No.1047063

英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

soranoさん

第111話

2020-11-25 17:43:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1347   閲覧ユーザー数:1163

 

同日AM10:00―――――

 

~ザクセン山道~

 

「クロスベル帝国軍、これよりザクセン山道方面のルーレの守備隊の撃破を開始する!総指揮は私が担当します!総員、戦闘開始(オープンコンバット)!!」

「この戦いに勝てばエレボニアの連中の戦力や物資に大きく影響を与えてあたし達の勝利をより確実なものにできるよ!だから気合いを入れな、野郎共ぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおッ!!」

「イエス・マム!!」

「オォォォォォォオオオオォォォォォ―――――ッ!!」

ルーレ侵攻作戦が開始されるとユミル方面からザクセン山道へと進軍するクロスベル帝国軍はそれぞれ機甲兵に乗り込んでいるエルミナとパティルナに率いられてルーレを守るノルティア領邦軍に向かい

「ついに来たな、侵略者共が……!今こそ我ら誇り高きノルティア領邦軍の忠誠を侯爵閣下とアンゼリカ姫様にお見せする時だ!一人足りとも敵軍にルーレに足を踏み入れさせるな!!」

「イエス・コマンダー!!」

対するノルティア領邦軍も士気を高めてクロスベル帝国軍との戦闘を開始した。

 

「始まりましたか………」

一方戦場から外れた場所でぶつかり合うノルティア領邦軍とクロスベル帝国軍の様子を”メイド姿に戻ったシャロン”は静かな表情で見つめて呟き

「ルーレが侵略されれば、お嬢様達は会長やログナー侯の保護の為に必ず動くはず。――――――今までご迷惑や心配をおかけした罪を償う為……お嬢様達の信頼を裏切ってもなお、わたくしを取り戻そうとしていた”愛”に応える為……そしてリィン様のお陰で再び”シャロン”を名乗る事を許された身として、必ずやお嬢様達の道を切り開いてさしあげますわ……!」

決意の表情を浮かべたシャロンはルーレに潜入する為にその場から素早い動きで去った。

 

~同時刻・スピナ間道~

 

「クロード隊、一斉射撃『制圧』始めっ!―――――逃がさないぜ――――――二連制圧射撃!!」

「ローレンツ隊、一斉投擲始めっ!――――――セイッ!!」

「イエス・サー!!」

同じ頃スピナ間道からルーレを攻めていたクロードとローレンツはそれぞれ部下達と共に空からの遠距離攻撃でスピナ間道方面のノルティア領邦軍に先制攻撃し

「がふ……っ!?」

「ぐ……っ!?」

「何なんだ、あの空を駆る騎士達は……!?」

矢を雨のように降り注がせてきたクロード隊と一斉に投擲用の槍を投擲してきたローレンツ隊の遠距離攻撃を受けたノルティア領邦軍は”空を駆る騎士”という未知の相手の先制攻撃によって浮足立っていた。

 

「落ち着け!飛空艇による砲撃と比べれば大した事はない!アハツェン部隊並びに銃機甲兵部隊、狙いをあの空を駆る騎士達に定めて一斉攻撃して撃ち落とせ!!」

「イエス・コマンダー!!」

そして領邦軍の司令官の指示によって戦車や銃を持つ機甲兵達は砲口や銃口をクロード隊とローレンツ隊に向けたが

「輝け、翼輝陣――――――ケルト=ルーン!!」

「駆けよ、漆黒の雷――――――黒ゼレフの電撃!!」

「ぐああああああ……っ!?」

「ぎゃあああああ……っ!?」

「があっ!?」

既に詠唱を終えたリシテアとドロテアがそれぞれ高火力の魔術を戦車や機甲兵達に向けて放ち、二人の魔術に続くようにリシテア隊やドロテア隊の魔術師達も一斉に魔術やアーツを放ってクロード隊とローレンツ隊に攻撃しようとしていた戦車や機甲兵達を破壊したり怯ませたりしていた。

 

「よし――――――敵が怯んでいる内に一撃だけ与えて一度下がれ!歩兵じゃなくて機甲兵や戦車を最優先に狙えよ!――――――そらあっ!!」

「イエス・サー!!」

リシテアとドロテアの魔術師の部隊によってノルティア領邦軍が怯んでいる隙にフォルデ率いるリィン隊の機甲兵の部隊が次々とノルティア領邦軍の戦車や機甲兵に対する一撃離脱を行い

「さあ、ようやく私達の出番だ!フェルディナント隊、突撃開始!」

「ディミトリ隊、突撃!敵陣を縦横無尽に駆けて敵軍を混乱させるぞ!」

「ドゥドゥ-隊、行くぞ!重装備の俺達は敵軍の兵器の破壊を最優先だ!」

「カイル隊、突撃!!敵軍に……そして戦友達に”聖焔の勇槍”と称えられているエフラム皇子殿下直轄の親衛隊の力を見せつけてやれっ!!」

「イエス・サー!!」

「オオオォォォォォォ――――ッ!!」

フェルディナント、ディミトリ、ドゥドゥーが率いるそれぞれの騎馬隊、そしてカイル率いる戦斧を得物とする騎士達―――斧騎士(アクスナイト)の部隊はノルティア領邦軍への突撃を開始した。

「エーデルガルト隊!戦友達が切り拓いた敵陣の傷を更に広げるわよ!!」

「イエス・マム!!」

フェルディナント達が突撃を開始するとエーデルガルト達重騎士の部隊も進軍を開始した。

 

「フン!崩襲撃!!」

「な――――――」

「おぉぉぉぉぉぉ……っ!!」

カイルは騎馬と共に跳躍して機甲兵のヘッドを戦斧で叩き割ると共に操縦席にいる軍人も真っ二つにし、ドゥドゥーは頭上で斧槍を振り回した後戦車目掛けて強烈な一撃を叩き込んで戦車を無力化し、周囲の騎士や空の騎士達も次々と兵器を無力化し続けていた。

「バ、バカな……生身で”兵器”を破壊する等、連中は”化物”ばかりなのか……!?」

「こ、これが”ゼムリア大陸真の覇者”と称えられているメンフィルの”力”だというのか……!?」

一方生身の人が兵器を破壊するという信じがたい光景にノルティア領邦軍の軍人達は恐怖し

「くっ…………応答せよ!こちら、スピナ間道方面部隊!援軍はいつ到着する!?」

自分達が劣勢になりつつある状況に唇を噛み締めた司令官は通信機を取り出して通信で相手に援軍の到着を訊ねたが

「こちら黒竜関方面部隊!侯爵閣下の命令により、ルーレに急行していたが進路をメンフィル帝国軍に阻まれ、メンフィル帝国軍との戦闘を開始した為そちらへの援軍はすぐには向かえない状況である為、我々が到着するまで耐えてくれ!!」

「な、何だとぉっ!?」

通信相手から返ってきた驚愕の事実を聞くと信じられない表情で声を上げた。

 

~ノルティア街道~

 

「”ファラ”の”聖焔”よ、薙ぎ払え―――聖焔槍・燐!!」

「うおおおおおお……っ!?」

「ぐああああああ……っ!?」

一方その頃、メンフィル帝国軍を率いて黒竜関からルーレに向かうノルティア領邦軍の相手をしていたエフラムは最前線で槍を振るって機甲兵や戦車を退けたり破壊したりして勇猛果敢に戦い

「第二魔術隊、第二騎馬隊に強化魔法付与の詠唱並びに駆動開始!――――――第二騎馬隊突撃!兄上が切り拓いた敵陣の傷を更に広げてください!」

「イエス・マイロード!!」

エイリークは後方で次々と指示を出して最前線で戦うエフラムのサポートを徹していた。

 

 

~ザクセン鉄鉱山~

 

「プリネ皇女親衛隊、進軍開始!ザクセン鉄鉱山の制圧を開始しなさい!」

「可能性は低いとは思いますが、守備兵達が降伏を申し出た場合は直ちに攻撃を中止してください!また、鉄鉱山内にいると思われる鉱夫達には一切危害を加えない事を徹底してください!!」

「イエス・マム!!」

「イエス・マイロード!!」

ツーヤとプリネはザクセン鉄鉱山を攻めている部隊を指揮し

「トリスタの時はバルディエルのせいであんまり遊べなかったから、今回はたっぷり遊んであげる、キャハッ♪」

「フッ……”魔神”に嬲られる標的にされた挙句援軍も望めない絶望的な状況には敵としても同情するぞ――――――ノルティアの兵(つわもの)達よ。」

エヴリーヌは凶悪な笑みを浮かべ、レーヴェは静かな笑みを浮かべて呟いた後プリネ達と共にザクセン鉄鉱山の守備隊へと突撃し

「くっ……総員、奮起せよ!!この鉄鉱山はエレボニアの”屋台骨”にして、お館様がアルノール皇家の方々に管理を任されている重要な鉄鉱山!お館様の顔に泥を塗らない為にも援軍が来るまでに絶対に持ちこたえろ!!」

「ザクセン鉄鉱山を失うような事があれば、エレボニアは更に苦しい立場に陥る事になる!内戦では争った関係ではあったが、祖国の為に、領邦軍と連携し、ザクセン鉄鉱山を守り切るぞ!!」

「イエス・サー!!」

対するザクセン鉄鉱山を守備している領邦軍と正規軍の部隊はそれぞれ士気を高めて進軍してくるプリネ達との戦闘を開始した。

 

~同時刻・ザクセン鉄鉱山内・コントロールルーム~

 

「容赦はしない―――電撃剣!!」

「て、敵襲だと……っ!?――――――ガハッ!?」

同じ頃天馬騎士達に移送されているリィン達よりも早くコントロールルームに部下の魔族達と共に降下し終えたベアトリースはコントロールルームに配置されている守備兵の一人を電撃を宿した連接剣で切り捨て

「お、応答せよ!応答せよ!こちらコントロールルーム!空から敵の別働隊がコントロールルームに―――――」

「走れ、雷――――瞬雷!!」

「ガフ……っ!?」

「う、うわああああああ……ッ!?」

「あ、あの灰色の船の紋章は”メンフィル帝国”……!」

「メ、メンフィル帝国軍の襲撃だ―――!逃げろ――――――ッ!!」

もう一人の守備兵が慌てた様子で通信機でどこかに通信しようとするとベアトリース同様既に部下の天使達と共に降下し終えていたルシエルが凄まじいスピードで魔力による雷を宿した双剣で一閃して絶命させ、一連の流れを見ていた鉱夫達は慌ててその場から逃げ始めた。鉱夫達が逃げ始めると同時にリィン達潜入部隊はイングリット率いる天馬騎士の部隊の移送によってレヴォリューションの甲板からコントロールルームに集結し始めていた。

「それではリィン様、私達は先行してリィン様達を阻むであろう敵達の露払いを開始する。」

その身に翼がある事からそのまま部下である魔族達と共にコントロールルームに降り立ったベアトリースはリィンに自分達が先行する事を伝えた。

「ああ。わかっているとは思うが、鉱山内にいると思われる鉱夫達に手を出さない事を徹底してくれ。」

「無論だ。非戦闘員を虐殺する等誇り高き”飛天魔”の”誇り”を穢す上、そもそも戦闘の意志もない者達を狩る”意義”もないのだからな。―――行くぞ!」

「おおっ!!」

そしてリィンの念押しに頷いたベアトリースは魔族達に号令をかけた後魔族達と共にその場から去った。

 

「フフ、あの”飛天魔”もそうだけど、魔族達も随分と変わっているね。人間どころか絶対に相容れない存在である”天使”と共闘しているなんて。」

「……少なくても”黒の杭”の魔物や魔族達と戦い続けてきたグラセスタからすれば、信じられない光景だろうな。――――――最も、並行世界とやらのユリーシャの”主”になったお前程ではないだろうが。」

ベアトリース達の様子を見つめながら呟いたフルーレティの言葉に続くように呟いたジェダルはリィンに視線を向け

「ハハ………誉め言葉として受け取っておきます。それにしてもエルミナ皇妃陛下から急遽ジェダルさん達も俺達と共にルーレに潜入する事になった事は伝えられましたが……本当によかったんですか?確かジェダルさん達はルシティーネ卿の護衛の関係上直接”戦場”に出るような依頼は受けないとの事ですが……」

視線を向けられたリィンは苦笑した後ジェダルに問いかけた。

「俺が請けた依頼の標的(ターゲット)も”ルーレ”という都市内で、それもお前達が襲撃する予定の敵将の本拠地にいるからな。……わざわざ潜入する予定の敵の拠点で騒ぎを起こしてくれるお前達がいるのだから、お前達の襲撃に紛れた方が俺としても色々と都合がいいからだ。それと今回の仕事はユリーシャとフィアにリリカの護衛を任せて、リリカ達には標的(ターゲット)を取り逃した可能性を考えて別の場所に待機させているからリリカの護衛を気にする必要はない。」

「なるほど……………」

「―――リィンさん、天馬騎士達による潜入班の各部隊のコントロールルームへの降下が完了しました。」

ジェダルの説明にリィンが納得していると潜入班の到着を確認し終えたステラがリィンに声をかけた。

 

「―――わかった。それじゃあ、イングリット達は予定通りルーレに向かってスピナ間道から攻めているディミトリ達に合流してくれ。」

「了解しました!イングリット隊、これよりルーレに向かい、味方と合流します!――――――上昇!」

「イエス・マム!!」

ルシエルの言葉を聞いて振り返ったリィンはイングリットに指示をし、指示をされたイングリットは部下達と共に天馬で空へと舞い上がった後その場から飛び去った。

「―――灰獅子隊ルーレ潜入班、これよりルーレ潜入を開始する。潜入に使う非常連絡通路は俺が先導する。――――――行くぞっ!!」

「イエス・コマンダー!!」

そして潜入班の面々を見回して号令をかけたリィンは非常連絡通路に向かい始めた。

 

~レヴォリューション・ブリッジ~

 

「レヴォリューションはこれよりザクセン山道で戦闘しているクロスベル帝国軍と合流して支援攻撃をするからルーレのザクセン山道方面の出入口に向かってちょうだい。」

「イエス・キャプテン!」

レヴォリューションのブリッジの艦長席に座っているレンはブリッジの各席に座って端末を操作している軍人達の指揮をしていた。そしてレヴォリューションがザクセン鉄鉱山の上空から飛び去ってノルティア街道に向かっているとブリッジに備え付けている探知機に反応があった。

「レン皇女殿下、探知機(ソナー)に反応あり。なお、反応にある船の規模はこの艦と同クラスの模様。」

「この艦と同クラスの船で、今の状況を考えると恐らく”カレイジャス”でしょうけど、念の為に反応があった船を映像に出してちょうだい。」

「了解。」

探知機を操作している軍人の報告を聞いたレンが指示をするとブリッジ内に備え付けられた映像端末が起動し、端末にカレイジャスが映った。

「やっぱりね………フゥン……進路を考えると、どうやら”紅き翼”もリィンお兄さん達と同じルートでルーレに潜入してログナー侯爵を保護するつもりのようね。――――――カレイジャスは無視して構わないから、このままザクセン山道に向かいなさい。」

「御意。」

映像に映るカレイジャスを確認した後カレイジャスが向かう方向がザクセン鉄鉱山である事を自分が操作している端末で確認して紅き翼の目的を推測したレンはカレイジャスを無視する事を決め、レヴォリューションはそのままザクセン山道に向かった。

 

 

同日AM10:10――――――

 

~ザクセン鉄鉱山・コントロールルーム~

 

メンフィル・クロスベル連合によるルーレ侵攻作戦が開始されてから10分後、ザクセン鉄鉱山の上空に到着したカレイジャスからエマの転位魔術によってトワ達Ⅶ組の面々がコントロールルームに現れ、トワ達が転位するとカレイジャスはザクセン鉄鉱山から飛び去った。

「さすがに鉄鉱山が直接襲撃されているからなのか、鉱夫の人達も既に避難をしていたようですね。」

「ええ……カレイジャスから戦況を見ると、さすがにメンフィル軍もまだ鉱山内まで侵入できていないようね。」

「フン……しかも本来ならば鉱山内に配備されている守備兵達の姿も見えない所から察するに、恐らく鉱山内の守備兵達は全員外のメンフィル軍との戦いに向かっているのだろうな。」

「ハッ、ちょうどいいじゃねぇか。領邦軍の連中への対処の必要がなくなったんだからな。」

周囲を見回して誰もいない事を確認して安堵の表情で答えたアネラスの言葉に頷いたシェラザードは真剣な表情で呟き、ユーシスの推測を聞いたアッシュは鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべた。

「―――!おい、あれを見ろ……!」

一方何かを見つけたアガットは血相を変えてある方向―――ベアトリースとルシエルによって討ち取られた領邦軍の兵士の遺体に視線を向けて声を上げた。

 

「!!」

「りょ、領邦軍の遺体……!?」

「ど、どうなっているんだ!?メンフィル軍はまだ出入口付近で戦っている状況から察するにメンフィル軍は鉱山内の侵入はまだなのに、何で領邦軍の遺体が……!」

アガットに続くように領邦軍の遺体に視線を向けたアンゼリカは目を見開き、エリオットとマキアスは信じられない表情で声を上げ

「状況から考えると多分、別働隊がわたし達みたいにコントロールルームに何らかの手段で直接侵入したんだろうね。」

「間違いなくそうでしょうね。灰獅子隊(むこう)も”転位”ができるし、もしかしたら天馬(ペガサス)や鷲獅子(グリフィン)――――――空を駆ける騎獣達を利用して潜入したかもしれないわね。」

「そういえば”黒の工房”の本拠地の件でレヴォリューションの中に案内してもらった時に天馬(ペガサス)等と言った空を駆ける事ができる”騎獣”達がレヴォリューションの中で飼われていて、灰獅子隊―――いや、メンフィル軍は”空を駆ける騎士”がいるという話をリィン達から教えてもらったな……」

フィーの推測に頷いたセリーヌは真剣な表情で答え、ガイウスはかつての出来事を思い出した。

 

「そ、それよりも私達みたいにここに侵入したメンフィル軍の別働隊って……!」

「間違いなくルーレに潜入してログナー侯を討ち取ろうとしているリィン達だろうね~。」

「はい……ルーレに潜入するリィンさん達の役割を考えると、恐らく無駄な戦闘を避ける為にも守備兵の方達が出入口付近で発生したメンフィル軍との戦いに気を取られた事でできた守備の隙を突いてコントロールルームに潜入したのでしょうね……」

「ったく、かつて”G”達による鉱山の襲撃ルートを使ってルーレに潜入するとか、どんな皮肉だよ……」

自分達のようにコントロールルームに直接侵入したメンフィル軍の別働隊の正体を察したアリサは不安そうな表情を浮かべ、真剣な表情を浮かべたミリアムの推測にエマは複雑そうな表情で頷き、クロウは疲れた表情で溜息を吐いた。

「遺体はまだ暖かい……殺されてから、まだそんなに時間が経っていないわ。」

「クロチルダさんから教えてもらったルーレ侵攻開始時刻や少数で動く私達と違って大勢の軍人たちを率いている事で進軍スピードが私達よりも遅くなるリィン君達の状況を考えると、多分まだそんなに距離は空けられていないはずだから、上手く行けばリィン君達によるログナー侯爵家への襲撃のほぼ同時期に襲撃に紛れてリィン君達よりも早く父上に接触できるかもしれないね……!」

サラは遺体の状況を確認し、遺体に近づいて僅かな時間黙祷をしたアンゼリカは振り向いてトワ達に状況を伝え

「うん……っ!――――――みんな、急ぐよっ!!」

「おおっ!!」

アンゼリカの言葉に力強く頷いたトワは号令をかけて非常連絡通路に向かい始めた。

 

AM10:20――――――

 

トワ達が非常連絡通路に向かい始めてから10分後、テスタ=ロッサを霊力で引っ張りステルスモードで飛行していたトマスのメルカバ――――――”メルカバ弐号機”が黒竜関からルーレに向かおうとしている領邦軍とエフラムとエイリーク率いるメンフィル軍がぶつかり合っているノルティア街道の上空に到着した。

 

~メルカバ弐号機・ブリッジ~

 

「副長、ノルティア街道に到着しました。」

「フム……まだ、そんなに戦況が動いていない様子から推測するとどうやらメンフィル軍は黒竜関からの援軍をルーレに通さない為に防衛を主体にしているのか、まだ双方共にそんなに大きな被害は出ていないようですね。」

ロジーヌが報告し終えるとモニターで地上の戦況を見ていたトマスは静かな表情で呟き

「戦況が激しくなる前に間に合った事は幸いでしたね。――――――それではクロチルダさん、手筈通りお願いします!」

「ええ、そちらも上手く行くように”アルノール”の”威光”を存分に連合とノルティア領邦軍の双方に存分に見せつけてきなさい。」

「最悪説得が失敗しても私達が皇太子殿下が撤退する時間を稼ぎますので、くれぐれもご無理はされないでください、皇太子殿下。」

「どうか御武運を。」

「はい……っ!

安堵の表情で呟いたセドリックに視線を向けられたクロチルダは頷き、トマスとロジーヌはセドリックに声をかけ、二人の言葉に力強く頷いたセドリックはブリッジから走り去った。

 

~ノルティア街道~

 

「む……?――――――エフラム様、上空を見てください。」

「上空だと……?あれは…………」

一方その頃エフラムと共に最前線で兵達を指揮していたエフラムを守護する親衛隊の隊長―――デュッセルはステルスモードを解除して上空に姿を現したメルカバとテスタ=ロッサに気づくとエフラムに近づいて声をかけ、声をかけられたエフラムは戦いを中断して上空を見上げた。

「あの飛行艇と”緋色の騎士”はまさか……」

「ええ……飛行艇の方は”星杯”の紋章から察するに”星杯騎士団”を束ねる”守護騎士(ドミニオン)”専用の飛行艇―――”メルカバ”とリィン・シュバルツァーやエリス・シュバルツァーが駆っているという”騎士人形”――――”騎神”ですね。」

同じ頃後方で兵達を指揮していたエイリークとエイリークを守護する親衛隊の隊長―――ゼトも上空を見上げ、エフラム達同様上空の状況に気づいたメンフィル軍、領邦軍の双方の一部の兵士達も戦いの手を止めて上空を見上げた。

 

「双方、戦闘を中止してください――――――!!僕の名はセドリック・ライゼ・アルノール。現エレボニア皇帝ユーゲント三世とその妃プリシラ皇妃の息子にして、今のエレボニア皇家にとっては唯一の”帝位継承者”です!!」

「同じくその兄、オリヴァルト・ライゼ・アルノールだ。ノルティア領邦軍もそうだが、メンフィル・クロスベル連合軍も戦闘を中止してどうか私達の話を聞いて頂きたい。」

「へ―――」

「こ、皇太子殿下……!?」

「そ、それにオリヴァルト皇子殿下まで……!」

上空に滞空しているテスタ=ロッサの操縦席からセドリックは命令と共に名乗り、更にセドリックに続くようにカレイジャスに乗船しているローゼリアの魔術によってテスタ=ロッサの近くに映ったオリヴァルト皇子の顔が映り、セドリックとオリヴァルト皇子の登場に領邦軍の兵士達は驚いた後戦闘を中断して上空を滞空しているテスタ=ロッサを見上げた。

 

「なっ……敵軍が戦闘を中断しただと……?」

「しかも敵国の皇族が何故、この戦闘を中止させる命令を出したんだ……?」

「……いかがされますか、エフラム様。参謀陣からはこのような状況になる事は伝えられていませんが。」

「………恐らく参謀陣にとっても想定外の状況になったのだろうな。――――――全軍、戦闘を中断せよ!前線に出ている部隊は一旦敵軍から距離を取ってエイリーク達の部隊に合流しろ!!」

「ハッ!!」

戦闘を中断した領邦軍の様子を見たメンフィル帝国軍も戦闘を中断して困惑している中デュッセルはエフラムに訊ね、訊ねられたエフラムは答えた後戦闘中断の指示をして兵達と共に後方から支援攻撃を行っていたエイリーク達の部隊の所まで下がり始めた。

「弓隊、バリスタ隊、砲撃隊、全て撃ち方止め!魔術隊も詠唱並びに駆動を破棄してください!ゼト、まさかセドリック皇太子達は……」

「ええ……どうやら、”皇族の威光”を利用して強制的に敵軍の戦闘を中止させるつもりのようですね。」

エフラムのように戦闘中断の指示を出していたエイリークは戸惑いの表情でゼトに視線を向け、視線を向けられたゼトは頷いてテスタ=ロッサとオリヴァルト皇子の顔が映った映像を見つめていた。

 

「ノルティアの兵達よ、メンフィル・クロスベル連合軍によるルーレ侵攻に対して抵抗する為に貴方達に連合軍と戦う事を指示したゲルハルト・ログナー侯の指示は”不当な指示”です!」

「なっ!?」

「お、お館様の指示が”不当な指示”……!?」

「一体どういう事なのですか、皇太子殿下……!?」

テスタ=ロッサを通して聞こえてきたセドリックの話を聞いたノルティア領邦軍は信じられない表情を浮かべてテスタ=ロッサを見つめた。

「元々ログナー侯は内戦に加担した件に対する”処罰”として”ログナー侯爵家当主兼ノルティア統括領主としての地位の剥奪を”僕達アルノール皇家は決定していました!”よって、”既にノルティア州を管理する者としての地位が失われることが決定しているログナー侯による貴方達の指揮権は存在していません!!”」

「なあ……っ!?」

「そ、そんな……お館様が……」

セドリックが語った更なる驚愕の事実を聞いたノルティア領邦軍は驚いたり表情を青褪めさせたりしていた。同じ頃、スピナ間道、ザクセン山道、ザクセン鉄鉱山もクロチルダとローゼリアの魔術によってテスタ=ロッサとオリヴァルト皇子の顔の映像が上空に映った事でそれぞれの戦場は戦闘を中断してセドリック皇太子とオリヴァルト皇子の話を聞いていた。

 

~同時刻・ザクセン山道~

 

「私達アルノール皇家はログナー侯爵家当主兼ノルティア統括領主の地位の剥奪が決まっているゲルハルト卿の後を継ぐ者は君達もよく知るゲルハルト卿の一人娘―――アンゼリカ・ログナー嬢にする事を決定した。そしてそのアンゼリカ嬢はメンフィル・クロスベル連合との”和解”を望む私達アルノール皇家の意志に応じて、ルーレを含めたノルティア州の管理を一端連合に委ねる事に決めた。よって、君達がこれ以上ルーレ――――――いや、ノルティア州を守る為に戦う必要はない!」

「な、な、な……っ!?」

同じ頃、上空に滞空しているカレイジャスから聞こえてきたオリヴァルト皇子のノルティア領邦軍に向けた言葉を聞いていたエルミナは口をパクパクして絶句し

「あははっ!エル姉にそんな顔をさせるなんて、皇太子と放蕩皇子もやるじゃないか。」

戦闘を中断したパティルナはエルミナが駆るシュピーゲルに通信をしてエルミナの表情を見て面白がっていた。

「笑いごとではありません、パティ!――――――まさかこのような手を打ってくるなんて、想定外過ぎます……!」

我に返ったエルミナはパティルナに怒鳴った後呆れた表情で頭を片手で抱えた。

 

「エル姉にとっても想定外って事は当然レン皇女やあの天使――――――ルシエルにとっても想定外なんだろうね。けど、意外だよね~。あんなのエル姉達だったら簡単に読めたと思うけど。」

「ふふっ、レン達が出し抜かれたのも仕方ないわ。何せオリビエお兄さん達はレン達のオリビエお兄さん達に対する先入観――――――”目的の為ならば相手を陥れる事や皇族の威光で無理矢理相手に自分達の言う事を聞かせる強引な方法は絶対に実行しないという先入観”を逆手に取った手段を実行しているもの。」

パティルナが不思議そうな表情を浮かべて自身が抱いた疑問を口にするとエルミナの操縦席に映っているパティルナの映像の隣に苦笑しているレンの映像が映った。

「ええ………それに加えてあのような無謀過ぎる”賭け”、普通は実行しません。幾ら皇族による”勅命”だろうと、故郷が侵略されている状況で、しかも求心力も落ちている皇族の勅命に侵略されようとする故郷を必死に防衛している側であるノルティア領邦軍が従う等普通に考えればありえません。」

レンの指摘に続くようにエルミナは呆れた表情でパティルナに説明をしていた。

 

「ふ、ふざけないで頂きたい!我らはノルティアを……お館様を……そしてエレボニアを侵略から守る為に戦っているのに、それを殿下達が否定した挙句お館様を陥れる等、不敬を承知で申し上げますが、そのような理不尽な勅命、とても受け入れられません!!」

「そうだ!我らの主はお館様――――――ゲルハルト・ログナー侯爵閣下!幾ら両殿下の勅命だろうと、我らの主であるお館様が連合の侵略に対して抵抗の意志を示している以上、お館様の指示に従うのが我らの役目です!」

するとその時一部の領邦軍の部隊長達が怒りの表情で声を上げてカレイジャスや上空に映っているテスタ=ロッサの映像を睨んでいた。

「ふざけているのは君達の方だ!”帝国解放戦線”――――国家を揺るがした所か各国のVIPの命まで脅かしたテロリストに加担した上、内戦を引き起こし、父上やセドリック達皇族を幽閉して自分達の”大義名分”として利用していたカイエン公達に協力していた事は明白じゃないか!そして内戦を引き起こした”逆賊”である貴族連合軍の結成に深く関わっていた四大名門の当主であったログナー侯に求められる”処罰”はカイエン公やアルバレア公程ではないにしても、最低でも”爵位剥奪”の”処罰”は求められて当然だ!」

「そもそも僕達アルノール皇家は今回の戦争を”和解”という形で納め、そしてメンフィル帝国に内戦の件で様々な迷惑をかけてしまった”償い”をする事を心から望んでいるにも関わらず、オズボーン宰相が独断で戦争を勃発させた為、この戦争に”エレボニアに大義は存在していません!!”」

「そ、それは…………」

「こ、皇太子殿下………」

自分達の反論に対して怒りの声を上げたオリヴァルト皇子とセドリック皇太子の話を聞いた領邦軍はそれぞれ複雑や悲痛な表情を浮かべていた。

 

「……………………」

領邦軍の様子を見ていたエルミナは呆然とした表情を浮かべ

「あはは、エル姉がさっき言っていた”ありえない”が現実になろうとしているよ、エル姉。」

「幾ら内戦の件で皇家に対する”負い目”があるとはいえ、この状況でまともに耳を傾ける等、理解できません………そういえばレン皇女、今の状況についてリィン少将達に連絡をしたのですか?」

「さっきから通信はしているけど繋がらないわ。ま、今頃ルーレとザクセン鉄鉱山を結ぶ地下の非常連絡通路でルーレに向かっている最中でしょうから、通信は当然圏外になっているのでしょうね。」

パティルナは呑気に笑い、我に返ったエルミナは疲れた表情で溜息を吐いた後気を取り直してレンに訊ね、訊ねられたレンは答えた後苦笑しながら肩をすくめた――――――

 

 


 
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