No.103298

真剣で私と戦いなさい! 1話:前兆

ろしあさん

時間は過ぎ、2009年5月7日。
風間ファミリーは新たに新入生 黛由紀江、転入生 クリスティアーネ・フリードリヒを加え、ぶつかり合いながらもその絆を深めていった。
そして、直江大和は夢で見た黒い物体のことを思い出し、話しの話題になればと探してみることにする…

2009-10-26 18:29:41 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6850   閲覧ユーザー数:6225

2009年5月7日(木)

 

 

 

懐かしい夢を見た。

 

まどろむ意識の中で顔に接触する柔らかいモノを感じる。

 

 

「…んっ、…あっ」

 

 

京の声が聞こえる。

 

目を開けると白い布が視界いっぱいに広がる。

 

 

「んっ、大和起きた?」

 

「起きたよ、おはよう」

 

 

平静を装おう。

本当はどきどきしているが軍師たる者いついかなるときも冷静でなくてはならない。

 

 

「おはよう、大和。そして好き」

 

「友達で」

 

「う~…気持ちよさそうに眠ってたからいけると思ったのに…」

 

 

軽くうなりながら恨めしげに言う。

気持ちよさそうか…

 

 

「ちょっと懐かしい夢を見たからな」

 

「私との熱い夜のこと?」

 

「そんな事実はありません。4年前の誕生日の夢だよ」

 

「4年前は私の初めてをささげた日かな?」

 

「受け取らなかったから…そういえばキャップがくれた物体Xはどこ置いたっけ?」

 

「箪笥の中には無いよ」

 

 

京が俺の箪笥の中を把握しているのか…別に不思議でもないか。

岳人のプロテインは岳人自身が飲んだし、モロの漫画も基地の本棚に並んでいる。

姉さんのお守りはいつの間にか無くなった(京が隠し持ってる)、ワン子のダンベルは…

 

 

「あ、ワン子のダンベルと一緒にガラクタ入れに放り込んでる」

 

 

放課後にでも実家に帰って探してみるか、久しく帰ってなかったし…

 

 

「それはそうと京出て行ってくれない?着替えるんだけど…」

 

「私は一向に構わない!舐め回すように見たい。むしろ舐めたい」

 

「逆セクハラです。お願いですから出て行ってください」

 

 

しぶしぶ出て行ったが念のため襖を開けると案の定聞き耳を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、大和ちゃん、京ちゃん」

 

 

恰幅のいいご婦人島津麗子さんの登場。

なんとなくおだてておく。

 

 

「おはようございます、今日もお名前のように麗しい」

 

「いやだねこの子は、もう一品追加してあげるよ」

 

 

計画通り。

 

 

「おはよう、大和。しかしお前は自分で起きられないのか」

 

「大和さん、おはようございます。ほら松風も」

「おっはー」

 

 

おはよう、と二人に告げる。

まゆっちはいいのだが、何でクリスはいちいち俺に突っかかってくるんだろうな。

別に起きられないわけじゃないのに…

 

 

「ゲンさんもおはよう」

 

「あぁ、おはよう。さっさと席につけ飯が冷めるぞ」

 

 

途中でみんなと合流しつつ学校へ向かう。

 

橋についたところで足止めを食らう。

どうやら姉さんに勝負を挑むやつがいたらしい。

 

危ないので離れていると後ろから声をかけられた。

 

 

「おはようございます、大和君」

 

 

2-S所属の葵冬馬が話しかけてきた。

さりげなく直江さんから大和君に呼び方が代わっている。

 

 

最近は京以外からも背後から視線を感じることがある。

 

そのときは近くにこいつがいることが多いのだが…

 

 

「ん?あぁ、おはよう」

 

「相変わらず、いい後ろ姿ですね」

 

「ちょっと寒気がしてきた…そういえば最近よく見かけるな」

 

「はい、声をかけようと思うのですが、後姿を眺めていて声を掛けそびれるが多いんです。やはり、今度から愛をこめて大和さんと呼んでも?」

 

「…はは、愛を込めずに大和君のままで頼む」

 

「残念ですね」

 

 

真剣で言ってるのか冗談なのか…真剣だったら嫌だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

 

なんとなく屋上で昼食を取りたくなったので、パンとコーヒー牛乳の入ったビニール袋を片手に階段を上る。

 

屋上に設置されたベンチに腰掛け、いそいそとコーヒー牛乳にストローをさす、ストローを口に咥え中身を飲もうとした…

 

 

「大和君…(ボソッ」

 

 

いきなり耳元で話しかけられコーヒー牛乳を噴出してしまう。

器官にも入ったためむせ返り涙目になりながら話しかけてきた葵冬馬の方を睨む。

 

 

「そういった視線もゾクゾクしますが…いきなり声をかけて、すみませんでした。」

 

 

むせ返り乱れていた呼吸を整える。

いきなり声をかけたのよりも耳元で囁いたのが問題なのだが…

 

 

「…お前一人なのか、井上や榊原さんは一緒じゃないんだな」

 

「風間ファミリーの皆さんだっていつも一緒にいるわけではないでしょう?」

 

「確かに…で?何か用事か」

 

 

2度に渡り智謀を競い合った中ではあるが、葵冬馬と俺はそれほど親しいわけではない。

井上準の方はうちのクラスの委員長・甘粕さんが好みらしく時々クラスに来るので少しは話したことがある。

 

 

「いえ、特に用事はないんです。入り口から大和君が入ってきたみたいなので隠れて脅かしてみた…ただそれだけの話です」

 

「意外だな、まさかそんな子供じみたことをするなんてな」

 

「そうですか?」

 

 

うなずきながらストローを咥えなおす。

葵が俺の隣に座る。微妙に近い。

 

 

「…そういえばさ、お前ブラックプラネットとか聴くんだって?」

 

「ええ、大和君もでしたっけ?趣味が合いますね…他には…」

 

 

その後、二人でいろいろと話した。

やはり、趣味が合うし、いろいろと共通点が多い。

案外、葵とは仲良くやれるかもしれない。

 

 

放課後になった。

 

本来なら特に用事が無いので秘密基地に向かうところだが、今朝気になっていた物体Xを確認するために実家に帰ることにする。

タイミングよく京が弓道部に顔を出すようなので一人で帰る。

 

 

「ただいま、っといっても誰もいないか…」

 

 

返事があるはずもないのについ口から出てしまうのは、やはり実家だからだろう。

子供のころから両親は共働きであまり家にはおらず、いわゆる鍵っ子だった。

 

それを寂しくは思うが、両親の仲は良好だし、親は俺を拘束しいろいろ教えてくれた。

 

海外に行くことになったときも、栄養バランスが崩れることを危惧して寮に入れるだけで、無理やり連れて行くようなことは無かった。

 

家もこうして残してくれているし、日本が良くなったら帰ってくるのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりの自宅の自分の部屋、っと言っても、荷物は寮に持っていったため特に何も無い。

 

押入れにいろいろと入っているだけだ。

 

押入れから原色のカラーボックスを出す。

小さい頃集めたおもちゃなどいろいろなものが入っている。

 

懐かしいと思いながら目的のものを探す。

 

 

「あ、ダンベル」

 

 

ワン子からもらったダンベルが入っていた。

軽く何度か腕を曲げてみる。当時中学生の俺でも扱えたので苦はない。

筋トレが目的ではないので目的の物を探す。

 

 

「あれ?無い?」

 

 

記憶力には自信がある。

 

確かにこの中に入れたはず、カラーボックスはまだあるので他のも探してみる。

 

 

「おっ、ミニ四駆だ。懐かしい」

 

「んっ、今度はビー○マンか」

 

 

懐かしい思い出が浮かぶ、いくつか姉さんに奪われたのも今ではいい思い出。

 

 

「あった…うげっ、ひびが入ってる」

 

 

手に持った物体Xは真ん中あたりからひびが入っていた。

 

 

「呪いのアイテムかも、って話があったし大丈夫かな」

 

 

軽くひびに触ってみると上半分が落ちてしまった。

どうやら止めを刺してしまったみたいだ。

 

あわてて拾ってみると金属が埋まっているようだ。

 

 

 

「指輪…かな?」

 

 

金属製の光沢を持ったリング状の物体が出てきていた。

 

輪の中に人差し指を通すように引っこ抜いてみようとした。

 

 

「あれ?消えた?」

 

 

人差し指を少し通したかと思うと金属の輪は消えてしまった。

 

確かに感触はあったし、破片には何かがあった溝がある。

 

足元を見回すがそれらしいものは落ちていない。

 

手を凝視するが当然あるわけも無く…

 

 

「なんだったんだ?」

 

 

気にしても仕方ない。

 

それよりも探すために出した品を戻さなくては…

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 

カラーボックスを直していて気づいたのだが思いのほか埃がたまっていた。

ついでなので軽く掃除をしてみると思ったより時間がかかり、だいぶ日が傾いていた。

 

あわてて寮に戻ったがまだ夕飯には間に合いそうだった。

 

 

「お帰りなさい、あなた。ご飯にする?お風呂にする?それとも私?」

 

「俺は友人です」

 

「つれない。でも、そんな大和も素敵」

 

 

京といつものやり取りをしつつ台所に向かう。

 

台所ではクリスが時代劇のDVDを鑑賞していた。

 

ゲンさんの姿が見えないところを見るとバイトだろう。

 

 

「おう、大和」

 

「ただいま、キャップ」

 

 

例の物体を送ってきた張本人が机の上にへばっていた。

 

 

「大和~、何か面白いこと無いのかよ~」

 

「面白いことね~…」

 

 

真っ先にさっきのことが思い浮かぶがこの場で話したとして…

 

キャップからもらった物体が割れてた→中から指輪(?)→消えた

 

証拠が無いし京あたりが

 

 

「まさか、4年越しの婚約指輪…有り!!」

 

 

とか言ってきそうだし、言わないでおくか。

 

 

「ヤドカリの生態にt「麗子さんごはんまだ~?」…自分で振っておきながら…」

 

「だって長いじゃんか。それにもっとこう…怪獣が出たとか、珍しい動物発見したとかそういうのないのか」

 

「生身でコロニーレーザーみたいなの出せる人なら知ってるよ」

 

「それ百先輩だろ…まゆっちは何か知らない?」

 

「はうぁ、わ、私ですか?…松風は九十九神が取り憑いていm「腹話術じゃん」あうっ」

 

「あ~ぁ、なんか面白いもん転がってないかな…ツチノコとかさ」

 

「マイスター、不謹慎なことを言うものではないな。平和が一番だ…最も、時々人を切りたくなるがな」

 

 

クッキー第二形体がいい事言った後に自分で否定している。

 

そんな無駄話をしていると麗子さんの料理が完成した。

 

いつも通りバランスよく作られている。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋で一人布団の中で寝返りを打つ。

 

キャップたちには言わなかったがあの指輪と思しきモノはどこにいったのか気になっていた。

 

あの時最後に触った右手を天井に向けて開いた。

 

 

「……」

 

一瞬『群青色の巨大な腕』に見えた。

 

ぎょっとして、左手で目をこすってみた。

何も無い。

何の変哲も無い右手だ。

 

 

きっと目の錯覚だろう。

眠ることにする。

 

 

今日は寝付きが良いようだ、瞼を閉じて数分で意識が希薄になってくる。

 

 

 

 

 

 

 

意識が落ちる寸前、甲高い耳鳴りがした。


 
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