No.1042015

艦隊 真・恋姫無双 148話目 《北郷 回想編 その13》

いたさん

今回は短いです。また、1ヶ月以内には話を足す予定。
それに伴い更新が遅れます。10月は色々とありまして。

2020-09-27 20:08:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:715   閲覧ユーザー数:704

【 深謀 の件 】

 

〖 南方海域 深海棲艦側 にて 〗

 

 

気が付けば……二割もの味方艦隊が削られていた。 三本橋が唖然としていた時、深海棲艦達の暴発により、ただただ無策で突っ込んでしまった、指揮官による怠慢であった。

 

されど、敵側も相当数が削られている筈なのだが、目を幾ら凝らして見ても、現れた時と同じく泰然自若としていて、動揺してるかどうかなど全く分からない。 

 

実にやりにくい相手だと……心の中で愚痴る。

 

三本橋自身の戦場経験が少ないのは、最初から理解していたが、それなりに作戦や運用方法には自信があった。 よく将棋やチェス等の陣取りゲームでは負けなしだったからだ。

 

だが、実際に思うようには兵力が動かせず、臨機応変な対応も出来ず、散々歯噛みするはめになるが、今はそれを後悔している暇などない。

 

急ぎ上官にあたる南方棲戦姫に、援軍の出現、被害の状況を報告しなければならなかった。 そうしなければ、自分が提案した、戦術が発動できないからである。

 

 

『………連絡ヲ……シタイケド………』

 

 

そう言って自分の周りを探るが、連絡役の駆逐イ級を探すが見当たらない。 

 

敵援軍の連絡した時は、問題なく出来たので、多分、今の戦闘を見て怯えてしまい、逃走を許してしまったと考えて間違いないだろう。

 

 

『基盤ガ……コウモ弱イトハ……盲点ダッタナ……』

 

 

そもそも、三本橋の率いる深海棲艦達は、実は南方棲戦姫の支配下においている者達ではない。 とある海域エリアのボスが率いていた深海棲艦達だと、聞いている。

 

今回の海戦で、兵力を分けるのを相談した結果、支配下で燻っている存在を知り、是非にと打診した結果だった。

 

 

『カト言ッテ……南方棲戦姫ノ配下ヲ譲ラレテモ……此方ノ状況ガ筒抜ケデ……何カト漏ルノハ困ル。 何ヨリモ……研究ヲ続ケル為ニモ……早ク独立ヲシタイ……!』

 

 

元々は引きこもりで研究者気質の人物ゆえ、上から指図されるのを嫌う三本橋は、早めに手柄を立てて、南方棲戦姫から円満に独立したいと望んでいたのだ。

 

そのため、話に出てきた存在を南方棲戦姫から譲り受けて、此方の心証を良くし、三本橋も独自の戦力を持つのに成功、更なる手柄を得る為に作戦まで立案。

 

これで成功すれば、南方棲戦姫だけではなく、他の有力な上位深海棲艦達と、顔合わせぐらいできると踏んでいた。

 

そのため、南方棲戦姫の支配地域には、それだけの数を確かに抱えていた。 今も出撃せずに、常に万全な体調で待機したままである。

 

 

───だが、問題もあった。

 

 

確かに、三本橋の支配下におかれる事になった深海棲艦達だが、この者達の統制など直ぐに出来ようがない。

 

何とか、三本橋を気に入り一緒に着いてくる、戦艦レ級の恐怖に縛られ、一応は命令に応じてくれているのだが、このような緊急事態に陥れば、いとも簡単に裏切られる。

 

おかげで、このように緊急連絡さえも出来ず、事を欠いてしまっている。

 

 

『…………シカシ……コノママダト……』

 

 

そう呟くと、三本橋は戦場を冷静に俯瞰し始めた。

 

短時間の間で立ち向かった為か、両軍疲労困憊になり、どちらも軍を一時引いて、数十メートルの緩衝地帯を挟み、双方共に睨みあっている。 

 

そして、敵側の陣形には変化はなく、見事な鶴翼の陣は堅固な守りを保たままだ。 

 

北郷一刀が乗船する漁船と艦娘たちの姿は見えないが、多分、鶴翼中央部分で固く守られているのだろう。 鶴翼とは左右に広がるいう陣形だから、セオリー的に可能性が高い。

 

 

『コレガ……鶴翼ノ陣形……最大ノ弱点ダト……見ルンダケドネ? ダケド……ソンナ単純ナ……相手ジャナイ……』

 

 

中央部分は守備する者達が左右よりも薄く、その分だけ攻める者達が、必死に護ろうとしている艦隊へは肉薄できる。 

 

だが、そんな分かりきった弱点を放置しておくような相手では無いのは、先ほどまでの戦いで理解した。

 

多分、陣形の深部に入れば、左右より挟撃されてお仕舞いになるだろう。

 

 

『ソレニ……既ニ来テイル……ヨウダネ。 父上ニ張リ付ク……金魚ノフン共ガ…………!!』

 

 

鶴翼の陣形中央で味方の艦載機を撃ち落とし、その爆炎で夜空に浮かび上がったBf109T改を見て、苦々しく呟いた。

 

それから三本橋は深海棲艦の駆逐艦に命令し、鶴翼の両翼を遠方から確認し、ある者が存在するかを確かめさせる。

 

それは、元帥直属艦隊と言われる艦娘達が、その中に混じっていないかとの調査だ。 周囲の者は、殆んど九割方が同色の装備ゆえ、他の者と区別がしやすいから容易いだろう。 

 

しかも、艦娘となれば……尚更だ。 

 

 

三本橋の予測通り、時間を掛けずに相手を見つけ────

 

 

『ソウカ……頑固ナWarspiteト……真面目ナアイツガ……左右ニ居ルノナラ………成功率ガ……上ガルネ………』

 

 

その調査結果を聞いて、密かに北叟笑(ほくそえ)む。 

 

この作戦は、三本橋を要とする為に危険な行動をしなければならないが、あの軍勢を操る指揮官達を出し抜き、北郷一刀の乗船する艦隊を撃破できると確信。

 

そうと決まればと、三本橋は暇を持て余している戦艦レ級を呼び寄せ、尚且つ指揮下の深海棲艦へ作戦を伝え、ある行動を敢行することになった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 亀裂 の件 】

 

〖 南方海域 三国の軍勢側 にて 〗

 

 

 

深海棲艦達が、急に両翼へ攻め込み、先程よりも激しい攻撃を仕掛ける。 各々の不得意を補う者達と組み合わせた艦隊が、悠然と焦らず進行を開始した。

 

一度は有利に進めた戦いも、相手は近代兵器を持つ怪物達。

 

蜀や呉の兵士も押され気味になるが、誰も諦めようとするものは無し。 其々に軍勢で指揮を取る将達も、兵士に負担を掛けますまいと、その勇武を繰り広げる。

 

 

───だが、そんな中で両翼では、壮絶な主導権争いが勃発。 大勢の者達の耳目を集め騒ぎとなり、軍の統制にも事欠く有り様であった。

 

 

★☆★

 

 

『───ですからぁ! あの場所を通過しようとする深海棲艦の中に、ザラ達が捜していた方が居るんですっ!!』

 

『だが、どう見ても先ほどの輩共と同じ、凶悪な武器を携えているではないかっ! もし、ご主人様に危害を加えられられてしまったら、一体どうするつもりだっ!?』

 

『そんな事はありません! 貴女達とザラ達が協力すれば、Perfettamente(完璧に)北郷提督を救える筈ですよ!! だから、Per favore(お願いします)!!』

 

『ええっい! また訳の分からぬ言葉で喋りおって! それに、この戦いの全体指揮は全て決まっている! 今さら、そんな話など聞けるものかっ!!』

 

 

★☆★

 

 

『即時、あの深海棲艦への攻撃停止を命じます! あの方は私達の上官の娘! その上官から保護行為を厳守されていますので、殺害行為は断じて許せません!!』

 

『こちらも軍を統率する立場であり、貴殿も軍に身を置く者なら理解できよう。 門外漢の輩から高飛車に指示され、その通りに動かしたとあれば、下の者は付いては来ないぞ?』

 

『ですが………くっ、分かりました。 私が貴女のPurpose(目的)にため、働きましょう。 どうか、その見返りとして、中央に進出するアノ者に……どうか御配慮を!』

 

『…………幾ら、貴殿が力を貸してくれると言っても、その力添えうんぬんに対しては、私からは何も言えんよ。 全て《王佐の才》が、北郷の為に備えた策らしいからな』

 

 

★☆★

 

 

それぞれの両翼に指揮する将がおり、左翼は蜀軍《関雲長》と右翼は孫呉軍師《周公瑾》となっている。 そして、この責任者二人に、ザラとウォースパイトが噛みついていた。

 

 

ついでに、二隻の正式艦種と名称は、こちら。

 

★Zara級 1番艦 重巡洋艦《Zara》

★Queen Elizabeth級2番艦 戦艦《Warspite 》

 

 

さて、その理由とは───

 

 

『僕達ダケデ……進ムンダ。 決シテ……急ガナイ。 普通ヨリ少シ……遅メニ。 アノ中央部分ニ……向カウ………』

 

 

三本橋と戦艦レ級、そして護衛である深海棲艦数隻が、鶴翼の中央へ悠々と進行。 この行動により、三本橋の処置に対する意見の相違が噴出することに。 

 

いや、どちらかと言えば、三本橋が行った奇妙な行動により、俄仕立て(にわかじたて)の軍勢による問題が表面化したのが、主な原因であった。

 

そして、これを見たザラとウォースパイトが驚き、責任者である二人に願い出たのは、任務として当然であろう。

 

だが、二人は拒否。 

 

敵対した事も理由だが、一刀に対して行なわれた様々な悪意を、何らかの方法で既に全部知ってしまったからには、到底赦す訳には出来なかったと思われる。

 

そのため、騒動は広がり、軍勢自体も慌ただしくなったのだが、深海棲艦達も自分達の攻撃で三本橋が巻き込まれるのを恐れたか、何も動かなかったお陰で被害は無かった。

 

 

★☆★

 

 

『もう、本当に! いくら粘り強さがモットーだって言っても、こんなZuccone(大きいカボチャ=石頭(固い)、馬鹿(中身が無い))の人に対して無理ですよ! ザラでも怒ります!』

 

『いい加減にしろ! 私達は、ご主人様を救う為に現れたのだ! それに、あの小娘には恨みはあっても、助ける理由も義理もない! どうなろうと知らぬ!!』

 

 

★☆★

 

 

『Oh my ………貴女では話になりません! もっと上の階級の者は居ないの!? 居るのなら早く呼びなさい!!』

 

『まあ、確かに、居るには居るのだが…………話になるかは貴殿次第だ。 出来れば、私との会話で済ませて貰う方が、遥かに有効だと思うのだがな……』

 

 

★☆★

 

 

ザラ達の考えだと、上官の命令には絶対的服従。 

 

だから《可能な限り生かして連れて来い》との命令に従い、一刀達を差し置いて行動を起こした。 ただ、この軍勢に対して脅威と協力を無視できない為、離脱も出来ない。

 

逆に、左右の蜀や呉は、北郷一刀との安全を第一とし、敵側であった三本橋など憎しむ相手と見ている。 だからと言って、この艦娘達を捨て置けば、その未知なる力は侮れない。

 

双方とも相手と共通の敵を認めながら、目的は別。 だからこそ共同戦線を張りつつも、団結は意外と脆い。

 

一度紛糾すれば、何らかの妥協点を探らないと、行動が阻害されるほどにだ。

 

だからこそ、その間、指揮官である彼女達からの伝達が遅くなる。 そうなれば、蜀や呉の軍勢が三本橋の目的に気付いても、それを阻む時間が稼げるというもの。

 

それに、艦娘は基本的に上官の命令に従う。 例え、明らかに理不尽と分かる命令も、自分の身命を賭してまで。 

 

この話は、何度でも試した実践した、三本橋なら知っている事実であり、既に帝国海軍上層部も報告により把握済み。

 

だから、ザラ達の動きも予測でき、全部を総合的に考えた結果、意外な通り道ができたという訳である。

 

 

『合流シテ……マダ数時間シカ……経過シテナイノニ……僕ノ扱イマデ……気ニ止メテナカッタノガ…………敗因ダヨ……』

 

『………ボッチ………?』

 

『違ウッ!! オ前ノ────フン! マア、イイサ……』

 

 

こうして、危険をチップにして賭けた策は見事に当たり、両翼の指揮権が停滞する中、深海棲艦達の猛攻により動きが硬直。 真っ正面の相手へ対抗するしか術は無い。 

 

その隙に真ん中を突き抜ける三本橋達へ襲い掛かるのは、交戦の最中で逸れた流れ矢か、飛び出してくる少数の兵士。

 

どちらも配下の深海棲艦、もしくは戦艦レ級が嬉々として破壊。 三本橋達は阻まれる恐れも無いまま、傷一つ付かずに一刀達へ接近して行く。

 

 

『─────ナンダイ? 戦ッタラ……結構……楽勝ジャナイカ? ヤッパリ……僕ノ方ガ…………』

 

 

愉悦に笑う三本橋の見る先は、両翼より遥かに少ない中央の軍勢。 両翼が数千規模の軍勢なのに、中央は千より少ない、数百という方が正しい程の人数。

 

先の戦いで、かなりの損傷を与えていたことが分かったゆえの、勝利への笑顔。 

 

このまま進み、中央の兵士を蹴散らした後、北郷一刀達を襲い撃破を試みる。 最低でも、北郷一刀の殺害は実行したいところ。 時間を掛ければ逆襲に転じられる恐れがある。

 

その後は、そのまま突き抜け、後続で来る予定の南方棲戦姫の軍勢と合流。 そして、後方に残した軍勢と共に挟撃して、謎の軍勢も撃破する。

 

三本橋の脳裏に描く勝利のビジョン。 間違いなく、このまま行けば、彼女達を出し抜いて勝てると信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

───だが、その様子を……別の場所で、冷ややかな笑みを湛える猫耳頭巾の少女が、三本橋達を見つめているのに、気付く者は誰も居なかった。

 

 


 
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