No.652615

天の迷い子 第二十二話

あけましておめでとうございます。
ヘタレど素人です。
新年初投稿です。
相変わらず下手くそな書き手ではありますが、宜しければ読んでやって下さい。
誰か一人でも暇つぶしになれば幸いです。

2014-01-07 18:43:37 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1215   閲覧ユーザー数:1131

戦いが終わってからおよそ二ヶ月、洛陽の町は機能を取り戻しつつあった。

元々町自体に被害らしい被害はほとんど無かったが、汜水関・虎牢関の修復や街道の再整備、何よりも連合が結成された事で足が遠のいていた商人達も徐々に戻ってきていた。

この時代、流通の手段が商人達の脚に頼らざるを得ない為彼らが敬遠するような土地はあっさりと廃れてしまう。

それは洛陽も同じで住人は心底ほっとしていた。

 

しかし、一人だけ安堵とは真逆の焦燥感の中にいた。

 

 

 

「…い、……こう!…んこう!………聞いてんのか!!馬鹿弟子!!」

「…えっ!?あ、はい!?」

「やり過ぎだ馬鹿野郎!!おら、そこどけ!」

 

ぐいっと堂堅は干鋼を押しのけ槌を振るう。

 

「ったく、迷いや焦りを鍛冶場に持ち込むんじゃねえよ!鉄がへそ曲げちまうだろうが!」

 

返す言葉も無かった。

董卓軍が敗れて親しい友人達が一人として帰って来ず、干鋼の心は乱れに乱れていた。

自分がもっと腕の立つ鍛冶師だったら彼等にもっといい防具や武器を作ってやれたのではないか。

自分が戦う事を止めていれば彼等は今もこの場に居たのではないか。

そんな事を考えてしまう。

周りを見ずに剣をうち、時間も考えず冶金を行う。

それはいっそ危うさをも孕んでいた。

それを察して堂堅は干鋼を止めたのだ。

黙々と仕事を進める堂堅。

流れる汗を拭う事もせずただただ槌を振るう。

作業の一つ一つが洗練されていて美しくすらあった。

 

「あの、親方。すいませんでした。その…、僕…。」

「言い訳はいらねぇ。頭が冷えたんなら手伝え。」

「あ、…はい!」

 

干鋼はすぐさま作業に取り掛かる。

迷いを振り切る様に。

 

いつしか仕事も終わり炉の火を落としていると、

 

「…小僧共の事か?」

 

堂堅がふいにそんな事を呟いた。

 

「………はい。」

「連中がそう簡単にくたばる様なタマじゃねぇって、そう信じてやれねぇのか?」

「信じてます。皆が強いっていうのも解ってます。だから余計に心配なんです。どんな困難にだって立ち向かってしまうから。」

 

ギュッと干鋼は手を握りしめる。

 

「特に流騎は弱くて強いから、何かに巻き込まれてるかも知れない。怪我して動けないかも知れない。そう考えるとどうしても…<ガシャッ>え?」

 

重い音がして干鋼は顔を上げると、机の上に煤けた袋が置いてあった。

 

「わかった、てめぇがうじうじじめじめした野郎だってこたぁな。んな奴を俺の工房には置いとけねぇ。干鋼、てめぇ今日こん時から破門だ。もう師匠でも弟子でもねえ。どこへなり失せろ。あと、そいつは一応今日までの賃金だ、持ってけ。」

「!?そんな、親方!?」

「失せろっつってんだ!!…まあ、もしこの俺を超えるだけのもんが作れたら、そんときゃ敷居を跨ぐ事を許してやるよ。意気地のねぇてめぇが一人で来るのは無理だろうから、どっかでうだうだやってやがる小僧でも連れてくりゃあ良い。出来るわきゃねえと思うがな。」

 

そこまで言われればどれだけ鈍感でも分かる。

 

「…わかりました。いつか必ず親方…堂堅さんの物を上回る武具を作って認めさせて見せます!親友と一緒に、必ず…!」

「ふん!…とっとと行け。」

 

背を向けて素っ気無くいう堂堅に深く頭を下げ、踵を返す。

パタンと扉が閉まり、中には一人だけが残された。

 

「…………………馬鹿弟子が。」

 

堂堅はほんの少し寂しそうに微笑んでいた。

 

干鋼は自室の荷物を整理して、その日の内に工房を出た。

安宿に泊まり、次の日洛陽に唯一残っている曹操軍の詰所に向かった。

 

「あの、ごめんください。」

「ん?ああ、どうかしたのか?」

 

声をかけるとすぐに兵士が出てきた。

ピンと伸びた背筋、行動も早くしかし威圧するだけでない雰囲気。

それだけで曹操軍の軍規の厳しさと練度の高さがうかがえる。

 

「二か月前の汜水関・虎牢関の戦いの事で伺いたい事があるんですが。」

「…ああ、誰か、身内でも戦に参加していたのか。それなら…。楽進隊長!ちょっとよろしいですか!?」

「なんだ?何か用か?」

 

楽進と呼ばれた灰色の髪の少女。

少女は他の兵達とは違う空気を纏っていた。

隊長とは言うが、少女は他の隊長とは格が違うのだろうと干鋼は思った。

 

「この少年が汜水関・虎牢関の戦いの事を教えて欲しいと。」

「…そうか、ならこちらに来て座ってくれ。いまお茶でも入れよう。」

「あ、ありがとうございます。じゃあ失礼します。」

 

席につき、お茶を受け取り楽進と向かい合う。

 

「<ズズッ>ふぅ、それで何を聞きたいんだ?」

 

楽進はお茶で唇を湿らせた。

加害者側であると分かっているが故に。

出来うる限り滑らかに話す為に。

 

「その戦で戦った主な武将がどうなったかお分かりになる限り教えてもらっていいですか?」

「構わないが何故そんな事を聞きたいのか教えてもらってもいいか?」

「あ、はい。理由は単純なんですが、彼女達が僕の知り合いで敗北後どうなったのかが知りたいんです。」

「…なるほど、わかった。私が知っている限り話そう。まず汜水関・虎牢関に詰めていた将達の中で名が通っていたのは呂布、張遼、華雄の三人だ。汜水関では序盤に華雄が打って出た時以外は目立った行動は取っていないな。恐らくは早々に汜水関を離れ、虎牢関に向かったのだろう。虎牢関では三将が始めから攻めてきて、虚を突かれた連合が大きな被害を負った。虎牢関陥落時には呂布が劉備軍を、華雄孫策軍を相手取り戦っていたな。そういえば張遼はいなかったな。ああ、そうだ、恐らく董卓の護衛に向かったのだろうと華琳様…曹操様が仰っていたよ。」

 

そうですか、と干鋼は頷いた。

が、ふと何かが引っかかった。

 

(あれ?なんだろう?あ、確かに肉屋のおじさんが連合が来た日に張遼さんを見たって言ってたっけ?それなのに董卓様は自害なさって、やりきれない…、違う。ちょっと待って。張遼さんがみすみす自害するのを見逃した?有り得ない事じゃないけど…っ!?もしそうならあの人の性格上きっと連合軍に突撃する!なのにそんな話は聞かなかった!それに…そうだ!董卓様はお一人でお亡くなりになった!賈駆さんがそんな事を許すはずが無い!間違いなく運命を共にするはず!それに皇帝陛下の対応もおかしい。流騎の話じゃ陛下と董卓様は仲が良かったはず。なのに董卓様死亡の触れを出した時、沈んだ様子は無かった。それどころか強い意志すら感じた。なんでわざわざ御自身で民の前に立ってまで触れを出す必要があったんだ?死んだ事を早く広めたいみたいじゃないか!全部あり得ない事じゃ無いけど、やっぱり不自然だ。多分、全ては董卓様を護る為。董卓様は生きていて、張遼さんや賈駆さんと一緒に居る!)

「…どうした?気分でも悪いのか?」

「いえ、大丈夫です。」

 

干鋼は平静を装った。

一応彼女は敵側。

董卓達が生きている事を知られるのはあまり良い事ではない。

 

「えっと、楽進さん。さっきの三将軍の他に流騎と高順と徐晃っていう武将を見ませんでしたか?」

「流騎という将は知らないが高順とは戦った。あっさり負けてしまったが。徐晃と言う将はしゅ…夏候惇将軍と戦ったらしい。二人とも戦場を離脱したようだったぞ。」

「そうですか。」

 

少し落胆した声で干鋼はそう言った。

 

「えっと、そ、そうだな、そうだ!汜水関で最後まで抵抗していた部隊の中に確か流という旗があったような…。」

「!?その部隊はどうなったんですか!?」

 

少し慌てた様子で楽進がそう言うと、身を乗り出すようにして干鋼は楽進に詰め寄った。

 

「汜水関で最後まで交戦していた董卓軍の部隊は全滅したよ…。あ、だが、確か関羽だったと思うが、斬られてその流旗の部隊から離れていく二騎の騎兵を遠目だが見た。もしかしたらそれが君の探している人間の一人だったのかも知れない。」

「分かりました!ありがとうございます!!」

(流騎は分からないけど他の人達は生きてる。流騎だって可能性が無い訳じゃ無い。まずはその二人の騎兵の行方を探してみよう。多分他の人達も、一番力の無い流騎を優先して探すだろうから運が良ければ途中で再開できるかも知れない。)

 

干鋼は勢いよく席を立つと、ぺこりと頭を下げて出口へ向かった。

 

「私が言うべきではないかも知れないが、見つかると良いな。」

「はい、ありがとうございました。教えてくれて、変に謝罪や同情をしないでくれて。」

 

そう言って今度こそ干鋼は詰所を後にした。

 

 

Side 霞

 

ピンと張りつめた空気の中、ウチと華雄が対峙する。

互いに隙を探り合い、攻め込む機を待っている。

しっかしあの華雄がこんな“待ち”の戦いが出来るとは思わんかったなぁ。

てっきり簡単に焦れて突っ込んで来ると思っとったら深呼吸しながら集中力を途切れさせんようにしとる。

 

ジャリ。

 

足音がして気配が二人分近づいてくる。

僅かにそっちに気を向けた時、ひらりと落ちてきた落ち葉が一瞬視界の一部を遮った。

その一瞬、

 

「おおぉぉおおおおお!!!!」

 

華雄が雄叫びを上げて踏み込んで来た。

 

(舐めんなや!多少先手取られた所でこの神速の張遼が速さで負けてられるかい!!)

 

ウチの飛龍偃月刀と華雄の金剛爆斧が交錯する。

ピタリと止められた互いの武器は、互いの首元にあった。

 

「あっちゃぁ、引き分けか~。強なったなあ、華雄。」

「いや、まだまだだ。我が武はこの程度では無い。私が振るえるのはこの武しかない。だからこんな所で満足している様ではいかんのだ!!」

 

ぐぐっと拳を握りしめながら吠える華雄。

けど、馬鹿には出来へん。

この短期間でびっくりするほど強なっとるからな。

 

「すごいな、二人とも。思わず見惚れちゃったよ。」

 

パチパチと手を叩きながら北郷と劉備が歩いてきた。

 

「何や、自分ら見とったんかい。」

「ああ、すごい緊張感だったから声かけられなくて。」

「そうそう、すごかったよね~。」

「さよか。ほんならもう一戦見て行きぃや、って言いたいところやけど、ウチ等に何か用があってきたんやろ?」

 

頭を掻く北郷と手を口元で合わせてにこにこと笑う劉備を見ながらウチは言った。

 

「何故そんな事が分かるのだ?」

「一勢力の主が二人して暇持て余しとるウチ等のとこまで来るとか、そんなんウチ等のこれからの事について聞きに来たに決まっとるやろ。」

「すご~い、張遼さんよくわかりましたね?」

「わからいでか。ウチかてこのままタダ飯喰ろうとるのもあかんと思っとったからな。そっちもそんな余裕あれへんやろ?」

「そこまでわかってくれてるのなら話は早いよ。俺達と一緒に戦ってくれないかな?」

 

ニコリと笑顔で手を差し出してくる北郷。

なんちゅうか裏の無い笑顔やなぁ。

もうちょっと強かにならんと交渉事なんかで失敗するんとちゃうか?

まあウチがとやかく言う様な事でも無いけど。

 

「う~ん、まあ一緒に戦うんはええよ?けど…。」

「「けど?」」

 

北郷と劉備が同時に首を傾げる。

仲ええなあ自分等。

 

「ウチも華雄も月と詠を護る為にここにおる。二人は確かにあんた等に匿ってもらって立場的にも侍女っちゅう高くは無い立場におるけど、ウチ等にとって最優先で護りたいのは二人を含めた仲間の居場所や。せやから正式にあんた等の家臣になる気はさらさら無い。それでもええか?」

「…そっか、わかった。正式に仲間になって貰えないのは残念だけど、力を貸してくれるならそれで構わないよ。いいかな、桃香?」

「もちろんだよ、ご主人様。張遼さんや華雄さんみたいな強い人が力を貸してくれるんなら客将でも何でもいいと思うよ。」

「ほんなら決まりやな。ウチと華雄は客将としてあんた等に力を貸す。ええか?華雄…って自分何しとんねん!!」

 

話がまとまって隣におるはずの華雄に確認を取ろうとしたら、あのアホすでに横にはおらんとブンブン斧を振り回しとった。

はなから聞く気あれへんのかい!

 

「ん?おお、話は終わったのか?」

「えらい静かやと思っとったらそもそも聞く気すら無かったんかい!」

「ややこしい話に私が入っても大した事は言えん。それなら少しでも武を鍛えた方がよかろう。」

 

どうやとばかりに胸を張る華雄。

そこまで堂々と言われたら怒る気も失せるわ。

 

「は、ははは、た、大変そうだな。」

「…おおきに。まあいつもの事やねんけどな、はぁ。」

 

うちは大きく溜息を吐いた。

何となしに見上げた空は真っ青やった。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択