No.878210

紫閃の軌跡

kelvinさん

第90話 ふとした違和感

2016-11-08 04:29:34 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2322   閲覧ユーザー数:2087

~近郊都市トリスタ トールズ士官学院~

 

Ⅶ組にとって短い夏休みも終わり、平民クラスの面々と同じように普段の日常へと戻っていく……とはなかなかそうもいかない。その最たるものはアーシアの存在であった。

 

『マキアスさん、ごめんなさい!! 私や兄が止めれなかったせいで……!!』

『……いや、君のせいではないと思う。だから、僕も君に恨みつらみをぶつけるようなことはしない。何より、これから同じクラスメイトとして切磋琢磨するのだから、余計に拗れるようなことはしたくないんだ』

『マキアスらしからぬ台詞だね』

『フッ、それには同感だと言っておこう』

『君らなぁ、こちらが真剣にやっているのに余計な茶々を入れないでくれないか!?』

『アハハ……』

 

マキアスの従姉の一件。その事情をアーシアが謝罪したことにはマキアスも驚いたが、直接関係がない彼女を責めたところで意味がない……まぁ、その当該の人物が生きているということは既に知っているからか、マキアスの反応はかなり冷静沈着そのものであった。

 

さて、アーシアレイン・ド・カイエン。クロワーヌ・ド・カイエン公爵の正室の子にして長女。何かと目立っている公爵の御息女であるにもかかわらず、社交界においてその知名度はかなり低いという状態。何せすでに社交界にデビューしているリィンはおろか、元々<五大名門>ひいては<四大名門>の時からもユーシスですら知らなかったほどだ。この疑問に対しては本人がこう答えた。

 

「こう見えて結構人見知りが激しくて……それを直すために、と母がジェニス王立学園への留学を薦めてくれたのです」

 

アーシアの母親、公爵夫人はジェニス王立学園への進学経歴もあるということから、アーシアは薦められるがまま進学した。ただ、ここ最近の事情も垣間見……已む無くトールズ士官学院への転学と相成った。その際に働きかけた人物というのは

 

「トールズは兄が卒業生ということもあり、転学の際には随分と迷惑をかけてしまいました」

「兄……もしや、エルザムレイン・ド・カイエンのことか?」

「え、兄をご存じなのですか!?」

「偶然にもバリアハートでな。尤も、そのことを知らされたのは去る直前だったが」

 

ユーシスによれば、カイエン公爵の嫡男にして公爵家きっての天才とも謳われるほどの逸材にして聡明な頭脳を持ち合わせた人物。だが、聡明過ぎたが故に実の父親からは煙たがられており、次期当主は次男に譲るという噂で持ちきりであった。それ故なのか彼は帝国内外を自由気ままに旅をしており、身に付けた帝国剣術のみで路銀を稼ぎながら旅をしている、とのことらしい。流石のユーシスでもそれ以上は解らないと言ったが……ここで何かを思い出したようにアーシアに問いかけたのは、アスベルであった。

 

「なぁ、アーシア。そのお兄さん、特徴的な剣を使ってないか?」

「え? あ、はい。ラインフォルト社の特注で作られた導力衝撃剣(オーバル・ブレイバー)とかいう代物を持ってはいますけど……」

「―――多分、ソイツ遊撃士だわ。帝国内で精力的に活動しているA級正遊撃士が一人いてな。その特徴的な武器と剣捌きから“氷狼(オーバーロード)”って呼ばれてる」

 

現状帝国内での活動がほぼ絶望的な状況下において、精力的に活動しているA級正遊撃士が一人いるということは独自のネットワークから情報を得ていたが……先程の会話の内容からすると、ほぼ間違いはない。それを聞いたアーシアは

 

「そういえば、兄は以前から『貴族と言うしがらみだけでは、真に困ってる人は救えない』と常々口にしていましたが……あと、遊撃士の勉強もしていたような節があったのは何度か見たことがあります」

「……変わった貴族もいるものだな」

「まぁ、兄が特殊すぎるというのもありますが……」

 

どうやら疑いようのない事実にアスベルはため息を吐きたくなった。カイエン公爵家も一枚岩ではないというのは有り難いが、下手をすれば敵に回しかねない現実というものはいかんしがたい。アスベル自身、彼と何度も遊撃士絡みで顔を合わせたことがあり、その実力も知っている。その時の彼は平然と偽名を使っていたのは言うまでもないが。それはさておいて……アーシアが会話をするにあたり、特に人見知りが激しいという風には見受けられないが、それに関しては

 

「それについては、エリゼさんに色々とお叱りを受けてしまいまして……それだけでなく、彼女からは色々と多くの事を学ばせていただきました」

「そうか……きっと、エリゼも君の様な友人に巡り合えたことは嬉しいと思ってるはずだよ」

 

「くしゅん!」

「エリゼさん、風邪ですか?」

「いえ、体調はこれ以上ないくらいに元気です……誰かが私の噂でもしてるのでしょうか」

「もしくはリィン絡みかもな…むしろ女運絡み?」

「お兄様は優しすぎますから……気が付かないうちに、側室が両手で数えるぐらいになっていそうで……はぁ」

「あははは……」

「ヨシュアも大概だとは思ってたが、それ以上だったかあの野郎は」

 

まぁ、女運と言うか天然の女たらしはさておいて、アーシアの事に関してはとりわけ問題はなさそうということになった。なお、彼女の得意としている武器というのは

 

「え、これって……」

「そういえば、あのテロリストの一人も使ってたね」

法剣(テンプルソード)という代物です。この剣自体は母から譲り受けたものですが、剣捌きはまだまだです」

「へぇ……(なぁ、アスベル……)」

「(可能性は無きにしも非ず、だな)」

 

その道に詳しい人間でないと見かけることのない代物―――法剣がアーシアの武器だ。本人は母親―――公爵夫人より譲ってもらったと言っていたが、保存状態から見るにきちんと手入れされていることが見て取れた。ともなるとその人物に心当たりが無いかどうか上司に聞いたほう早いと思いつつも、その話題は一旦区切りとなり次に出た話題はこの時期ならではのことから、今月末の通商会議…そして“鉄血宰相”ギリアス・オズボーンへと話が変わる。

 

「そういえば、アスベルとルドガーは何故あの場にいなかったんだ?」

「まー、有体に言うと面倒だったからという結論になるんだが」

「いや、面倒で皇族の方々との面会すら拒否したのか!?」

「誤解の無いよう言っておくけど、俺らはお前らがバルフレイム宮に入る前に挨拶は一応済ませてるからな?」

 

流石に皇族の面子を建てない選択肢は外国人という身分であるアスベルやルドガーにしてみれば失礼だということは解りきっている。そして、Ⅶ組とアルノール家の面々、レーグニッツ知事やオズボーン宰相との対面の事をリィン等が話している中、少し気になることがあってアスベルはルドガーに小声で話す。

 

(ルドガー、放課後は空いてるか?)

(ああ。今日に関しては流石に暇を持て余してるんだが…調理部で試作の料理でも作るのか?)

(それもあるといえばあるんだけど……セリカとリーゼロッテも呼んでほしい)

(……あー、成程な。解った)

 

その四人の共通点からルドガーは僅かに首を縦に振った。

 

さて、帝国政府代表を務めるギリアス・オズボーン宰相。就任の際に伯爵の貴族位を賜っているが、本人自身は平民であり軍部出身者。十一年前に頭角を現し、皇帝陛下の信任を得て“革新派”と呼ばれる中央集権体制派の筆頭。正規軍の七割を掌握しているれっきとした実力者。

 

この十一年で『平和的』に周辺の自治州や小国を合併してきた実績を持つ。ただ、その合併の裏ではかなり非道徳的ともいえる策を用いたとも言われており、クロスベル問題を拗れさせる原因となる『列車砲』を発注したのもこの人物である事実。彼の事を快く思わない人―――とりわけ古くからの貴族体制を維持している<五大名門>のうち四家は彼の政治姿勢に真っ向から反発している。まぁ、彼のやり方を見れば『怪物』と言われても仕方がないとは思うが……

 

で、そのオズボーン宰相が『更なる協力』と言い放ったこと。まぁ、その予想は大体つくのだが……ふと、いつもならばホームルームの時間なのだがサラ教官が来ていないことに気付く。彼女がいなくとも副教官のラグナ教官あたりなら来るかと思えばそうでもない……と思っていたところに、サラ教官とラグナ教官が教室に入ってきたのでリィンらは各自の席に着席した。

 

「で、今日遅れてきたのには訳があってね。こないだアーシアが編入したばかりだけど、さらに増えることになったの」

「て、転校生ですか?」

 

「クロウ・アームブラストです。ま、これから同じクラスだから先輩後輩抜きでいこうや」

 

「ミリアム・オライオンだよ。みんなよろしくねー!」

 

Ⅶ組に編入されたのは、二年生のクロウ・アームブラスト。そして、帝国情報局というかオズボーン宰相の差し金であるミリアム・オライオンの二人。ミリアムのほうは特に理由を明かしはしなかったが……おおよその理由は付く。そして、クロウの編入の理由は単位不足……正直身から出た錆という他なく、一部の面々からは呆れられていた。インパクトという意味ではミリアムの連れている<アガートラム>も似たようなものだが。

 

そして、放課後。リィンらには断りを入れた後で、アスベルとルドガー、セリカとリーゼロッテは本校舎の屋上に来ていた。ここならば誰かが来てもすぐに勘付けるというのもある。一応、ここに来る前にアスベルが試作した料理というかお菓子―――パンプキン風パイを食べながら、ルドガーが話を切り出した。

 

「相変わらずというか、流石コンクールで一位取っただけのことはあるわな……で、俺ら“転生者”だけにした理由は?」

「それなんだがな……あまり気にしていなかったというか、普通に流していたことなんだが……ルドガーにセリカ、アイツらがオズボーン宰相と出会った時の台詞を覚えてるか?」

「台詞、ですか?」

「えーと……結構ありますよね?」

「確かにな。で、俺が改めて引っかかったのはこの台詞」

 

そう言って、アスベルは懐からペンと遊撃士手帳を取出し、そのメモ欄に速筆でその台詞を書いて、三人に見せた。これこそが、この先の状況をオズボーン宰相が予見しているのと同時に、アスベルの中にある疑問の一つを解く鍵だと気付いたからだ。

 

『フフ……ヴァンダイク元帥は私の元上官でもある。その意味で、私もささやかながら更なる協力をさせてもらうつもりだ』

 

「この台詞……まぁ、正規軍からナイトハルト教官が出向していると考えれば解らなくもないですし、ラグナ教官や私の存在からしてもそれを含みにした可能性もありますよね?」

「……おい、アスベル。俺もこの台詞は適当に聞き流してたが、改めて見直すとこれって『そういうこと』なのか?」

「ルドガー? 何か気付いたんですか?」

「流石にルドガーは気付いたか。普通に聞き流しててもおかしくはないんだが……どう考えても『辻褄が合わない』んだよ」

 

アスベルも今朝というか、リィンらがバルフレイム宮での出来事を話さなければ普通にスルーしていた。改変された現状からすればごく自然とも言えるような台詞なのだが、これが“原作”の時点で発した台詞というのが一番大きい。

 

革新派の彼に近いⅦ組の人物ともなればマキアスがそれに該当しうるが、それならば『更なる』という言葉を使う必要はないと思われる。彼の台詞をそのまま聞き取るならば、『自身にかなり近い人物』あるいは『自身が懇意にしている人物』を更に送り込むということであり、クロウ、ミリアム、そしてアーシアが編入する以前の時点でそれに該当しうる人物がいることになる。

 

「で、ここにいる四人は除く形になるが……Ⅶ組の十人の中にオズボーン宰相にかなり近しい人物が在籍している。そして、その当該人物はオズボーン宰相との関係を知らない人間ということになる」

「ええっ!?」

「……となるとだ、今後の事も鑑みると一番可能性があるのは『アイツ』ってことだな」

「成程……このことは、流石に現時点で私達にしか言えないことですね」

「察しが良くて助かる」

 

このことをオズボーン宰相が言ったということは非常に大きい。それと、今まで調べてきた膨大なデータの裏付けのキーにもなりうること。ともすれば、この先起こるであろう出来事はほぼ確定したようなものだ。その意味でも、アスベルはルドガーに言い放った。

 

「多分というか、間違いなく今後の動きで『結社』が絡んでくる。できればお前とは敵対したくないんだけどな……面倒事は嫌いだし」

「そりゃこっちの台詞だっつーの。お前と敵対した日にはあの二人の視線が怖いわ」

「それにプラスしてセリカさんとアリサさんも付いてきますからね」

「あははは……」

「というか、俺自身の事で下手すりゃ世界の危機だってのに、余計にいざこざ抱えたくないんで……不戦条約で手を打たないか? その代り、いざとなったら止めるの手伝ってくれ」

「食事当番一週間分」

「感謝する」

「「安くないですか!?」」

 

ルドガーの作る料理はプロ級ということを考えれば、一週間で大体数十万ミラ位の価値にはなるだろう。それに、この間駄賃替わりと言っていた刀が実は“外の理”の代物だったので、その不足分を鑑みた結果でもある……ミラで買えるものじゃないだろうというのはナシの方向で。

 

そもそも、だ。ルドガーの女性絡みで下手すれば世界の危機だというのに、それ以上の気苦労を背負わすといつの間にか既成事実作られている可能性すらあるだけに、これぐらいが一番妥当だとアスベルは思った。代わってやろうという気は毛頭ないのだが。

アーシアの武器はいろいろ考えた結果、Ⅶ組関連で使ってない武器ということで選定しました。色々設定生やしたけど、アーシアの母親の設定はほぼまっさらという(ォィ

 

そして、今回原作の流れを見直した際に「あれ?」と首を傾げた出来事を話に組み込みました。

 

あ、自由行動日のネタどうしよう……温泉噴き出したネタでもやるかな(ぇ

 

何とか消化して実技テスト・特別実習にはしていきます。本番は通商会議のちゃぶ台返しですがw

 

で、そろそろ碧の方の展開も外伝で組み込んでいく予定ですが、時系列調整本気で難しいんですよね(汗)


 
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