No.831934

IS ゲッターを継ぐ者

第二十話です。前回に続き暗いです。

2016-02-19 23:20:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:776   閲覧ユーザー数:769

「なんなんだよ、一体」

 

 

 愚痴りながらゴミを取っ払う光牙。もうこうやって花瓶を戻したりゴミを片付けるのが恒例行事になりつつある。

 

 

「全く嬉しくないわ、こんなん」

 

 

 そりゃそうである。

 

 菓子の袋をゴミ箱にぶちこむ。ブラックボードの側にあるので振り返るとクラスメイトが大体皆が見渡せる感じになるのだが、様子が変だった。

 

 光牙と目が合うと目を反らすなり、背を向けたり、近くの人間と話したりする。箒にセシリア、シャルル、谷本といった親しかった筈の人物もだ。

 

 

(……ある意味お決まりか)

 

 

 今の状況なら仕方ないかと勝手に完結してしまう。とりあえず今は机だと詰め込まれてた雑誌の切れっ端やら漫画はまとめておき、残るゴミや花瓶に手をやろうとした時。

 

 

「あー、ここにあった」

 

「あん?」

 

 

 第三者の声が聞こえてくる。見ると教室の出入口に三人の女子がいた。格納庫で光牙に突っかかってきた、あの三人が。

 

 

「それ、あたしらのクラスの花瓶なんだけど。返してくれる?」

 

「お前らのかよ……」

 

 

 わざわざご苦労なのか白々しいのか。

 

 とりあえず渡そうとするが、女子は受け取らずに落とし割ってしまう。

 

 

「あーあ、割れちゃった」

 

「不器用ねぇ、早く片付けなさいよ」

 

「………………」

 

 

 悟られないよう手を握りしめながら、無言で雑巾を持ってきて片付けを始める光牙。

 

 

「ちょっと無視? 何か言いなさいよ」

 

 

 何が気に入らなかったのか。ゲシッと女子が光牙の手を蹴った。破片を持っていた手が切れてしまう。

 

 

「ツッ!」

 

 

 血が滴り落ち、花瓶の水に赤が混じる。

 

 ぎゃははは、と降ってくるゲスな笑い声。

 

 

「うわ不器用ー、片付けもまともに出来ないの?」

 

「さっすが男ねー」

 

「……ざけんな」

 

「何? 早く片付けてよ」

 

「ええ。そうですね」

 

 

 そう言い現れた、女子の間を抜けて光牙の隣にまで歩いてきたのはアヤ。

 

 片付けに加わるのに、女子はアヤを睨み付ける。

 

 

「アンタ関係ないでしょ。こいつが割ったんだから、こいつに片付けさせるの」

 

「手伝うのは私の自由ですが」

 

「なんですって? もういっぺん言って――」

 

「何をしている」

 

 

 いよいよ女子が手を出しかけた時だ。凛とした声が図々しい声を遮る。ハッとなり振り返る女子らの背後。一組担任と副担任のご到着だ。

 

 

「HRの時間だ。お前らは自分のクラスに戻れ」

 

「……はーい、分かりました」

 

 

 去り際まで白々しく、女子どもは立ち去る。横目で光牙を睨むのを忘れずに。

 

 

「あ、あの先生。この花瓶は……」

 

「分かっているさ、滝沢が割っていないのは」

 

 

 光牙は悪くない。おずおずと前に出てきた本音が告げるのに、千冬は女子が去っていった廊下を見ながら言った。

 

 

「滝沢、悪いがまた更識の所に。それと保健室に行ってこい」

 

「……はい」

 

「では私がついていきます」

 

 

 片付けをしながら立候補するアヤ。

 

 アヤが光牙の側にいるのを一組のクラスメイトは何処か恐ろしげに見ていた。ついこの間まで近くにいた本音や、男子シャルルも。別に光牙が憎いとかそうではない。ただ、やろうとしても出来ないのだ。

 

 

「滝沢君、本当に大丈夫なの? このままじゃ、怪我じゃ済まなくなるわよ」

 

「どういうことすか」

 

「光牙君が言ってた女子よ。一年四組なんだけど、親がIS委員会に所属してるの」

 

 

 保険医サキよりもたらされた情報。残り二人はよくある取り巻きだそうだ。

 

 だからか、と光牙は思う。確かにそれなら皆の態度も分かる。前と同じでもあったから。

 

 

「だから、先生達にまた相談を」

 

「いいですよ、どうせ変わらない」

 

 

 光牙は一組の皆に怒りや悲しみを抱かなかった。ただ、あぁ、やっぱりかと思うだけ。

 

 

「やっぱロクなもんじゃない。学校なんて」

 

「滝沢君……」

 

「それは、極端なのでは? いくらなんでも」

 

「うっさい。先生やケントンには分からないさ」

 

 

 包帯を千切り立ち上がる光牙。

 

 

「ちょっと滝沢君! まだ治療が」

 

「ほっといて下さい」

 

「た、滝沢」

 

「ケントンもだ。……どけよ」

 

 

 サキもアヤも振り払う。手を払い怒気を浴びせ睨む。

 

 もしかしたら、と少しでも思ったがまやかしだ。

 

 “普通の人間”に自分は受け入れられないのだ。

 

 

『なんでお前がいるんだよ……お前なんかが』

 

 

 自分を蔑む。

 

 

『こっち来るなよ。気持ち悪い』

 

 

 避ける。

 

 

『この人殺しが……。さっさとくたばれよ! あのジジイみたいに!』

 

 

 そして傷つける。

 

 ゲッターの世界でもこのIS世界でも。

 

 やはり戦いや、ゲッターの中でしか居場所はないのだと思ってしまう。

 

 ISというもので世界のバランスが崩されかねない中でも、この世界は平和なのだと。皆はその中で暮らしていたのだ。

 

 平和がいつまでも続くと思っている。

 

 住む世界が違うのだと感じる。

 

 いつ平和が壊れるか分からないのに。本気で思ってないから、呑気でいられるのだ。いじめなど下らないこともしていられる。

 

 信じなければよかった。

 

 どうせ裏切り、蔑み、離れていくのだから。

 

 だから……周りに頼らない。

 

 やらないなら自分一人でも戦ってやる。呑気な奴等の手など借りるものか。

 

 

「チッ……またかよ。ふざけんな」

 

 

 ほぼ授業を聞き流していた後の昼休み。

 

 一人で決めてしまった光牙だが、苛つきを隠そうとせずガタンガタンと乱暴に椅子へ座り込んだ。

 

 また整備室の許可が下りなかったのだ。苛立ちが募る。

 

 その怒りは表に出ていて、目つきは悪くなり睨んでいるのかと誤解されそうな表情になってしまっている。椅子にもたれ足を組み机に上げてもいるから、端から見れば立派な不良生徒だ。表情も相まって、クラスの皆は光牙から距離を取ってしまっている。

 

 

(結局同じだ。学園の奴等も。あの女も。一組の皆も。アイツラと)

 

 

 もうどうだっていい。勝手に決めつけ、体験と考えにより自己完結しまってるから。人間はマイナスに考え出すとどんどん考えが偏ってしまう。自分の体験云々が混じれば尚更に。

 

 

(そもそも織斑先生だって近づき過ぎなんだ。僕は一夏さんじゃないのに。ケントンや他の皆だって……)

 

 

 いじめてくる奴等が憎いのは分かりきっている。けど光牙は学校嫌いを重ねてしまって、その人間や体験についても勝手に改悪し、都合よくすら考え出してしまう。

 

 ギリッと唇を噛む。そこに一人の人物が接近していった。

 

 

「随分荒れているな。滝沢光牙」

 

「……ボーデヴィッヒか」

 

 

 いつの間にか隣に立つラウラを半開きの目で睨む。そのラウラはというと、光牙を見下ろしながら鋭く言う。

 

 

「貴様、侮辱を受けているのに何故反論もしない。それでも男か」

 

「お前にそんなこと言われる義理はない。勝手に言うんじゃねえよ」

 

 

 気にしているのに踏み込んでくるな、と乱暴に言い放つ。

 

 

「まあ貴様はいい。……ならばせめて、教官に対する内容だけはどうにかしろ。貴様が原因なのだろう」

 

 

 ラウラは光牙が侮辱されるのに尊敬する千冬を出されるのが嫌なのだ。それは千冬への侮辱にもなるから。

 

 

「うるせえな……。嫌ならボーデヴィッヒがやれよ。教官なんだろ、織斑先生は」

 

「貴様ッ……!」

 

 

 ヒュンッ!

 

 

「うぉっ!?」

 

 

 突き出された一撃を、寸前で首を捻りかわす光牙。しかし椅子が傾いて床に倒れてしまい、倒れた所にラウラがナイフを突きつける。

 

 

「何しやがる!」

 

 

 椅子を蹴って下がりながら立つ光牙。ガンを飛ばしながら頬を拭う皮膚が切れて血が出ていた。周りから悲鳴が上がる中で、椅子に飛び乗ったラウラが言う。

 

 

「どうやら貴様を買い被っていたようだ。教官が認めた男かと思えば、とんだ大馬鹿者だ」

 

「んだとぉ!?」

 

「ひっ……」

 

 

 誰かが悲鳴を上げる。声を荒げ、怒り、憎しみともとれる顔つきと声の光牙が怖かった。恐ろしく見えたのだ。

 

 

「どいつもこいつも、なんだってんだ! そんなに僕が気に入らないのか!」

 

「こ、光牙……」

 

「光牙さん……」

 

「だから、だから学校なんて嫌いなんだ!! 皆して、皆で僕を……!!」

 

 

 遂に光牙の怒りが、心の底に溜まったどす黒いものに引火した。

 

 爆発する、怒り、憎しみ。

 

 歯が砕けんばかりに食い縛り、皮膚が裂けんばかりに拳を握り振るわている。

 

 

「こ、こーくん」

 

「滝沢……いや光牙、貴方は」

 

「なんなんだよ、なんなんだよ……」

 

「言いたいことはそれだけか、この軟弱者」

 

 

 目を覆うように手を当て嘆く光牙をばっさり切り捨てるラウラ。それを聞き光牙はゆっくり手を下ろすと、ラウラを睨み付ける。

 

 

「あー……いいさ。お前も僕が気に入らないんだろ、こいよ」

 

「いいだろう。そのつもりだ」

 

 

 自棄になり挑発する光牙に向かい合うラウラ。

 

 なんということだろう。

 

 ボキボキ、と光牙は指を鳴らしラウラはナイフを構える。両者の目は既に戦闘モードで空気も同じ。

 

 

「あ、あわわ……」

 

 

 一触即発、いつ拳が振るわれてもおかしくない状況。その場に居合わせたクラスメイトはとばっちりだ、動くに動けない。

 

 視線をぶつけ合う光牙にラウラ。

 

 まさにゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……とオーラが見え、何故か光牙とラウラのポーズで関節とかがおかしく見える、気がしない。

 

 誰かが机にぶつかり、カタン、と物音。

 

 

「「――ッ!」」

 

 

 同時に駆け出す、光牙にラウラ!

 

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「ウェェェァァァァ!!」

 

 

 両者が今、激突し――!

 

 

 

《big》「なにをやっとるかぁぁぁーーーー!!」《/big》

 

「ぐっはぁ!?」

 

「あとぅわぁッ!?」

 

 

 なかった。

 

 寸前でぶちこまれた、速くて強い黒が、激突寸前だったラウラを沈黙させ光牙を壁へぶっ飛ばしあとドワォまで起きる。

 

 やったのが誰か言うまでもないだろうがあえて言おう。

 

 織斑千冬先生である。

 

 

「貴様らは何をやる気だ! 学校内で死闘をやる気なのか、スタンド戦でも繰り広げるのか馬鹿者!!」

 

「き、教官「織斑先生だッ!」ごほっ……!」

 

 

 ラウラですら黒の得物に沈められる。その様にはクラスメイトはドン引き、やっぱり凄いこの人は。

 

 光牙なんて壁に大の字に埋まってるのだから。

 

 

「私はボーデヴィッヒを連れていく……山田先生!」

 

「はいっ!」

 

「滝沢を頼む。今回ばかりは見過ごせん!」

 

「分かりました!」

 

 

 ズリズリ……と引きずられていくラウラ。壁から引っ張り出され運ばれる光牙。

 

 その様子に、一組クラスメイトは心に刻む。

 

 ……絶対に織斑先生達を怒らせたらいけないとッ!!

 


 
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