No.563397

フェイタルルーラー 第六話・死せる王都

創作神話を元にした、ダークファンタジー小説です。死体表現、流血・グロ描写あり。14410字。

あらすじ・リザルとローゼルがダルダンへ足を踏み入れた頃、王都ブラムは人ならざる兵団によって壊滅していた。
ダルダン王は王都奪回のため、自ら軍を率いて死地へと臨む。
第五話http://www.tinami.com/view/560201

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2013-04-06 20:53:15 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:434   閲覧ユーザー数:434

一 ・ 死せる王都

 

 神よ。

 男のおごそかな祈りは、誰もいない地下神殿内に木霊する。

 

 地上に通じる明かり取りから漏れる陽光だけが、薄暗い祭壇を仄かに照らした。

 鋼の甲冑に身を包み膝を折る壮年の男は、守護神像にひたすら祈りを捧げる。

 その手には黒く輝く両手剣が握り締められ、鏡のような波状の刃にはただ男の苦悩が映し出されていた。

 

 壮観であった。

 

 祭壇の上部を彩るステンドグラスからこぼれる陽光は色とりどりに石床へ落ち、鮮やかな模様を浮き立たせる。

 男の持つ黒曜石の剣はその輝きを反射し、ガラスのようにきらきらときらめいた。

 

「陛下。お時間です」

 

 祈り続ける彼の背後から、侍従が静かに声を掛けた。

 その言葉にダルダン王はやおら立ち上がり、金糸で刺繍されたサーコートを翻して侍従を見た。

 

「奴らが来たか。敵軍の編成はどうなっておる」

「敵司祭の率いる一個中隊がゴズ鉱山を占拠。ここより南のブルン村にも一個小隊を確認しました。王都の確認は取れていません。恐らく全滅したものと思われます」

「王都からこの城塞都市ガルガロスまでは、騎馬でも数日かかる。ブルン村を拠点にして攻めるつもりだろうな」

 

 ダルダン王は苦々しい表情で黒曜石の剣を握り締めた。

 王都ブラムは王のガルガロス滞在中に、死人の兵団によって壊滅させられた。なすすべ無く軍は敗走し、わずかに残った民と兵がガルガロスまで逃げ延びたが、被害が甚大であまり猶予はない。

 亡国の危機には守護神が道を指し示してくれると信じられていたが、彼らの神は未だ現れる兆候すら無かった。

 

「神は我らを見捨てたもうたのか。だがダルダン人は最後の一人とて敵には屈しない」

 

 決意を表す王に、侍従は控えめに現状を申し出た。

 

「畏れながら陛下。間もなく糧食も尽き、民も兵も疲弊しきっております。大事に至る前に、隣国へ応援を要請してはいかがでしょうか」

「……それはワシも考えた。民は王たるワシを信じてくれておる。皆が国という心の支えを失う前に、レニレウスなりネリアなりに助力を求めねばなるまい。だが」

 

 力強く握り締めた剣の切っ先を石床に打ち立て、ダルダン王は吼えた。

 

「自らの王都を取り戻せもせず、何が王か。このワシの命ならいくらでもくれてやる。ブルン村とゴズ鉱山を解放後、王都奪回のため進撃する」

 

 侍従の進言にもダルダン王は心を変えようとはしなかった。

 

「王都ブラムから一番近いのはネリアだろう。ならばワシが死んだ後、この書状を持ってネリア王フラスニエルの許へ走るがよい。若いながら情に厚い王だ。ワシの命ひとつで動かせるなら安いものよ」

 

 ダルダン王は懐から一冊の書状を引っ張り出すと侍従へ預けた。

 書状にはダルダン王家の正式な紋章で封蝋してあり、彼の意志が確かである事を物語っていた。

 

「さて往こうか。呪術で縛られた死人の兵など蹴散らしてくれる」

 

 地上への階段をダルダン王は力強く踏みしめ、侍従は静かに背後から付き従った。

 

 

 

 フラスニエルの許可を得、リザルとローゼルはダルダン王国へと足を踏み入れた。

 お世辞にも好かれているとは言えなかったクルゴスの捜索に名乗りを上げる者は無く、たった二人だけの捜索隊となった。

 

 森や草原の多いネリアとは異なり、国境を越えればそこは荒涼とした大地が広がっていた。剥き出しの岩肌は果ても無く続き、吹き付ける砂嵐は自然の厳しさを知らしめる。

 覚悟を決めてダルダンへ入った兄妹だったが、故郷とはまるで違う厳しい気候にただ黙り込むしか出来なかった。

 地図上で国境から一番近い都市は王都ブラムだが、クルゴスのような老人の足で辿り着けるとは到底思えない距離だ。

 

「とにかく王都へ向かいましょう。ダルダン王は武人としても、為政者としても素晴らしいお方だと聞くわ。きっと助力して下さる」

 

 妹に引っ張られるように、リザルはダルダンの王都を目指した。途中古ぼけた神殿遺跡が目に入ったが、巨木がそびえているだけで人の気配はまるで無かった。

 砂嵐の中、数日かけて二人は王都ブラムまで辿り着いた。だが市街へ至る門は固く閉じられ、内部からは音すら聞こえてこない。

 

 まだ日は高く、人や荷馬車の往来もあるはずなのに、頑なに門を閉じているのは何か理由があるのだろうか。

 リザルは正門前にある守衛の小屋を探した。

 

 見ると小屋の扉は半ば開いており、彼は恐る恐る扉に近付いた。ゆっくりと扉を押すと、それは軽い音を立てて内側へと開く。

 小屋の内部は薄暗く、窓は鎧戸で締め切られていた。立ち込める空気が放つ異臭に、リザルは鼻口を覆った。

 室内には机と椅子だけが置かれ、灯りに使われていた蝋燭は全て溶け落ちている。その下には腐乱を始めた衛兵の亡骸が転がり、白く濁った虚ろなまなざしをリザルに向けていた。

 

「来るな!」

 

 近付こうとしたローゼルにリザルは怒鳴った。

 鼻と口を塞いだまま乱暴に扉を閉め、リザルはこみ上げる吐き気に耐えながら後ずさった。

 

「お兄様……あれ……」

 

 ローゼルの震える指先を見やると、城壁の上には無数の屍が立ち尽くしている。

 屍たちの真っ黒い眼窩には不気味な赤い炎が灯り、恨めしそうに二人を見下ろしていた。

二 ・ 死に向かう者

 

 王都ブラムの変わり果てた姿に兄妹は戦慄した。

 

 屍が居並ぶ城壁からは赤毛の男が現れ、二人を見下ろした。男は純白の法衣を纏い、金属製の杖を手にしている。

 リザルと歳の近い男は無数の生ける屍を侍らせ、不気味な薄笑いを二人に向けた。

 

「この都市はすでに我ら至高教団が拝領した。来るべき唯一神降臨に備え浄罪のさなか故、関係の無い者は早々に立ち去りたまえ」

 

 物静かに聞こえるが、その声色には狂気が滲み出ている。

 リザルはローゼルをかばうように前へ進み出た。

 

「ここをダルダンの王都ブラムと知っての所業か。西アドナに豪槍ありと謳われた、ダルダン軍の恐ろしさを知らない訳はあるまい」

「ダルダン軍? ……ああ、そこにいる屍どもの事か」

 

 男は笑いながら持っている杖を振り下ろす。

 次の瞬間、いくら叩いても開かなかった城砦の大扉が轟音を立てて内側へと開いた。

 薄暗い内部からはちろちろと赤い炎が無数に灯り、それが屍たちの双眸だと理解するまでにはしばらくかかった。

 

「素晴らしいだろう。どれだけ敵がいようとも、死んでしまえば我らの兵となる。戦術が戦況を変えると豪語する者もいるだろうが、この『屍繰の術』は無を無限にし、質より量で圧倒するのだ」

 

 男は杖を振りかざしながら下品に嗤い立てた。

 見れば死人の兵たちは、どれもダルダン軍のサーコートを纏っている。

 いずれも腕や脚は折れ曲り、首が捻れた状態のままリザルとローゼルへと迫った。瞬く間に二人は囲まれ、辺りは死人兵で埋め尽くされていく。

 

「これだけの兵を相手になど出来まいよ。教義による浄罪に人間は加えられておらんが、せめて屍の兵にしてやろう」

 

 愉悦に浸る男の顔をリザルは睨み付けた。

 兄妹は剣を抜き、互いに背を守る形で死人兵たちと対峙する。

 

 二人は屍たちを相手に剣を振るったが、痛覚が無いのか兵たちはまるで怯む様子がなかった。

 首を落としたくらいでは動きが止まる訳でも無く、次第に兄妹は押され始めていく。

 

「死人兵は骨ごと潰されるか、術を解除してやらねば永遠に動き続ける。何をしても無駄だ」

 

 その言葉にリザルは男を見上げた。

 杖を持った男はまるで競技を観戦するかのように、城壁の上から悠々と眺め下ろしている。

 

 死人兵の剣を打ち払いながらリザルは突破口を探した。

 押し寄せる屍の波の中で、唯一数が少なめの一角を見出すと、彼は妹に声をかけた。

 

「ローゼル! 跳べ!」

 

 リザルの声にローゼルは振り返り、兄の傍へ駆け寄った。助走しリザルの肩へ駆け上ると、華麗に囲みの外へと跳躍する。

 妹が囲みを抜けたのを知ると、リザルも群がる屍たちへと突進した。屈むと勢いよく滑り込み、足元のわずかな隙間から屍の山を突破した。

 

 兄妹は屍たちをやり過ごすと門をくぐり抜け、城壁の上にいる男を目指した。

 死人兵を止めるためだけでは無く、戦いの末に命を落とした死者を冒涜する行為が彼らには許しがたかったのだ。

 

 階段を駆け上がり城壁へと辿り着くと、杖を携えた赤毛の男は、未だその場に立っていた。

 だがその余裕を見れば逃げられなかったのではなく、逃げるつもりがなかったのだろうとリザルは思った。

 

「面白い奴らだ。絶対的危機の中にあっても希望を失わない。……私が一番嫌いな連中だよ」

 

 二人の登場に驚く様子も無く、男は二人を見た。

 落ち着き払う男をリザルは睨み、屍繰の術を解除するすべを探した。術というからには、術符のような触媒になるものがあるはずだ。

 だがそれらしい触媒も見つけ出せず、リザルは焦りを隠せなかった。下からは死人兵たちが、肉を引きずる嫌な音を立てて階段を昇り始めている。

 

「さあもう諦めるがいい。どのみち術は解除できん。仲良く死人と成り果てろ」

 

 その言葉が終わる前にリザルは男へ斬りかかった。

 男は金属の杖で軽くいなし、張り付くような笑顔を絶やさない。その不気味さにリザルは寒気を覚えた。

 弾かれた剣撃の隙を杖でしたたかに打ち返され、リザルは脇腹を押さえて片膝をついた。

 

 兄がうずくまった瞬間、ローゼルが男へと突進した。不意をつかれたにも関わらず杖は意思があるかのように、彼女の刃を受け止める。

 睨み付けるローゼルの顔を見て、男は目を細め呟いた。

 

「なかなかどうして、類いまれな美貌だな女。並の男ならその容姿に惑わされているだろうよ」

 

 ローゼルの剣を弾き返し、男は杖の先を突きつけた。獅子の頭を模した杖は日光を反射してぎらりと光る。

 

「だが知っているか。顔かたちの美醜など、ただの上っ面にしか過ぎん。皮を一枚一枚剥いでやれば、その下に覗くのは骨と肉のみ」

 

 嬉しそうに口角を吊り上げる男に、兄妹はこれ以上にない嫌悪を覚えた。

 

「人の本質など、どれもこれも変わりはしない。下らん建前を剥いだ後に残る、肉と臓物と骨だけが人の全てなのだ」

「……言いたい事はそれだけか」

 

 ふらりと立ち上がったリザルに気付くのが遅れ、男は左頬に強烈な一撃を食らった。吹き飛んだ拍子に杖が手から離れ、暗がりへ音を立てて転がる。

 

「てめえの下らない思想に人を巻き込んでるんじゃねえ」

 

 立ち上がるローゼルに手を貸し、リザルは吐き捨てるように言った。

 男はうめきながら上半身だけを起こし、じっと二人を睨んだ。

 

「何をしても無駄さ。もう止められない。杖を触媒として術を発動しているのだからな」

 

 高笑いをする男を尻目に、リザルは杖を見た。階段側の暗がりへ転がり込んだ杖は、ぼんやりと青白く光を放っている。その輝きにリザルは見覚えがあった。

 

「神器……か?」

「ほう神器を知っているのか。アレは本当に素晴らしい。まさに神に相応しい装具だ。我ら至高教団の司祭が使いこなすのが一番だとは思わないか」

「黙れ!」

 

 立ち上がった男を再び殴り倒し、リザルは杖を拾い上げた。破壊しようと勢いよく石床に叩きつけたが、杖は軽い金属音を立てただけで傷ひとつ付く気配が無かった。

 

「無駄だと言っているだろう。それにお前たちの命ももうすぐ消える。……聞こえるだろう? 亡者どもの足音が」

 

 くぐもった笑い声に階段の奥を見やると、そこには先程の死人兵たちが押し寄せて来ていた。暗闇に爛々と灯る赤い目だけが、不気味に数を増やしつつある。

 

「さあ殺せ。人は死ぬために生きている。生きるための歩みは、茨を踏みしめる素足そのもの。苦しみ血を流し、それでも進まずにはいられない。お前もそう思うだろう。死に向かう者よ」

「違う! ……それは違う!」

 

 男の嘲笑をリザルは必死に否定した。――見透かされている。

 

 リザルが口にしている否定すら、男の言葉を否定しているのではない。自らの心に潜む死への願望を否定しているのだと気付き、彼は恐怖した。

 この五年間何にも心を動かされず、凍り付いていたリザルの時間を溶かしたのはあの少年なのだろう。彼との出会いが、皮肉にも内に秘めた陰惨な願望を揺るがせ始めていた。

 

「ほら迎えが来たぞ。見えるだろう、あの黒い鳥が」

 

 仰向けに倒れたまま男は呟いた。見上げればそこには黒く大きな鳥が旋回している。悠々と天空を舞うその姿は、この場においては死神にしか見えないだろう。

 小さく悲鳴を上げるローゼルに階段へと目を向けると、すでに死人兵があふれ出していた。その数は数十を下らない。

 二人は徐々に追い詰められ、最後には城壁の端を背にするしかなくなった。その下は何も無い。ただ荒れた大地が剥き出しているだけだ。

 

 死に向かう者。そうなのかもしれない。リザルは自嘲気味に微笑んだ。

 愛する者のためなら命など惜しくはない。だがそれは亡くした妻を忘れられない自分からの逃避なのだと、彼は気付いてしまった。

 

 にじり寄る亡者の群れに、リザルは覚悟を決めた。妹を抱え上げ城壁へと進む。兄が何をしようとしているのか勘付いたローゼルは叫んだ。

 

「お兄様! やめて、そんな事したら……」

「いいんだ。お前だけでも助かるかもしれない。それなら」

 

 自分勝手な言い分だとリザルは思った。自分が命を落としても妹が助かるなら。だがそうして生き残った者は、自責の念を抱いたまま生きる事になるだろう。

 全てを理解しながらリザルは跳んだ。ローゼルの悲鳴が耳に届く。とてつもない速度で落下しながらローゼルが下にならないよう、彼は妹を掻き抱いた。

 

 大地に激突する瞬間、柔らかく大きな何かが彼らを受け止めた。

 目を開けるとそれは巨大な翼のように見える。黒くきらめく羽根は、陽光の中で虹色に映えた。

 

 遥か蒼天を見やると、そこにはあの大きな黒い鳥がいた。

 大きな鳥は何度か旋回すると東へと飛び去って行く。リザルの目には何故か、その背に黒髪の男が見えた気がした。

三 ・ 護り手

 

 国境を越えダルダンへ入ったエレナスとセレスは、途中の岩肌に小さな洞窟を見つけ、夜を明かす事にした。

 道なりに舗装された街道を行けば街には着くだろうが、闇夜の深さと吹きすさぶ暴風のために、子供の足では歩き続けられなくなっていたのだ。

 

 内部の安全を確認し、二人は入り口近くに火をおこした。

 誰もいない荒野はただ星が瞬き、うっすらと白金に輝くベールが天空を覆っている。

 

 疲れているセレスを先に寝かせ、エレナスは独り火の番をした。

 ぼんやりと火を見つめながら、彼は不意に神器の剣を抜き放つ。細身の優美な剣は、炎の前ではただの白刃でしか無い。

 

 銀貨をくれた老婆は、司祭が神器を所持していると言っていた。全ての神器が教団によって発見された物ではないだろうが、この剣の出所は一体どこなのか。

 剣をエレナスの家に持ち込んだ者。まるでそれと呼応するように襲ってきた集団。それらはどこかで繋がっているとでも言うのだろうか。

 

 雑念を振り払うようにエレナスはかぶりを振った。

 今はただ密猟者を追い、姉に再会するのが先決だろう。故郷を壊滅させたのが教団なのかどうかは、もっと情報を得てからでなければ判断出来ない。

 

 剣を鞘に収め、エレナスは視線を焚火へと戻した。

 暖かな炎は疲れきった二人を優しく包み込む。その柔らかな温もりに、エレナスはほんの一瞬まどろんだ。

 

 漂うような心地よさを奇怪な音で遮られ、エレナスは驚いて目を覚ました。

 闇夜の荒野から何かが聞こえる。ずるりずるりと引きずるようなその音は、強風に煽られてあちこちへ響き渡った。

 

 いつでも剣を抜ける状態にし、エレナスは洞窟の入り口横へと寄った。用心深く外を窺うと、そこにはいくつもの赤い炎がちらちらと明滅している。

 その数もひとつやふたつでは無い。十程度だったものがいつしか無数に増えていっているのだ。

 

 エレナスは火のついた薪を手に取り、洞窟を取り囲む群れに投げ込んだ。

 宵闇の中に映し出されたのは、人の形をしたモノだった。否、かつては人の形をしていたと言うべきだろう。

 首や腕は折れ、ねじくれた脚を引きずる者、裂けた腹部から赤黒い臓物を覗かせる者。それらは異形と言うほか無い。

 

 不気味な死人の群れに、エレナスは咄嗟に洞窟を飛び出した。音も無く剣を引き抜き、異形たちに対峙する。

 闇の中、神器の剣はその細い刃に青白い輝きを灯した。

 

 心なしか死人たちが怯んだように見えたが、それらはすぐさま飛び掛って来た。内臓を引きずり、手に手に生前使っていたと思われる武器を振るう様は、気の弱い者なら失神してしまう程凄惨だ。

 驚く事にエレナスが剣を一薙ぎする毎に、屍たちは操り糸が切れた人形のように倒れ込んでいく。

 

 だがそうして斬り払っている間も、続々と屍の波はエレナスへと押し寄せた。

 自分一人だけならどうとでもなるだろう。しかし背後には護るべき者がいるのだ。

 下がる事を拒み、エレナスはただ独りその場で戦い続けた。だが優に十数体は斬り倒したというのに、生ける死体の数が減る事は無かった。次第に息が上がり、じりじりと追い詰められていく。

 

 ――負ける訳にはいかない。

 

 握り続けているせいで痺れる右手を押さえ、エレナスは更に柄を握り込んだ。その時。

 不意に屍の背後で何かが動いたように見えた。

 

 暗闇の中きらめく一閃が屍の山を斬り裂き、一角が大きく崩れた。

 そこから現れたのは長い銀髪に蒼い衣装を纏った男だ。彼が手にした太刀で死人たちを薙ぎ払うと、関節と腱を筋肉ごと断たれたのか、それらは肉塊となり崩れ落ちて痙攣し始める。

 

「あなたは黒森の時の……」

 

 エレナスは男に見覚えがあった。

 レニレウス領の黒森で窮地を救ってくれた獣人族だ。この男の加勢が無ければ、老人の操る鈴の魔力に負けていただろう。だが感謝の念と同時に、エレナスには解らない事があった。

 何故この獣人族は幾度も助けてくれるのか。

 

 故郷にいた獣人族たちは古来からの移民であり、東アドナの衣装を着ている訳ではなかった。

 彼らの知り合いである可能性も低く、エレナスは恩人に対して疑問を口に出せなかった。

 

「お前たちを助けるのは私自身のためだ。他意は無い」

 

 男は驚くほど流暢な共通語を口にした。

 四王国間での往来が活発で、多民族が存在する西アドナでは共通語が通用言語となっているが、東アドナは文字も言語もまるで形態が違うと聞いていたエレナスは驚いた。

 

「あなたは一体……何者なのです」

 

 驚くエレナスに男は微笑し、更に太刀を握り締める。

 

「私の名はソウ。白狐族最後の一人だ」

 

 彼が太刀を振るうたびに屍は肉塊へと変貌し、次第にその数を減らしていった。

 全ての死人たちが本来あるべき眠りへと戻った頃、ようやく東の空が白み始める。

 緊張の糸が切れ、エレナスはふらふらとその場へ座り込んだ。ふと背後から物音が聞こえた気がして振り向くと、そこには眠っていたはずのセレスが起きて来ていた。

 

「うーん。おはよう。あれ、何かあったの?」

 

 二人の話し声で目が覚めたのか、セレスが目をこすりながら洞窟から出て来る。

 寝ぼけまなこで辺りを見回し、無数に転がる屍の山を目にして彼は後ずさった。

 

「何これ……。また白い服の人たち?」

「いや、これは違うようだ。鎧の上に着るサーコートにダルダン軍の紋章が入っている」

 

 全ての屍が動きを止めたのを確認し、エレナスとソウはそれぞれの武器を鞘に収めた。

 

「ダルダン軍? 何でこんな事になったんだろ。だってこの人たち、死んでから随分経ってるように見えるよ」

「ああ。死後数日といったところか。この分では王都は……」

 

 嫌な予感がしてエレナスは言葉を切った。

 軍が崩壊し、兵士が死人となって動き回る。これはすなわち王都が陥落したという事だ。これも教団と関係があるのだろうか。

 

「ここにいても仕方ない。とりあえず一番近い街へ行こう。人々が生きていればいいが」

 

 エレナスは何も言わず立ち去ろうとするソウに気付き、その背へと声をかけた。

 

「ありがとう。あなたがいなければ危なかった」

 

 その言葉にソウはちらりとだけ振り返り、呟いた。

 

「お前たちを尾けているのは私だけでは無い。用心する事だ。お互い生きていれば、いずれまた会えるだろう」

 

 そう言い残し去ってゆく彼に、セレスも大声で礼を言い手を振った。

四 ・ 篭絡

 

 地図を頼りに、エレナスとセレスは北にあるブルン村を目指した。

 

 ダルダンの気候は初夏でも肌寒く、本格的な夏は一ヶ月も無い。年間の降水量も少なく、雨季でもあまり水を蓄えられない地域だ。

 荒野が多いために風が強く、防風林がいたる所に植えられているが、水源に乏しい大地では木々の維持すらままならなかった。

 

 不毛の大地とまで言われながらダルダンがこれまで発展して来れたのは、ひとえに鉄鉱石や硝石など、他国では産出の無い資源が豊富だったからだ。

 そんな厳しい環境のせいなのか、ダルダンには古来から名だたる武人が多数輩出された。鉱石の加工技術と同時に製鉄技術も発達し、比類なき軍事国家として成立したのだ。

 

 ソウと別れ、朝から歩き通しだった二人が最初の村に到着したのは昼過ぎだった。閑散とした寒村には人影もまばらで、お世辞にも豊かとは言えない。

 

「何か寂しい所だね……」

 

 セレスはきょろきょろと見回すが、王都で育った子供には地方都市の風景が物珍しいのかもしれない。

 実際この村にある施設といえば市場や宿、酒場と倉庫の他は何もないのだ。

 旅人も少ないのか、村人たちは二人をちらちらと見やると、そそくさとどこかへ行ってしまう。歓迎されていないのは確かだった。

 

「とにかく情報を集めよう。密猟者たちの事もあるが、ゆうべの動く死体も気になる」

 

 エレナスの提案にセレスは賛成した。ダルダンの紋章入りサーコートを身につけた死体が闊歩しているなど、村の者たちは承知しているのだろうか。

 ダルダン軍が敗れたとなれば王の安否も定かではなく、統治者不在となる。

 

 情報を得るために二人はまず市場へと立ち寄った。

 小さいながらに活気があり、それほど国内が混乱しているようにも見えない。水や糧食の補充をしながらそれとなく訊いても、大した返答すら無かった。

 市場での情報収集を諦め、二人は酒場の様子を見る事にした。

 

 酒場へ向かう途中、いきなりセレスがエレナスの腕を引っ張った。そのまま物陰へ引っ張り込まれ、驚いたエレナスはセレスを見た。

 

「どうした? 何かあったのか」

「あいつらがいたんだ……。密猟者だよ。ようやく見つけた」

 

 セレスが指す方向を見やると、そこには見覚えのある人物が数人いる。一目見た状態では服装や持ち物も、狩猟場の時と大差ない。

 密猟者たちは掌大の麻袋を一人の男に渡している。大きさから密猟品の売り上げだろうとエレナスは推測した。

 渡されている男も特に不審な様子が無く、ただの村人にしか見えない。

 

「どういう事なんだろう。あの男は密猟者どもの元締めなのか? いずれにしてもこのまま奴らを見逃せない」

「じゃあさ。あいつらを捕まえよう。ぼくに任せて」

 

 きょとんとするエレナスに、セレスはにっこり笑いかけた。 

 

 

 

 夕方密猟者たちが酒場に入るのを確認し、二人は作戦を実行した。

 連中がしこたま呑んで出てきたところを捕獲するという実に単純な罠だが、この囲い罠には獲物を誘い出すためのエサが必要になる。

 

「それで……。何で俺がこんな格好をしなきゃならないんだ」

 

 市場で安く買った女物のベールを頭から被せられ、エレナスは不満げに呟いた。

 

「大丈夫だよ。暗闇の中だし、相手は酔ってるからバレないと思う」

「いやそうじゃなくて……」

「ぼくじゃ背が低すぎて、子供ってバレちゃうからさ。お兄ちゃんならちょうどいいと思うんだ」

 

 無邪気に笑うセレスに何も言えず、エレナスはため息をついた。

 

「子供の考える罠とは思えないな。女の姿をエサに男を釣ろうなんて」

「前にさ、ぼくの叔母様の話をしたでしょ。すごい美人で、毎日男の人が家まで押しかけてくるんだよ。それで思いついたんだ」

 

 とても子供とは思えない発想力にエレナスは降参した。

 

「分かった。どう誘導すればいいんだ?」

「村の入り口に木が二本立っているところがあるから、そこまで来て。木の間に馬毛で編んだ縄を通しておくから、引っかからないようにね」

 

 酒場から村はずれまでの経路を確認し、エレナスは頷いた。

 物陰からしばらく様子を窺っていると、男たちが酒場からぞろぞろと出てくるのが見えた。

 

 それを合図にエレナスとセレスは別行動に移る。

 村はずれへ走るセレスを見届けた後、エレナスはベールを被ったまま男たちの前へ姿を現した。

 大きめのベールで体を覆えば、意外に判別がつきにくいようだった。男だと看破されないよう一定の距離を保ち、街娼が立っているように見せかける。

 

 密猟者の一人がふらふらと寄って来るのを確認し、エレナスは誘うように手招きをした。

 立ち止まっては振り返り、その都度男たちがついて来ているか確認しながら誘導する。その様はさながら、指の間からすり抜ける蝶のように思えただろう。

 

 建物の間を縫い、誘導していくうちに、目的の木がエレナスの目に飛び込んで来た。

 罠だと悟られないよう今までよりも距離を縮め、エレナスは男たちを誘い出す。

 

 人は誰しも、手に入りにくい物を欲するものだ。そして酒によって正常な判断を下せない状態が、彼にとって有利に働いた。

 抱きしめようと手を伸ばしたところへさらりと逃げる女を怪しいとも思わず、酩酊した男たちは誘われるまま村はずれまで辿り着いた。

 

「さあもう逃げられんぞ」

 

 罠に掛けられたとも知らず、男たちは下卑た表情をエレナスへ向けた。

 更に逃げようとするエレナスは不意につまづき、草の上へと倒れ込んだ。男たちはその隙を逃さず飛び掛かる。

 

 次の瞬間、男たちは何が起こったか理解が出来なかっただろう。

 彼らは張られた縄によって足をとられ、宙に浮いた。草の上に倒れていたエレナスは、すぐさま身を翻し起き上がる。

 そのまま倒れた男たちに網を被せてセレスが縛り上げ、文字通り一網打尽にする。

 

「逃げられないのは、あんたたちの方だったな。さあ洗いざらい吐いてもらおうか」

 

 もがく男たちにベールを脱ぎ捨てて素顔を晒すと、エレナスは微笑した。

五 ・ 宿敵

 

 縄で縛り上げられた男たちは、しばらくの間状況を理解出来ないようだった。

 それもそうだろう。彼らはふらふらと街娼を追って来ただけで、捕縛される心当たりが無かったからだ。

 喜ぶ子供たちを呆然と眺めながら、彼らは霞がかった思考を巡らせた。

 

「やったね、お兄ちゃん。女の人のふりが上手いなんて意外だなあ」

「そういう事言うなよ……。もう二度とこんなマネしないからな」

 

 罠に嵌められた事に、男たちはようやく気付いた。それも縄に足を取られるという非常に原始的な罠だ。

 酔いも醒めた頃、彼らの自尊心は粉々になっているだろう。

 

「さあ、白状してもらうぞ。教団とは何だ? あんたら修道士なんだろ。何で他国で密猟なんてやってたんだ」

 

 エレナスの威勢に男たちはやっと現状を理解し、震え上がった。

 

「仕方が無かったんだ! 修道士は教団でも下っ端だ。定められた金額まで喜捨をしなければ、オレたちは司祭にはなれない」

「喜捨……。何が喜捨だ。平等を謳っていても結局金か。司祭に昇格する事がそれほど重要だと言うのか」

 

 男たちを睨み付け、吐き捨てるようにエレナスは呟いた。

 彼らの言い分だと至高教団は宗教団体とは名ばかりの犯罪集団だという事になる。

 四王国でそれぞれの守護神が祀られている現状、どんな流派に属しようと誰も咎める者はいないが、それを隠れ蓑にして人や金を集める組織はもはや教団とは呼べない。

 

「お前たちは見なかったのか? 教団は無敵の兵団を持っているんだ。死体に術をかけ、死人の兵を創り出す。オレたち修道士は鉄砲玉として死んだ後、残らず死人兵にされる。そんな目には遭いたくないんだよ!」

 

 その言葉にエレナスとセレスは顔を見合わせた。

 

「まさか……。教団は王都ブラムを攻め滅ぼして、そこで更に死人兵を増産してるとでも」

「ああ、そうさ。我々の唯一神を降臨させるためには、王都東にある古代神殿遺跡がどうしても必要なんだ。だから……」

 

 男の言葉はそこで途切れた。彼はエレナスの背後を見つめながら冷や汗をかき、目を泳がせている。

 異様な雰囲気を察しエレナスが振り返ると、そこには黒森で会ったあの老人がいた。

 ソウに斬られた左腕は無造作に包帯で巻かれ、右手には鋭い包丁にも似たナイフが握られている。

 

「貴様……黒森の!」

 

 黒森での悪夢を思い出し、エレナスは剣の柄に手を掛けた。

 よく見れば老人の持つナイフはうっすらと輝き、それが神器である事を示していた。

 

「おお……。あの時の小僧か。わしはなあ、ずっとお前さんたちを探しておったよ。悪い子には仕置きをせねばならんでの」

 

 人の良い好々爺のように、老人はにこにこと微笑んだ。だがその目の奥にはどろりとした憎悪が渦巻いている。

 

「セレス! 下がってろ」

 

 剣を抜き放ちエレナスは構えた。片腕の老人とはいえ、相手は神器を持つ司祭だ。油断は出来ない。

 

「何故俺たちがこの村にいると分かった? 教団は何をしようとしているんだ」

「……そんなに多くの質問には答えられんよ。最初の質問にだけ答えよう。この村にいるのは全て教団の構成員。罠に嵌ったのはお前さんたちの方じゃ」

 

 エレナスの反応を楽しんでいるのか、老人は不敵に笑った。

 

「本来の住人どもは一箇所に集めて管理しておる。屍操の術が最強の兵団を創るとはいえ、死体は新鮮な方がよいからの」

「ふざけるな!」

 

 激怒するエレナスに老人はにやりと笑った。

 

「慌てるでない。お前さんの相手はこやつらがしてくれる」

 

 その言葉が終わる前に、老人は手にしたナイフで男たちを絡め取る縄と網を断ち切った。返す刃で彼らの喉を掻き切ると鮮血がほとばしり、老人の白い法衣を深紅に染め上げる。

 返り血を浴びながら月明かりに微笑む老人は、狂人そのものだ。

 

「さあゆけ。我が兵よ。これぞ我ら至高教団の奥義、屍操術じゃ」

 

 つい先ほどまで生きていた男たちはほんの一瞬で死体となり、そして今や老人の操る屍の兵と成り果てた。

 首筋から鮮血を滴らせ、虚ろな目でエレナスを睨む屍たちを彼は哀れんだ。

 これが死人兵になりたくないと言っていた修道士たちの末路なのだ。

 

「我々を止めたければ、こやつらを倒してみせい!」

 

 老人の挑発に、エレナスは屍たちへ躍り掛かった。

 青白く光る刃は宵闇の中、鮮やかな閃の軌跡を描く。あの夜と同じように屍たちは糸が切れたように崩れ落ち、微動だにしなくなる。

 その様子を老人は逃げるでもなく、ただ見つめていた。所々ほうと唸ってみたり、頷く様はまるで観察者のようでもある。

 

「やはりあの剣は神器で間違いない。破壊以外にこのような方法が存在しようとは。いやはや、試す価値があるというもの……」

 

 老人は意味の解らない言葉をぶつぶつと呟いた。

 いつの間にかエレナスは全ての生ける死体を打ち倒し、老人へと迫っていた。

 彼の蒼い瞳は穏やかなさざ波を失い、老人への怒りでぎらぎらと輝いている。

 

「残るのは爺さん、あんただけだ。おとなしく俺の質問に答えてもらおう。教団は何をしようとしている」

「おやおやもう全て倒したのか。やはり神器相手では分が悪いのう」

 

 心の内をまるで明かさず侮蔑するように嗤う老人に、エレナスは苛立った。

 剣を手に斬り掛かっても、老人とは思えない身のこなしでさらりと躱し、右手のナイフで斬りつけてくるのだ。

 

 長剣とナイフではまるで間合いが異なる。

 その点においてはエレナスが有利であるはずだが、小柄な老人は猿猴のように素早く間合いを詰める、周到な攻めを得意としていた。

 左腕を肘から落とされている状態で、これ程の運動能力を誇る老人にエレナスは圧倒された。

 

「長命種とは名ばかりかね。さあもっとわしを楽しませておくれ」

 

 楽しげに煽る老人に、エレナスは自らの間合いを測った。挑発に乗って斬り掛かっても躱されて反撃を受けるだけだ。

 そんなエレナスの緊張をよそに、老人はのんびりと世間話をしているように語り掛ける。

 

「そういえばお前さん。あの鈴はどうした? わしの鈴じゃ。いい機会だから返しておくれ」

「さあな。あの森に捨てて来たから、どこかに転がっているだろうさ」

 

 そう言いながらエレナスは懐に手を入れた。そこから現れたのは姉の短剣だ。

 鞘を払い右手に長剣を、左手に短剣を握り締めながら、彼は老人を見据えた。

 よく似た二振りの剣に老人の目が吸い寄せられる。

 

 その瞬間をエレナスは見逃さなかった。

 

 跳躍し懐へと飛び込むと、長剣でナイフを払い落とした。宙へ舞ったナイフは放物線を描き、軽い音を立てて地面へと落ちる。

 老人は短剣を喉下へと突きつけられ、エレナスを睨んだ。

 反応が遅れたために躱す事も打ち払う事も出来ず、老人はその場へゆっくりと膝をついた。

 

「あんたの負けだ」

 

 睨み付ける老人を見下ろし、エレナスは呟いた。

 老人から教団の情報を訊こうとしたその時。不意に周囲から鬨の声が上がった。

 

 驚き顔を上げたエレナスの隙を突き、老人は素早く転がりナイフを掴んだ。

 そのまま後方へ飛び退るとその場にいたセレスを引っ掴み、柄尻で殴りつけ気絶させる。

 

 一瞬の出来事だった。

 鬨の声は更に大きくなり、村が敵軍に完全に包囲されているのが分かる。

 

「セレス!」

 

 老人に担ぎ上げられたセレスに気付き、エレナスは老人を追おうとした。

 だが次の瞬間、セレスの喉下にナイフが当てられているのを見て、エレナスはその場に凍り付いた。

 部下であるはずの修道士たちを躊躇も無く殺す男だ。セレスの喉などたやすく掻き切るだろう。

 

「そうじゃ。動いてはいかんぞ。この小僧を死なせたくなければ、鈴を持って王都ブラムへ来るがいい。待っておるぞ」

 

 それだけ言い残し、にやりと笑うと老人はセレスを抱え、風のように姿をくらました。

 後には魂が抜けたように立ち尽くすエレナスと、彼を取り囲む鬨の声とだけが残されていた。


 
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