No.104212

恋姫と無双 ~恋する少女と天の楯~ 其の二

柳眉さん

恋姫と無双~恋する少女と天の楯~を読むにあたって

この作品は真・恋姫†無双の二次創作です。
そして、真恋姫:恋姫無印:妄想=3:1:6の、真恋姫の魏を基に自分設定を加えたものになります。

続きを表示

2009-10-31 13:26:34 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:11384   閲覧ユーザー数:8671

お読みいただく際の諸注意

 

この作品での主人公、北郷一刀は原作と同名のオリキャラです。

したがって、知識や武力などの能力については変更し、性格も変えています。

また、他のキャラにしても登場の仕方や主人公の能力により、主人公に対する好感度や対応を原作とは変えていますし、原作のキャラのイメージを壊すこともあります。

 

各勢力の人事異動もあり。これじゃバランスが…と思っても暖かい目で、もしくは冷たい目で見てください。

 

それと、あからさまにするつもりはないですが、ルートによる柳眉の好感度は魏>呉>蜀となっています。そのため、表現に柳眉の個人的見解がはいるかもしれません。そのときはご容赦ください。

 

原作にて『女性らしいやわらかな~』などの表現があるので、本作では武官でありながらも、女性らしい柔らかさがあることの辻褄合わせとして『氣』と言う表現を持ち出します。氣=強さの一つの基準。武将や武の才がある者(原作のキャラ)はみな氣を遣える設定です。

 

 

恋姫と無双 ~恋する少女と天の楯~ 其の二

 『ある少女との出会い』

 

 

<side桂花 始>

 

桂花「ふ~……今が大体このあたりだから、陳留までこれであと3日ってところかしら」

 

 目的地が近づき終わりがみえてきたことで気持ちに余裕がでてきた。日陰で一息つきながら地図を見る。これまでの道程を振り返るに、かなりの距離を歩いた。最短距離を歩いていたなら、今頃は陳留の宿で休むことが出来ていたのに…なんて考えてみても、武のない私が一人で自分の身を守れる訳もなく、それなら馬を買っていればと考えてみても、お金に余裕が無い今、無い袖は振れない。

 

桂花「これから、陳留で生活していくんだから当面は無駄遣いはできないわ」

 

 こうして言葉にすることで弱くなる気持ちを諫める。

 

桂花「……曹操は、私が仕えるに値する王の器の持ち主だと良いのだけれど」

 

 曹操に王の器があることは、確信しているけど、前に仕えていたアレの影がチラついて私を不安にさせる。

 

桂花「思い出したら、また腹が立ってきたわっ…」

 

 本当はもっと準備して出るつもりだったし、これほど早く陳留に向かうつもりも無かった。……そう予定では。

 私は知人の紹介で袁紹に仕えていた。袁家という名家が持つ名士のつながりをもてるという旨みがあったからだ。承諾の返事をしたときの知人の「……ごめんね」と言う返事に、当時は首を傾げていたが今にしてみれば、「…なるほど」と納得する。要するに袁紹は――暗愚な領主だったのだ。

 

 

<回想1 始>

桂花「お聞きしたいことがあるのですが、いいでしょうか?先日の1000の賊を討伐するのにそこまで糧食は必要だったのでしょうか、その規模であるならばこのぐらいでも十分であったと思われますが」

文官「…ええと」

桂花「荀彧、字を文若と申します」

文官「…文若は、仕えてどのくらいになるのかな?」

桂花「一月になります」

文官「なるほどなるほど。ん~どう言ったらいいものか…以前にも君と同じく糧食について進言した者がいたんだが、その者に袁紹様はこうにおっしゃったそうだ。『あなたは、この私に!三公を輩出した名家袁家のっ!このわ・た・く・しに!!そんなケチ臭い真似をしろというのですか!?話になりませんっ!!今回は不問としますが、次はありませんわよ!い・い・で・す・わ・ね!!』と」

桂花「………は?」

文官「つまり袁本初というお方は…そういうお人柄なのだ。君も覚えておくといい」

桂花「はぁ…」

<回想1 終>

 

ということに始まり

 

<回想2 始>

袁紹「ちょっと、そこのあなた!この荀彧というものはどこにいますのっ!?」

文官「は、はいっ!荀彧は本日はお休みを頂いておりまして、この時間ですと自室か書庫のほうにいると思いますが……」

袁紹「でしたら、すぐに私のところに来るよう伝えなさい!すぐにですわよっ!!」

……

袁紹「これは、どういうことですのっ!?」

桂花「はい、これは資金を得るための方策にございます」

袁紹「そんなことを聞いているのではありませんわっ!なぜこんな策が私のところに来ているかそれを聞いているのですわ!!」

桂花「はい、近頃賊が多く見られます。その討伐に当たり現在では何とかなっておりますが、このままですといずれ立ち行かなくなります。ですので、防具に使われている金を減らすなどしてそれを運用してはと献策した次第です」

袁紹「あなた、それはこの私にそんな貧相な防具を使えと?冗談ではありませんわ!いいですか、名家には名家に相応しいものを身に着ける必要があり、まして三国一の名家である袁家にもなれば最上の物をこそが相応しいでしょう。今のものでも妥協しているというのに、これ以上みずぼらしいものなんて我慢できません。こんな策なんて使い物になりませんわ」

桂花「ですが」

袁紹「こんなことも分からないなんて程が知れるというもの。まったく、そんなお胸だからこんな貧―――――」

<回想2 終>

 

 

桂花「まぁ、名士のつながりが出来たのだし良しとしましょう」

 

 何度か繰り返してきた言葉を出して苛立ちを抑える。

 そんなこともあって私は袁紹に見切りをつけて南皮をでた。けして胸のことを言われたからではない、そうけしてない。

 ともあれ、勢いだけで出てきたのもまた事実。準備不足を遠回りするなど道を選び、賊が出ていないなど情報を得るなどして知で補ってきた。これもあと3日だ、危険な旅程ももうすぐ終わる。

 

桂花「さて、まだ日があるうちに近くの邑にいかないと―――――……えっ!」

 

 根が張りそうな腰を上げて、空を見る。すると、さっきまでは無かった白く輝く星があり、それがこちらに向かってかなりの速さで近づいてきた。

 

桂花「ちょっとなん、ひっ―――――」

 

 あまりの出来事に言葉を失う。あたり一面に光が行き亘り、ぶつかると思ったときには目を瞑っていた。

………………………

…………

……

 衝撃は無かった。痛みは無い。風を感じる。体は無事みたい。それでも、分かっていても目を開けることが出来ない。開けてしまえば想像したくもないことを認めることになるかもしれない。あんな訳も分からないものにぶつかったのだ、本当は…本当は、傷だらけで痛みを感じないだけかもしれない、生きていることがやっとの状態かもしれない、既に死んでいるのかもしれない、最悪の事態が頭を過ぎて涙が出てきた。不安と恐怖で一瞬が永遠にも感じる。怖い怖い怖い怖い。

 

………

 

 どれだけの時間が経ったのか。鳥の鳴き声が聞こえて覚悟を決める。息を吸いゆっくりと吐いて、恐る恐る片目を開けた。

 すると、まるで変わっていない…いや少しだけ変わった光景が目に入った。私は木の作る日陰にいて、体もなんとも無い。景色も目を閉じる前と変わっていなかった。だけど、20歩程離れたところに今までに見たことの無い、日の光を受けて輝く白い服を着た人が横になっていた。

 突然現れた人を不審に思い、様子を見ながら自身が採るべき道を探る。

 

……

 

 起き上がらない。それどころか動いてすらいない。

 

桂花「ちょ、ちょっと!死んでいるんじゃないでしょうねっ!?」

 

 慌てて駆け寄ろうとするも、思い直して足を止める。その横になっている人物が不審者でいつ現れたか分からない以上、警戒はいくらしても足りないことはない。……助けようとして襲われたりなんてしたら目も当てられないしね。

 一歩、また一歩とその人物に近づく。距離が半分になる頃にはその人物が男と判り、踵を返したい衝動に駆られたけど、もしこの男が生きていて、見捨てたことで死んで夢に出るなんて事があったら嫌過ぎる。そうなったら私は生きていけない。夢を見たとたんに死んじゃう!!

 

桂花「うぅ~、何でこんなことにぃ……」

 

 男と判ってから今までよりもゆっくりと歩いてきたものの、距離が距離なだけにあっという間にあと2歩のところまできた。きてしまった。

 特徴は、年の頃は私と近い、見たこともない服を着ている、それぐらいだろう。

 ここから見る限り男の胸は上下しており、肌や髪からは健康であることが伺える。なにせ私より良いくらいだ。…とりあえず男が生きているとわかり、息をついた。男の周りには、その男のものと思われる白と黒、二振りの剣があるくらいで他には何も無い。

 

桂花「もうっ、さらに面倒になったじゃないの!」

 

 妖の類ではないとして考えられることは2つ。1つは、荷物が無いことから男が近くの邑の者、もしくは賊に捕らえられここまで逃げてきた者であるということ。けど、剣を二振り持っていることからおそらく後者ではない。もう1つは、おそらくこの男が悪人ではないということ。悪人は悪事を重ねることで、悪人らしい顔になっていく。それは、どんなに隠そうとしても隠し通せるものではないし、雰囲気に悪人であることが醸し出される。善人の皮を被った悪人を数多く見てきた経験がこの男を悪人ではないと告げる。

 採る道が決まった。私はこの男の目が覚めるまでここにいよう。近くの邑の人間なら、ここで見捨てるのは得策ではないし、賊に捕らわれた人であったなら尚更だ。まぁ、悪人ではないみたいだしこれだけ距離を置いておけば、男が目を覚まして混乱して襲ってきても対処できるわよね。

 

 男が目を覚ましたのは、私が日陰に腰を下ろし、真上にあった雲が移動して木に隠れた頃だった。

<side桂花 終>

 

<side一刀 始>

 眩しい。まるで日の光の中に居るようだ。だめだ、あまりの眠さではっきりしない。それに体がだるいし、風邪でも引いたのかな。さて布団に包まって寝なおすか、といったところで異常に気付いた。

 硬いのだ…それに草の匂いが強い。普段布団の中では感じることのない感覚に意識が覚醒していく。

 目を開けると空と雲が目に飛び込んできた。見慣れた天井がなく外にいるということに息を呑む。なんだ、これ。思考は昨日のこと、正確には自分の最後の記憶を呼び起こそうとした。でも、どんなに思い巡らしても寝間着で布団に入り寝た、それ以外はした覚えが無い。まして外で寝ているなんて…なにがどうすればこんなことになるのか分からない。

 なんであれ、ここがどこか確認することが第一だ。目が覚めてから視線を感じる。警戒はされているけど敵意は無いみたいだ。そいつに聞いてみるか……よしっ!

 起き上がり視線のほうに目を向ける。

 

一刀「あの―――」

 

 声を掛けようとして、言葉を失う。小柄な可愛い女の子がいた。ただこんな場所に一人でいることに違和感がある。まるで物語の登場人物のように日陰でこちらを見る姿がとても画になるのだ。…まぁ、それが好意からのものなら良かったんだけどな。などと独り言ちてから、警戒している女の子に改めて声を掛け―――

 

桂花「ねぇ、あんたここの近くの邑の人?」

 

 少女は警戒を緩めることなく、言葉を投げた。それに対してどう返すべきかと考えていると、少女が言葉を続けていた。

 

桂花「見たことない服だけど、それは西方のものなの?」

 

 どうやら少女はこちらに対してすぐに危害を加えるようなことはしないみたいだ。少女の様子からこれより距離を縮めることは余計に警戒心を強めることになりそうだ。4、5メートル程離れていて話しづらいけど、わからないことだらけだし、ここは正直に話してみるか。

 

一刀「う~んと。まずは、こんにちは。えっと、聞かれたことに関してだけど…邑?ここがどこなのか分からないから違うともそうだともいえないんだ。ただ、なんとなくだけど自分が今までいたところではない気がする…かな。服にしても自分がいたところだと着ている人が多いから珍しいものではないしね」

 

 と、頬を掻く。うまくまとめ切れていないのがちょっと恥ずかしい。少女の顔が険しくなっていく。まぁそうだよな、こんなことを鵜呑みにする奴はいないか……不信感を強めちゃったな。

 

一刀「それで今度はこっちから聞きたいんだけど、1つだけいいかな?」

桂花「……なによ」

一刀「ありがと。でさ、ここはどこなんだ」

桂花「……は?」

 

 少女の顔には、なぜそんなことを聞くのかが分からないという呆れた表情が浮かんでいた。…そうだよな、いる人にしてみればこんな問いは馬鹿馬鹿しいものでしかないんだよな。

 

一刀「えっと、気がついたらここにいたんだ。昨日自分の部屋で寝て、今日起きたらここ。だからここがどこかわからないんだよ。教えてもらえないかな」

桂花「……」

 

 少女は俺の言葉を受けて、思うところがあったのか考えに没頭し始めたようだ。凛としていて冷たい印象を受ける。

 

一刀「…あ、あの」

桂花「…そうね。あんたはどこにいたの。それが分かればここからの行き方を教えてあげられるかもしれないわ」

 

 聞いたこととは少しずれた返しをする少女。違和感を覚えるも、教えてくれるのであればと少女の問いに答える。

 

一刀「東京の浅草、だけど…」

 

 ここがどこかは知らないけど、この返答で大体ここがどこで、どのくらい離れているか分かるはず。

 

桂花「トーキョー?…アサクサ?……聞いたことがないわね。それは地名なの?」

一刀「……は?」

 

 少女の雰囲気から察するに本当に知らないみたいだ。東京も浅草も聞いたことがないとなるとどうしたらいいんだろう。少なくてもここは日本ではないみたいだけど……

 

一刀「そうなんだけど…日本の東京の浅草。ホントに聞いた事ない?」

桂花「しつこいわね、ないわよ。それになに?ニホンって」

 

 ここはホントにどこだ。日本が分からないなんて…そもそも話が通じているのに日本がわからないなんてあるのか。謎は深まる、もやもやしたものが晴れない。

 

一刀「俺の住んでる国だけど」

桂花「私の知らない国ね。それは漢からどのくらい離れているの?」

 

 少女は知識欲が強いのか、話を集中するようになって若干警戒が薄れてきたようだ。それにしても『カン』ね…もしそれが、昔の中国の漢を言っているのだとしたら、2000年くらい前だよな?他に『カン』にあたる国が浮かばないしな……もっと地理勉強してたら他に浮かぶ国があるはずなのにな。はぁ~、俺のばかぁ~。

 まずは、とても信じられないことを確認しなければならない、学のなさに嘆くことはひとまず置いて。漢、漢…なんかあったけ?三国、志?…自信ないなぁ。三国志は後漢の史実を基にした話だっけ?え~っと、曹操、劉備、孫権が魏呉蜀の3国を建てて覇権を争う話…だよな?とりあえず聞いてみるか。

 

一刀「カンて国の名前だよね?あのさ、話変わるけど曹操、劉備、孫権て名前聞いた事ある?」

桂花「なんなのよ、さっきから……劉備は知らないけど、曹操は陳留で刺史をなさっている方よ。孫堅のことかしら、江東の虎よね。それともその娘の孫権かしら?これでいい」

 

 話のニュアンスで昔のことを話している口振りではない。確信はできないけど、どうやら大昔の漢にいるようだ。どうやったって信じられないけど、日本ではないとわかった以上なんにせよ生きていくしかないか。

 

桂花「ちょっと!聞いてるの!?答えてあげたんだからこっちの質問にさっさと答えなさいよ」

一刀「ごめん、無視してたわけじゃないんだ。ただ整理していただけで……えっと、日本がどこにあるかだけ――」

 

??「おいおい、ホントにこんなとこに落ちてきたってのか?」

 

一刀&桂花「!!」

 

 突然聞こえてきた声に驚く。注意してみれば複数の人がこっちに歩いてくる音が微かに聴こえてきた。

??「た、たしかに、こっちの方におちてきたんだな」

??「あっしも、確かにこの目で見やした」

 

 声からして3人。声の聞こえた方に視線を向ける、まだ姿は見えない。さて、どうしたもんかと少女に視線を向けると、考え事をしていたようだった。そして考え事は終わったのか、少女はこちらを見て。

 

桂花「逃げるわよ!」

 

 さっきまでは警戒していたのに、逃げる算段のなかに自分が入っていたのが嬉しかった。……ただ、この距離が拙かった。

 

??「おい!あっちから声が聞こえたぞ!」

 

 そうだよね……そうなるよね。少女もしまった!って顔をして、なぜか睨みつけてくる。

 

桂花「あんたのせいよっ!!」

 

 この少女のイメージが変わった。さっきまでは、可愛いながらも知的で凛々しくて、なんか近寄り難い雰囲気があった。まぁ、警戒されて経ってのもあったけど。でも、ちょっと親しみがもてた。

 

一刀「ごめん。…でどっちに行くのさ」

 

 苦笑しながら答える。そこで立ち上がろうとして気付いた。近くにはウチの二振りの刀があった。少女に夢中になっていたし、現状に混乱していたこともあるだろう。それにしたって『コレ』に気付かないなんて……まだ俺のじゃない、っていうのは言い訳になんないよな。こんなことで動揺に気付くかよ、まだまだだな俺は。右手と左手にそれぞれ剣を持ち、少女に近寄る。

 

桂花「こっちに!はや―――」

??「いらっしゃーい」

 

 木の影から小柄な男が出てきた。どうやら先回りされたようだ。

 

桂花「くっ」

 

 そして、他の方はと見るも…

 

??「おう、チビよくやった」

??「やっぱり、速いんだな」

 

 相手は声のした3人だった。そして、前と右後と左後の3方から剣であろうものを出して距離を詰めてくる。

 

??「こりゃいい。女の方は小さいが滅多にお目にかかれない上物だ、殺すなよ。そっちの男は珍しい服着てるな、とりあえずひっぺがしてから売るなり殺すなりするか、おまえら服だけは汚すなよ」

 

 嗚呼、こいつらはロクな奴らじゃない。『殺す』という単語をこれだけ自然に使うのだ。それだけ人を殺し、命を奪ってきたのだろう。ただただ嫌悪感が募る。……だけど、だけどっ!

 

桂花「・・・・・・あんた!剣を持っているんだから、なんとかしなさいよっ!」

 

 少女は下卑た視線と無骨な剣に身を強張らせている。それなのに、これだけ強気で声を張ることが出来るのは、少女の矜持ゆえか、はたまた気位の高さゆえか……この少女の強さの一端を垣間見た気がする。それに比べて俺は…俺は……

 

一刀「でき、ない……怖い、怖いんだ」

 

 足は震えて力が入らない。目が熱い。視界がぼやける。泣いているのかもしれない。顔も強張っていて自分の表情がどんなものか分からない。怖い、ただ純粋に怖いのだ。何もしないまま誰かが何とかしてくれるなんて甘い事は考えてない。けど、しょうがないから、ああするしかなかったからといって、殺すことを選択することが怖い。流れるままにそれを選んだら、自分がただの人殺しになって、何かと理由をつけて人殺しをする・・・そんな人間になってしまう気がするから。

 少女は呆れるでもなく、蔑むことなくただ「・・・そう」とだけ言って前に出る。

 

桂花「なら、あんたは逃げなさい。戦場でもそう、戦う意志のない者は邪魔なだけ。早くどこへなりと行きなさいよ・・・・・・男なんていっつもそう。いざとなったらなんも役に立たないやつばっかりなんだから」

 

 少女は突き放した言葉を使った。ここからでは彼女の表情を窺い知る事は出来ないけど、その肩は小さく震えていた。人によっては文面通り受け取って逃げるやつもいるだろう。それか、無謀に立ち向かって返り討ちにあうか。どちらにせよ、彼女は無理に死ねとは言わず逃げ道を提示した。俺は彼女じゃないから、その胸の内は分からない。けど、憎まれ口を叩くことで、こちらに気遣ったんだとしたら、この娘のなんと不器用なことか。そう考えてしまったら、殺すことへの怖さは薄まった気がする。確かに殺すことは怖い、でもそれ以上にこの少女を死なせたくない、殺させたくないと思ってしまった。まだ、殺す覚悟のない俺だけど・・・・・・この少女を守る誓いをしよう。心を奮い立たせて彼女の前に立つ。

 

一刀「待って、ここで君を一人に出来ない。怖くて、怖くてどうしようもないけど君を見殺しにすることのほうが怖いから……だから、持っていて」

 

 そして、左手に持った黒い刀を少女に預ける。言葉にはしないけど独り善がりの誓いをする。この刀を君が持っている限り君を護ると。

<side 一刀 終>

 少女は差し出された黒い刀を受け取った。訳なんかわからない、ただ青年の出す雰囲気が彼女にそうさせた。先ほどとまるで違う青年の目の力。どこか迷っていた瞳には確かな意志の力があったからだ。

 青年は白い刀の柄を右手で握ると目の色が変わった。そう文字通りに変わったのだ。この世界では、目の色が変わることは『氣』の使い手であるのと同時に武将であることを意味している。それはつまり、武に秀でており並の者が10人束になったとしても敵わないということでもある。

 賊と思われる3人の顔に血の気が引いた。それもそのはず、圧倒的優位に立っていたのに今ではそれも逆転して、狩る側が狩られる側になったのだ。3人は青年と少女を見たとき、自らの幸運を喜んだ。女は見るからに弱そうで容姿が良い、男の方は見たことのない服を着て見たことのない剣を持っている。そしてその両方に強さを感じなかった、最高の獲物が現れたと。そんな幸福の絶頂にいると思っていただけに、落差は大きかった。そして、絶望から立ち直る前に青年に倒されたのだった。

 青年はまず前方にいる男に対して、刀に鞘がついたまま振り抜き、鞘を飛ばしてぶつけ、そのままその男を気絶させた。そして左後方にいた2人を指示していた者を左手で殴って気絶させた。それも、この場にいた者には何をしたのか、どこに攻撃をしたのか分からない速度で繰り出したのだった。最後に残った男に剣を構え「どうする?これ以上はわかるよな」と……これで勝敗は決した。そもそも青年の目が変わった瞬間にはこの結果は想像に易いことではあったが。そして残った男は2人を引きずって逃げていった。時間にしてわずかの出来事だった。

 少女は呆然としていた。さっきまで弱弱しく声が震え、涙を浮かべていた者が圧倒的な武力をもって3人を制圧した事実に、その変貌に。いまだ納得していないのか、それとも現状を受け入れていないのか、少女は時間が止まったかのように動かなかった。それも、青年が大きく息を吐き出したことで少女は我に返り、再び時は動き出したのだった。

 

桂花「あんた――――へっ」

 

 少女は、これほどに武を持つ青年が戦わないと、戦えないと言ったことを憤怒の形相で問い質そうとした。出来る力があるのにそれをせず、あまつさえ下衆の暴力に抵抗することなく屈しようとしたのは何故かと……しかし言葉には出来なかった。青年の方に一歩踏み出そうとして、ぺたんと腰を落としてしまい言葉が続かなかったのだ。

 彼女は武を持っていない。10回戦えば10回とも負ける。相手が1人なら方法次第で何とかすることも出来るだろうが、相手は3人、結果を予想することは容易い。まして相手は賊、少女が相手に捕まったらどうなるかなど、もはや分かりきったことだった。加えて、もしかしたらと期待してしまった、戦う力がある青年には戦う気力がない。わずかな希望ですら打ち砕かれ、少女の心中は絶望の淵に沈んでいた。それが結果として助かり、希望を打ち砕いた青年が自分の窮地を救った。とても信じられることではなかったが、3人がこの場にいなくなったことで実感した、安心した少女は強張っていた体に力が抜けていることに気付かず、一歩を踏み出そうとして体を支えることが出来ずに腰を落とすことなるのだった。つまり、腰を抜かしてしまったのである。

 

一刀「どう――」

桂花「うるさいっ!」

 

 青年は何が起こったかわからず心配から少女に声を掛けようとした。だが、少女は羞恥からか顔を真っ赤にして青年に言葉を続けさせない。怪我をしているわけでもない、体調を崩したのだろうかと思い始めたところとで少女が腰を抜かしたのではと予想した。そして青年はそのまま動かないで待つことを選んだ。

 しばらくして、少女に若干落ち着きが戻ったのを感じたので、青年は話を切り出した。それは少女が腰を抜かす前、憤怒の形相でこちらに来ようとした事。そして、それが先の3人を追い返したことに関わることではないかと思い、自分から話そうとしたのだった。

 

一刀「俺が住んでた国では戦うことなんて無くてさ――」

 

 少女はいきなり何をと思ったが、青年が自分が聞こうとしていたことを話すのだと気付き、口を挟むことなく聞き続ける事にした。まとめるとこのような話になる。いわく、青年は戦のない国で暮らしていて、よほどのことがない限り死とは無縁であったと言うこと。それゆえに先の出来事では殺すか殺されるかを強烈に意識してしまい動くことが出来なかったということ。それでも武のない少女が自分を庇うのを見て戦う決意をしたということ。そうした経緯を青年は少女に話した。

 始めはとても信じられないという顔をしていた少女も、青年が戦う決意をしたと言う件では先ほどとは別の意味で顔を赤く染めていた。それは今まで男を意識するようなことが無く、相手にしたこともなかった少女が、青年の思いもしなかった一言で心を乱されたからだった。少女は自身の動揺を悟らせまいと、あくまでも素っ気無く話し始め、流れを変えようとした。

 

桂花「あっそう、一応助けられたことだし礼を言うわ。……助けられたのに名乗らないなんて礼に反することだから」

桂花「姓は荀、名は彧、字は文若。我が身を助けたこと感謝いたします」

 

 少女、荀彧は姿勢を正し礼をした。そして青年も、

 

一刀「こちらこそありがとう。俺は北郷一刀。よろしくな」

 

といって、右手を差し出すも……

 

桂花「…なによこれ。言っとくけど馴れ合いなんてごめんだから。私はあんたたち男なんて大っ嫌い、絶対に信用なんかしてやるもんですか!」

 

と握手はしてもらえなかった。青年、一刀は所在の無い差し出した手をどうするかと、考えようとしたところで、

 

桂花「……でもその武だけは認めてあげるわ」

 

と荀彧のそっぽを向きながらの一言を聞き、苦笑して右手を下ろすのだった。

 

あとがき

 

はじめましての方も、2度目になる方も、

おはようございます。こんにちは。こんばんは。柳眉です。

 

いかがだったでしょうか、基本妄想のこの話。

今回桂花タン(…1度使ってみたかったんです)が登場しましたが、完全なキャラ崩壊ですよね。

個人的な解釈だと、桂花は華琳と似ていて、華琳がいない場合原作の華琳が一刀にするような好意の表し方をするのではないかと…そんな妄想から今回の話を形にしちゃいました。

 

今回も文字にする毎に、「こんな話し方するかな?」「やっぱテンポ悪いわ~」

「くどくないか」「立ち居振る舞い~」などなど、表現に詰まりっぱなしで泣いてました。

 

文量などについても、其の二のように魏の面子と初顔合わせになると、同じ調子で其の二以上のものになると思います。

 

あと、支援していただいている方が多いので投稿間隔の予定をば。基本、月に3回0(ゼロ)のつく日を予定しています。ただし11月は、10日の投稿は一身上の都合により出来ないので、その分を12月もしくは1月にまわそうと考えています。

 

もし、お読みいただいた方の中で評価していただけるのなら、アドバイスをいただけるのなら、嬉しいです。

 

 

 

大雑把な説明

北郷一刀(主人公):この物語では、原作の北郷一刀とは別人。オリキャラ。

 

三国志の知識  本作<原作    その他政略、軍略など  本作≒原作

武力      本作>原作    容姿や魅力、性格    本作<原作

 

三国志の知識について、強い武将などは分かるが、出来事やその結末は分からない。

例)呂布=強い 定軍山の戦い=定軍山をどこかで聞いたことがある その程度

 

政略や軍略等について、現代の自分の常識との比較。

例)城下の警備と交番などを比較。ビギナーズラック・・・大体原作と同程度

 

武力について、『氣』の概念がある世界観。武将と一般兵との差は氣の才能の有無

主人公の実力・武器については、作中にて説明予定。個人的な好みは、強さの位を1段階あげる展開が好き

武器は刀に似た剣の二刀流だが、あまり二刀流で戦わない。サブタイに楯と入れたくらい守専門にする予定

 

容姿や魅力、性格について、原作のほうを高いとしたが優しさ(甘さ)という基準から

自身の行動を実行する前に、1度理性的に考えることが出来る。

容姿や魅力(フェロモン的な)は普通。原作のような初見で惚れられる、見込まれることはまずない。

 

 

曹操(華琳):本作では呉ルートの記憶あり。原作と同じ行動をする場合もあればしない場合もある。

 

荀彧(桂花):本作では袁紹のところをでて、曹操の下に行く間に一刀と遭遇。男嫌いを軽減。

 

 

 

以上が大雑把な説明です。作中にて説明するものは除き、原作と本作における違いについて書きました。

つまり、主人公の強さが書かれていない=本作中で誰かと互角の戦いがある。ということです。

 

作品を気に掛けて頂ける事は柳眉としては大変ありがたいので、質問していただいたことや要望等全てに応えたいですし、口(手)が滑りそうになります。ですが、自重して作中にて登場してから、あとがき等で説明する場を作る算段でいます。こちらの都合にて返答させていただく事心苦しくありますが、何卒ご理解のことよろしくお願いします。

 

最後になりましたが、ここまで目を通して頂きありがとうございました。

次にまみえるご縁があることを……


 
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