No.102303

「放たれた矢は、想いを乗せて時をも越える」

鳴海 匡さん

2003年に発売された『少女義経伝』の二次創作です。
ヒロインの一人である「那須与一」クリア後に、勢いで書いた作品のため、非常に内容は荒いです。

書いてから長らく放っておいたもので大変恐縮ですが、この機会に、思い切ってUPしてみました。
興味がおありの方は、ぜひご覧になってあげて下さい。

2009-10-21 18:20:17 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1394   閲覧ユーザー数:1361

 

「ヒマそうね」

「は?」

「どう?これからちょっと付き合わない?」

「……」

「そんな警戒しないでよ。何も取って食おうなんて思っちゃいないから」

「……キミ」

「ん?」

「誰?」

「まったく、信じられないなぁ。まさかクラスメイトの顔も知らないなんて」

「ごめんごめん」

「全然申し訳なさそうに聞こえないんだけど……」

「精一杯の謝罪なのだが……」

「ふぅん……まぁ、いいわ。はい、着いたわよ」

「ここって……」

「そ、弓道場。来た事は……ないようね?」

「あぁ……でも」

「『何でオレを連れてきたのか』って?」

「ん~……まぁ」

「正直言うと、なんとなく、かな?」

「何となくで、たいして話した事も無いクラスメイトを、しかも男を連れてくるもんなのか?」

「さぁ……」

「さぁって……(呆)」

「ま。いいじゃない。結局来たんだし。それに何? もしかして『愛の告白かも~♪』とか勘違いしちゃった?」

「別にそんなんじゃないが……まぁ、ここまで来ちまったんだから仕方が無い。折角だから、練習風景くらい見学させてもらうよ」

「ふむふむ、なかなか見所があるじゃない」

「何の見所だよ」

「こっちの事よ。それより弓をやった事は……なさそうね」

「何でそう思う?」

「そんな物珍しそうな目で道場を見ていたら、誰だってそう思うわよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんよ。さて……」

「何するんだ?」

「着替えるのよ」

「何に?」

「袴」

「ふぅん。で、オレはどうすれば?」

「ま、その辺で待ってて」

「いいのか? オレ、部外者だぜ」

「私の連れだって言えば、問題無いわよ。あぁ、勘違いしないでよ。別に勧誘しようなんて思っちゃいないから」

「あぁ」

「じゃ、着替えてくるわね」

「早くしてくれよ」

「急かさないでよ」

「………遅いな」

手持ち無沙汰になって、特に他意はなく立て掛けてあった弓を取り、引いてみる。

与一に貰った弓が、いかにオレの手に馴染んでいたのかがわかる。それほど、ここの弓がオレには「部外者」であることを感じさせた。

そう思うと、与一に貰った弓こそが、オレの手に馴染む、オレだけの弓だったって事がまざまざと思い出された。

 

(そういえば、あの弓は何処と無く「暖かかった」ような思いがした)

 

非現実的な事をオレは考えている。

だが、これが自惚れでなければ、あの弓に込められた想いは、与一の、オレに対する……。

知らず知らずオレは、弓と共にあった矢を一本手に持ち、的に向かって構えてみる。

 

『的に当てるのではなく、その先へと至る心。その境地こそが弓の極意だ』

 

眼鏡を掛けた、手厳しくも愛しい少女を思い出す。

いつしかオレは、鎧を纏い浜辺に立っていた。

弓を構える視線の先には、広大な海と、その上に揺られる小船に立てられた一枚の扇。

ゆらゆらと、ゆらゆらと、惑わせるようにその身を波に躍らせる。

集中、集中、集中……。

風が……止んだ……。

 

ターン

 

放たれた矢は、一直線に的のど真ん中に突き刺さっていた。

それを確認すると、「ふぅ」と肩の力を抜く。

 

「見事だ」

「え……?」

 

振り返った視線の先には、着替えてきた彼女が立っていた。

その姿は、在りし日の「師匠」の姿を思い出させる。その雰囲気さえも……。

 

「見事、的中。腕は衰えておらぬようだな」

「キミは……」

「む、私が分からんのか? けしからん奴だ」

 

微笑みながら構える。

その姿は、記憶の中にある少女、そのものだった。

 

ターン

 

見事的中。

それも、オレの当てた矢と、寸分の狂いもない場所へ。

 

「与一……」

「ようやく思い出したか」

 

掻き消えそうなほど小さく呟いたオレの声に、あの頃の笑顔で少女が微笑む。

 

「どう、して……」

「私にも分らん。ただ……」

「ただ……?」

「お前が扇の的を打つ姿を見たら、ここに居た」

「だ、だって彼女は……」

「釈迦の言う事が本当ならば、私の魂が宿っていると言う事になるのかもしれんな」

「そ、そんな……」

「私だって信じられんさ。だが、こうして私たちは再び出会う事が出来た。ならば、難しいことは考えず、素直に喜べばいい」

「………」

「それとも、もう逢いたいとは思っていなかったか?」

「そんなわけないだろう!!」

 

クスッ

 

「お前なら、きっとそう言ってくれるだろうと思っていたよ」

「ったく、人が悪いぜ」

「フッ、すまんな。だが……」

「ん?」

「逢えて嬉しかった」

「オレもさ」

「そろそろ逝かねばならん」

「え、もう?」

「本来ならば見果てぬ夢だったのだ。再会できただけでも、神に感謝せんとな」

「そんな……」

「そんな顔をするな、弁慶よ。例え生まれた時代は違えども、共に育んできた絆は永遠だ。違うか?」

「……いや。そうだよな。オレ達は今までも、そしてこれからもずっと一緒だよな」

「ああ。だから、笑ってくれ、弁慶よ」

「お前もな、与一」

 

「弁慶」

「ん?」

「一つ、頼みがある」

「何だ?言ってみろよ」

「う、うむ……」

 

「……………………」

「は?」

「だ、だからっ、……………………れんか」

「だから、何だって?」

「貴様、もしやわざとやってはおらんか?」

「何をだよ。聞こえないからはっきり言えって。何?」

「だから、その……だ、抱き締めてくれと言っておるのだ!!」

 

 

「…………………は?」

「だっ、だから!!」

「い、いや、聞こえたけどさ(笑)」

「わ、笑うなっ!!もういいっ!!」

 

ふわっ

 

「!」

「これで、いいのか?」

「聞くな、バカモノ……(照)」

「ごめん」

「謝りもするな」

「うん」

「このまま、逝かせてくれ」

「………」

「お前の温もりを、感じたまま」

「………あぁ」

 

 

 

「またな、与一」

 

 

 

「また逢おう、弁慶」

 

 

 

「私、一体……?」

「……………」

「へっ?」

「……………」

「!! キャアアアアアア!!」

 

バキィッ!!

 

「うがぁっ!!」

「ちょっ、あああああなた、いいいいいい一体何やってるのよ!?」

当然の如く抗議の声を挙げる彼女だが、強烈かつ急所を的確にとらえた一撃は、一瞬にしてオレの意識をすっ飛ばした。

遠のく意識の中で、悪戯っ子のような笑顔で「油断大敵だ」と言い放つ与一の幻が見えたのは、果たしてオレの生んだ幻想だったのだろうか。

 

 

 

その後、オレと彼女がどうなったかは、また別のお話で。

 

 
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