No.690639

HOW Killed Cock Robin? 解決編

少年ディックと友達のアンドロイドのパットは、ついに犯人を見つける。
しかし、犯人の言葉を受けたディックは……

2014-05-31 19:57:34 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:283   閲覧ユーザー数:283

 劇場の受付の人に聞き、刑事さん達がいるアンジーさんの控室へとたどり着いた。警察の人に用事があると言ったらすぐに教えてくれた。部屋の中には刑事さんとアンジーさん達がソファーに座りながら向い合っていて、部屋の入口の近くにイヤリングを持っていった警察のお兄さんが立っていた。

みんな突然入ってきた僕たちに驚いたらしく、一斉に僕達の方を見ていた。

「君は第一発見者の子たちじゃないか。どうしてここへ? ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

「刑事殿、あの子がこのイヤリングを見つけたんですよ。刑事殿が彼に、事件現場に入る許可を与えたんでしょう?」

「何? 私が、何時?」

 そういえば、刑事さんから事件現場に入る許可をもらったのは嘘だったんだ。警察のお兄さんがこの部屋に来るまでに来ていればよかったと、今になって後悔した。

「私はそんな許可出しておらんぞ! 早くその子を外に出さんか!」

「け、刑事さんちょっと待って下さい。犯人がどうやってロビンを屋上から突き落としたのかわかったんです! それだけでも聞いて……」

「子供が勝手に事件に首を出すんじゃあない! 早く連れていかんか!」

 刑事さんの声に、話が飲み込めないでいた警察のお兄さんも言われるまま僕を外に出そうとした。

「待って下さい刑事さん」

 アンジーさんの透き通る声が聞こえた。見ると、アンジーさんが一人立ち上がって僕達の方へ近づいてきた。ロイドさんは座ったままぽかんとした表情で、アンジーさんを見つめていた。

「犯人がロビンを突き落とした方法が分かったと言うのは本当なの?」

「はい、僕が見つけたイヤリング、犯人はあれを利用してロビンを突き落としたんです」

「そう、じゃあ教えてもらいましょう。刑事さんたちもそれでいいですね?」

 アンジーさんが刑事さんたちに言うと、刑事さんたちもアンジーさんがそう言うならと、僕が話すのをを許してくれた。僕は緊張しながらも、犯人がロビンをどうやって殺したのかを説明した。

 犯人はまず屋上にある準備をしておき、その後ショウの出番を待っているロビンを呼び出した。ロビンがいる控室さえ分かれば、呼び出すのはそう難しいことではない。アンドロイドは人間には逆らえないからだ。

 そして、呼び出したロビンにこう言う。「落としたイヤリングを取ってきてくれ」

 ロビンがイヤリングを探すと、屋上のほんの隅にイヤリングを見つける。それを取ろうと、身を乗り出し不安定な姿勢でイヤリングに手を伸ばし……

 後ろから犯人に突き落とされる。いくら人間より重いアンドロイドといえど、不安定な状態でバランスを崩されればそんなに力はいらないはずだ。そうしてロビンは突き落とされた。

 その時、ロビンが既にイヤリングに手をかけていたため、突き落とした際、一緒に落ちてしまったのだろう。

 

 

 

「この方法で犯人はロビンを殺したんです。ですから、このイヤリングの持ち主を早く探して下さい。間違になくそいつが犯人です!」

 説明を終えた僕は改めて刑事さんたちにお願いをした。優しいアンドロイドを騙した犯人を、僕は絶対に許さない。

「その必要はないわ」

 静かに僕の話を聞いていたアンジーさんが、すっと僕の前に来ると、僕の前に手を差し出した。その手の上には、僕が刑事さんに渡したはずのイヤリングがあった。

「なぜなら、そのイヤリングは私の物なんですから」

 部屋の中の空気が変わるのを感じた。アンドロイドのロビンが劇場の屋上から突き落とされた事件。犯人が持っていたとされるイヤリング、その一方をロビンの主人であるアンジーさんが持っていたのだ。

「私もついてないわね。小さな探偵さんたちに見つかってしまうのですもの。現場に居合わせた彼ら以外に見つかっても、いくらでも誤魔化せたのに……」

「アンジー……貴女がどうして……」

 ロイドさんがつぶやくように口を開いた。僕は驚きで声も出せず、アンジーさんを見つめるだけしかできなかった。

「あらロイド、貴方は感じなかった? あれは何時までも変わらないのに、私はすっかりおばあちゃん。ロビンが歌をうたう度、私はあの人形に嫉妬していたのよ」

「なんで、そんなに平然としてられるんですか……?」

 僕はやっとの事で声を出した。アンジーさんの言っていることを僕は分からなかった。どうして、そんな事でロビンが殺されなければいけないのだろう。それに、どうしてこうも平然としていられるんだろう。

「ロビンを殺しておいて、どうしてそんな……」

「ロビンを殺した、ね……ディック君と言ったかしら? 貴方は勘違いをしているかもしれないけど、私は誰も殺していないわよ。私はただ、自分の所有物を壊しただけ」

 眼の前のアンジーさんがぼやけ始めた。アンジーさんの言葉を聞いて、僕の目から涙が出初めてきた。そんな顔を見られたくなく、僕は俯いて必死に堪えた。

「もし、私が人を殺したなら刑務所に入れられるけど、私は自分の物を壊しただけだから刑務所にはいかないのよ。せいぜい罰金を払うだけ。そうよね、刑事さん?」

「え、ああ……確かに法律ではアンドロイドを破壊すると、数十万の罰則金を払わなきゃならんが……」

「わかったかしら、小さな探偵さんたち。人間とアンドロイドは決して同じじゃないの。アンドロイドは人間の命令に従うだけの、なんの感情もないただの人形。人間だったら自分が死にそうな時は恐怖したりするけど、ロビンならたとえ、自分が壊れる直前でも私の命令通りイヤリングを探そうとするんじゃないかしら?」

 僕はロビンが動かなくなる直前に、言っていた言葉を思い出した。「イ……イヤ……」あの時言っていたのは死ぬことが嫌だったんじゃない。アンジーさんの言うとおり、最後までイヤリングを探していたんだ。

目に溜まった涙が溢れ、床の上に落ちる。アンジーさんはどうしてそんな酷いことを言うんだろう。アンドロイドは友達じゃないか。僕は一度もパットを人形だなんて思ったこともないのに……でも、刑事さんたちもそれを認めている。僕のほうが間違っていたのかな?

「貴方達も大人になれば分かるわ。さあ、そろそろ行きましょうか刑事さん。この場合、警察署に行って色々と書いたりしなければならないのでしょう? ロイド、悪いけど罰則金を払うお金を準備しておいて」

 そうアンジーさんが言う事に、刑事さんたちは従うようにアンジーさんを連れて行った。

「ロビンを壊したことには、何も感じないわ。ただ……」

部屋から出て行く直前に、アンジーさんはつぶやいた。

「子供を泣かせてしまった事、それだけは後悔しているわ……」

 アンジーさんたちが扉を閉め、部屋から出て行った。部屋の中で泣きながら立ち尽くす僕の耳に、『人間とアンドロイドは同じじゃない』というアンジーさんの言葉が何度も響いた。

 家に帰った後も、ディックは塞ぎこんでいた。何も知らないディックのお母さんは風邪でも引いたと思っているけど、そっちのほうがまだいい。風邪には治す薬があるからだ。

 でも、心という見えない器官に負った傷を治す薬はない。手術で縫うこともできない。人間ってのはアンドロイド以上に複雑な機械だぞ。

 パットは、アンジーの『人間とアンドロイドは決して同じではない』という言葉には何も思わなかった。構成された材料、内蔵された回路や部品、パットが人間とアンドロイドを比較した時、それらの要素を判断材料とした。

 人間とアンドロイドは同じ存在ではない。ディックだってそれくらい分かる知識はあるはずじゃないか。どうしてわからないんだ?

 こういう時、パットが考えるのは『心』という回路だ。それはアンドロイドにはない物だったからだ。しかし、人間にも本当にあるのかは分からない。データとして存在する物であっても、心ほど複雑な情報を専用に管理する回路があるはずだ。脳では心を処理するほどの性能はない。心とは不思議な回路だ。時として人間の行動を狂わせ、時には測定できないほどの能力を引き出す。

 ディックはパットをよく見ている。しかし、それ以上にパットもディックを見ていた。ディックと行動を共にするうち、そのような考えを持つようになっていた。

「ねえ、パット……」

 久しぶりにディックが話しかけてきた。ディックのことだ。ちゃんと心の制御ができたに違いない。

「本当にロビンはアンジーさんの命令の通りに、自分が死ぬことよりもイヤリングを探そうとしていたのかな……?」

 これは難しい質問だぞ。自分の情報では推測の域は出ない。何か参考になる前例があれば……

「それは僕にも分からない。でも、アンドロイドは人間の命令に従うことを前提に造られている。それは僕も一緒」

「そっか……」

 ディックは悲しい表情をした。それはアンジーが犯人とわかった時と同じ物だった。

「ただ……」

 自分がディックの命令に従えなかった時、どう考えていたか。これは他のアンドロイドも同じように考えることだ。

「僕がディックの命令に従えなかった時、僕はディックがとても悲しむだろうと考えているんだ。あのロビンもイヤリングを見つけなかったら、アンジーさんが悲しむと思っていたはずだよ。だから、最後までイヤリングを探そうとしたんだ」

 ディックの表情が明るいものとなった時、パットは充足感を得た。アンドロイドのパットやロビンは、人間の満たされた表情を見ることで満たされる様に造られてるのだ。それはちょうど、人間の共感というものに似ている。人間の物とは違うだろうが、限りなく近いものだ。

「そっか……そうだよねパット。僕、一つ分かったことがあるよ」

 ディックがパットの手をとってくるくると回り出す。アンドロイドであるパットの手の感触は限りなく人間に近い。

「同じだけど違う。けど、違うけど同じ。アンジーさんは違うものばかり見て、同じものには気づかなかっただけなんだ」

「同じだけど違う、違うけど同じ……」

 パットには言葉の意味はよく分からなかった。けれど、これが心の機能だという事は分かった。

「もし、会えたら二人でアンジーさんの所に行こうよ。きっと、アンジーさんも、そのことを分かってくれるはずだよ」

 パットは両手にディックの体温を感じた。アンドロイドと人間は違う存在なのに、まるでディックと一体化したみたいだ、とパットは思った。

 


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