No.681507

Need For Speed Most Wanted TOHO 第13話 vsヒメ 後編

キスメ「仲間外れは良くないなぁ」

勇「貴様にはキャスター付きのパレットが似合いだ」

キ「じょ、冗談じゃ・・・!?」

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2014-04-25 23:17:59 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:637   閲覧ユーザー数:637

 ウォッチビュー:魔理沙

 

 少し道の開けた待避所に萃香たちを確認してすぐ、また道は狭くなりさらに勾配がキツくなり始めた。

 目の前にヒメのエボⅧの姿はない。タイヤの事を考えつつも、ペースダウンは最小限に抑えたつもりだが、厳しい戦いであることは変わりない。

「だが・・・!」

 ここからは萃香との作戦通り、目一杯タイヤを使ってスパートをかける。これでダメなら私の負けは確定だ。

「頼むぜベンツ。お前が頼りだ・・・!」

 私はベンツのハンドルを握る力を強め、ペースを上げる。

 

 ウォッチビュー:輝夜

 

「ふふ・・・」

 中間地点を過ぎ、向こうの女の仲間と思われるギャラリーに私とベンツの女との差を見せつけ、さらに自分のクルマに鞭を入れる。

 ここまでペースは完璧。軽い車体と4駆のトラクションを生かし、重たいベンツとの差は想像以上に広がった。ホントにあれがここまで破竹の勢いで勝ち進んできたドライバーなのだろうか?

(まぁそれも、このコースと相性抜群の私のエボだからかしら?こんな山道じゃ、四駆の恩恵は絶対だからね。まさに水を得た魚よ)

 そう考え込んで私は長い直線の先のヘアピンに備え思い切りブレーキを踏む。

「ん・・・!?」

 その時、エボの挙動に違和感を感じた。ハンドリングの反応が一瞬遅れたのだ。

(ここまで目一杯タイヤ使って逃げてきたせいかしらね・・・。フロントタイヤの反応が若干鈍り始めた・・・)

 若干ペースを下げる事になりそうだけど、そう大きな問題ではないだろう。現状でも差は大きく開いているのだから。

 ウォッチビュー:萃香

 

「ブラックリストランカーに限らず、ストリートレーサーっていうのは、プライドの高い奴が大半を占めてる。相手が自分より格下だと判断すれば、実力差を思い知らせるために最後までマジになって攻め込むやつも珍しくはない」

 相手もそれに対してムキになるような奴なら、それでもいいのかもしれない。

「だけど、今の魔理沙みたいにそれを見て我慢が出来る奴なら、話は変わってくる。むしろそれを逆手にとれる作戦も立てられる」

「?どういう事?」

 私の話に理解が及ばないアリスが聞いてきた。

「一言で行っちゃえば拍車をかけてるのさ。野生育ちのストリートレーサーってのは目の前の状況をそのまま鵜呑みにしちゃうバカが多いからね。ペースの上がらない魔理沙を向こうはそれを彼女の実力と取り、これ見よがしに実力の差を見せつけるべくペースをギリギリまで上げてくる。ライオンはウサギ相手にもなんとやらっていうしね」

 相手を油断させて余計な消耗を促し、こちらは勝負所まで溜めておく。力を出しすぎて疲れているところを上手く突くというわけだ。

「リスクの大きい作戦だな。本当にうまくいくのかい?」

「魔理沙の実力を見込んでの作戦さ。一か八かの大博打だけど、魔理沙を信じて私はこの作戦を立てた」

 すべては魔理沙にかかっている。頼むよ・・・!

 

ウォッチビュー:魔理沙

 

 全身全霊をかけて山道を下っていく。

「つぅ・・・!」

 道幅を目一杯使い、時には土手を削りながらのコーナリングを続け、ヒメとの差を縮めるのに全力を注ぐ。

(まだ先か・・・?離されたってことはないだろ、絶対に近くにいるはずだ・・・!)

 そう自分に言い聞かせ、小さなS字コーナーの続く区間を潜り抜け、長いストレートに出ると・・・。

「!!」

 4秒、いやもっと少ないだろう。ちょうどストレートを過ぎ、ブレーキランプが点灯していたエボⅧが見えた。自分の身体に一気に熱が入ったのを感じずにはいられない。

(よし・・・!テンションあがって来たぜ・・・!こっからが勝負だ!!)

 前の車が見えなかった時に比べ、明らかにテンションが上がっているのが自分でもわかる。

 そしてストレートをぶっちぎり、フルブレーキ後のヘアピンコーナー。そこは萃香と事前に下見に訪れた時に話していた「秘策」が使えるようになる場所。

(明らかに向こうのペースは落ちている。なるべく早い段階で向こうに追いついてチャンスを作らないと・・・!)

 

 ウォッチビュー:萃香。

 

「それで?ランエボの弱点やら向こうのアタマの悪さは分かったけど、勝負は前に出れないと勝ちはないよ?どうやってランエボを抜くんだい?こんな狭い道であんな大柄なベンツでさ」

 さっきの私のストリートレーサーの例に漏れず、アタマの悪いところがある勇義は、それっぽい御託を並べられるより、手っ取り早く結果を知りたがる。

「もちろん、それも魔理沙と話し合ってある。今から説明するよ」

 ようやく勝敗に直接関係のある話が出始め、若干退屈気味だった他二名も表情を引き締めた。

「この峠の後半区間には、路肩に小さな段差があるんだよ。その先は草むらで、ガードレールが立ってるんだけど、魔理沙のベンツのタイヤがちょうど一本収まるくらいの幅はあるくらいのスペースがあるんだ」

 勘のいい読者様は、もう既に気付いているだろうね。

「・・・?おいおい待て、まさか「それ」をやるっていうのかい?豆腐屋の息子でもあるまいし、あんな車高の低いベンツで出来る事じゃないだろう。リスクが高すぎるぞ!?」

 勇義も気付いたようで、その作戦の危険性を察して声を荒げた。

「それが不思議なことに、ここの段差は魔理沙のベンツが跨いでも、ギリギリクリアランスが確保できるくらいに低めに造られてるみたいなんだ。それにベンツと豆腐の配達車じゃ、足回りの強度も全然違うからね。そこまで危険性は高くはないよ」

 こういうのを主人公補正なんて言うのかもしれないねぇ。

「物理的なタイヤの限界はこれでカバーするしかない。確かにリスクはあるけど、そもそもリスク考えずに戦えれば、こんな苦労して作戦立てる必要なんてないよ」

「そう、だけどさ・・・」

 

 ウォッチビュー:魔理沙

 

私は普通なら完全なオーバースピードな速度でヘアピンに突っ込み、萃香と話してあった段差にタイヤを引っ掛ける。

「ぐ・・・!」

 思った以上にステアリングに来る反動が凄まじく、腕に力が入る。だがここでハンドルを取られたら確実に足を壊してしまう。どうにか耐えて私はコーナーを抜け、出口で少しハンドルを戻して段差から脱出する。

「よし・・・!」

 今のコーナーだけでおそらく1秒は差が縮まった。この調子で行けば追いつくのは時間の問題だ。

(そら、もういっちょ・・・!)

 さっきと同じような調子でコーナーへ突っ込み段差に飛び込む。その瞬間―、

 バギィッ!!

「うっ!?」

 クルマの後方から嫌な音が聞こえた。思わず私は段差からクルマを戻し、若干膨らみながらコーナーを抜ける。

 幸いその先はまた少し長いストレートで、私は見えないと分かっていても、とっさにバックミラーで後方を確認する。

(ちっ・・・!やっぱ見えないか・・・!別にコントロールに支障はないし、問題ないとは思うが・・・!だけどここまで来たらもうクルマの事なんて気にかけてられない・・・!なるようになれ!!)

 私は半分ヤケクソ状態になり、再び段差に飛び込む。

 

 ウォッチビュー:輝夜

 

「くぅ・・・!?」

 どういうわけか、後半に入るなり私との差を縮めてきたベンツは、私がその姿を確認するなり物凄い勢いで背後に迫ってきた。

(どうなってるの・・・!?いくらこっちのタイヤが厳しくなってるとはいえ、あんな重たいベンツがついて来られるはずが・・・!?)

 しかし現実は、もうバンパー同士が当たろうとしているところにまでベンツが迫っている。

「しまっ・・・!?」

 焦った私は、ついブレーキコントロールをミスり、アウト側にクルマを膨らませてしまう。

(く、うぅ・・・!タイヤが言う事を聞かない・・・!?)

 違和感を感じ始めた時から次第にエスカレートしていたフロントタイヤの消耗は、少しラインを外しただけでも主の意思に従わないほどに厳しいものになっていた。私は成す術なく、ベンツの先行を許してしまう。

(バトルはまだ先よ・・・!もう一度抜き返せば、まだチャンスは・・・!)

 しかし目の前のベンツは、エボのトラクションを持ってしても追いつくことが出来ない。

「どうなってるの・・・!?」

 そもそもさっきの抜かれ方も変だった。いくら私のラインが乱れたとはいえ、あんな大柄なベンツが通れるだけのスペースはなかったはず。それこそショートカットでもしない限りは。それに何故かベンツのリアバンパーが無くなっているのも気になる。

「っ!?」

 そして私は、次の瞬間信じられない光景を目にする。

「なによ、それ・・・!?」

 あろうことか、オーバースピードではないかと思うようなスピードで、コーナーに突っ込んだベンツは、内側のさらに中に切り込んで路肩の段差を飛び越え、段差にタイヤを引っ掛けレール代わりにして走っているのだ。

(どっかの豆腐屋じゃないんだから・・・!馬鹿げてるにも程があるわ・・・!?)

 段差にマフラーのタイコが擦れ、火花を散らせているのを見る限り、おそらく外れたと思われるリアバンパーはこの走りが原因なのだろう。

「うわっ!?」

 そう思った矢先、目の前に黒い物体が飛来してきた。思わずよけて事なきを得たが、今のはおそらく段差に引っかかって割れたフロントバンパーの一部だろう。

(この状態が続けば、差が開く一方じゃない・・・!?こうなったら・・・!)

 私はベンツに続いて段差に飛び込む。あれだけ車高の低いベンツが出来るんだから、エボに出来ないはずが・・・!

「うっ!?」

 しかし、飛び込んで同じように曲がれたのはよかったが、脱出の際にタイミングを誤ったか、エボの挙動が乱れる。

「くっ!?」

 とっさに私はカウンターを当てるが、時すでに遅し。大きくお釣りをもらってクルマは真横を向いてしまう。

「く、あぁぁあぁっ!!!」

 私は思わず叫び声をあげ、目一杯ステアを回しサイドブレーキで無理やりクルマの向きを変える。運よくどこにもぶつける事無く再スタートを切れたが、ベンツはすでに視界から消え去っていた。

 この瞬間に、私の敗北が確定し、戦意を失った私はその走りに精彩を欠いていく。

 ウォッチビュー:魔理沙

 

「あっちゃ~・・・」

 ヒメのスピンを見届け、悠々と単独でゴールラインに飛び込んだ私は、すぐにクルマの状態を確認した。

「流石に無理があったか・・・」

 あの時の異音の正体はリアバンパーの破損した音だった。奥にあるマフラーのタイコの傷を見る限り、クリアランスはホントのギリギリだったようだ。フロントバンパーもスポイラー部分が割れ、ボロボロ状態だった。

「貴女、長生きできないタイプね。あんなリスク高い手段使って。いつ死んでもおかしくないんじゃない?」

 負け惜しみか皮肉か、エボのキーを私に渡したヒメはそう告げた。

「忠告どうも。自分が好きなことをやって死ぬんなら、そりゃあそれだろ」

「・・・ふん、好きにしなさい。貴方の人生がどうなろうと私には知ったこっちゃないわ。束の間の幸福をせいぜい楽しんでる事ね」

「そりゃどうも」

 輝夜は最初にバトルのスターターをやっていた執事のクルマに乗り、その場を去った。それと入れ替わるように勇義たちが私のもとへやってきた。

「やったな、魔理沙!とうとうトップ10入りじゃないか!」

 私の勝利を喜び、勇義は肩を組んできた。

「うわっ!魔理沙、貴女一体何したのよ、クルマがボロボロじゃない!?」

「あ~らまぁ。こりゃまた派手にやったねぇ。まぁ下見した時から際どいクリアランスだったから、むしろこれだけで済んでラッキーだったかね」

「そうだな」

 修理代が少し痛いけど、背に腹は代えられない。犠牲はあったものの、勝利を収められて一安心だ。

 

 これでブラックリストトップ10入り。先行きは順調だ。

 


 
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