No.694859

本編

根曲さん

・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。

2014-06-18 06:48:57 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:239   閲覧ユーザー数:239

悪魔騎兵伝(仮)

第六話 成すべきこと

C1 希望の光

C2 行動

C3 仲間

C4 正体

C5 質入

C6 流転

C7 情報

C8 変装

C9 潜入

C10 論功行賞

次回予告

C1 希望の光

 

フッシ王国ポーの町。宿屋の方へ俯き、歩いていくファウス。宿屋にできる人だかり。ファウスは顔を上げる。町内会長が一歩前に出る。

 

町内会長『まさか・・・君が我々を騙しているとは思わなかったよ。』

 

ファウスは眼を見開く。

 

ファウス『・・・騙して・・・。』

町内会長『アレス王国の黒服の騎士が聞いてきたよ。君の事をね。まさか君がアレス王国の偽王子だったとは。』

 

ファウスは顔を下に向ける。

 

町内会長『ともかく、この街から出て行ってくれ。』

 

顔を上げるファウス。

 

ファウス『えっ。』

町内会長『君がこれ以上この街に居ると悪い噂がたって、折角の商店街復興計画もパーになってしまう。国王にも目をつけられてしまうだろうし・・・。』

 

俯くファウス。

 

町内会長『あー、とんでもない人間を雇ってしまったものだ。』

 

町内会長はファウスを見下ろす。

 

町内会長『ともかく、すまないが早くこの町から出て行ってくれ。』

ファウス『・・・はい。』

 

町内会長を先頭に去っていく一同。宿屋の女将がファウスの傍による。

 

宿屋の女将『すまないね。でも、こちらも商売でやってるから。評判が落ちるとほら、客が来なくなっちまうからさ。本当にすまないね。』

 

ファウスは宿屋の女将の方を見る。

 

ファウス『・・・どうして謝るんですか。僕は・・・皆を騙していたんです。

女将さんも職場の皆も。嘘を付いて騙してたんです。お母様も助けられなくて

他の人達を不幸にして・・・。』

 

ファウスは掌を見つめる。

 

ファウス『僕・・・どうして生きているの?』

 

ファウスは膝を落とし、空を向いて泣き出す。眉を顰め、下を向く宿屋の女将。

 

 

ファウスの部屋。ファウスは箱に入るヘレの着物を見つめる。闇に染まる窓が風に揺れる。窓の方を向居た後、ヘレの着物を再び見つめるファウス。

 

ファウス『…行かなきゃ。』

 

扉が開き、現れる宿屋の女将。ファウスは宿屋の女将の方を向いて俯く。

 

ファウス『…すみません。』

 

ファウスを見つめる宿屋の女将。ファウスは箱の蓋を閉じ、脇に抱えて立ち上がって宿屋の女将の前に行き、深々と頭を下げる。

 

ファウス『…今までありがとうございました。』

 

ファウスは宿屋の女将に背を向け去って行く。宿屋の女将はファウスの背を見、2、3歩進み、周りを見た後、胸に手を当てて俯く。

 

ファウス機に乗り込むファウス。ファウスは箱を中に入れるとコックピットのハッチから闇に染まる行くポーの町並みを見る。風がファウス機を揺らし、ファウスの銀髪が靡く。彼は深々と頭を下げ、コックピット内に戻るとファウス機を起動し、去っていく。

 

アポー山脈の中腹で止まるファウス機。立ち上がり、箱の前まで行き、俯いて座り込む。箱に手を添えるファウスの閉じた目からは涙が流れる。暫くして横になり、吐息を立てるファウス。

 

 

瞬きするファウス。ファウスは勢いよく起き上がり、周りを見る。ファウス機の中に流れるラジオの音。

 

ラジオの声『2+3+5+7+11+13+17+19+23+29+31+37+41+43=281』

 

ファウスは箱の方を向く。

 

ラジオの声『7の13乗は…96889010407』

 

俯き、座り込むファウス。

 

ラジオの声『男子23人、女子37人の中からクラス委員を選出します。男子から5人、女子から7人選ぶ時の選び方は…424658994144通り。』

ファウス『僕は…。』

ラジオの声『f(x)=41xの五乗-17xの三乗+59x+11 (x=3)を微分すると…16087。』

ファウス『…生まれてこない方が良かったんだ。』

ラジオの声『∫7~5 29xの七乗+31xの五乗-47xの三乗-97の定積分は…1716464401/12』

ファウス『僕が…居たから…。』

ラジオの声『アンダーバストが67cm、トップバストが97の時のバストカップを求めよ。』

 

ファウスの頬を涙が伝う。

 

ラジオの声『トップバストとアンダーバストの差が30。よってIカップ。』

 

ファウスは自身の掌を見つめる。

 

ファウス『僕が消えれば…。』

ラジオの声『以上で今日の計算ドリルレイディオ終わります。』

 

音楽。

 

ラジオの声『エヌニュースが午後2時をお知らせします。』

 

音楽。

 

ファウスはファウス機のコックピットの天井を見上げる。

 

ファウス『お母様は…。』

 

床を見つめるファウス。

 

ハリーの声『こんばんわ。エヌニュースのハリーです。』

ファウス『…あちらで、迎えて下さるかな。こんな僕を…。』

ハリーの声『本日正午、貴族連合がゼウステス領ヨーケイ城討伐をフォレスト王国エルクプラザにて発表しました。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『えっ!』

ハリーの声『貴族連合盟主シュヴィナ王国国王エグゼナーレからの声明です。』

 

上体を前に出すファウス。

 

エグゼナーレの声『貴族連合盟主シュヴィナ王国国王エグゼナーレである。』

ファウス『エグゼナーレ・・・様。』

エグゼナーレの声『まずはこれを聞いて欲しい。』

 

音。

 

コッケ・コーの声『コッケッコッコー。吾輩はヨーケイ城の城主コッケ・コーなでありまする。残念ながらこの度、歴史と伝統のあるゼウステス領はフテネを始めとする腐りきった輩に占拠されてしまいました。しかし、吾輩にゼウステス王国の王位を授けて下されば、対フテネ・ディライセン討伐の先鋒として粉骨砕身する所存でありますぞ。ココココケ。まあ、いずれにせよトップという鶏が先か、体制という卵が先が先かということですな。コッケ。』

 

音。

 

エグゼナーレの声『…以上がヨーケイ城主コッケコーとの交渉である。コッケコーはゼウステスの一城主でありながら臣下の役目を通り過ぎ、自ら王位を得んと欲した。これは不忠の輩である!世界の秩序を回復するために討つより他ない!この様な事態に陥った責務。それは全て貴族連合盟主の私の責任である。私の犯した過ち!貴族連合の盟主として、この争乱とした世界に秩序を再びもたらすことでその責務を果たす!』

ファウス『エグゼナーレ様・・・。』

エグゼナーレの声『全傭兵団、勇敢たる冒険者諸氏に継ぐ!ヨーケイ城戦にて手柄を上げれば金銀財宝だけでなく、貴族連合盟主国であるシュヴィナ王国の正規兵に取り立てよう。無論、この戦の働き次第では将軍の地位を約束する!繰り返し述べよう!全傭兵団、勇敢たる冒険者諸氏に継ぐ!ヨーケイ城戦にて手柄を上げれば金銀財宝だけでなく、貴族連合盟主国であるシュヴィナ王国の正規兵に取り立てよう。無論、この戦の働き次第では将軍の地位を約束する!余は君たちに期待する!!』

 

掌を見つめるファウス。

 

ファウス『僕は・・・。』

 

ファウスは喉を鳴らす。

 

ファウス『僕は自分の犯した罪から目を背け、逃げようとしていた。何の責任も取らずに…。なんて最低な奴なんだ。僕は・・・。』

 

ファウスは顔を上げ、コックピットのハッチを見つめる。

 

ハリーの声『暗黒大陸連邦の女優のジャクリーンと俳優のジョンソンの熱愛発覚です!』

ファウス『行かなきゃ!やらないといけないことが…果たすべき責務が僕にはあるんだ!』

 

動き出すファウス機。

 

C1 希望の光 END

C2 行動

 

フォレスト王国国境付近ノーミ市付近の森に止まるファウス機。ファウス機のコックピットのハッチが開き、出てくるファウス。彼はノーミ市を見つめ、震える。

 

ファウス『駄目だ。駄目だ。駄目だ。』

 

首を何回も勢いよく横に振るファウス。ファウスは胸に手を当てる。

 

ファウス『…勇気を!』

 

ファウスは拳を握りしめ、再びノーミ市の方を見つめる。

 

 

フォレスト王国ノーミ市の道路を歩くファウス機。モニターを見つめるファウス。

 

ナビの声『目的地周辺です。音声案内を終了します。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『えっ!!?』

 

周りを見回すファウス。

 

ファウス『も、目的地周辺って…え、そんな。ここは…。』

 

立ち止まるファウス機。

 

クラクションの音。

 

ファウスは振り向き、後続車を見た後、路肩にファウス機を止める。ファウス機を抜いていく車達を見た後、溜息をつくファウス。

 

ファウス『ノーミ傭兵ギルド、行かなきゃ。』

 

ファウスは地図を見回し、指先で場所を変えた後、ノーミ傭兵ギルドの場所を目視して、再びファウス機を動かす。

 

 

ノーミ市ノーミ傭兵ギルドの無人の駐車場に止まるファウス機。ファウスはコックピットのハッチを開け、傭兵ギルドを見つめる。震えるファウスの足。彼は右拳を左胸に沿えて、握りしめ、一歩前に出る。

 

左右に開くノーミ傭兵ギルドの自動ドア。雑談するギルド職員達。ファウスは周りを見回した後、受付に歩いていく。受付に立ち、周りを見回すファウス。

 

ファウス『…あの。』

ノーミ傭兵ギルドの職員A『おお、今度リタラ湖に連れてってやるよ。あそこのクロダイの引きがいいんだよ。』

ノーミ傭兵ギルドの職員B『じゃあ、是非頼みますわ。』

ノーミ傭兵ギルドの職員A『決まりだな。いつに…。』

 

上体を前に出すファウス。

 

ファウス『あの!』

 

ファウスの方を向くノーミ傭兵ギルドの職員達。

 

ファウス『あ…。』

 

ファウスは胸に手を当てて、後ずさる。ファウスに近づくノーミ傭兵ギルドの職員B。

 

ノーミ傭兵ギルドの職員B『何か御用ですか?』

ファウス『あ、はい。』

 

ファウスはノーミ傭兵ギルドの職員Bを見つめる。

 

ノーミ傭兵ギルドの職員B『あいにくうちのギルドに所属する傭兵団は皆、ヨーケイ城攻略の為に出払ってしまっておりますので。』

ファウス『そんな…。』

 

暫し、下を向いた後、顔を上げるファウス。

 

ファウス『あの、僕、僕は傭兵になりたいんです!今からでも、その傭兵団さん達ととりついでもらえませんか?僕もヨーケイ城攻略作戦に…。』

 

ファウスを見つめ、何回も頷き、眉を顰めるノーミ傭兵ギルドの職員B。

 

ノーミ傭兵ギルドの職員B『その年で?何の仲介もなく。身分証明を御呈示できますか?』

 

眼を見開くファウス。

 

ノーミ傭兵ギルドの職員B『身分証明ができなければ、取り次ぐことはできません。他ギルドによる工作も考えられますので。』

 

俯くファウス。

 

ファウス『…身分証明…ですか。』

 

頷くノーミ傭兵ギルドの職員B。ファウスは顔を上げる。

 

ファウス『…今、手元には。』

ノーミ傭兵ギルドの職員B『そうですか。ではお引き取りを。』

 

ファウスは一礼する。

 

ファウス『失礼します。』

 

俯き、去って行くファウス。去って行くノーミ傭兵ギルドの自動ドア。

 

ノーミ傭兵ギルドの職員A『綺麗な子だったね。品も良かったし、あれで何でこんなむさくるしい傭兵団に入団しようとしたのかねぇ。あれじゃ、入った途端、奴らの慰み者だ。』

ノーミ傭兵ギルドの職員B『反抗期の家出少年じゃないですか。』

 

首を傾げるノーミ傭兵ギルドの職員A。

 

ノーミ傭兵ギルドの職員A『そうかな。』

 

C2 行動 END

C3 仲間

 

ノーミ市ノーミ傭兵ギルドに止まるファウス機に乗り込み、操縦席に座るファウス。彼は溜息をついてノーミ傭兵ギルドを見つめる。

 

ファウス『…どうすれば。』

 

暫し、頭を抱えるファウス。ファウスは眼を見開いて顔を上げる。

 

ファウス『…冒険者。』

 

機器のボタンを押すファウス。

 

ファウス『そう、冒険者なら!』

 

動き出すファウス機。

 

 

ノーミ市南プラザ、酒場ビル駐車場に入り、止まるファウス機。酒場ビル一階の窓からファウス機の方を眼を開いて見つめる冒険者で盗賊のラロルドに女冒険者で銃士のエイミー。ファウス機のコックピットが開き、現れるファウス。上体を乗り出すラロルドとエイミー。ファウスは銀髪を撫で上げた後、酒場ビルの入り口を見る。顔を見合わせ、口を2、3回動かすエイミー。頷くラロルド。

 

酒場ビルを見上げ、中に入っていくファウス。一階の酒場ビルロビー。扉が開き、鈴が鳴る。鈴の方を見上げるファウス。カウンターに居るマスターがグラスをタオルで拭いている。周りを見回すファウス。

 

マスター『いらっしゃい。』

 

マスターの方を向くファウス。ファウスの方を向くラロルドとエイミー。

 

ファウス『・・・はい。』

 

ファウスはカウンターの方へ歩いていく。

 

マスター『何か御用で?』

 

ファウスはカウンターからマスターを見つめる。

 

ファウス『・・・あの、貴族連合が兵を集めてるって聞いたのですが?』

 

頷くマスター。

 

マスター『あいまいな情報5ガルド、普通の情報10ガルド、詳細な情報15ガルドになります。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『えっ!?』

 

ファウスは両ポケットを叩き、周りを見た後、マスターの方を見つめる。

 

ファウス『・・・お金がいるんですか?』

 

頷くマスター。俯くファウス。ラロルドとエイミーはファウスの方へ歩いていく。

 

ファウス『そう…ですか。』

 

ファウスは顔を上げる。

 

ファウス『…あの、冒険者になる為には?』

マスター『上の階で、身分証明などの手続きと冒険者発行権等の手数料が必要となります。』

 

眼を見開き、一瞬眉を顰めた後、俯くファウス。立ち上がるラロルドとエイミー。ファウスはため息をつき、顔を上げる。

 

ファウス『そうですか。分かり…。』

 

ラロルドがカウンターの上に15ガルドの硬貨を投げる。

 

ラロルド『おいおい、ぼろうとすんなよなすんなよマスター。』

 

眉を顰めるマスター。ファウスの両脇に立つラロルドとエイミー。ファウスはラロルドとエイミーを見回す。ラロルドはファウスの肩に手を掛けて引き寄せる。ファウスはラロルドの方を見る。

 

ファウス『あっ…。』

 

ファウスを見つめウィンクするラロルド。

 

ラロルド『俺は盗賊のラロルドってんだ。宜しくな。』

 

ファウスの傍らにつくエイミー。

 

エイミー『私は銃士のエイミーよ。』

 

眉を顰めるマスター。

 

マスター『ぼってない。だいたいぼろうとするのはお前の良く使う聞き耳頭巾の連中だろう。いい噂は聞かんぞ。』

 

鼻で笑うラロルド。

 

ラロルド『そうかい。貴族連合が大軍引き連れてったんだ。あんなプレハブ小屋、すぐ落城だぜ。そんな分かり切った結果から金銭を奪おうなんざ、詐欺師のやることじゃねえか。』

 

眼を見開くファウス。ラロルドはマスターの前に置かれた15ガルドの硬貨を取り、懐に入れる。

 

ファウス『ヨーケイ城が落城!!?それは本当ですか?』

 

ファウスはラロルドに詰め寄る。後ずさりするラロルド。

 

ラロルド『あ、ああ、一日ともちゃしねえよ。』

 

腰に手を当てるエイミー。

 

エイミー『それにヨーケイ城城主のコッケ・コーという野郎は元々、面白いとかいう理由でネロス王子に雇われたどんな議論においても鶏が先か、卵が先かという言い回しにする論客の詐欺師でしょ。貴族連合に勝てるはずないわよ。』

ファウス『急がなきゃ…。』

 

駆けて酒場ビルから出ていくファウス。ファウスの方を向くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『お、おい!』

エイミー『ちょっと、僕!!』

 

人型機構に乗り込むファウス。ファウスは機器のスイッチを押す。暫し沈黙。周りを見回すファウス。

 

ファウス『えっ、あれ…。』

 

機器のスイッチを何回か押すファウス。

 

ファウス『えっ、どうして…そんな、こんな時に!』

 

機器のスイッチを何回も押すファウス。

 

ファウス『お願い…動いて。』

 

コックピットのハッチを叩く音。ハッチを開けるファウス。現れるラロルドとエイミー。

 

ラロルド『おお、開いた。開いた。』

 

エイミーはファウスの顔を覗き込む。

 

エイミー『血相変えて、出てったのに全然、動かないからさ。』

 

周りを見回し、壁を触るラロルド。

 

ラロルド『おお、こりゃ上物だ。広い。騎乗しても入れそうだな。』

エイミー『どうしたの?お姉さん達に言ってごらん。』

 

ファウスはエイミーを見つめる。

 

ファウス『…はい。動かないんです。』

 

頷くエイミー。

 

エイミー『そう。』

 

エイミーはラロルドの方を向く。

 

エイミー『ラロルド!ラロルド!』

 

エイミーの方を向くラロルド。

 

ラロルド『はい?』

エイミー『ちょっと来てよ。これ動かないみたいよ。』

ラロルド『そりゃ困る。』

 

操縦席に駆け寄り、ファウスを見るラロルド。

 

ラロルド『ちょっといいかい。』

 

ファウスはラロルドを見つめる。

 

ファウス『はい。』

 

操縦席から退くファウス。ラロルドは操縦席に座る。

 

ラロルド『ふう。』

 

眼を閉じるラロルド。暫し沈黙。ラロルドの頭を叩くエイミー。

 

エイミー『なに寝てんの!!』

 

頭を押さえるラロルド。

 

ラロルド『いたたたた。いってーな。いいじゃねえか。このシート座り心地がいいんだから。』

エイミー『ふざけてないで、さっさと調べる!』

ラロルド『へ~いへい。』

 

機器を見回した後、吹き出すラロルド。

 

ラロルド『そりゃ、動かねえ筈だわ。』

 

一歩前に出るファウス。

 

ファウス『えっ?』

ラロルド『僕、燃料の残量見た?』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『い、いえ。』

ラロルド『だろうね。ただのガス欠。燃料がねえんだよ。さて。』

 

立ち上がるラロルド。

 

ラロルド『幸い近くにロードサービスギルドがあるから連絡…。』

 

俯くファウス。眉を顰めるラロルド。

 

ラロルド『どうした??』

 

ため息をつくファウス。

 

ファウス『…僕、お金が無いんです。』

 

唖然とするラロルドとエイミー。

 

ラロルド『いやいや、おかしいだろ。こんないい人型機構に乗って、お金がないなんて。』

エイミー『僕、まさか…家出少年!!?』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『違います。』

エイミー『じゃ、お父さんは?お母さんは?』

 

エイミーを見つめた後、再び俯くファウス。

 

ファウス『母は死にました。父は行方不明で、この人型機構は頂いたものです。』

 

ファウスを見つめるエイミーとラロルド。

 

エイミー『そ、そう。悪い事聞いちゃったわね。』

ラロルド『ともかく、金がなけりゃ、燃料も買えねえな。』

 

顔を上げるファウス。

 

ファウス『ともかく、行かなきゃ。行かなきゃ。』

 

コックピットのハッチの方へ向かうファウス。ファウスの襟首を掴むラロルド。

 

ラロルド『おいおい。待ちな。』

 

転ぶファウス。

 

ファウス『げっほ、ごほ…。』

 

ファウスは潤んだ瞳でラロルドを見上げる。

 

ラロルド『あ…悪い。』

 

頭を掻くラロルド。

 

ラロルド『だけどよ。このままこの酒場ビルにずっとこいつを置くと迷惑にならないか?』

 

眼を見開き、口を開けるファウス。

 

ファウス『あっ!ど、どうすれば…。』

エイミー『さっきから、随分とヨーケイ城に拘るけど…。』

 

床を見つめるファウス。

 

ファウス『僕、ヨーケイ城攻略作戦に参加しないといけないんです。でないと僕は駄目になってしまう…。』

 

顔を見合わせるラロルドとエイミー。

 

ラロルド『だけど金がなければなんにもできない。…いっそこの人型機構とか、身の回りのものを売った方がいいんじゃないか?』

 

顔を上げるファウス。

 

ファウス『売るなんてそんな!これは受領した大切な物です。』

ラロルド『だけどさ。金がなけりゃ、結局…。』

 

一歩前に出るエイミー。

 

エイミー『売らなくても、これを担保にお金を借りることはできるわ。』

 

エイミーの方を向くラロルドとファウス。

 

エイミー『質屋を使うのよ。私もよく使ってるけど…。ようは、品物を質屋に預けて金を借りる。返済できなければその品物は質屋のものとなる。取り戻すためにはヨーケイ城で手柄を立て金銀財宝を得ればいいわけでしょ。』

 

エイミーを見つめるラロルドとファウス。ラロルドはエイミーに近づく。

 

ラロルド『あれ、俺の調度品がよく無くなってると思ったら…。』

 

ラロルドはエイミーのこめかみに握り拳をあてて回す。

 

ラロルド『お前なあ!』

エイミー『いたたたた。ご、ごめんなさい。ごめんなさい!もうしませんってば。』

 

立ち上がるファウス。

 

ファウス『エイミーさん。ラロルドさん。ありがとうございます。』

 

一礼するファウス。

 

ファウス『僕、その質屋って所に行ってみます。』

 

顔を見合わせた後、ファウスを見るエイミーとラロルド。

 

エイミー『なんなら私たちも行こうか?』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『本当ですか?』

 

深く頭を下げるファウス。顔を見合わせて、頷くラロルドとエイミー。

 

C3 仲間

C4 正体

 

ノーミ市南プラザ、酒場ビル駐車場。ファウス機に燃料を入れるロードサービスギルドの職員A。コックピットのハッチの中、箱を開け、中の物を取り出すラロルドとエイミー。彼らを見つめるファウス。

 

ファウス『何から何まで、申し訳ありません。』

 

服を広げるラロルド。

 

ラロルド『何、いいってことよ。』

エイミー『そうそう。お金は、後で私たちに払えばいいから。』

ラロルド『お、これは値打ち物だな。』

エイミー『あんた、目利きの才能あったけ。』

 

眉を顰めるラロルド。

 

ラロルド『馬鹿にするな。これでも俺は盗賊暦14年だぜ。』

エイミー『はいはい。泥棒暦のはなしね。』

ラロルド『泥棒言うな。』

 

ファウスはラロルドとエイミーの方に近づく。

 

ファウス『あの・・・。』

 

ファウスを見上げるラロルドとエイミー。

 

ファウス『まだ。自己紹介をしていませんでした。』

ラロルド『ああ、そいうえば。』

エイミー『そういえば、そうね。』

 

ファウスはラロルドとエイミーを見つめる。

 

ファウス『僕、ファウスっていいます。』

 

頷くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『ファウス…。』

エイミー『…ファウス。』

 

ファウスは首を傾げる。

 

ファウス『あのどうかなさいましたか?』

 

首を横に振るラロルドとエイミー。

 

ラロルド『いや、別に…ただ…。』

 

ファウス機のコックピットのハッチに現れるロードサービスギルドの職員A。

 

ロードサービスギルドの職員A『この度はロードサービスギルドをお使いいただきありがとうございます。』

 

ロードサービスギルドの職員Aの方を向くファウス達。

 

ロードサービスギルドの職員A『全部で37レデルになります。』

 

エイミーはラロルドの方を向く。舌打ちするラロルド。

 

ラロルド『しょうがねえな。』

 

ラロルドは立ち上がり、懐からウォレットチェーンのついた財布を出してロードサービスギルドの職員Aに37レデルを渡す。

帽子を取って一礼するロードサービスギルドの職員A。

 

ロードサービスギルドの職員A『まいど。』

 

去って行く。ロードサービスギルドの職員A。立ち上がり、ラロルドに一礼するファウス。

 

ファウス『ありがとうございます。』

ラロルド『気にするなって。後で返してもらうから。』

 

ラロルドは座り、服を物色する。ファウスはラロルドの方を向く。

 

ファウス『あの、僕も手伝ったほうが・・・。』

 

笑顔を作り、首を横に振るラロルド。

 

ラロルド『別にいいんだよ。俺達が仕分けしとくから。』

 

綺麗な洋服を取り出すエイミー。

 

エイミー『あー、この服かわいいじゃない。』

 

ファウスを見つめた後、ラロルドのほうを見つめ、口に手を当てるエイミー。

 

エイミー『だ、大丈夫。大丈夫。私達に任せておいて。ね。』

ファウス『でも、こんなことまでしていただいて・・・僕。』

 

咳払いをするラロルド。

 

ラロルド『あー、ん。なら、ラジオか音楽かけてもらえないかな。』

 

首をかしげるファウス。

 

エイミー『ほら、音楽とかあると早く仕事が片付きそうだから、ね。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『あ、はい。』

 

ファウスはファウス機を起動させる。ラロルドに耳打ちするエイミー。機器のボタンを押すファウス。エイミーは箱の底からアレス王国の軍服を取り出す。

 

エイミー『あ、軍服よ。これ結構高価な・・・。』

ラロルド『どれどれ・・・。』

 

ラロルドとエイミーの方を向くファウス。

 

ファウス『あの、選局は何処にします?』

エイミー『何処でもいいわよ。適当に。』

 

機器の方を向くファウス。

 

ファウス『適当・・・。』

 

アレス王国の軍服を広げるラロルド。

 

ラロルド『・・・この紋章は。』

 

青ざめるラロルド。

 

エイミー『どうしたの?』

 

ラロルドはエイミーに耳打ちする。青ざめるエイミー。彼らはファウスの方を見つめる。

 

ファウス『・・・えっと、ここでいいかな。』

ラジオの声『・・・ここで一昨日の晩から寝かせておいたレトルトカレーを使ってカレーの完成となります。』

 

ラロルドとエイミーの方を見つめ微笑むファウス。苦笑いして軽く頭を下げるラロルドとエイミー。

 

ラロルド『そ、そろそろ行こうぜ』

エイミー『そ、そうですよ。…よ。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『…どうしたんですか?』

 

眉を顰めるファウス。

 

ファウス『…選局が気に入りませんでした?』

 

首を横に振るラロルド。

 

ラロルド『いえ、いや、別に!』

エイミー『と、ともかく、い、行こうよ。行きながらでも仕分けできるからね。』

 

 

首を傾げるファウス。

 

ラロルド『そ、そうそう。質屋にも営業時間があるからね。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『…分かりました。』

 

ファウスは操縦席に座る。動き出すファウス機。ラロルドとエイミーは顔を見合わせて喉を鳴らす。

 

C4 正体 END

C5 質入

 

ノーミ市南プラザ駅。質屋オグロ駐車場に止まるファウス機。コックピットのハッチが開き、降り立つファウスに箱を持ったラロルドとエイミー。風に揺れる店舗の曇りガラスの前を歩き、正面の自動ドアから中に入るファウス達。カウンターに立つベージュのコートを着た女性。オグロの店員Aがベージュのコートを着た女性の顔を覗き込む。

 

オグロの定員A『あの本当に買取でよろしいんですか?』

 

ベージュのコートを着た女性の前に置かれているルビーの指輪。頷くベージュのコートを着た女性。

 

ベージュのコートを着た女性『これ、マジでいらないんで。』

オグロの定員A『はあ、そうですか。』

 

周りを見回すファウス達。オグロの店員Bがファウス達の前に歩み寄る。

 

オグロの店員B『いらっしゃいませ。』

 

オグロの店員Bの方を向くファウス達。

 

オグロの店員B『今日はどういったご用件で?』

ファウス『あの…。』

 

ファウスの前に出るラロルド。ファウスはラロルドの方を向く。エイミーがファウスの両肩を掴む。

エイミーの方を向くファウス。

 

エイミー『大丈夫。私たちに任せて。』

 

ウィンクするエイミー。

 

ファウス『は、はい。』

 

頷くファウス。

 

ラロルド『外にある人型機構とこの箱の中身のものと…。』

 

ラロルドから箱を受け取るオグロの店員B。

 

オグロの店員B『はい。』

 

ラロルドは親指で後ろを指す。

 

ラロルド『外に止めてあるヴェルクーク級の人型機構を質入したいんだけど。』

 

眼を見開くオグロの店員B。

 

オグロの店員B『人型機構!』

 

オグロの店員Bはファウス達に一礼する。

 

オグロの店員B『少々お待ちください。』

 

オグロの店員Bはオグロの店員Cの方を向く。

 

オグロの店員B『お~い。』

 

オグロの店員Bの傍らに駆け寄るオグロの店員C。

 

オグロの店員C『はい。』

 

オグロの店員Bはオグロの店員Cに箱を渡す。

 

オグロの店員B『これの査定と…店長を呼んできてくれ。』

 

頷くオグロの店員C。

 

オグロの店員C『は、はい。』

 

駆けていくオグロの店員C。オグロの店員Bはファウス達の方を向く。

 

オグロの店員B『それではこちらへ。』

 

オグロの店員Bについて応接間に行くファウス達。

 

オグロの店員B『それではこちらでおかけになって少々お待ちください。』

 

ソファに座るファウス達。オグロの店員Bは一礼して去って行く。ラロルドは懐から煙草を取りだし、ライターで火をつけて咥える。

応接間に現れるオグロの店長。

 

オグロの店長『この度は当店をご利用いただきありがとうございます。』

 

灰皿に煙草を押し付けるラロルド。

 

オグロの店長『これより査定を開始しますので暫くお待ちください。』

 

頷くラロルドとエイミー。ファウスはオグロの店長の方を向いて会釈する。

 

ファウス『お願いします。』

 

一礼して去って行くオグロの店長。ファウスの方を見つめるラロルドとエイミー。ファウスはラロルドとエイミーの方を向く。

 

ファウス『どうかしましたか?』

 

首を横に振るラロルドとエイミー。

 

エイミー『何でもありませんことよ。オホホホホ。』

 

応接間に現れるオグロの女店員A。

 

オグロの女店員A『失礼します。お飲み物はいかがですか?』

 

オグロの女店員Aの方を向くファウス達。

 

ラロルド『コーヒーで。』

エイミー『私は紅茶。』

 

ファウスの方を向くオグロの女店員A。

 

オグロの女店員A『どれになさいます?』

 

ファウスはオグロの女店員Aの方を見つめる。

 

ファウス『何がありますか。』

 

エイミーがファウスの前にドリンクのメニューを置く。エイミーに一礼するファウス。

 

ファウス『ありがとうございます。』

 

ファウスはドリンクのメニューを見つめる。

 

ファウス『それでは…えっと、オレンジ…ジュースをお願いします。』

 

一礼するオグロの女店員A。

 

オグロの女店員A『かしこまりました。』

 

去って行くオグロの女店員A。

 

店内を見回すファウス。腕組みをするラロルド。ラロルドを向くエイミー。ファウスはラロルドとエイミーの方を向く。

 

ファウス『あのラロルドさんとエイミーさん。』

 

ファウスの方を向くラロルドとエイミー。

 

ファウス『本当にありがとうございます。』

 

頭を深く下げるファウス。

 

ラロルド『お、おおう。別にいいさ。ただし、ガソリン代は返してくれよ。』

 

顔を上げるファウス。

 

ファウス『それはもちろん。』

 

応接間に現れるオグロの女店員A。オグロの女店員Aはコーヒー、紅茶、オレンジジュースを配る。

一礼するオグロの女店員A。

 

オグロの女店員A『失礼します。』

 

去って行くオグロの女店員A。

 

ラロルド『見積りじゃ7000レデル86ガルド。』

エイミー『ええ、そんだけ。あの軍ぷ…。』

ラロルド『結構いい値がつきそうな服はいっぱいあったが。』

 

ラロルドはエイミーを一瞬睨む。エイミーは首をすくめる。

 

ファウス『そうですか。』

 

オレンジジュースを両手で持ってストローで吸うファウス。紅茶をすすり、ラロルドに目くばせするエイミー。コーヒーをすすり、ファウスを見るラロルド。

ファウスは顔を上げる。

 

ファウス『ここから徒歩でヨーケイ城までどの位かかるんですか?』

 

ラロルドはコーヒーを置く。

 

ラロルド『まあ、徒歩なら2、3日ってところだろ。途中で峠を二回超えなきゃならないからな。

 

下を向くファウス。

 

ラロルド『ま、心配はないさ。』

エイミー『そ、そうよ。必ず間に合うから。気を落とさないで。』

 

暫し沈黙。

 

応接間に現れるオグロの店長。

 

オグロの店長『大変お待たせして申し訳ありません。査定が終わりましたので受付の方へ。』

 

オグロの店長についていくファウス達。

 

オグロの店長『全部で3万8891レデル89ガルドとなります。』

 

眼を見開き、ラロルドとエイミー。

 

ラロルド『3万…!』

エイミー『…すごい。』

オグロの店長『満月決算となるので、今日より1ヶ月をすぎますと質流れ、あなた様の品物が我々のものとなりますのでご了承ください。』

ファウス『はい。』

 

ファウスは頷いて紙袋に入った金銭と書類を受け取り、見つめる。ファウスと金銭を見つめた後、顔を見合わせるラロルドとエイミー。

 

ファウスはラロルドとエイミーの方を向く。

 

ファウス『あの、これガソリン代です。』

 

ファウスは紙袋から37レデルを取り、ラロルドに渡す。

 

ラロルド『あ、ああ。』

 

C5 質入 END

C6 流転

 

質屋オグロを出るファウス達。ラロルドは懐から煙草を取り出してライターで火をつけ、口に咥え、エイミーの方を向く。ラロルドに近づくエイミー。ファウスはラロルドとエイミーの方を向いて微笑んで、頭を深く下げる。ファウスの持つ金の入った紙袋を見つめるラロルドとエイミー。

 

ファウス『ラロルドさんとエイミーさん。本当にありがとうございました。』

 

エイミーに耳打ちするラロルド。

 

エイミー『そうねえ。』

 

ラロルドはファウスを見つめる。

 

ラロルド『だいたい危ないだろ。こんな所で…大金をやっすい紙袋に入れるなんて。危なっかしくて見てられねえよ。』

 

眼を見開き、紙袋を見つめるファウス。

 

ファウス『あっ。』

ラロルド『専用のケース買った方がいいぜ。ま、それか銀行に預けるかとかだな。』

ファウス『そう…ですね。』

エイミー『それにヨーケイ城に行くんでしょ。』

 

頷くファウス。

 

ラロルド『どうなってるか情報がいるな。ついて来いよ。情報街に案内してやるぜ。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『えっ!』

ラロルド『何だ?その顔は…。』

 

ラロルドとエイミーを見つめるた後、下を向くファウス。

 

ラロルド『お、おいどうしたんだ?』

 

涙を流すファウス。彼は腕で涙をぬぐう。

 

エイミー『わ、私たち何か悪いことした?』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『違います。嬉しいんです。こんなによくして頂いて…。』

 

ファウスを見つめるラロルドとエイミー。ファウスはラロルドとエイミーに深々と頭を下げる。

 

ファウス『是非ともお願いします。』

 

2、3回頷くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『あ、ああ。』

エイミー『え、ええ。』

 

 

ノーミ市情報屋街。占い師や情報屋達がまばらに道の両脇に並ぶ。前を行くラロルドとエイミー。周りを見回す金の入ったショルダーバックを持つファウス。ファウスはラロルドとエイミーの方を向く。

 

ファウス『ここが情報街なんですね。』

 

頷くラロルド。

 

ラロルド『ああ。』

エイミー『それにしてもさびれてるわね。』

ラロルド『あたりまえだろ。買い手がこぞって出て行っちまったんだから。』

 

エイミーは頭に手を当てる。

 

エイミー『あ、そっか。』

 

ラロルドはファウスの方を向く。

 

ラロルド『さてと、着いてきな。』

ファウス『はい。』

 

ラロルドとエイミーに付いていくファウス。ラロルドは情報屋Aを見つめる。

 

ラロルド『ちょっとあいつと交渉するからな。』

 

頷くファウス。情報屋Aの前に行くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『よう久しぶりだな。』

情報屋A『おうこそ泥にノーコン。それに…。』

 

情報屋Aは顎に手を当て、ファウスを眼を細めて眺める。ラロルドはファウスを親指で指さす。

 

ラロルド『ああ。ファウスってんだ。』

 

ファウスは情報屋Aを見つめる。

 

ファウス『ファウスです。宜しくお願いします。』

 

2、3回頷きながら、目を細めファウスを眺める情報屋A。

 

情報屋A『…ほっほう。ファウスちゃんね。』

 

首を傾げるファウス。エイミーが一歩前に出る。

 

エイミー『で、景気はどうなの?』

情報屋A『ま、見ての通りさ。』

エイミー『ほんと閑散としてるわね。』

 

情報屋Aは空に人差し指を向ける。

 

情報屋A『が、すぐに賑わうさ。』

 

情報屋Aを見つめるファウス達。

 

情報屋A『…貴族連合はヨーケイ城の力攻めに失敗。』

 

眼を見開くファウス達。

 

ファウス『そんな!』

 

ファウスは情報屋Aに詰め寄る。

 

ファウス『き、貴族連合は負けたんですか?』

 

首を横に振る情報屋A。

 

情報屋A『違う違う。負けちゃいねえよ。たかが、一城ごときでよ。一時撤退で兵糧攻めに切り替えるそうだぜ。だから、まだチャンスがあると他国からのギルド連中が流入してくるってこった。』

 

腕組みするラロルド。

 

ラロルド『おいおい。冗談だろ。』

エイミー『あんなプレハブ小屋を落とせなかったて言うの?貴族連合ってたいしたことないのね。』

 

首を振る情報屋A。

 

情報屋A『バロー。モングからの総監が来てんだよ。』

 

眼を見開くファウス達。

 

ラロルド『モング!』

エイミー『モングってあの。』

ファウス『モング…。』

情報屋A『そ。チキン野郎が貴族連合にビビってモングに泣きついたらしいからな。で、総監を派遣したと。ま、最も狙いは別にあるだろうからな。』

ラロルド『狙いって??』

情報屋A『女を買ってるんだよ。…ま、おそらくモングの王への献上品にな。』

 

顎に手を当て、一瞬ファウスを見るラロルド。ラロルドはエイミーに耳打ちする。

ファウスを見た後、情報屋に詰め寄るエイミー。頷き、顎に手を当てるエイミー。

 

エイミー『なるほどね~。』

 

ファウスを見た後、頷く情報屋A。エイミーは情報屋Aに耳打ちする。情報屋Aはファウスの方を何回も向く。ファウスはラロルド達を見つめる。

 

情報屋A『ほう。いや、そりゃ残念。』

 

更に耳打ちするエイミー。ファウスを一瞬見る情報屋A。

 

情報屋A『そりゃ、いい考えだが…。』

 

更に耳打ちするエイミー。目を見開く情報屋A。

 

情報屋A『まじか。そりゃ…。』

 

エイミーは情報屋Aの前で手を合わせる。

 

エイミー『ねっ。』

情報屋A『なるほどな。だがよ。相場と取引方法はこっちも捜索中だぜ。』

 

情報屋Aはエイミーとラロルドを見つめ、笑い出す。

 

情報屋A『しっかし、てめえらあいつらみたいなだ。』

 

眉を顰めるラロルドとエイミー。

 

ラロルド『あいつらって!?』

 

上体を前に出す情報屋A。

 

情報屋A『ウィンダム諜兵団。ここにも…。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『ウィンダム…。』

 

腕組みをするラロルド。

 

ラロルド『ウィンダムっていや、ロズマールの大将軍か。』

 

頷く情報屋A。

 

エイミー『ええ?いい噂聞かないわよ。』

ラロルド『味方に誘った兄弟弟子を革命の首謀者に仕立て上げ、敵の指揮官に差し出して褒美を貰ったり、どっかの芸術家のアパートが化け物化した際、警察も軍も手におえないところで

高額な報酬をふっかけたんだろ。金払わなきゃいくら人が死んでも動かなかったって話だぜ。あと、死んだ仲間を剥製にしてオークションにかけたりとか。』

情報屋A『そ、世界強武の癖に最低最悪、卑怯卑劣なクズ野郎だな。』

 

情報屋Aはファウス達を見つめる。

 

情報屋A『だが、奴の情報は正確だ。』

 

首を傾げるエイミー。

 

エイミー『本当に?そんな奴の情報、あてになるの?』

 

上体を前に出す情報屋A。

 

情報屋A『馬鹿野郎!ウィンダム諜兵団ってのは俺ら情報屋業界にとってはブランドだぞ。正確な情報だ。だから法外な値段をふっかけてくる。』

エイミー『だったら、そいつが動けばすんじゃう事じゃない。』

 

首を横に振る情報屋A。

 

情報屋A『…貴族連合という一つに戦果を認めてもらって褒美を貰うのと、ギルドとかの多数から情報を元手に金をふんだくるのとどっちが安全でかつ確実に儲かると思う?』

エイミー『あ、ああ。』

 

頷くエイミー。

 

情報屋A『ヨーケイ城で貴族連合撤退の情報を知るやいなやすぐに各地に来たようだからな。がめついやつらさ。』

 

情報屋Aはラロルドとエイミーを見つめる。舌打ちするラロルド。しかめっ面のエイミー。

 

情報屋A『ま、ここにも来てるぜ。ウィンダム諜兵団。何でもヨーケイ城とかモングの総監の情報に関する情報をを2万レドルで売ってるってこった。』

エイミー『2万…。』

情報屋A『そ、値は張るが正確な情報だし、俺らはまだ、さっき言った情報しか手に入れてないからな。』

 

一歩前に出るファウス。ファウスの方を見て口に手を当てるラロルドとエイミー。ファウスは眼を見開いて立ち上がる。目を見開く情報屋A。ファウスは情報屋Aにつめよる。

 

ファウス『教えてください!そのウィンダム諜兵団の方々はどこにいるんですか!?僕には…僕にはやらないといけないことが!しないといけない責務があるんです!それが…僕の…。』

 

眼を見開き、頭に手を当てるラロルドとエイミー。

 

情報屋A『ああ。』

 

情報屋Aは角に立つグランドキャニオンホールホテルを指さす。

 

情報屋A『あそこのグランドキャニオンホールホテルに居るが…。』

 

一礼するファウス。情報屋Aはラロルドとエイミーの方を見回す。

 

ファウス『ありがとうございます。』

 

駆けていくファウス。

 

エイミー『ちょっと!待ちなさい!!』

ラロルド『お、おまっ!ちょっと!考え直せ!!』

 

情報屋Aは立ち上がりエイミーとラロルドの方を見た後、彼らに耳打ちする。

 

C6 流転 END

C7 情報

 

ノーミ市情報屋街。グランドキャニオンホールホテルを見上げるファウス。駆けてくるラロルドとエイミー。

 

エイミー『おお~い。』

ラロルド『待ってくれよ。』

 

ファウスは彼らの方を向く。

 

ファウス『ラロルドさんにエイミーさん。』

 

ラロルドとエイミーはファウスの前で息を切らす。

 

ラロルド『俺達を置いていくなんて酷いじゃないか。』

 

ファウスはラロルドとエイミーを見つめる。

 

ファウス『すみません。』

 

ラロルドとエイミーはファウスの持っている金の入ったショルダーバックを見つめる。

 

ラロルド『お前、その金の価値を本当に分かってんのか?並の人型機構を2機買ってもお釣りがくるんだぞ。』

エイミー『本当にそんな大金を…そのうち皆が知るかもしれない情報に使っちゃっていいのね。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『はい。分かっています。でも、ここから先は僕の問題なんです。』

 

頭を掻きながらファウスを見つめるラロルド。

 

ラロルド『何だ。水臭いじゃないか。』

 

頷くラロルドとエイミー。

 

エイミー『私たち相談したんだけど…ま、そのヨーケイ城に行ってもいいかな~って。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『えっ!』

 

腕組みするラロルド。

 

ラロルド『ああ、無論、金はかかるが…。一人頭月額2300レデルだ。それに俺もエイミーもヨーケイ城には何回も潜入してるんだ。』

エイミー『どう?雇ってみる?2人合わせて4600レデルだけど、2万の情報料を払ってもお釣りは来るわ。』

 

ラロルドとエイミーを見つめるファウス。

 

ファウス『本当によろしいんですか?』

 

頷くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『ああ。』

エイミー『もちろん。』

 

下を向くファウス。

 

ラロルド『お、おいどうしたんだ?』

 

涙を流すファウス。彼は腕で涙をぬぐう。

 

エイミー『わ、私たち何か悪いことした?』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『違います。嬉しいんです。こんなによくして頂いて…。』

 

ファウスを見つめるラロルドとエイミー。ファウスはラロルドとエイミーに深々と頭を下げる。

 

ファウス『是非ともお願いします。』

 

2、3回頷くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『あ、ああ。』

エイミー『え、ええ。』

 

ラロルドとエイミーはグランドキャニオンホールホテルを見上げる。

 

ラロルド『じゃ、行こうか。』

 

頷き、グランドキャニオンホールホテルを見上げるファウス。

 

ファウス『はい。』

ラロルド『その前に雇用料な。』

 

ラロルドの方を見て頷き、お金の入ったショルダーバックに手を入れるファウス。

 

 

グランドキャニオンホールホテルの受付に立つファウス達。グランドキャニオンホールホテルの職員Aが一礼する。

 

グランドキャニオンホールホテルの職員A『いらっしゃいませ。今日はどんなご用件で。』

 

一歩前に出るファウス。

 

ファウス『はい。ヨーケイ城について知りたいんです。』

グランドキャニオンホールホテルの職員A『ヨーケイ城…。』

 

受付のカウンターに肘をつけるラロルド。

 

ラロルド『こっちにウィンダム諜兵団の奴らが居るはずなんだが。』

グランドキャニオンホールホテルの職員A『ああ、ウィンダム諜兵団の方々ですか。』

エイミー『そいつらから情報を買いたいのよ。』

グランドキャニオンホールホテルの職員A『ああ。』

ラロルド『そ、情報。何でも2万レデルの高い情報。俺達ははそれを買いに来たんだ。』

 

頷くグランドキャニオンホールホテルの職員A。

 

グランドキャニオンホールホテルの職員A『分かりました。少々おまち下さい。』

 

グランドキャニオンホールホテルの職員Aが屈んで受話器を取る。彼の後ろに居るいる黒ずくめのローブを被り、青白い肌をしたウィンダム諜兵団のネクロ。

 

ネクロ『ほう、情報を我々からお買い求めですか。』

 

眼を見開き、後ずさりするファウス達、飛び上がるグランドキャニオンホールホテルの職員A。

 

グランドキャニオンホールホテルの職員A『うわぁ!驚かせないで下さいよ!ネクロ様。』

ネクロ『ぴょるぴょるぴょる。』

 

胸をなでおろすグランドキャニオンホールホテルの職員A。

 

ラロルド『い、いつのまに?』

エイミー『…あ、あんた誰よ?』

 

グランドキャニオンホールホテルの職員Aしか居ないグランドキャニオンホールホテルの受付の方を向くファウス達。

 

エイミー『あれぇ…。』

 

周りを見回すファウス。

 

ネクロ『ぴょるぴょるぴょる。』

 

飛び上がるエイミー。

 

エイミー『ひにゃい!』

 

エイミーの方を向くファウスとラロルド。エイミーの後ろに立つネクロ。

 

エイミー『ひっ、あ、あんたいつの間に!!心臓が止まると思ったじゃないのよ!!』

ネクロ『心臓が止まれば好都合。いい材料となりますて…おっと。』

 

身構えるファウス達。

 

ネクロ『おお。失礼。職業柄ねえ。ぴょるぴょるぴょる。』

 

ネクロに駆け寄るラロルド。

 

ネクロ『いけすかねえ野郎だな。』

 

ラロルドはネクロの胸ぐらを掴む。

 

ネクロ『おやおや。』

 

ファウスの後ろをタロットカードを切りながら歩いているネクロ。ネクロは逆さまのカードを一枚引く。

 

ネクロ『占いではフォレスト王国の各ギルドが忙しくなると出ていますねぇ。』

 

ラロルドはネクロの方を向いた後、正面を向く。眉を顰めるラロルド。ネクロはファウスの持った金の入ったショルダーバックに人差し指を掛けて中を見る。

 

ネクロ『…おお、まだ子供なのにこんな大金を。』

 

立ち上がりラロルドとエイミーの方を向くネクロ。

 

ネクロ『悪い大人に目を付けられなければ良いのですがねぇ。』

 

ネクロを睨むラロルドとエイミー。ファウスはネクロを見上げる。

 

ファウス『あなたは?』

 

一礼するネクロ。

 

ネクロ『これは失礼。私、ウィンダム諜兵団のネクロと申します。』

 

ファウスはネクロに詰め寄る。

 

ファウス『教えてください!ヨーケイ城の事を。』

 

ファウスを見下ろすネクロ。ネクロはファウスの顔を見つめる。

 

ネクロ『おや。』

 

喉を鳴らし、少し震えるファウス。ネクロはファウスを見るラロルドとエイミーの方を見た後、しゃがんでファウスの両肩を掴む。眼を見開くファウス。ファウスを見つめるネクロ。ネクロはショルダーバックのねじれた肩紐を直す。

 

ネクロ『ねじれていますよ。』

 

ファウスはネクロを見つめる。

 

ファウス『あ…。す、すみません。ありがとうございます。』

 

立ち上がるネクロ。

 

ネクロ『さて、あなた方が買おうとしている情報は、今は非常に価値の高いものですが、時がすぎれば紙屑以下のもの。後は史家といった好事家達が価値を見出すだけのものとなる無意味な物。』

 

喉を鳴らすラロルドとエイミー。

 

ネクロ『それでも、欲しいですか?』

 

ネクロを見つめるファウス達。

 

ファウス『はい。』

 

口角を上げるネクロ。

 

ネクロ『そうですか。そうですか。それでは前金で2万レドル頂いておきましょう。』

 

ファウスの持ったショルダーバックからレドル紙幣が舞い、ネクロの掌に落ちる。

 

ネクロ『お買い上げありがとうございます。それでは。』

 

消えるネクロ。周りを見回すファウス達。ラロルド駆けて、ネクロの居た位置に立つ。

 

ラロルド『あ、あのやろ!』

エイミー『ちょ、ちょちょ!情報は?2万の情報は??』

 

ファウス達の前にある中央に天秤の描かれている扉が開く。

 

ネクロの声『どうぞ。お入りください。』

 

眉を顰めるラロルド。

 

ラロルド『いつの間に?』

 

顔を見合わせ頷き、中に入って行くファウス達。

 

 

ネクロの部屋。怪物の頭蓋骨や人間の頭部、及び四肢の剥製が並んで飾られている。周りを見回すファウス達。

 

エイミー『げぇ、このホテルって客相手にこんなもんを飾ってんの。趣味悪~。』

 

部屋の中央には骨でできた机が置かれ、両脇には生物の皮でできたソファ。部屋を見回すラロルド。

 

ラロルド『…あいつは?』

 

扉の閉まる音。ラロルドの後ろに立つネクロ。

 

ネクロ『ぴょるぴょるぴょる。失礼な。これは私の部屋ですよ。最も備品はレプリカですけどね。』

 

飛び上がるラロルド。

 

ラロルド『うわぁ!』

 

ファウスに飛びつくエイミー。

 

エイミー『ひぎゃぁ!』

 

倒れるファウス。

 

ファウス『あうっ!』

 

ラロルドは握り拳を上げる。

 

ラロルド『て、てめぇ!』

 

ソファに座っているネクロ。

 

ネクロ『これは失礼。ささ、どうぞ。お座りください。』

 

舌打ちするラロルド。

 

ラロルド『まったく、死人みたいに気配のしない奴だぜ。』

 

起き上がり、ファウスの方を向くエイミー。

 

エイミー『あ、ごめん…。痛かった?』

 

ファウスは首を横に振る。

 

ファウス『大丈夫です。』

 

立ち上がるファウス。彼らはソファに座り、ネクロを見つめる。

 

ネクロ『まあ、まず。ヨーケイ城攻略作戦後、フォレスト王国は非常に忙しくなりますよ。』

 

ネクロは逆さまになった審判のカードを机の上に置く。ネクロを睨み付けるラロルド。

 

ラロルド『ああ?おいおい、忙しくなるって、そんな事は、俺達は知っている。他国の連中が入ってくるんだろ。たくっ、2万払って下らない占い聞きに来たんじゃないんだよ!』

 

机を叩くラロルド。エイミーは机の上のタロットカードを見つめる。

 

エイミー『逆さまの審判…。』

ネクロ『ええ。』

 

舌打ちするラロルド。

 

ラロルド『何だ?そのカードがどうしたって?』

 

机の上のタロットカードを見つめるファウス。

 

ファウス『…これって、悪い知らせじゃ。』

 

頷くネクロ。

 

ネクロ『その通り。』

 

ネクロを睨み付けるエイミー。

 

エイミー『な、何よ!だらだらとしないで!もったいぶらずにいいなさいよ!』

 

ファウスはネクロを見つめる。

 

ファウス『悪い知らせで…フォレスト王国が忙しくなる…。』

 

頷くネクロ。

 

ネクロ『…病院や教会、棺桶屋、モルグ…そして私の稼ぎ時…おっと。』

 

震えるファウス。ファウスはネクロを見つめる。

 

ファウス『…ネクロさん。』

 

ファウスを見るネクロ。

 

ネクロ『どうかなさいましたか?』

ファウス『…それは、まさか貴族連合が大量の死傷者を出して敗北したってことですか?』

 

眼を見開くラロルドとエイミー。立ち上がるラロルド。

 

ラロルド『おいおい!馬鹿を言うんじゃないぜ、あのプレハブ小屋みたいな城のどこに敗因があるってんだ?なあ。』

エイミー『いくらモングからの総監が来たって…。』

 

拍手するネクロ。

 

ネクロ『御名答。貴族連合はヨーケイ城攻略作戦において大量の死傷者を出して敗北。その大半がフォレスト王国のギルド連中。忙しいが稼ぎ時、おっと。』

エイミー『じょ、冗談よ!だってさ、私たちはそんな事、全く知らないし、デマじゃないの…。』

ネクロ『知らないのは当たり前。貴族連合が面子の為に情報封鎖しましたからね。だからこの情報は価値がある。』

ラロルド『どうしてだよ!あんなところに、あんなプレハブ小屋、いくら優秀な軍人でも守り切れないだろ?』

 

ネクロは机の上にヨーケイ城の見取り図を置く。ソファに座るラロルド。ファウス達はヨーケイ城の見取り図を見る。

 

ラロルド『…これは、城の地図か?しかし、どこの城だ?こんな立派な…。』

ネクロ『それはヨーケイ城の地図ですよ。』

 

眉を顰めるラロルド。

 

ラロルド『おいおい、冗談言うなよ。あそこは城とは言えない…。』

ネクロ『モングから来た総監が一夜の突貫工事で仕上げました。』

 

資料を掴み、顔を上げるファウス。

 

ファウス『一夜でこんな城を…。』

 

頷くネクロ。喉を鳴らすラロルド。地図を見つめるファウス達。ネクロは懐からモング国総監で片目に眼帯を掛けた烏骨鶏人のキンシンの資料を取り出す。

 

ネクロ『これは我々も苦労して入手した情報を基に作成した資料。モングの総監。名はキンシン。部族間争いの鎮圧に功があり、国境線上でも指揮官の一人としてゼウステス王国のフテネと渡り合い、

今は、貴族連合の28回の攻撃を挫き、小部隊による陣への夜襲・奇襲を数十回仕掛けるなど非常に優れた軍人です。貴族連合はバルサン関に引きこもり、厭戦気分が蔓延、貴族は後ろから撃たれそうになるくらいに憎まれたもんですよ。』

ラロルド『…げっ、そんな奴だったのか。』

エイミー『てっきり、女好きのただのおっさんかと…。』

 

ラロルドはネクロを見つめる。

 

ラロルド『でもよ、ヨーケイ城に居るのはそのキンシンとかいう総監と、鶏に部下たちだけだろ。どうせ裏ルートから来たんだ。味方もいない。持久戦に持ち込めば…勝敗ははっきりしている。俺達には他ギルドからの援軍もあるわけだし…。』

 

首を横に振るネクロ。

 

ネクロ『まあ、ことはそうとも行かず、偽王子事件の…。』

 

眼を見開き、俯くファウス。

 

ネクロ『飛び火で、各国で反乱、特にロメン帝国は酷い内乱が起き、傭兵、冒険者にとっては稼ぎ時ですねぇ。正規兵の殺し合いが続き、雇用はそちらに奪われるかもしれません。』

 

眉を顰めるラロルドとエイミー。

 

ネクロ『それに、彼らの侵入ルートですが、どうやらゼウステス領の様ですよ。』

 

眼を見開くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『ゼ、ゼウステス。』

エイミー『ゼウステス!え、え、何で?』

ネクロ『恐らく対応を見せようとしない貴族連合への牽制の為。通行条約程度を水面下で結んだのでしょう。』

 

後頭部に両手を添えて上を見るラロルド。

 

ラロルド『あ~あ、つまり、偽王子事件が無けりゃ、こんな事にはならなかったってことか。』

エイミー『まあ、確かに。でも、それじゃゼウステスの王さんが殺されたり、ヨーケイ城攻略っていうことも起きないわけじゃん。』

ラロルド『確かにな。』

 

頭を抱えるファウス。ファウスを見つめるラロルドとエイミー。

 

ラロルド『おい。どうした?』

 

顔を上げるファウス。ファウスは彼らから目をそらす。

 

エイミー『本当にこんな奴とやるの?』

 

キンシンの資料を見つめるファウス。彼は顔を上げる。

 

ファウス『…はい。』

 

頷くラロルド。

 

ラロルド『そうこなくっちゃな。2万レドルが無駄になる。』

エイミー『実は私たちにいい考えがあるのよ。』

 

エイミーはネクロの方を見る。

 

エイミー『そこで、そのキンシンって総監が買ってる女の相場と取引方法を知りたいの。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『エ、エイミーさん。駄目です。それは危険すぎます。』

 

エイミーはファウスの方を向く。

 

エイミー『はぁ?私が行くって…無理無理無理。私ってガンナーでか弱い乙女だから、鳥野郎に抱かれたら死んじゃうわ。だから…。』

 

エイミーはファウスに耳打ちする。顔を真っ赤にするファウス。

 

ファウス『でも…そ、それは。ぼ、僕には似合いません。』

 

首を横に振るエイミー。

 

エイミー『大丈夫。似合うって。そりゃ、沢山仲か…見てきた私の眼が保証するわ。』

 

ラロルドに目くばせするエイミー。

 

ラロルド『それに…。』

 

ラロルドはヨーケイ城の地図を手に取る。

 

ラロルド『随分と堅牢そうだし、ここ人型機構が大量に攻めても落ちなかったんだろ。なら奴らと同じことをしても駄目だ。ましてや、俺達三人と並みの人型機構じゃ状況を打破することも難しいだろうし。』

 

ファウスはラロルドの方を向いて、頷く。

 

ファウス『確かにそうです。けど、僕は…その。』

 

ネクロが口を開く。

 

ネクロ『ああ、悪いね。キンシンの買っている女の相場と取引方法だが…別途料金1万レデルで。』

 

眼を見開くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『おいおい。ここまで来てぼったくるのか!!2万払ってるんだぞ。』

ネクロ『いえ。ちゃんとヨーケイ城の地図とキンシンの資料は渡しましたから。それに取引においては偽装が必要。それをこちらがたった1万レデルで用意してあげるといっているのですよ。』

ラロルド『むむむ。』

ネクロ『我々が用意した偽装なら途中襲われることもありませんよ。』

 

眉を顰めた後、眼を瞑って頷くラロルド。

 

ラロルド『…ふ、お前ら。なるほどな。』

 

エイミーはファウスの方を向く。

 

エイミー『…ファウス。この1万レデルの情報は今の、貧弱な私たちにとって非常に必要なものなの。』

ファウス『はい。』

 

ファウスの傍らに寄るラロルド。

 

ラロルド『怖気づくのも無理はねえ。実際、何万人も殺してきた連中だ。』

 

眼を見開き、立ち上がるファウス。

 

ファウス『僕、やります。』

 

ファウスを見つめるラロルドとエイミー。ネクロは呪文を唱える。ファウスのショルダーバックからレドル札が、ネクロの掌に乗る。

 

C7 情報 END

C8 変装

 

ノーミ市、北プラザ。クロスホテル。103号室。ベットに座るエイミー。床に座るラロルド、手前にはヨーケイ城の地図とキンシンの資料。立っているファウス。ファウスを見るラロルド。

 

ラロルド『座りな。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『はい。』

 

座るファウス。

 

ファウス『あの、ヨーケイ城に潜入するまでは分かりました。でも、それからどうすれば?』

 

ファウスを見つめるラロルド。

 

ラロルド『そんなもん決まってるじゃねえか。夜陰に紛れてキンシンを討つ!』

 

ラロルドを見つめるファウス。

 

ファウス『討つって?』

エイミー『そそ、倒すってこと。』

ラロルド『後は、首を取ってキ連に献上すりゃいい。』

 

俯くファウス。

 

ファウス『…殺すってことですか?』

ラロルド『まあ、そうなるだろうな。』

 

暫し、沈黙。

 

ラロルド『おいおい。城内は敵だらけなんだ。』

エイミー『そうよ。騒がれる前に殺るの!』

ラロルド『生ぬるい事を言ってたら、こっちが殺されちゃうわ。寝首を掻くの。寝首を!』

 

顔を上げるファウス。

 

ファウス『…いえ、僕に考えがあります。あの用意していただきたいものがあるんです。』

 

顔を見合わせるラロルドとエイミー。

 

 

ノーミ市、北プラザ。クロスホテル。103号室。シャワーの音が止み、浴室の扉が開く。銀髪を水に濡らし、体を伝わる水滴をバスタオルで拭くファウス

 

ファウス『あ、着替え、あっちだった…。』

 

入口の扉が開き、現れる手一杯の荷物を持ったラロルドとエイミー。彼らはファウスを凝視する。

顔を真っ赤にして、バスタオルで体を隠すファウス。

 

ファウス『す、すみません!すぐに着替えてきます。』

 

奥へ駆けていくファウス。エイミーが手を伸ばす。

 

エイミー『ちょっと、ファウス。着替えるならこれにしてよ。』

ファウス『え、は、はい。』

 

バスタオルで前を隠すファウスの前に行くラロルドとエイミー。ファウスの前で手を合わせるエイミー。エイミーはファウスの前に黒いドレスを置く。

 

エイミー『ごめんね。これと頼まれたものを買うのにお金全部使い切っちゃった。』

ラロルド『まあ、心配ないさ。ヨーケイ城で手柄さえたてれりゃ。』

ファウス『はい。ありがとうございます。』

 

ファウスの目の前に女性ものの縞模様の下着を置くエイミー。ファウスは女性ものの下着を見つめる。

 

ファウス『あ、あの。う、ドレスはともかくとして…下着は…。』

 

ファウスを見つめるエイミー。

 

エイミー『ただでさえ危険な潜入なんだから、男ってばれたら殺されちゃうわよ。下着にも気を使わないと。』

ファウス『は、はい。』

 

ファウスに手を振って、ラロルドの手を引っ張るエイミー。

 

エイミー『じゃ、私たちはちょっと外すわね。』

 

ラロルドは自身を指さす。ラロルドを引っ張っていくエイミー。

 

ラロルド『んっ、俺もか。』

 

ファウスは下着を見つめる。

 

エイミー『そうよ。男の着替えなんて見て嬉しいの?』

 

ラロルドはファウスを見つめる。

 

ラロルド『えっ、いや…そりゃ。』

ファウス『あ、あのう。すみません。あのっ、この…このブラ、ブラジャーってどうつけるんですか?』

 

扉から顔を出しファウスの方を見るラロルドとエイミー。縞パンツを穿き、バスタオルで体を隠しながら、顔を赤らめてラロルドとエイミーの方を向くファウス。

笑みを浮かべるラロルド。

 

ラロルド『おい、こいつはいけるんじゃないか?』

 

頷くエイミー。

 

エイミー『ええ。』

ファウス『あの…。』

 

ファウスはラロルドとエイミーから目をそらし、床を向く。

 

エイミー『あー、待ってて、待ってて。』

 

エイミーはファウスの傍らに寄り、ファウスの胸にブラジャーを装着させ、ホックを締める。

 

エイミー『ああん。かわいいわよ。』

ラロルド『似合ってるな。』

 

顔を真っ赤にするファウス。

 

ファウス『こ、こんな格好…。』

 

ファウスはバスタオルで体を隠しながら黒いドレスを手に取り、見つめるファウス。

 

ファウスはエイミーの方を向く。

 

ファウス『あ、あの、このドレスどうやって着るんですか?』

 

エイミーはファウスを見下ろす。

 

エイミー『バスタオルを取らないと着れないわよ。えい。』

 

ファウスからバスタオルを取るエイミー。胸と股に手を当てるファウス。

 

エイミー『はいはい。立って立って。そんなんじゃドレスなんて着れないわよ。』

 

頷き、立ち上がるファウス。エイミーはファウスに黒いドレスを着せる。

 

ファウスを見つめるエイミー。

 

エイミー『わ、やっぱり似合うわ。』

 

エイミーはラロルドに目くばせする。ラロルドは姿見を持って来る。鏡の中に映る黒いドレスを着たファウス。

ファウスは顎に握り拳を添えて、眼をそらす。ファウスを見つめるエイミー。

 

エイミー『髪型変えてもうちょっとかわいくしちゃおっか。』

 

ファウスはエイミーを見つめる。

 

ファウス『か、かわいく…。』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『も、もう。これ以上は…。』

ラロルド『何言ってるんだ。髪型を変えれば、敵の眼が欺けるかもしれないぜ。例えば逃げる時に結った髪をほどきゃ少しは時間稼ぎになる。』

 

ファウスはラロルドを見つめる。

 

ファウス『そ、そうなんですか。』

 

頷くラロルド。エイミーはベットに腰かけ、シーツを叩く。

 

エイミー『さ、すぐ終わるから。』

 

頷き、エイミーの傍らに寄るファウス。エイミーはファウスの銀髪を櫛でとかし、ツインテールにしていく。下を向くファウス。目を見開くラロルド。

 

ラロルド『こりゃ上物だ。』

 

ラロルドを睨み付けるエイミー。ラロルドは口に手を当てる。笑みを浮かべるエイミー。

 

エイミー『鏡を見て見て。』

 

ファウスは顔をゆっくりと上げて鏡を見る。

 

ファウス『…これが僕!!?』

 

ファウスは顔を真っ赤にして下を向く。

 

エイミー『ね、これじゃ向こうもまさか男だとは思わないでしょ。』

ファウス『た、確かに…。』

ラロルド『が、そんなにそわそわしていて本当に計画は実行できるのか?』

 

ファウスはラロルドを見つめる。

 

ファウス『できます!』

 

ラロルドはファウスを見つめる。

 

ラロルド『本当か?女装したってだけでのぼせ上がるのに。』

 

俯くファウス。

 

エイミーはラロルドの小腹を小突く。顔を上げるファウス。

 

ファウス『…やります。』

 

ラロルドとエイミーを見つめるファウス。手を払うラロルド。

 

ラロルド『分かった分かった。』

 

ラロルドはファウスを見つめる。

 

ラロルド『今のお前なら大丈夫だ。』

 

胸に手を当てるファウス。

 

ファウス『はい。』

 

エイミーはラロルドの方を向く。

 

エイミー『出発は早い方がいいわ。ウィンダム諜兵団の奴はああは言ってたけどやっぱりそれなりに流入してきているみたい。』

 

頷くラロルド。

 

ラロルド『じゃあ、今日は早く寝て明日に備えるか。』

 

 

ノーミ市、北プラザ。クロスホテル。103号室。暗闇の中、それぞれのベットに仰向けになるファウスと寝るエイミー。床に寝るラロルド。ファウスは手を合わせ、天井を見つめる。

 

C8 変装 END

C9 潜入

 

フォレスト王国。夕方。フィランフィルの森を歩く仲介業者に扮したラロルドとエイミー。その後ろに続く両手を縛られ、黒いドレスを着たツインテールの髪型のファウス。

ファウスはラロルドとエイミーの方を向く。

 

ファウス『あの、ヨーケイ城に入る前に貴族連合に挨拶をした方がいいんじゃないですか?』

 

眉を顰めるラロルドとエイミー。

 

ラロルド『あほかお前。』

エイミー『あんたが貴族連合と接触してるってばれたら、一巻の終わりよ。』

ファウス『あっ…。』

 

俯くファウス。

 

エイミー『あんたはだまってればいいの。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『はい。』

 

フィランフィルの森の中央まで来るファウス達。ラロルドとエイミーは周りを見回す。

 

エイミー『ええっと。』

 

ラロルドは取引場所の地図を広げる。

 

ラロルド『ここだな。間違いない。あの石の場所と言い。開け具合と言い。』

 

ラロルドとエイミーは偽造会員証を掲げ、呪文を唱える。

 

曲がる風景。

 

ラロルド『この中へはいるってことだな。』

 

ファウスは曲がる風景を見つめる。

 

ファウス『この中へ。』

 

頷くラロルドとエイミー。彼らは曲がる風景の中へ入って行く。

 

 

ヨーケイ城城門に現れるファウス達。ヨーケイ城を見上げるファウス達。

 

ファウス『これは…。』

ラロルド『これがヨーケイ城。うへー。』

エイミー『まじで。』

 

城門のモング国のリザードマンの門番Aがファウス達を指さす。

 

リザードマンの門番A『何者だ?見た所、仲介業者の様だが…。』

 

頷くラロルドとエイミー。彼らは偽造会員所を出す。

 

ラロルド『へっへ、あっしら新参の仲介業者のもので。いい話があると。』

エイミー『本日、上玉の女が手に入ったので献上にきました。』

 

リザードマンの門番Aはラロルドとエイミーの偽造会員所を見つめた後、ファウスを見つめる。後ずさりするファウス。ファウスの方を向くラロルドとエイミー。

 

リザードマンの門番A『ほう!これは…。』

 

リザードマンの門番Aはファウスにの傍による。ファウスを、目を丸くして見つめるリザードマンの門番Aは、ファウスの髪を撫でる。顔を背けるファウス。リザードマンの門番Aはヨーケイ城の方を向く。

 

リザードマンの門番A『おい!伽の選別はまだしておるか!』

 

城門から顔をのぞかせるリザードマンの門番B。

 

リザードマンの門番B『はい。まだしておられます。』

 

頷くリザードマンの門番A。彼はファウスの腕を引っ張る。

 

リザードマンの門番A『ついて来い!』

 

眼を見開くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『お、おいおい。』

エイミー『ちゅ、仲介料は!?』

 

リザードマンの門番Aはリザードマンの門番Bの方を見つめる。

 

リザードマンの門番A『料金を払っとけ。』

 

眉を顰めるリザードマンの門番B。

 

リザードマンの門番B『いくらですか?』

 

リザードマンの門番Aはリザードマンの門番Bに耳打ちする。

 

リザードマンの門番B『ええ。そんなに…。』

 

リザードマンの門番Aに引っ張られるファウスを見つめ、頷くリザードマンの門番B。

 

リザードマンの門番B『確かに。これは掘り出し物ですね。』

リザードマンの門番A『だろ。ただ、ベットの上ではどうか分からんが。後は頼む。』

 

一礼するリザードマンの門番B。

 

 

ヨーケイ城内部に入るリザードマンの門番Aとファウス。ヨーケイ城の城門に立ち、巨乳で美しい娼婦Aの肩に手をまわす、モング国総監の烏骨鶏人で眼帯を駆けたキンシン。隣にはヨーケイ城城主で鶏獣人のコッケコー。城内には沢山の娼婦が居る。キンシンはワインの入ったグラスを空高く上げる。

 

キンシン『今日の伽の儀はこの女子だ。容姿端麗、聡明と来た。モングの王の世継ぎを産むには相応しかろう!』

 

大歓声が上がる。

 

モング国兵士A『ぜったいおっぱいだぜ。ぜったい。』

モング国兵士B『そりゃ、胸だろ。』

 

舌打ちするリザードマンの門番A。ファウスはリザードマンの門番Aの顔を見上げる。

 

ファウス『あの…伽の儀って何ですか?』

リザードマンの門番A『世継ぎつくりの練習だ。その巧さを見極めるのも総監の務め。』

ファウス『は、はあ。そうなんですか。』

 

去って行くリザードマンの門番A。キンシンの眼がファウスを映す。

 

キンシン『おや。』

 

娼婦Aをお姫様抱っこして飛び上がるキンシン。キンシンの居た場所に駆けていくコッケコー。

 

コッケ・コー『キ、キンシン総監!如何なされました??』

 

ファウスの手前に降り立つキンシン。眼を見開いてキンシンを見つめるファウス。キンシンはファウスの銀髪を撫で、ファウスの顎に手を当てて上を向かせる。

 

キンシン『ほっほう。』

ファウス『あっ。』

 

キンシンはファウスの胸を揉む。

 

ファウス『ひゃん。』

 

顎に手を当てるキンシン。

 

キンシン『胸は小さいが…。』

 

キンシンはファウスの乳首を摘まむ。

 

ファウス『や、あ、あん!あん!』

 

キンシンはファウスの尻を鷲掴みし、揉む。

 

ファウス『ひん、ひゃ、ああ…。』

 

息を切らして崩れるファウス。

 

キンシン『感度は良い。しかも、この喘ぎ様…処女か?経験を積むものも良いが、処女は貴重…。今度は前の…。』

 

キンシンを睨む娼婦A。

 

娼婦A『ちょっと、キンシン様。今日の伽の儀は私と決めたはずですよね。』

 

キンシンは娼婦Aの方を向く。

 

キンシン『悪い悪い。そうであった。そうであった。』

 

キンシンは娼婦Aを肩車してファウスに背を向ける。キンシンを見上げるファウス。キンシンはファウスの方を向く。

 

キンシン『よしよし、明日の伽の儀はお前にしよう。』

 

キンシンはファウスの頭を撫でて去って行く。顔を真っ赤にして下を向くファウス。

 

 

モング国兵士達が一斉に槍を掲げる。

 

モング国兵士達『今日はお開き、さっさ帰った帰った。』

 

女たちを誘導するモング国の兵士達。ヨーケイ城女性部屋。赤い絨毯が敷かれ、中央には温泉、その中央には噴水がある。笑顔で駆けまわったり、談笑する女性たち。壁にもたれかかって座り、ため息をつくファウス。

 

ファウスの横に立つ農奴の娘ネヴァミ。

 

ネヴァミ『すごいね。あんた。一日で総監に気に入られちゃうなんて。』

 

ネヴァミの方を向くファウス。

 

ファウス『…あなたは?』

ネヴァミ『私、ネヴァミって言うの宜しくね。』

 

頭を下げるファウス。

 

ファウス『宜しくお願いします。』

 

ファウスの横に座るネヴァミ。

 

ファウスは顔を上げる。

 

ファウス『皆、笑顔なんですね。』

ネヴァミ『そりゃそうよ。だってぇ、私、貧乏で共同部屋だけどこんな綺麗なところ住んだことないし。生活必需品だって支給してくれるわ。兵士は親切だし、綺麗なドレスとかも…。』

 

息を荒げてファウスの方を向くネヴァミ。

 

ネヴァミ『それに、総監の目に留まれば、モングの王の側室に、いえ、世継ぎを産めば妃にだってなれるわ。そうすれば、きっと王様に頼めば欲しいものもなんでもな~んでも手に入れられちゃう!だってモングを束ねている偉いお方よ。』

 

俯き、ため息をつくネヴァミ。

 

ネヴァミ『でも、私なんか一週間ここに居てもお呼びがかからないし。あ~あ、羨ましいな。あたし、絶対、王妃になってやるんだ。』

 

ファウスはネヴァミの方を向いた後、俯く。

 

 

深夜、ヨーケイ城。起き上がるファウス。監視の兵の足音。周りには寝ている女性たち。周りを見回したのち、呪文を唱えるファウス。床に青い線が走り、泡現れ、上昇しては消える。監視の兵の足音が止む。ファウスは胸に手を当てて立ち上がり、窓から外を見る。城壁の上で寝ている兵士達。鍵をまわす音。ファウスは扉の方を向く。扉が開き、現れるラロルド。ラロルドはファウスを手招きする。頷くファウス。ラロルドと共に寝静まったヨーケイ城から出ていくファウス。

 

城門では、リザードマンAとリザードマンBが寝ている。城門を出るファウスとラロルド。ラロルドはファウスの方を向く。

 

ラロルド『…しかし、マジックアイテムの力と言えど、さすがだな。城全体が寝静まってやがる。』

 

茂みから現れるエイミー。

 

エイミー『じゃ、キ連に合図する?』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『まだです。』

 

ファウスは呪文を唱える。青い稲妻をまとったバリアがヨーケイ城を覆いだす。眼を見開いて眉を顰めるファウス。

 

ファウス『あれ、あそこは…。』

 

歪んだ形になるバリア。口に手を当てるエイミーとラロルド。

 

エイミー『ちゃ、ちゃんとマジックアイテム屋で買ったんだけどね。』

ラロルド『ちょっと、不良品つかまされたのかも。』

 

駆け出すファウス。

 

エイミー『ちょっと!』

 

ファウスはエイミーの方を向く。

 

ファウス『完全にバリアが張れたら貴族連合に連絡を!』

 

頷くエイミー。ヨーケイの城壁沿いに走り、城門の近くの城壁の下に仕掛けられたマジックアイテムに向け呪文を唱える。

翼を広げて、千鳥足でバリアを跳んでくるキンシン。ラロルドとエイミーはキンシンを指さす。

 

ラロルド『おい!』

エイミー『ちょっと、あれ!!』

 

上からファウスに切りかかってくるキンシン。

 

キンシン『ひっく、きっさまぁ!この城でなにさらしてくれとんじゃあ!』

 

上を見上げ目を見開くファウス。キンシンの刃がファウスを捉える。刃に触れる詠唱中のファウスの手。青い稲妻がキンシンの刃を駆け抜ける。眼を見開き、青い稲妻が全身を駆け巡るキンシン。キンシンの持つ刃はファウスの横にそれる。痙攣して倒れるキンシン。青い稲妻に包まれたバリアが展開する。砲音が鳴り響く。目を丸く見開いて、その場に崩れるファウス。

 

機械音が鳴り響き、雄たけびと歓声が上がる。ファウスに止まるヒート王国の壮麗なロードヴェルクーク級人型機構。ロードヴェルクーク級人型機構から降り立つバッカ。

 

バッカ『ほっほう。小娘の癖になかなかやるな。』

 

バッカは倒れているキンシンの方を向いた後、ファウスの方を向く。

 

バッカ『…あれ?お前…。』

 

ファウスに近づくバッカ。ヨーケイ城に雪崩れ込む、ヒート王国の軍隊。叫び声と悲鳴が響く。目を見開いて、立ち上がるファウス。バッカを見つめるファウス。

 

ファウス『バッカ王子!』

 

ファウスはバッカに詰め寄る。

 

ファウス『な、何をしているんですか?』

 

眉を顰めるバッカ。

 

ファウス『悲鳴が上がっています。止めてください!』

バッカ『俺達はヨーケイ城を落としてるんだぞ。』

 

ファウスはバッカを睨み付ける。

 

ファウス『今、ヨーケイ城の方々は皆、寝ています。無抵抗のものを痛めつけるなんて!』

 

首を傾げるバッカ。

 

バッカ『お前、あいつに似ているな。』

ファウス『お願いします!こんな事今すぐおやめください。捕縛すればいいだけではありませんか!』

 

バッカはファウスのまたぐらを掴む。眼を見開くファウス。

 

ファウス『ひっ、う。』

 

股を抑え倒れるファウス。ファウスを睨み付けるバッカ。

 

バッカ『テメェ、やっぱり偽王子か!女の格好をして俺様をだませるとでも。』

 

バッカはファウスを足蹴にする。

 

バッカ『ああ!』

 

ヨーケイ城の城壁より、ヒート王国の旗持ちがバッカの方を向く。

 

ヒート王国の旗持ち『王子ー!王子ー!女が居ますぜ!!』

バッカ『なんだと?』

ヒート王国の旗持ち『女がいます!しかも沢山。』

 

ファウスに唾を吐くバッカ。

 

バッカ『けっ、あー、モングの奴らとヤったのか、汚らわしい。』

 

バッカはヒート王国の旗持ちの方を見る。

 

バッカ『あ、モング国と宜しくヤってんだ。魔女に決定!火炙り!お前らも汚らわしくて抱けねえだろ!』

 

眉を顰めるヒート王国の旗持ち。

 

ヒート王国の旗持ち『ぜ、全員をでありますか!!?』

バッカ『たりめえだろ。テメェ、処刑されたいのか!』

 

ヒート王国の旗持ちは城壁から駆け去って行く。眼を見開いて、バッカの方を見上げるファウス。

 

ファウス『おやめ下さい!バッカ王子!彼女たちには何の罪があるんですか!』

 

城壁の方を見つめ、ファウスに蹴りを入れて、バッカ機に入って行くバッカ。

 

バッカ『おいおい。俺が行くまで炙るのは待ってくれよ。ははははは。』

 

ファウスは立ち上がる。

 

ファウス『後生です!おやめ下さい!』

 

ブースターで飛び上がるバッカ機。上を見上げ立ち尽くすファウス。

 

娼婦Aの声『わ、私たちが何をしたっていうの。』

娼婦Bの声『いやー!怖いよ。』

バッカの声『おう、こいつら魔女だ。全員魔女。燃やせ燃やせ。ははははは。』

娼婦Cの声『な、何でもするから助けてください!』

バッカの声『おい、投げろ。殺されてえのか!』

 

爆発音。炎上するヨーケイ城。

 

娼婦Dの声『きゃああああああああああ!』

娼婦Eの声『いやああああああああああ!』

ネヴァミの声『なんで、こんな所で、いやいや、絶対にいや。私は王妃になって、いやあああああああああああああ!』

 

悲鳴が響く。崩れ落ちるファウス。ファウスの見開かれた眼から涙がこぼれる。

 

ファウス『…ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…』

 

ファウスに駆け寄るラロルドとエイミー。

 

C9 潜入 END

C10 論功行賞

 

フォレスト王国バルサン関。並ぶ各国の兵とフォレスト王国の各ギルド組合員達に、ゼウステスの武断派の部隊。ファウスの肩を叩く、ラロルドとエイミー。

 

エイミー『あれは仕方なかったのよ。』

ラロルド『そ、ヒートが援軍できたのが間違いだった。彼女らは運がなかったんだ。自分を責めるなよ。』

 

俯くファウス。関の頂上に立つエグゼナーレ。

 

エグゼナーレ『この度のヨーケイ城攻略の第一功はヒート王国である。彼らはヨーケイ城を落とし、魔女を倒した。』

 

拳を掲げ、満面の笑みで関の頂上へ駆けあがって行くバッカ。

 

エグゼナーレ『この英雄に喝采を。』

 

大歓声が上がる。雄たけびを上げるバッカ。眉を顰めるラロルドとエイミー。俯くファウス。

 

バッカ『この度は、俺達を再三苦しめてきたモングの奴らを皆殺しにしてやった。

そして、モングと結んだ魔女どももだ。我がヒート王国にすれば、こんな反乱潰すのは造作の無い事だ。どこぞの国とはちがうのだよ。どこぞの国とは。ははははは。』

 

眉を顰めるエグゼナーレ。

 

エグゼナーレ『そして、第二功はヨーケイ城に潜入し、内部の反抗を抑えた冒険者ラロルド、エイミー、そして…。』

 

眉を顰め、顎に手を当てるエグゼナーレ。彼はバッカを手招きし、書簡を指さす。バッカは書簡に目を向けた後、頷いてファウスの方を指さす。エグゼナーレはファウスを睨み付ける。シュヴィナ王国三大臣の一人モーヴェを手招きするエグゼナーレ。

 

エグゼナーレは口を動かす。頷き、軍務官のコバンザメ人でギザギザの歯を持つコモロを手招きする。2、3回頷くコモロ。コモロは副官のジンベエザメ人のメルティエに小判型の吸盤を引っ付け、無線機を取る。ファウスの前に現れるシュヴィナ王国の兵士A。彼はファウスに耳打ちする。

 

眼を見開いてシュヴィナ王国の兵士を見つめるファウス。咳払いするエグゼナーレ。

 

エグゼナーレ『冒険者ラロルドとエイミー。彼らの活躍のおかげで、モングの精強な兵の守るヨーケイ城を攻略することができた。』

 

笑い出すバッカ。

 

バッカ『おいおい。もう一人を紹介しなくていいのか。』

 

バッカを睨み付けるエグゼナーレ。

 

バッカ『ここにいるぜ。偽王子がよ。ほら、そこに変装してるだろ。かなりの美人に。』

 

ファウスを指さすバッカ。一斉にファウスを見つめる人々。ファウスは周りを向いた後、俯く。

 

バッカ『まあ、表彰することもねえか。あのラロルドとエイミーの見事な活躍についてきただけの巾着野郎だからな。』

 

ファウスを指さし、口を動かす人々。ラロルドとエイミーはファウスの方を向いて、額を指でなぞる。

 

バッカ『大した実力もねえのに、他人の功績に付随するなんて狡い寄生虫やろうだな。ま、モングの総監を倒していたがそれも、ラロルドとエイミーのおかげだろ。自分ひとりじゃ何もできない弱虫野郎が。』

 

立ち上がるエグゼナーレ。

 

エグゼナーレ『もういい。止めろ!余計なことを!だいたい、この戦も、世界中の反乱も元と言えば…。』

 

エグゼナーレは一瞬、ファウスを見る。

 

エグゼナーレ『元と言えばこいつが秩序を乱したせいではないか!汚らわしい!あんな奴の顔、余は二度と見たくないわ!』

 

エグゼナーレを見つめるファウス。

 

ファウス『エグゼナーレ様…。』

 

椅子に座り、眼をそらして顎に手を当てるエグゼナーレ。俯くファウス。モーヴェが一歩前に出る。

 

モーヴェ『冒険者ラロルドとエイミー。こちらへ。』

 

ファウスの方を向くラロルドとエイミー。

 

モーヴェ『冒険者ラロルドとエイミー。こちらへ。』

ラロルド『…ごめん。俺達行くぜ。いいよな。』

エイミー『そ、そうよ。こんなチャンス巡ってこないんだから。ごめんね。』

 

歩き出すラロルドとエイミー。

 

モーヴェ『冒険者ラロルドとエイミー!』

 

ラロルドとエイミーはファウスの方を向く。顔を上げて微笑んで二人を見つめるファウス。

 

ファウス『おめでとうございます。』

 

眼を見開くラロルドとエイミー。

 

ラロルド『あ、ああ。』

エイミー『あ、ありがとうね…。』

 

肩を落としてバルサン関から去って行くファウス。

 

C10 論功行賞 END

次回予告

 

 


 
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