう!?」

  「さて・・・、地震が起きたかと思えば、今度はの突風が吹き荒れる・・・。天変地異でも起きておるの

  だろうかな?」

 

  「くうぅっ!!!」

  「きゃぁぁあああああああああっ!!!」

  桂花は猫耳のフードを突風に吹き流されながら、地面に立てられていた柱にしがみつき、華琳は右手で顔を

 隠しながら、突風の吹く方向に対して身を横にしてその突風を体で受け止める。

  「風っ!大丈夫ですかっ!?」

  「うぅ~・・・、ホウケイ、大丈夫ですか~!」

  稟は風の安否を確認すると、風は頭のホウケイが飛ばされないように手で押さえていたが、それも限界に

 達しホウケイは突風に吹き飛ばされてしまう。

  「あぁ・・・、ホウケイ~~~!!」

  だが、吹き飛ばされたホウケイをがしっと片手で捕まえる霞。霞は偃月刀を地面に突き刺し、支え棒に

 しながら風の側に近付いていく。

  「間一髪やったな・・・、風。ほれ。」

  霞はホウケイを再び風の上に乗せると風はもう一度ホウケイを頭の上で押さえる。

  「ありうがとよ、姉ちゃん。借りが一つできたぜ。」

  風の頭のホウケイが霞に感謝の言葉を贈る。

  「何、えぇってことよ・・・、って稟!危ない!!」

  「えっ・・・」

  バコッ!!!

  「ふがぁっ・・・!」

  向こうから飛んできた木製の桶が稟の顔に直撃する。稟は鼻血を吹き出しながら、その場に倒れそうに

 なる所を霞が寸前で受け止める。

  「おい!稟、しっかりせぇや!!」

  「ふが、ふが・・・。」

  霞の腕の中で鼻血を流しながら目を回す稟。  

  「ん・・・?・・・なんや、あれ・・・?」

  突風の中に混じっていた霧が次第に薄れていくと、次第に視界が良好になっていく・・・。

 今まで深い霧によって見えなかった街の姿が今でははっきりと見える。そしてその街の方で、霞は

 その目を疑いながらも、その光景からそらさなかった・・・。

 

  「春蘭さま、あれ・・・見てくださいよっ!!」

  「あぁ・・・、分かっている・・・。私も見ている・・・。」

 

  「秋蘭様・・・っ!」

  「まさか・・・天変地異、以上のものだったか・・・。」

 

  「な、何よ・・・、あれ・・・。あんなの見たことも・・・、聞いたことも、無いわよ・・・。」

 

―――その場にいた者達全員が、その光景から目を離さなかった。否、離せなかった・・・。

 

―――彼女たちの目に映った光景・・・、それはまるで・・・。

 

  「・・・天へと昇る、龍が如く・・・。」

  その光景を、華琳はポツリと口から言葉として一人語った・・・。

 

―――街の中央から天へと昇る光の柱は龍の姿へと完全に変え、そして霧を生み出していた大樹を、そして

  祝融の悪意を掻き消していく・・・。

 

―――だが、不思議なことにこの光は大樹のみを掻き消し、大樹に取り込まれていた城、人々は逆にその

  身を包み込む様に守っていた・・・。

 

―――まるで一刀の優しい想いを汲むかのように・・・。

 

―――いつしか突風も収まり、光の龍は完全に天へと昇っていった・・・。

 

―――大樹の跡に残ったのは、大樹に取り込まれていた街の住民達と廃墟と化した城と、一つの巻物・・・。

 

―――その巻物を手に取る一人の青年・・・。

 

―――その青年はその身に白装束を纏い、消える事の無い怒りと憎しみを宿していた・・・。

 

  「・・・大丈夫か。皆・・・。」

  「大丈夫・・・、に見えるんかいな~・・・。」

  真桜は頭に桶をかぶりながら、一刀の声に答える。

  「隊長・・・、お、終わったの~?」

  沙和は横になっていた凪の体から手を離し、一刀を見上げながら尋ねる。

  「多分・・・な。」

  そう言って、一刀は街の中央、城の方を見る。城の上に伸びていたあの大樹は街全域に及んでいた根と

 共に、その姿を跡形もなく残さず、消え去っていた。

  「た、隊長・・・。」

  凪はふらつく両足で立ち上がろうとするが、体が思うように動かず、ふらつく彼女の体を沙和が慌てて

 支える。

  「凪ちゃん、まだ無理しちゃ駄目なの・・・!」

  「沙和の言う通りだ。・・・沙和、真桜、お前達は先に戻って、街の人達の世話と街の修繕に必要なだけ

  の人数を集めて来てくれ。」

  「任せとき!」

  「分かったの!それじゃあ隊長、凪ちゃんをお願いするの~。」

  「あぁ、出来るだけ早くな・・・。」

  沙和は一刀に凪を預けると、真桜と一緒に街の外へと駆け出して行った。

  「・・・申し訳ありません、・・・隊長。自分が、不甲斐無いばかりに・・・。」

  「気にするな・・・。無茶を言ったのは俺の方なんだ。むしろ、俺がお前に謝らなくてはいけないんだ。」

  一刀は凪に肩を貸して家の軒下に座らせ、凪を休ませる。立っているのが辛かったのだろう・・・、額から

 脂汗を流していた・・・。

  「・・・そんな、謝るだなんて・・・。自分が・・・」

  申し訳なさそうな顔をしながらたどたどしく喋る凪の頭を、一刀の右手で優しく撫でられ、凪は喋るのを

 途中で止め、代わりに一刀が喋る。

  「良くやったな、凪。」

  一刀に言われ、凪は頬を赤く染め、下に俯いてしまう。

  「そんな・・・、自分には勿体ない・・・、お言葉です。」

  凪は俯きながら一刀にそう言った・・・。

  

  それから数刻後・・・街に魏軍が入り、街の住民の身元の確認、傷の治療を、壊れてしまった家や壁の修繕

 に取り掛かっていた。

  「後は任せたよ。」

  「はっ。では失礼します。」

  一人の兵士が一刀に一礼すると、凪を乗せた担架をもう一人の兵と一緒に宿舎へと運んで行く。一刀は

 それを見送ると、もう一方の・・・、翠達の方を見る。すでにそちらも恋を担架に乗せ、魏軍の兵士に

 宿舎へと運ばせた後だった。

  「良かったな、彼女が無事で・・・。」

  一刀は馬超達に話しかける。

  「あ、あぁ・・・。ほんとだよ、全く。・・・ありがとな、北郷。桃香様に代わって礼を言わせてもらうよ。」

  「ははっ・・・、そう言ってくれると命張って助けた甲斐があったってもんだよ・・・。まぁ、君も君で

  色々と大変だったようだな・・・。」

  「・・・そんな事は無いさ。むしろ、あたしが凪達に迷惑をかけちゃったからさ・・・。」

  「大丈夫だ・・・。あの二人はそんな事を引きずるような人間じゃないさ。」

  「そっか・・・。隊長のあんたが言うんだから、きっとそうなんだろうな。」

  「それに魏の種馬だしね~♪」

  「おい、蒲公英!それは今ここで言う事じゃないだろっ!!」

  「今でなくとも言って欲しくないけどな。」

  「あ、いや・・・今のはそういう意味じゃなくてぇ・・・、だなぁっ!・・・蒲公英ぉおおーーー!!」

  「きゃあっ!何でたんぽぽに怒りの矛先が来るの~~~っ!?」

  「こら、逃げるな!待ちやがれぇぇええーーーっ!!」

  翠は逃げ出した蒲公英の後を追いかけて行き、そこには一刀一人が残される。

  「元気だな~・・・。」

  一刀は翠と蒲公英のそんな姿を見て、どこか微笑ましく思うのであった・・・。

  「一刀・・・。」

  後ろから声が掛けられ、一刀は後ろを振り向くと、そこには華琳が立っていた。

  「華琳・・・。」

  パチィンッ!

  「・・・っ。」

  問答なく一刀の頬を平手打ちする華琳。

  「一刀、どうして私があなたを叩いたのか・・・、分かるかしら?」

  「・・・一応、理由を方を聞かせてくれないか?」

  「沙和と真桜から、大まかな事情を聴いたわ。・・・一刀、あなたは一人であのけんたうろすと戦い、

  その上凪達だけに敵地へと向かわせ、危険な目に合わせた・・・。これで合っているかしら?」

  「・・・大体は合っている・・・。」

  「そう・・・、一刀・・・、あなたがした事は自分の身を危うくするだけでなく、あまつさえ自分の

  部下達の命をも危険にさらした・・・。沙和か馬岱を本陣に戻らせ、救援を求める事も出来たはず。

  だけど、あなたはそうしなかった。」

  「・・・あぁ・・・。」

  「力を手に入れたから、自分一人でどうにかなると・・・、そう思っていたのかしら?もしそうだとする

  ならば、それはただの自惚れ以外の何物でもない。例え人智を超えた力を手に入れたからと言って、それ

  を使うあなたは仙人でも、ましてや神でもない・・・ただの一人の人間にしか過ぎないわ。あなたのその

  傷がその何よりもの証拠。今回は上手く事が進み、あなたも凪達も無事だった。でもそれは『結果』が

  そうなっただけであって、その『過程』を見れば、最悪の結果になってもおかしくない内容よ。」

  「・・・・・・。」

  「人一人に出来ることなんて多寡が知れているわ。それはあなたとて例外ではないはず。

  『どうにかなる』、そんな言葉は戦場で何の意味も持たない。ただ自身を、周囲の者達を危険に追いやる

  だけなの。・・・分かるかしら?」

  「・・・あぁ、そう言われて・・・、改めて分かったよ。俺は少し調子に乗っていたようだな。

  済まなかった、華琳。」

  「これからも戦場の中心に立つのであれば、忘れない事よ。」

  「ああ。肝に銘じておく。」

  「・・・・・・・・・。」

  「・・・・・・・・・。」

  二人の間に不自然な沈黙が流れる・・・。華琳はただ黙って一刀を見つめ、一刀も何も言わず華琳を

 見つめる・・・。

  「・・・・・・・・・。」

  「・・・・・・華琳?」

  「・・・・・・馬鹿。」

  「・・・ごめん。」

  「謝る必要なんて無いわよ。」

  「ご、ごめん・・・。」

  「また、あなたは・・・。」

  そしてまた不自然な沈黙が流れ、再び互いの目を見つめ合う・・・。だが、今度はその目を通して

 互いの想いに気づく一刀と華琳。

  「・・・華琳。」

  「・・・一刀。」

  そして二人の顔がゆっくりと近づく。そして二人の唇が重なろうとした・・・。

  「華琳様ぁ!隊長ぉ・・・ぁっ・・・。」

  「・・・・・・。」

  「・・・・・・。」

  通りの角から慌てて飛び出し、二人の前に現れる沙和。何か慌てた様子ではあったが・・・、

 今沙和は自分がどれだけ場違いかを瞬時に理解した。

  「ごゆっくり~なの。」

  沙和はそのまま角の向こうへとと戻ろうとした。

  「ちょ、ちょちょッ・・・!?気を利かして戻らなくていいから戻らなくて!!」

  一刀は慌てて沙和を止める。前にもあったよな、こんなやり取り・・・と、一刀は心で呟く。

  「沙、沙和!何も見ていないの!華琳様と隊長がキスしようとしていた所なんて見てないの・・・!」

  「思いっきり見ているじゃないか・・・!」

  慌てる沙和に突っ込みを入れる一刀。一方、その横で華琳は軽くため息をついていた・・・。

  「・・・で、そこに水を差したあなたはここへ何をしに来たのかしら?」

  「・・・っ!」

  また寸前で邪魔されて機嫌を損ねたのか・・・、華琳はやや剣呑な声で沙和に尋ねると、沙和は怯える

 小動物の様な目で華琳の方を見て彼女の質問に答えた。

  「・・・さ、さっき、本陣で眠っていた撫子様が目を覚ましたって・・・、兵士さんが報告して

  くれたの~・・・。」

  「・・・そうか。祝融を倒したから、彼女の魂が解放されたのか・・・。華琳。」

  「・・・そうね。ここは日を改めるとして、先に撫子から話を聞きましょう。外史喰らいについて

  何かを知っているかもしれない。行くわよ、一刀。」

  「分かったよ、華り・・・、・・・っ!?」

  足を一歩踏み出すと急に目眩を起こす一刀。体のバランスが崩れ、家の壁にもたれ掛かる。

  「・・・どうしたの、一刀?」

  目眩を起こし、家の壁にもたれ掛かった一刀を心配する華琳。

  「あ、ぁあ・・・・!大丈夫、だ・・・。ちょっと軽く、目ま、・・・っ!?!?」

  一刀は話を途中で止めると、左手で口を押さえる。

  「ぐ・・・、グブゥッ・・・!・・・ゴフゥッ・・・!!」

  左手で押さえた口からくぐもった声が漏れると、左手と口の隙間からおびただしい量の血が溢れだした。

  「っ!!・・・一刀っ!!!」

  「隊長っ!?!?」

  ぼたぼたと一刀の口元から落ちる血・・・。左手と口は血で真っ赤に染まり、口から血を吐き出し終えた

 一刀はそのまま仰向けに倒れてしまった。

  ドサァッ!!!

  一刀の側に急ぎ駆け寄って行く華琳。一刀の両目の瞳孔は完全に開き、全身が痙攣を起こし、さらに呼吸

 が出来ていない状態に陥っていた・・・。

  「一刀っ!しっかりしなさい!!私が分かるっ!・・・一刀っ!?」

  華琳は一刀の両頬を両手で掴み、必死になって何度も呼び掛けるも、一刀がそれに応える事は無かった。

 一刀の視界はひどくまどろみ、その中に華琳の姿がおぼろげに映る・・・。一刀は華琳の呼び掛けに応え

 ようとするも、全身が痙攣を起こし、呼吸もままならない状態ではそれに応える事が出来るはずもなく、

 ただ彼女が自分の名前を叫ぶのを聞くことしか出来なかった・・・。

  「一刀・・・!一刀っ!!!」

 

第二十三章~今ここに存在する理由・前編~

 

 

 

  「華琳様っ!!北郷は・・・!」

  「春蘭、声が大きいわよ。」

  街の外に建てられていた、宿屋の個室の中に慌てて入って来た春蘭に、声が大きいと

 小声で叱る華琳。春蘭は眼帯の代わりに何重に巻かれた包帯で左眼を隠していた。そして華琳は、

 寝台の上で静かに眠る一刀の横で椅子に座り看病をしていた・・・。

  「も、申し訳ありません・・・。」

  華琳に叱られた春蘭は小声で謝る。

  「それで、北郷の容体は・・・?」

  春蘭の後から入って来た秋蘭は華琳に一刀の容体について尋ねる。

  「・・・先程落ち着いて、今は眠っているわ・・・。」

  眠っている一刀の額を手で触れながら、華琳はそう答える。

  「ほぅ・・・、そうですか・・・。」

  それを聞いた春蘭は一息ついて安心する。

  「ふふっ、良かったな。姉者。」

  「あぁ、全くだな・・・って、何を言わせるのだ!!」

  「春蘭。」

  「も、申し訳ありません・・・。」

  また華琳に叱られ、春蘭は小声で謝る・・・。

  「それはそうと、一体北郷の身に何が・・・?」

  春蘭の横から秋蘭は華琳に一刀がどうしてこうなってしまったのかを尋ねる。

  「・・・最初はただの目眩かと思った。だけど、突然吐血して、そのまま倒れてしまったのよ。」

  「何かの病なのでしょうか?」

  春蘭は首を傾げながら華琳に尋ねると、華琳は首を横に振る。

  「一刀を診た医者は、首を傾げていたわ・・・。」

  「・・・ですが、華琳様には思い当たる節があるのでしょう?」

  「そ、そうなのですか、華琳様?」

  「・・・・・・。」

  「華琳様・・・。」

  「・・・華琳様。」

  黙ってしまった華琳に詰め寄る夏侯姉妹・・・。そして観念したように、華琳は閉じていた口を

 開こうとした時・・・。

  「どうやら・・・、恐れていたことが起きてしまったようね・・・。」

  声の主を見つけるため、三人は部屋の扉の方を見ると、そこには貂蝉が立っていた・・・。

  「貂蝉・・・、あなたは・・・、あなたは、知っているのかしら?今、一刀の体に、何が起きているのか?」

  華琳は貂蝉に尋ねる。

  「・・・・・・・・・。」

  貂蝉は華琳達から目を背け、黙り込む。そんな貂蝉を見て、華琳は確信する。

  「貂蝉、黙っていないで答えなさい。」

  「・・・・・・・・・。」

  だが、貂蝉は沈黙を通す。そんな貂蝉の態度に、春蘭は苛立ちを露わにする。

  「貴様・・・、華琳様に対して何だその態度はっ!」

  春蘭は咄嗟に腰に帯刀していた剣の鞘に手を掛ける。

  「止せ、姉者。」

  秋蘭は春蘭のその行動を制止させる。そんなやり取りを見ていた貂蝉は溜息を吐きだす。

  「・・・分かったわ。ほんとは黙っているように一刀ちゃんに言われていたんだけど・・・、状況が状況だ

  ものねぇ・・・。」

  貂蝉は観念して、華琳達に一刀の身に何が起きているのか、伝える事にした・・・。

  「まぁ、ここで話すのも何でしょうから。もう少し、ちゃんとした場所で、ね?」

  そう言って、貂蝉は部屋から出ていった・・・。

 

  場所は変わり宿舎一階の応接間、一刀は今、二階の個室で眠っている・・・。

  「話をする前に、曹操ちゃん・・・あなたぁ、一刀ちゃんの裸は見たのかしら?」

  そう言われ、華琳は以前に見た一刀の体を思い出す・・・。

  「・・・えぇ。見たわ。」

  貂蝉の問いにちゃかす事無く真剣に答える華琳。

  「それなら話は早いわね。一刀ちゃんの体のあれは無双玉との『同化』する際の・・・、初期に現れる

  症状なのよ。」

  「『同化』・・・、ですって?」

  「要するに、一刀ちゃんと一刀の体に埋め込まれた無双玉が合体しているって事よぉ。」

  「どうしてそんな事になっているの?」

  「無双玉は確かに一刀ちゃんに力を与えたわ。一刀ちゃんがその気になれば、無限大の力を発揮する事だって

  出来てしまうわ。・・・でも、それは同時に、一刀ちゃんの体に莫大な負担として返ってくる事を意味するの。

  いわば、諸刃の剣・・・。力を使えば使うほど、体に返ってくる負担もどんどん大きくなる・・・。」

  「ふむ・・・、言いたい事は分かるが・・・、それが『同化』とどういう関係があるのだ?」

  華琳と貂蝉の話に一区切りを入れる形で割って入ってくる秋蘭。

  「それが大有りなのよぉ。体に返ってくる負担が大きくなる・・・。最初の頃の一刀ちゃんは力を使った後、

  決まってへたばっていたでしょう?」

  「えぇ、確かに。成都で伏義と戦った時は丸三日も寝込んでしまっていたわ。」

  「でも、最近は・・・?疲れて倒れる、なんて事は無かったはずよねぇ?」

  「えぇ・・・、そうね。」

  「恐らく・・・伏義と戦った後、一刀ちゃんの体はこう考えたのよ・・・、このまま力を使い続ければ、

  自分は死んでしまうってね。そこで力を使う際に生じる負担をどうやって軽くするかを考え始めた・・・。

  考えに考えた一刀ちゃんの体は一つの名案を思いついた。無双玉と一つになる事で、その負担から逃れようと

  ・・・ってね。自分が無双玉になれば、体内に負担を溜め込まず済んで、負担を外へと逃がす事が出来るよう

  になる。・・・確かにその考えは間違っていなかった。結果として、無双玉と一つになった事で、一刀ちゃん

  の体に掛かる負担はかなり小さくなったわ。それで味を占めた一刀ちゃんの体はもっと無双玉と一つになろう

  と・・・、『同化』を進行させる事にした。でも、それは違う意味で自分の体を追い詰める事になってしまったのよ。」

  「なら、さっきのあれは・・・。」

  貂蝉は無言で頷くと、再び話を再開する。

  「一刀ちゃんが血を吐いちゃったのは、無双玉との同化に体の一部分が拒否反応を起こしてしまったからよ。

  でも、それは最初のうち、同化が進めばそれも無くなるわ・・・。そして、最後は・・・。」

  「最後・・・って、ま、まさか・・・!二年前の様に、天の国に帰って行ってしまうのでは無いのだろうなっ!?」

  春蘭は二年前一刀がこの外史から消滅した時の事を思い出し、貂蝉に問い詰める。

  「・・・・・・。」

  前のめりに顔を突き出してくる春蘭から貂蝉は顔を背け、そのまま黙ってしまう・・・。

  「おいっ!何故そこで黙るのだ!?」

  黙り込みを通す貂蝉に苛立ちを覚え、春蘭は問い詰め続ける。そして、貂蝉はその重い口をゆっくりと開いた。

  「・・・そっちの方が、いくらかましだったでしょうねぇ・・・。」

  「なんだと?」

  「・・・それは、どういう意味なのだ?」

  貂蝉の言おうとする事が理解出来ない春蘭。その横から秋蘭が貂蝉にその詳細を求める。

  「同化する・・・、それはつまり一刀ちゃんが別のモノへと変わっていくという事・・・。完全に同化して

  しまった時、一刀ちゃんは・・・、一刀ちゃんで無くなる・・・。」

  「一刀が一刀でなくなる・・・と、一刀はどうなると言うの?」

  「・・・・・・・・・、死ぬ、と言う事よ・・・。」

  貂蝉は・・・、今まで遠回りに説明してきた事を、華琳達に最も簡潔な言葉で要約し、そして伝えた・・・。

  「「「・・・・・・っ!?」」」

  華琳達は貂蝉の言葉に衝撃を受け、言葉を失う・・・。只事ではない・・・、彼女達にも大凡は理解出来て

 いた。だが、まさかそれほどまでに深刻な事態だったとは思いもしなかった・・・。

  「・・・一刀が死ねば、この外史は消え、そして他の外史も消える・・・。確か、そうだったわね?」

  「・・・えぇ。その通りよ。」

  「それを防ぐために、あなた達は・・・一刀にあの力を授けたのよね?」

  「そういう事になるわね・・・。」

  「そして、その力によって・・・一刀は死ぬ事に、なる・・・?」

  「今のままでは・・・、ね。」

  華琳の質問に、貂蝉は淡々と答え続ける。

  「ちょっと待て!!それでは矛盾するではないか!北郷に死なれては困ると言っておきながら、お前達の

  した事が北郷を殺そうとしているではないか!?」

  それを聞いていた春蘭は貂蝉の言っている事に明らかな矛盾がある事を指摘する。無論、それは言っている

 貂蝉も承知していた・・・。

  「もうそれしか方法が無かったからよ。外史喰らいの暴走を止め、外史の消滅を回避する・・・。

  力を失った南華老仙ちゃんに出来た事は『一刀ちゃんに無双玉を託す事』以外、無かったの。」

  ドガァッ!!!

  その貂蝉の言葉に、春蘭は左拳の底で壁に叩きつける。

  「それしか方法が無かった!?ふざけるなっ!!!その南華老仙が如何な人物か私は知らん!だが、自分の

  不始末を北郷一人に一方的に押し付けて、挙句に北郷に死ねとは・・・、無責任過ぎるではないかっ!!!」

  顔を真っ赤に染め、春蘭は腹の底から湧き上がってくる怒りを貂蝉に向ける。

  「お、落ち着け姉者っ!貂蝉に非は無い。貂蝉を責めるのは筋違いだ。」

  秋蘭に諭される春蘭であったが、それで彼女の怒りが静まるはずも無く、その怒りは南華老仙に向けられた。

  「ぐぅ・・・、なら・・・、ならば、その南華老仙を今すぐここに連れて来い!!!私自らが叩き切って

  くれるっ!!」

  「それは無理よ、春蘭ちゃん・・・。」

  「何だとぉ・・・!!」

  無理とはどういう事だ!春蘭がそう言いかけようとした時、貂蝉が先にその理由を春蘭に教える。

  「南華老仙ちゃんは・・・、もう、死んでいるのだから。」

  「な・・・っ!?」

  貂蝉の言葉に、返す言葉を失くす春蘭。先程までの怒りは何処ぞと消え、彼女の顔から熱が一気に引く。

  「老仙ちゃんは、外史喰らいから一刀ちゃんを守るために、その身を犠牲にしたのよ。戦うだけの力

  なんて、ほとんど残っていなかったと言うのに・・・。」

  「・・・・・・。」

  「本当なら、一刀ちゃんの体が『同化』しない様、老仙ちゃんが一刀ちゃんに無双玉の使い方を伝授するはず

  だった。・・・でも、その前に老仙ちゃんは・・・、死んでしまったのよぉ・・・。」

  「・・・・・・くそぉっ!!」

  ドンッ!!!

  春蘭の怒りは再び湧き上がってくるも、それをぶつける相手はいない。怒りは憤りに代わり、春蘭はその憤り

 を乗せた右拳で再び壁を殴ると、壁に彼女の拳ほどの穴が出来てしまった。ぶるぶると肩を震わせる春蘭の背中

 を見た秋蘭は貂蝉の方を見る。

  「貂蝉。何か・・・、北郷を救う方法は・・・無いものだろうか?」

  秋蘭は蜘蛛の糸にもすがりつく罪人の様な思いで、貂蝉に希望を求める。

  「・・・ある事には、あるわ。」

  彼女達の前に、蜘蛛の糸が天から降りてきた・・・。

  「・・・え?」

  意外な答えに、華琳はぽかんとした顔になる。

  「そ、それは・・・本当なのか!?」

  意外な答えに、春蘭は自分の耳を疑い、もう一度貂蝉に聞き返す。

  「えぇ・・・、でもそのためには・・・外史喰らいの暴走を止める必要があるのよ・・・。」

  「・・・もう少し詳しく教えてくれないかしら?」

  「外史喰らいは、外史の数を一定に保つ様、外史を削除・調節する事の他に、『削除した外史の情報を保存

  管理して、新たな外史の発生に必要な火種、無双玉を作成』するという機能も担っているの・・・。

  無双玉を作る事が出来る。それは同時に、無双玉を分解する事も出来るって事ね。」

  「今の一刀ちゃんは、まさに無双玉そのもの・・・。だから、外史喰らいに一度一刀ちゃんを分解させて、

  無双玉と分離させた後に、一刀ちゃんを再構築させる事が出来れば・・・。」

  「一刀を助ける事ができる・・・。」

  華琳は貂蝉の代わりに、希望の結論を口にする。

  「でも、そのためにはさっきも言った様に、暴走している外史喰らいを止めて、正常に戻す必要があるの。」

  「待て、貂蝉。外史喰らいの暴走を止める・・・、お主はそう言うが、具体的に何をすれば暴走を止める事が

  出来るのだ?」

  秋蘭は貂蝉にその具体的な手段を聞くと、貂蝉は具体的な手段を話し始めた。

  「止める方法はたった一つ、外史喰らいの中枢である『マザーシステム』の破壊・・・。」

  「『まざー・・・、しすてむ』・・・?何だそれは?」

  聞き慣れない言葉に、頭の上に?を浮かべながら貂蝉に尋ねる春蘭。

  「マザーシステム・・・、言うなれば、外史喰らいの『脳』の部分に当たる所よ。つまり、脳を破壊して、

  脳死状態にした外史喰らいの体、システムをこちらのものにするって事よ。」

  貂蝉は自分の頭を指差しながら分かりやすく説明すると、春蘭は分かったという顔をしてぽんっと手を叩く。

  「成程、頭を失った外史喰らいの体を我々で乗っ取ってやろうという魂胆か。」

  「だけど、そのためには、外史喰らいが今何処にいるのか?という問題にぶつかるわね。外史喰らいの足取り

  は、分かっているのかしら?」

  華琳は貂蝉に尋ねると、貂蝉は首を横に振った。

  「今、干吉ちゃんがそれを追っているわ。だけど、外史喰らいがこの外史を削除している以上、少なくとも

  この外史の何処かに外史喰らいに続く・・・、道があるはずなのよ。」

  「道・・・?」

  華琳は道について貂蝉に詳細を求める。

  「外史喰らいは外史の狭間を移動している存在。外史に介入する際、外史との間に道を作って、そこから

  分身達を送り込むのよ。」

  「そうか。その道を辿って行けば・・・、外史喰らいの中へと侵入する事が出来る。そういう事か?」

  「そういう事よん。」

  貂蝉は秋蘭の考えをにやけた顔で肯定する。

  「華琳様。」

  「分かっているわ、春蘭。貂蝉、一刀と無双玉が完全に同化するまで、およそどれくらいかかるのかしら?」

  「同化の進行は一刀ちゃんが力を使えば使うほど速くなるの。もし、今の状態で力を全く使わなければ、

  およそ三カ月・・・。」

  「三ヶ月か・・・。しかも北郷があの力を使うとそれよりも短くなる恐れがある・・・。そうなると、

  微妙な期限だな・・・。」

  ふむぅ・・・と、手の上に顎を乗せながら唸る秋蘭。だが春蘭にはその様な迷いは無かった。

  「だが、やるしかない。あいつを助けるためには、死ぬ前に外史喰らいを倒さねばいけないのだからな!

  華琳様、この事を他の皆にも話して、我々も外史喰らいの居所を探しましょう!!」

  そう言って、春蘭は華琳の方を見る。

  「・・・・・・。」

  だが、華琳は黙ったまま上を見上げていた・・・。

  「・・・・・・あ、あの・・・、華琳、様?」

  「黙って。」

  「・・・?」

  わけも分からないまま、華琳に言われた通り、春蘭は黙る。

  ガタッ、ゴトッ、ガタンッ・・・

  すると、上の方から物音が聞こえてくるのが分かる。

  「あらぁ?上から物音が聞こえるわねぇ・・・。」

  「確かこの上はちょうど北郷が寝ている部屋でしたね?」

  「という事は、北郷が目を覚ましたのでしょうか?」

  「かもしれないわね。確認のために様子を伺いにでも行きましょうか?」

  華琳の言葉にその場にいた全員が同意し、一刀の寝ている個室へと向かう事となった。

  「って、何故貴様まで来るんだ!」

  「あらぁ、何よ春蘭ちゃん。あなた達が一刀ちゃんの顔を見に行くって言うのに、私が行かないわけには

  いかないじゃない♪」

  「えぇい近寄るな!気持ち悪いっ!貴様なぞ、外で犬とでも戯れておれっ!!」

  「姉者。何もそこまで言う事は無いだろう。こ奴も北郷の身を案じて、こうして我々に手を貸してくれて

  おるのだぞ。」

  「う・・・。だ、だが、秋蘭・・・。」

  「それに北郷も寝起きにこ奴の顔を見れば、良い気づけになると思うぞ。」

  「おぉ、成程・・・!」

  「ちょっとちょっと秋蘭ちゃん!私を庇うと見せかけて、さりげなく春蘭ちゃんよりひどい事言ってくれる

  じゃないのぅ!」

  「あなた達、ここには一刀以外にも人がいるのですから、あまり大声を出すと迷惑になるわよ。」

  廊下ではしゃぐ三人に華琳は、まるで母親の様に叱る。そんなこんなで四人は一刀がいる個室の扉の前で

 その足を止める。

  コン、コンッ!

  「一刀。聞こえるかしら?」

  扉をノックした後に扉の向こうにいる一刀に声をかける華琳。

  ・・・・・・・・・。

  だが、扉の向こうから彼の声が返って来ない・・・。

  「・・・返事がないわね。」

  そこで春蘭が華琳に変わって扉の前に立つと、少し乱暴にノックする。

  ゴン、ゴンッ!!

  「北郷!!北郷!!返事をせんか!!」

  ・・・・・・・・・。

  だが、それでも彼の声が返って来ない・・・。

  「えぇい!全くぅ、起きているなら、返事をせんか!北郷っ!!」

  ギイィィィッ!

  反応がない一刀に苛立ちを覚えた春蘭はノックなど知るかと言わんばかりに、扉を勝手に開けてしまった。

  「北ご・・・!」

  春蘭、そして他の三人の目に思わぬ光景が入って来る。

  「・・・ッ!」

  白い装束を身に纏った、一刀と同い年の感じの青年が、一刀を右肩に軽々と乗せ、個室の窓に右足を

 掛けている所であった。この青年の正体、それは今までに幾度も一刀の命を狙ってきた、左慈であった・・・。

  「何奴だ貴様!北郷をどうするつもりだ!?」

  春蘭が前に出ようとする前に、貂蝉が先に飛び出し、そのまま左慈に向かって右拳を放った。

  ガシィイイイッ!!!

  だが、貂蝉の右拳は左慈の左手にあった、納刀していた刃の鞘の先端で受け止められてしまう。

  「邪魔だ!失せろぉッ!!」

  左慈は貂蝉の右拳を上に跳ね上げ、無防備となった腹部に右回し蹴りを叩き込む。

  「ぬがぁああああああっ!!!」

  貂蝉の巨体はその回し蹴りの一撃で軽々と吹き飛ばされ、個室の壁へとめり込むそして左慈は全開に

 開けられた窓から一刀を右肩に乗せたまま外へと飛び出していく。

  「待て、逃がすか!!」

  左慈を捕まえようと、春蘭は窓の元へと駆け付けるも、すでに遅く、左慈は隣向こうの家の屋根へと

 飛び移りながら、夕日の沈む方向へとその姿を消してしまった・・・。

  「貂蝉、大丈夫か!?」

  内側にめり込んだ壁の側で四つんばいに倒れる貂蝉の側に駆け寄る秋蘭。

  「ぬぐぐ・・・、わ、わたしの、心配よりも・・・早く、ご主人様・・・、一刀ちゃんを・・・!

  今・・・、左慈ちゃんに、一刀ちゃんをやらせるわけには・・・!!」

  「春蘭!秋蘭!ここは私に任せて、あなた達は今動かせる兵達を集めて一刻も早く一刀を追いなさい!!

  一刀の死は、この世界の死を意味しているわ!!」

  「「御意っ!!」」

  二人は華琳に一礼すると、一目散に個室から飛び出していった・・・。

  「貂蝉、最後にもうひとつだけ教えなさい。あの左慈という男は・・・、何故一刀を殺そうとしているの?」

  個室に残った華琳は貂蝉に左慈の目的を尋ねる。貂蝉は壁を支えにして立ち上がると、その口を開く。

  「・・・・・・、左慈ちゃんは、あの時果たせなかった事を果たそうとしているのよ・・・。」

  「どういう事・・・?」

  「全てはあの外史から・・、この外史が生まれる発端となった、今は無きあの外史で・・・、あの子の

  存在理由でもあった、外史の否定を今度こそ・・・果たそうとしているのよ。」

  「・・・・・・。」

  「・・・でも、それはきっと建前、本当の理由はもっと単純な所にあるんだと思うわ・・・。」

  そう言うと、貂蝉は開かれた窓から真っ赤に燃える夕日を覗く。夕日の端は、すでに地平線へと沈み

 つつあった・・・。

 

  「・・・ぅ・・・、・・・ぅう・・・。」

  顔に光が差し込み、俺はそれで目を覚ます。目の前には赤く染まった空が広がっていた・・・。

  「ふん・・・、ようやくお目覚めのようだな・・・。」

  俺は声のした方に顔を向ける・・・。そこには、後ろ姿の左慈が・・・。

  「・・・・・・どうしてだ?」

  俺は敢えて奴に尋ねてみた・・・。

  「・・・殺ろうと思えば、殺る事は出来たはずだ・・・。」

  俺は今まで眠っていた・・・。なら、殺すチャンスはいくらでもあったはず・・・。だが、左慈は俺が

 目を覚ますまで、何もしなかった・・・。

  「あぁ・・・、確かに。眠っている貴様を殺すのは別に難しことじゃない。・・・だが、それでは

  あっけ無さ過ぎるだろう・・・?」

  俺に背中を向けたまま、奴は俺の疑問に答える。その声から、怒りがひしひしと伝わって来た・・・。

  「・・・・・・そんなに、俺が憎いのか・・・?」

  俺は奴にそう聞くと、左慈は夕日を背にして、俺の方へと振り向いた・・・。

  「・・・あぁ、憎いとも・・・!俺から存在理由を奪い、さらには『無意味』を押し付けた、

  貴様がな・・・!!」

  そう言うと、左慈は俺を殺そうとする理由を・・・、語り始めた・・・。

 

  「俺と干吉は正史で生まれた外史を否定・破壊するという『運命』・・・、プロットを与えられた。

  そして俺達が最初に担当する事となった外史が、貴様が元いた外史、聖フランチェスカ学園を舞台とした

  あの世界だった・・・。」

  「なん、だって・・・?」

  「俺達は当時、まず手始めにあの世界における不変存在である銅鏡を見つけ出す為に、学園の生徒として

  潜り込んでいた・・・。」

  「銅鏡だと・・・?」

  「不変存在はただの別次元の外史への移動手段ではない。一個の外史に必ず存在するその外史の全てと言える

  象徴だ。それを使えば、正史の人間の想念を断ち切り、外史を消滅させる事も、正史の人間の想念と外史を

  繋げる事で、新たに外史を生み出す事も出来る・・・。そしてあの日、歴史資料館で俺は銅鏡を見つけた。

  その夜、その銅鏡を資料館から盗み出した俺は、干吉の元へと戻ろうとした道中で俺の前に現れたのが、貴様

  だった・・・。貴様のせいで、銅鏡は割れ、不変存在でなくなった銅鏡は再構築するために、新たな突端として

  選んだのが、その場に居合わせた貴様だった。

   そして生まれたのが、貴様の想念を基にした三国志の時代をを舞台に、武将達が全員女というふざけた

  設定の上で新たに再構築された世界だった。」

  「干吉が言っていた・・・、この外史の生まれるきっかけとなった外史・・・。」

  「そうだ。それは同時に、その外史が俺達の担当する外史と切り替わる事となった。その後の俺達のした事は

  ・・・、すでに貴様も干吉から聞いているだろう。」

  「その外史は終端を迎え・・・、たくさんの平行外史が生まれた・・・。」

  「あの外史は正史の人間達によって肯定され、外史の終端から平行外史が無限大に広がった。

  ・・・そして、俺達は何処へとも向かう事も出来ず・・・、ただ外史と外史の狭間を意味も無く漂うだけ

  の無意味な存在へと変わった。否定するという役割を果たせなかったその報いと言わんばかりに・・・。」

 

―――その外史が消滅した後、お前達は・・・どうなったんだ?

 

―――・・・私と左慈は結局の所を外史の消滅、無かった事にする事が出来ませんでした。その罰・・・、

  なのでしょうかね、私達は外史と外史の挟間を彷徨う事となり・・・。

 

―――私は別の外史へと飛ばされちゃったわけ♪最も、その外史も消滅しちゃって、挟間を彷徨っていたのを

  干吉ちゃんに保護されたって訳・・・。その後、私はこの世界の貂蝉と融合して今ここにいるってわけ。

  

―――・・・じゃあ、左慈が俺を殺そうとするのは、そこにあるって事か・・・?

  

―――・・・・・・。  

 

  「それからというもの、俺は次々と生まれてくる外史達を眺め続けていた・・・。南華老仙は外史喰らいを

  作り、外史の数を調整していたようだが、そんな事は俺にはどうでも良かった。絶えず、生まれる外史を見る

  度に、貴様の幸せそうな顔を見る度に・・・!俺は腹立たしさでどうにかなりそうになった・・・!!」

  そう言って、奴の右拳から力一杯に握り締める音が聞こえてくる・・・。

  「そしてある時、外史喰らいが暴走したと知った俺はチャンスだと思った!もう一度外史を否定し、

  跡形もなく消し去る事が出来る・・・、チャンスだとな!!」

  先程のまでの怒りとは打って変わって、今度は嬉しそうな顔をする・・・。感情の切り替わりが

 激しいな・・・、こいつ。

  「俺は南華老仙に協力する素振りを見せておきながら、外史喰らいに有利に事が運ぶよう、細工を施してきた。

  ・・・もっとも干吉はそれに薄々は気付いていたようだが、奴は俺を止めようとはしなかった。・・・大方、

  俺には何も出来ないと高をくくっていたのだろうな。」

  「そして、俺はこの世界に戻ってきた・・・。」

  「再びこの外史へと降り立った貴様を殺そうとしたが、南華老仙、貂蝉、あまつさえ干吉にも邪魔をされ、

  三度失敗に終わった。だが、南華老仙は死に、今や干吉と貂蝉ですらもはや俺を止める事は出来ない・・・。」

  

  「くっ・・・、ぅうぅ・・・!」

  大の字に寝ていた俺は、鉛の様に重くなった体を起き上がらせようとする・・・。

  「さぁ立て、北郷一刀・・・。貴様を軸に再び巻き起こった動乱は終端を迎えた・・・。」

  奴は俺が立ち上がるのを待っている・・・。

  「残るは・・・、俺達の、存在をかけた戦いだけだ・・・!!」

  飽くまでも、奴は俺と戦って、俺を殺す気だ・・・。

  「正史の人間の意思ではない・・・、俺自身の意思で貴様を殺し、そして今度こそこの外史を、あの外史

  から始まった、全ての外史を否定する!・・・それこそが俺の存在意義であり・・・、存在理由なんだッ!!」

  左腕を大きくを掲げ、自分の主張を掲げる左慈・・・。俺はふらつく両足に力を入れ、ようやく立ち上がる

 事が出来た・・・。くそ・・・、さっきから聞いていれば、好き勝手な事を言いやがって・・・。

  「そのためならば・・・、命と引き換えにしようと厭わん・・・!!」

  「・・・まさか、お前も・・・?」

  俺と同じ様に、『同化』が起きているのか・・・?

  「もうお喋りはお終いだ・・・。貴様とこれ以上交わす言葉はもう、ない・・・。言いたい事は、こいつで

  語るがいい。」

  ブゥオンッ!!!

  そう言って、左慈は右腕を勢いよく上に振り上げる。そして俺の目の前に、刃が回転しながら落ちて来る。

 俺は刃の柄を宙で掴み取ると、両手に取って左慈に切っ先を向けて構える。そして左慈も左手を前に出し、

 俺に向かって構える。

  今、気が付いたが・・・俺達が居る場所は、荒野のど真ん中。街の姿形など何処を見渡しても無く、全方向

 に地平線が見えるだけだ。誰も助けに来る様子は無い・・・、本当に一人で戦うしかないようだ。

 だが、俺だって、今ここで死ぬわけにはいかないんだ・・・!

 この外史を・・・、彼女達を・・・、あいつが命を賭けて俺を守った様に、今度は俺が守るために・・・!!   

  「行くぞ・・・、北郷ッッ!!!」

  「来い・・・、左慈ッッ!!!」


 
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