No.105267

~真・恋姫✝無双 孫呉の外史0-2

kanadeさん

遅くなりましたが今作を送らせていただきます。
感想および誤字報告に叱咤激励お待ちしております
それではどうぞ。


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2009-11-04 22:53:51 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:20129   閲覧ユーザー数:14115

~真・恋姫✝無双~ 孫呉の外史0-2

 

 

 

 ――死ぬ。

 目の前に迫る殺意。

 このまま何もしなかったら、俺は死ぬんだ。

 

 『あのクズ共は人なんかじゃない・・・人の姿をしているだけの、ただのケダモノなのよ』

 

 彼女は俺にそう言った。

 殺らなければ、殺られるのはこちらなのだと・・・。

 

 俺は、どうしたらいい?

 

 『一刀、受け入れなさい。これが貴方が今いる〝世界〟なのよ』

 

 俺は・・・俺はーー!!

 

 

 ――数日前。

 「165、167・・・・・・・」

 〝乙女だらけの三国志の世界〟に来てしばらく、荊州での生活にほんの少しだけ慣れ始めた一刀は、元いた世界でもやっていた日課の早朝鍛錬をこちらでもやっていた。

 「・・・・・・・199、200っと」

 腹筋を終えた一刀は立ちあがり、立てかけておいた〝徒桜〟を手に取る。

 「次は素振り200と型を一通りこなして・・・・」

 そこまで言って一刀は続きを始めた。

 

 ――一刀が素振りを終え、型に入った頃。

 その近くを偶々香蓮が通りかかる。

 「んー?あれは一刀か。早くから鍛錬とは、精の出ることだな」

 好奇心からこっそりと見届けることにした香蓮。そんな香蓮の存在に気付かずに一刀は鍛錬を続ける。

 「・・・」

 (ほう・・・中々の〝氣〟の錬度だ。あたしや雪蓮はともかく、蓮華では相手になるまい。そうだな・・・甘く見て思春に届くかどうかと言ったところか)

 心の中で値踏みをしていた香蓮はある違和感に気付く。

 「だが、綺麗過ぎる・・・」

 型を繰り広げる一刀は、傍から見ても相手が眼前にいることを前提として動いているのがわかる。だが、盗賊が跋扈する乱世に生きる香蓮から見れば、一刀の動きはあまりにも正直に感じた。

 「・・・・・・乱世は御前試合ではないというのに・・・。これを冥琳が見つけたら・・・」

 「見つけなかったとしても、間違いなく戦でも使いますね」

 特に驚いた様子もなく香蓮は後ろを振り返った。

 「冥琳・・・一刀を前線で使うつもりか?」

 「あれほどの腕を持つなら当然かと・・・。天の御遣いが盗賊を討つ・・・良い宣伝になります」

 「・・・・・・」

 一刀に気取られない程度に微かな殺気を冥琳に放つ香蓮。一方の冥琳はと言うと眼鏡を押し上げるだけで特にリアクションはしなかった。

 何の威圧にもなっていない事を知った上でその状態を保つ。

 「孫呉の独立に使える物は、何でも使うのは当然でしょう」

 「・・・それは構わん。だが、それに関してはあたしに任せてもらう」

 「反対されないのでしたらご自由に」

 「相変わらず、周家の当主は可愛げがない・・・」

 それだけ言って香蓮はその場を後にする。残った冥琳は暫し一刀の方を見た後、香蓮に倣うのだった。

 

 

 それから暫くして、一刀は中庭の開けた場所に呼ばれた。

 そこには香蓮、祭、冥琳、穏の姿があり、雪蓮の姿がなかった。

 「――で、俺なんかが軍議なんかに参加して良かったの?」

 「生憎だが、タダ飯を食わせるほど我らの懐は暖かくない。最低限の仕事はしてもらうし役にも立ってもらう。――そう、約束した筈だが?」

 「そうだった。でもさ、軍議ってこんなところでするものなの?」

 そう言った一刀に対して、ククッと笑って香蓮が「まぁ普通はそう思うだろうな」と言う。

 そして、一刀は穏からその事情の説明を受けた。

 

 「壁に耳あり障子に目ありってことか・・・確かに、これなら周りを気にする必要はないな」

 「そういうことじゃ。そして、策殿じゃが、今は袁術のおる本城に出向いておる。先日も呼び出しがあったが・・・今回の呼び出しは恐らく」

 「〝黄巾党〟絡みだろうな。あの儒子の考えなぞ、見え透いている・・・・・さて、冥琳、穏・・・お前達の考えを聞かせてくれ」

 溜息を吐いた後に、香蓮は二人の軍師に視線を向けた。

 穏は「そうですね~」と言った戸に冥林が引き継いだ。

 「資金も人手も不足しているのが一番の問題ですね。資金は有力者から集め兵は、義勇兵を募るとしても・・・中々どうして、厳しいと言わざるを得ません」

 「金の事は儂にはわからんからのう・・・じゃが兵に関しては同感じゃの。本隊を宛がわれでもしたら流石に厳しいじゃろうな」

 と、諸々の意見が行きかう中で蚊帳の外にされている一刀に、香蓮が口を開く。

 「――さて、ここまで話を聞いて何か良い考えはあるか?〝天の御遣い〟」

 「・・・その呼び方あんまり好きじゃないんだけど・・・こんなのはどうかなってのはあるよ」

 「ふむ、北郷よ、その考えを聞かせてくれまいか?」

 

 ――そうして一刀が香蓮たちに出した提案とは。

 

 

 「さぁ、戦よ♪ゾクゾクくしちゃうわ♪」

 「危ない発言だなぁ・・・」

 「一刀、雪蓮は人一倍血の気が多くてな・・・」

 「見ればわかるよ。・・・でもさ、俺がコイツを持つ必要はあるのかな?」

 腰に下げた〝徒桜〟をちょいっと見せると香蓮は少しだけ苦い表情をした後、一刀が気取る前に表情を戻した。

 「実際はどうあれ、〝天の御遣いが戦い、盗賊たちを倒した〟という噂を流す事が出来るからな。護身の意味もあるが、今回はどちらかと言えば前者の意味合いが強い」

 香蓮の台詞に納得がいったのか一刀はそれ以上は何も聞かなかった。そんな一刀を見て、香蓮の方が一刀に話を振った。

 「言い訳にしかならんだろうがな・・・ありがとう・・・あたし達と共にこの戦場に立ってくれて」

 「・・・・・・正直言って・・・今も怖くて仕方がないんだ。俺さ、〝戦争〟なんて自分とは関係ないって思ってた・・・そんな考えが当たり前の世界で生きていたんだ。余程の事がないと人殺せば、重い罪になる・・・雪蓮が言ってたような〝ぬるま湯〟のような世界で・・・カッコ悪いよ。覚悟を決めた筈なのに、今も手の震えが止まってくれないんだ」

 「・・・一刀、一つだけ忘れずにいてほしい事がある」

 「えっと・・・何?」

 「お前が今恐れているのは自分が人を殺めてしまった時のことだろうがな・・・」

 「・・・・・・」

 

 ――「あたし達がその手を血に染めることで守れるものもあるんだ」

 

 何故かはわからない。

 だが、一刀はこの時に確かにこう思った。

 

 ――香蓮の今の言葉を絶対に覚えていよう・・・と。

 

 

 「ね、ね、母様は一刀と何を話してるのかしら?」

 「さてな、香蓮様なりの御考えがあってのことだろう・・・それはさておき、わかっているな雪蓮?」

 「はーいはい、わかってるわよ。〝やり過ぎるな〟でしょ?皆揃って同じ事言っちゃって・・・」

 唇を尖らせて拗ねる孫呉の今の王を見て、やれやれと冥琳は溜息を吐いた。

 (北郷の案のお陰で兵と資金、兵糧は何とかなったか・・・着眼点も頭の回転の速さも中々だ。本当に良い拾い物だったかもしれんな)

 眼鏡の奥で鋭い光を湛える冥琳だった。

 

 ――一刀が出した案とは、袁術に資金と兵の両方を出させることだった。

 そうすることで黄巾党討伐において袁術の助力もあってそれを成したという良い風評を得る事が出来るのではないかと一刀は提案したのだ。

 多少、賭けの要素が強かったものの、袁術は深く考えることなく香蓮たちの案に乗っかったのだった。

 (この面においては、袁術の考えの浅さに感謝せねばならんな)

 冥林の思考はどこまでも鋭かった。

 「冥琳様、まもなく黄巾党の拠点に到着しますよ~」

 「わかった。雪蓮!」

 

 ――「勇敢なる孫家の兵たちよ!いよいよ我らの戦いを始める時がきた!」

 

 ――「高らかに謳え!剣を天に掲げよ!矢を放て!正義と天の意は我らと共にあり!」

 

 ――「敵は、我らの民に歯牙を向ける愚かな盗賊!あの獣たちに我ら孫家の力、存分に見せつけてやろうぞ!!」

 

 「オォォォォオオォォォォォオ!!」

 

 雪蓮の鼓舞に兵たちが雄叫びを上げる。ビリビリと震える大気に、一刀はただただ圧倒される。

 その中で一つだけわかる事があった。

 

 ――これから戦争が始まるんだ。

 

 そうして、孫家と黄巾党の戦いは始まり、結果は、圧倒的なまでに孫家の勝利だった。

 追い詰められ、火矢を放たれ、燃え盛る火の中で、響き渡る阿鼻叫喚。

 耳に入ってくる悲鳴と鼻に入ってくる人の焼ける匂い、一刀の目の前には、一刀の甘えが一切通じないこの世界の現実があった。

 

 

 「・・・・・・連中は人じゃない・・・か」

 黒々と広がる焼けた後を見つめながら一刀は歩いていた。

 その中に、人であったであろうモノが嫌でも視界に映る。

 「・・・でも、やっぱり人だよ・・・。だけど・・・これが本当の戦争なんだ・・・」

 

 ――自分が今まで知らなかった世界。

 ――自分が今まで関わることのなかった世界。

 ――自分がいなかった世界。

 

 ――そして、今の自分に突きつけられている・・・・・・現実。

 

 これからもこんな光景は続くだろう。乱世が終わらない限り、無くなる事はないだろう。

 殺さなければ殺されるのが当たり前で盗賊の前では命乞いさえもが意味を持たない。

 「だから、殺さなければならない。そうしないと死ぬのは民や・・・自分達」

 ――ガサッ。

 「ん?香蓮さん?・・・!」

 「はぁ、はぁ・・・・・よくも、・・・やりやがったな。俺達を焼き払いやがって、何が人じゃねぇだ!テメェらの方がよっぽど化け物じゃねぇか!!」

 一刀と対していたのは黄巾党の残党だった。

 あの火の海の中で、奇跡的に命を長らえた者がいたのだ。

 「覚悟しやがれ、あんだけの事をしたんだ・・・殺し返されることぐらい覚悟できてんだろ?」

 へへっと笑う残党、手に握られた剣が振りあげられる。

 間違いなくこの男は一刀を殺そうとしている。しかも、ただ殺すだけじゃない、報復の意味も込め、どこまでも残酷に、猟奇的に殺すだろう。

 カチカチと鳴る歯、一向に震えの止まらない体は、目の前に迫る殺意にたして動こうとしない。

 

 ――死ぬ。

 目の前に迫る殺意。

 このまま何もしなかったら、俺は死ぬんだ。

 

 『あのクズ共は人なんかじゃない・・・人の姿をしているだけの、ただのケダモノなのよ』

 

 彼女は俺にそう言った。

 殺らなければ、殺られるのはこちらなのだと・・・。

 

 俺は、どうしたらいい?

 

 『一刀、受け入れなさい。これが貴方が今いる〝世界〟なのよ』

 

 俺は・・・俺はーー!!

 

 そこから先の記憶はなかった。いや、きっと目を背けただけに違いない。

 

 ――ただ、真っ白になっていく思考の中で、〝死にたくない〟という本能だけが・・・俺の体を動かした。

 

 

 「ん?冥琳、北郷はどうした?」

 一刀と残党が鉢合わせになっていた頃、一刀がいない事に気がついた祭が冥林に訊ねた。

 「気分が優れないと言ってその辺りを歩いている筈です。・・・丁度いい、祭殿、北郷を捜して来てはくれませんか?」

 「心得た。しかし、誰も連れておらんとは・・・不用心じゃのう」

 呆れた様子で祭は一刀を探しに天幕を出ていった。

 「それじゃあ冥琳、私は袁術ちゃんのところに報告してくるわね。吉報は・・・期待しないでくれると助かるわ」

 別の意味で疲れた様子の雪蓮が祭に続いて天幕を出ていった。

 「香蓮様は祭様と行かなくて良かったんですか~」

 「アホらしい・・・あたしは一刀の保護者じゃないんだ。祭一人で事足りるだろうよ」

 クイッと杯を呷る香蓮、その表情には、冥琳でさえ気づかないほどの微かな憂いがあった。

 

 一刀を探しに出た祭は、程なくして一刀の姿を見つける事が出来た。

 「お、あんな所におったか。まったく・・・・ん?」

 言葉を続けようとして途中でそれを呑みこんだ。

 「・・・・・・」

 こっちを向いている一刀は、正面にいる筈の祭に一向に気付く気配がない。ただ呆然と立ち尽くしていた。そして、その右手には鞘から抜かれた刀が握られている。

 刀は、ポタッと切っ先から血の雫をこぼしていて、切っ先の向いている大地には人の亡骸があった。

 暗がりでよく見えなかった祭は近くまで歩み寄る。

 「黄巾党の生き残りがおったのか・・・北郷、お主が・・・」

 「・・・・・・」

 呆然としながら一刀は立ち尽くしていた。これ程近くにいるというのに、一刀は祭の声にも姿にも反応しようとしない。

 「おい!聞いておるのか、北郷!!」

 「はっ!!・・・え?・・・・・・・祭、さん?」

 「呆けおって、まあよい。時に北郷、体に大事ないか?」

 「大事って?」

 「黄巾党の残党と戦ったのであろう?怪我はないかと聞いておるのだ」

そこまで言われて一刀はハッとする。下を向けば、袈裟切りにされ絶命している黄巾党の死体があった。

 そして、体が震え始める。

 

 漂ってくる血の臭いと〝徒桜〟を通して手に残る人を切った感触。

 そこまでなってようやく一刀は自分が生き残るために人を切ったという事実に気がついた。

 「俺が、殺した・・・俺が・・・・・・・人を、う、あ・・・」

 腑の底から這い上がってくる吐き気を堪える事が出来ずに、一刀は吐いた。

 ただ気持ち悪かった。そうしなければ狂ってしまいそうなほどに。

 そして、一刀はそのまま気を失ってしまう。

 「・・・一体どうしたというんじゃ、この儒子は・・・」

 よく事情が呑み込めない祭は、取り敢えず気を失った一刀を背負い天幕に帰るのだった。

 

 

 「おかえりなさい、・・・?祭殿、背中のソレは?」

 「見てわかるじゃろう、北郷だ」

 「気を失っているように見えますが」

 「儂もようわからん。黄巾党の残党がおったようでな、どうにも北郷が討ち取ったみたいじゃが・・・こ奴、呆けておった。儂が声を掛けたらいきなり吐きおってな」

 「そしてこの有様・・・と、取り敢えず休ませた方がよいでしょうね。祭殿、申し訳ありませんがそのまま天幕まで運んでください」

 「やれやれ、周家の令嬢は人使いが荒いのう・・・」

 はぁ、と一息ついて祭はそのまま一刀を連れていくのだった。

 

 ――「・・・やはり、こうなったか」

 

 香蓮が一言だけ呟いたのを、この時冥琳は確かに聞いた。

 だが、深くは聞かなかった。

 

 その後、袁術への報告から帰ってきた雪蓮が一刀の事の顛末を聞き、憂さ晴らしも兼ねてからかうのだった。

 天幕から戻ってきた雪蓮の表情は、それはもう活き活きとしていた。

 

 「・・・冥琳、お前たちは先に戻れ。あたしは、一刀と少し話がある」

 「話・・・ですか?ですが・・・」

 「・・・心得た。策殿、公瑾、穏」

 「ん、私は構わないわ。行きましょ、冥琳」

 「香蓮様がいれば心配は不要か・・・わかった。穏、撤収を始めてちょうだい」

 「了解しました~」

 頷いた後、雪蓮たちは一刀と香蓮の二人を残し、撤収した。

 

 

 「どこまで行くの?香蓮さん」

 「心配するな、もうすぐだ」

 夜の竹林を二人は歩いている。

 一刀は、香蓮の「気分転換だ。付き合え」の一言に有無を言わさずに付き合わされていた。

 実のところ一刀は、先の気分の悪さが抜けていなかったので、特に反対する理由もなかったのだ。

 「袁術の儒子に不覚をとる少し前にな・・・シャオが周々と善々と散歩している時に見つけた場所なんだが・・・ああ、ついた。ここだ」

 竹林を抜けた先にあったのは河原だった。

 水の流れる音、風のさざ波が揺らす笹の音。

 静かなこの場所にある自然の音色が実に心地の良い場所で、空には月と満天の星が輝いている。

 川のせせらぎに風の音、そして天に浮かぶ月と星。その全てが一体化していて、まるで一枚の絵画に描かれているような・・・そんな場所だった。

 「そら、そこの石にでも腰を下ろさんか。立ったままでは話すら出来んからな」

 「・・・・・・」

 言われるままに腰を下ろす一刀。

 香蓮は一刀の横に腰をおろし、二人は特段何も話さずに空を眺めていた。

 

 ――「一刀、どうだった?」

 

 不意に香蓮がそう聞いてきた。

 「どうって・・・なにが?」

 「黄巾党の一人を斬ったそうだな。あたしが聞いているのは、そのことだ」

 「・・・・・・」

 一刀は、何も言わなかった。しかし、その左手が、力いっぱい右手を抑え込んでいた。

 忘れていた恐怖のせいで震えているのだ。

 「香蓮さんも・・・雪蓮みたいに笑う?」

 「アホか、そんなことのためにこんな場所までお前を引っ張ってくるものか」

 「それもそうか・・・・・・。うん、そうだね・・・ハッキリ言うと、よく覚えていないんだ。ただ、何もしなかったらこのまま死ぬんだって思って・・・死にたくないって思って・・・でも死にたくないって思って・・・あの一瞬で色んな事を思って・・・その内、頭の中が真っ白になって・・・祭さんが怒鳴りつけるまで自分が何をしたのか全然わからなかったんだ。で、我に返って現実を見たら、足元には死体があって・・・〝徒桜〟から血の雫がこぼれていて・・・刀を握っていた手には、確かに人を斬った感触が残っていて・・・バラバラになっていた思考が一つになった途端、吐き気が一気に湧きあがって・・・・で、後はご存知の通り気絶――。」

 「・・・・・・」

 震える右手を見ながら語る一刀に対し、香蓮は何も言わずにただ聞いていた。

 「こうなる可能性も考えてた筈なのに・・・その覚悟もしていた筈なのに・・・カッコ悪いよな・・・天の御遣いがこの様じゃ・・・ね・・・って、わ!?」

 「阿呆・・・素直に怖かったと言って良いというのにお前という奴は・・・」

 香蓮は、自分の胸元に一刀を抱き寄せていた。豊満な胸に包まれて一刀は一気にその顔を紅くする。

 「えっと、香・・・れ、んさん放し・・・「黙って身を任せていろ」・・・はい」

 かなりドスの利いた声の迫力に、即従う一刀だった。

 

 「一刀、人を殺した事に怯えているのだろう・・・。だがな、あたしは別にそれを笑うつもりはない。むしろ当然だとさえ思ってえいる。」

 「え?」

 「何を疑問に感じる必要がある?戦が始める前にお前が言っていたではないか。〝戦争と関係のない世界で生きていた〟と。なら、震えるのも当然だろうし、罪悪感に苛まれても無理はない・・・吐いて気を失った事も仕方がない」

 「・・・・・・」

 気付けば、手の震えは止まっていた。

 そして、香蓮は一刀を抱きしめたまま、話を続ける。

 「あたし達は、お前と違って・・・そうしなければ生きられない事をずっと前から知っていたし、それがあたしたちにとって普通の考えだった。無論、これからもそれは変わらないだろう。だがな、お前はそうじゃない・・・だから格好悪いとか思わなくていい。まぁ、お前も男だからな、女の前では格好のいいところを見せたいと思うのも無理はないか・・・ククッ」

 「うう・・・それもバレてますか・・・」

 「ははっ・・・まぁそれは今はいい。結局あたしがお前に何を言いたいのかというとだな」

 

 ――「一刀、お前は人を殺めたんじゃない・・・〝民を守った〟んだ」

 

 「!」

 すとん・・と心の奥深くに落ちた感じがした。

 じんわりと香蓮の言葉が一刀の心に広がっていく。

 

 ――「そして、人を殺める事に慣れろとは言わない・・・が、今のように罪悪感に苛まれ過ぎるのは良くない。完全に忘れるのも駄目だ。あたし達ですら、連中に申し訳ないと・・・ごく稀に・・・ほんの少し思う時があるからな。だが、吐くのだけはどうにかしろ」

 

 「頑張ります」

 グサッとくる一言にそれしか言えなかった一刀に香蓮は「そうしてくれ」と相槌を打った。

 

 ――「これが最後だ。・・・戦が始まる前にも言ったが・・・あたし達がその手を血に染めることで守れるものもある・・・その事をお前の胸に刻んでおいてくれ」

 

 体の震えも、晴れる事のなかった罪悪感と恐怖も、治まっていた。

 ただ、香蓮の温もりと言葉があった。

 「香蓮さん、もう・・・大丈夫・・・なので・・・そろそろ放していただけると・・・非常にありがたいのですが・・・」

 「何故だ?もう少しこのままでも構わんだろう・・・それともあたしの胸では不満か?」

 「満足か不満かだというなら・・・ハッキリ申しまして大満足と言わざるを得ないのですが・・・えっとですね・・・俺も男なわけでして・・・」

 そこまで言ってやっと合点がいったようで、香蓮は大爆笑しながら一刀を解放した。

 「やれやれ、さっきまで沈んでいたかと思えば・・・ククッ・・・立ち直った途端にか・・・まぁいい。・・・・・・一刀、いずれはお前も震える事が無くなるだろうがな・・・震えている内は素直に甘えていいんだぞ?ただ、それが明らかな故意と感じた時は相応の覚悟をしてもらうが・・・」

 コクコクコクと全力で首を縦に振る一刀を見て、香蓮はまた声を上げて笑った。

 

 ――「ありがとう、香蓮さん。俺、香蓮さんが言ってくれた事・・・絶対に忘れない・・・・・・」

 

 「ん・・・ああ・・・うん」

 少し怒るかと思っていた香蓮は、一刀の予想外の感謝の言葉に紅くなってしまう。

 それを見て、してやったりと思いながらも。

 「ありがとう」

 と、そう言った。

 最終的に香蓮は、ぽりぽりと頬を掻きながら明後日の方向を見るのだった。

 

 

~あとがき~

 

 

 

 まず最初に、鈍亀ペースですいません

 香「まったくだ」

 ・・・手厳しいですね。

 だってafterじゃないんです。一応道筋があるんですよ・・・・その中でオリキャラ混ぜて話を創るって結構難しくって・・・・四苦八苦しているんです。

 香「だが、あたしはお前を責めるつもりはない」

 は?

 香「何せ、こんなにも最初からポイントを稼ぐ事が出来たからな」

 貴女はどこでそんな言葉を学んでくるんですか?

 まぁ、いいですけど・・・。

 今回の話について触れますけど・・・貴女も聞きますか?

 香「ああ、聞かせてもらう」

 では・・・。

 今回は一刀が自分の手で人を殺めます。

 香「原作では基本的に軍師の立ち位置だったのにな」

 そうですね。今作での一刀は、智ももちろんなのですが・・・武の方に比重を置こうと思いこうした次第です。

 香「しかし、たかが黄巾党の残党ごときでは・・・折角一刀が強くてもアピールできないだろう?その辺りはどうするつもりだ」

 それは次の話・・・ネタばれになりますが、貴女の拠点でちゃんと何とかしますから御心配なく。

 香「!そうか・・・それは楽しみだな。ところで書くのはあたし一人か?」

 まさか、貴女を含めて三人の予定です。余った二人に関しては、三人の話の中で絡んできますのでご注意あれ。油断してると横から掠め取られますよ。

 香「せいぜい注意するさ・・・・さて、そろそろ時間ではないのか?」

 その通りです。

 それでは次回作でまた――。

 Kanadeでした。

 香「次の話とあとがきでまたな、再見!」

 


 
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