No.1056677

ある魔法少女の物語 14「疫病の魔女」

Nobuさん

魔法少女は現在の技術ではどんなに時間や労力をかけても不可能な事を可能にする。
でも、それは本当に地球にとって良い事なのでしょうか?
そんなわけでボス戦、今回の敵も病ですよ。

2021-03-13 10:15:42 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:464   閲覧ユーザー数:464

 真字駆高校に行く道を歩いている時、恭一は独り言を言っていた。

 皆よりも遅く出たため、今日は一人で登校する。

 

「まったく、ジュウげむの奴、そんなに悪い事が起きるのが嫌なのか?」

 ジュウげむは災いを魔女という形あるものにし、恭一や魔法少女に倒してもらう事で取り消す。

 恐らく善意でやっている事だろうが、恭一にとってはいい迷惑である。

 何も知らない少女を唆し、日常を奪う外道。

 恭一はジュウげむの事を、そう思っていた。

 

 だが、魔法少女が魔女を倒す事によって、結果的に災いが世界から消えたのも事実。

 恭一は、それを否定しようにもできなかった。

「確かに世界を良くしているのはいい事だ。でも、こんなやり方で本当にいいのか?」

 ジュウげむにその事を言ったが、彼(?)は何故かはぐらかしていた。

「俺は絶対に、ジュウげむを許したくないぜ。

 平和のために誰かを犠牲にするなんて、間違ってるって思うからな……って、もうこんな時間だーーーーー!?」

 長々と話しているうちに、始業時間が始まろうとしていた。

 恭一は大急ぎで、学校に向かうのだった。

 

「はぁ、はぁ……」

 何とか、ギリギリで恭一は間に合った。

 奈穂子は既に、席に座っている。

「おはよう。またギリギリみたいだね。時間を守るって言ったのは、誰かな?」

「あ、ごめん」

「もう、恭一君ったら、忘れっぽいんだから」

 奈穂子はくすくすと笑っている。

 恭一は自分が言った事を守れずに、がっくりした。

 

 こうして、授業は何の問題もなく進み、終わった。

 昼食もいつも通りに奈穂子と共に食べ、午後の授業もいつも通りに終わった。

 恭一、奈穂子、まり恵、三加は、帰り道を歩く。

「はぁ~、何も起こらなきゃいいんだが」

 恭一としては、魔女に遭遇したくなかった。

 これ以上、厄介ごとに自分と奈穂子を巻き込みたくないからだ。

 

 だが、非情にも運命は恭一を戦いに向かわせる。

 ジュウげむが、恭一達のところにやって来たのだ。

「みんな、気を付けて! また、魔女がこの町を襲ったみたいだよ!」

「何……!?」

「急がなきゃ、真字駆市は魔女に支配されてしまう。災いがまた、真字駆市を覆っちゃうよ!」

 魔女は災いの象徴、倒さなければならない。

 だが、恭一は何故か足を止めていた。

「どうしたの? 魔女は倒すべき存在よ?」

「……。……そうか。じゃあ、行こう」

 恭一は少し迷ったが、まり恵達と共に、魔女を倒す事を決めるのだった。

「こっちだよ!」

 ジュウげむが案内した先に、魔女が陣取る結界はあった。

 結界の中では、恐怖に怯える人々の姿があった。

「な、なんだこれは!?」

「みんな魔女のせいで怯えてるよ。キミ達がやるべき事は一つ。元凶の魔女を倒すだけだ」

 そう言うと、ジュウげむはどこかに姿を消した。

 

「ジュウげむ……次はどんな災いを消したいんだ?」

「話はあと! 変身するわよ!」

「奈穂子は結界の外で待ってろ!」

「……うん!」

 恭一は光の剣を取り、まり恵と三加は魔法少女に変身する。

 そして、奈穂子に背を向けて、結界の中に入った。

 

「来たのね!」

「……!」

 結界の中には、既に魔法少女に変身していたカタリナもいた。

 カタリナは、使い魔の攻撃をかわしつつ、矢を撃って使い魔を攻撃していく。

 彼女の矢が当たった使い魔は叫び声と共に消えた。

「カタリナ! お前も一緒に戦うか?」

「ええ、でもまずは使い魔を倒してからね」

 カタリナは大量の矢を放ち、使い魔を攻撃した。

「計算通りです」

 三加は後方から炎で攻撃し、恭一とまり恵はカタリナと三加が倒し損ねた使い魔を倒す。

 こうして使い魔が粗方倒れたところに、その魔女は姿を現した。

 その魔女は、巨大な鎌を持ち、漆黒のローブを纏った骸骨――所謂「死神」の姿をしていた。

 一般人は近づくだけで卒倒するほどの「死の気配」を纏っているが、恭一達は怯まなかった。

「こいつが魔女か……気を引き締めていけよ!」

「はい」

 三加は魔女の動きを読みながら、炎の弾丸を放つ。

 カタリナは魔女の隙を突いて、矢を射る。

「若林さん、この魔女の弱点は炎です」

「そっか、サンキュ! フレイムソード!」

 恭一は三加の助言で、剣に炎を纏わせて一閃する。

 魔女の身体が炎に包まれ、苦しみ出す。

「効いてるわ! よし、いくわよ!」

 まり恵はハンマーを構えると、勢いよく魔女に振り下ろす。

 魔女の急所には当たらなかったが、それでもかなりのダメージを与えられた。

 すると、不意に魔女の姿が消え、カタリナの全く背後に現れる。

「きゃぁぁぁぁっ!」

 魔女は、カタリナ目掛けて鎌を一閃し、斬った。

 血は流れなかったが、カタリナは大きくよろめく。

「+×■◇!」

 ルーナは慌てて、カタリナに駆け寄った。

「大丈夫よ、ルーナ……私は魔法少女だから。魔女を倒すためなら、これくらい……!」

 カタリナは歯を食いしばって、光の矢を放った。

 だが、手が震えていたのか、その矢は魔女に掠るだけだった。

「くそっ、よくもカタリナを!」

 魔女に傷つけられたカタリナを見て、恭一の中に怒りの炎が宿った。

「アンガー・フレイム!!」

 彼はその怒りの炎を剣に宿し、剣を勢いよく振り下ろして高熱へと変え、魔女目掛けて放った。

 怒りの炎は魔女を包み、ローブごと魔女を焼いた。

 まるで、魔女狩りにおいて最後に行う「火あぶり」のようだった。

 

「……確かに魔女には火あぶりが効きますね。フレア・ペンタングル!」

 三加は本を媒体に、魔女に炎の印を刻んだ。

 魔女は何をしたのか分からずに困惑し、絶叫と共に鎌を振るう。

 その刃は通常時の何倍にも巨大化し、恐怖に硬直した哀れな犠牲者を薙ぎ払う。

 しかし次の瞬間、炎の印が光り出し、魔女の身体を炎で包み攻撃を防いだ。

「それは、物理攻撃に反応するもの。あなたの攻撃は効きませんよ。さあ、とどめを刺してください!」

「ああ! ……もう、お前の災いは、いらない! クリムゾン・ナパーム!!」

 そして、恭一は炎を纏った剣を一閃し、大爆発を起こして魔女を吹き飛ばした。

 魔女の身体から白い光が漏れ出していき、やがて魔女は白い光になって消滅した。

 結界が消えると同時に、ジュウげむが姿を現す。

 恭一が持っていた剣も消え、まり恵、三加、カタリナの変身も解けた。

「おめでとう、これで災いがまた一つ消えた」

「それで、どんな災いを消したの?」

 戻ってきた奈穂子が、ジュウげむに質問する。

「2009年に発生した新型インフルエンザ。キミ達はそれを、無かった事にしたんだ」

「……人間は昔からウイルスと共存してきました。人間を超えた力とはいえ、それを簡単に消せるなんて……」

「キミ達はいつもそうだね。感染症が流行するたびに誰かを犯人に仕立て上げるけど、それで解決した病気は今までにあった?」

 ジュウげむの問いに、恭一は首を横に振った。

「そう、魔女狩りをしても状況は解決しないどころか悪化し、魔女狩りの悪循環が起きる。

 でも、ボクは本物の魔女を見つけ出し、キミ達に倒してもらう事ができるんだ。理由はない。できるからできる。ただそれだけ」

「できるからできる、って……」

「人間は災いに幾度となく苦しめられてきた。だけど、災いは誰にも予知できないから、ボクと契約した魔法少女が、災いと戦う。

 そして、災いそのものを取り消すんだ」

「そんなの、後出しじゃんけんと同じだ! できないからって卑怯な事をするのは許さねぇ!」

「だけど、結果的に世界は救われているんだから、それに文句を言うのは、誰であろうと世界の敵。

 しつこいようだけど、天災や疫病はこの世界にあってはならない存在だからね。それは理解してくれよ?」

 そう言って、ジュウげむは姿を消した。

 

「ウイルスはただそこに存在するだけなのに、人間が邪魔だと思うだけで排除できるなんて……」

「疫病を無かった事にしても何も成長しねぇ。教訓を生かすしか、成長する方法はないのにな……」

「そうね。この事をどう言えばいいのか、こっちで考えましょう」

 まり恵が歩こうとした瞬間、突然、彼女が倒れた。

「ま、まり恵ちゃん!?」

「……」

 カタリナは既視感を覚え、口を押さえた。

 恭一、奈穂子、三加は、倒れたまり恵に駆け寄る。

「どうした、まり恵! まり恵ーーーーーーっ!!」


 
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