No.863201

紙の月 8話

ちょっと短いけど更新

内容的には重要な部類に入るにゃー

2016-08-12 19:31:43 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:416   閲覧ユーザー数:416

「あ、君はブルメ……また会ったね、はは……」

 ほら貝塔から外に出てから、デーキスは一人座り込んでいるブルメを見つけた。こうして直接会うのはブルメが双子に襲われているのを助けた時以来だ。

 ブルメはデーキスを一瞥すると、何事もなかったかのように再び顔を背けてぼんやりと太陽都市がある方を眺めだした

「えっと、さっき皆で集まった時は見えなかったけど、怪我は大丈夫? こっちはどういうわけか右手ばかり怪我をしてね。おかげでまだ、動かすと少し痛みを感じちゃうんだ」

 話を聞いているのかいないのか、ブルメは全く反応をしなかった。デーキスは諦めて自分の住む廃墟に戻ろうかと思いかけると、ブルメはポツリと呟いた。

「傷はもうなんともない。まだ少し跡が残ってるだけ……」

 ブルメが返答した事に思わずデーキスはどう反応したらいいのか分からず、言葉に詰まってしまった。その間に、ブルメがさらに言葉を続けだした。

「あの双子、今はほら貝塔の地下にいるみたいだけど、フライシュハッカーは甘いのよ。あの糞ったれの双子なんか、殺してしまえば良いいのに……」

「殺すなんて……そんな事言っちゃあ駄目だと思うけど……」

「あたしは危うく殺されかけた! あんな奴らなんか死んでしまったほうがいいんだから!」

 ブルメがデーキスを睨みつけて大声で叫ぶ。実際の所、ブルメは彼らにからかわれただけであったが、双子は加減を知らなかったのか、平然とブルメを傷つけた。その時は危うく大怪我を追う所を、デーキスによって助けられた。

その時のことを殺されかけたと言っているが、助けに入ったデーキスの方が怪我をしたくらいで、本人はいくつか擦り傷を作っただけだ。

「でも、フライシュハッカーに皆の前でボロボロされたし、彼らも懲りたんじゃないかな。それに……」

「あんなのじゃあ物足りないの! フライシュハッカーにも言ったのに聞きもしなかった。あたしがいなければ水を綺麗にする機械は動かせないのに! あたしが殺せって言ったら殺すべきなの!」

「ボクはその子の意見に賛成だな」

 突然会話に割り込んだ声を聞いて、デーキスはゾッと背筋が寒くなるのを感じた。急いで声のした方へ身構える。声の主は、前に自分を興味本位で殺そうとした、あのスタークウェザーだった。

「双子って外見は瓜二つだけど、中身も全く同じなのかな? 気になるから、死体はちゃんと残して欲しいな」

「スタークウェザー、何で君がこんなところにいるんだ!」

「ただの散歩だよ。ついでに、暇つぶしになりそうな玩具を探してね」

 右手を揺らしながら、スタークウェザーはデーキスに親しげに話す。はっと気づいたデーキスはブルメの腕を掴むと、近くの物陰に隠れた。

 スタークウェザーが使う超能力は、指先から爆破エネルギーを射出することが出来る能力だ。ハルに聞いてみたが、恐らくクオリアと呼ばれる超能力の元になる原子を、物体にぶつけ、その時発生するエネルギーが爆破エネルギーになっていると考えられている。

 明確に他者を傷つける超能力であるが、その超能力以上に彼自身が他者を傷つけることに、何ら躊躇いがない事が恐れられている一番の理由だ。ふとした思いつきで、いきなり初対面の人間を殺そうとする。彼自身が意志を持った爆弾である。

 あの双子なんかよりも、よっぽど危険で邪悪な存在だ。

「やだなぁ、そんな怖がらなくていいだろ? フライシュハッカーに言われてるんだよ。君は『大事な存在』だから、何かあったら関係あろうがなかろうが、ボクが罰を受ける事になるってね。理不尽だよね」

 大事な存在というのは、太陽都市から食料を奪ってくるためであろう。太陽都市から逃げる際デーキスは太陽都市内に流通する日用品や食料品の生産を行っている、生産工場エリアを通ってきた。だから、太陽都市の内部を知っているデーキスに何もないよう、彼に釘を差したのだろう。あくまでスタークウェザーが言ってるだけなので信用は出来ないが……。

「早くどこか行って! あんたみたいな人殺しを楽しんでるような奴とは、関わりたくもない!」

 流石にブルメでも、スタークウェザーの事は嫌悪しているようだ。

「酷いなぁ、ええと……名前なんだっけ? とにかく、それは大きな誤解だ。ボクは別に人を殺すのが好きなわけじゃないよ。ええと……」

 まるで思い出すように、スタークウェザーは言った。

「人と話してる時にさ、目の前の相手の顔をおもいっきり殴りつけたら、どんな反応するかとか考えるでしょ? そういう好奇心だよ。うん、好奇心……」

「そんな理由で殺されてなんて、堪ったものじゃないよ!」

 実際に殺されかけたデーキスが叫んだ。

スタークウェザーという少年は、根本的に『普通の人間』とは異なる思考の持ち主なのであろう。所謂サイコパスやソシオパスといった、生まれつき良心や理性の欠落している人間なのだろう。

「何でフライシュハッカーはこんなやつを仲間なんかに……」

「セーヴァだから、つまり同じ仲間じゃないか」

「あんたみたいなイカれた奴と、誰が同じ仲間だって? ふざけたこと言わないで!」

 スタークウェザーは何故怒鳴られたのかわからないといった様に、きょとんとした。

「ええ……でも、でも超能力使えない大人たちはボクたちの事は同じに見てるよ? セーヴァはみんな生まれつき『魂が汚れてる』、悪い子だって。君たちがいくら言ってもボクと同じさ。だから仲良くした方がいいと思うよ」

 スタークウェザーの言葉にデーキスはグサリと、胸に突き刺さるような痛みを感じた。

「ぼ…僕らは汚れてなんかいない! 僕らは……その、普通だ……!」

「普通? 電撃出したり、触りもしないで機械を動かすことが? 君たちがそう言っても、その『普通の人たち』はそう見ないよ。みんな生まれつきの悪い子さ。魂が汚れてるってね……」

 スタークウェザーはデーキスたちに背を向けた。

「最も、ボクは魂なんてものを見たことないから、汚れてるかなんて知らないけどね! お呼びでないみたいだし、ボクは一人寂しく、玩具でも探しに行くよ」

 そう言うと、スタークウェザーは鼻歌を歌いながら、ふらふらと消えていった。その場にはデーキスとブルメだけの二人だけとなり、嵐が過ぎ去ったあとの様に静かになった。

「……ふん、あのイカレ野郎め、あんな奴と同じだなんて冗談じゃない……」

「うん、そうだね……他の人はセーヴァだって言うけど、セーヴァだって普通の人と変わらないよね……」

「普通? 冗談じゃない。スタークウェザーの言う事もイカれてるけど、あんたの言う事も同じよ」

 ブルメはギロリとデーキスを睨みつけた。

「私が超能力を使えるのは、私が『特別』だからよ。普通? 他の人と変わらない? 冗談じゃないわ。じゃあ、教えてよ。その変わらない理由を」

「ええと、それは……」

「ふん、あんな臭くて汚い連中と一緒だなんて、それこそスタークウェザーと同じだって言われるくらい気持ち悪いわ。一緒にしないで」

 冷たく言い放つと、ブルメはほら貝塔へ向かって早足に行ってしまった。

 デーキスはその後姿を呆然と見送っていたが、一人になると、先ほどの二人の言葉が頭の中で繰り返し響いた。

「セーヴァは魂が汚れている。君たちもボクと同じ」

「普通? 他の人と変わらない? 冗談じゃないわ。じゃあ、教えてよ。その変わらない理由を」

 セーヴァが普通の人と変わらない理由……それを教えれば、あの子も分かってくれるだろうか。デーキスは太陽都市の方へ顔を向ける。外界との境界となっている高い壁の向こうには、太陽都市で使われる様々な物が作られている。服や車、様々な日用品に食べ物。太陽都市の一番外側である工場エリアから居住エリアのある中心へと収縮するように、太陽都市の物流は流れている。

 つまり、外界に隣接している工場エリアになら、入る手段はいくらでもあるはずだ。だからこそ、フライシュハッカーも自分にその話を持ちかけたのだ。

 先ずはウォルターと話をしよう。きっと、彼も一緒に来てくれるはずだ。何とかして、あの子にセーヴァと普通の人が変わらないってことを証明しなくちゃ。

 デーキスはやるべき事を頭の中で整理すると、ウォルターを探しにその場を後にした。

 


 
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