No.462686

STAY HEROES! 第三話

オリジナルSFライトノベル、第三話となります。
まだ一話をお読みで無い方はリンク(http://www.tinami.com/view/441158 )から一話へジャンプしてご覧ください。
挿絵はヘタレ絵なのでご参考程度に。

更新が一週間遅れてすみませんでした!

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2012-07-31 01:16:24 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:491   閲覧ユーザー数:490

 

どこか遠くで警報音が鳴り響いている。

僕の田舎では午砲代わりにサイレンを鳴らすから多分それだろう。

普通、時報が夜中に鳴り響くことは無いけどなあ……

「起きろ、出撃だ」

 

喧噪に混じって、声変りしていない声が耳に入る。

だれだ?声に聞き覚えが無い。オヤジでもオカンでもない。

もちろん他の妹、恭子でもないし清美でもないし琉璃でもないし彩夏でもないし千明でも……

いきなり、呼びかけてきた誰かは僕の胸倉を掴んだ。

 

 

「駅がサイボットゲリラに襲撃されてる。準備しやがれ」

 

 

目を開くと、刃物のように研ぎ澄まされた由常の双眸がそこにあった。

怪しく輝く眼光が、夢うつつだった僕を叩き起こす。

 

『サイボット』。冒険的な宇宙開発を主張する、過激派の改造人間とシンパのことだ。

最近は自分達の気に入らない人や物を殺したり壊したりしているそうだ。

そんなラジオと噂でしか耳にしない犯罪者。

それが今、遠州市の駅を襲っている?

混乱する僕へ、由常はモールス信号が打点された紙テープを寄こす。

 

「早くしろ。駅を防衛している民兵隊が持ちそうにない」

 

『OSO XXX 警備中隊半包囲網ニ孤立ス 死傷者多数 増援モトム』

 

テープの上にトンツーで書き殴られた生々しい文面が踊る。

フ抜けたままの僕へ、更に由常は黒い鉄塊を押しつけてきた。

 

「お前は機関銃を持て」

 

まさか、こいつはゲリラと戦うつもりなのか……!?

人殺しの道具の重さが、やっと僕の意識を現実に引き戻した。

僕は顔を上げて叫んだ。

 

「無茶すぎる!ファントムだって整備が終わっちゃいない!」

 

ファントムコメットは一応動く。それは一応だ!

マトモな戦闘なんて出来やしないぞ。

電磁装甲と照準器にいたってはまだ調整すらしていない!

ボロの機装一機と素人二人で過激派ゲリラと戦うなんて無理に決まってる。

しかし、僕の訴えに対して彼は乱暴に答えた。

 

「何のための教育隊だ。アホが。それに俺は幼年学校上がりの陸軍少尉だぞ」

 

今更、僕は由常の襟に取り付けられた階級章に気づく。

だがその襟章だけで僕を説得するには弱過ぎた。

 

「軍人でも機装の素人なら役に立たんわ!死にたいのかお前!」

 

僕は気になっていた確信を由常にぶつけた。

パワードスーツを暴走させるなんてヘマは初心者しかできない。

すると、露骨に怒りで顔を歪ませた由常が、食ってかかるように睨みつけてきた。

 

「あんだと、お前はその図体で怖気づいてるのか?何なら鉄拳で教育してやろうか!」

 

「ダボチビにワイをぶん殴れるんやったらやってみい、きゃっしゃげたるわいや!」

 

「な……てめ今何つった?チビ!チビだとお!?こんの甲斐性無しの木偶の棒が!」

 

先に手は出さないでやる、殴ってきたらやりかえして……

 

 

「仲間同士で殴り合ってどうなるんです、みっともない」

 

 

決して大きな声でも、感情的な声でもない。

だが、僕らは口封じを掛けられたかのように押し黙った。

声の主の方向へおそるおそる振り向いてみる。

そこには、白のパイロットスーツに身を包んだ櫛江さんが立っていた。

僕はほぞを噛んだ。

彼女の幼い顔には決意と闘志が漂っていたから。

 

「私はパイロット規定に違反する身ですし、安形さんの機装を我々はまだ受領していません。しかし、街が暴徒に襲われ、民兵隊が全滅する事態を座視する訳にもいかないのです」

 

彼女の後ろにはファントムコメットと並んで、初めて見る機装がハンガーに吊るされている。

あれがミラケーティ。

昼に櫛江さんが話していた電子戦機であることはすぐに理解できた。

マントを纏った純白の機体。

背面にはレーダーらしき円筒が杭のようにマウントされている。

彼女はあの機装で戦う気だ。

 

「お二人には無理強いを乞うて申し訳なく思います。でも、どうか力をお貸しください。そして、信じてもらいたいのです」

 

何を信じろと彼女は言うのだ?空海様か、荒神様か、盧舎那仏様か。

いや、そのどれでもないな。

僕は櫛江さんの目をじっと見つめた。

僕は見極めたかった。昨日会ったばかりの彼女を信頼することができるのかどうか。

その丸い瞳は真剣さを帯び、視線はまっすぐ僕を射ぬいてくる。

なぜ、気が強そうには見えない彼女が戦おうとしているのか。その答えを探った時。

昼下がりに少女が口にした言葉が胸に浮かぶ。

 

街が大好きだと。

 

……。

 

僕は観念して首を鈍く縦に振った。

 

 

 

 

教育隊は空軍機の爆撃誘導と民兵隊の援護を決定した。

ゲリラの陣形に支援爆撃で穴を開け、逆に敵を包囲し釘づけにするのだ。

上手く行く見込みは無い。

でも結局、僕達は立ち向かうしかなかった気がする。

駅にはディーゼル車の整備基地があった。

もしそれがゲリラに破壊されれば、遠州市は生命線を失うことになるのだから。

 

遠州市の地下には、戦時中に掘られた地下通路が張りめぐらされているという。

僕らはそのうちの一つを突き進んだ。

一番前にロケットランチャーを背負ったコメット、

その次にサブマシンガンとシールドを装備したミラケーティ。

彼女は右手を忙しげに動かして、宙に浮かぶホログラムを操作し続けている。

その列の最後尾に、ヘルメットと制服の僕はいた。

由常から習った装備の使い方を反復しながら、M240とかいう機関銃をいじくり回す。

 

出口であるマンホールの蓋まで辿りついた僕達は一度、顔を突き合わせる。

ミラのレーダーが敵影を捉えたのだ。

彼女の落ち着きようを見るに、多分軍事訓練を受けているのだろう。

自分のうわつき具合が苦々しく思える。

どこから敵弾や白刃がやってくるのか、地下道を通る間もずっと怯えていたのだから。

 

「トイポッズのお蔭で敵の位置が把握できました、ホログラムに投影します」

 

「と、とい?」

 

僕は思わずミラに聞き返す。

 

「エリスの部下『たち』です。私達の手足となって働いてくれています」

 

ということは彼らもロボットだろうな。

ぜひ会ってみたいものだ。

無事に帰れたら、だけれども。

ミラが指を鳴らすと、彼女の手のひらに詳細な立体地図と赤い光点が浮かび上がる。

どういう原理なんだろうか。

驚いたのはファントムも同じだったらしい。

 

「今の時代にこれほど鮮明なレーダーがあるとはな」

 

「敵ゲリラの総数は150人ほど、扇のように民兵中隊の三方を囲っています」

 

3:150……どれだけ殺せばいいんだ。

 

「敵は駅舎講内まで侵入しています。地上へ上がりましょう。早く民兵を助けないと」

 

「ダメだ隊長。航空支援を待った方がいい」

 

「空軍の支援が来るまでに民兵隊が持ちそうにありません、まず我々だけで敵の注意を惹きつけます」

 

隊長の決心を聞き、たった二人の隊員はそれぞれの銃に弾を込めた。

 

 

 

 

 

僕らは地下道のマンホールから、遠州市で一番大きな幹線道路の脇に出た。

真っ暗闇に染まる市街を索敵しながら進軍する。

やがて、銃撃と爆発が生み出す殺気に満ちた効果音が近づいてきた。

 

「各員、射撃位置へついてください」

 

駅前から数百メートル離れた十字路で中腰のミラが指示を出し、僕らは所定の位置につく。

僕はミラのすぐそばで二脚を開き、地面にへばりついた。

照準を十字路の行きつくバスロータリーの先、黒煙を上げる駅舎に絞る。

駅舎の中で、人体模型のような兵士が背中を向けて蠢いていた。

あれが、サイボット。

口の中が嫌に乾く。

 

よたよたと歩くファントムが郵便局まで辿りついた時。

隊長がかけた奇襲の合図がヘルメットフォンにこだまする。

 

() ッ!」

 

 

 

 

ファントムの構えるランチャーが砲炎を轟かせる。

駅舎の入口で炸裂した溜弾が、粗悪品でできたサイボット兵士の四肢を吹き飛ばす。

僕も引き金を思い切り引いた。

激しい衝撃と共に飛び出していった曳光弾が、駅舎へと吸い込まれてゆく。

照門の先で、逃げ遅れた改造人間が徹甲弾をくず鉄の身に受けて弾け飛ぶ。

人殺しの余韻に浸る暇なんてなかった。

僕の機関銃とファントムの小銃が更に五、六人の敵を射ぬいた頃に敵の動きが変わる。

 

「駅舎の方向に発砲炎!」

 

ミラが叫ぶのと同じくして、いくつものロケットが頭の上を掠め飛んでいった。

体勢をこちらに振り向けたサイボット達が応戦し始めたのだ。

ミラはいきなり僕の首根っこを掴むと、横倒しになったバスまで一気に走り抜けた。

すると、先程まで僕が寝転がっていたアスファルトが銃弾の嵐でボコボコになってゆく。

 

「ミラ85よりHQ!座標はもう伝えています、支援機はどうしたんです!」

 

ミラは火を噴くサブマシンガン片手に、空軍と必死にコンタクトを取っていた。

会話の応酬から察するに、支援は期待できそうもない。

我を取り戻した僕が弾倉を取り換えようとした時だ。

おぞましい叫び声が僕の聴覚をジャックした。

刃物を振りかざすサイボットの群れが、僕ら目掛けて飛び出してきていたのだ。

言葉にならない怨念と共に盲進してくる機械の獣たち。

僕らは彼らに向けてひたすら発砲した。

……駄目だ!

どれだけ弾を撃ち込んでも一向に数が減らない!

もう生身で戦うのは無理だ、僕にも機装があれば……!

 

その時だった。

応戦するためかファントムが抜刀し、郵便局の蔭から飛び出そうとするのが見えた。

だが。

奴はまるで腕を引っ張られたかのように転倒しやがった。

野郎、重心移動でヘマしやがったな!

鉄の雨が黒い機体に降り注ぎ、真赤な火花を装甲板に散らせてゆく。

未整備の装甲がいつまで持つのかはさっぱりわからない。

ああもう、だから無茶だと言ったんだ!

 

「脳波入力系統と疑似神経系が途絶してる!人力入力に切り替えろ!」

 

ファントムは、僕の助言を黙殺したままその場を動かない。

まだ負傷した訳でも、死んだ訳でも無いのに。

まるで全てを諦めたかのように、だ。

さらに、追い打ちをかけるかのごとく、ミラが悲鳴に似た声を上げた。

 

「高度2000メートルに未確認機、急降下してきます!」

 

それが敵だったらおしまいだ……

頼む、支援機であってくれ!

僕はヘルメットを押さえてうずくまり、氏神様のご加護を願うしかなかった。

バスに銃弾が突き刺さる音、硝煙の香り。

戦闘の撒き散らす暴力が感覚器官を占拠する。

その最中に。

 

『tally-ho!』

 

ヘッドフォンから奇妙な単語が出力された。

と、同時に頭上から耳をつんざく風切り音が降り注ぐ。

見上げて目に飛び込んできたのは……砲炎に照らされた真赤な爆弾。

 

「ナパーム弾です!」

 

ミラが注意を促したが、ちょっと遅すぎた。

ジェットエンジンらしき轟音が通り過ぎ、爆弾達がサイボットを押しつぶして着弾した瞬間。

駅舎前は真っ赤に輝いた。

ナパーム弾が摂氏1500度の炎を撒き散らす。

化物のようにうねる巨大な火柱が、駅舎から飛び出ていたサイボット達を丸ごと呑み込んでゆく。

 

 

 

 

炎は免れたもの、猛烈な熱風が隊の面々を襲う。

さて、唯一生身だった僕はというと。

舞い上がる熱風を背中に浴び、仰け反っていた。

 

「あっつうううう!?」

 

「安形さん!?」

 

ミラが転げまわる僕をマントではたく。

それだけで終わらない。急に目眩まで覚え出したのだ。

不味い、酸素が燃えて空気が。

 

「しっかりして!」

 

霞む視界に泣きそうになっている瞳が迫ってくる。

倒れていた僕を抱きかかえてミラは、チークガードを僕の口に押しあてた。

燃料電池は電力を発電する過程で酸素を作り出す。彼女は僕のために酸素を分け与えてくれたのだ。

ミラのインテークから送り込まれてきた空気で、僕は息をつなぎ止めた。

景色に色が戻り始め、遠のいていた意識が舞い戻ってくる。

 

「ありが……」

 

唇を動かして僕は気付いた。

傍から見れば僕はミラの頬に口づけしているようにしか思えない。

ミラのパイロットはゴーグルの奥で、瞳を白黒させた後に頬を真赤に染めた。

多分、僕の顔も同じようなものだったろう。

そっと、僕から離れるとミラは顔を手で覆い、へたり込んだ。

 

「あ、あうう、ご……ごめんなさい」

 

「助けてくれてありがとな!はい!もうこの話し終わり!ほんなら帰ろか!」

 

「なにをしとんだお前ら、戦闘中だ」

 

ふらふらのファントムが頼りなくこちらに向かって歩いて来た。

さっきまでノビてたくせによく言う。

 

「隊長、敵の動きはレーダーでどうなってる」

 

「て、敵は未確認機の爆弾で一掃できたようです、残存兵は撤退行動に移り始めました」

 

駅前には黒焦げの骸骨達が、両手を虚空にあげて横たわる。

銃声が鳴り響いているが、それは民兵隊の反撃のようだ。

拍子抜けするほどあっけない幕引きに、僕は腰が抜ける感覚を覚える。

ファントムを馬鹿にできる身分じゃないな、これは。

その彼はというと、原形を留めていないバスに背持たれ、夜空を見上げている。

僕はその目線を辿ってみた。

 

静寂を幾らか取り戻した夜空に、朱色の鳥が翼を広げて滑空しているのが見えた。

……いや、鳥じゃない。

あれは機動装甲だ。

人が、背中の翼を巧みに操り飛んでいるのだ。

ンなアホな。

 

「隊長殿、あんたは『有翼機兵』を呼んだのか?」

 

「いえ、通信だと支援機はプロペラ機のはずですが」

 

「……有翼機兵ってなんや?」

 

「えーっと、簡単に言っちゃうと空飛ぶ兵士です」

 

「へー」

 

「ホントにそれで分かったのか安形」

 

ファントムが悪態をついた時、全員の回線に場違いなほど元気のいい声が割り込んだ。

 

『あのさー。みんな聞こえる?』

 

僕とミラは顔を見合わせた。

先程、ナパーム爆撃をかました有翼機兵からの通信らしい。

誰やねん。

ファントムが応答する。

 

「未確認機に告ぐ。こちら遠州教育隊所属コメット23、貴官の所属とコードを述べよ」

 

『ありゃ?あたしのこと聞いてないのか。はじめまして!こちらアルカイド11、遠州教育隊プラネットスターズの新入りパイロットであります!』

 


 
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