No.812716

紫閃の軌跡

kelvinさん

第81話 未来(さき)の思惑

2015-11-09 12:51:57 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2423   閲覧ユーザー数:2188

~帝都ヘイムダル ヘイムダル駅内鉄道憲兵隊詰所~

 

一方その頃、鉄道憲兵隊の詰所ではサラ教官のいう所の『悪巧み』―――明日の夏至祭初日に起こりうるであろう、というか行動を起こすであろう存在、いわゆるテロリストの存在をリィン等に伝えていた。

 

「テ、テロリストですか!?」

「ええ、そう呼称しても間違いはないかと。ですが目的や構成メンバーの殆どが掴めていない…更にはその組織の名称すら決定していません。」

「な、何だか雲をつかむような話ですけど……」

「殆どということは、何人かは解っているんですか?」

「現状では幹部と思しき人物が一人だけ。」

「先月でのノルド高原に現れた≪G≫……確か、アスベルは『ミヒャエル・ギデオン』って言っていましたね。」

「はい。アスベルさんが面識のあったお蔭で彼の詳細はつかめましたが、他にも幹部クラスの方がいるのは間違いないでしょう。」

 

何を目的として帝国内を混乱せしめようとしているのか……現状では断片的ではあるが、少なくとも帝国に聞きという二文字が色濃く浮き出ているのは事実だろう。だが、元も含めると“鉄血の子供達”であるミリアムとリーゼロッテに接触し、面識のあるアスベルにもその姿を見せた……帝国で次に事を起こすとするならば、盛り上がりの観点からして夏至祭初日に事を起こすであろうとクレア大尉は読んでいた。

 

「初めは水面下で同志と装備を整え、一気に蜂起する―――テロリストの常套手段だね。」

「えと、つまりは私達にテロ対策の協力をしろということでしょうか?」

 

人口80万人全域をすべてカバーリングするのは難しい。ましてやお祭りともなれば外からの観光客も増える。そうなるといかに万全な警備体制とはいえ“完璧”ではなくなる。そこで、彼等と何かしらの接触経験のあるリィンらにも警備の手伝いをお願いすることにしたのだ。

 

「ええ、そうなります。鉄道憲兵隊も帝都憲兵隊と協力して警備体制を敷いておりますが、どうしても穴が出てしまう可能性があるのは否定できません。そこで、皆さんに“遊軍”をお願いしたいのです。」

「ま、ギルドが残ってたら少しは手伝えてたのでしょうけどね。」

「ええ、それは心強かったとは思いますが。……あの、サラさん。ギルド撤退に鉄道憲兵隊は関与していないのですが。」

「どうかしらね~。少なくも、アンタんことの親分と兄弟筋は未だに露骨なんだけれどね。」

「それは……」

 

サラ教官とクレア大尉―――『遊撃士』と『帝国政府』の確執はかなりの隔たりがある。その片鱗をリィン達は二人の会話で垣間見たような気がした。

 

「ま、その兄弟筋は『クロスベル』絡みで忙しいみたいだし。“あの二人”がここに姿を見せなかったということは痛手だろうし。」

「!……」

「―――さて、どうする?断った場合は従来通り知事閣下から課題を回してもらうことにするわ。」

 

まぁ、その答えは言うはずもなくA・B班共にテロ対策の協力をすることになったのであった。

 

 

~バルフレイム宮 貴賓室~

 

「……ということになっているだろう。あれじゃ“遊軍”じゃなくて“憲兵隊と同じこと押し付けてるだけ”だろうに。」

「いつになく容赦なく辛辣だな、お前。」

 

推測を述べたアスベルにルドガーは冷や汗が流れた。転生前といい、ここぞという時の黒さはルドガーも若干引き気味になるほどであった。まぁ、あの父親という存在もあっての事だろうが。アスベルは一息吐いて、言葉を続ける。

 

「テロリストに逃げ道を塞ぐやり方は“自殺行為”に等しい。ある程度逃げ道を提示してやり、そこを突くのが最善とは言わないが最良の方法になるだろう。」

 

実は夕方のオリヴァルト皇子から伝言を与り、『ドライケルス広場に関しては手は打った。君たちは好きに動くといい』というメッセージ……おそらくは最大火力を有せるだけの何かを伏せたのだろう。そうなると、こちらとしては動きようがあるし、何よりテロリストの“経路”はほぼ割り出せた。実は、怪盗紳士絡みの時にリィンらから離れて見ていると言ったのだが、あれは完璧な嘘であった。そういう所も変に几帳面な“怪盗紳士”の事も考慮し、“別の案件”を片付けた上でルドガーのあのおしおきである。

 

「自爆テロなんざやられたら目も当てられねえからな。…ま、奴らの目的からすれば可能性は低いが、“捨石”も覚悟しないといけねえな。ところで、俺らが掴んだことは話さなくていいのか?」

「話したところで“鉄血宰相”に目を付けられるのは確実。ルドガーも流石にそれは御免被りたいだろ?」

「まぁな。」

 

テロリスト―――まぁ、“その名称”は知っているが、その動きも様子も見ながらということではある。その計画ごとひっくり返すことは可能だが、想定外の事態など幾らでも存在しうる。その対策は打てるだけ打っておいたので、そのあたりは“空の女神”にでも祈りつつ二人は明日のために早めの休息に入ることとした。

 

 

翌日の朝食、二人とオリヴァルト皇子、傍には無論ミュラー少佐が控えていた。それだけではなく、シュトレオン王子やクローディア王太女+αも揃っての朝食となった。……傍から見れば、こんな面子の中にいるアスベルとルドガーは異色な存在なのだが。

 

「そういえば、シオンはアルフィンからダンスに誘われたのか?」

「まぁな。正直クローゼがそれに異論を唱えなかったのは驚いたが。」

「ふふっ、アルフィン殿下とは仲良くさせていただいておりますし、ゆくゆくの事を考えると反論することでもありませんから。」

「そうやって内堀まで埋めた奴が何を言ってるんだか……」

「いやぁ、未来は明るいね。」

「お前はそうやって煽るな。申し訳ありません、シュトレオン殿下。」

「謝らなくていいですよ、ミュラーさん。」

 

どうやら、シュトレオン王子とクローディア王太女、そしてアルフィン皇女絡みの事に関しては“本丸のみ”状態とのことだ。アスベルはその辺りの事をクローディア王太女から相談されていたので殆どの事情を知ってはいる。今日の園遊会にはレーグニッツ知事、アルフィン皇女とエルウィン皇女、お付きとしてソフィア・シュバルツァー、更にはシュトレオン王子(宰相)とその護衛として

 

「にしても、アスベルもだいぶ成長したわね……目指している二人は本当についていけるのかしら。」

「それを言ったら、あの不良中年に追いつく方がもっと大変なのですが。」

「……ますますエステルに似て来たわね。いや、元からと言った方がいいのかもしれないけど。」

 

A級正遊撃士“陰陽の銀閃”シェラザード・ハーヴェイその人である。これにプラスする形で“光の剣匠”ヴィクター・S・アルゼイドも護衛に加わるということになっている。彼は別室で“影の剣心”ことリューノレンス・ヴァンダールとちょっとした鍛練をしているとのことだ。二人の事だから手合わせになっていることは想像に難くない。というかだ……正直これだけでも“過剰戦力”というのに、彼等は愚を犯すつもりなのだろうか?……まぁ、皇族への安全を考慮して武器類の持ち込みは制限されてしまうので、戦力としては難しい。彼等としては憲兵隊と近衛隊の対立を上手く突いてくるであろう。……そして、この帝都にも“地下水路”があるという事実。

 

尚、“夏至賞”絡みでデュナン公爵が競馬場に向かうということから、クローディア王太女はユリア准佐を伴ってヘイムダル大聖堂でのミサに参加することとなっている。

 

「にしても、申し訳ないな。園遊会の護衛を引き受けてもらって。」

「ま、シオンは“顔見知り”なわけだからな。……アイツらの事を考えなくていいのはありがたい。」

「……一昨年の時、それと前回の時と比べて酷くなってないか?」

「その、苦労されてますね。」

 

ルドガーに対して恋慕を抱いている対象―――なまじその三人が実力的にもヤバいというのはシュトレオン王子自身知っているだけに、感情が込められたルドガーの言葉に冷や汗が流れ、クローディア王太女もこれには苦笑を浮かばざるを得なかった。今日の流れとしては、セドリック皇太子、アルフィン・エルウィン両皇女、オリヴァルト皇子のリムジンが出発される際、皇女の乗るリムジンにシュトレオン王子とクローディア王太女、その護衛でもあるユリア准佐とシェラザード、さらには皇女の友人が同席する運びとなる。アスベルとルドガーについては表向き“王子の護衛”としつつも、園遊会に参加することとなる。どの道、リィン達が“遊軍”となってくれるので、こちらとしては専念できる。

 

「(ちなみにだが、“わざと捕まってもらう”つもりだろ?)」

「(自爆テロやられたら洒落にならないからな。)」

「(そうすりゃ、こちらに大義名分は立つからな。)」

 

“その経路”を彼等だけが掴んでいると思い込ませること……そのための術というのは心得ている。“隠形”というのはえてしてそういう物であり、そういった技巧に関しては人より遥かに進んだものを持つアスベルとルドガー……彼等の思い描くものは、常人には理解されない。まぁ、イベントに関しては午後であり、見回りは他の人がやってくれてるので、

 

―――自然とこういう流れになる。

 

 

~帝都ヘイムダル ドライケルス広場~

 

「で、食べ歩きか。祭りからすれば当たり前だが。あ、これ美味いわ。」

「ま、それもあるんだけどね。……そろそろかな。」

「?……ああ、“成程”な。」

 

屋台を渡り歩くという祭りの醍醐味…お金に関しては双方共に“一生遊んで暮らせるレベル”あるので大した出費ではない。そして意味深なアスベルの発言に首をかしげるが、こちらに向かってくる人物の姿を見て納得した。それは、この国をよく知るのと同時にこの国に変革を齎そうとする人物のことを少なからず知る人物達であった。

 

「よ、お二人さん。課題が無くて食べ歩きとはいい御身分だな。」

「それを言わないでください、ラグナ教官。というか、リノアさんも一緒なんですね。」

「お久しぶり~、アスベル君にルドガー君。直接顔を合わせるのは昨年ぶりかな?」

「もうそれぐらいになるか……というか、リノアはマクダエル議長秘書だろ?こんなところにいていいのか?」

「流石に午後のイベントには顔を出さなきゃいけないけど、あの姉の慌てふためく顔が見たくてね♪」

「……クレア大尉といい、この家系って“そういうの”があるんですか?」

「俺に聞かないでくれ……」

 

ラグナ・シルベスティーレ教官、そしてクロスベル議長秘書リノア・リーヴェルト。元“子供達”の中でもトップクラスの連中。戦闘能力もさることながらその戦略・戦術構築の力は凄まじいものがある。その二人がアスベルとルドガーに接触したのは、今回の想定されるであろう“騒動”……そして今後の事もだ。そこでラグナは“とっておき”の店に案内することにした。注文を済ませ、品が来て店員が去ったのを確認すると、ラグナが話を切り出した。

 

「で、唐突になるんだが、恐らく連中の狙いは“皇族を連れ去った事実”を作ること。これで憲兵隊や近衛隊の失態を作る……それに適した場所というのは“クリスタルガーデン”の一点のみ、というところだな。」

「さっすが、ラグナ。私の愛しの彼氏だね。」

「茶化すな…大体はお前が持ってきた情報あっての推測だ。」

「む~……ま、競馬場の方はミュラー少佐と私がいるし、オリヴァルト皇子自身も相当の手練れ。大聖堂を襲撃したらアルテリア法国に目を付けられるのは確実……でも、アルフィン皇女とエルウィン皇女が参加する園遊会にしても、相当の博打だと思うけど。アスベル君とルドガー君がいるだけでも無理ゲーだと思うし。」

 

襲われる場所は数か所に上るのは確実だとしても、その大半は陽動―――本来ならば“クリスタルガーデン”に護衛を割きたいところなのだが、その辺は近衛隊とのしがらみで出来ていない。少なからずテロリストの中には帝都庁の人間も含まれているだろうし、そうなればⅦ組の存在を知られていても何ら不思議ではない。

 

「それなんですが、自爆テロやらかされても困るので……ある程度は彼等の策に乗ってやるつもりです。『ギデオン』以外の面々をあぶりだす意味でも。」

「ま、そんなところだろうな。テロの恐ろしさはよく解ってるし………で、来月の“通商会議”なんだが。リノア。」

「うーん……極論言っちゃっていい?」

「別に咎めはしないと思うんだが……」

「『列車砲を乗っ取っての会場爆破』……犠牲を厭わないなら、その辺りはやってのけるでしょ。」

「“鉄血宰相”に対する意趣返しを考えれば、あり得なくもないでしょう。帝国における最大規模の要塞を混乱に貶めるだけでも、彼等にとってみれば“成果”に他ならないですし。」

 

どうやら、ラグナ教官やリノアから見ても“そういった行動”を起こすのは目に見えている。それはアスベルやルドガーから見ても何ら不思議ではない。ただ、“鉄血宰相”はその辺りすらも勘定に入れた行動をしているのであろう。そのための“助っ人”も準備しているのだから。……それが同時にアキレス腱となっていることには気づいていない模様であるが。

 

 

―――そして、時間は流れ……園遊会のイベントが始まる。それに呼応するかのように……騒動は始まる。クリスタルガーデン内を突如襲う地響き……そして煙幕……華やかなイベントは、一瞬にして悲鳴や恐怖へと移り変わった。それは、念のためにガーデン外にいたアスベルとルドガーにも嫌というほどわかり切っていた。

 

「……“緋水”の差し金、というわけか。」

「みたいだな。この程度陽動にしかならんが。」

 

彼等の目の前に映るのは数体の魔獣。そして、その他にも機械人形―――『人形兵器』。それはつまり、『蛇』もこの計画に少なからず加担しているということ。ただ、ここで上位機を持ってこなかったのが彼等の失態であろう。数分後―――そこには魔獣の気配は消滅し、人形兵器は完膚なきまでに破壊された。全力を出すのを控えるために“戦術リンク”を用いて退けた。

 

「な、な……」

「これが、トールズ士官学院の生徒の実力というのか……」

 

アスベルとルドガーのした所業に狼狽えている近衛隊…相手が相手とはいえ、帝国を守る者としては“情けない”とは思う。すると、おそらく広場にいたであろうA班の面々―――リィン達がアスベルとルドガーに近寄ってきた。

 

「アスベル、ルドガー!」

「どうやら無事……のようだな。」

「ま、二人が遅れを取る程度とも思えないけどね。中の様子は?」

「そっちはまったくだが……恐らくは、ノルド高原で会った奴―――『ギデオン』がいるかもしれない。俺らはこれ以上の増援に備えてここを守る。お前たちは急げ。」

「わかった、ここは頼みにさせてもらう!」

「アスベルとルドガーなら心配ないけど、気を付けてね!」

「ああ。……さらっと嘘をつくよな、お前も。」

「お互いさまってことだよ……さて、行くとしますかね。」

 

彼等を見届けた後にいくつか言葉を交わして、二人はその場を去る。これ以上増援を呼んだところで彼らがその駒を減らすことにしかならないというのは、いくら愚か者でもその辺りを解っていないはずはない。彼らが向かった先を知るのは、彼ら以外に知る他ない。

 

 

次回、久々に戦闘します。とは言っても、戦うのはリィン達ではありませんがw

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択