No.563129

万華鏡と魔法少女 第三十六話 激闘

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

続きを表示

2013-04-06 02:10:34 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:9430   閲覧ユーザー数:8612

 

フェイトテスタロッサは病室に居た、

 

 

彼女の目の前には自分の兄である弱り切ったクロノの姿、出血の量が多く一時は命の危険が危ぶまれ心肺停止状態にまで陥ったがなんとか持ち直し、酸素マスクをつけて現在安らかに病室のベットの上で眠っている

 

 

 

彼女は悲痛の表情を浮かべていた、一歩間違えれば彼を殺すところであったのだ自分がもう一人の兄と呼んだうちはイタチを失ったあの日の様に

 

 

 

自分は管理局の為ならあのイタチの様に非情になって市民に害を及ぼす輩を排除することなどたやすいことだと思っていた、優先するのは市民の身の安全でありそれを脅かす闇の書の騎士たちは絶対悪であると決めつけて

 

 

 

だが、違った管理局はそんな組織ではない、あくまで犯人を拘束し穏便に被害を出さずに済ませる組織である、犯罪者を抹殺し葬り去るような殺し屋の組織では断じてない

 

 

 

フェイトはふと意識を失う前のクロノの言葉を思い出す、自分を見失っていたのだろうという言葉

 

 

 

それは、イタチを殺しそして病気で母を亡くした時から恐らくそうだったのだろう、大事な人を守るには綺麗ごとで片づけるのは意味がないと、もっと現実的にそして自分の様な人間を増やさないためには非情に徹することも致し方ないと思っていた

 

 

 

イタチや死んだプレシアがそう望んでないことはわかる、でもひたすら悔しかっただから自分は変わらないといけないと思った

 

 

 

けれど、その結果がこれ、守るべき自分の大切な人間を傷つけて挙句の果てにまた命を奪うところだった、そう、彼らを死に追いやっているのは他でもない自分ではないか、まるで死神だ

 

 

 

フェイトは病室に横になっているクロノの傍で静かに涙を流した、それは自分が今まで抱え込んでいたせいで心配をかけて辛い思いをさせてきたクロノとそして、リンディに対する申し訳なさを思ってのものだった

 

 

 

「ごめん…!ごめんなさい…!!!」

 

 

 

気が付けば彼女はクロノの左手を掴みながら何度も謝っていた、フェイトが魔法で吹き飛ばした彼の反対の腕はもうない、そう命が例え助かっていたとしても彼は自分の右手を使う事はもうできないのだ

 

 

 

自分がやった事は彼の今後の人生を左右する大きな事であった、彼がそれを覚悟して自分を止めるために身体を犠牲にしたことを彼女は心に刻まなければならない、それは彼女が犯した罪なのだから

 

 

 

ふと、涙を流すフェイトの後姿を見て彼女の友人である高町なのはは静かにそんな彼女の肩に優しく手を置いた、それはいままでどれほど辛い気持ちを抱えていたかを悟ったようなそんな表情を浮かべながら

 

 

 

きっと彼女は自分が今までイタチを殺したという事実を胸に抱えて生きてきたのだろう彼に生きてほしいと思っていた人間が他にもいて自分がそれを奪ったのだとずっと後悔していたんだろうとなのははフェイトの姿を見てそう思わずにはいられなかった

 

 

 

彼女にこれ以上、十字架を背負わすには辛すぎる自分は見ていられないとなのはは悟った

 

 

 

「…なのは…私…私は!!」

 

 

 

「…フェイトちゃん、ごめんね、私いままで気付いてあげられなくて、自分の事でいっぱいいっぱいでちゃんとフェイトちゃんと一緒にいてあげられなかったッ!」

 

 

 

なのははそういうと力いっぱいにフェイトを抱きしめて涙を流していた、

 

 

自分はイタチが死んだと聞かされたあの日からどこかに彼が別れ際に自分に残してくれた言葉を忘れていたのかもしれない、母の懐で涙を流して彼が一人で戦っていたことを聞かされたあの日、本当に辛かったのは彼を殺めたと思っていたフェイトだというのに

 

 

 

自分にフェイトの事を頼むと彼は言い残して消えて行った、結局自分は辛いことを抱え込んだフェイトの事を何一つ支えてやれていなかった

 

 

 

彼女たちは共に涙を流す、それは自分が今まで抱えてきたものを吐きだすように、人は涙を流すだけ強くなれる、それはきっと心も、だから立ち止まらないで前に進もうと足掻く幼い彼女たちの姿はベットで寝ているクロノの横に立っていた親であるリンディにはとても尊いものに見えた

 

 

 

自分の過ちに気付きそれに懺悔する少女、彼女たちは自分の過ちに気付きそして成長するそれはこれから起こる様々な出来事を解決するエースである二人の新たな誕生の瞬間であった

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

ここはイタチとはやてが再び星空を見に来ようと約束を交わした星が見える丘

 

 

 

そこでは木々を揺らす激しい攻防とそして閃光のような光が一人の忍に降りかかっていた、彼はそれを術で出現させた巨人の盾で逸らし、同時にその巨人が持つ剣で反撃する

 

 

 

だが、彼は仮面の下で息を荒くしていた、この須佐能乎という術は身体に大きな負担をかける術の上しばらく万華鏡写輪眼を開眼していなかったイタチにとってはとてもチャクラコントロールが難しい術でもある

 

 

 

イタチは万華鏡写輪眼を通して、空中からすさまじい魔力を込めた砲撃を放つ闇の書を見上げる、闇の書の意思と名乗る彼女は無表情のまま須佐能乎を駆使し攻撃を仕掛けてくる忍を静かに見下ろしていた

 

 

 

仮面をつけた忍は須佐能乎の盾を降ろし静かに彼女に質問を投げかける

 

 

 

「…君は闇の書の意思と言っていたな、君の騎士である彼女たちは今どこに居る」

 

 

 

「そんな事は明白、私の中です、現実に絶望された主は今、私の中で幸せな時間を過ごしている事でしょう、他のヴォルケンリッターの騎士たちと共に…」

 

 

 

イタチは静かに彼女から帰ってくる言葉とその彼女の言動から頭の中で様々な仮定を立てて分析する

 

 

 

彼女と会話をしてみたが取り込んだヴォルケンリッターと精神的にリンクしている事がだいたい分かる、主となった八神はやてに深い愛情を抱いている為か彼女の瞳から何故か透明の涙が流れ出ていた

 

 

 

恐らくははやてと融合したことによって彼女の絶望、悲しみを知ったからなのだろうしかし、イタチはあくまではやてと騎士たちを助ける事だけをこの時考えていた、はやくしなければ余計な犠牲が出る可能性がある

 

 

 

彼女が闇の書の中にいる彼らとリンクしている、そして恐らくは彼女たちに幻術のような類のモノを現在見せているのだろう、それならばまだ幾らでもやりようはある、恐らく彼女たちからは怒りや憎しみを受けることになるだろうが自分にはこんな方法しか思いつかない

 

 

 

ふと、イタチが色々と考えを巡らせたその一瞬の出来事であった、膨大な魔力を込めた闇の書からの一撃が須佐能乎に向かって放たれた、イタチは咄嗟に須佐能乎の盾を駆使しそれを逸らそうと砲撃に盾を当てる

 

 

 

だが、それは囮であった、イタチはこのすさまじい砲撃に気を取られたせいか自分に接近していた闇の書の動きに気が付くのが一歩遅れてしまった、須佐能乎を砲撃の防御に回しそこに自身のチャクラも裂いているため接近した彼女を迎撃する忍術は間に合わない

 

 

 

イタチはしてやられたと、この時思った至近距離の接近なら体術でどうにでもできるが、よりにもよって中距離を取られさらに既に向こうは魔法の発射体制に移っている、リンカーコアが膨大に秘めた彼女の異端さは警戒しておくべきだった

 

 

 

イタチはすぐさま防御の体制に移る、この距離からの防御はいくら須佐能乎でも間に合わない

 

 

 

砲撃の光は仮面を着けたイタチを数メートル先の木々に打ち付け、さらにそこに追い打ちをかけるように闇の書から魔法の広範囲による連続攻撃が加えられる、イタチは直ぐに須佐能乎を解除し瞬身の術を使いそれらを避ける

 

 

 

彼の仮面の下からは血が滲み出ていた、眼からは須佐能乎の代償か血が流れ、内臓も何処かやられたのだろう、おまけに骨も何本か持っていかれた、彼女は自分に対して非殺傷設定なんてものはつけていない砲撃を繰り出して来ている、まともに受ければご覧の有様、このダメージにも納得がいく

 

 

 

思いの他チャクラの消費も激しい、あのデカい砲撃は恐らく自分の須佐ノ乎でなくては逸らしきれまい、だが、突破口は見つかった

 

 

 

防戦一方のイタチは印を結び再び万華鏡写輪眼を開眼する、そして彼は宙に浮かぶ彼女の瞳をしっかりと捉えた、そうそれは、須佐能乎ではない彼が発動した術それは

 

 

 

「…ハァ…ハァ…、月詠…はやて達とリンクしていると言ったな、…悪いがそれに干渉させてもらう」

 

 

 

「…なんだと…ぐッ!」

 

 

 

イタチは月詠を発動させた、それは万華鏡写輪眼の中でも目を見た相手に幻術を見せることができる術、彼は自分があえてこの目によってリンクすることによって彼女の中に居るはやてとシグナム達に干渉するといった方法を取った

 

 

 

この術を最初に彼女に掛けなかった理由は闇の書のプログラムの一つである彼女に幻術では干渉ができないと思っていたからだ、感情やそういったものはプログラムにはない、感情を揺さぶり動揺そして錯乱させる幻術は彼女に有効ではないとイタチは思っていたからだ

 

 

 

だが、彼女の中にはやてやシグナム達がいるなら話は別だ、彼女たちと融合しているというなら彼らを闇の書である彼女から拒絶させてやればいい

 

 

 

イタチはこうして万華鏡写輪眼、月詠を発動して彼女の眼を通して中にいるシグナム達に幻術を掛ける、闇の書である彼女はイタチの眼から幻術による干渉といった形で彼と繋がった、

 

 

 

その瞬間、闇の書である彼女の中に月詠を掛けたイタチの記憶が入り込んでくる、そうそれは遠い記憶、一族の固執によって引き起こされた悲劇、そして二人の兄弟の悲しい記憶であった

 

 

 

暗闇の中で繰り広げられる一人の忍と書物による激闘

 

 

 

彼女たちの戦いはこうして激しさを増してゆく、これから待ち受ける結末は悲劇かそれとも喜劇か、その運命は誰にもまだわからない、暗闇が覆う夜空には静かに星空が煌めくだけであった

 

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
7
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択