No.1020372

噺の話

えらんどさん

刀剣乱舞 小話。ミュージカル楽しかったです。

2020-02-20 14:58:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:59   閲覧ユーザー数:54

「……という話さ」

 とある日のとある昼下がり。開け放した障子の向こうから柔い風が入り込んで暖かな空気が満ちる。そんな部屋の床。暇を持て余して畳に転がっている我らが主を覗き込んで、近侍は一つ提案する。面白い噺を聞かせようか、と。端正な顔を見上げ左右非対称の瞳の色を見つめながら審神者は少し考えた後に、ではと頷く。頼まれた方はよし来た、とテキパキ慣れた様子で茶と茶請けと座布団を縁側に用意して場を整え、寝転がる主を立たせて座らせ自分自身はその隣に座って、すらすらとこれも慣れた様子で話し始めて幾十数分。

 とある約束を交わした義兄弟の噺を終えて一息つくと、隣から小さな拍手が聞こえてくる。神妙な顔つきで拍手をしている主に、彼は小さく笑ってみせた。

「どうしたんだい? そんな顔をして」

「いや、その……」

 やがて拍手は鳴り止んで、その手は主の顎へと伸びる。先ほどの彼の噺を己の中で反芻し、感想を述べる。あまりにも上手くて驚いたこと、強弱のつけ方や緩急、感情の乗せ方につられてしまったこと。噺の中の兄弟のこと。そしてついでに、

「ならば、己も自害か何かで死んでしまったら、ここへ化けて出るのかしら」

 と首を傾げた。

「おや、どうしてそう思うんだい? 我が主は化けて出たいのかな? それとも僕に斬られたいとか?」

 薄く笑う彼に対して主は顔を顰める。

「そういうわけでは、ないけれど」

 おや残念、とさほど残念でもなさそうな彼に、まあ、と肩を竦めてみせた。

「何があるかは分からないからね。この命がいつまでも在るとは限らない」

 そう言うなり、茶を一度飲んでから、苦笑いとでもいうべき笑みを浮かべた。

「もし、今この時点で命を落とすようなことがあれば、道半ばもいいところだ。君たちに報いることすらできない」

 命を落とす可能性はいくらでもある。道半ばの志半ばで死ぬことは嫌だけれど、そうならないという確約もない。そうだな、と主は一度頷いてから再び神妙な顔つきで、

「だから仮に、その噺の中の人の様な事があれば、化けて出るかもしれないね」

 そう言ってから眉尻を下げて微笑む。そんな審神者に彼は向き直ると、審神者は妙な真剣さを感じてぱちくりしつつも自然と背を伸ばす。風が彼の前髪を揺らして、こちらを見つめる両目を寸の間だけ露にした。

「では、その時はどうしてくれよう」

 射竦める視線に正面から、

「まあ、じゃあその時は、斬ってもらうよ」

 間髪入れずの答えに思わず吹き出してしまう。少しの間くつくつと笑い続けて、

「困った主だね」

「お互い様だね」

 片方はにっかりと、片方はにこりと、笑い合った。


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