タニグチリウイチの出没!
TINAMIX
タニグチリウイチの出没!
タニグチリウイチ

“先物買い”の楽しみ

ふわふわな記憶を掘り起こせば去年の7月あたりのことだったか。文藝春秋社から出ている文芸誌『文學界』に、評論家の坪内祐三が“先物買い”的な書評の在り方、例えばデビューしたての新人を褒めそやすなりして、それが文学賞とか受賞した暁に「どうだ参ったか」と自慢するような態度を、いかがなものかと否定していた文章が載った。なるほど確かに新人だろうと大家だろうと良ければ褒め、悪ければ貶すのが批評する上での真っ当な態度。将来の大成を見越して褒めておくなんて態度はまさしく褒められたものではないし、褒める人がすでにそれなりの影響力を持っている場合、“先物買い”が公平な世の中の評価を歪める恐れすらある。

もっともその人が褒めれば芥川賞が転がり込むとか、レコードだったらミリオンになるとか映画だったら興行収入が10億円上積みされるとかいった、とてつもない影響力を持っているる批評家の人ならいざしらず、普通一般の人にとって先物買いは、決して疚しい行為ではない。むしろ何か新しいものを取り入れる時の、楽しみの大きな部分を占めている、ような気がする。

楽しみの種類にはさまざまあって、アイドル歌手だったら後で大スターになった時に自分の鑑定眼を自慢できるといった楽しみもあれば、新人の頃の不用意な写真なり仕事を集めておいて、人気が出てから投稿誌とかに持ち込んで一山あてるといった楽しみも、あんまり褒められたことではないけれどあったりする。それから子育てなんかと同様に、成長していく姿を一緒になって喜べるという楽しみ。格好付ける訳じゃないけれど、やっぱりこれが“先物買い”でいちばん大きな動機になっているんじゃないかと思う。

才能を買う? 価値を買う?

デザインフェスタ
入り口からしてデザインの薫りがいっぱいな「デザイン フェスタ13」。大スターが出る日も近い?

決してメジャーではないインディーズなアーティストたちが集まって、アート作品や服やグッズをフリーマーケット風に並べて売ったり、バンドで演奏したりパフォーマンスしたりして見せる『デザインフェスタ VOL.13』というイベントがある。前にも紹介したことのあるイベントで、去年の秋に続いて今年の春も5月19日と20日の2日間、「東京ビッグサイト」で開催されてのぞいて来たけれど、会場をうろうろしながらまだまだ無名のアーティストたちの作品を眺める楽しみのには、どうしても“先物買い”的な気分がついて回る。

三重県の四日市市から来ていた、日本の着物をアロハに仕立ててた作品を並べていた「無月」というブースを見ていると、これがなかなかなの人気ぶりで、2万2000円とかいった結構な値段のリフォームアロハがガンガンと売れていく。そもそもがアロハの源流は日本の着物の仕立て直しだったから、その意味ではまさしく正統のアロハシャツということになる訳で、アイディアの良さに仕立ての良さも加わって、欲しいという気持ちがムクムクとわき起こる。将来どうなるのか分からない新人だけど、ここで買ってあげることが新しい作品作りにつながって、それがさらなる評価へと発展していくのでは、という思いに財布に手がのびる。さすがに値段も値段で、持ち合わせがなくその場ではあきらめたけれど、これで話題になったらあるいは値段がどんどん上がって買えなくなってしまうのでは、という心配もあって帰宅してからも迷いに頭を悩ませる。

ザク
どうみたってあれ、ですね。角はないからスピードは3倍じゃないけれど

アート系だと『プレージャーシーカーズ』というところが出していた「GENOME ROID」という作品に目が止まる。鉄の棒とかチェーンとかを溶接して作ったロボットだけど、形がどう見ても「G」ではじまるトミノ印のロボットで、モノアイな奴とかAが逆さになっている奴もあって、上は30代後半から下は10代前半の男の子たちだったら、見た瞬間にその懐かしさ美しさ格好良さに神経をくすぐられたことだろう。ほかにも「スターウォーズ エピソード1」に出ていたドロイドとか、「エイリアン」のギーガーとかもあったけど、洋画の特撮なアイティムよ りもまずそっちに目が行ってしまうあたりが、今時の日本人のテレビを通して植え付けられたデザインセンスというものか。そういえば『現代美術ガンダム』(ミナミトシミツ+勢村譲太、リトル・モア、1800円)なんてのもあった。

>>次頁

page 1/3


==========
ホームに戻る
インデックスに戻る
*
前ページへ
次ページへ