No.882808

「真・恋姫無双  君の隣に」 第58話

小次郎さん

賑やかな寿春を訪れる桃香たち。
驚く事が次々に。

2016-12-10 01:14:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:8721   閲覧ユーザー数:6409

「わあ、すっごい賑わいだよ。どれだけの人が集まってるんだろ。それに見て、あんなの見た事無いよ、愛紗ちゃん、行ってみよ♪」

「桃香様、お気持ちは分かりますが、先ずは北郷様への御挨拶に向かいましょう」

御遣い様に建国祭の御招待を受けました私達は、代わりに派遣してくださいました方達に并州の留守をお任せして寿春に到着しました。

桃香様の仰る通り、本当に凄い人です。

「ほら見て、知らない衣装を着てる人達も一杯いるよ」

あれは羗族の方でしょうか、以前に聞いたことのある特徴と一致してます。

それに、一際人が集まってます屋台で客寄せしてますのは確か南蛮の、

「さあさあ食べてみるにゃ。南蛮の果物を使った兄から教わったなまはむめろんにゃ。美味し過ぎてほっぺたがおちるじょ!」

「「「おちるにゃー」」」

「ええ?お肉と果物を一緒に食べるの?」

「か、かわいい」

桃香様と愛紗さんがそれぞれ別の意味で驚かれて目を輝かされてます。

華は関所での通行税がありませんし、敵対している国にも門戸を閉じていませんから、大陸外からも人が集まってるようです。

雛里ちゃんも色々と思うところがあるみたいです。

「本当に凄いね、朱里ちゃん。こんなに人が一杯なのに秩序が保たれてるのは、警備や運営している人達の有能さを示してるよ」

「うん。組織の末端まできちんと連絡系統が徹底してて、やるべき事を各人が理解してるからだと思う」

これも華国が良い政をしてるからこそです。

悪い政が行なわれていれば、人も悪い方向に流れてしまいますから。

「あれ?鈴々ちゃんはどこですか?」

「美味しい匂いがするって、あっちに走っていっちゃったよ」

はわわ!こんな人混みで逸れちゃったら合流出来なくなっちゃう、御遣い様に御挨拶に行かなくちゃいけないのに。

私達は桃香様を、特に南蛮の娘に夢中な愛紗さんを必死に引っ張って鈴々ちゃんを探しに行きます。

幸い鈴々ちゃんの居場所は直ぐに分かりましたけど、

「お兄ちゃん、次なのだ!隣の春巻きの奴よりもおっきいのを頼むのだ!」

「なにおー!兄ちゃん、僕にはもっと大きいやつ!」

「二人共、沢山食べるのはいいけどちゃんと噛んで食べなきゃ駄目だよ」

看板に『おこのみやき』と書かれた少し大きめの屋台で、鈴々ちゃんが食事をしています。

「アニキ、あたいは次は麺を足した奴を頼むぜ!」

「もぐもぐ、一刀、次」

「くっ、もう材料が。でもここで退くわけには、こんなところで退く為に頑張ってきたんじゃないんだ」

「兄様、言葉の使いどころが間違ってます」

・・・。

暫く頭が働かなかったのですが、私の目が曇ってなければ、

「ねえ、雛里ちゃん、調理してるのって御遣い様に見えるんだけど」

雛里ちゃんは言葉が出ないみたいで頷くばかりです。

「あと華国の呂布将軍はいいとして、並んで食べてる人が魏国の許褚将軍と仲国の文醜将軍に見えるんだけど」

雛里ちゃんの首は同じ行動を繰り返してます。

そっかあ、雛里ちゃんにもそう見えるんだ。

「季衣、それくらいにしておけ。先ずは挨拶に赴くぞ」

「その挨拶に向かう相手は既に出会っているがな」

魏国の夏侯淵将軍!それに確か孫家の軍師だった周喩さん!?

「文ちゃん、何やってるの!」

「ハハハ、面白い状況ですねえ」

仲国の顔良将軍に、軍師の干吉さん。

「はわわ。ひ、ひ、雛里ちゃん」

「あわわ。しゅ、しゅ、朱里ちゃん」

な、何なんでしゅか、呉越同舟なんて通り越してるこの状況はーーー!

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第58話

 

 

今頃、秋蘭達は一刀に謁見中かな。

何とか良い方向で交渉出来てればいいけど、結果次第で魏が滅ぶかどうかが決まるといっても過言じゃないしね。

仲の攻勢に今年も何とか耐えれたけど、来年はとてもじゃないけど防ぎきれる目途が立たないわ。

それどころか、今年は動かなかった華まで攻めてきたら滅亡一直線よ。

魏と仲がやりあってる間、華はひたすら内政に邁進してたから戦の準備は万全だろうし。

「詠、えらい沈んだ顔しとんな。一杯やるか?」

軍編成を終えて報告に来た霞が、酒を片手に声を掛けてくる。

「そうね。僕も一杯貰うわ」

本当はまだ仕事が残ってるけど、こんな精神状態じゃ捗らないだろうし。

霞が出してくれた肴と一緒にお酒を嗜む。

「美味しいわ。これって『天の酒』?」

華国の特産品。

「そうや、前よりも更に美味あなっとるやろ。新しいのが入荷したって聞いて急いで買うてきたんや」

・・ふぅ、そうなのよね。

今年仲の侵攻に耐えれたのって、華から物資が購入出来てた事が大きいのよね。

食料の確保が万全だったから、防戦一方でも兵の士気を保てたし領民の不満も抑えられたのよ、華に経済封鎖されてたらどうなってた事か。

「元気出しや、月が来たときの元気はどこいってん」

「分かってるわよ。あの時の言葉は嘘じゃないわ」

昨年の華侵攻戦が終わった後、月が恋を伴って捕虜交換の為に陳留を訪れて来た時に交わした言葉は。

 

「ありがとな、月。迷惑かけちまった」

「翠さん、お元気そうで良かったです。一刀様も大変心配されてましたから」

負傷して捕えられていた魏の兵士達と、華の馬超将軍とその配下達との捕虜交換。

華琳が無条件で承諾して恙なく行なわれたわ。

数は百倍以上違うけど、そこは釣り合いを取ったってところね。

僕と霞は交換の任にあてられて此処にいる。

華琳なりに気を遣ってくれたのかもしれないけど、正直逃げ出したい、覚悟は決めてたけどやっぱり辛いから。

「月、元気でやっとるか?」

「はい。霞さんは大丈夫なのですか?包帯を巻かれてますが」

「ああ、平気平気。骨にヒビいっとるだけやから。恋とやりあってこれ位で済んだんやから、むしろ幸運やったで」

「霞、強くなってた」

霞が以前と同じように二人と話してる。

分かってる、月なら僕達を非難したりなんかしないって、それでも責められた方がまだ良かった。

月の優しさが逆に辛い、僕達の所為で月の立場に影を差したはずだもの。

「詠ちゃん」

呼びかけられた僕は慌てて目を逸らす、どんな顔をしたら、何を言えばいいのか全く分からないから。

そんな僕に月は尋ねてきた。

「詠ちゃん、後悔してるの?」

「違う、後悔なんてしてない。同じ事が起こっても僕は同じ選択をする」

偽らざる僕の本心、例え、例えあの戦場に月がいたとしても僕は。

「うん、そんな詠ちゃんが大好きだよ」

笑顔で応えてくれる月に涙がこぼれそうになって、また目を逸らす僕。

そんな僕をからかう霞に腹を立てつつ、別で気になってた事を月に聞いてみる。

「ねえ、月。兵達を送り返してくれた事には本当に感謝するけど、華の民は納得してるの?」

騙まし討ちに一刀の負傷、魏に対して怒り心頭だと思うけど。

「うん。私はその場に居なかったけど、民や兵の怒りは動けない魏兵に向かうところだったみたい。でも気を失う前に一刀様が言ったらしいの、「戦は終わった、もう誰も傷付かないでくれ」って」

月は言葉の意味を話してくれた。

それは本当に一刀らしい言葉で、敵味方じゃなくて全ての人達への想い。

身体だけの事じゃなくて、戦によって生まれた怒りや悲しみで傷付いている心に対しての言葉。

抵抗出来ない人に対して感情剝き出しに行なう蛮行が何を生むのか。

怒りや悲しみは人を傷つけて癒される事じゃないから、むしろ時が経てば自分を苛める、人はそこまで無神経になれないもの。

「それで目を覚まされて言われたのが「予定してた建国祭やろう」って、だから今頃寿春は大騒ぎだよ、きっと」

楽しそうに話す月に、僕は開いた口が塞がらなかった。

 

それが昨年の戦の結末、以降は国交が無かったけど二ヶ月前に魏の建国日に華から贈り物が届いた。

特に何かを言ってくるでもないから対処に頭を悩ませたけど、国交を再開する契機として動く事が決まった。

それで華の建国祭に祝いの品を届ける為に、秋蘭、季衣、冥琳達が向かった訳だけど、

「結局は一刀次第よね」

「なるようにしかならんわな」

 

 

一刀さんへの挨拶を終えた冥琳様は二日間の滞在を予定されてるとの事で、良い機会ですので色々お聞きする事にしました。

「お久しぶりで御座います、蓮華様。」

「ええ、久しぶりね、冥琳。色々と聞きたい事があるからお茶に付き合ってくれる?」

「はい、私でよろしければ」

今年の魏は春から仲に侵攻を受けて大変だったようですが、冥琳様ですから弱音をおくびにも出さないでしょうね。

ですがそうはいきませんから、色々と聞かせていただきますよ~。

「そう、姉様は相変わらずのようね。冥琳、重ねて御礼を言うわ」

「お気になさらずに、好きで行なっている事ですので。蓮華様こそ江南域の行政を一手に担っているとお聞きしてます、その苦労は以前の比較にならない事でしょう」

そうなんですよね~。

私達孫家の家臣だった者達は、降服後に役目の地位が跳ね上がりましたので。

荊州南郡だけでなく広大な領土を持つ華国の官僚となった為、才を振るう場が増大して時間と人は幾らあっても足りないほどです。

此れまで地に埋もれていた人材も台頭してきてます。

「そうね、確かに大変だけど苦労とは思ってないわ。むしろやりたい事が次々と溢れて困るくらいよ」

本当ですね、私も一緒ですよ~。

それでは互いの近況報告も終わりましたし、色々と探らせていただきますう。

「冥琳様、此度の訪問は降服ですか、それとも宣戦ですか~?」

冥琳様と蓮華様のお顔に緊張が走ります。

「穏、人が悪いな、お前なら察しは付いているだろう」

「いえいえ~、華国の軍師としましては幾らでも情報は欲しいですから」

既に魏国は華国の敵ではありません、私達華国の軍師は二度と油断はしませんから。

ですがそれだけでは足りません。

完膚なきまでに勝つ為に全力を尽くし抜く事を、ねねちゃん達と誓い合いましたので。

「冥琳、私も曹操や雪蓮姉さんを許せない気持ちがあるわ。一刀の考えは分かるけど、心が納得できていないのも本心よ」

 

 

あ~、美味かった。

おこのみやきも美味かったけど、あてがわれた部屋で出されたぱんけいきとちいずけいきも絶品だったぜ、いいじゃんか、華国。

珍しい食いもんも多いし、面白そうな催しもやってたし、帰るまで退屈しないで済みそうだぜ。

「斗詩、土産買いに行こうぜ。干吉、金貸してくんね?」

「文ちゃん、何言ってるのよ。私達、使者として来てるんだよ」

「ハハハ、お金を貸すのは構いませんが利子は頂きますよ。帰りましたら五割増でいかがですか」

「よっしゃ、それで」

「それでじゃないよ、干吉さんも悪乗りしないで下さい!」

ちぇ~、斗詩の前じゃ駄目だな、後でこっそり借りっか。

それにしても本当に賑わってんな、室内にまで歓声や音楽が聞こえてくるぜ。

「なあ、斗詩。来年魏を滅ぼしたら次はこの国なんだよな」

「えっ、それはそうなるかな」

「そうなりますね。出来れば今年中に魏は滅ぼしたかったのですが、流石にそうは上手くいきませんでした」

だよな、敵ながらよく防いでるなと感心したし。

「どうしたの、文ちゃん?」

「いや、滅ぼすより姫とアニキがくっついちまえば、戦わなくてもいいんじゃねえかなって思ったんだよ」

斗詩に手え出すかもって警戒してたけど、おこのみやき食ってる時に自然にアニキって呼んでたしな、うん、ありゃいい奴だ。

この国も正直言って仲より居心地がいいし、勿体無く思っちまったんだよ。

 

うん、文ちゃんの言いたい事が分かるよ。

勝ちきれなかったけど、後一月あれば戦場になってた官渡は制圧できてたと思う。

華国が動かなかった理由は分からないけど、もう魏国に対しての勝ちは揺るがないし、内応の密約をとってる豪族も増え続けてる。

魏国を陥とした後に劉備さんの并州に攻め込んで、後顧の憂いを完全に除去してから華国との決戦、これが戦略の基本方針として決まってるから。

口には出せないけど、この国はとても素敵だと感じてる。

仲国も勝ち続けてるから街も賑わってはいるけど、一歩下がって見渡したら名家や豪族の好き勝手も激しいし、貧富の差や治安に不安な点も多いから。

大国と大国の戦争が始まったら、双方ただでは済まされないのが誰にでも分かる。

・・それでも講和するのは水と油でとても無理。

姫様と一刀さんだけなら仲良く出来ると思うけど、周りは絶対に認めないよ。

「人の業とは深いものですね。私も人の事は言えませんが」

干吉さんの言葉が胸に刺さる。

どうしてなんだろう。

どうして人は平和を望むのに、戦いも望むんだろう。

 

 

夕食を兼ねて、ようやく劉備達と落ち着いて話せる時間がとれた。

「よく来てくれたね。きつい役目を任せっ放しで本当にすまない」

仲国との最前線である并州を寡兵で維持してくれてる、本当に頭が下がる思いだ。

本格攻勢はされてなくても心身の疲労は相当な筈だ、せめて祭りの間はゆっくり休んで欲しい。

「とんでもないです、御遣い様こそ本当に大変だったと聞いてます。お体は大丈夫なんですか?」

「ありがとう、大丈夫だよ」

食事を楽しんだ後、俺は今後の華の進み方を説明する。

彼女達の力が本当に必要だ。

そして真名を受け取り、

「桃香、愛紗、鈴々、朱里、雛里」

新たな仲間に、

「今この時より、君達を正式に華に迎え入れる。君達の夢を俺に託してくれっ!」

「「「「「はい」」」」」

 

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あとがき

小次郎です、今回も読んで頂けてありがとうございます。

今年ももうすぐ終わりですが、何とかもう一話書けたらなと思っています。

今回の話では美以が生ハムメロンを売っており突っ込みどころ満載ですが、恋姫時空という事で何卒ご容赦を、深い意味は全くありませんので。

では次回もよろしくお願いします。


 
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