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『TINAMIX』創刊にあたって
  1. 日本ではこの30年間、サブカルチャーが実質的にメインカルチャーの位置を占めてきました。にもかかわらず、大メディア、とりわけ印刷媒体は、いまだにその状況に追いついていません。例えば新聞での書評の大きさと、ゲームやコミックについての記事の小ささの対照に、その矛盾ははっきりと現れているでしょう。現実に影響力のある作品が、流通する言説のなかでは無視される。これは、大メディアにとっても、またサブカルチャーにとっても、ともに不幸なことだと思われます。『TINAMIX』はその状況を少しでも改善するため、大メディアが取りこぼしがちな小さな出来事、ジャンクと見なされ通りすぎられてしまう良質の作品への関心を守りつつ、メジャーな言説を驚かす新しい視野を提供していきます。

  2. しかし実際には、この20年間、「サブカルチャー」という大きなまとまりもまた崩壊しています。それは数多くの小さな共同体に分かれ、タコツボ化した知識と趣味のなかで閉塞してきました。とりわけ、85年から95年までの10年間は、それら無数の共同体がさらに「サブカル系」と「オタク系」という2つの群れに分かれ、たがいに嫌悪感を育んできたという歴史があります。『TINAMIX』はそのような歴史を配慮しつつ、林立した共同体の境界を撹乱し、そのあいだにできるだけ多くのコミュニケーションの回路を張りめぐらしたいと考えています。

  3. そして最後に、この10年間、サブカルチャーを支える技術的な環境が大きく変化したことも重要です。インターネットの出現は、林立する共同体の一部をより閉鎖的にしましたが、また、そこに思わぬ情報の抜け穴、短絡を開くことにもなりました。ホームページを開くことの手軽さは、サブカルチャーの担い手たち、とりわけオタク系のコンシューマーをかつてない規模でクリエイターに近づけ、新しい文化消費の場を作りつつあるように思われます。ゲームクリエイターとプレイヤーの距離は、テレビディレクターと視聴者の距離よりもはるかに小さい。私たちが『TINAMIX』を印刷媒体ではなくウェブで展開するのも、またその「近さ」を求めてのことです。


 マイナーとメジャー、サブカルとオタク、生産者と消費者、それらの壁をすべて取り払ったところで、私たちは、私たちにとってもっとも面白いもの、刺激的なものを意欲的に取り上げ、語り、読者に紹介し、評価し、またときに批判もする自由な場を作りたいと考えています。この30 年間のサブカルチャーの流れのなかで生まれ、いまの日本で息づくものであれば、題材、テーマの制約は何もありません。私たちはこれが画期的なウェブマガジンになることを確信していますが、そのためには、読者の皆さんからの情報提供や批判もまた欠かせません。企画の提案からお叱りの言葉まで、あらゆるレスポンスをいつでも歓迎しています。


2000/1/1
『TINAMIX』編集部


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