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九番目の熾天使・外伝 ~ポケモン短編~

竜神丸さん

七夜の願い星 その3

2016-07-10 21:54:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1601   閲覧ユーザー数:761

「ふわぁ、きれい…!」

 

咲良は見惚れていた。いや、咲良だけでなく、他のメンバー逹も思わず見惚れてしまっていた。光り輝く結晶体の中から姿を現したポケモン―――ジラーチの齎す輝きに。そんな中、ジラーチはフワフワと宙に浮かび、激しく燃え盛っている森を見据える。

 

『君の願い事……確かに聞いたよ…!』

 

ジラーチはその振袖のような小さな両手を高く掲げる。その瞬間、ジラーチの頭部にある三枚の緑色の短冊が大きく光り始める。すると…

 

「何だ…!?」

 

「空が、急に曇って…」

 

雲一つ存在しないほど快晴だった空に、突然黒い雲が出現。その雲は育て屋アカツキ、燃えている森全体まで大きく広がっていき…

 

-ザァァァァァァァァァァァァァァ…!!-

 

「これは…!」

 

「雨だ…!」

 

そこから一気に、土砂降りの雨が降り注ぎ始めた。大量の雨粒が燃えている森へと降り注いでいき、それにより森の炎の勢いも少しずつだが勢いが小さくなっていく。

 

「これは、『あまごい』か…!?」

 

「見て!! 森の火が、どんどん消えていくよ!!」

 

「これなら、何とか火を消火出来る…!!」

 

「よし!! 飛行ポケモンは『かぜおこし』で雨風の向きを変更!! エスパーポケモンは『サイコキネシス』でそれを手伝え!!」

 

この勢いなら森を鎮火出来る。そう考えた支配人は育て屋にいたポケモン達の力を総結集させ、消火作業を一気に終わらせにかかる。そして数分後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…消火作業、完了っと」

 

「…あっちゅう間に消えたな」

 

先程まで燃えていた森は、無事に消火作業が完了した。森に住んでいた野生ポケモン達は全て別の場所に避難していた為、誰も死傷者が出る事は無かった。ちなみに消火作業が完了した為か、既に『あまごい』は収まって快晴の天気に戻っている。

 

「うっはぁ、こりゃ凄いな…」

 

「データ上でしか知らなかったけど……これは確かに、凄まじい力だ」

 

「百聞は一見にしかずってところね…」

 

通常の『あまごい』ではここまで激しい雨は降らない。okaka、ダイゴ、シロナの三人がジラーチの願い事の力に圧巻されている中、そのジラーチはと言うと…

 

『ふみゅう…』

 

「うみゅ? どうしたの?」

 

『寝起きで力を使ったから、また眠くなっちゃったよ……むにゃむにゃ…』

 

大きく欠伸をしてからゆっくり降下し、咲良の腕の中に収まってから再び眠りについてしまっていた。

 

「レイさん、あの子が…」

 

「あぁ、あれがジラーチだ。凄かっただろう?」

 

「えぇ、あれなら確かに犯罪者に狙われるのも頷けます……同時に、アイツ等には絶対に渡してはいけない存在だという事も分かりました」

 

「…まぁ、今回は結局逃げられちまったけどな。あんのアマ、うちの育て屋をこんなにしやがって…」

 

「また、修理しなきゃ…」

 

「今度はどれくらいお金が飛ぶんだろうねぇ…」

 

「預かっているポケモン達が無事とはいえ、肝心の施設がこんな状態ではのぉ……しばらく経営はストップする他あるまいて」

 

「嫌になるぜ、畜生」

 

Jのボーマンダの攻撃で、育て屋アカツキは施設が半分ほど崩れてしまっており、支配人は舌打ちしながらも修理業者を呼ぶべくマルチナビで電話を入れ始める。そこにこなたと美空、そしてジラーチを抱きかかえた咲良が駆け寄って来た。

 

「ウル、大丈夫!?」

 

「無事で、良かった…!」

 

「こなたと美空さんも、無事で良かったよ! …咲良、ジラーチは?」

 

「ねむっちゃった。また起きるかな…?」

 

「目覚めたばかりで、きっと疲れたんだと思う。少しの間、寝かせてあげるんだよ」

 

「うん、わかった! じーくん、起きるのまってる!」

 

ジラーチの事を“じーくん”と呼ぶようになった咲良は爽やかな笑顔で答える……が、そんな様子の咲良に聞かれないよう、ディアーリーズはダイゴとシロナに小声で語りかける。

 

(ダイゴさん、シロナさん、お久しぶりです)

 

(うん、ウル君も久しぶり)

 

(元気そうで何よりだわ)

 

(レイさんからジラーチの事は聞きました……ジラーチはどれくらいの期間で、次の眠りに?)

 

(…ジラーチが目覚めていられるのは、1000年の内の7日間だけだよ)

 

(千年彗星が見えなくなると同時に、ジラーチも再び眠りにつくわ。そうなれば、次の1000年が経過するまで目覚める事は無い)

 

(…なるほど。咲良ともちゃんと話した方が良さそうですね)

 

ディアーリーズは大事そうにジラーチを抱きかかえている咲良を見る。

 

「…1000年間、待てるかどうか」

 

その呟いた一言は、誰にも聞かれる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、大人しくお縄について貰おうか」

 

「ぐぅ…!」

 

一方、okakaはJに見捨てられた部下達の身柄をジュンサー逹に引き渡していた。部下達が連行される中、okakaはマルチナビで過去の犯罪データを確認する。

 

(これだけ部下を捕まえても、Jの一団は未だに勢いがなくなる様子が無いか…)

 

「悩んでおられますねぇ」

 

「…いい加減もう慣れちまったよ、お前の神出鬼没っぷりは」

 

「おやま、それはそれは」

 

そんなokakaの背後には、いつの間にか竜神丸が背中合わせの状態で姿を現していた。okakaが呆れて突っ込みも出来ない中、竜神丸は懐から取り出した一本のUSBメモリを後ろに放り投げ、okakaも後ろに振り向かないままそれをキャッチしてみせる。

 

「これは?」

 

「ホウエン地方における街の建物、その監視カメラの映像を一通りハッキングして入手してみました」

 

「おいコラ、リーグ協会と連携してる俺の目の前で言う事かそれ」

 

「今の私はリーグ協会と連携してる身ですよ……それはさておき。ある企業の中に、ポケモンハンターJと接触した事のある人物が一人だけ確認出来ました」

 

「…その企業と人物の名前は?」

 

「企業の名前はシラヌイ・グループ、人物の名前はボルカノ。ある目的の為、ポケモンハンターJにジラーチの捕獲を依頼しているところをカメラの映像でバッチリ確認しました。ちなみにボルカノがいた部屋には……例のシンボルマークがありましたよ」

 

「例のシンボルマークだと?」

 

「あなたならよく知っている筈です。過去に一度、このホウエン地方で活動していた例の組織を」

 

「シラヌイ・グループ……ボルカノ……まぁ、それだけ聞けば答えは分かるさ……マグマ団だろ」

 

「正解です」

 

okakaはUSBメモリをマルチナビに接続し、画面に一つの映像を映し出す。映像に映ったのは、大きな部屋の中でボルカノがJにジラーチの捕獲を依頼している場面だった。その部屋の床には、マグマ団のシンボルマークである『M』の模様が描かれている。

 

≪―――では、ジラーチの捕獲は任せるぞ≫

 

≪依頼は必ず完遂する。その代わり、報酬の件は分かっているな?≫

 

≪もちろん、既にここに用意してあるさ。前払いという奴だよ≫

 

≪…ならば問題ない。我々はすぐにジラーチの捜索に向かう。貴様は大人しく待っていろ≫

 

≪おや残念。私も君がジラーチを捕獲する光景を見てみたいものなんだが≫

 

≪下らんお喋りをしている暇は無い。これで失礼させて貰う≫

 

≪おっと、釣れないねぇ…≫

 

赤いスーツを着たサングラスの男が見せる下卑た笑みに、Jは鼻を鳴らしてから部屋を退室していく。そこで映像は終わりのようだ。

 

「残念ながら、ここから先は向こうも私達のハッキングに勘付いたようで。すぐにカメラの映像をシャットダウンされてしまいました」

 

「そこまで分かれば充分だ。シラヌイ・グループの本社は?」

 

「カイナシティです。私はジラーチの監視に回るよう指示されていますので、向かうのであればお気を付けて」

 

「お前に心配されるなんざ悪い意味で鳥肌もんだよ……ダイゴ、シロナ、ちょっと来てくれ!」

 

okakaはダイゴとシロナに声をかけに行く。そんなokakaの後ろ姿を見て、竜神丸は呟く。

 

「…まぁ十中八九、罠でしょうけどねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ~ん、そんな事があったとはなぁ~」

 

「…他人事みたいな口調で言うんじゃねぇよ、げんぶ」

 

「仕方ないだろ? 他人事なんだから」

 

「うぉい」

 

その後、半壊状態の育て屋アカツキに残ったヴァニシュとフィアレス、事件の黒幕の行方を追ったokaka、ひとまずリーグ協会に戻って行ったダイゴとシロナを除いた一同は、大型トラックに乗って育て屋アカツキから違う街まで移動を開始していた。その道中、たまたまホウエン地方にやって来ていたげんぶと再会し、現在は彼も同行する形で他の街へと移動している真っ最中だ(ちなみにトラックの中には旅団関係者しかいない為、いつもの名前で呼び合っている)。

 

「そういうげんぶさんは、何故ホウエン地方に?」

 

「ん? あぁ、俺の手持ちポケモン達の調整ついでに、蓮からお土産を買って来るよう頼まれてな。お前等と合流する前に、変な商人からこんな物も買った」

 

げんぶは持ち運んでいた買い物袋からある物を取り出す。それは7つの爪が開いた星型のペンダントらしきアイテムだった。

 

「? 何それ」

 

「ウィッシュメーカー…って言うらしい。今日から7日間、1日経過するたびに爪部分を1枚ずつ内側に折り込んでいく。それを最後の7日目まで続ける事で、どんな願い事だろうと叶える事が出来る―――」

 

「それ頂戴!!」

 

「こなた!?」

 

「下さい…!!」

 

「美空さんまで!?」

 

どんな願い事だろうと叶える事が出来る。それを聞いた途端、こなたと美空が迷わず食い付いてきた。こなたはともかく、大人しめな美空まで食い付いた事にディアーリーズは驚きを隠せない。

 

「―――かも知れない、らしいぞ」

 

「…ちぇ、な~んだ」

 

「こなた~? 何故げんぶさんの話に食い付いたのか、ちょっとばかし問い詰めても良いかな~?」

 

「ちょ、痛い痛い痛い痛い!? 暴力反対!!」

 

必ず叶う訳じゃないと知って落胆するこなたに、アイアンクローを炸裂させるディアーリーズ。しかしそんな二人を他所に、美空は今もげんぶの取り出したウィッシュメーカーに目線が向いている。

 

「…それ、下さい」

 

「んお? 良いのか、美空ちゃん。絶対叶うって訳じゃないぞ?」

 

「良いんです……持つ事に…意味が、あるから…」

 

「そうか? んじゃ、ほい」

 

げんぶは美空にウィッシュメーカーを渡し、美空はそれを大事そうに両手で受け取る。そしてウィッシュメーカーを眺めては時々嬉しそうな表情を見せる。

 

「んで、その子がえっと……ジラーチ、なんだっけか?」

 

「うん、そだよ~♪」

 

げんぶが見据える先には、咲良の腕の中で眠り続けているジラーチの姿。ジラーチは胴体部分を黄色の羽衣で包み込んだ状態でスヤスヤ眠っており、その寝顔は非常に可愛らしい。

 

「…なるほど、そこらの女子が見たら一瞬で骨折りにされそうだな」

 

「可愛いは正義って奴だな、うん」

 

「何を得意気に言ってやがんだ」

 

「いやいや、それよりも僕達が一番疑問に思うべきなのは…」

 

ディアーリーズの言葉に、一同は一斉にある人物の方に視線を向ける。

 

「おや、どうかしましたか?」

 

「「「「「何故当たり前のように付いて来てる!?」」」」」

 

そう、竜神丸だ。タブレットを操作しながら呑気にカ○リーメイトを食べている彼に、一同は息の合った突っ込みを炸裂させる。

 

「ジラーチの監視の為に決まってるでしょう? 我等が団長から、そういう命令が下されてるんですから」

 

「てか、いつの間に来てたんだよ!? そもそもどうやってここまで来たんだよ!? こっちの世界じゃ能力は使えないってのに…」

 

「答えは簡単です。飛行タイプのポケモンに乗って来ました、それだけです」

 

「飛行タイプって、つまり『そらをとぶ』で飛んで来たってのか? 言っておくが竜神丸、『そらをとぶ』を使うなら期限付きのジムバッジが無いと使用は禁止で…」

 

「ジムバッジ? あぁ、これの事ですか」

 

「「「「「!?」」」」」

 

竜神丸は取り出したバッジケースをパカッと開き、一同に見せつける。そこにはストーンバッジ、ナックルバッジ、ダイナモバッジ、ヒートバッジ、バランスバッジ、フェザーバッジ、マインドバッジ、レインバッジと、ホウエン地方における8種類のジムバッジが全て揃っていた。これにはディアーリーズ達だけでなく、支配人までもが思わず驚愕の表情を浮かべる。

 

「おいおい、いつの間に全部揃えて…」

 

「秘伝マシンを使う事になる以上、揃えていて損はありませんからね……あ、盗んだ物ではありませんよ? 何でしたら、各ジムリーダー逹に確認でも取りますか?」

 

「…本当に抜け目ないな、お前って奴は」

 

「褒め言葉として受け取っておきましょう」

 

「にわかに信じがたいなぁ。あの研究にしか興味が無い旅団一の科学者が、わざわざこんな事するなんて…」

 

「ほぉ、言ってくれますねぇ。何なら試してみますか?」

 

その瞬間だった。

 

トラック内の空気が、緊迫した物に変わったのは。

 

「…面白い。せっかくポケモン所有組が揃ってるんだ、少しバトルでもしてみようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウル~!! 負けるな~!!」

 

「頑張って、下さい…!」

 

「ウルにいちゃん、ファイト~!」

 

「さてさて。見物だな」

 

そして、とある海岸沿いの道路。そこにトラックを停車させ、海岸まで移動した一同は早速ポケモンバトルを始める事にした。こなたや美空、ジラーチを抱きかかえている咲良が応援の声を上げる中、まずはロキとディアーリーズのチーム、げんぶと竜神丸のチームが対決する事になった。審判役はユイが、解説役は支配人が担当する。

 

「これより、ダブルバトルを開始します。使用ポケモンは1人3体、先に相手チームのポケモンを全て倒したチームの勝ちとします。それでは両チーム、1体目のポケモンを出して下さい」

 

「よし……1番手はピカチュウ、君に決めた!」

 

「行って来い、エンペルト!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「エンペェ~ルッ!」

 

まずはディアーリーズが黄色い鼠型ポケモン―――ピカチュウを、ロキが皇帝ペンギン型ポケモン―――エンペルトをそれぞれ繰り出す。

 

「さぁ行け、キングラー!」

 

「プテラ、実験開始」

 

「グラァッ!」

 

「ギャオォォーンッ!!」

 

続いて、げんぶが赤いカニ型ポケモン―――キングラーを、竜神丸が翼竜型の古代ポケモン―――プテラをそれぞれ繰り出した。両チームのポケモンが繰り出された事で、ユイが両手を上げてバトル開始を宣言する。

 

「バトル、開始です…!」

 

「先手必勝!! ピカチュウ、『10まんボルト』!!」

 

「エンペルト、『アクアジェット』だ!!」

 

「ピッカァ…チュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

「エンペェェェェェェェェルッ!!」

 

早速ピカチュウとエンペルトが動き出し、ピカチュウは『10まんボルト』の電流を放ち、エンペルトは全身に水流を纏った『アクアジェット』でキングラーとプテラに突っ込んでいく。

 

「キングラー、『れいとうビーム』で『10まんボルト』を相殺!!」

 

「プテラ、『そらをとぶ』で退避」

 

「グゥラッ!!」

 

「ギャオーン!!」

 

それに対し、キングラーが『れいとうビーム』でピカチュウの『10まんボルト』を相殺。プテラは真上に飛ぶ事でエンペルトの『アクアジェット』を回避。そのままプテラが空中を自在に飛び回り始める。

 

「ピカチュウ、『10まんボルト』でプテラを撃墜!!」

 

「プテラ、かわして『ステルスロック』」

 

ピカチュウが『10まんボルト』を繰り出すが、空中を飛び回っているプテラは『10まんボルト』を余裕の表情でかわし、自身の周囲に尖った岩石『ステルスロック』を生成。それらが地上に投下され、ピカチュウとエンペルトの周囲に配置される。

 

「うげ!? 『ステルスロック』って確か…」

 

「交代したポケモンにダメージを与える技でしたね…!! ならせめて、こちらがやられないようにすれば―――」

 

「プテラ、ピカチュウに『ほえる』」

 

「ギャオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!」

 

「ピ、ピカ…!?」

 

「ちょ、えぇっ!?」

 

「グ~レイ…!」

 

フィールドに配置された『ステルスロック』を警戒するロキとディアーリーズだったが、ここで竜神丸のプテラがまさかの『ほえる』を発動。プテラの甲高い咆哮に圧倒されたピカチュウが強制的にモンスターボールに戻されてしまい、代わりに水色のボディを持った四足歩行型ポケモン―――グレイシアが召喚され…

 

「!? グレイッ!?」

 

「グレイシア!!」

 

配置されていた『ステルスロック』が動き出し、一斉にグレイシア目掛けて襲い掛かる。尖った岩石が身体に突き刺さり、グレイシアはいくらかダメージを負った状態でバトルを開始する羽目になってしまった。

 

「おいおい、まさか『ほえる』を使えるとはな……エンペルト、プテラに向かって『ハイドロポンプ』!!」

 

「エンペェェェェェェェルト!!」

 

「ギャギャギャギャ!!」

 

エンペルトの繰り出す『ハイドロポンプ』も、プテラは素早く飛び回る事で回避してみせる。プテラは地上にいるグレイシアとエンペルトに対し、まるで馬鹿にしているかのような笑い声を上げる。

 

「カッチーン……あのプテラ、腹立つなオイ」

 

「まずはあのプテラをどうにかしなければ……ロキさん、やれますか?」

 

「…まぁ、やるしかねぇよなぁ」

 

「おいおい、こっちの相手も忘れて貰っては困るな……キングラー、『こごえるかぜ』!!」

 

「グラァッ!!」

 

キングラーが『こごえるかぜ』を発動し、冷気を含んだ風がエンペルトとグレイシアを襲う。しかし『こごえるかぜ』は氷タイプの技。鋼タイプを持つエンペルトと、氷タイプのグレイシアにはあまり有効打とは言えない。しかし、それも竜神丸は想定済みだ。

 

「少し動きを止めてくれれば充分です……プテラ、『いわなだれ』!」

 

「ギャオォォォォォォォォォンッ!!」

 

上空に待機していたプテラが『いわなだれ』を発動。プテラの周囲に形成された複数の岩が、地上にいるエンペルトとグレイシア目掛けて一斉に投下され始める。

 

「そう何度もやられてたまるかっての……エンペルト、『ハイドロポンプ』!!」

 

「ですね……グレイシア、『れいとうビーム』!!」

 

「エンペェェェェェェルッ!!」

 

「グゥレェェェェェェイッ!!」

 

エンペルトの『ハイドロポンプ』、グレイシアの『れいとうビーム』が同時に発射され、落ちて来る岩石を次々と破壊。しかし岩石の量が多かった事で、エンペルトとグレイシアが岩石の中に飲み込まれていってしまった。

 

「あぁ、グレイシアとエンペルトが!?」

 

「さぁて、ロキとディアはどう出るのやら…」

 

こなたや支配人達が見据える中、複数の岩石で出来た山は動く様子が無い。それでもキングラーとプテラは警戒を緩めない。

 

「どう思う? 竜神丸」

 

「まだ動けるでしょうね。出て来たところを撃墜します」

 

げんぶと竜神丸が待ち続けて数秒後……岩石の山が、ほんの僅かに動いた。げんぶと竜神丸はそれを見逃さない。

 

「エンペルト、『アクアジェット』!!」

 

「その手は読んでたぜ…キングラー、かわせ!!」

 

「プテラも回避しなさい」

 

岩石を破壊されると同時に、『アクアジェット』で突撃して来たエンペルト。キングラーは素早い横歩きで真横に回避し、プテラも自分目掛けて突っ込んで来た『アクアジェット』をヒラリとかわす。

 

「ただ突っ込むだけとは芸が無い……ッ!?」

 

しかし竜神丸はある事に気付いた。それと同時に、ディアーリーズも小さく笑みを浮かべる。

 

「グレイシア、『れいとうビーム』!!」

 

「グゥゥゥゥ…レェェェェェェェェェェィッ!!!」

 

「ギャ!? ギギャオォォォォォォォォォォォォッ!!?」

 

「!? 何だとっ!!」

 

ディアーリーズの指示を受け、グレイシアはプテラ目掛けて『れいとうビーム』を繰り出した……自分が乗っているプテラの背中の上(・・・・・・・・・・・・・・・・)から。背中に『れいとうビーム』をまともに受けた事で、流石のプテラも地面に落ちるギリギリまで降下していく。

 

「馬鹿な、いつの間にプテラの背中に!?」

 

「…あぁ、なるほど。さっきの『アクアジェット』ですか」

 

「当たりだぜ、竜神丸」

 

何故グレイシアが、いつの間にかプテラの背中の上に乗っていたのか?

 

それは先程『アクアジェット』を繰り出したエンペルトの仕業だった。『アクアジェット』とは、全身を水流で包んだ状態で相手に突っ込んでいく技。ロキとディアーリーズはそれを利用し、エンペルトにグレイシアを抱きかかえさせた状態で(・・・・・・・・・・・・・・・・・)アクアジェットを発動させたのだ。そうすれば『アクアジェット』発動中は身に纏った水流でグレイシアの姿が隠れる為、安全にプテラに接近出来る。後はプテラが回避する際に、さりげなくプテラの背中に飛び移ってしまえば良い。

 

「とにかく、まずはプテラの羽根を凍らせる事が出来た」

 

「! ほぉ…」

 

ロキの言葉通り、グレイシアの『れいとうビーム』を受けた影響で、プテラは右羽根が凍りついていた。この状態ではまともに飛ぶ事が出来ない為、プテラに大ダメージを与えるチャンスである。

 

「ならばプテラ、『ほえる』で…」

 

「させん!!」

 

「!? ギャゴ、ォ…!!」

 

「!?」

 

『ほえる』を発動しようとした直後、先程まで『アクアジェット』を繰り出していたエンペルトが真上から落下し、プテラの頭部を思いきり踏みつけた。それによってプテラの口が無理やり閉ざされ、『ほえる』の発動が失敗に終わってしまった。

 

「『そらをとぶ』も封じ、『ほえる』も封じた。これでプテラは怖くない!!」

 

「一気に決めます!! グレイシア、『こおりのつぶて』!!」

 

「グゥーレェーイッ!!!」

 

グレイシアは自身の周囲に無数の『こおりのつぶて』を生成し、それを一斉に撃ち放つ。プテラはエンペルトに踏みつけられたまま身動きが取れず、そのまま『こおりのつぶて』がプテラに命中―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キングラー、『クラブハンマー』で掻き消せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥラッ!!」

 

「「!?」」

 

―――する事は無かった。撃ち放たれた『こおりのつぶて』とプテラの間にキングラーが素早く割って入り、右腕の鋏から繰り出した『クラブハンマー』一発で『こおりのつぶて』を纏めて掻き消してしまったのだ。

 

「たった一発で、全部掻き消された…!?」

 

「くそ、キングラーの存在を忘れてたぜ……エンペルト、『メタルクロー』!!」

 

「エンッペェェェェェル!!」

 

「!? グ、ラァ…ッ!!」

 

エンペルトはプテラを踏み押さえたまま、両腕の羽根を鋭利な刃物『メタルクロー』に変化させ、目の前に割って入って来たキングラーの頭部目掛けて『メタルクロー』を振り下ろし、キングラーにダメージを与える。

 

 

 

 

 

 

それこそが、げんぶの仕掛けた罠だと気付かずに。

 

 

 

 

 

 

「(よし、かかった!)…キングラー、捕まえろ!!」

 

「グラッ!!」

 

「!? エ、エンペェェェェ…!?」

 

「ッ…何!?」

 

キングラーに至近距離から攻撃を仕掛けた事、それがロキの失敗だった。キングラーの右腕の鋏がエンペルトの右羽根を強く挟みつけ、その痛みにエンペルトが悲痛な鳴き声を上げる。

 

「そのまま『ハサミギロチン』!!」

 

「グゥ…ラァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「エンペェェェェェェェェェェッ!!?」

 

「ッ!? しまった、エンペルトォッ!!!」

 

キングラーはエンペルトを捕まえたまま『ハサミギロチン』を発動。エンペルトの右羽根を挟んでいたキングラーの鋏にパワーが集まり、挟んだ右羽根を通じてエンペルトにとてつもないダメージを与えていく。

 

「グゥラァッ!!!」

 

そして最後、キングラーは鋏で挟んだままエンペルトを高く持ち上げ、地面に容赦なく叩きつける。デカい轟音と共に、周囲に土煙が舞い上がる。

 

「ど、どうなったのさ!? エンペルトは!?」

 

「…まぁ、こなた逹の予想通りだろうさ」

 

支配人の言葉通りだ。『ハサミギロチン』はタイプ相性に関係なく、相手を一撃で戦闘不能に追い込む技。ゴーストタイプのポケモン、もしくは特性『がんじょう』を持ったポケモンでなければ、その強烈な一撃を受けて耐える事など到底出来やしない。

 

それはもちろん…

 

 

 

 

 

 

「エ、エン……ペェ…ッ…」

 

 

 

 

 

 

ロキのエンペルトだって、決して例外ではなかった。

 

「エンペルト、戦闘不能…!」

 

「ッ……そんな…!?」

 

「くそ……すまない、エンペルト。ゆっくり休んでくれ」

 

目を回して瀕死になっているエンペルトを、ロキはモンスターボールの中に戻す。その一方、キングラーは嬉しそうな様子でげんぶに褒められていた。

 

「よしよし、よくやったぞキングラー!」

 

「グラッグラッ♪」

 

しかし、その横では…

 

「まぁ元々、『ステルスロック』をフィールドに撒くのがあなたの仕事。単純な戦力としては、あまり期待しないでいるのが正解だったようですねぇ」

 

「ギャウゥ…」

 

竜神丸の辛辣な物言いに、プテラは「面目ない」といった様子で落ち込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、少し離れた位置で支配人逹も見届けていた。

 

「うわぁ……あの状況で『ハサミギロチン』とか、エグい事するねぇ」

 

「たぶん、その辺もげんぶと竜神丸の作戦通りだったんだろうな。グレイシアがプテラの背中に移動していたのは想定外だったんだろうけど、キングラーがエンペルトを下した事でそのミスも挽回された」

 

「どういう、事……ですか?」

 

「『ステルスロック』と『ほえる』のコンボなんて、一回やられるだけで相手にとっては非常に脅威だ。おかげでロキとディアはプテラの方に意識が集中し、キングラーに対する警戒心が少しでも緩んでしまった。プテラに『ほえる』を一回しか使わせなかったのも、一回やるだけでも充分だという竜神丸の判断だろう」

 

「ッ……ウルさん…!」

 

「ウルにいちゃん、ろーくん、がんばれー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロキさん、次のポケモンを出して下さい…!」

 

ユイの指示に従い、ロキは2番手のポケモンが入ったモンスターボールを取り出す。

 

「チッ……竜神丸の奴、『ステルスロック』なんて面倒なもん撒き散らしやがって」

 

「ロキさん、次はどのポケモンで…?」

 

「『ステルスロック』のダメージを軽減する以上、こいつに出て貰うしかない……出ろ、ハッサム!!」

 

「ハッサァム!!」

 

投げられたモンスターボールから、両腕に大きな鋏を持った赤い虫ポケモン―――ハッサムが繰り出される。そしてハッサムがフィールドに立つと同時に…

 

「!? ハッサ…ッ!!」

 

フィールドに配置されていた『ステルスロック』が、ハッサムに襲い掛かる。しかしハッサムは鋼タイプを持っている為、『ステルスロック』によるダメージを軽減する事は出来た。

 

「エンペルトの敵討ちと行こうぜ、ハッサム」

 

「ハッサァ!!」

 

「グレイシア、もう少しだけ頑張ってくれ!」

 

「グゥレイ…!!」

 

『ステルスロック』のダメージを物ともせずに構えるハッサムと、多少ダメージが残りつつも戦闘態勢に入るグレイシア。そんな2体のポケモンを見て、竜神丸はプテラをモンスターボールに戻す。

 

「戻りなさい、プテラ」

 

(! プテラを戻したか。次は何で来る…?)

 

ロキとディアが警戒する中、竜神丸は2体目のポケモンに交代する。

 

「ギャラドス、実験開始」

 

「グォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!」

 

「げぇ、よりによってギャラドスですか…!!」

 

繰り出されたのは、東洋の龍を彷彿とさせる青色のポケモン―――ギャラドスだった。ギャラドスが高らかに吼え上がるのを見て、ディアーリーズは嫌そうな表情を浮かべる。

 

「ではギャラドス、仕切り直しと行きますよ」

 

「さて、まだまだ頼むぜキングラー…!!」

 

ギャラドスとキングラー、グレイシアとハッサム。

 

彼等のバトルは、まだまだ激しくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、カイナシティ…

 

 

 

 

 

「うがっ…!?」

 

(はいはい、ちょっとごめんよぉ…っと)

 

シラヌイ・グループ本社に潜入したokakaは、社内にいた警備員を一人ずつ気絶させていく。順調に社内を突き進む事が出来ていたokakaだが、同時に妙な予感もしていた。

 

(おかしい……こんなアッサリ潜入出来るとなると、考えられる可能性は一つ…)

 

探している張本人が既に逃げた後か、それとも罠が仕掛けられているか。あまり都合の良い展開は期待出来そうにないと考えつつ、okakaはボルカノとJが交渉していた社長室まで移動する。

 

「…ここか」

 

部屋の中に気配を感じ取れなかった事から、やはり既に逃げられた後のようだ。しかし部屋の中の痕跡は調べた方が良いと考えたokakaは、罠が無い事を確認しつつ社長室の扉を開ける。

 

(…よくもまぁ、こんな堂々と描けるもんだ。逆に感心したくなる)

 

社長室に入ってまず目に入ったのは、床に大きく描かれているマグマ団のシンボルマーク。ここまで堂々としているのを見てokakaは呆れたような表情を浮かべる。

 

その時…

 

 

 

-ブゥゥゥゥゥン…-

 

 

 

「ッ!?」

 

突如、okakaの立っている真上から何かが『テレポート』で出現する。すかさず真上を見上げて構えるokakaの視界に映ったのは…

 

「「「「「ビリリリリリリリ…!!」」」」」

 

モンスターボールそっくりの姿をしたポケモン―――ビリリダマの大群が、チカチカ点滅しながら(・・・・・・・・・・)落ちて来る光景だった。それを見たokakaは、その表情が一気に青ざめていく。

 

「…うっそぉん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数秒後、シラヌイ・グループ本社で大爆発が起こり、カイナシティはパニックに陥る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『七夜の願い星 その4』に続く…

 


 
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